Category Archives: スピーカー関係 - Page 10

デンオン SC-2000

井上卓也

ステレオサウンド 81号(1986年12月発行)
「BEST PRODUCTS WINTER ’87 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンが、米国CETEC GAUSS社の協力を得て、トップランクのスピーカーシステムSC2000の開発をはじめてから、すでにかなりの歳月が経過している。
 SC2000の開発にあたっては、ユニット製造メーカーであり、システムの開発を手がけていなかったガウス社に、サンプル的なシステム開発を依頼し、同軸2ウェイ方式、3ウェイ方式について試作をしたという。これらを充分に時間をかけてデンオンで試聴を行ない、ガウスのユニットの特徴を把握した後に、同軸2ウェイ方式に的を絞り、デンオンのスピーカーシステムとして開発をするという、約2年間にわたる部分的な検討の積重ねにより製品化された、デジタルプログラムソース時代に相応しいスピーカーシステムである。
 コンピューターデザインにより設計された、独特のカーブにつくられたハイフレケンシーユニット用のホーンは、低域ユニットの取付部であるフレームからかなり前方に突出しており、同じ同軸2ウェイユニットのタンノイはもとより、アルテックのユニットと比較しても、かなり異なった印象を受ける。
 ダイアフラム口径は、50mm(約2インチ)で、アルテック系やJBL系の口径45mm(1・75インチ)より1サイズ大きな、現行のプレッシャードライバーとしては特殊サイズである。一時期にはデンオンが開発したαボロンのダイアフラムも検討されたようであるが、現在は、ガウス・オリジナルのアルミ系軽合金製に戻っている。
 ウーファーは、特殊処理を施したマルチコルゲーション入りのペーパーコーンを使い、エッジワイズ・ボイスコイル、コルゲーションエッジのほか、サスペンション系が、ガウス独自のダブルスパイダーサスペンション方式であり、コーンの裏面は、白色のダンピング材で処理されている。
 磁気回路のマグネットは、ウーファーがφ190mm・t19m、トゥイーターにφ155m・t19mmの大型ストロンチュウム・フェライト磁石採用である。
 エンクロージュアは、長方形の木製パイプダクトをもったバスレフ型で、ポート形状は、ガウスのサジェッションによるもののようである。数多くの試聴と計測データーから選出されたエンクロージュアは、ユニットの突出したホーンによる制約が大きいようで、バッフルボードは、側板から一段奥に引っ込んだ位置にあり、周囲を額縁状のエッジで囲んだクラシカルな設計だ。
 エンクロージュアは、バッフル板と、裏板に15mm厚の高密度パーティクルボードを2枚貼合わせ構造とした材料を使い、天板、底板と側板には、デンオン・エンクロージュアの伝統的手法ともいえる、両面にウォールナット柾目つき板貼りの31mm厚高密度パーティクルボードが採用された約160ℓの内部容積をもつバスレフ型である。なお、エンクロージュアのフロントバッフル面に、連続可変型アッテネーターをもつネットワークは、デンオンで設計・開発を行なった、伝達特性を重視したタイプである。
 SC2000は、デンオンの試聴室は金属製の市販のスピーカースタンドが使用されていたが、今回の試聴では、ユニットの中心を耳の高さに合わせる目的で、オンキョーのAS5001スタンドを併用した。
 まずは、一般的に通例となっているサランネットを外し、ヤマハCDX1000ダイレクト接続のカウンターポイントSA4で音を出す。帯域バランスは、厚みのある穏やかな低域をベースにした安定度のあるナチュラルなバランスで、ハイエンドはスローダウンしたタイプだ。ガウス・オリジナルシステムの印象よりは、ガウスらしいボッテリとしたエネルギッシュな独特のキャラクターがほとんど姿を消し、音の粒子も細かくなり、スムーズで、かなりデンオンのシステムらしいイメージに調整してあるようだ。
 同軸ユニットの特徴である定位のクリアーさはさすがに見事で、ワンポイント録音の、インパルのマーラー第4番の第4楽章の冒頭で、ソプラノが歌いながら首を振るところが、目で見るように明瞭に聴き取れる。音像はかなり立体的に小さくまとまり、音場感は素直にサラッと拡がる。
 プログラムソースとの対応はおだやかで、各種の音楽を聴いても安心して聴けるフトコロの探さは、同時に聴いた国内製品のCOTY選定モデルの何れにもない独特の味わいである。ドライブアンプを変えてみると、穏やかだが、適確にキャラクターの違いを音にして聴かせる。さすがに、モニターの血はかくせないものだ。サランネットをつけると少し甘い音になるが、アッテネーターで調整可能な範囲である。

オンキョー Grand Scepter GS-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 GS1はオールホーン型という現在では珍しいスピーカーシステムである。ホーンのよさを再認識させられるもので、従来のホーンのもつ欠点を独自な方法で解析し、それに対処した世界でもユニークなシステムである。ホーン内部での反射が音色をつくり、音質を害するということと、全帯域にわたる音の伝達時間の均一化という考え方を一致させ、素直な音色、正しい音色を主眼に開発されただけあって、きわめてスムースで自然な音が得られている。ホーンドライバーの利点であるトランジェントの良さや、小振幅による歪の少なさなどとも相俟って、このスピーカーの音の品位は高く評価できるものだ。ただ惜しむらくは低能率であること。そこで、最低200W以上のパワーのアンプでないと、このシステムの能力をフルに発揮させることは不可能と思い、現代最高のパワーハンドリングと音質もつマッキントッシュMC2500、オンキョー自身がこのスピーカーを想定して開発したM510、テストで個性的で優れたアンプと評価したアキュフェーズP500を組み合わせてみた。さらに、このスピーカーの質的なよさを対応して、あえてパワー不足は覚悟の上で、きわめて音質の優れたふたつのアンプ、それも管球式のウエスギUTY5とマイケルリン&オースチンTVA1を選んでみたわけである。スピーカーによりアンプは変わる。アンプによりスピーカーは変わる。その最小限度の試みである。

