トリオ L-07C II, L-07M II

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 トリオは、アンプのハイエンド製品の開発には、主張テーマを明確に標榜し、そのテーマにもとづく物理特性を測定限界にまで追求することを開発のバックボーンとしているようだ。忠実な伝送増幅を目的とするアンプにおいて、この姿勢は絶対に正しいといえるだろう。しかし、オーディオの録音から再生までの複雑なプロセスにおける、相互的な複雑な依存性は、あたかも、人生における、がんじがらめのしがらみにも似て、これをトータルな音としてスピーカーから効果を上げることをことを考える時にはそう単純に、一元的にテーマを追求してすむものではないし、時としては部分的独走に終る危険性すらもっている。現在のようにコンポーネント各部が専門的に開発される情況においては、この傾向が時として総合的な音の効果を損ねることに連なるといえるだろう。また、コンポーネント相互の相性などといわれる問題の発生の要因となることも考えられるであろう。そしてまた、リスナーの嗜好との相性がこれにからんでくることを思えば、問題はますます複雑になるのである。専門メーカーとして長いキャリアと豊富な蓄積をもつトリオのことだから、この辺は先刻承知のはずで、そこを、試聴に重ねる試聴によって、試聴者の個性と感性と知性の限界はあっても、出来得る限り普遍性をもった「美しい音」の具現で埋めようと努力しているはずだ。現在のようにエレクトロニクス技術が高度に発達した時点でさえ、アンプによる音の違いがあるという原因の背景は、こうした事情によるものとしか思えない。素子と回路の追求やパーツの選択、配線やコンストラクションのちょっとした違いで音が変るという事実の上で、音の審美と価値感の決定にたずさわる人間の存在の重要性は、今後も失われることはないであろう。
L07MIIの特徴
 L07CII、L07MIIの標榜する技術テーマは、同社の、この数年来の追求テーマであるハイスピードアンプの実現であり、それは、100V/μs以上の波形の立上り傾斜、1μs以下のライズタイム、信号の正負両方向のレスポンスの同値と出力の大小による悪影響を受けないこと、リンキングなどの波形の乱れがないことなどである。これによって、全帯域にわたってアンプのダンピングファクターを出来るだけ一定化することにより、良質の音を得るというのが、主張の要旨である。こうして、L05M以来、スピーカーをダイレクトにドライブするという思想、その結果、当然2台のモノーラルアンプという形態のパワーアンプが登場し、それが、そのまま、このL07MIIにも受けつがれている。
L07CIIの特徴
 コントロールアンプL07CIIは、左右を極力独立したコンストラクションとし、出力インピーダンスは10Ω以下と低くとって、優れたトランジェント特性を持つ薄型のコントロールセンターである。L07CIIは、この他にも、MM、MC各独立型のイコライザーを内蔵し、各部品は高級なものを選び、細部にも徹底した神経の行き届いたマニアライクな製品となっている。必要な機能は完備したコントロールアンプではあるが、信号系路は音質重視設計でシンプルに構成されている。入力セレクターは、2イコライザーであるので、イコライザー通過後のフォノ1、2をチューナーやAUX端子とスイッチし、微少レベルでのスイッチ接点介在の害を防いでいるし、ボリュウムの選択や使い方にも細かい配慮がなされている。ミューティングリレーで出力をオン・オフにするスイッチを採用しているのも実用上合理的である。使い勝手のよいコントロールセンターといえる。
L07CII+L07MIIの音質
 その、ふくよかな音質も、品位の高いものだ。このコントロールアンプは、今回のテストでは単独では試聴しなかったが、すでに、いろいろな機会に単独試聴しているが、プレゼンスの豊かな、良質の再生音を聴かせてくれた。音像の定位や立体感の再現は、そのアンプのクォリティを物語るものといってもよいのだが、このL07CIIの再現するステレオフォニックな空間感覚は、まさに、そのハイクォリティを感じさせるものだ。
 ところが……ここからが、前述した、オーディオのしがらみになるのだが、今回の試聴では、どうしたわけか、♯4343をL07MIIでドライブした音からは、L07CIIのよさが、あまり感じられなかったのである。この稿では、あくまで、今回の試聴を中心にした音の印象記を述べなければならないのであるが、あまり、好結果は得られなかったのである。全体に、やわらかい、ソフトタッチの音のよさは感じられたけれど、率直にいえば、むしろ、もったりとした眠い音で、鮮烈な冴えのある音が出てこなかったのである。エネルギーバランスも、中高域に落ち込みが感じられ、拍手の音などが不自然であったし、ヴァイオリンの音色にも、冴えた鋭敏なところがなく、ハーモニックスの成分が、ずいぶん、常識的なバランスを欠いた響きであった。ジャズのビッグバンドのサックスセクションも前へ出てこなかったし、ベースも少々鈍重で、迫力を得るために、つい音量を上げると、響きがやかましくなるといった具合であった。日頃の試聴感と、今回のテストで、かなり大きく違いが出たことにあるが、このアンプは、どうも、コンポーネント相互の組合せによって結果が大きく変るような傾向があるらしい。

Leave a Comment


NOTE - You can use these HTML tags and attributes:
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください