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ダイヤトーン 2S-305

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 2S305は昭和33年に完成されたスピーカーシステムで、実に20年の歴史をもっている。これほど長期間にわたって存続しえたということは、やはりそれなりに大きな力を備えていたということで、その輝かしい経歴だけでも〝ステート・オブ・ジ・アート〟の名にふさわしい製品だと思う。
 しかも、この2S305は、最も日本を代表する一つの個性をもっているのである。私の友人であるアメリカ人は、2S305を評して、アメリカにない音、決して欧米のスピーカーの代用品ではない音で素晴らしいスピーカーだという。私自身もそう思う。確かにキメの細かい、いかにも日本人が真剣に追求して完成させた音をもつスピーカーである。
 ご承知のように、この2S305は放送用のモニタースピーカーとして開発された、シンプルな構成による2ウェイシステムである。30cmウーファーと5cmコーン型トゥイーターというユニット構成で、クロスオーバー周波数は11、500Hzにとられ、音質を害する要素をできるだけ省略する意味で最もシンプルなクロスオーバーネットワークで構成されているのである。つまり、ウーファーとトゥイーターの能率は、ユニット開発時点で合わせてあり、しかもウーファーにはメカニカルフィルターが内蔵されている形で高域が自然減哀し、トゥイーター側はコンデンサーにより−6dB/octで低域を切っているだけなのである。このように単純明快な構成が採用された理由は、あくまでも放送用モニターとしての位相ズレがないこと、音像定位が明瞭であること、そして低歪率化 フラットレスポンス化など、厳しい条件を満たさなければならなかったからである。
 エンクロージュアは、約170ℓの内容積をもつバスレフ型で、音の回折現象による周波数特性上のピーク・ディップを極力少なくする意味で、エンクロージュア前面の両サイドに丸味がつけられている。表面は濃茶のカバ仕上げとなっており、大変に美しく、特に両サイドのRの部分は、完全に手づくりによって仕上げられるという、まさに日本を代表する質の高い堂々たるスピーカーシステムとなっている。
 この2S305も、開発当初から比べて徐々に改良が加えられ、現在のプログラムソースに適合できるスピーカーシステムになってきている。しかし、音質の傾向が全く異なった方向にそれたわけではなく、あくまでも初期の製品からもっていた明快なバランスのよい音という伝統を受け継ぎながら、より緻密さと洗練された味わいが加わったのである。以前のスピーカーがもっていた高域の鋭さが抑えられ、よりスムーズな滑らかな音になり、低域もより豊かさを増してきたように感じられるのだ。
 三菱電機は、総合電機メーカーでありながら、かなり以前からスピーカー部門において常に一貫した情熱を持ち続けてきている、数少ないメーカーである。P610という6インチ半のモニタースピーカーの傑作、2S305のあとで開発された、やはり放送用のモニターの小型版2S208、そして数多くのコンシュマー用スピーカーシステム、最近発表された4S4002P、AS3002P、2S2503Pなど一連のプロフェッショナルシリーズなど、数えきれないほど多くのスピーカーシステムを世に送り出してきたわけであるが、そのダイヤトーンの長い歴史の中で、トップモデルとして最も安定した評価を得たのは、やはりこの2S305だろう。ダイヤトーン自身もそれを理解しているのか、先ほども述べたように、この2S305を大事にいつくしみながら主張を曲げずに洗練しつづけてきたことが、これだけ長い間存在しつづけてこられた理由ともなっており、また信頼性をかち得た理由でもある。おそらく、このスピーカーを座右に置いて自分の好みとして使わない人でも、この2S305が〝ステート・オブ・ジ・アート〟として日本のスピーカーの代表として選ばれたことに異論をはさめないのではないだろうか。そうした一つの存在の力というものを万人が納得せざるを得ないような形でもっていることが、まさに〝ステート・オブ・ジ・アート〟にふさわしい製品ということなのである。

JBL 4343

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 JBL社のことについては、D44000パラゴンや4350のところで述べたのでここでは省略するが、この4343も、4350と同様にプロフェッショナルシリーズのスタジオモニタースピーカーである。そして、JBLのスピーカーシステム開発の基本的思想に貫かれ、ここでもやはり4ウェイ構成が採用されている。
 ユニット構成は4ウェイ4スピーカーで、ここでは低域用ウーファーは38cm口径のユニット一本となっており、300Hz以下の音域を受け持たせている。300Hz〜1、250Hzの音域を受け持つミッドバスユニットは25cm口径のコーン型、1、250Hz〜9、500Hzの音域を受け持つトゥイーターは2420ドライバーにエクスポーネンシャルホーンと音響レンズの組合せ、9、500Hz以上の音域は2405ホーン型スーパートゥイーターに受け持たせている。これらのユニットはすべてアルニコ㈸マグネットを採用し、ボイスコイルにはエッジワイズ巻きのリボンボイスコイルが採用され、厳格なプロフェッショナル規格に基づいてつくられたものである。特に中低音域を受け持つミッドバスユニットは、この4343のために新しく開発されたもので、磁束密度10、000ガウス、重量2・9kgの強力なマグネットアッセンブリーを持っており、この4343の音質の向上に大きく寄与しているのである。ミッドバスユニットを省略すれば、当然3ウェイのスピーカーシステムになるわけだが、それが4333Aというスピーカーシステムになり、さらにトゥイーターを省略したものが4331Aと考えてよい。つまり、この4343で使用されている各ユニットは、お互いに非常に広い再生周波数帯域をもち、実際に受け持っている帯域以上の帯域を十分に再生することが可能な、優れたユニットなのである。その優れた四本のユニットを、最もそのユニットが能力を発揮することのできる音域別に4ウェイに分割し、全帯域の再生音の密度を高めようとしているところが、いかにも緻密なサウンドを再生するJBLらしいスピーカーのつくり方であり、設計思想だと思うのである。
 そういう意味で、この4343は非常に緻密な音を聴かせてくれるスピーカーなのである。とにかくきちっと帯城内に音が埋まり切っているという感じの再生音で、どこかにピーク・ディップがあるようには感じられない。このスピーカーは、まさに現在のスピーカーシステムの最高水準の再生クォリティを示してくれる製品だと思う。さらに、家庭内でも使い得るぎりぎりの大きさにまとめられており、実際にスタジオの中で使うということになれば、4350ぐらいの大きさになると相当の制約を受けることになり、この大きさはその意味でも手頃なものといえるだろう。W105・1×H63・5×D43・5cm、内容積159ℓという、比較的奥行きの浅いエンクロージュアに収められているわけだが、エンクロージュアの大きさをぎりぎりのところで制限しながら、これだけスケールの大きな豊かな音を再生させることに成功しているということは、やはり現代を代表するスピーカーの一つといってもよいと思うのである。
 この4343のもう一つの特徴は、内蔵のクロスオーバーネットワークを使用して鳴らせることの他に、二台のパワーアンプによるバイアンプリファイアードライブが可能なことである。4350の場合と同様に、本来ならばこのバイアンプリファイアードライブで再生すべきなのかもしれないが、しかし、とりあえずは内蔵ネットワークを使って一台のパワーアンプで鳴らしても、相当ハイクォリティな音が再生できるのである。そういう意味からいえば、上級機種の4350よりは使いやすいといえるし、その4350とともにこの4343も〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれたというのは、十分に納得できることなのである。

