Category Archives: トリオ/ケンウッド/ケンクラフト - Page 2

トリオ LS-100

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 トリオLS100はごく新しい製品で、トリオの永年のスピーカー作りの中で、最も成功した製品といえるだろう。25cmウーファーと4cmの平面型トゥイーターの2ウェイ構成で、キメの細かい繊細な味わいと、このクラスとしては最大級のスケールの大きさも十分に再現する表現力の大きなシステムである。このサイズから想像できない豊かな臨場感に溢れる音が楽しめる。

トリオ LS-202

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 トリオLS202は、中型システムのスケールに近いもので、ユニット構成は3ウェイ。ウーファーは25cm口径。スコーカー、トゥイーターもコーン型だ。リアリティのある、がっしりした再生音だが、時として表情が硬く、柔軟性、しなやかな質感の再生の点では、弟分のLS100に譲るようだ。しかし、音の密度の高さ、ワイドレンジの充実感では、第一級のシステム。

トリオ LS-100

井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 LS100は、コーン前面に放射状にリブをつけた25cmウーファーと口径4cm平面振動板トゥイーターを組み合わせたユニークな2ウェイ・ブックシェルフ型である。
 ウーファーは、リブドHAプレスコーンと名付けられた独自のコーンを採用している。従来からもトリオのスピーカーシステムは、低域ユニット用に損失が少なく軽量のコーンを使い、中音、高音と周波数が高くなると次第に損失の大きいコーンを採用するという、一般の手法とは逆のアプローチを見せた点に独自性があったが、今回も低損失、軽量のホットプレスコーンに、コーンと同一素材のリブを奇数個つけて軽量、高剛性のリブドHAコーンとし、インナー・ロスを追放したコーンのキャッチフレーズでその設計思想を表面に出している。トゥイーターは、断面が台形のアクリル樹脂振動板採用のプレーンラジェーターで、磁束密度は15、000ガウス、音圧レベル91dBの定格であり、2kHzクロスオーバーで使用される。
 エンクロージュアはバスレフ型で、ユニット間の振動クロストークを防ぐ独自の2重構造バッフル採用、ネットワークも素子間の電気的クロストークを防ぐ目的で、ネットワークを遠隔配置している。
 LS100は活気のある低域をベースに2ウェイ独特の細身ですっきりとした音が特長。低域は反応が速く質も高い。

トリオ LS-202

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 どちらかといえば細身のそしていくぶん骨張ったようなところのある音。ただし歪感は少なく、たとえばブルックナーの交響曲のような場合でも、積み重なりあった多様な音たちの響き合い溶け合う感じが、割合うまく出る。強奏でもやかましさのないのは、中〜高域がややおさえぎみであるせいだろうか。一見硬い音なのにその点はダイヤトーン(DS32B)と対照的だ。ただ、歌い手の声質によっては、ちょっと歯のすき間から音の洩れるような感じになる場合があり、それは、とぅいーたーと中音域との質的なつながりの問題、及びときとしてやや出しゃばりぎみに鳴るためらしい。けれどトゥイーターのレベルを一段下げると、絞りすぎて歯ランスがくずれる。また、レコードのスクラッチノイズに固有のピッチの感じとれるヒスがつきまとう点も、トゥイーターをことさら意識させる結果となっているようだ。以前聴いた試作機のときは、もっと滑らかでつながりの良い、なかなか素敵な音がしたが。

総合採点:8

●9項目採点表
音域の広さ:7
バランス:6
質感:6
スケール感:7
ステレオエフェクト:7
耐入力・ダイナミックレンジ:7
音の魅力度:7
組合せ:やや選ぶ
設置・調整:やや難し

トリオ LS-202

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 音楽の雰囲気をよく再現する製品だ。クラシックもジャズや、それぞれにそれらしい響きをまともに出すスピーカーは、ありそうでいて少ないものだ。このシステムは、すべての点でそこそこの中級のパフォーマンスを示す。25cmウーファーをベースとした3ウェイのオールコーン型という構成も、まさにミドルクラスを代表するものといってよい。真面目に作られたよい製品だと思う。難はトゥイーターで、時々細身の神経質な響きが顔を出す。ヴァイオリンは、なかなか繊細でしなやかな音をよく再生する。ピアノ一粒一粒の音に加えて、そのペダリングやホールのソノリティによる余韻の再現も美しいのだが、全帯域にわたってスムーズとはいいきれない。これはシャシュのソプラノにもいえることで、トゥイーターが、トゥイーターの音を聴かせてしまうことがある。高域のイズの出方にもこの傾向は出ているようだ。ドラムを聴いても、ブラシワークがシャキシャキしすぎるし、それにマスクされるのか、中域がやや薄くなる。

