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ビクター P-L10, M-L10

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 ビクターのラボラトリーシリーズのコントロールアンプP−L10とパワーアンプM−L10は、いま、聴いておきたい音、というよりは、いま、安心して聴ける音、といった性格のセパレート型アンプである。
 従来からもビクターには、オーディオフェアなどで見受けられた一品生産的な特殊なモデルを開発する特徴があったが、その技術をベースに、薄型コントロールアンプの動向に合せた7070系のコントロールアンプと、いわゆるパルス電源を初めて採用したモノ構成の7070パワーアンプをトップランクの製品として持ってはいたが、ビクターのセパレート型アンプとして最初に注目を集め、多くのユーザーの熱い期待を受けたモデルは、パワーアンプのM7050であろう。
 これらの従来から築きあげた基盤の上に、アンプの基本思想として、忠実伝送と実使用状態における理想動作を二大テーマとして、ラボラトリーシリーズのセパレート型アンプとして1981年秋に開発されたモデルが、P−L10とM−L10である。
 コントロールアンプP−L10は、かつてのソリッドステート初期に、グラフィックイコライザー(SEA)を搭載した超高級コントロールアンプとして注目を集めたPST1000以来、久しぶりに本格派のコントロールアンプとして総力を結集して開発された意欲的なモデルである。
 最新の技術的産物としてのアンプではなく、音楽性追求のための技術という考え方を基本にして開発されただけに、例えば、音量を調節するボリュウムコントロールには、一般的に抵抗減衰型のタイプが使われるが、これでは可変抵抗器が信号ラインに入り接点をもつために、位置による音質のちがいが生じやすい点が問題にされ、アンプの利得を可変にすることにより音量を変える新開発Gmプロセッサー応用のボリュウムコントロールが採用されている。
 このタイプは、ボリュウムを絞っていけば、比例してノイズも減少するため、実用状態でのSN比が大幅に改善され、結果として、音場感情報が豊かになり、クリアーな音像定位や見通しのよい広い音場感が従来型に比較して得られる利点がある。このバリエーションとして、昨年来のプリメインアンプA−X900やA−X1000にスイッチ切替型として採用されているが、この切替えによるSNの向上が、いかに大きく音場感再生と直接関係しているかは、誰にでも一聴して判かる明瞭な差である。
 また、フォノイコライザーでのGmプロセッサーの応用にも注目したい。入力電圧を電流に変換増幅後、その電流をRIAA素子に流す単純なイコライザー方式は、CR型の伝送・動特性とNF型の高域ダイナミックレンジを併せ持つ特徴があり、電圧を電流に変換する変換率を変えればトータル利得を変化できるため、MMとMCポジションで性能、音質が変わらず、トータルな周波数特性はRIAA素子のみで決定されるため、RIAA偏差は自動的に100kHzまでフラットになることになる。
 フォノ3系は低出力MC用ハイゲインイコライザーで、入力感度は70μVと低いが、SN比は非常に優れているのが特徴である。外装は、ビクター独自のお家芸ともいえる高度な木工技術を活かした、21工程に及ぶ鏡面平滑塗装仕上げ、これは見事だ。
 ステレオパワーアンプM−L10は、ビクター独自のスイッチング歪をゼロとした高効率A級動作方式〝スーパーA〟の技術をベースに、スピーカー実装時のアンプの理想動作を追求した結果、全段カスコード・スーパーA回路を新採用している。この回路も、実際の試聴により、スピーカー実装時のアンプ特性劣化や、音楽再生時のTIM歪や発熱による素子のパラメーターの変化に注目した結果、優れた回路方式として採用されている点に注目したい。
 この方式は、パワー段までカスコード・ブートストラップ回路を開発し、採用しているため、出力段のパワートランジスターは数ボルトの低電圧で動作し、電流のみ変化する特徴があり、電圧と電流の位相がズレるスピーカー実装負荷でも、ダミー抵抗負荷と同じ動作、性能が確保され、アンプは負荷の影響を受けない利点がある。また、低電圧動作のパワー段は、発熱量が低く、従来型に比較してスピーカー実装時の瞬間発熱量は1/10以下となり、サーマルディストーションの改善とアイドリング電流の安定化にもメリットがある。
 構成部品は、エッチングなしのプレーン箔電解コンデンサー、高速ダイオード、高安定金属皮膜抵抗、低雑音ツェナーダイオードなど定石的な手法が各所に認められる。
 外装は、平均的に16工程程度とされるピアノ塗装を上廻る21工程の鏡面仕上げローズ調リアルウッドのキャビネット採用。
 定格出力時、160W+160W(20Hz〜20kHz・8Ωで、THD0・002%)周波数特性DC〜300kHz−3dBの仕様は、セパレート型アンプとしてトップランクの特性である。
 P−L10とM−L10のペアは、充分に磨き込まれた、安定感のある、タップリとしたナチュラルな音が特徴である。各種のキャラクターが異なるスピーカーシステムに対しても、ナチュラルな対応性を示し、それぞれの特徴を活かすセッティングも、個性を抑えたセッティングも、かなりの自由度をもってコントロールできるようだ。
 好ましいアンプというものは、個性的なキャラクターの強い音をもつものではなく、結果として、電気信号を音響エネルギーとして変換するスピーカーシステムに対して、充分なフレキシビリティをもって対応可能なことと、聴感上でのSN比が優れ、音場感的情報量をタップリと再生できるものであるように思う。
 この意味では、このセパレート型アンプのペアは、発売以来3年を迎える円熟期に入ったモデルであるが、各種のスピーカーシステムに対する適応性の幅広さと、ビクターの伝統ともいうべき、音場空間の拡大ともいうべき、音場感情報の豊かな特徴により、現時点でも、安心して聴ける音をもつ、セパレートアンプとして信頼の置ける存在である。

ビクター SX-10 spirit

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❷でのヴァイオリンがくっきり、しかもこってり示されるところに、このスピーカーの特徴がしのばれるようである。ただ、それなら❸でのコントラバスがたっぷりひびくかというと、そうともいいがたい。ひびきがひきずりぎみにならないのはいいところであるが、コントラバスのひびきの余裕といったようなものは示しえていない。❹でのフォルテはすくなからずきつめであり、しなやか
さに欠ける。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノの音はぼってりとしている。ひびきが薄くならないのはこのスピーカーのいいところというべきであろうが、エレクトリック・ピアノならではの一種独特のひびきの軽さに十全に対応できているかというと、かならずしもそうとはいいがたい。❸でのギターの音にはもう少し切れの鋭さがほしいところである。❸でのギブの声は硬めになる傾向がなくもないのが気になる。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
❷ではティンパニのひびきの力強さはこのましく示すものの、そのひびきのスケール感の提示ということではいま一歩といったところである。❸では左右への動きに一応は対応するものの、動きの鋭さはあまり感じさせない。❹ではブラスの力強さへの対応は充分であるが、シンバルのひびきはいくぶん甘くなる。このレコードできける音楽の現代的な鋭さがかならずしも充分に示されているとはいいがたい。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
ほどよくバランスがとれているということでは、今回試聴した四枚のレコードの中で、このレコードがもっともこのましかった。❶でのピアノの下の音へのベースの重なり方の提示なども、強調感がなくて見事であった。❷での右よりのピアノの音のくっきりした提示はすぐれていた。❺での両者の対比も過不足なかった。ただ、❸での高い音のひびき方にもう少し輝きがあれば、さらにこのましかったであろう。

ビクター SX-10 spirit

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 中音域での音のエネルギーの提示に独自の威力を発揮するスピーカーといえよう。もう少し高い方の音への対応にしなやかできめこまかいところがあると、このスピーカーの魅力は倍加するのであろうが、その点で少しいま一歩という感じである。
 今様な音楽の多くはきめこまかいひびきにその表現の多くをゆだねているが、その点でさらに対応能力がませば、このスピーカーの守備範囲もより一層ひろがるにちがいない。しかし、多くの音楽の基本は中音域にあるわけであるから、その中音域をしっかりおさえたこのスピーカーは、俗にいわれる基本に忠実なスピーカーということもできるにちがいない。
 ひびきの軽さへの対応ということでさらにもう一歩前進できれば、たとえば③のレコード等で示されている現代的な感覚を鋭く示せるであろう。しかし、なにごとによらず基本を尊重するということはわるいことのはずはない。

ビクター SX-10 spirit

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 SXシリーズのスピーカーシステムは、それまで海外製品の独壇場であったソフトドーム型ユニットを完全に使いこなした製品、SX3の発売以来、すでに10年以上のロングセラーを誇る、国内製品としては例外的ともいえるシリーズ製品である。
 今回のSX10SPIRITは、ソフトドーム型独特のしなやかでアコースティックな魅力を活かしながら、永年にわたり蓄積された基本技術とノウハウをベースに最新の技術を融合して、現代の多様化したプログラムソースに対応できる最新のスピーカーシステムとして完成された点に注目したい。
 SXシリーズの伝統ともいえる西独クルトミューラー社と共同開発のウーファーコーンは新しいノンプレス型であり、コニカルドーム採用はSX7を受け継ぐものだ。ソフトドーム型ユニットは、素材、製法を根本的に見直してクォリティアップをした新設計のもので、トゥイーターのドーム基材の羽二重は、従来にはなかった材料選択である。
 大変に仕上げの美しい弦楽器を思わせるエンクロージュアは、表面桐材仕上げの5層構造で、響きを重視した設計で、ネットワークも結線にカシメ方式を使うなど、まさしく、SXシリーズの伝統と最新技術の集大成といえる充実した内容だ。ソフトドーム型ならではの聴感上のSN比が優れた特徴を活かしたナチュラルな音場型の拡がりと表現力の豊かさは、とかく、鋭角的な音となりやすい現代のスピーカーシステムのなかにあって、落着いてディスクが楽しめる数少ない製品である。

ビクター Zero-100

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「PickUp 注目の新製品ピックアップ」より

 Zeroシリーズの製品群は、リボン型トゥイーターとダイナミックレンジの広いユニットによるワイド&ダイナミック思想をテーマに発展してきた。昨年末Zero1000が登場したが、今回のZero100は、Zero1000の3ウェイ化モデルと思われやすい新製品だ。
 ユニット構成上の特徴は、高域に独自のファインセラミック振動板使用のハードドーム型を使用していることである。このあたりから将来のZeroシリーズの展開が、特徴的であったリボン型ユニットをドーム型に変えて質的向上を図る方向へ行くであろうことは、ほぼ同時発売のZero0・5の例を見ても、かなり明瞭であろう。
 システムの基本は、Zer1000での成果を導入し、リファインした製品である。スーパー楕円特殊レジン製バッフルボード使用のエンクロージュアは、裏板構造は異なるが、内部の定在波と振動板背面にかかる背圧の処理は重要項目として検討された。Zero1000以来約一年の成果は相当に大きい。毛足の長い純ウール系吸音材開発は、独自のエステルウール開発以に巻いて使う定在波の制御方法や適度にエンクロージュア振動を抑え音を活かす補強(響)棧などの処理方法も従来と異なる。
 ユニットは、すべてファインセラミック振動板採用。低域はZero1000用と類似するが、センターキャップに通気性をもたせ磁気回路内の背圧を前面に抜く方式の採用が特徴。中域はZero1000の75mm口径に対し、65mm口径の新開発ユニットで、振動板周囲にイコライザー類を持たぬ最新の設計法とユニットとしての構造的な発展で、質的向上は明らかだ。高域はZero1000の35mm口径に対して30mm口径とし、高域レスポンスを改善している。すべて新設計ユニットだ。
 聴感上のSN此が優れ、音の粒子が細かく滑らかに伸びた帯域バランスの製品だ。豪快に鳴らすには金属やコンクリート、硬質ブロックの置台を使うが、ナチュラルで色付けがなく本当の意味での反応の速さや音場感的な見通しの良さを聴くためには、良質な木製の置台が望ましい。この場合音色はニュートラルで聴感上のDレンジも広く、狭い部屋が広いホールに化するような見事な音場感とヴィヴィッドな表情が魅力。