JBL 4350AWX

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 JBLは、アメリカにおけるスピーカー開発の歴史の主流を継承しているメーカーである。その技術の根源は古くはウェスタン・エレクトリックにまでさかのぼるわけだが、そこから派生したメーカーには他にアルテック・ランシングがある。この由緒正しい血統をもつアメリカの代表的スピーカーメーカーであるJBLは、本来はコンシュマー用の高級品のみを製造してきたメーカーであったが、近年になって、プロフェッショナルシリーズとして、その高い技術を生かし、スタジオやホールなどで使用するための業務用スピーカーシステムを手がけるようになった。
 そのプロフェッショナルシリーズの最高級機として存在しているのが、この4350である。このスピーカーの特徴は、同社のスピーカーに対する思想をはっきりとした形で具現化しているところにある。その思想とはどういうものかといえば、先に述べたウェスタン・エレクトリック、アルテック、JBLという一つの流れの中で、アルテックは2ウェイというものに主眼をおいたスピーカー開発を一貫して進めてきたのに対し、このJBLはマルチウェイシステムということに開発の基本姿勢をおいてきたということである。もちろんJBLには2ウェイのスピーカーシステムもあり、フルレンジユニットもある。しかし、本来のJBLの高級スピーカーシステムは、3ウェイ、4ウェイというマルチウェイシステムにあると思うのである。
 現在の同社のトップモデルは、プロフェッショナルシリーズの4ウェイシステムである4350である。この4ウェイシステムは、同社の長年のスピーカーづくりの過程の中から必然的に生まれてきたものである。ユニット構成は4ウェイ5スピーカーで、低域用ウーファーは、38cm口径のユニットを2本使うダブルウーファー方式が採用され、250HZ以下の音域をマルチアンプドライブ方式で駆動するように設計されている。250Hz以上の周波数帯域は内蔵のネットワークにより帯域分割されているが、250Hz〜1、100Hzの帯域を受け持つミッドバス・ユニットは30cm口径、1、100Hz〜9、000Hzの帯域を受け持つトゥイーターには2440ドライバーとエクスポーネンシャル型のショートホーンと音響レンズの組合せ、9、000Hz以上の音域は2405というホーン型スーパートゥイーターという、現在の同社を代表する最高級ユニットで構成されているのである。エンクロージュアのサイズはW121×H89×D51cmで、内容積は269ℓ、重量は110kgである。このような超弩級システムは、おそらくメーカーがある程度大量生産できるシステムとしては最大のものであろうし、最もスケールの大きなものといってよいだろう。
 また、各ユニットの配置や材質、機能は、プロフェッショナルシステムとして十分な配慮がなされているrとも特徴である。JBLのスピーカーは、ユニットそのものが大変に美しいデザインと仕上げがされているために、バッフルボードの上に整然とそれらを並べただけで、自ずと一つの風格を醸し出してくれるというところがある。そしてさらに、この4350AWXは、鮮やかなブルーのバッフルボードが採用されているのである。これには私はやはり相当のしゃれっ気を感じるのだ。バッフルボードをブルーに塗るというセンスそのものが、ただものでないことをいみじくも表現しており、相当に計算された緻密なスピーカー造りがなされているなと感じさせるのである。業務用であるならばバッフルボードや表面の仕上げは、黒であろうが白であろうが、あるいはブルーであろうが、かまわないではないかといってしまえばそれまでだが、やはりスピーカーを見る人間を、あの鮮やかなブルーのバッフルボードと最高級ユニットで引きつけてしまわずにおかないということは、無視することのできない重要な要素だろうと思うのである。
 しかし、この4350は本来業務用のシステムであり、大きな可能性をもってはいるが、誰が使ってもよく鳴るというスピーカーではない。むしろ使い手の能力さえテストされるほどの実力を内に秘めたシステムなのである。

ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn

瀬川冬樹

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
特集・「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 つい最近、おもしろい話を耳にした。ロンドン市内のある場所で、イギリスのオーディオ関係者が数人集まっている席上、ひとりの日本人がヴァイタヴォックスの名を口にしたところが、皆が首をかしげて、おい、そんなメーカーがあったか? と考え込んだ、というのである。しばらくして誰かが、そうだ、PA用のスピーカーを作っていた古い会社じゃなかったか? と言い出して、そうだそうだということになった──。どうも誇張されているような気がしてならないが、しかし興味深い話だ。
 ヴァイタヴォックスの名は、そういう噂が流れるほど、こんにちのイギリスのオーディオマーケットでは馴染みが薄くなっているらしい。あるいはこんにちの日本で、YL音響の名を出しても、若いオーディオファンが首をかしげるのとそれは似た事情なのかもしれない。
 ともかく、ヴァイタヴォックスのCN191〝コーナー・クリプシュホーン・システム〟の主な出荷先は、ほとんど日本に限られているらしい。それも、ここ数年来は、注文しても一年近く待たされる状態が続いているとのこと。生産量が極めて少ないにしても、日本でのこの隠れたしかし絶大な人気にくらべて、イギリス国内での、もしかしたら作り話かもしれないにしてもそういう噂を生むほどの状況と、これはスピーカーに限ったことではなく、こんにち数多く日本に入ってくる輸入パーツの中でも、非常に独特の例であるといえそうだ。
 本誌16号(昭和45年秋)の海外製品紹介欄に、その頃初めて正式に入荷したCN191を山中敬三氏が解説された記事の中にもすでに「……現在は受注生産の形でごく限られた数量のみが製作され、本国のイギリスでもその存在は一般にはあまりしられていないようだ。」とあるとおり、当時すでに製造中止寸前、いわば風前の灯の状況にあったものを、日本からの突然の要請によって生産を再開したという事情がある。そしてこれ以後は絶えることのない注文のおかげで、製造中止をまぬがれながら、こんにちまでほとんど日本向けのような形で生産が続けられているのである。ましてその後新しい製品の開発が全くないのだから、イギリス国内で忘れられた存在であっても不思議とはいえない。
 ヴァイタヴォックス社は、一九三二年にロンドン市ウェストモーランド・ロードに設立された。トーキー用などプロフェッショナル関係のスピーカーをおもに手がけて、一時はウェストレックス、RCA、フィリップス等のイギリス支社に、プロ用スピーカーをそれぞれ納入していた実績もある。
 CN191の別名「クリプシュホーン」は、アメリカの音響研究家ポウル・クリプシュが一九四〇年に設計したコーナー型フロントロード・ホーン・エンクロージュアを低音用として採用しているところから名づけられている。そして500Hz以上は、3インチという口径の大きなダイアフラムを持つウェストレックス型のホーンドライバーS2に、CN157型ディスパーシヴホーンを組合せて、2ウェイを構成している。エンクロージュアはクリプシュを基本としてV社独自の改良が加えられ、独特の渋い意匠とすばらしい音質を生んでいる。
 この音質は、古い蓄音機の名機の鳴らす音に一脈通じるように、こんにちの耳にはとても古めかしく聴こえるが、気品に満ち、精緻で量感豊かな音は、新しいスピーカーに求めることのできないひとつの魅力といえる。
 ただ、クリプシュ・コーナーホーンはその構造上、設置される部屋のコーナーの、システムを囲む両壁面と床面とが、できるかぎり堅固な構造であることが、必要。まなコーナー設置のために部屋のプロポーションやリスナーとの関係位置が大きく制約されるというように、条件が整わないと本来の良さが発揮されないという点が一般的ではない。

ヤマハ NS-590

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 トールボーイ型の独特なプロポーションをもつNS890の系統を受け継いだヤマハの新製品である。構成は3ウェイタイブで、30cmウーファーは1000M系のマルチコルゲーション入りコニカル型のコーン紙とエッジワイズ巻ボイスコイル、銅キャップ付低歪磁気回路採用。12cmコーン型スコーカーは銅リボン線エッジワイズ巻ボイスコイル使用、トゥイーターはペリリュウム振動板採用のヤマハ独自のタイプで豊かな低域をベースに緻密な音をもつ

パイオニア S-180

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 明るく高能率、優れたパワーリニアリティ、明確な音像定位の3点を開発ポリシーとしたパイオニアの新スピーカーシリーズの製品である。
 ユニット構成は、32cmウーファーをベースとした3ウェイタイプだが、中音、高音にダイヤモンドの次に硬いボロンを、真空中で特殊熱処理により振動板形状にした特殊金属薄膜の両面に強力な熟エネルギーで深く入り込ませたボロン合金を振動板に採用しているのが最大の特長である。このシステムは、新しいパイオニアの低音──CS516以来のソリッドで厚みのある音をベースとし、軽く反応が早く、適度に輝きのある中音、高音がバランスを保ったフレッシュな音を聴かせる。この音は、あたかもホーン型ユニット使用のシステムのようなシャープさと、クリアーさを持ち、音の粒子は細かく、滑らかで、柔らかな雰囲気も充分出せるのが魅力である。