マッキントッシュ XRT18

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 XRT18というスピーカーはマッキントッシュ独自のユニークな開発思想と技術をふんだんに盛り込んだステレオフォニック・ペアー・システムであって、その外観上からも理解されるように、他に類例を見ない特徴をもったシ
ステムである。前作XRT20のジュニアモデルとして登場したが、トゥイーターアレイの個々のユニットにまで時間調整が及んだ点など、XRT20を上廻る綿密なコントロールが見られるものだ。真の立体音場を家庭で再現するためのシステムとして、これ以上のものはない。綿密な時間特性の調整の結果、その再生音場の立体感は録音時の位相差をほぼ1100%再現することによ
り、きわめてリアルで豊かなものだ。また時間特性は正確な音色再現にとって決定的要素となるもので、このスピーカーの音の自然さは注目に値する。この他、多くの点で独特な設計思想を反映したシステムであるし、私自身、XRT20を常用していることからして、それと同質のXRT18でアンプの差がどう出るものかという興味で5台の性格の異なるアンプを選択した。つまり、ここではJBLの4344での結果とどう違ってくるかがひとつの目的であり、さらに、このXRT18がアンプによってどう変化して、どんな音が得られるかという興味につながっているのである。いいアンプはスピーカーが変わってもいいと再認識したと同時に、XRT18によって格段とよさを認識したものもある。

ビクター Zero-L10

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 文字どおり、時代の最先端をゆく新材料と設計技術を駆使したユニットを、音響的に斬新な円弧状のユニット配置を採用し、伝統的技術を継承した素晴らしい仕上げのエンクロージュアと組み合わせたビクター最新のフロアー型4ウェイシステムである。
 構成ユニットでは、中高域と高域に採用されたピュアセラミックス・ダイヤフラムが最大の注目点だ。サファイア
やルビーに相当する純度を保ち、ダイヤフラム成形後の加熱処理で収縮するピュアセラミックスの難関を克服し、至難といわれた大口径ドーム型ユニット用振動板として完成した技術は見事だ。巷にはダイヤモンド振動板を採用したスピーカーシステムも登場しているため、サファイアやルビーと同等では注目度として低いかもしれないが、ダイヤモンド振動板には、〝ピュア〟の文字がないように、純度は大幅に異なり、物性的に大きな違いがあることに注意していただきたい。
 低域と中低域ユニットは、セラミックス振動板採用で、JBL系4ウェイ型と比べて、中低域ユニットが小口径化され、指向特性やレスポンスを高める設計がポイントである。
 リジッドで重量級の物量投入型ウーファー独特のゴリッとした低音と、ハイスピードという表現が相応しい中高域と高域がコントラストをつけたバランスの音が特徴だ。使いこなしは、中低域をいかに豊かに鳴らせるかがポイントで、3ウェイ的なバランスでは駄目だ。

アルテック 620J Monitor

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 同軸型2ウェイ・モニターシステム用ユニットとして、アルテックを代表する604系ユニット604−8KSを620エンクロージュアと組み合わせたモニターシステムだ。
 604−8KSは、604−8G以前の伝統的な6セル・マルチセルラ型ハイフレケンシー用ホーンをマンタレーホーンに替え、サービスエリアを拡げるとともに、フェイジングブラグを、伝統的な同軸スリットタイプからタンジェリンタイプにして、高域のレスポンスを伸ばしたタイプである。ネットワークも、ハイフレケンシーのレベル調整をおこなうスタンダードな方式と、3ウェイ的に、中域のレスポンスをも調整可能な方式とを、スイッチ切替で選択できる。
 最初は、ややナローレンジ型だが、同軸2ウェイモニターの原点ともいうべき604−8G的なサウンドで現代のパワーアンプを聴いてみようという方向で試みてみたが、基本設計は、もはや完全に3ウェイ的で、より広帯域志向になっており、総合的にも、こちらの使用方法のほうが、はるかに完成度の高い音を聴かせてくれた。
 基本的な低域と高域ユニットのエネルギ一には変化はなく、広帯域型化されたため、滑らかで、しなやかさ、フラットレスポンス化など、トランスデューサーとしての改善は著しいが、力感、密度感、アルテックらしい独特の個性的な魅力は薄らぎ、現代的なサウンドに発展している。