総合採点:8

トリオ LS-202

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 音像が大きめになる傾向がある。そのことと無関係とは思えないが、低い方の音には多少の誇張感があり、高い方の音のひびき方とのバランスからいっても、ふくらみすぎる。それに音色も、暗めだ。そのために、❶のレコードできけるような、鋭いリズムに支えられた多彩なサウンドの入りまじった音楽への対応は、このスピーカーとしては、はなはだ不得手ということになる。基本的には、個々の音のエネルギーの提示ということでいたらない点があるからと思う。うけとり方によっては、このランクのスピーカーとしては、いくぶん背のびしているというか、帯域の拡大をはかったためといえなくもないようだ。使い手が、周辺機材の選択に充分な配慮をしてはじめて、このスピーカーなりのよさが発揮できるのだろうが、今回の限られた時間内の試聴ではそこまでさぐりだすことができなかった。

総合採点:6

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(物足りない)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(物足りない)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(物足りない)

ケンウッド L-01A

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

鉄板などの磁性体による磁気歪の影響を徹底的に排除する目的で非金属製筐体の本体と独立した電源部というセパレート方式を採用した製品。従来より粒子が一段と細かく、整然と高品位な音が特長。

トリオ LS-202

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

振動分割型バッフル構造、独立配置型ネットワーク、新ホモゲン材エンクロージュアで優れた音場再生能力をもつ製品。

ケンウッド L-07D

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ディスクに刻まれた信号を100%確実に、正確に電気信号に高忠実変換することを開発の最重要事項として造られた高性能プレーヤーシステムである。
 プレーヤーベースは、高剛性防振を実現する目的で、新素材マホガニーコンプライトと剛性が高い素材を複合密着させた基礎部分に、硬質アルミフレーム、新ARCB材を重ねた異種材複合防振構造であり、ターンテーブルもアルミダイキャストにジュラルミンを圧入し、上面にステンレスプレートを加えた重量5・5kgの複合防線型である。
 モーターは、軸受オイルなどの温度変化や粘性変化による負荷変動に対し自動的に位相補償値を調整するダイナミックコンペンセーター内蔵のスロットレス・クォーツロックPLLサーボ型で、シャフト直径は12mm、軸受部はマグネフロート方式で荷重を軽減している。
 トーンアームは、航空機用硬質アルミラミネートパイプに炭素繊維とボロンファイバーを複合した6層構造、軸受部は超硬合金ピボット、ステンレス鋼軸、大型ベアリング採用で、アームベースは大型のコレットチャック式1回転0・1mmの高精度ヘリコイド高さ調整機構付。内線材は特殊純銅リッツ線使用、出力コードのコネクターはロックネジ付の新型で、従来の数倍の接触面横をもつ。Lシリーズ共通の緻密で整理された音だ。

