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EMT 930st

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 プロ用のプレーヤーシステムとして特殊な存在だが、EMTとしては927Dstに比べて、コンベンショナルな放送局用である。TSD15カートリッジ専用で、トーンアームは同社の929を使っている。アイドラードライブの3スピードというオーソドックスなターンテーブルの信頼性と性能、音質の品位は高い。イクォライザーアンプを内蔵し、出力はラインレベル/インピーダンスで取出せるようになっている。

ナカミチ Nakamichi 1000ZXL

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 カセットデッキの最高峰といってよい、ナカミチらしい力作である。マイク/ライン録音にあらゆる面から対処し、テープへのバイアス、イクォライザー、レベルは、マイコンにより全自動化されている。マニュアルでは、イクォライザー2段、バイアス3段切換えだ。録音15曲のコーディング、再生30曲のメモリー選曲、タイマー、ピッチコントロールなど至れり尽くせりの高性能デッキで、まさにカセットのリファレンスにふさわしい。

70万円以上の価格帯の特徴(コントロールアンプ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 なぜ70万円で価格帯を区切ったのか編集部の意図を推測してみると、どうやら、マーク・レビンソンのコントロールアンプの存在のためらしい。ベストバイの一覧表を見ても、70万円を超えるものはマッキントッシュのC32と、あとはマーク・レビンソンのML7、LNP2L、ML6ALの、いずれも100万円を超す3台だけである。それなら、100万円で区切ったほうがよかったと思う。そして、このゾーンをスーパーマニアと呼ぶとなると何やらおかしいことになる。これだけのお金を払う人のことをスーパーマニアと呼ぶという考え方にとらえそうである。40〜70万円のところで書いたことは、このゾーンにもあてはまる。一品一品に心血をそそいで作られるアンプ、それは量産にはない魅力をもつ場合もあるが、逆に量産のもつ信頼性や安定性に欠ける場合もある。この両方のさよをバランスさせたものが、最高級ランクでのベストバイということになるだろう。

ペアで120万円以上の価格帯の特徴(スピーカー)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 ペアで120万円以上は、スーパーマニア向き、あるいは専門家用の超高級システムということになり、最新最高の結晶、あるいは伝統に輝く名品といえるものが、このゾーンには存在する。もちろん、全部、大型システムとなる。いずれも、大変な風格を音にも外観にも持った製品がそろっている。これらのスピーカーの鳴らす音の世界は、それを使う人を反映するといわれるほどで、まさに、オーディオの世界の深奥を聴かせる可能性を秘めている。しかし、まかりまちがえば惨憺たるもので、7万円未満のブックシェルフシステムを、さり気なく鳴らした音にも劣りかねない危険性ももっている。つまり未熟ツナドライバーが、高性能のスポーツカーを走らせるようなもので、人にまで迷惑をかける。これを作った人間達の英知と教養と、それを使う人間の戦いでもあり、美しき理解と協調でもある。それにふさわしい高額な出費もやむを得ないだろう。

全体を通じての製品の特徴(ターンテーブル)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 フォノモーター/ターンテーブルシステムという分野は、一つのパーツとして考えるべきものだろう。プレーヤーは、大きく分けてベース、フォノモーター、ターンテーブルアッセンブリー、トーンアームそしてカートリッジのシステム化により音が決まる。フォノモーターの場合は、ベースがないわけで既製のプレーヤーシステム、あるいはターンテーブルシステム(アームレスプレーヤー)のベースでは気に入らない人が、パーツアッセンブリーとして求めるものだろう。そうした実情から、フォノモーターは、コストを節約したものではあまり意味がない。ターンテーブルシステムは、モーター、ターンテーブル、ベース、そしてトーンアーム取付ベースまでを一体としてメーカーが作り上げたもので、性格としてはプレーヤーといえそうだ。トーンアームの選択を自由にしたものだけに、これも、よほど高度なものでなければ存在理由はない。

全体を通じての製品の特徴(トーンアーム)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 トーンアーム単体には価格帯をもうけていないが、もともと、これを使おうというぐらいの人は、かなり要求度の高いマニアで、明確なコンセプトから選択するもだろう。プレーヤーシステム附属のトーンアームにも、かなりクォリティの高いものがある実情からして、プレーヤーシステムのターンテーブルに自分の要求が満たされないか、あるいは、どうしても附属のトーンアームが気に入らないといった人達のための存在ということになる。プレーヤーシステムは、カートリッジからベースにいたるすべてを含めて、一つの音をもつものだから、トーンアームも、それ自体の性格と、トータルのシステムの一員としての適性を考える必要がある。さすがに、各社のトーンアーム単品は、明確なコンセプトと専門メーカーらしい精緻な作りをもっている。自分自身の技術的な見地から充分調査することが必要だ。目的は一つでも、考え方がいくつかあるのがこの分野であるから。

40〜70万円未満の価格帯の特徴(コントロールアンプ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 この価格帯の後半は全部といってよいほど外国製品となる。そして、これを概括して述べることは全く不可能といってよい。きわめて個性的なものが並んでいて、価格と価値の関係も、それぞれのメーカーのお家の事情で異なり、まったくまちまちである。こういう特殊なものだから、専門メーカーが多く、開発費のかけ方、生産量などが即、価格に反映するのである。早い話が、マッキントッシュのC29を一台だけ作ったら大変な価格になるだろうし、年間700万台も作れば1/10ぐらいになるかもしれない。しかし、このクォリティを維持することは出来ないであろうから、土台無理な話である。というわけで、こういう製品を値段で区切って、どうこういうこと自体が非現実的である。しいていえることとしては、40〜70万円をコントロールアンプ単体のために出費するユーザーとして、真によいものを見抜く眼力と張力が重要だということである。

20万円〜40万円未満の価格帯の特徴(コントロールアンプ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 この価格帯には、国産のほとんどのコントロールアンプが集中している。一般的にいって、国産アンプの場合、パワーアンプに比べてコントロールアンプが不作であるが、それでも20万円以上となると、さすがに手応えのある製品を見出すことが出来る。物理特性的には最高だ。コントロールアンプは、心情的に豊かな魅力をもったものが要求され、直接手で触れて、音をコントロールする専門のコンポーネントということから、パワーアンプ以上に、要求が複雑になるようだ。音だけでなく、総合的な印象が音楽を聴く心情の対象として厳しく見つめられるであろう。そうした意味でいくと、20〜40万円のゾーンは、やや物足りなさがあるかもしれない。いいかえれば、国産コントロールアンプの抜群の特性にバランスした、ものとしての魅力や風格、オリジナリティとセンスにいま一歩のところがあることを物語っているようである。

20万円未満の価格帯の特徴(コントロールアンプ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 コントロールアンプというからには、パワーアンプが含まれていないセパレート型だ。アンプにはプリメインアンプと呼ばれるインテグレイトな便利なアンプがあるわけだから、セパレートには、それなりの必然性が要求される。つまり、プリメインアンプでは得られない性能、クォリティ、魅力があるべきだ。実際には、プリメイン型の高級機にも劣るセパレートアンプもあるから要注意である。形態がセパレートであるというのも魅力のうちだから、かなり安価なコントロールアンプも市場にはあるが、あまり感心出来るものはない。3万円〜5万円でプリメインアンプを超えるものが出来るわけはないのである。どうしても10万円近いところからが存在の必然性をもったものというのが実情である。本当は、10万円内外と20万円クラストの間に線を引くべきなのかもしれないが、このゾーンにも結構、単体コントロルアンプとしての魅力をもったものが存在する。

40〜100万円未満の価格帯の特徴(パワーアンプ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 これもずい分広い価格帯の設定で、概括するのが難しいが、このランクにはかなり特色をもった個性的な製品が多くある。出力は小さいが、技術的には興味深いAクラス・アンプなどは、このゾーンに多いようだ。そして、一般的な国産パワーアンプは今のところ、ステレオで100万円が最高価格であるから、このゾーンはトップモデルを含むことになる。全体としては、海外製のアンプがこのゾーンではめっきり増えてくる。パワーでは200Wクラスが大きいほうで、先に述べたように、,50Wクラスのものまである。作りやデザインにも個性が強く現われ、不思議なことに、国産アンプも、コントロールアンプよりも、ずっとオリジナリティをもったデザインのものが多いようだ。音の密度の充実した製品が多く、海外の大型スピーカーシステムのもてる個性を十分に発揮させるに必要なアンプとなると、このクラスのものが望まれる。