パイオニア Exclusive Model 3401W

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 昨年から今年にかけて、国内各メーカーから本格派のフロアー型スピーカーシステムが製品化され、世界的にも数が少なくなったこの分野にも、国内製品の占めるウェイトが徐々に大きくなってきたことは喜ばしいことである。それらのなかでも、EXCLUSIVEブランドのMODEL3401Wは、その性能、デザイン、価格を含めて極めてリーゾナブルであり、趣味的に眺めても非常に魅力的な雰囲気をもっているのが楽しい。
 MODEL3401の開発にあたっては、一切の妥協を許さない究極のオーディオ製品をつくりだすというEXCLUSIVEの思想に基づき『豊かな情感の中に、大きなスケールと解像力に優れた音の世界を実現し、スピーカーシステムの存在を感じさせずに音楽に陶酔しきれるスピーカーをつくりたい』との理想をかかげ、忠実に技術的な基本を守り、ひとつひとつのユニットの完成度を高めるとともに、全体のバランスを重視して作りあげた、といわれている。
 構成は、40cmウーファーをベースとし、ホーン型の中音と高音を配した3ウェイシステムで、エンクロージュアは比較的にキュービックなプロポーションをもつバスレフ型である。各使用ユニットは、反応の早い軽量振動系とリニアリティの高い支持系と駆動系を組み合わせ、あらゆるマスキング現象を徹底的に解明して防ぎ、どのような微妙な音もクリア一に聴きとれる解像力を引き出すことにポイントがおいてある。
 40cmウーファーEL403は、大型のアルニコ系マグネット使用の低歪磁気回路、コルゲーション入りの強じんな新開発のコーン紙と、巻幅23mmで振幅16mmに耐える超ロングトラベルボイスコイルを使用しながら、出力音圧レベルは97dBと高く、しかも300Wの許容入力をもっている。
 中音用には、ハイフレケンシードライバーユニットED915と独自の形状をもつホーンEH351の組合せで、500Hz〜22kHzの広帯域再生が可能である。ED915は、直径48mm、重量1170gのベリリウムダイアフラムに、アルマイト絶縁により極限まで導体体積占積率を高めたボイスコイルを組み合わせ、磁気回路はアルニコ系マグネット使用で、磁極には純銀ショートリングを付け、イコライザーは高域再生を優れたものにするために、3重スリット型を採用している。EH351Sは、平面波伝播部、球面波変換部、球面波伝播部を順次組み合わせたオリジナリティ豊かなホーンである。ホーンは2ブロックに分割され、第1ホーンはアルミ鋳造、第2ホーンは合板製で、ホーン材料による固有音の発生を抑え、かつ充分の強度を得ている。このホーンのメリットは音源中心が常に取付けるバッフル面にあるため、音響レンズのようにインダイレクトむ音にならず、シャープな音像定位とパースペクティブがとれることにある。
 ホーン型トゥイーターET703は、直径35mmで重量55mgのベリリウムダイアフラムと、希土類マグネット使用で19500ガウスの磁束密度をもつ磁気回路との組合せで、ED915と同じ107dBの高い出力音圧レベルと45kHzまでのレスポンスをもつ。ホーンはディフラクションタイプである。
 これらのユニットに使用するディバイディングネットワークEN907は、900Hz、7kHzのクロスオーバー周波数をもち、コイルは低抵抗・低歪型のコア入り、コンデンサーはメタライズドフィルムタイプ、音質に直接関係をもつアッテネーターはオートトランス型で最大300Wの入力に耐え、パネル面にはマルチチャンネルアンプ端子付である。
 エンクロージュアは、高密度、高弾性、高損失という理想的特性をもつアピトン合板製で、内部にもアピトン集合材の補強が充分におこなわれている。なお、外装にはグレー塗装仕上げの3401と、木目仕上げの3401Wの2モデルが用意されている。
 MODEL3401は、最近素晴らしく完成度が高まり、反応が早く明るく豊かな低音をベースとし、ホーン型ユニットにありがちな固有音がほとんどなく鮮明な音を聴かせる中音、爽やかに伸びきった高音がスムーズにバランスした魅力的な音を聴かせる。

デンオン SC-104/II

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 デンマーク・ピアレス杜のユニットを全面的に採用した最初のデンオンのスピーカーシステムSC104が登場して既に3年あまりの期間が経過したが、今回その内容を一段と充実してMKIIに発展した。ユニット構成面では、25cmウーファー、10cmコーン型スコーカー、それに3・2cmソフトドーム型トゥイーターの3ウェイ構成で、使用ユニットも従来と基本的に同じである。
 MKIIの主な変更点は、バッフル面のユニット配置が各ユニットを一直線に並べるインライン型から左右対称型になり、エンクロージュアデザインが両サイドにテーパーをもち、ヨーロッパから輸入したサランネットとアルミサッシュの付いたシャープな感覚のものになったことである。細部では、レベルコントロールがバッフル面に移され、トゥイーターのみ調整できるようになった。SCシリーズ共通の特長としては、低域の質感向上のためエンクロージュアのバッフル板、裏板を除く部分は両面にリアルウォルナット貼のパーチクルボード使用、各ユニットとバッフル板の間に緩衝効果の大きなブチル系パテ充填、完全密閉型のエンクロージュア採用などがある。
 MKIIの音は、従来からも優れた音をもつSC104をベースにし、一段と表現力が豊かとなり、音場感的な拡がり、定位のシャープさなどの面でもこのクラスでは注目すべき完成度の高さをもつ。

QUAD ESL

瀬川冬樹

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
特集・「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 このエレガントなスピーカーの完成したのは、一九五四年または五五年とされているから、おどろくべきことにもう二十年以上もほとんど同じ形で、モデルチェンジなしに作り続けられている。もともとQUADの製品は寿命の長いことが特徴だが、それでもアンプの場合は、モノーラルの管球式からステレオへ、そしてトランジスター式へ……と、少しずつ姿を変えている。しかしESLだけは、ほとんど変っていない。
 いくら頑固なメーカーでも、それがこんにちのレベルで通用しない製品なら、これほど一貫して作り続けることをしない筈だ。だがQUAD・ESLは、二十年あまりを経て古くなるどころか、むしろ逆に新しい魅力が発見され、愛用者の増加する傾向すらある。これが驚異でなくて何だろう。
 QUADというのはいわばトレイドマークで、会社名を Acoustical Manufacturing Co., Ltd. という。現会長のピーター・J・ウォーカーが一九三六年に創設したというのだから、四十年あまりの歴史を持つ老舗である。P・ウォーカーはもともとが技術者でオーディオの愛好家だが、彼の作る製品はすへで、ごくふつうの家庭で音楽を鑑賞するというひとつの枠の中で、大げさでなく存在を誇示しない控えめな、しかし洗練を窮めた渋い音質とデザイン。それでいて必要なことには少しも手を抜かない。本当の意味で高い品質を維持した実用に徹した作り方をしている。そのことは、QUADの商品名である Quality Amplifier Domestic(高品質の家庭用アンプリファイアーとでもいう意味)に端的にあらわされている。
 ESLは Electro-Static Loudspeaker(静電型またはコンデンサー型スピーカー)の頭文字。いまさら説明の要もないほど馴染み深い、前面のゆるやかに湾曲した赤銅色(または艶消しのチャコール色)の金属グリルに特徴を見せる優雅なパネル状で、寸法は幅が約88、高さ約79、そして奥行きが約27(各センチ)。この中に、導電性の薄い振動膜が、中央のタテに細長い高音用、その左右にやや幅のひろい中音用が一対、そして両サイドの面積の大きな低音用が同じく対称的に一対と、合計五つのエレメントに分割され、スリーウェイ・システムを構成している。クロスオーバー周波数は発表されていないが、約400ないし600Hz付近と、約4ないし6kHz付近の二ヵ所。ユニットの背面下部に、正極用の電源とネットワークを内蔵している。
 QUAD・ESLは、インピーダンス特性が一般のダイナミック型スピーカーとかなり異なり、低域から高域にかけて低下するカーヴを示す。低域の最大点では約40Ω強。中域では約12ないし16Ωを保つが、6kHz付近から急に下降して15kHzあたりで2Ω近くまで低下し、それ以上ではやや回復するという独特の傾向なので、パワーアンプの高域での動作が低抵抗負荷及び容量負荷に対して十分に安定であることが要求される。この点で同じQUADの♯405は傑出している。
 静電型の一般のスピーカーともうひとつの大きな相違点は、振動膜の前後にほぼ均等にエネルギーの出る、いわゆる双指向型の指向特性を持っているということ。このため、背にも十分に広い空間を持たせる必要があり、設置条件にやや制約を受ける。QUADでは少なくとも部屋を三分して前面に2/3、背面に1/3ぐらいの割合で空間をとるよう、示唆している。また、部屋容積は50㎥以上あることが好ましいとしている。部屋の音響条件はライヴ気味が好ましい。
 これらの条件を考えると、ふつうの和室ではなかなかうまく鳴らしにくいことが想像されるが、しかし現実には六畳の和室でも結構美しい音を楽しんでいるケースを知っている。背面を壁に近づけざるをえないときは、スピーカー後部の吸音と反射のバランスをいろいろくふうすることが鳴らし方のキイポイントだろう。