ビクター Zero-100

ビクターのスピーカーシステムZero100の広告
(オーディオアクセサリー 27号掲載)

Zero100

ビクター SX-10 spirit

菅野沖彦

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 今さらのような気もするが、スピーカーというものは、物理情報を忠実に処理するハードマシーンという面と、感覚・情緒的に人の心を満たす個性的美学をもったソフトマシーンという二つの側面をもっているのが現実である。このことは、スピーカーの設計思想に始まり、それを使って音を聴くリスニング思想にまで一貫して流れており、オーディオの世界を多彩にいろどることになっている。そしてまた、考え方の混乱のもとにもなっているようだ。どちらに片寄っても十分な結果は得られないもので、この二面の寄り添い加減が、よいスピーカーとそうでないものとの違いになっていると思わざるを得ない。物理特性志向で技術一辺倒の思想のもとに作られたスピーカーが、音楽の人間表現を享受しようというリスナーの知情両面を満たし得るとは思えないし、同時に、変換器としての技術をないがしろにして、よいスピーカーができるはずもない。この二つの要素を1と0という信号に置き換えたとすれば、まさに、あの複雑な情報処理を行なうコンピューターのごとく、その組合せによってありとあらゆる性格を備えたスピーカーシステムができ上ることになるし、複雑なオーディオ・コンセプトにまで発展することにもなるのである。
 今回、日本ビクターから発表されたSX10スピリットの開発思想は、明らかにソフトマシーンとして、人の感性と情緒を捉えることを目的にしているように思える。その手段として、長年のスピーカー作りの技術の蓄積が駆使されていることはいうまでもないだろう。ユニットの設計からエンクロージュアの材質、加工・仕上げにいたるまで、このシステムには並々ならぬ努力と情熱が傾注されていることが解るのである。このような角度から、このSX10スピリットを少し詳しく見ていくことにしよう。
 まず、外側からこのシステムを見てみると、エンクロージュアは凝りに凝ったもので、材質や造りに、かなり楽器的な思想が見られる。つまり、バッフルボードはエゾ松 ──ピアノの響板に使われる材料──のランバーコアであり、天地および側板には針葉樹系のパーティクルボードを使う。表面材はヴァイオリンに用いられるカエデ材、そして、六面一体留めの構造、内部にはコントロールのきく響棒を採用するといった具合に、変換器としてのエンクロージュアの有害な鳴きに留意しながらも、美しい響きを殺すことを嫌った意図が明白である。また、SX10のマークは、24金メッキ仕上げのメタルエンブレムで、ピアノの銘板のように象眼式に埋め込み、さらに磨き上げるという入念なものである。全体の仕上げは19工程もの艶出し仕上げを経て、深い光沢に輝いているのである。カエデ材の木目を活かすために、このような色調が選ばれたのであろうが、その色合いはやや癖の強いもので、好みの分れる危険性をもっているようだ。
 ユニット構成は、3ウェイ・3ユニットであるが、SXシリーズでビクターが自家薬籠中のものとしたソフトドーム・トゥイーターとスコーカー、そしてコニカルドーム付のクルトミューラー・コーンによるウーファーが採用されている。もちろん、すべてのユニットは新たに設計し直されたものであり、従来の経験を生かしたリファインモデルといってよいだろう。各ユニットの口径は、ウーファーが32cm、スコーカーが6・5cm、トゥイーターが3・5cmで、クロスオーバー周波数は450Hzと4kHz、減衰特性は12dB/octに設定されている。ネットワークに入念な配慮と仕上げをもつのはビクターの特長だが、ここでも徹底した低損失化と低歪率化が行なわれている。
 このように、SX10スピリットは、ビクターのスピーカー作りの技術を集大成したものといってもよい。現時点でこれだけの情熱的な力作を作り上げた姿勢に、敬意を表したい。作る側のこうした誠意と情熱は、必ず受け手にも伝わるものである。仏作って魂入れず式のマスプロ機器が全盛の現在、この姿勢は実にさわやかだ。そしてまた、ともすると技術に片寄った志向が目立ちがちな日本のオーディオ界にあって、先述したハードとソフトのバランスの重要性を示す姿勢としても、大いに共感できるものだ。
 音は豊かであり、柔軟である。やや重くゴツゴツした感じの低音が気になるが、この程度の難点は、現在内外を問わず、どんなスピーカーシステムにも感じられる程度のものである。そして、この辺はユーザーの使いこなしによって、どうにでもなる部分なのだ。このSX10スピリットの快い質感こそは、ナチュラルなアコースティック楽器特有の質感に共通したものであり、こうしたスピーカー自体の素性こそ、使いこなしではどうすることもできないものだから、大変貴重なのである。弦楽器の中高音に関しては最も耳あたりのよいスピーカーの一つといってもいい。ヴォーカルのヒューマンな暖かさも出色である。
 SX10は、いかにも歴史の長い音のメーカーらしい企画である。ビクターの精神を象徴する〝スピリット〟という命名が、作り手の意気込みを表現しているのだろう。スケールの大きな再生音も、豊かさと力でその気迫を反映しているかのようだ。