20万円〜40万円未満の価格帯の特徴(パワーアンプ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 このクラスのパワーアンプとなると、さすがに、パワーアンプとして存在感が強い。国産パワーアンプがほとんどで、パワーも100〜150Wが標準である。歪特性はいずれも優秀で、性能的には不足のないものばかりに見える。しかし、実際に音を聴いてみると、実にいろいろな音を出すのが面白い。個性が興味の的となってくる。このクラスに総じていえることは比較的オーソドックスで汎用性の高いものが多いということである。パワーの小さめなものは、その分音質にまわっていることか納得出来るのも、このクラスから上の製品のもつ誠実さといえそうだ。だからといって、パワーの大きいものは音質が劣るとはいえない。僅かだが、そうしたものもあるにはあるが、国産パワーアンプの技術の見せどころといった中堅機種が、このゾーンの代表であり、もともと趣味性の高いセパレートアンプの世界のこと故、この面から見ると、もう一歩といったところだ。

20万円未満の価格帯の特徴(パワーアンプ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 パワーアンプ単体も、コントロールアンプの項で書いた、セパレートアンプの性格と共通するものだが、ただパワーアンプの場合、コントロールアンプより使い方が多機能となる場合が多い。つまり、マルチアンプとして、高域用に小出力のアンプが欲しいとか、ある種のブースターとして使いたいような場合がある。30Wクラスの単体パワーアンプが3万円ぐらいから存在することと、同クラスの単体コントロールアンプとを同じに考えることは出来ないのかもしれない。しかし、ここでは一応メインシステムとして考えると、原則としてプリメインアンプのパワー部の水準を超えてこそ、単体パワーアンプの存在が光ってくるといっておこう。そして、それは現実に10万円から上になるようだ。管球式アンプは特殊な存在として、一般には、100W+100Wクラスのパワーのものが単体パワーアンプの現実の目安であろう。

マッキントッシュ XRT20

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 マッキントッシュといえばアンプメーカーの名門として知られ、その製品の高性能と信頼性、そして美しい仕上げ、デザインの風格はファンの憧れの的である。しかし、同社がもう8年も前からスピーカーシステムを製造し、発売していることはあまり知られていない。ここに御紹介するXRT20という製品は、同社の最新最高のシステムであるが、すでに昨1980年1月には商品として発売さていたものなのだ。したがって、いまさら新製品というには1年以上経た旧聞に属することになるのだが、不思議なことに日本には今まで紹介されていなかったのである。1年以上も日本の輸入元で寝かされていたというのだから驚き呆れる。
 私は、このXRT20のプロトタイプを、一昨年──1979年の秋──ニューヨークへ録音の仕事で行った時、同州・ビンガムトンのマッキントッシュ本社で聴くことができた。その時の音の素晴らしさは、ちょっと信じられないほどだったが、続いて今年の1月、同社の社長であるゴードン・J・ガウ氏の自宅で、じっくり聴く機会を得て再度確認。今は我家に設置して日夜、狂ったようにレコードコレクションの聴き直しに没頭している状態である。私の長年のオーディオ生活で、こんなに興奮し、改めてオーディオへの情熱を喚起され、レコードを聴く幸せを今さらながら味わいなおしたのは初めての経験である。
 このスピーカーシステムは、今までのシステムが決して出せなかった音を出す。その音には自然の音、生の楽器のみに聴き得た感触がある。音場のプレゼンスの豊かさはこのシステムの一大特長で、オーケストラがまさに眼前に展開するようだ。拡がり、奥行き、細部のディフィニションと全体の調和の見事さは、解きとして我耳を疑うほどで、スピーカーから音楽を聴いているという意識が失なわれてしまうことがある。
 マッキントッシュというメーカーは、常にその時代における最大パワーを誇るアンプを、最高のクォリティで提供してきたメーカーであることは御承知の通りである。したがって、マッキントッシュのスピーカー・ラインアップの最高の位置にあるこのXRT20は、それにマッチした強力なものであるはずだし、事実、ジャズやロック系の音楽を鳴らしてみると、こことがはっきり証明される。底力のあるベースを土台に圧倒的なハイレベルで轟くのだ。
 しかし、このようなヘヴィ・デューティのタフなスピーカーシステムというものは、ガンガン鳴らすと圧倒的な迫力は得られても、小入力で繊細なニュアンスを大切にする音楽には向かないというのが、我々の常識であった。そして、反対に、そうした繊細なニュアンスをキメ細かく再現するスピーカーシステムというものは、まず、大音量でパルシヴな波形を主体とするジャズやロックは無理というのが普通である。たとえば、エレクトロスタティック・スピーカーがそうだ。並のスピーカーでは絶対出せない透明繊細な弦楽器などのニュアンスは出してくれるのだが、大振幅がとれないために、打楽器の迫力などは到底望めないのである。
 このXRT20は、私が初めて出会った、その両面を高い次元で満たすことのできるスピーカーシステムであった。小音量で弦やチェンバロを聴いている時には、その透明繊細な、しなやかな音からは、とてもジャズやロックなどの大音量再生が可能とは想像できない音である。ところが、一度、ボリュウムを上げ出すと、パワーアンプに余裕さえあれば、どこまで上げても音くずれがなく、力感に溢れたエキサイティングな再生音を楽しむことができる。しかも、この時でさえ持ち前の音透明度、繊細感を失わないのは不思議とも感じられるほどで、そのリニアリティの高さは信じられないほどだ。20Hz〜20kHzに及ぶ帯域を均等なエネルギー分布でカバーしながら、決してワイドレンジを感じさせる誇張的鳴り方はしない。いわば物理特性が裸で感じられるような鳴り方ではないのである。
 一般に、物理特性だけを追求し、技術的な能書きの多いスピーカーほど優れた測定データは示しても、感覚的、情緒的に満されないものが多いものだ。つまり、音楽的魅力が感じられないのである。ただ物理特性だけを追求して、即、聴いてよいスピーカーができるとは限らないことは、今さらいうまでもないことだろう。現時点で解っている技術的問題点はあくまで追求すべきであるが、全体の姿を見誤ると、必ずどこかにアンバランスをきたし、音が無機的になるものだ。