オンキョー MX-7

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 新しいMXシリーズは表現力の増大をテーマとしたオンキョーの新シリーズである。ユニット構成はマルチコルゲーション付プラスターコーン採用の31cmウーファーをベースに、断面がV字状のリング型振動板を大口径ボイスコイルで駆動する独特な構造の8cmスコーカーと4cmトゥイーターを組み合わせた3ウェイである。ネットワークは中音の上下のフィルターが位相的に利点のある6dB/oct型であるのが特長。なお、シリーズ製品にMX5がある。

オーレックス SS-L8S

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 エンクロージュアの回折効果を避けるためにバッフル面全体を550Rmmの曲面としたユニークな外観をもつフロアー型システムである。バッフルを曲面としたためにエンクロージュア内部の定在波の影響を抑えることができるのも副次的なこのシステムの特長である。曲面バッフルの効果はf特上で500Hz〜2kHzの間のレスポンスの凹凸を大幅に改善できるとのことだ。
 ウーファーは30cm口径で曲面バッフルにあわせた重量が非常に大きなダイキャストフレームとアルニコ系磁石の磁気回路をもち、コーンはカナダ産針葉樹パルプを組み合わせたエアドライ法による腰の強いタイプである。スコーカーは12cmフリーエッジコーン型でサマリュウムコバルト磁石の磁気回路とエッジワイズ巻ボイスコイルを使用。2・5cmドーム型トゥイーターは、厚さ20μのタンジェンシャルエッジ一体成形のチタンダイアフラム使用で、各ユニットは垂直面から1・5度後方に傾斜したラウンドバッフルに取り付けてある。エンクロージュアはバスレフ型で、ナチュラルに伸びたfレンジと、粒子の細かい練り込まれた美しいバランスの音をもつ。

ビクター Zero-5

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 新発売のZERO5は、型番からもわかるように、ビクター最初のトゥイータ一にリボン型ユニットを採用したユニークな製品であり、完全密閉型シリーズと将来は2本の柱となるべき新シリーズの誕生である。
 ウーファーは、30cm口径の新開発アルファーコーンを採用したバスレフ用の設計であり、広帯域を受け持つスコーカーは、フェノリックコーンと金属ドームの複合型構造を採用したメカニカル2ウェイ的動作をする10cmコーン型である。トゥイーターは、ダイナフラット方式という高分子化合物薄膜上にボイスコイルを取り付けた、マッチングトランス不要のリボン型で、ダイアフラム前面には左右方向に広がるショートホーンが組み合わせてある。ネットワークは、モニター用システムS3000での成果を導入した低歪率設計であり、エンクロージュアは、リアルウッド使用でオイルフィニッシュされたバスレフ型である。
 ZERO5は、活気のある低音をベースにソリッドで引き締まった中高域と、独特のステレオフォニックな空間の拡がりを聴かせる高域が巧みにバランスを保ち、SXシリーズとは異なった爽やかな音をもつ。

ダイヤトーン DS-70C

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 さきに発売された40cmハニカムコーン型ウーファー採用のDS90Cのジュニアタイプとして開発され、現代の標準型フロアシステムとして考えられる大きさのシステムである。33cmハニカムコーン型ウーファー、12cm口径コーン型スコーカー、4cm口径コーン型トゥイーターの3ウェイ構成だ。
 3ウェイらしく中域が充実し、スッキリとしたシャープな高域、ハニカムコーン独得な反応の早い豊かに響く低域が充分にコントロールされバランスしている。

JBL D44000 Paragon

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 常に〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれる製品は、そのバックグラウンドが重要な要素になる。ジェームス・B・ランシングというスピーカーメーカーは、アメリカにおいてアルテック・ランシングと並んで非常に由緒の正しい、歴史の長い名門ということができる。そのJBLの現行のスピーカーシステムの中で、最もロングライフな製品であり、かつ、まさに〝ステート・オブ・ジ・アート〟の名にふさわしい風格を備えた製品は、このD44000パラゴンであろう。そこには、水準以上の高級品というばかりでなく、造りあげた人の情熱と精緻なクラフツマンシップを感じさせる何ものかがあるのである。
 おそらく、現在このパラゴンというスピーカーシステムを実際に見て感動しない人はいないだろうと思う。とにかく現在のJBL社の最高級ユニットであるLE15A、375+H5038P、075を、あの独創的なデザインの手の込んだエンクロージュアに収めているのである。そうした最高クラスのユニットを使いながら、それをいささかも感じさせないこの優雅なデザインは、あくまでもコンシュマーユースとして、インテリア的にも十分に考慮され、しかもステレオフォニックな音場を見事に再現してくれるのである。
 この木工技術の極致ともいえるスピーカーシステムは、今後いつまで造りつづけられるのだろうか。私としてはできるだけ長い間存在し続けでいてほしいと思うのだが、そう感じさせること自体、このスピーカーシステムのもつ良さを十分に物語っていると思うのだ。この合理主義に徹した時代の流れの中で、いつかは消えるべき運命にあることは確かだが、それを現在もなお造りつづけているJBLの姿勢には感服するほかはない。このスピーカーシステムを造るには、やはり相当の熟練工が必要であり、また洗練された技術も必要である。当然手間と時間がかかることになり、高価にならざるを得ないわけであるが、そうした現在の合理主義から外れている製品のもつ味わいというものは、残念ながら最近では少なくなっているのである。特にスピーカーシステムの中では、徐々にかつての名器といわれていた大型スピーカーが製造中止になっていくのは淋しい限りである。そうした中で、このパラゴンの存在はひときわ輝きを増すことになり、当然、〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれる資質をもっているのである。
 しかし、いくらそうした資質をもっていたとしても、性能的に難があったり、音が古くとても現在使うに耐えないようであれば、やはり最高級スピーカーとして評価するわけにはいかない。しかし、このパラゴンに難があるとすれば、あの形状からくるセパレーションのとれないことぐらいであろう。ところが、この点に関しては、パラゴンの最大の特徴といえる部分なのである。つまり、左右の音をいかに空間で合成させて、不自然ではないステレオフォニックな音場をつくり出すか、ということがこのパラゴンの思想なのである。このパラゴンのナチュラルなステレオフォニックな音場感こそ、このスピーカーシステムならではのものなのだ。最近の左右にモノライクに分離し、セパレーションを要求するプログラムソースには向かないかもしれないが、このパラゴンのもつ一種独特のステレオフォニックな音場感は、やはり捨てがたい魅力を感じさせるのである。
 JBLの最高級ユニットで構成された3ウェイのオールホーン型システムのパラゴンは、中央の湾曲した反射板により、左右チャンネルが一体化されている。その反射板に、中高域ユニットである375ドライバーの強力な輻射音が左右から放射され、拡散されて独特な音場感を創成する。トゥイーターは低音ホーンの開口部の奥にリスナーの位置に向けて取り付けられ、その独特な音場感をより引き立てる。それをホーンロードのかかった低音域がゆったりと支える……このユニークなアイデアに満ちたパラゴンは、現在でも全く色あせたところがなく、ユニットを見ても外観からいっても、この風格はやはり〝ステート・オブ・ジ・アート〟の名にふさわしい製品なのである。

ダイヤトーン DS-35BMKII

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ベストセラースピーカーシステムとして高い評価を受けているDS35Bのグレイドアップ・モデルである。MKIIモデルであるだけに基本的な3ウェイのユニット構成は同様だが、各ユニットともに完全に新設計のユニットが採用されているのはユニットの型番からも明瞭である。
 新開発30cmウーファーは真空成形方式の新しいコーンとダイヤトーン独自の鉄・ニッケル合金製のFNリング使用の低歪磁気回路、さらに肉厚を充分にとった新設計の八角ダイキャストフレームを採用している。10cmコーン型スコーカーは、DS35B以来の独特な透明プラスチックエッジをもつコーン型で振動系は新設計のタイプだ。トゥイーターは、口径3cmのドーム型である。
 このシステムは、従来のDS35Bと比較して中高域の独得のキャラクターが一段と低く抑えられ洗練されたため、聴感上でのfレンジが滑らかで、かつ充分に広く、各ユニットはスムーズにつながり、システムとしての完成度は非常に高い。また、レベルコントロールが高音、中音ともに4段切替となったため、部屋とのマッチングの調整もより容易になったのが見逃せない。

ダイヤトーン DS-401

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 本格的なブックシェルフ型が要求される価格帯に投入された久し振りのダイヤトーンの新製品である。エンクロージュアはバッフル20mmその他17mmの板厚をもつ高密度パーチクルボード製の完全密閉型のアコースティック・エアサスペンション方式で、容積は約54立の適度な外形寸法をもつ。
 ウーファーは、アルミニュウムの薄箔で作った蜂の巣状パターンをもつハニカムコアの両面をGFRPのスキンでサンドイッチしたハニカム構造体使用の30cm型だ。きわめて強固で軽量なコーン材料の特長で固有振動が少なく完全密閉型に相応しいユニットで、磁気回路にはFNリング使用の低歪磁気回路を採用している。スコーカーは10cm口径の強力磁気回路採用のコーン型、トゥイーターも優れた高域特性をもつ4cm口径のコーン型で、完全な3ウェイ・コーン型システムとしているのが特長である。
 このシステムは、独特なハニカムコーン使用のウーファーを採用しているためか、完全密閉型としては低域の音色が明るく緻密で解像力が優れている。各ユニットの音色的なつながりもスムーズで充実したクォリティの高い音を聴かせる。

テクニクス SB-E500

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 トップランク製品SB20000の設計方針を踏襲し、ユニット構成を4ウェイ化した新製品である。エンクロージュアはバスレフ型で、内部には直径75mmボイスコイル採用の38cm型ウーファーと専用のバックキャビティをもつ25cmミッドバスユニットが組み込んである。ホーン型の中高域は直径60mmチタンダイアフラム使用のドライバーユニットとテーパードフレアーラジアルホーンの組み合わせ、トゥイーターはボライド振動板のホーン型である。

ソニー SS-5GX

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

小型ブックシェルフシステムと、いわゆるミニスピーカーの中間に位置する製品である。13cmウーファーと2・5cmソフトドーム型トゥイーターの2ウェイ構成で、小型スピーカーの弱点でもあるDレンジ不足を解決するためにボイスコイルの発熱を背面の放熱板に瞬間的に伝達するヒートパイプの採用が大きな特長だ。音質的には小型システムとしてはバランスが優れ、かつダイナミックでクォリティの高い音を持つ製品として注目に値するものがある。

