瀬川冬樹
ステレオサウンド 50号(1979年3月発行)
特集・「栄光のコンポーネントに贈るステート・オブ・ジ・アート賞」より
一九七三年に、ロンドンのAESで、KEFの技術陣によって発表されたスピーカーの新しい測定・解析法は、その後日本やアメリカで広くとり入れられいっそう精密化して、スピーカーの動特性の解明に大きな役割を果しているが、この測定法について最も早い時期に示唆を与えたのが、かつてBBCの主任研究員を永く務めて、スピーカーの研究に大きな業績を残したD・E・L・ショーターであった。ショーターは、一九三〇年代からスピーカーの研究に着手しているが、LPやFMの出現によって、放送の質の大幅な向上をせまられる時代の近いことを見こして、一九四〇年代の後半から五〇年代にかけて、ぼう大な研究と実験を重ねながら、BBC放送局で使うための新型モニタースピーカーの開発に着手した。これが一応の成果をみたのは一九五五年から六年にかけてで、その結果を、A survey of performance criteria and design consideration for High-Quality Monitoring Loudspeakers という長い題の論文にまとめて、IEE(イギリス電気学会)に一九五七年十一月十二日に提出している。この論文中に引用された実験例が、のちのBBCの正式のマスターモニターLS5/1Aで、これを製品化する上での実際面で協力したのがレイモンド・クック(現KEF社長)だった。
製品は一九五九年以降KEFのブランドで作られたが、BBC放送局で使うだけの、約250台が製造されたきりで、一般市販はしていない。たまたま、KEFが輸入元に対するサンプルの形で日本に送った2ペアが、幸いにして私の手元にあるきりだ。のちにマルチアンプを内蔵してMODEL5/1ACの名でこれも少量が入荷しているが、ユニットの一部以外は全く違う。先のショーターの論文が、NHKのモニターAS3001(BTS・R305=ダイヤトーン2S305)の開発にも多大な影響を与えていることは想像に難くない。
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