 このXRT20の音は決してそのような無味乾燥な、つまらないものではないのは、大きな喜びであり驚きでもある。ある人がこの音を聴いて、〝本物です!! これは本物の弦楽器です!!〟と飛び上ったし、また、ある人は〝この音は、生の音を識り、ありとあらゆるスピーカー遍歴をした人ほど正しく評価するでしょう〟ともいった。つまり、強烈な毒性や、人工的な色彩感のない音でありながら、決して非情緒的な音ではないのだ。レコーディングされた楽器の音の個性的質感や味わいをちゃんと出すからである。
 優れた録音と演奏のオーケストラを聴くと、従来のスピーカーが鳴らすことのできなかったあの弦の合奏のヴェルヴェットのようなテクスチュアが、輝くばかりのブラスの色彩感が、そして、腹にこたえるようなグラン・カッサの響きが、実にリアルに美しく再現されるのだ。楽器の音色の忠実な再現だけにとどまらず、その音楽表現のこまかなニュアンスまで、他のスピーカーでは聴き得なかった微妙さと豊かさで鳴らし分けるのには感嘆せざるを得ない。弦のプルトが、ふうっとテンダーに、ソットヴォーチェするところなど、その気配さえ感じられる。フィリップス・レーベルの最近とみに快調な優秀録音によるネヴィル・マリナーやコーリン・デイヴィスのハイドンの交響曲シリーズ、そしてまた、同じくデイヴィスのディジタルレコーディングによる?展覧会の絵?など、あるいは、小沢征爾の?春の祭典?等々……があたかも録音時のモニターの向う側へ行ったように自然で美しく響く。その瑞々しい音体験、音楽体験に身体中がゾクゾクするほど至福の思いをさせられる。転じて、SJの最優秀録音賞に選出されたアリスタ・レーベルのスコット・ジャレットの?ウィズアウト・ライム・オア・リーズン?や、私の録音したトリオ・レーベルの?マイ・リトル・スウェード・シューズ?など一連のジャズを聴くと、とても同じスピーカーとは思えぬ表情で圧倒的大音量のパルシヴな再生を身体中で浴びることも出来るのだった。このスピーカーシステムは、明らかにレコード音楽の表現の忠実度と可能性を、一歩も二歩も前へ進めてくれるものといえるであろう。
 具体的な例を書き連ねていたらきりがないから、この辺で止めるが、これらの劇的ともいえる音の体験と、素敵な演奏をありのまま所有し得る実感は、私自身を夢中にさせずにおかないのだ。そして、この一月余りの間に我家を訪れた私のオーディオ仲間やメーカーの人達、ジャーナリスト達のすべてからも異口同音に感動の言葉が聞かれた。中でも、オーディオ体験が豊かで真摯な人ほど、感動の度合いが大きく感じられたのも興味深いことであった。解る人には解る音なのだ。
 XRT20は、写真で見られるように、実にユニークな形態をもったシステムで、ウーファーとスコーカーを収めたエンクロージュアと、トゥイーターを収めたアレイに分れている。30cmウーファーが2基に20cmスコーカーが1基、そして2・5cmトゥイーターが実に24基という構成の3ウェイシステムだ。ウーファー、スコーカーセクションは、約1mの高さ、65cmの幅、32cmの奥行きのエンクロージュアで、バッフルボードの両サイドが斜めにカットされディフラクションフリーのシェイプをとる。トゥイーターセクションは約2m(195・9cm)の高さ、27cmの幅、4・6cmの厚さのフラットなアレイで、これは、壁へ取付ける方式と、オプションのステーによりウーファーのエンクロージュアに取り付ける一体式との両方が選べるようになっている。壁取付がベストだと思うが、壁面の形状で不可能な場合や、壁にネジを切り込むのが嫌な人は一体式で十分な効果が得られる。ウーファー、スコーカーはコーン型、トゥイーターはドーム型である。
 このXRT20の発想は、今から20年以上も前にゴードン・ガウ氏の頭にあった。当時から氏はハーバード大学の研究室との共同研究で、現在のXRT20の原形ともいえる2m長のリボントゥイーター・アレイの試作をしているのである。リスニングルーム内に高域のエネルギーを最小の歪で均等に分布させること、音質に癖のない振動系を使い、かつ大パワー入力に耐えさせること、これが彼の、トゥイーター設計の目標であったという。そして、低域は20Hzまでを理想とし、少なくとも25Hzは保証すること。適正なレベル差と位相差を保つため、ユニット構成に加えてレスポンス・タイム・ネットワークを設計することによって多々しい立体音場の再生を可能にすることなどの設計ポイントが定められ、同社のスピーカーエンジニア、ロジャー・ラッセル氏の献身的協力を得て完成されたのがこのXRT20なのだ。音の波状と位相特性の研究に関する一大成果である一方、このシステムのパワーハンドリングは、RMSサインウェイヴで300Wという強力さである。クロスオーバーは250Hzと1・5kHzとなっているから、このトゥイーター・コラムは1・5kHz以上の連続信号を300W入力しても大丈夫ということだ。