ケンウッド L-01A

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 この製品はアンプとしての形態こそプリメインアンプではあるが、シャーシーやケースに非磁性化した筐体を採用し、電源部を分離して独立させ、マグネチックディストーションの低減を極限にまで追求した、セパレート型プリメインアンプであることが最大の特長である。
 現在のアンプは、新しい設計によるイコライザー段とかパワーアンプ部などのアンプブロックの基本的な性能が、新デバイスや部品の採用により極限まで高まっているため、その優れた性能をアンプというコンストラクションに組込んだ状態で十分に発揮できるようにするためには、内部の配置をはじめ、信号系、給電系、アースラインなどの配線を十分に検討する必要があるが、より一段と性能、音質を向上しようとすると、今度は筐体自体、内部のシールド板、ボリュウムやスイッチ類などの金属部分を含めた各種金属の信号系に及ぼす影響を避ける必要に迫られることになる。
 とくに、金属類では鉄などの磁性体金属が信号系にもっとも大きな影響を及ぼすことは、古く管球アンプ全盛時代から一部では常識とされていたことである。昨今、アンプの非磁性体化というテーマがあちこちで聞かれるようになったのは、この問題がクローズアップされてきたことを表しているわけだ。
 非磁性体は部品関係のボリュウムやスイッチ類で早くから採用されていたが、アンプの場合には外部からの電磁的、静電的な影響を受けやすいため、この両者をもっとも避けやすい鉄の使用は必要な条件でもあったのである。すでに一部にはかなり多くのアルミ系金属筐体を採用した製品が存在するが、開発当初から磁気的な歪みを低減する目的で非磁性体化を追求したのは、このL01Aが最初の製品である。
 L01Aでは、パネルやケースには合成樹脂系の材料や木を採用するとともに、巨大な鉄の固まりであり強力な磁力線を放出する電源トランスを別個に独立型とし分離させ、さらに、スイッチ類のケースの磁性体を取除くなど、ほぼ完全に非磁性体の目的を達成している。
 回路面では、従来からのハイスピード化やストレートDCの構想を受け継いでいるが、パワーアンプ部には、最近の動向を活かしたスイッチング歪やクロスオーバー歪を低減するために独自のダイナミックバイアス方式を新しく採用している。ヒートシンクには、大電力部の集中配置が可能で、電磁波の他信号系への影響が少ないなど多くの特長をもつ無酸素銅製ヒートパイプの採用されているのも目新しい。
 L01Aは、従来の明快なトリオの音に比べ、一段と鮮明で粒立ちが良く、整然とした音が特長で、オーディオ的な完成度は高い。

トリオ KA-80

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このトリオのKA80も、前号の組合せの時に試聴したアンプの一つで、その時なかなか好感をもったアンプだ。
 これは四万八千円という価格をかなり意識した上で、いわゆる内容本位、実質本位というか、細かなファンクションをできる限り整理して、必要最小限のファンクションでまとめて、そのぶんをおそらく音質向上に回したのではないかと思われる。例えば、このアンプにはフォノもスピーカーも一系統しかないし、MCヘッドアンプも入っていないし、ヤマハのA5などのようにMCヘッドアンプを内蔵していたものから見ると、いわゆるカタログ上のメリットは薄いが、それだけ割り切って中身を濃くしたアンプではないかということがうかがわれる。 もちろんそれはこのアンプを見た上での先入観ではなく、むしろ音を聴いた後に感じたことだ。
音質 このアンプの音というのはローコスト・アンプにありがちな、音の芯が弱くなったり、音の味わいが薄くなったりということが、比較的少ない。あくまでも四万八千円という価格を頭に置いた上での話だが、これは相当聴きごたえのある音を聴かせてくれたと思う。
 例えば、キングス・シンガーズのポピュラー・ヴォーカルのような場合でも、しみじみと心にしみ込むようないいムードを出してくるし、美しくハモる。そういうところが聴きとれて、ローコスト・アンプにしては、かなり音楽を楽しめる音のアンプだというように思う。このアンプは、他のトリオの上級機種とも多少共通点のあるところだが、いくらか音のコントラストを強くつけるというか、音が割に一つ一つはっきりと出てくる傾向がある。そこのところは多少好き嫌いがあるかと思う。
 たとえばストラヴィンスキーの「春の祭典」のフォルティッシモの連続のような部分では多少派手気味になり、金管もきつくなるように聴きとれる場合もあった。しかしそれが手放しの派手な方向へ走っていかないのはさすが。
 フォーレのヴァイオリン・ソナタの第二楽章なども、ヴァイオリンの音が若干細くなるが、フォーレ的ムードをきちんと出すというところもある。
 ただしやはりクラシックでもポピュラーでも、編成の大きなスケール感を要求するものになると、さすがにこのアンプでは、そこまではきちんと出してくれない。これは価格を考えれば、ある程度仕方のないことではないかというように思う。あくまでもこの価格としては、非常によくできたアンプだということが言える。
トーン&ラウドネス このアンプはフタを閉めると、ボリュームとインプット・セレクターだけ。フタを開けるとトーン・コントロールが現れる。トーン・コントロール、ラウドネス・コントロールともに、ビギナー向きというか、わかりやすいというか、つまりよく効くというタイプ。
 トーン・コントロールを操作する時には、そのわきにあるストレートDC、およびトーンという切り替えスイッチをトーンの方向に押すわけだが、トーン・コントロールを使った場合には、いま言った音の魅力がごくわずかに減るという感じ。ストレートDC、つまりトーン・コントロールが働かないようにストレート・アンプにしておいた方が、音が一層クリアーのように思う。
ヘッドホン それからヘッドホン端子の出力。これはかなり抑えめになっており、ヘッドホンで腹いっぱいの音量を楽しみたいという場合には、相当ボリュームを上げなくてはならない。
 言い替えればパワーアンプの飽和ギリギリの方向に持っていくことになるので、ヘッドホン端子にはもう少しタップリとした出力を出してくれた方がいいように思う。