タンノイ GRF Memory

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 タンノイの上級システムはすべて、同社伝統のデュアルコンセントリックユニットを使用している。つまり、同軸型の2ウェイという構造のスピーカーの採用である。このGRFメモリーも38cm口径のユニットを内蔵したシステムで、代表的モデルといってよいだろう。この同軸型ユニットは、マルチウェイ、マルチユニットとは異なる放射特性をもち、タンノイの固有のサウンドを含めて、独自性をもった存在といえるものであろう。したがって、これを各種のアンプと組み合わせた場合、そのマッチングに違いが生まれることは当然であろうし、また同時に、すべてのタイプのスピーカーに対して優れた対応を示すアンプの存在の確認をする意味も大きいと考えられる。過去、本誌において、私はこのGRFメモリーというシステムについて多くのアンプを組み合わせる実験をおこなってきているので、その経験から、このスピーカーともっとも合いそうなアンプと、合いそうに思えない、あるいは、未知のものとの組合せという考えから5台のアンプを選んだ。ウェスギUTY5、マッキントッシュMC7270、QUAD510は前者にもとずくものであり、クレルKSA50MKII、ジャディスJA80は後者に属するアンプである。もちろん、選んだアンプは、あるレベル以上のものであり、中にはJBL4344で意外に成果の上がらなかったものの敗者復活の意味もあることは、他のスピーカーとの組合せと同じだ。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 早くから、デジタルプログラムソース時代を先取りしたデジタル・リファレンス・スピーカーシステムをテーマにして取組んできたダイヤトーンのトップモデルであり、フロアー型システムとしては、同社でも、コンシュマーユース唯一のモデルだ。
 基本構成は、独自のアラミドハニカムコンストラクションコーンと、ダイヤフラムとボイスコイルが一体型のDUD構造採用のドーム型ユニットを組み合わせ、ミッドバス構成4ウェイ・ブックシェルフ型としての第1弾製品DS505を大型化し、エンクロージュア形式をバスレフ型にして完成したフロアー型システムである。このバスレフ型採用は、同社の高級シリーズでは唯一の存在で、本機の大きな特徴だ。
 各構成ユニットは、DS1000以降のユニット構造を発展させたタイプとは異なるが、中域と高域ユニットの2段積み重ね型マグネットに代表される物量投入型の設計は、明らかにブックシェルフ型とは一線を画した、フロアー型ならではの魅力がある。
 基本特性は十分に押えられ、製品としては、発売以来すでに熟成期間もタップリと経過をしているため、信頼性は非常に高い。フロアー型ならではの、ゆったりとしたスケールの大きさと、反応の速いレスポンスが特徴だが、セッティングに代表される使いこなしで、結果としての音は大幅に変化をし、モニター的にも、音場感型にも使用可能だ。

パイオニア S-9500DV

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 S9500に改良を加えた、パイオニア・スピーカーシステム中で最新のモデルである。内容的に見れば、エンクロージュアのバスレフ型から密閉型への変化、トゥイーターとウーファーの防磁型ユニット化、さらにエンクロージュアのラウンドバッフル化と、スピーカーシステムのベースは完全に変更され、その意味では完全な新製品といえよう。
 ウーファーは独自のEBD方式採用で、ダブルボイスコイルを備え、一方は通常のウーファー帯域用、他方が最低城専用で、重低音を得ようとするタイプだ。もともと、一般的な使用方法でも充分に低域が出せそうな物量投入型のユニットだけに、CD時代に要求される低域の質感向上に合わせて、質的にメリットのある密閉型エンクロージュアに変更をしたのは、時代にマッチしたフレキシビリティのある設計といえる。
 また、防磁対策は、単なるTVブラウン管の色ずれ防止のためと考えられやすいが、他のユニットやLCネットワークの歪発生原因としての洩れ磁束を解決する意味では、現在、見落されているスピーカーの性能向上面での大きなネックを解消するものであるわけだ。型番にはDVがついているが、中域ユニットの位置的な利点もあり、未対策な点から考えても、AV的にも使えるというのが本来の開発意図であるのだろう。結果として、音質はリファインされ、SN比が向上し、価格対満足度が非常に高いシステム。

ダイヤトーン DS-10000

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 国産のスピーカーの中で、オンキョーのGS1とまったく異なるコンセプトと構造をもち、第一級のレベルに到達したと思われるダイヤトーンのDS10000である。ドーム型のダイレクトラジェーターによるマルチウェイシス
テムをブックシェルフ型としてまとめたものである。私の評価するこのシステムの音は、いかにも日本のスピーカーらしい淡彩で、きわめて緻密でデリケートな細部の表現が特徴である。一糸乱れぬ演奏といわれるが、このシステムにはそういう整然としたイメージがあり、強烈な説得力をもつ海外スピーカーとは違った控え目な美徳をもっているところが、世界のスピーカー群の中でユニークだ。スピーカーのように、どんなに努力しても、技術的に攻め切ることが難しいものについての製作者の感性の反映は、意識下のところにあるものこそ重要であり恐ろしいものなのだ。DS10000には西欧を意識した姑息さがない。これはGS1にもいえることだ。本物なのである。こういうスピーカーなので組み合わせる5台のアンプもすべて国産製品を選んでみた。ブックシェルフとしては高価なスピーカーシステムだが、その性格と極度にずれる価格のものは現実性の点でも選びたくなかったことにもよる。200万以上のクレルやマーク・レヴィンソンでは、鳴らしてみたくても非現実的であろう。各アンプの音は当然JBLでの試聴とはニュアンスの違ったものもあって興味深い。

BISE 901V Custom

井上卓也

ステレオサウンド 78号(1986年3月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ボーズの理論を具体化した第1号製品として伝統を誇る901シリーズに、新製品901V Customが加えられた。
 901シリーズ内での位置づけは、901SS−Wのジュニアモデルに相当する。直接音成分11%を前方に、関接音成分に相当する反射音89%を後方の壁に反射させて使う、ボーズならではのダイレクト・リフレクティング方式だけを受継いだヴァリュー・フォー・マネーな新製品である。
 本機ではプロフェッショナル用802IIと同様に、ダイレクトな音を楽しむために901SS、SS−Vで採用されたサルーン・スペクトラム方式は省略されており、そのため専用のイコライザーアンプは、基本的な回路上の変更はないが、901SS−W附属のタイプと較べテープモニター系が2系統から1系統になり、イコライザーバイパススイッチとダイレクト・リフレクティング方式とサルーン・スペクトラム方式の切替スイッチが省略されている。
 しかし、新たに低域を35Hzで−6dBにするパススイッチが加えられた。
 基本的なデザインは旧901Vを受け継いだ伝統的なものだが、木部は美しいウォルナットのオイル仕上げ、イコライザーアンプのシャンペンゴールド系の色調と微妙なカーブを描く曲面をもつシャーシは、高級機ならではの格調の高い良い雰囲気だ。
 使用ユニットは、口径11・5cmのコーン型の901SS−Wと同じタイプ。ボイスコイルインピーダンスは0・9Ω、角形比4:1の断面をもつ銅線をヘリカル(エッジワイズ)巻きしたタイプだが、字宙開発技術の産物である高耐熱接着剤で固められ、線間の接着層は1ミクロン、2000度の温度に耐えるとのことだ。全ユニットはコンピューターコントロールで生産され、ユニット間の差は事実上ゼロといえるレベルに達している。
 エンクロージュアはシリーズIII以来のアクースティック・マトリックス型で、SS、SS−W同様にサーモプラスティック射出成型のこの部分がエアタイトにつくられ、これを外側の木製キャビネットが締め付ける方式に変わった。なお、シリーズIVでは天地がオープンで、木製エンクロージュアと組み合わせてエアタイトとしていた。
 専用スタンドは、新デザインのタイプに変わるが、試聴には間に合わなかったためP社製木製ブロックを片側に2個タテ位置にして使い聴いてみる。スタンドの置き方、後ろと左右の壁からの距離と角度を追込んだ後、イコライザー補整をすれば、木製スタンドの利点もあって、SN比がよく、緻密で表情が豊かな音が楽しめる。いわゆるサラウンドとは異なるプレゼンスが見事だ。