ビクター P-L10 + M-L10

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新セパレートアンプ44機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★
 暖色系の音である。ごりおしにならない積極性がこのましい。そのために①のレコードでは大編成のオーケストラならではの迫力があきらかになる。ただ、総じて音像がふくらみぎみで、④のレコードでは子音の提示が弱くなっていた。ひびきにぎすぎすしたところがないのはこのましい。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★★
 アンプの性格がスピーカーのもちあじをおさえこんでいるというべきか。たっぷりしたひびきが特徴的である。①のレコードでのオーケストラの音がまるでフィラデルフィア管弦楽団のように感じられる。③のレコードでは腰の低い音がきわだち、独自のなまなましさを示した。
JBL・4343Bへの対応度:★★★
 ひびきをおしだす積極性はかなりのものである。①、②、③のレコードでは力強い音をこのましく示したが、④のレコードではNS1000Mの場合同様に子音が弱く、⑤のレコードではひびきのしなやかさに充分に対応しきれていたとはいいがたかった。音場的なひろがりでももう一歩と思わせた。

試聴レコード
①「マーラー/交響曲第6番」
レーグナー/ベルリン放送管弦楽団[ドイツ・シャルプラッテンET4017-18]
第1楽章を使用
②「ザ・ダイアローグ」
猪俣猛 (ds)、荒川康男(b)[オーディオラボALJ3359]
「ザ・ダイアローグ・ウィズ・ベース」を使用
③ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
④「キングズ・シンガーズ/フレンチ・コレクション」
キングズ・シンガーズ[ビクターVIC2164]
A面2曲目使用
⑤「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

ビクター QL-A75

ビクターのアナログプレーヤーQL-A75の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

QL-A75

ビクター Zero-1000

井上卓也

ステレオサウンド 61号(1981年12月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ワイド・アンド・ダイナミックを標傍するZeroシリーズのスピーカーシステムは、Zero5/3にはじまる。現在ではスコーカーにファインセラミック振動板を採用したZero5F/3F、トゥイーターに同じ振動板を採用した2ウェイ構成のZero1Fを加えた第2世代のシリーズに発展し、爽やかに拡がる音場感の豊かさと、明るくダイナミックな表現力により好評を得ている。今回は、平面振動板ユニット採用のZero7の上級機種として、シリーズのトップに位置づけられるZero1000が登場した。
 ユニット構成は、標準的な3ウェイ構成に、さらにスーパートゥイーターを加えた4ウェイ方式。ファインセラミック振動板を初めてウーファー用コーンに導入した32cm口径ウーファーをベースとし、同じ振動板材料を、これもドーム型スコーカーに初採用の7・5cm口径ユニットを中音に、トゥイーターも同様な3・5cmドーム型、それに独自のダイナフラットリボン型のスーパートゥイーターから成る。
 ウーファーコーンのファインセラミック化は、コーンの固有キャラクターの原因となる不要な高域共振を排除し、剛性が高いため大振幅時にも空気圧でコーンが変形したり歪むことがなく、透明でクリアーな、色づけのない安定したベーシックトーンが得られるメリットがあるという。
 スコーカーとトゥイーターは、半球に近いドーム形状を採用している。これは、モーダル解析により求めた理想的な形状とのことで、周波数特性、指向性ともに優れた基本設計である。特に、7・5cm口径のスコーカーユニットは、80年代のドーム型ユニットらしい設計で、従来のハードドーム型ユニットとは基本的な設計が異なっている点に注意したい。
 一般的に、ドーム型スコーカーでは振動板の前にイコライザーを設けるが、Zero1000のユニットにはイコライザーがない。ダイアフラムの内側も、従来は振動板材料固有のキャラクターを抑える目的で制動剤を塗布したり、貼りつけたりしてコントロールする例が多かった。この方法は、確実で容易な手段であるが、振動板重量が増加し、能率の低下や聴感上での鋭いピークの伸びや分解能を損ないやすく、せっかくの高剛性、軽質量のメリットが活かせないためにダイナミックスを抑える傾向が強い。Zero1000では、振動板を直接制御する方法を排除し、ファインセラミックの利点がフルに活かされている。この、イコライザーレス、フリーダンプダイアフラムの2点は、進歩した設計による現代ドーム型ユニットの特長で、今年登場の、優れたハードドーム型ユニットを採用した高級ブックシェルフ型システムに共通の、注目すべき技術革新である。
 エンクロージュア型式は、Fシリーズがすべてバスレフ型であることと対比的に、完全密閉型であるのがZero1000の外観上の特長であろう。エンクロージュアは、一般的にチップボードや積層板といった板材を切断して組み立てる方法が採用されているが、Zero1000のエンクロージュアは、それとは根本的に異なった材料が導入されている。
 ブルーグレイ調にカラーリングされたフロントバッフルは、フラットバッフルでは避けられない回折効果による指向性の乱れを俳除するために、微妙なカーブを描くスーパー楕円形状が採用されている。4個のユニットを直線配置とすると、ユニットマウント用の穴をあけることによる強度不足が問題になってくるが、今回はこの解決方法として、最も響きが美しい木材を超えるヤング率や内部損失をもった特殊レジンを材料に選択している。さらに、一体成型モールドの利点を活かして、バッフル裏側に強度を確保する目的で複雑なリブ構造を施し、理想的なフロントバッフルを作りあげている。実際に叩いてみても、その響きは木材と判断しかねる印象だ。また、裏板部分も、エンクロージュア内部の定在波の処理やユニットの背圧問題、不要振動の排除などの多角的な影響を抑えるために、裏板中心部分の板厚が最も薄く四隅が厚い、逆ピラミッド型に裏板内側が成型されている。この特殊形状を、チップボードを一体成型するウッドキャスティングにより可能としている。なお、側板、天板と底板は、一般的な板材使用である。
 ネットワークも重要な部分だが、高級機相応の高品質、低損失設計であり、レベルコントロールは定インピーダンス・ステップのスイッチ切替型である。
 その他構造上の特長として、低域のダイナミックレンジを拡大するために、ウーファーの磁気回路ブロックとエンクロージュア裏板間を強力なボルトでつなぎ、最適位置で固定してあるのも見逃せない。
 ややトールボーイ型のZero1000は、ステレオサウンド試聴室では床上約25cmほどに設置して、最適バランスが得られる。音の粒子は細かく滑らかで、基本的に柔らかい音とナチュラルに伸びた帯域バランスをもつ。音の反応はシャープでダイナミックであり、誇張感のない実体感とディフィニションの優れた音場感の透明さは、紙のコーン採用のシステムとは異次元の再生能力だ。使いこなしには努力を要するが、その結果は想像を上廻る見事なものである。