事実、私は同社の500W+500Wアンプをフルパワーで鳴らしてみたがビクともしない。付属のパワーインディケーターが2つあり、黄色が全帯域、赤が高域なのだが、ごくたまに黄色が点灯する程度だった。ミュージックパワーならMC2500の実質パワー、650Wオーバーのフルドライヴに充分耐えることだろう。もちろん入力オーバーに対してはヒューズで守られている。これは、マッキントッシュ社が最も大切にしている製品の信頼性に基づくものであり、充分な許容入力をもたせ、かつオーバードライヴによりスピーカーが破損することに万全の対策を施したものだろう。スピーカーを破損させるようなアンプは絶対に作らないという同社の体質がここにも形を変えて現われている。
 24個のドームトゥイーターによるアレイは視覚的にも内容的にも、個のシステムの一大特徴といえる。これは、すでに述べたように高域のハイパワードライヴと低歪を達成する意味と同時に、もう一つ重要な意味がかくされているとマッキントッシュはいう。それが、真のステレオフォニック、つまり、3ディメンション・サウンドスペースを伝送することなのだ。選択され、特性のそろったユニットを、このように配置することと適切な位相補整回路を組み合わせ、タイムアライメントをとることにより、システムから放射される音の波状は、きれいに位相のそろった円筒状の波となり、きわめて良好な指向特性と平均したエネルギー分布が得られる。20Hz〜20kHzまでの帯域エネルギーが床から天井まで均等に拡散されることの効果は大きい。したがって、このスピーカーシステムのエネルギー密度は、距離の自乗に反比例して減少するのではなく、ただ距離に反比例するようになっている。こういうスピーカーは、それほど音量を上げなくても充分な音量感が得られることになるわけで、事実、正しいステレオフォニック録音のプログラムソースでは、馬鹿でかい音量にして聴かなくとも、豊かな空間感で満足させられるものなのだ。特にこのシステムの場合、1・5kHzという低いクロスオーバーを採用していることが注目に価する。2・5cm口径のドームトゥイーターに1・5kHz以上を受け持たせたところが(マルチユニットでこそ可能)ユニークである。マルチユニットというは、大抵の場合位相を乱し、定位の悪いシステムになりがちなのだが、これは例外的成功例といえるだろう。同一平面、同一垂直軸上に並べたところが成功の鍵といえそうだし、さらにこのトゥイーター・アレイに対するウーファーセクションの構成とタイムアライメントが実にうまくいっているようだ。また、IM歪の少なさは、まるでマルチ・アンプ駆動のようでこれだけ重厚な低音域でかぶり感がまったくないのが不思議なぐらいである。
 このようなシステムであるから、これは、販売店の店頭などで手軽に聴けるはずもない。その手のスピーカーとは生れも育ちも違う。価格もそれなりに高価だし、これこそ質の高い技術サービスの受けられる専門店の存在を必要とするし、質の高い愛好家によって真価を発揮するスピーカーシステムだといえるだろう。
 XRT20を完全に調整するのはそう簡単ではない。まず、設置は背面に壁がほしい。そして、コーナーにぴったり置かないことだ。幅が充分あれば、トゥイーター・アレイ2本を、それぞれ横幅の1/3の所にくるように設置し、その外側にウーファー・エンクロージュアを置く。こうすることにより、トゥイーター・アレイで3分割された壁面にステレオフォニックな空間が左の面、中央の面、右の面と拡がり、かつ、奥行きをもって再現されることになる。オペラのステージの立体感の再現など、まさに劇的といって誇張ではない素晴らしいものだ。もし横幅が充分でなければ、トゥイーター・アレイを外側にウーファー・エンクロージュアを内側に置いてもよい。別売りのMQ104というイクォライザーにより、部屋とその設置場所によるピーク・ディップを調整することは是非必要であり、おすすめしたい。この仕事は、1/3オクターヴバンドのピンクノイズ・ジェネレーターとキャリブレイトされたマイクロフォンとメーターで測定しながら行なうもので、専門家のサービスを要する。もちろん、自信のある方は御自分で試みられるのも面白かろうが、この仕事はかなりの経験と才能を要するだろう。下手に調整を行なうと台無しにする恐れもあり、そんな事なら、何もしないほうがよい場合もある。
 久々に素晴らしいスピーカーに接することができた。仕上げその他にマッキントッシュのアンプの次元と比較すると不満の残る点も少なくないが、この音を聴けば我慢しようという気にもなってくるから不思議なものだ。マッキントッシュの実力に脱帽である。