★★

トリオ LS-202

トリオのスピーカーシステムLS202の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

LS202

トリオ KA-8300, KT-8300

トリオのプリメインアンプKA8300、チューナーKT8300の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

KA8300

トリオ KA-9900

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 トリオの最新のアンプの音──より正確にいうなら、前作KA9300あるいはKA7300D、その後あいついで発表されたL05/L07シリーズあたりを境にして──は、目指す方向がはっきりしてきた。トリオならではの性格が確信を持って表現されるようになった、とわたくしは思う。トリオのアンプだけがもっている独得の音。それはレコード、FM、テープどんなプログラムソースを聴いても、聴き手に生き生きとした感覚をつたえてくれる。同じレコードをかけても、その演奏自体がいかにも目鼻だちのクッキリして目がクリクリ動くような表情がついてくるように聴こえる。裏返していうと、音楽の種類によっては、ほんの心もちわずかといいながらも表情過多──という言葉を使うこと自体がすでにオーバーだが──と思わせる時がないでもない。しかし全体としてみると、音楽の表情を生き生きとつたえてくれるという点で、わたくしの好きな音のアンプといえる。このKA9900はそうしたトリオの最近の特徴をたいへんよく備え、セパレートL07シリーズにも匹敵するクォリティさえもつプリメインの高級機といえる。
 音を生き生きと、コントラストをつけて表現するためか、音の輪郭がはっきりしていて、それは時として、音が硬いかのように思わせる場合がある。このアンプを長期間、自宅で個人的にテストして気がついたのだが、他の多くのアンプと比べると、スイッチを入れてから音がこなれていくまでの時間が長く、その変化が大きい。長い時間音楽を聴けば聴くほど、音がこなれてきて、柔らかくナイーヴになって、聴き手をひきつける音に変化してゆく点が独特といえる。
 内蔵MCヘッドアンプの音もかなりグレイドが高く、オルトフォンMC30を使うと、E303に比べ少々ノイズが増すようだが、アキュフェーズとの5万円の価格差を考えれば優秀といってよい。かなり豊富なコントロールファンクションを備えているが、それぞれの利き方がたいへん適切で好ましく、中間アンプをバイパスしてイコライザーアンプとパワーアンプを直結したDCアンプ構成にしても音質の変化が少ないことから、中間アンプ自体の設計も優れていることを思わせる。あらゆる点から高級機らしさを備えているといえよう。
 しかしこのデザインは何とかならないものか。このパネル面を見ていると、自家用の常用機として毎日使おうという気がどうしてもおきない。マランツにしろアキュフェーズにしろ、出てくる音とアンプ全体の雰囲気はイメージ的に似ていると思うが、トリオは一種男性的な──若さゆえに粗野が許されるといった──イメージだが、出てくる音はナイーヴなエレガントな面ももっているのだから、外観にも音と同じくらいのデリカシーがほしい。