ヤマハ NS-1000M, ビクター Zero-5 Fine

黒田恭一

サウンドボーイ 10月号(1981年9月発行)
特集・「世界一周スピーカー・サウンドの旅」より

 スピーカーで音の世界めぐりをしてきて、最後に日本のスピーカーを2機種きいた。そこでまず感じたのは、ともかくこれは大人の音だということであった。充分に熟した音であり、かたよりがないということである。立派だと思った。どの国出身のレコードでも、つつがなく対応した。ヤマハのNS1000MとビクターのZER05FINEでは、価格の差があるので、そのクォリティについては一概にはいえないとしても、おのれの個性をおさえて、それぞれの方法でさまざまな音楽に歩みよろうとしている姿勢が感じられた。大人の音を感じたのは、おそらく、そのためである。
 とりわけ、ヤマハのNS1000Mは、立派であった。それぞれに性格のちがう音楽のうちの力を、しっかりと示した。ただ、たとえば、マーティ・バリンの歌の、粋でしゃれた感じをこのましく示したかというと、かならずしもそうはいえなかった。さまざまな面で、はきり、くっきり示しはしたが、独特のひびきのあじをきわだたせたとはいいがたかった。したがって、このマーティ・バリンだけを例にとれば、JBLのL112とか、あるいはボーズの301MUSIC MONITORの方がこのましかったということになる。ビクターのZER05FINEについても、同じようなことがいえる。
 こうやって考えてくると、ヤマハのNS1000Mにしろ、ビクターのZER05FINEにしろ、日本出身のレコードでそのもちあじを特に発揮したわけではないから、外国のスピーカーたちとちがって、お国訛りがないということになる。お国訛りというのは、いってみれば一種の癖であるから、ない方がこのましいと、基本的にはいえる。ただ、場合によっては、そういうスピーカーの癖が、レコードの癖と一致して、えもいわれぬ魅力となることもなくはない。シーメンスのBADENのきかせたニナ・ハーゲンやクラフトワークのレコードの音がそうであり、エリプソンの1303Xがきかせたヴェロニク・サンソンのレコードの音がそうである。
 癖があるのがいいのかどうか、とても一概にはいいきれない。同じ価格帯で比較したら、日本のスピーカーの多くは、平均点で、外国産のスピーカーを大きくひきはなすにちがいない。さしずめ、日本のスピーカーは3割バッターといたところである。そこへいくと、外国のスピーカーの多くは、ねらったところにきたらホームランにする長距離打者といるであろう。
 ただ、この場合、ききてであるかぼくが日本人であるために、日本のスピーカーのお国訛りが感じとれないとういこともあるかもしれないので、はっきりしたことはいいにくいところがあるが、日本のスピーカーは、ドイツのシーメンスのBADENをドイツ的というような意味で日本的とはいいにくいように思うが、どうであろうか。
 くりかえして書くが、、ヤマハとビクターのスピーカーは、大滝詠一やブレッド&バターのレコードもこのましくきかせたが、それと同じようにハーブ・アルバートやマーティ・バリンのレコードもこのましくきかせた。その意味で安心してつかえるスピーカーではあるが、きらりとひかる個性にいくぶん欠けるといえなくもないようである。