オンキョー MONITOR 2000X

井上卓也

ステレオサウンド 78号(1986年3月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 オンキョーを代表する高級ブックシェルフ型システムMONITOR2000が、予想どおりにリフレッシュされた。モデルナンバー末尾にXのイニシャルを付けたMONITOR2000Xとして、昨年秋の全日本オーディオフェアで発表されたもので、すでに昨年末から新製品として市場に投入されている。
 MONITOR2000Xの特徴は、最近のスピーカーシステムのルールどおり回折効果の抑制に効果的なラウンドバッフルの採用が、デザイン面での最大の特徴だ。バスレフポートを背面に設け、この部分でのラジェーションを防ぐバスレフ型のエンクロージュアは、板振動による音質劣化を避けるために、高密度パーチクルボードをフロントバッフルに40mm厚、裏板に30mm厚、側板に25mm厚で使用。それとともに独自の開発による振動減衰型構造の採用で、クリアーな音像定位とプレゼンスを得ている。両側のラウンド部分は、40mmの大きなアールを採用し、天板前端にもテーパーが付いたエンクロージュア.は、表面が明るく塗装されたウォールナットのリアルウッドタイプだ。塗装面の仕上げは非常に美しく、高級機ならではの雰囲気を演出しているようだ。
 ユニット関係では、ウーファーが、すでに定評のある3層構造のピュア・クロスカーボンコーン採用で、カーボンファイパー平織りに、適度の内部損失をもたせるため特殊エポキシバインダーを組み合わせる独自のタイプ。磁気回路はφ200×・φ95×25tmmのマグネットを使い、14150ガウスの磁束密度を得ている。
 スコーカーは、構造上ではバランスドライブ型に相当する10cm口径のコーン型である。いわゆるキャップ部分が、チタンの表面をプラズマ法でセラミック化したプラズマ・ナイトライテッド・チタン、コーン部分がピュア・クロスカーボンの複合型である。
 トゥイーターも、プラズマ・ナイトライテツド・チタン振動板採用のドーム型で、MONITOR500で開発された振動板の周囲の2個所を切断し、円周方向の共振を分散させる方法が、スコーカーともども導入され優れた特性としている。なお、磁気回路の銅リングを使う低歪対策は珍しく、板振動を遮断する制動材を使い高域の純度を高めた設計にも注目したい。
 別売のスタンドAS2000Xを使い試聴する。柔らかい低域をベースとし、シャープな中高域から高域が広帯域型のレスポンスを聴かせる抜けの良いクリアーな音が聴ける。基本クォリティが高く、特性面でも追込まれており、どのような音にして使うかは、使い手側の腺の見せどころだ。

ラウナ Njord, Tyr

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ラウナ・スピーカーというスウェーデンのブランドは、わが国ではあまり馴染みがない。それほど古いメーカーではないらしいし、今まで正式なエイジェントによる輸入もおこなわれていなかったと思う。今度、オーディオニックスが代理店として、このニューブランドを日本市場に紹介することになり、ニョルド Njord とティール Tyr という2機種を試聴する機会を得たので御紹介する。
 外国製品は数多いが、世界に冠たるオーディオ生産国日本に輸入するには、それなりの必然性がなければならないし、市場も拓けるはずがない。多くの輸入製品に接する時、その製品のオリジナリティとアイデンティ、そして、その音の魅力が日本製では聴けないもの……つまり、ある意味では異文化の香りをもつものであることをポイントに価値判断をするのが僕の考え方である。いくら貿易不均衡が問題となっても、輸入する必然性のないものを輸入しても結局は長続きはしないはずである。この点、このスウェーデンからのニュー・ブランドは一見一聴しただけで、この条件をパスするユニークなものである。
 ラウナのスピーカーシステムのラインアップは3機種あって、大きさと価格の順でニョルド、ライラ、ティールという名称がつけられている。ユニットは共通で、16cm口径ウ−ファーと2・5cm口径ソフトドーム・トゥイーターの組合せで、大中小のシステムに対応させている。ニョルドは、16cmウーファーを2個使い、その1個の中央にトゥイーターを配置しコアキシャルのようなセッティングだ。ティールはこの2個のユニットをインラインに独立配置している。ライラは聴いていないが多分、ニョルドからウーファーを1個とった構成と思われる。エンクロージュアがラウナ独自のユニークなものでベトンという一種のコンクリートレジンで強剛性大重量の素材による。いかにも北欧らしいモダニズムを感じるデザインで、ニョルドは特にユニークなオブジェだ。製品はホワイトだが、インテリアに合わせ好きな色にペイン卜することを推めているあたりが面白い。ティールは小型ブックシェルフ。各35kg、12kgという重量だ。
 聴いてみて驚いた。その音の豊潤なこと。とてもコンクリート製エンクロージュアのイメージからは想像できない暖かさであり、ステレオイメージは奥行感の豊かな空間再現能力に優れている。楽音の自然な質感・帯域バランス共に大変優れ、制作者の技術と耳のバランスのよさが実感出来る。特に小型のティールは秀逸である。家庭用スピーカーとしての限界の中で、現代スピーカー技術の可能性と限界をよくわきまえたバランス設計が見事に生かされた傑作だ。