ペアで60万円〜120万円未満の価格帯の特徴(スピーカーシステム)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 国産・外国製共に、名実共に高級スピーカーシステムといえるものが、この価格ゾーンになるだろう。プロのスタジオ用モデルは別として、コンシュマー用は全部といってよいほど据置型のフロアーシステムであり、かなりの大型機が多い。半数ぐらいは、プロ用モニターシステムである。それも、外国製品が圧倒的に多い。60万円クラスで述べた趣味性はさらに高まり、このクラスとなると、ものは、その性能の可能性を誇り、使う人の才能、技術、経験を要求しはじめる。ユーザーの資格が問われるといってもよいであろう。ただお金があるから買うといったことがあってはいけない。ましてや、昨日今日オーディオに興味をもって、いきなり、このクラスのものを買い込むことは慎むべきだ。決してよい結果は得られないであろう。然るべきコンサルタントがいれば話は別であるが……。だからこそ、ステイタスにすりかえられることにもなるのであろう。

ペアで30万円〜60万円未満の価格帯の特徴(スピーカーシステム)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 この価格帯を展望した時の目立った傾向としては、外国製品の存在である。そして、フロアー型が多くなり、38cm口径級の大口径ウーファーをベースにしたマルチウェイが目立ってくる。マニア向けとしては決して高級クラスとはいえないが、ここまでくると、もう音楽は生活の伴奏ではなくなり、糧となる。大きさもかなりのものになってくるし、人は、正面からスピーカーと対峙する構えが必要だろう。特に国産品では最高級品の領域であるから、こうした性格が強い。外国製の場合は、どうしても割高となっているから別の捉え方が必要だろう。つまり、現地価格からして、このクラスが本格派への入門といったところである。かなりの個性派が多く、かなりの趣味性を満足させる似たる製品がずらりと並んでいる。人の感性や情緒の対象として、あるいは音楽表現の味わい、楽器の音色の色彩感や美しさに照らし合わせて云々するに足るものが増えてくるゾーンといえるだろう。

ペアで15万円〜30万円未満の価格帯の特徴(スピーカーシステム)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 このクラスになると、中堅製品とみてよいだろう。ブックシェルフシステムなら、もう限界といってよい大型のものから、フロアータイプのものまでが登場してくることになる。ウーファー口径も、大きいものは38cm径があるし、構成も、技術的特長も、変化に富んでくる。外国製の個性的な製品も多く入ってくるようだ。大ざっぱにみて、大型の本格派を、限られたコストの中で狙ったものと、独特な個性を技術的にも音的にも狙ったものに分けられる。前者は、この価格で大音量とスケール感を狙ったものだし、後者は味わいや個性といったクォリティを追求したものである。かなり技術的追求のおこなえるコストであるだけに、気の入った力作が多く注目される。音楽の表現や、色彩感に関与してくるといった趣味性が出てくるのである。相当〝うるさい〟人にも応えられる製品がある。いわば、本格派向きである。ブックシェルフとしては最高級品になる。

ペアで7万円〜15万円未満の価格帯の特徴(スピーカーシステム)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 7万円未満と7万円台では明確に線を引くべき根拠はない。大きく、7〜15万円という範囲を一把みにして考えるということでいけば、たしかに、一つの傾向を発見出来ることになるようだ。このクラスのスピーカーシステムは、開発の意図からして、音に感心のある趣味的な人を対象に考えているからである。ブックシェルフシステムがほとんどであるが、構成は、3ウェイシステムが圧倒的である。全体像として捉えると、中級スピーカーシステムということになるが、オーディオファンを対象とした場合に、この辺が、初心者、入門者向きの製品群とみるが妥当のように思う。コンポーネントシステムとして最も購買者層の厚い、いわゆる売れ筋の商品ということになるだろう。時々の音楽の流行や、音のファッションに左右されることの多い価格帯ともいえるし、店頭効果を狙ったものも多い。中にはオーソドックスなものもあり、もっとも混乱の激しいゾーンである。

