KEF Model 5/1AC, JBL 4341

瀬川冬樹

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’76」(1975年冬発行)
「オーディオの中の新しい音、古い音」より

 イギリスのBBC放送局で、1968年までは全面的に、そして現在でも一部のスタジオでマスターモニターとして活躍しているLS5/1AはKEFの製品で、BBCの研究員と協力してその開発に携ったのがKEF社長のレイモンド・クックである(本誌昨年版参照)。このスピーカーの音の自然さは他に類をみないが、現時点では耐入力及び音の解像力に多少の不満がある。KEFでは約二年前に、同じスピーカーユニットでマルチアンプドライブ式に改造し、MODEL 5/1ACという型番で新らしいスタジオモニターを完成させた。初期の製品は内蔵パワーアンプの歪やノイズの点で不満があったが、今年9月、R・クックが再来日の折に私の家まで携えてきた改良型のアンプに入れ変わって以後の製品は、明らかにBBCモニターを凌駕する音質に改善された。JBLと同じく冷徹なほどの解像力を持ちながら、JBLがアルミニウムのような現代的な金属の磨いた肌ざわりを思わせるならKEFは銀の肌、あるいは緻密な木の肌のようで、どこかしっとりとうるおいがあるところが対照的で、しかもこの両者には全く優劣がつけ難い。
 JBLプロフェッショナル・シリーズのモニター・スピーカーの中で、♯4350(本誌昨年版に紹介)ほどのスケール感とダイナミックな凄味には欠けるにしても、同様に周波数レンジがきわめて広く平坦で、音のバランスのよさと音のつながりの滑らかさという点で、♯4341は注目すべき製品といえる。
 各帯域のレベルコントロールの調整や設置条件の僅かな違いにも鋭敏に反応するし、カートリッジやアンプに他のスピーカーでは検出できないような歪があっても♯4341は露骨にさらけ出してしまう。レコードにこれほど生々しく鮮烈な音が刻まれていたのかと驚嘆するような、おそろしいほど冷徹な解像力である。そういう能力を持ったスピーカーだから、鳴らす条件を十分に整えなくてはかえって手ひどい音を聴かされる。もうひとつ、スタジオでハイパワーで鳴らしても三ヶ月以上鳴らしこまないと鋭さがとりきれない。家庭で静かに鑑賞する場合は、一年以上の馴らし運転期間が必要だろうと思う。

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