ダイヤトーン DS-2000

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 従来からのオリジナル技術である、ハニカムコンストラクションコーンとボロナイズドDUD構造という振動板材料の熟成を待って、これにフレーム関係の高剛性DMM構造やDM方式を加え、さらにエンクロージュア関係でのディフラクションを抑える、2S305以来の伝統のラウンドバッフル採用のエンクロージュアを使った新世代のダイヤトーンの高級シリーズは、小型高密度設計のユニークな製品DS1000をもって出発点としたが、昨年の4ウェイ・ミッドパス構成のDS3000に続き、3ウェイ構成のDS2000が新製品として発売された。
 外観上は、DS1000の単なる上級版とも、DS3000の3ウェイ版とも受け取られやすいが、構成ユニットは、何れとも関係のない新開発ユニットである。
 低音の30cmユニットは、ポリアミドスキンのカープドハニカムコーン型で、このタイプとしては初採用の口径である。DMM方式フレームは、高剛性化が一段と進められ、フレームの脚は、平均的な4本から8本に倍増され、3次元的な剛性を高め、脚の延長線上の止め穴でエンクロージュアに固定する設計。DMM方式の基本構想はコーンが前に動けば、磁気回路はその反動として後に動くため、これをフレームでガッチリと支えようという単純明快なもの。
 中音ユニットは、これも初めての口径である60mmボロナイズドDUD型で、特殊な硬化処理が施され、従来よりもー層高遠応答型に改良されている。この振動板にDM方式が組み合わされユニットとなるが、この方式の基本構想もDMM方式と共通な面がある。一般的な構造では、振動板を取付けたフレームに磁気回路をネジ止めしているが、中域以上の帯域では、その接合面の強度とフレーム自体の強度が高速応答を妨げる要素となる。解決策は、フレームレス化だ。現実の手法では、従来構造のフレームを小型化し、磁気回路の前のプレートを拡大し、これをフレーム替わりとして直接エンクロージュアに取付ける方法が採用されている。
 高音の23mm口径ボロナイズドDUDユニットは、DS1000以来、DS3000と受継いできたDMタイプで、ユニットナンバーから見れば、DS2000用の新設計であることが判かる。
 ネットワーク関係は、スピーカーシステムでは、スピーカーユニットほどに重視されない傾向があるが、ユニットの性能が向上すればするほど、ネットワークの責任は重くなるものだ。簡単に考えてみても、ネットワークを通らなければ、ユニットには信号が来ないわけで、この部分で歪を発生していたらお手上げである。
 本機のネットワークは、コイル間の電磁結合はもとより、磁気回路のフラックス、ボイスコイル駆動電流によるリケージフラックスや主にウーファーからの音圧、振動による干渉などを避けるために、高、中、低と独立した3ピース型を初めて採用し、配線は半田レスの無酸素銅スリープ圧着式DS3000での成果であるラジアル分電板採用のダイレクトバランス給電方式などかなり入念な設計である。
 エンクロージュアは、ラウンドバッフル採用の完全密閉型で、基本となる6面の接合強度を高め箱を剛体構造としながら、伝統の分散共振構造で中域以上の色づけを抑え、全体の振動バランスをとる方法が行われているが、このあたりのコントロールがシステムの死命を制する重要な部分である。
 試聴を始めるにあたり、適度なシステムのセッティング条件を探すことが必要だ。DS2000用の専用スタンドは、現在はなく、DS3000用のスタンドも試聴室にはないため、とりあえずビクターのLS1を使って音を出してみよう。
 最初の印象は、素直な帯域バランスをもった穏やかな音で、むしろソフトドーム型的雰囲気さえあり、音色も少し暗い。LS1の上下逆など試みても大差はない。いつもと試聴室で変わっているのは、聴取位置右斜前に巨大なプレーヤーがあることだ。この反射が音を汚しているはずと考え仕方なしに薄い毛布で覆ってみる。モヤが晴れたようにスッキリとし音は激変したが、低域の鈍さが却って気になる。置台が重量に耐えかねているようだ。ヤマハSPS2000に変えてみる。これなら良い。帯域バランスはナチュラル、表情は伸びやかで明るくオープンなサウンドで、いかにも高速応答という印象はない。プログラムソースにより、激しいものは激しく柔らかいものは柔らかくと、しなやかな対応ぶりは従来では求められなかったダイヤトーンの新しい音の世界への提示だろう。