ペアで7万円未満の価格帯の特徴(スピーカーシステム)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 7万円未満のスピーカーといっても、下限は1万円以下とその範囲は広い。12〜16cm口径のフルレンジスピーカーを一個内蔵した小型ブックシェルフシステムから、30cmウーファーをベースにした3ウェイシステムでかなり大型のブックシェルフまで、内容は多種多彩である。さすがに、大型フロアーシステムこそ含まれてはいないが、これらの製品群の最大公約数を見つけ出すことは難しい。しかし、ごく全般的にいって、このクラスは趣味性を満たすといえるものではないだろう。中に、際立って優れた傑作もないとはいえないが、それも、7万円に近い領域である。小型で、さり気なく使えるスピーカー、ベッドルームでのサブシステムとして、あるいは、音楽を生活の伴奏としてムーディに聴き流すといった向きの製品が、この価格ゾーンに存在すると考えて大きな間違いはないだろう。5万円未満は特にその傾向が強く小型システムがほとんどである。

フィデリティ・リサーチ FR-64fx

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 FR−64S/66Sのコンセプトを支軸にして、よりコンベンショナルで使いやすいユニバーサルなアームがこの64fxである。アーム材料はステンレスからアルミに変り、表面層を熱処理によりQダンプしている。中心部質量集中思想で作られ、総重量は重く実効質量は軽くというアーム設計になっている。全体はブラックフィニッシュで質感も美しく、加工精度も高い。精度の高いスプリングにより針圧をかけるダイナミック型。

EMT TSD15

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 このカートリッジでは、EMT独自のコネクター規格によるものだから、一般のトーンアームには取付けて使うことが出来ない。その場合にはXSD15を選ぶようになっている。同社のトーンアーム929か997と共に使うカートリッジだ。豊潤剛健な音質で、バランスは重厚で安定したものだ。デリカシーや透明度といった、軽量のコンプライアンス型では得られない充実したサウンドが好みの分れるところだろう。高貴な風格だ。

テクニクス SL-15

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 テクニクスが開発したSL−10を基盤に、さらに充実させ使いよくしたフルオート・プレーヤーシステムで、プレーヤーの世界に新しい一つの分野を開拓した、イージーハンドリングでハイパフォーマンスを狙ったもの。自動選曲は10曲までプログラム可能である。何から何までオートマティックに動作してくれる(レコード反転はしないが)便利さと、各パーツのクォリティがよくバランスした画期的なシステムである。

ビクター QL-Y7

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 プレーヤーシステムとしては、ビクターの現シリーズ中の最高モデルである。カートリッジはついていない。メカニズムはセミオートタイプで、電子コントロールのダイナミックバランスタイプのトーんー無をもつ。一種のサーボコントロールにより、アームの受ける機械的な不安定要素を制御して、安定したトレース能力と音質を得ている。FGサーボのコアレスDCモーターによるクォーツロック・ダイレクトドライブ方式。

マッキントッシュ MC2205

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 マッキントッシュのパワーアンプのシリーズ中の代表機種である。例のグラスイルミネーションパネルをもつアンプとして、現在のところ最大のパワーをもった製品だ。パワーガードサーキットにより、ノンクリッピングのドライブが可能で、伝統のアウトプットとランスの使用により、高効率、高信頼度をもっている。暖かく重厚な音の品位の高さはマッキントッシュアンプならではのもので〝価値ある製品〟といえる。

アキュフェーズ C-200X

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 高級アンプメーカー、ケンソニック社のデビュー作品としてC−200は生れた。第2世代としてC−200Sとなり、このC−200Xは第3世代にあたる。原形を踏襲しながら、パネルデザインもリファインされているが、内容的にも一新されたアンプである。きわめて高品位のコントロールアンプで、その滑らかで、豊潤なサウンドは第一級のものだと思う。品位、信頼性の点で、現在の国産製品の最高度のものだろう。

サンスイ AU-D707F

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 サンスイのプリメインアンプ群は、このAU−D707Fをもって代表機種とする。数年間にわたってリファインをしつづけてきた最新モデルは、フィードフォワード・サーキットによって、もっとも現代的なアンプとして生れかわった。伝統のブラックパネルの他に、Fシリーズになってからはシルバーパネルも用意されたが、その豊かで、充実したサウンドは、旧製品以来のよさを維持しながら、一段とフレッシュな瑞々しさを加えている。