ソニー SS-G9

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 一昨年末に発売されたソニーSS−G7は、本格的なフロアー型スピーカーシステムとして、性能、音質の優れた点が高く評価され、ソニーのスピーカーシステムのイメージを一新させることに成功した。今回、商品化されたSS−G9は、SS−G7の設計ポリシーを一段と発展させた、4ウェイ構成の大型システムである。
 ユニット構・成は、SS−G7に中低域用ユニットを加えたようなオーソドックスな4ウェイで、各便用ユニットは、現在のソニーのトップモデルらしく、SS−G7に使用されているユニットとは明らかに1ランク以上異なった、単体ユニットとしても発売できるような高性能型が採用してある。従来からも高度な性能を要求するスピーカーシステムでは、各ユニットごとの受持帯域のバランス上で4ウェイ構成に必然性があるといわれており、かつてのエレクトロボイス・パトリシアン800や現在のJBL♯4343、4350などの名作といわれる製品の数は多い。
 SS−G9の低音ユニットは、SS−G7のウーファーと同系統の強力なアルニコ系磁石を使う38cm型で特徴的な独特な形状のフレームが目立つ。音楽再生上で重要な帯域を受け持つ中低域には、ウーファーを小型化したような20cm型が使われ、中高域には口径8cmのソニー独自のバランスドライブ型、高域にはチタン箔一体深絞りの振動板を使った3・5cm口径のバランスドライブユニットが組み合わせてある。
 エンクロージュアは厚さ25mm高密度パーチクルボード製の160立の容積をもつバスレフ型で、フロントパネルには、表面に凹凸溝をつけたAGボードを使用し、バッフル面での音の拡散性が優れ、各ユニットは音源位置を前後左右で一致させるプラムインライン方式の配置。クロスオーバー用ネットワークは、L、Cともに共振を抑えるためSBMCで成形されており、内部の配線材は無酸素銅リッツ線使用である。
 SS−G9は、各ユニットが直接放射型で統一されているため、音色的なつながりが大変にスムーズで、結果として色付けのない極めて自然な音を聴かせる。音のクォリティは高く、ワイドレンジで、しかもダイナミックな音をもち、フロアー型らしいリアリティと実体感がある。

フォステクス FT50D

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 フォステクスのドーム型トゥイーターのなかでトップランクに位置づけされる製品である。振動板には口径20mmの深絞り成型をしたグラスファイバーと熱硬化性樹脂5層構造のドームに、軽合金タンジェンシャルエッジを組み合わせ、1・5kHz以上で使える広帯域型としている。磁気回路はアルニコ系の鋳造マグネットを採用し、出力音圧レベル93dBを得ているため、組み合わせるユニットは、16〜20cmのフルレンジユニットや、30cmクラスのウーファーまで選択可能だ。

フォステクス FT30D

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 布をベースとし、これに特殊な制動材を塗布した振動板を採用したソフトドーム型のトゥイーターである。振動板口径は25mmと、ほぼ標準的な寸法をもっているために、再生周波数帯域、出力音圧レベル、許容入力などの特性面で優れた結果を得やすい特長がある。振動板の裏面にはミクロングラスファイバーなどを使った制動材が採用され、振動板の共振をダンプしている。また、磁気回路にもFT10Dとの価格差から考えられる以上の大型磁石を使い出力音圧レベル90dBを得ている。

テクニクス EAS-10TH1000

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 リボン型トゥイーターの変形と考えてよいユニットである。振動板は高耐熱性のポリイミドフィルム面にアルミを蒸着し、エッチングをしたボイスコイルを採用し、音響的には振動板中央に突出したヒレ状のイコライザーで左右二分割されている。磁気回路は1・3kgの鋳造磁石を使った独特なプッシュプル型でイコライザー部分をN極とすれば、振動板両側がS極となっている。ボイスコイルが蒸着型で8Ωのインピーダンスとしているためマッチングトランスは不用である。

フォステクス FT10D

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 ローコストのトゥイーターユニットとしては珍しい、10kHz以上の周波数特性や指向周波数特性の向上を目的として開発されたドーム型の製品である。一般に振動板は直径が小さいほど、高い周波数帯で諸特性の向上をはかれる利点があるが、逆に、クロスオーバー周波数の制約や許容入力が大きくとれない問題がある。FT10Dは直径1・6cmの振動板を使ったドーム型で、3kHz以上で使用できるため、10cm口径程度の小口径ウーファーと2ウェイ構成で使用するのが相応しい。