ダイヤトーン DS-10000

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「日本的美学の開花」より

 ぼくは、我とわが耳を疑った。今、聴こえている音はただものではない。音が鳴り出して数秒と経ってはいないが、すでに、そのスピーカーからは馥郁たる香りが感じられ、この後、展開するいかなるパッセージにも美しい対応をすることが確実に予測された。曲は、マーラーの、あのポピュラーな第4交響曲、演奏はハイティンク指揮のコンセルトヘボウ管弥楽団、フィリップスのCDである。第一楽章の開始に聴かれる鈴と木管の透明な響きが右寄りから中央に奥行きをもって聴こえ、その余韻は、繊細に、たなびくように、無限の彼方への空間を、あえやかに構成しながら消えていく……。
 やがて左チャンネルに現われる第一主題を奏でる弦楽器群はしなやかで優美、流れ込むように右チャンネルの低弦のパッセ−ジへ引き継がれていく。豊かで、しかも、芯のしっかりしたコントラバスの楽音には、実在感が生き生きと感じられ、聴き手の心に弾みがつく……。そして、チェロの歌う第二主題は、第一主題に呼応して十分、明るく暖かく、のびのびと柔軟な質感の魅力をたたえている。
 これは、目下のぼくの愛聴盤の一枚で、わが家のシステムをぼく流に調整して、いまや、その悦楽に浸りきれる音にしているものだった。この音が、わが家以外の場所で、しかも、全く異なるスピーカーシステムから、ほとんど違和感なく響いたことはない。それが、なんと、今、ここで、違和感なく響き始めたのである。しかも、新たなる魅力を感じさせながら……。つまり……、決してわが家とは同じ音ではないのだが、不思議になんの違和感もなく、わが家とはちがう新しい魅力を感じさせられたであった。
 DS10000というダイヤトーンのスピーカーシステムがぼくの眼前にあった。そして、ここは、福島県郡山市にある三菱電機の郡山製作所の試聴室内である。何から何まで、わが家とは異なる雰囲気と条件であることはいうまでもない。これはたいへんなことだ! そういう驚きにぼくは囚われていた。
 正直、率直にいって、ぼくは今まで、ダイヤトーンのスピーカーには常に違和感の感じ通しであったから、その驚きはひときわ大きなものであったのだ。これについては後でもっと詳しく述べるつもりである……。
 そして、第四楽章では、ロバータ・アレクサンダーのソプラノを導入するフルートとヴァイオリンが、そして、ハープやトライアングルも、天上的なト長調の響きと、ゆれるような四分の四拍子の揺籃を、限りない透明感とやさしさをもって開始し、ぼくを魅了したのであった。ブルーノ・ワルターをして「ロマン主義者の雲の中の時鳥の故郷」といわしめた天国的悦楽感が、いやが上にもぼくの心を虜にするのに十分な美音であった。ソブラノは程よい距離感をもって管弦楽と溶け込みながら、かつ際立って明瞭に、「天国の楽しさ」を歌い上げるのであった。
 ある意味では、ケチをつけるのもぼくの仕事であって、この日も、ダイヤトーンの新製品に建設的な意見を述べるべく、無論、その中に、「よさ」を発見し、製品を正しく認知する覚悟で、はるばる郡山まで呼ばれて釆たのであったが、このDS10000に関しては我を忘れて惚れ込んでしまうという「だらしなさ」であった。
 かろうじて立ち直ったぼくは、このスピーカーを自宅で聴いてみるまで、最終的結論を保留したのである。その結果、後日、このスピーカーはわが家に持ち込まれ、第一印象と食い違わないものであることが確認をされたのであったが、それは、ほんの短時間での試聴であったため、今回、改めて本誌のM君を通じ、数日間借用し、ゆっくり、いろいろな音楽を聴いてみることにしたのである。前記のマーラーの他、アナログディスクの愛聴盤、ハインツ・レーグナー指揮ベルリン放送管弦楽団による同じくマーラーの交響曲第三番ニ短調、第六番イ短調、ぼくがずっと以前に録音したルドルフ・フィルクシュニーのピアノ・リサイタルのニューヨーク録音などのクラシックレコードと共に、カウント・ベイシーのやや古い録音『カウント・オン・ザ・コースト’58』、アート・ペッパー『ミート・ザ・リズム・セクション』、メル・トーメの『トップ・ドロワーズ』、ローズマリー・クルーニーなどのジャズやヴォーカルのディスク、そしてまた、CDによる数々の音楽をゆっくり試聴するほどに、このスピーカーの素晴らしさをますます強く認識するに至ったのであった。
 特に、フィリップスのCDによる、アルフレッド・ブレンデルのピアノ・ソロの『ハイドン/ピアノ・ソナタ第34番他』の再生に聴かれるピアノ・サウンドの美しさは特筆に値いするもので、その立上りの明快さと、余韻の素晴らしさは、このディスクの理想的ともいえる直接音の明瞭度と、豊かなホールトーンのブレンドの妙を余すところなく再生するものであった。
 多くのレコードを聴くうちに、このスピーカーの音の美しさについてぼくはあることを考えさせられ始めたのであった。それは、この音の美は、まぎれもなく欧米のスピーカーの魅力の要素とは異なるものであることだった。この美しさは、決して、強烈な個性をもったものではないし、激しさを感じるものではない。花に例えれば、大輪のダリヤなどとは異なるもので、まさに満開の桜の美しさである。.それも決して、重厚華麗な八重桜のそれぞれではなく染井吉野のもつそれである。いいかえれば、これは日本的美学の開花であるといってもよい。かつてぼくは、同じダイヤトーンの2S305について、これに共通した美しさを認識したことがある。この古いながら、名器といってよい傑作は、外国人にとっても、素晴らしく美しい音に感じられるらしく、ぼくの録音関係の友人達が、「日本製スピーカーで最も印象的なもの」として、この2S305をあげていたのを思い出す。その中の一人であるアメリカ人エンジニアのデヴィッド・ベイカーは、2S305の美しさは彼等にとってエキゾティシズムであることを指摘していたが、これはたいへん考えさせられる発言であると思う。美意識の中からエキゾティシズムを排除することは出来ないとぼくは思っている。ぼくたちが、外国の優れた魅力的スピーカーに感じる美の中にも、大いにエキゾティシズムが入っているのではなかろうか。異文化の香りへの強い憧れと、その吸収と昇華創造は、人の感性の洗練や情操にとって大切なものであるはずである。