トリオ L-07C II, L-07M II

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 トリオは、アンプのハイエンド製品の開発には、主張テーマを明確に標榜し、そのテーマにもとづく物理特性を測定限界にまで追求することを開発のバックボーンとしているようだ。忠実な伝送増幅を目的とするアンプにおいて、この姿勢は絶対に正しいといえるだろう。しかし、オーディオの録音から再生までの複雑なプロセスにおける、相互的な複雑な依存性は、あたかも、人生における、がんじがらめのしがらみにも似て、これをトータルな音としてスピーカーから効果を上げることをことを考える時にはそう単純に、一元的にテーマを追求してすむものではないし、時としては部分的独走に終る危険性すらもっている。現在のようにコンポーネント各部が専門的に開発される情況においては、この傾向が時として総合的な音の効果を損ねることに連なるといえるだろう。また、コンポーネント相互の相性などといわれる問題の発生の要因となることも考えられるであろう。そしてまた、リスナーの嗜好との相性がこれにからんでくることを思えば、問題はますます複雑になるのである。専門メーカーとして長いキャリアと豊富な蓄積をもつトリオのことだから、この辺は先刻承知のはずで、そこを、試聴に重ねる試聴によって、試聴者の個性と感性と知性の限界はあっても、出来得る限り普遍性をもった「美しい音」の具現で埋めようと努力しているはずだ。現在のようにエレクトロニクス技術が高度に発達した時点でさえ、アンプによる音の違いがあるという原因の背景は、こうした事情によるものとしか思えない。素子と回路の追求やパーツの選択、配線やコンストラクションのちょっとした違いで音が変るという事実の上で、音の審美と価値感の決定にたずさわる人間の存在の重要性は、今後も失われることはないであろう。
L07MIIの特徴
 L07CII、L07MIIの標榜する技術テーマは、同社の、この数年来の追求テーマであるハイスピードアンプの実現であり、それは、100V/μs以上の波形の立上り傾斜、1μs以下のライズタイム、信号の正負両方向のレスポンスの同値と出力の大小による悪影響を受けないこと、リンキングなどの波形の乱れがないことなどである。これによって、全帯域にわたってアンプのダンピングファクターを出来るだけ一定化することにより、良質の音を得るというのが、主張の要旨である。こうして、L05M以来、スピーカーをダイレクトにドライブするという思想、その結果、当然2台のモノーラルアンプという形態のパワーアンプが登場し、それが、そのまま、このL07MIIにも受けつがれている。
L07CIIの特徴
 コントロールアンプL07CIIは、左右を極力独立したコンストラクションとし、出力インピーダンスは10Ω以下と低くとって、優れたトランジェント特性を持つ薄型のコントロールセンターである。L07CIIは、この他にも、MM、MC各独立型のイコライザーを内蔵し、各部品は高級なものを選び、細部にも徹底した神経の行き届いたマニアライクな製品となっている。必要な機能は完備したコントロールアンプではあるが、信号系路は音質重視設計でシンプルに構成されている。入力セレクターは、2イコライザーであるので、イコライザー通過後のフォノ1、2をチューナーやAUX端子とスイッチし、微少レベルでのスイッチ接点介在の害を防いでいるし、ボリュウムの選択や使い方にも細かい配慮がなされている。ミューティングリレーで出力をオン・オフにするスイッチを採用しているのも実用上合理的である。使い勝手のよいコントロールセンターといえる。
L07CII+L07MIIの音質
 その、ふくよかな音質も、品位の高いものだ。このコントロールアンプは、今回のテストでは単独では試聴しなかったが、すでに、いろいろな機会に単独試聴しているが、プレゼンスの豊かな、良質の再生音を聴かせてくれた。音像の定位や立体感の再現は、そのアンプのクォリティを物語るものといってもよいのだが、このL07CIIの再現するステレオフォニックな空間感覚は、まさに、そのハイクォリティを感じさせるものだ。
 ところが……ここからが、前述した、オーディオのしがらみになるのだが、今回の試聴では、どうしたわけか、♯4343をL07MIIでドライブした音からは、L07CIIのよさが、あまり感じられなかったのである。この稿では、あくまで、今回の試聴を中心にした音の印象記を述べなければならないのであるが、あまり、好結果は得られなかったのである。全体に、やわらかい、ソフトタッチの音のよさは感じられたけれど、率直にいえば、むしろ、もったりとした眠い音で、鮮烈な冴えのある音が出てこなかったのである。エネルギーバランスも、中高域に落ち込みが感じられ、拍手の音などが不自然であったし、ヴァイオリンの音色にも、冴えた鋭敏なところがなく、ハーモニックスの成分が、ずいぶん、常識的なバランスを欠いた響きであった。ジャズのビッグバンドのサックスセクションも前へ出てこなかったし、ベースも少々鈍重で、迫力を得るために、つい音量を上げると、響きがやかましくなるといった具合であった。日頃の試聴感と、今回のテストで、かなり大きく違いが出たことにあるが、このアンプは、どうも、コンポーネント相互の組合せによって結果が大きく変るような傾向があるらしい。