試聴テストを終えて

瀬川冬樹

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 55機種のトゥイーターのそれぞれに、最適のクロスオーバーポイントを選び最適のレベルセットのポジションを、それも短時間のうちに探し出す、そのオペレーターの役割を私が担当したが、これはまったく気骨の折れる仕事だった……。
 どのトゥイーターの説明書にも、一応は周波数レンジと推奨クロスオーバー周波数が書いてある。また、出力音圧レベルも海外製品の一部を除いてほとんどが新JISの表示に統一されているから、それを参考にしてレベルセットなど容易にできる……と思えそうだが、実際に鳴らしてみるとこれが意外に計算どおりにいかない。
 たとえば、クロスオーバー周波数が2ないし3kHzあたりに指定されているのは、トゥイーターとしては割合に低い周波数までカバーできる製品のはずだ。しかし実際にそのクロスオーバー周波数にセッティングして、うまくいく例は少ない。
 うまくいかないというのは二通りのケースがある。第一は、指定のクロスオーバーでは低域の許容入力に無理が生じて、やかましい、または圧迫感のある音になりがちのトゥイーター。第二は、たとえば2kHzといえばまだ一部の楽器の基音(ファンダメンタル)領域をカバーしているのだから、かなり力強い音も再生しなくてはならないはずなのに、そのあたりの出力エネルギーが十分でないせいかクロスオーバーをもっと高くとったときと比べて、そんなにエネルギーの増えた感じの得られない製品。
 もう一つのレベルセットに関していえば、概して良いトゥイーターは、音のクセ(カラーレイション=色づけ)が少ないために最適範囲が割合広く、レベルセットにそれほど神経質にならないで済む。ところが、質のよくない製品、またはタフさに欠ける製品ほど最適レベルの範囲が狭く、ちょっとレベルを上げれば音が出しゃばるし、少し絞れば引っ込んでしまう。良いトゥイーターにはそういう現象が少なく、やや上げすぎてもやかましくはならないし、絞りかげんでも音の芯を失うことがない。
 ……というように、オペレーターをやってみると、クロスオーバーやレベルを調整してゆく過程ですでにそのトゥイーターの性格が大まかに掴めてしまうという点はありがたかった。素直でクセが少なく高域が十分に伸びて透明な音。トランジェント(過渡特性)がよくその結果スクラッチノイズやヒス成分が耳ざわりでなく軽い感じで、楽音とはっきり分離して聴こえる。大きな入力や低域の少々無理な入力にもよく耐える。しかも受持帯域のすべてにわたって十分に緻密でエネルギーもある。というのが、結局のところ良いトゥイーターということになり、そういうトゥイーターは、また結局のところ使いやすい組合せもしやすいという理屈になる。
全体を通じて感じたこと
 いま2から3kHzと書いたのは一つの例だが、試聴した全機種を通じてみると、これは厳密な計算の結果ではなくごくおおまかな見当だが、5ないし6kHzあたりから上を受け持つというのが平均的な製品だと思う。ピアノの高音のキイの基音が約4・2kHzだから、5kHz以上というのはほとんど楽器の倍音の領域だ。そういう高音域だけを次々とつけかえて聴くわけだから、完成したスピーカーシステムのように全音域を交換するのにくらべたら、音の差はよほど少ないと思われるかもしれないが、事実は全くそうではない。倍音の領域の音色が変われば、当然のことにそれは基音を含めた全体の音色を大きく変える。昔からスピーカーユニットを組み合わせて苦労してきたユーザーならとうに経験したことだろうが、トゥイーターを交換することによってウーファーの音色まで変る。そして、これは驚くべきことなのか当然の結果というべきなのか、とにかく55機種のトゥイーターを次々と交換して音を聴き比べて、二つとして同じ音色では鳴らない。だが、同じメーカーのトゥイーターは、価格や構造が違っても大づかみには似た傾向の音色で鳴ることが多いし、もっと大づかみには、生まれた国の違いによってそれぞれに鳴り方の傾向が違う。
 そのことから、たとえトゥイーターといえども、常々他のオーディオ機器やさらには音楽について言われていると同様に、メーカーにより国により、音のとらえ方や音の作り方への姿勢の違いが、明確に反映されることがわかる。
 簡単にいってしまえば、トゥイーターの音色は「高音」という概念をどうとらえるか、によって決まるといえそうだ。たとえば繊細、たとえばキメの細かさ、音の切れ込み、たとえば音の輝き──。
「高音」というイメージをどうとらえるかという姿勢は、ひいてはトゥイーターの受持帯域や耐入力パワーやエネルギーバランスや指向性や……などの構造にも大きく影響を及ぼす。比較的低い高音域のエネルギーしっかりと支える作り方。反対に、いわゆる超高音域をどこまで細やかに伸ばすかという作り方──。
 そこで、メーカーの求めている方向を感じとり、自分の望む音に合致する製品を選び出すことが、トゥイーター選びの成否の鍵になる。
印象に残った、または使ってみたいトゥイーター
 かつて、テクニクス5HH17(いまの17Gではない)というローコスト・トゥイーターの名作があった。あれから十年余を経た今日なら、ローコストのグループの中にもう少し優秀なトゥイーターが出現してもよさそうなものだと思っていたが、結果的には五千円以下のグループの中には印象を深く残した製品は一つもなかった。もう少し拡大していえば、一万円以下の国内製品の中には、これならと思える製品が残念ながら見あたらなかった。このあたりの価格帯では、イソフォンのKK/10、KEFののT27、それに、フィリップスのAD0161/T8という、それぞれに構造も価格もよく似た(6千円〜6千五百円)三つのヨーロッパ製のトゥイーターが、それぞれの性格を持ちながらとてもよくできていると思った。
 一万円以上、二万円までの間では、これも新製品ではないのがやや意外だったが、ヤマハのリング・ホーン型JA0506が素直で音でびっくりした。国産のホーン型トゥイーターの中には非常によい製品が少ないながら見つかったが、ヤマハを除くとほかには、たとえばコーラルのH100、フォステクスのT725、あるいはマクソニックやYLのなどのようにもっと高価なグループに入ってしまう。そのことから逆にヤマハが価格対性能で抜きに出ていることが印象的だった。
 高価なグループの中でホーンタイプ以外では、パイオニアのPT−R7、テクニクスのリーフ型EAS10TH1000がそれぞれに惚れ込んだ製品で、どちらも一度じっくり使いこなしてみたいと思った。
 海外製品では、先ほどのヨーロッパ三社のドーム型を除けば、これはと思ったのはJBLの♯2405(077を含めて)と、もう一つおそろしく高価な点がやや納得がいかないがピラミッドのT1の二つだった。♯2405は、スーパートゥイーター的な作り方にもかかわらず、クロスオーバーポイント以下のエネルギーのしっかり出てくる点が見事だったし、ピラミッドはおよそいままで聴いたことのない滑らかな音で、これに関しては機会があればもっといろいろな条件で組合せを試してみたいと思った。
 ただ、今回のようにLE8Tの上にだけトゥイーターをのせてのテストでは不十分ではないかとの最初の不安は、テストを進める間に解消してしまった。最近のLE8Tの高域は非常に素直なので、それぞれのトゥイーターの性格を掴むにはこの方法で十分だったと思う。

テクニクス EAS-10KH501

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 ダイアフラムは、チタンの両面にボロンを生成させた新材料を使用したユニークなドーム型ユニットで、10KH50の高級モデルである。ダイアフラムと一体成形したエッジは、新形状ローンビック型で、ボイスコイルはアルミボビンと耐熱処理をした銅クラッドアルミ線で、最大許容入力は1・5kHz、18dB/octのネットワーク使用時に100Wと発表されている。磁気回路の総磁束は10KH50と同じ値だが、磁束密度では18、000ガウスと一段と強力になっている。