ビクター P-L10, M-L10

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ビクター独自のスーパーAクラス増幅とピュアNFB方式を採用したプリメインアンプは、同社が従来より提唱する音場感再生で優れた再生能力を示し既に定評が高いが、今回、7070シリーズ以来久し振りに、ビクターアンプのトップランクの位置を占めるセパレート型アンプとして、コントロールアンプP−L10とパワーアンプM−L10のペアが発売された。
 P−L10は、外観上はプリメインアンプに採用しているシーリングポケットによるパネルフェイスのシンプル化を受け継いだデザインで、フラットで整理されたパネルと、独自の伝統を有する木工技術の成果を活かした人工ローズ材の鏡面平滑塗装21工程の入念な仕上げによるウッドキャビネットが標準装備である。
 回路設計上の特長は、RIAAイコライザ一回路に人力電圧を電流に変換増幅し、この電流をRIAA素子に流してオームの法則により単純にイコライズする方式を新採用している。この方式の特長は、電流によるイコライゼーションのため、CR型の動特性、伝送特性と、高域ダイナミックレンジの大きいNF型の利点を併せもち、電圧・電流変換率を変えるのみでトータルゲインがコントロールでき、MM型と高インピーダンスMC型間での性能、音質が変わらないことである。
 ボリュウムコントロール回路は、音量の大小により音質が変化することが多い可変抵抗器型が一般的だが、ここでは実用レベルでのSN比が大きくとれ、信号回路に可変抵抗が入らぬ可変利得アンプによるボリュウムコントロールの採用が目立つ点だ。また、イコライザー・ボリュウムアンプ回路には回路の高速応答性を高め、歪、Dレンジを改善するフィードスルー回路がある。
 フォノ2は、低インピーダンスMC型専用入力で、信号は負荷抵抗切替付ヘッドアンプを経由してイコライザーに導かれる。
 トーン回路はボリュウムアンプの後段に置かれ、ダイレクト使用時にはモード、サブソニック回路ともども切離され、ボリュウムアンプ出力がプリアウトに出る。
 使用部品は、音質重視設計で、窒素封入リレー、金属皮膜抵抗、銀箔クラッドスイッチ接点、プレーン箔電解コンデンサー、低雑音ツェナーダイオードなどが採用され、プリントパターンも音質重視レイアウトだ。その他、標示ランプ系は、ノイズ発生が多く音質劣化の原因となりやすいLEDを全廃し、白熱ランプの定電流点灯をしているのも本機の注目すべきポイントである。
 M−L10は、スーパーA採用のパワーアンプ7050の成果をベースに発展したタイプだ。出力段トランジスターが一定電圧で動作し、電流のみ変化させ、スピーカー実装時と抵抗負荷時と同じ性能を得る目的でパワー段までカスコード回路を採用した全段カスコード回路採用が特長である。このタイプは出力段トランジスターが数ボルトの低電圧で動作をするため発熱量が少なく、スピーカー実装時の瞬間発熱量は従来方式の1/10以下となり、サーマルディストーションの改善とアイドリング電流が安定し、裸特性が向上するとのことだが、アンプトータルとしての発熱量は、電源側トランジスターが発熱をするため変わりはない。
 その他の特長には、P−L10と同じく新開発人工ローズ材の鏡面平滑仕上げウッドキャビネットの採用、便用部品面でのプレーン箔電解コンデンサー、低雑音ツェナーダイオード、高速型ダイオード、トロイダル型電源トランスと、電源ON時のインラッシュ防止回路の対電源電圧安定性の改善などの高信頼性、音質重視の設計のほかスーパーA方式の採用があげられる。
 P−L10とM−L10の組合せは、落着いた色調の艶やかなウッドキャビネット、フラットなパネルフェイスを採用しているために、オーディオアンプにありがちなメカニカルな印象が少なく、家具などのマッチングにも違和感が少ないタイプだ。
 この種のセパレート型アンプは、パワーアンプの電源をコントロールアンプのスイッチドACアウトレットでコントロールするのが一般的な使用法であるが、音質を重視する場合には、個別に壁のACコンセントから給電するか、止むをえない場合でも電源容量が充分あるACタップから単独に給電したい。コントロールアンプは電源ON時に暖かみのある色調の白熱ランプによる表示灯が点灯するが、パワーアンプは電源ON時には大型の2個のパワーメータースケールが赤に表示され、しはらくしてアンプが定常状態になるとスケール照明が白に変わる、ちょっと楽しいセレモニーが盛り込まれている。
 一般的なハイインピーダンスMM型カートリッジ使用では、ナチュラルに伸びた帯域バランスと音の粒子が細かく、滑らかに磨き込まれた艶やかな音。本格派の分解能が優れたアンプのもつ、わざとらしくない反応の良さが従来の同社製アンプとは異なった次元の製品であることを物語る。いつもは鋭角的な4343Bがスムーズでフレキシブルに鳴る。ナチュラルな音場感の拡がり、音像定位のクリアーさは立派で、情報量が充分に多い。低インピーダンスMC型使用では、SN比が非常に優れ、ノイズの質が非常に高いのが特長である。総合的な完成度が充分に高く、大人の風格が備わった見事な製品である。

ビクター MC-T100

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 独自のIC製造技術を応用したマイクロコイルを針先に近くおいたダイレクトカップル方式MC型MC1、MC2E用に開発された高インピーダンス専用のトランス。カートリッジインピーダンスは20〜40Ω。
 帯域バランスは、低域は少し抑え気味だが中域から高域はナチュラルに伸び、中高域にキラッと輝くキャラクターがある。
 305は帯域バランスがなかなか良く、音源は少し遠いが音場感は拡がり、音像もナチュラルである。スケール感はやや小さい。
 テクニカAT34EIIにすると、帯域バランスはスッキリとまとまり、安定感のある低域、密度のある中域がピタリとマッチ。位相差によるプレゼンスを自然に聴かせる音場感、定位のシャープさも相当に優れる。

ビクター A-F33

ビクターのプリメインアンプA-F33の広告
(スイングジャーナル 1981年9月号掲載)

A-F33

ビクター QL-Y7

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 プレーヤーシステムとしては、ビクターの現シリーズ中の最高モデルである。カートリッジはついていない。メカニズムはセミオートタイプで、電子コントロールのダイナミックバランスタイプのトーんー無をもつ。一種のサーボコントロールにより、アームの受ける機械的な不安定要素を制御して、安定したトレース能力と音質を得ている。FGサーボのコアレスDCモーターによるクォーツロック・ダイレクトドライブ方式。

ビクター Zero-5Fine

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 意欲的な開発姿勢もさることながら、よくまとまった個性的スピーカー。コーン型ウーファー、ドーム型スコーカー、リボン型トゥイーターという組合せがユニークだし、帯域バランスを、質的にもよく統一した技術が光る。30cmウーファーがベースだけに、低音の豊かな支え、よのびたワイドレンジのスケール感が魅力。許容入力も余裕たっぷりで、かなりの大音量再生も可能であるから、音楽の表現力も大きい。

ビクター UA-7045

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 トーンアーム単体は、使用カートリッジの種類によって簡単には決めかねるものだ。軽針圧型から重針圧型まで幅広く対応させるためには、軸受構造もオイルダンプやナイフエッジよりは一般的なジンバルが好ましく、慣性質量も中庸をえたタイプがよい。この点ではUA7045は、長期にわたる使用経験上も各種カートリッジの特長を、それなりに素直に引出すのが最大の美点であり、明るく伸びやかな音は使いやすい現代的な魅力である。

ビクター A-X5D

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 A級増幅の低歪とB級増幅の高能率を両立させた独自のスーパーAクラス方式に加えて、新しくピュアNFB方式を採用した、実力派のプリメインアンプ。兄貴分のA−X7Dの安定感のある魅力もさることながら、このX5Dのシャープでキビキビとした反応の早い音は、このクラスのトップランクだ。伝統的な音場再生のセオリーにのっとった、ディフィニションが優れ、明快な音像定位と、パースペクティブの再現力は試聴上の本機のポイントである。

ビクター MC-1, MC-2E, X-1IIE, U-2E, Z-1E

ビクターのカートリッジMC1、MC2E、X1IIE、U2E、Z1Eの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