最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その18)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

     * 
 国産セパレートアンプでは、トリオの07/IIシリーズに、ずっと、音楽の表現力の豊かさという点で好感を持っていた。愛好家の集まりなど、行く先々でこれを用意してもらってよく鳴らすが、平均して性能も安定している。ところが、今回の試聴ではひとつ妙なことがあった。私の装置に07IIを接続して鳴りはじめ、むろんその音はすでに何度も聴き馴染んだいつもの音が聴こえていたのだが、立ち会っていた編集部のM君が、変だ変だと句碑をかしげるのである。理由を聞いてみると、今回のステレオサウンド試聴室でのテストでは、07IIの音があまり芳しくなくて、日頃07IIを指示していた菅野氏らも、今回の結果に首をひねっていたという。そこから話が発展して、それでは試聴に使った07IIと、別の同じ機種と二組集めて、わたくしの家で比較してみようということになった。翌日早速、前日と同じ条件で、つまり編集部でのテストと同様にあらかじめ三時間以上電源を入れておいて、しかも入力信号を加えて十分に鳴らし込んだ状態で、二組の07IIを比較してみた。しかし結果は前日同様、どちらもとてもよい音がしたし、むしろこの試聴によって、07IIの製造上のバラつきがたいへん少ないことさえ証明された。
 そうなると、同じ機種が試聴の条件によってそれほど違った音を聴かせるという理由は何だろうと疑問が残る。試聴室の音響特性の違い、というのはまず誰でも思いつく。けれど、こういう皮革を何十回となく過去に繰り返してきた本人として、そういう違い、つまり試聴室の差はおろか、試聴するスピーカーやカートリッジやレコードが変ったとしても、少し時間をかければまず正しく掴むことができることを、体験から断言できる。
 しかしそうなると問題は少しも解決しない。いったいどういうことなのか。
 ひとつ言えることは、一台のアンプを、鳴らす条件が変ってもひとりの人間が操作するかぎり、前述のようにその結果は大局において相違はない。けれど、仮に扱う人間が変れば、ボリュウムコントロールのセッティングひとつとってみても、鳴ってくる音には意外な違いの出ることがあることを、これも体験的にいえる。音量もまた音質のうち、なのである。むろん原因はそれひとつといった単純なものではないが、ただ音量のセッティングひとつとってみても、微妙に音質の違いが生じるとすれば、アンプを操作するオペレーターが変れば、アンプにかぎらずオーディオ機器は別の鳴り方をする。同じカメラで同じ場面を撮影しても、半絞りの差でときとして色彩のニュアンスに大きな違いのあることがある。音もまた同様だ。
 だからといって、前述の差を、単に扱い方の問題ひとつに帰してしまうのもまた短絡的すぎる。本当のところ、どういう理由またはいかなる原因で、同じアンプの音が違って鳴るのかは、まだよくわかっていない。ただ、そういうことは珍しくないという事実は、テストの数を重ねた人間は日常体験している。なぜかよくわからないが、たしかに違った音で鳴る。この問題は、今後大いに追求する必要のある重要なテーマだろうと思う。

トリオ LS-202

井上卓也

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 トリオのスピーカーシステムは、完全密閉型全盛時代にも軽量級コーンを採用するなど、かなり独自の構想による開発をおこない、オリジナリティの豊かな点に特長があるが、今回発売された新製品は、コーン型ユニットで構成する25cmウーファー使用の3ウェイシステムである。
 ウーファーは、アコーディオンエッジと新開発のホットプレス製法によるコーン紙を使用し、10cmスコーカーは、センターサポート方式、4cmトゥイーターは、特殊制動剤使用によるエッジレス型となっているところが特長である。
 バッフルボードは、ユニット間の振動による機械的なクロストークを避ける目的でスコーカーとトゥイーターはサブバッフルにウーファーからの振動を抑えて固定する2層構造・分離型と名付けられた特殊な構造を採用し、ネットワーク関係からの電気的クロストークはコイルの独立配置などでユニット間の干渉を防止している。
 LS202は、各ユニットの固有の共鳴音が巧みにコントロールされ、システムとしてのつながりは、レスポンス的にも音色的にもスムーズである。聴感上での周波数レスポンスは、とくにワイド型ではないが滑らかに伸びており、クリアーでシャープな音を聴かせる魅力がある。