 もう、二十年も前の話だが、亡くなったピアニスト、ジュリアス・カッチェンの録音をした時に、カッチェン氏がヤマハのピアノに大いに魅せられ、横にあるスタインウェイを使わずに、ヤマハを使いたいといったのを思い出す。ぼくたち録音スタッフは、そこで弾きくらべられた二台のピアノを聴いてスタインウェイによる録音を強く希望したのだが、カッチェン氏は「こんな美しい音のピアノに接したことはない……」といってヤマハの音を愛でていた。そういえば、ぼくの外国の友人達で日本の女性を恋人、あるいは妻にした人が何人かいるが、そのほとんどの女性は、きわめて東洋的な造形の容貌の持主で、その顔は、早いえばば「おかめ」の類型に属する人達だ。眼が大きくて二重まぶたで、鼻の高い日本女性は、外人の眼にはエキゾティシズムが希薄なのだろう……。ぼくなんかは、そっちのほうに強い魅力を感じてならないのであるが……。しかし、今や、外国文化への憧れも落ち着いて、日本的な美への認識が高まり、誇りをもって日本文化に親しむようになったようにも思う。時代もそうなったし、ぼく自身も年令のせいか、年々、日本文化への強い執着と回帰を意識するようになっている。だから、一時のように、日本のスピーカーメーカーが、自ら『アメリカンサウンド』や『ヨーロピアンサウンド』などを標榜する浅はかさには腹が立ってしかたがなかった。
 こんなわけで、日本のスピーカー技術が、世界的に高いレベルにあって、そのたゆまぬ努力のプロセスが、いつの日にかスピーカーの宿命である音の美と結びつかなければならない時にこそ、日本的『美学』を感じさせるようなスピーカーが誕生するはずだし、そうなって欲しいものと思い続けてきたのである。
 ダイヤトーンというメーカーは、音の面だけからぼくの個人的な感想をいわせてもらうなら、2S305以来、これを越えるスピーカーを作ったことはなかったと思うのである。その技術力や、開発力、そして真面目さは、常々敬意を払うに値いするものだと思ってきたし、変換器テクノロジーとして、その正しい主張にも共感するところは大きかった。しかし、ぼくがいつもいうように、部分的改善と前進はバランスをくずすという危険性を承知の上で、あえてその危険を犯し続けてきたメーカーでもあったと思う。今から10年前、ハニカム構造の振動板を採用した時に、ぼくはその音の質感に大いに不満をもってメーカーに直言したものである。したたかな技術集団が、こんなことで後へ引かないことは十分承知していたが、かといって、その音を全面的に容認することは出来なかった。後へ引いては技術の進歩はないわけだろうが、かといって、進歩のプロセスでバランスを欠いた妙な音を、局所的に優れた技術的特徴で説得し、「美しい音ではないかもしれないが、これが正しい音なのだ」と強引にユーザーを説得をされてはたまらない。10年間の長い期間、ぼくはダイヤトーンのスピーカーの音の面からは批判し続けながら、その技術的努力を高く評価してきたのである。
 こうした過程を経て遂に、音楽の愉悦感を感じることの出来るスピーカーシステムが誕生したのであるから、これはぼくにとっても大きな出来事であった。
 ここ数年、ダイヤトーンが、剛性を強く主張する姿勢と共に、音楽を奏でるスピーカーにとって『美しき妥協』が必要なことを認識しているらしい姿勢は感じとることが出来るようになってはいた。特にエンクロージュアについての認識が、片方において冷徹なモーダル解析を行いながら、天然材のもつ神秘性を発見することによって高まってきたことが、ぼくにとって陰ながら喜びとするところであったのだ。『美しき妥協』と書いたが、これは『大人としての成長』というべきなのかもしれない。このスピーカーに限らず、ダイヤトーンの全てのスピーカーにはコストの制約こそあれ、一貫して見られる高剛性、軽量化の思想が、振動系、構造系の全てに見られる。もちろんこれはダイヤトーンに限らず、すべてのスピーカーメーカーが行っていることなのだが、ダイヤトーンはその旗頭である。
 今年は、多くの日本のメーカーが、期せずして、優れたスピーカーを出し、実りの多い年であったが、これは、日本のスピーカー技術のレベルが一つの頂点に達し、その高い技術レベルを土台にして、技術と美学の接点に立って精一杯、音の錬磨をおこなった結果であろうと思われる。
 音楽的感動を最終目的とするオーディオにあっては、この両面のバランスこそが優れた製品を生む必須条件であって、これこそが真の『オーディオ技術』というものだとぼくは信じている。だから、そこに人がクローズアップされざるを得ないのだ。つまり、技術はデータに置きかえられやすいし、保存も積み重ねも可能である。そして、グループの力が必要であり、時として他分野の協力も得なければならない。しかし、美学的領域に属する仕事はそうはいかない。多くの人の協力や、英知を集める協議はもちろん有益だが、絶対に中心人物の存在が必須である。よきにつけ、あしきにつけ、一人の人間、一つの個体を中心とするファミリー的構成がなければ、美の実現は不可能なものである。それが、プロデューサーとかディレクターと呼ばれる人人間の必要性だ。ダイヤトーンの場合、三菱電機という大メーカーの一部門であるから、プロデューサーは社長である。現実には、その意を帯びた部長ということになるのだろ。DS10000を試聴した時、ぼくの傍らで熱心に説明してくれた一人の青年技師がいたが、彼が、このスピーカーの担当ディレクターに違いない。矢島幹夫氏がその人だ。そして、ダイヤトーン・スピーカー技術部には佐伯多門氏という、大ベテランがおり、プロデューサーとして矢島氏を支えたと思われる。これはぼくの勝手な推測であって確かめたわけではないのだが、ほぼ間違いあるまい。もちろんこのような大会社では、さらに多くの周囲の人達の熱意がなければ動くまい……(ここが大会社とオーディオの本質とのギャップになるところなのだが……)と思われるし、この製品が、ダイヤトーン40周年記念モデルになったことをみても、社をあげての仕事といえるであろう。しかし、中心人物の並はずれた情熱と努力がなければ、こういう製品は生れるはずはないと思われるのである。そういえば、あのオンキョーのグランセプターGS1という作品も由井啓之氏という一人の熱烈な制作者がいてこそ生れたものだった。GS1が、ホーンシステムにおいて刮目に値する製品であるのに続いて、ダイヤトーンがこのDS10000で、ダイレクトラジエーターシステムによって、このレベルの製品を誕生させたことは、日本のスピーカー界にとって大きな意味をもっていると思うものである。