MC1

ビクター KD-D33, KD-D44

ビクターのカセットデッキKD-D33、KD-D44の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

KD-D33

ビクター TT-801 + UA-7045

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはプレイヤーシステムだが、大変変わったシステムで、実際使っているターンテーブルやトーンアームは単体で売り出されているもの。ターンテーブルはTT801というクォーツロックのDD。別売のトーンアームUA7045が付いてきたのでこれで試聴した。ただトーンアームはベースが板ごと取り換え可能だから、ほかのアームを付けることももちろんできる。このプレイヤーシステムには、ターボディスク・スタビライザー・システム=バキュームポンプによってターンテーブル上にのせたレコードを吸着させるという効力を持つ機能がある。ただその吸着はがっちりと吸い着けるというほど強いものではなく、演奏中、絶えずある程度の力でレコードを吸い着けておくということだそうだ。実際にこのへんのコントロールはガッチリ吸い着けるよりもこの方がいいというのがビクターの主張だ。これは非常に難しい問題で、確かにガッチリと吸い着けてしまうと、かえってターンテーブルの物性とか、あるいは構造からくる共振、その他の影響を受けやすくなるということがあって、ある程度の吸引力で吸い着けておいた方が音質的には好ましい、というのがこのシステムの考え方だろう。こういったシステムなので、当然マニアックなものだが、このポンプが音を出すのでどこか別のところに置かないとやはり気になる。そういうこともいとわずに、これを使うかどうかが、この製品を選ぶか選ばないかの分かれ道だと思う。
音質 実際に音を聴いてみると、確かに吸引の効果はあるけれども、ガッチリ吸いつけた時ほどのダンピングのきいた低音にはならない。ベースの音などややふくらみがち。悪い言葉で言うと、少しブカブカする。もうちょっと締めて欲しいという感じがする。しかし、これを言いかえると、締まった音というのは音楽性が足りない。やはり適度にベースなどは豊かに鳴ってくれると音楽的には楽しい。そういう点から考えると必ずしも悪いとはいえない。ただ余計な音全部をこのバキュームによってコントロールしている、という感じはやや薄いという意味だ。ピアノの中域の音がちょっと薄くなるという点が気になった。これはターンテーブルのせいではなく、ほかの部分によるものかもしれない。例えばトーンアームとカートリッジの相性とか。カートリッジはMC20MKIIを付けたけれども、そのへんの要素も入ってくるので、すべてがこれの特徴であるバキュームシステムの音というように解釈していただきたくない。けれども、全体的に少しそういう感じがした。それからちょっと高域がきつくなる。これはもうカートリッジのバランスではないかという感じがした。全体的なエネルギーバランスはいま言ったような細部の問題はあるが、まずまず取れていた。それからプレゼンスが大変いい。これはバキュームを使う時と使わない時では大違いだ。ただ、バキュームを使わなくても、もっと締まった低音のターンテーブルもあるし、締まりすぎて音が物足りないという方向へも行っているということからいけば、この程度のブーミングのあるベースの方が音楽を聴く時には楽しいという感じもする。全体の音を、とにかくバランスよく、適当なところでコントロールしていくという思想がこのプレイヤーには感じられる。

ビクター DD-5

ビクターのカセットデッキDD5の広告
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

DD5

ビクター A-X9

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 このアンプはビクターが〝スーパーA〟を標榜して発表した一連の製品の第一世代の最上級機という位置づけをもっている。総体的にいえば、さすがに出力も大きく(100W)、使用パーツはぜいたくをしているだけのことはあり、腰のすわりがよく、ひじょうに安定でおっとりした音を聴かせる。
●カートリッジへの適応性 A-X9自体の基本的な性格はよいのだが、オルトフォンVMS30/IIでベートーヴェン第九(ヨッフム)の第四楽章導入部のティンパニーの連打などが、A-X7Dと比べると、いくぶんドロンとした印象を与え、テノールのソロなども、いくぶん金属質に近い印象で歌い始める。コーラスとオーケストラのトゥッティにかけての分離、あるいは音のバランス、そしてこのレコード特有の奥行きの深い、立体感のある音の見通しなど、いろいろな点で、X7Dに比べていくぶん透明感が劣るという印象を与える。「サンチェスの子供たち」でも、パーカッションの打音のしまりがもう少しピシッと決ってほしい。エラック794Eの場合は、イクォライザーの高域特性がよくコントロールされているのだろう、レコードの傷みはあまり耳につかずに聴かせることから、このアンプは古い録音のレコードでも楽しませるだけの素質はもっている。
 MCポジションでのノイズレベルおよびノイズの質は、X7Dによく似て、軽い耳につきにくいタイプなので、オルトフォンのような低出力低インピーダンス型MCでも、実用になるだけのこなれた音だ。オルトフォンの味わいを十分生かすだけの質の良さを持っている。デンオンDL303では、当然のことながら、オルトフォンの場合よりノイズは総体的に減少し、実用上問題がなく、音質もわるくない。外附のトランスを併用すれば、むろんノイズは減るが、音質という点では、MCポジションの音が意外に良いことを改めて教えられる。ただし、フォーレのヴァイオリン・ソナタのようなデリケートな味を要求する曲では、X7Dのようなしっとりと聴きほれさせるほどのムードは出しにくい。
●スピーカーへの適応性 アンプ自体のおっとりした性質が、アルテックの気難しい面をうまく補ってくれるとはいうものの、やはり620Bカスタムの魅力を十二分に抽き出すまでには至らない。スピーカーの選り好みをするというタイプではなく、どちらかといえば、再生音全体をゆったりと腰のすわりよく仕上げたいという場合に、特徴を発揮するアンプだろう。
●ファンクションおよび操作性 X7Dと比べるとよりいっそう豊富で凝っているが、ラウドネスとモードスイッチはない。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れは全くない。
●総合的に 音の重量感、安定感という点で、さすがに10万円台の半ばのアンプだけのことはある。ただし、X7Dと比較してみると、5万円の差をどうとるかはむずかしいところ。遠からずX9D、に改良されることを期待したい。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2+
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1+
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2+
9. ACプラグの極性による音の差:小