トリオ LS-202

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 今までの同社のスピーカーとは全く開発の姿勢が変り、抜けのいい力のある豊かな弾力性に富んだ低音を再生する25cmウーファーをベースにした、スケールの大きな再生音の得られる3ウェイブックシェルフの最新作。大音量再生に十分応えることができるワイドレンジ型だ。

トリオ KA-9900

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ハイスピード化をポリシーとするトリオ最高級のプリメインアンプである。ライズタイム0・8μS、スルーレート±230V/μSの驚異的性能とストレートDCスイッチ、多段切替のラウドネス、MCヘッドアンプなどフル機能を備える。中域がソリッドで充実しパワフルでスケールの大きなダイナミックな音である。

トリオ KA-8300

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ハイスピード、ストレートDCなどのトリオ最新の技術を活かし、MCヘッドアンプを装備したハイスピードシリーズアンプの新製品である。初段超低雑音FET使用のDC構成イコライザ㈵、利得0dBの位相反転をしないトーンコントロール、それに高利得型DCパワーアンプの3ブロック構成を採用し、AUX、TAPE入力からスピーカー出力端子までを完全にDC化できるストレートDCスイッチを傭えるのが特長である。この目的のために0dB利得のトーンコントロールが意味をもつことになる。なお電源はダイナミッククロストーク追放の左右独立型。

トリオ KP-7070

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 KP7700でクォーツロックPLL方式を初めて導入し、フォノモーターの性能の高さで注目を集めたトリオが、今回はトーンアームの改善に重点を置き、かつコストダウンを計った新製品である。マニュアル操作、カートリッジレスは従来と同様で、サーボ検出部にメカニカル積分方式180スロット3層ギヤを、ターンテーブル回転速度を直接電圧変換するS−V方式、さらに±両方向にサーボが動作するリバーシブルサーボ回路をもつDC型モーターと重量2・6kgの重量級ターンテーブルを組み合わせている。トーンアームは、直径90mmのダイキャストアームベースを直接ARBC材使用のプレーヤーベースに固定し充分な機械インピーダンスを確保、ウェッジチャック式アーム固定法、BSBM材サンドイッチパイプ支持など多くの特長があり、トータルバランスではKP7700を上廻る魅力がある製品と思われる。

トリオ KT-9900, L-07TII

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 KT9700ではじまったパルスカウント検波方式を採用した、一連の製品のトップランクに位置づけされる新製品である。従来の技術を基盤とし、このモデルではさらに、IF段や検波段を含めてオーバーオールの歪を検出し、歪最少点で同調周波数をロックするDDL機構、高周波特性を大幅に改善するショットキーダイオード使用のバランスドミキサー、一段と改良されSN比を向上したパルスカウント横波などが採用されている。フロントエンドはバッファー付発振器内蔵FM専用9連バリコンとダブルバランスドミキサー使用、IF増幅段の帯域3段切替、サンプリングホールドMPXによりセバレーションを改善したMPX部、60Ωの超低出力インピーダンスをもつオーディオアンプ、90dBfまで直線的に動作する信号強度計、2系統のアンテナ切替スイッチ、2段切替のミューティングなど数多くの特長を備えた大型の高級FM専用チューナーだ。
 この他に07シリーズのペアチューナーとして開発された薄型のFM専用機L07TIIも発売されている。局部発振器内蔵7連バリコンとRF部DD・MOS型FET、ミキサー部MOS型FET使用のフロントエンド、IF帯域2段切替、ダブルコンバート方式IFとパルスカウント検波、オペレーショナルアンプ使用のオーディオアンプ、リレー式ミューティング、80dBまでリニアな信号強度計などが特長。

トリオ L-07C II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
特集・「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 こんにちの精度の高い各種の測定器及びそれを駆使しての測定技術の範囲内で、特性を良くするというだけではもはや現代のアンプを作るには不充分だということは、第一線のエンジニアの等しく認めるところだ。測定技術ではもはや追うことのできなくなったところから先で、回路構成や部品の配置やパーツ自体を変更して、聴いてみると明らかに音が違ってきこえる。耳ではその違いが聴き分けられるのに、測定器ではその差が掴めない。アンプの入力端子から出力端子までの何十、何百という箇所で、どこひとつ変えても、その差はきわめて微妙であるにしろ音が変る。どちらがよいのか測定データには出てこないのだから、もはや客観的にきめる方法はない。
 日本の凝り性のマニアだけがこんなことを言っているわけでは決してない。たとえばマーク・レビンソンも、彼のプリアンプは測定で差の掴めなくなってからあと、約二年以上は聴感を頼りに音質に磨きをかけて市場に送り出した、と言っている。しかもなおその後も、彼は着々と小改良を怠らない。
 そういうプロセスを終るのだから、アンプの音の仕上げには、その音を判定するヒアリングテスターのセンスが反映される。しかしまた、聴いた結果さらにこういう方向に音質を向上させたいという要求、回路技術で正しく応えられなくては、良いアンプは生み出せない。感覚と技術の絶妙にバランスしたポイントでこそ、優れたアンプが生み出される。
 トリオというメーカーが、そうした意味でほんとうに聴感と技術のバランスポイントを探りあてたのは、プリメインアンプのKA7300D以後だと私は思う。それ以前のKA9300にすでにその芽生えはあったが、まだ完成の域に達していない。やはり7300D以後、真の意味で音楽を愛好する人々の心をとらえる音で鳴りはじめたといってよいだろう。
 セパレートタイプでは、L05Mからようやく、KA7300Dの延長線上にあるナイーヴでバランスがよく、音楽の表情をとても生き生きと聴き手に伝える音が鳴りはじめた。05M以前に作られた07シリーズの改良が強く望まれた。
 しかし07シリーズは、音質ばかりでなくデザイン、ことにコントロールアンプのそれが、どうにも野暮で薄汚かった。音質ばかりでなく、と書いたがその音質の方は、デザインにくらべてはるかに良かったし、そのために私個人も多くの愛好家に奨めたくらいだが、ユーザーの答えは、いくら音が良くてもあの顔じゃねえ……ときまっていた。そのことを本誌にも書いたのがトリオのある重役の目にとまって、音質について褒めてくれたのは嬉しいが、デザインのことをああもくそみそに露骨に書かれては、あなたを殴りたいほど口惜しいよ。それほどあのデザインはひどいか、と問いつめられた。私は、ひどいと思う、と答えた。
 その07シリーズがマークIIに改良された。パワーアンプの外観の印象は変らないが、コントロールアンプは、ツマミなど基本の配置は大幅に変っていないのに、イメージは大幅に一新されたと思う。まだ満点とはゆかないが、これなら、レコード愛好家も手もとに置く気に十分になれることだろう。
 音質については、この価格帯では一頭地を抜いて、音の量感や力強さと、繊細でナイーヴな印象とが巧みにバランスしていて、何よりも音楽を生き生きと蘇らせる点が素晴らしい。なお、今回の選定では惜しくも入賞を逸したが、パワーアンプ07M/IIも、むしろ07C/IIを上廻る出来栄えだと私個人は信じている。
 07C、07Mとも、鳴らしはじめて時間のたつにつれて、いっそう滑らかな音に仕上ってくる点は、SAEなどによく似ている。

トリオ KT-8300

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 2年前にKT9700に使用されたパルスカウント検波方式を採用したKA8300のペアチューナーである。パルスカウント方式の特長を活かすためIF段は第1IF10・7MHz、第2IF1・96MHzのダブルコンバート方式を採用。FM専用5連バリコンとデュアルゲートMOS型FET使用でサーボロック付のフロントエンド、IF帯域幅2段切替、パイロットキャンセラー付MPX部などに特長がある。

トリオ KP-7700

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)

特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より

●オルトフォンMC20で聴く
 声はなめらかだ。すっきりしている──といえないこともないが、力強い音に対しての反応で、幾分ものたりないところがあるので、すっきりとしているよさがいかしきれないというべきだろう。

●デンオンDL103Sで聴く
 ここでのきこえ方は、デンオンDL103としては、異色だった。ひびきは他のふたつのカートリッジの場合より、前にはりだした。その分だけ積極的になったということもできなくはない。

●シュアーV15/IVで聴く
 誇張感のないことはよしとすべきだろう。ただ、音像が総じて奥まってしまう。敢ていえば弱さが、気にならなくもない。声とオーケストラの、きこえ方のバランスは、きわめて特徴的で、声は後方からきこえた。