ビクター A-X7D

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 これはとても良くできたアンプだと思った。価格と出来栄えとのバランスでいえば、今回とりあげた34機種の中でのベスト・ワンに推したいアンプであった。この音質の良さをひと言でいえば、作為のない自然さ。
 低音域にかけての音の支えが実にしっかりしていて、浮わついたところのないゆったりと安定した、どこか国産らしからぬバランスの音を聴かせてくれる。中~高音域にかけての音質は十分に磨かれて、こまやかで美しい音を聴かせるが、それを支える中~低音域が十分な量感をもっているために一聴した肌ざわりはむしろソフトだが、たとえばバスドラムの打音など、十分な迫力を持って鳴るし、管弦楽などでも奥行感が自然で、アンプの音ということを忘れて音楽に浸りきることができる。
 これだけほめた上で二~三の注文をつければ、もう少ししっとりとした艶があればなおのこと魅力的な音質に仕上ると思うし、低音の支えがときとしてほっわずかだか下半身肥大ぎみに聴こえる場合も(プログラムソースによっては)ないとはいえない。しかしこれは、十万円そこそこのプリメインタイプには、少しばかり過大な期待かもしれない。
●カートリッジへの適応性 前述のような音のバランスのせいか、ほんらい細くなりがちのデンオンDL303などでも、ほどよいバランスに仕上る。ハイゲインイクォライザーも、ハイインピーダンスMCに対しては十分の性能で、単体のトランスよりもむしろ良いくらいだ。ノイズも非常に少なく実用上問題ない。ただ、オルトフォンのような低出力低インピーダンスMCの場合には、MCポジションの性能は、良質のトランスにわずかに及ばない。MM、MCを通じて、各カートリッジの個性をいかんなく抽き出してくれる。いじわるテストに属するエラック794Eでの、傷んだディスクのトレースでも、十分鑑賞に耐える音で聴かせる点、特筆に値する。ということは、古いレコードでもその音楽的価値を十分に抽き出してくれるということになる。
●スピーカーへの適応性 アルテック620BカスタムやロジャースPM510のように、アンプへの注文の難しいスピーカーも、かなりの満足度で鳴らすことができた。テスト機中、ロジャースを積極的に鳴らすことのできた数少ないアンプだった。
●ファンクションおよび操作性 スイッチ、ボリュウム類の操作性はきわめてよい。ボリュウムを上げたままで各スイッチを操作してみても、気になるようなノイズは出ない。よく作られている。フォノ聴取時にチューナーからの音洩れも全く感じられなかった。
●総合的に 操作してみて、鳴らしてみて、全く危なげのないよくこなれた作り方。久々ビクターのヒットといってよさそうだ。今回のテストで、もし特選の上の超特選というのがあればそうしたいアンプ。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):3
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):2
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:3
7. スピーカーの特性を生かすか:3
8. ファンクションスイッチのフィーリング:3
9. ACプラグの極性による音の差:小

ビクター A-X5D

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 A-X5Dになり、音の透明感が向上するとともに、高域の切れこみが増して、総体に解像力が上がっている。旧タイプの方が周波数レンジも狭い感じで、しかも中域の張りがいくぶん目立ち、アイーダ(カラヤン)のような大編成の曲を大パワーで聴いたときに、いくぶん圧迫感を感じさせるのに対し、新型は総合的なバランスが格段に向上し、音量を上げてもやかましくない。音を支える中~低域にかけての重心が低く、本質的に中~高域の解像力が優れているために、その部分だけが耳につくこともなく、全体にソフトにくるみこんでいながら、正攻法でたいへん優れた音を聴かせる。基本的な音のクォリティがよく磨き上げられているためか、この価格帯としては、ひと味違う安定感を聴かせる。時間がたつにつれて、アンプの音の良さがじわりと染みこんでくる本格的な音ということができる。この価格帯ゆえに完璧とはいえず、強いて不満をいえば、音の本質的な意味での切れこみ、ツヤ、空間への音の散りばめぐあいという面でいくぶん物足りないところがあり、低域をいくぶん重くひきずる傾向もある。
●カートリッジへの適応性 各種カートリッジの持ち味をそれぞれよく生かし、各カートリッジと性格の合うレコードの楽しさを十二分に描き出す。「サンチェスの子供たち」や「ニュー・ベイビィ」のように、本質的にハイパワーを要求する曲の場合でも、表示パワー以上の実力を感じさせ、激しい強打音にも十分もちこたえる。エラック794Eで傷んだレコードをトレースするいじわるテストでも、レコードの歪成分をとりたてて強調することなく、音楽的バランスを、一応整えて聴かせる。
 MCポジションでは、軽いハムの混入するノイズが出るが、量としては少なく、オルトフォンMC30の基本的な性格を生かしてくれる。デンオンDL303では、MC30に比べノイズもかなり軽減され、バランスの整った美しい音を聴かせる。
●スピーカーへの適応性 アルテックを一応不満なく鳴らせ、アンプの基本的な性質が優れていることがわかる。と同時に、きわどい音を出しがちなスピーカーを抑えこむ、よい意味でのソフトな面が生かされる。
●ファンクションおよび操作性 ファンクションはたいへん充実していて、キメ細かい操作をすることができる。MC/MMの切替え時に内部でミューティングが働くために、ノイズは全く発生しないが、ミューティングの動作時間が少し長すぎると思う。各種のファンクションは下部のサブパネル内に整理されているが、表示がいささか見にくい。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れは全くなく優秀。
●総合的に 6万9800円という価格を考えると、今日の時点でたいへん優れたアンプのひとつだ。このクラスでの注目製品といってよい。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2+
9. ACプラグの極性による音の差:中