 ところで少々話がスピーカーそのものからはずれてしまったが、もう少し、細部にわたって、このシステムを眺めてみることにしよう。また、詳細については、編集部が、別途取材したダイヤトーンのスタッフの談話があるので、併せて参考に供したいと思う。
 DS10000は、27cm口径のウーファーをベースにした3ウェイシステムである。スコーカーは5cm口径のドーム型、トゥイーターは2・3cm口径の同じくドーム型である。
 ウーファーの振動系はハニカムをアラミッド繊維でサンドイッチしたもので、カーヴドコーンである。アルミハニカムコアーとアラミッドスキン材との複合により、高い剛性と適度な内部損失をもち、このタイプのウーファーとして高い完成度に到達したと思われる。27cmという口径からくるバランスのよい中域への連続性と、質感の自然な、豊かでよく弾む低音を実現していて、ハニカムコーンの可能性を再認識させられた。
 スコーカーの振動系はボロンのダイアフラムとボイスコイルボビンの一体型で、トゥイーターもこれに準ずるものだ。磁気回路とフレームを強固な一体型としているのは従釆からのダイヤトーンの特徴であり、振動系の振動を純粋化し、支点を明確化して、クリアーな再生を期しているのも、DS1000、DS3000以来の同社の主張にもとづくものである。
 エンクロージュアはランバーコア構造材の強固なもので、バッフルと裏板の共振モードを分散させるべく、そのランバーコアの方向性を変えている。漆黒の美しい塗装はポリエステル樹脂塗装で、グランドピアノの塗装工場に委託して仕上げられているそうだ。好き嫌いは別として、この漆黒塗装仕上げによる美しい光沢をもつた外観は、このシステムにかける制作者達の情熱をよく表現していると思うし、わが家に置いて眺めていると、初期の軽い違和感はだんだん薄れ、その落着いたたたずまいと、高密度のファインフィニッシュのもつ風格が魅力的に映り出す。ユニットのバッフルへの固定ネジには一つ一つラバーキャップがとりつけられる入念さで、音への緻密な配慮と自己表現が感じられ好ましい。別売りだが、共通仕上げの台のつくりの高さも立派なもので、ブックシェルフスピーカーの最高峰として、まさに王者の気品に満ちている。
 DS10000は 『クラヴィール』という名前がつけられており、これはピアノ塗装の仕上げイメージからの名称と思われるが、ぼく個人の好みからいうと、こんな名称はつけないほうがよかった。あらずもがな……である。
 磨き抜かれた外観の光沢にふさわしい、このシステムの美しい音は、バランスの絶妙なことにもよる。アッテネーターはなく、固定式であるが、このシステムがアンバランスに鳴るとしたら、部屋か、置き方に問題があるといってもよい。ウーファーからスコーカーへのクロスオーバーがきわめてスムーズで、中域の明るい豊かな表現力が、これまでのダイヤトーン・スピーカーのレベルを大きく超えている。4ウェイ構成をとっていたDS5000、DS3000は別の可能性をもっているのかもしれないが、これを聴くと3ウェイのよさがより活きて、ユニットの数が少ない分、音はクリアーである。剛性の高いウーファーのため、低域の堂々たる支えが立派で、27cmという口径が、「いいことづくめ」で活きているように思われる。
 現代スピーカーとして備えるべき条件をよく備え、曖昧さを排した忠実な変換器としての高度な能力が、かくも美しき質感と魅力的な雰囲気を可能にしたことがたいへん喜ばしい。これが、今後、どういう形で、他製品への影響として現われるか楽しみである。
 こう書いてくると、いいことずくめで、まるで世界一のスピーカーのように思われるかもしれないが、スピーカーには世界一という評価を下すことは不可能であることを最後に記しておきたい。オーディオのうに、オブジェクティヴなサイドからだけの判断では成立しない世界においては、これは自明の理である。スピーカーに限らず全てのコンポーネントは、そう理解されなければならないが、特にスピーカーには、この問題が大きく存在する。要は、オブジェクティブなファクター、つまりは物理特性のレベルがどの水準にあって、その上に、いかにサヴジェクティヴな音の嗜好の世界が展かれるかが問題である。技術の進歩は、たしかに、このオブジェクティヴなレベルを向上させるものではありるが、そのプロセスにおいては時として、サブジェクティヴな美の世界を台無しにする危険もある。ダイヤトーンのDS10000は、オブジェクティヴなレベルが、ある高みでバランスしたからこそ生れたものであり、優れた変換器として讚辞を呈するものであるが、なお、嗜好の余地は広く残されているのである。だから、ぼくには、単純に世界一などというレッテルを貼る蛮勇はない。

スピーカーシステムのベストバイ(1985年)

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 いつものことながら〝ベストバィ〟の選出の基準について書くのに苦労する。ベストバイ……つまり、お買徳、最高の買物……などといった意味は、実に複雑な多面性をもっているからだ。それぞれのジャンルについて選出の基準を述べよという編集部の注文は、それでも毎年同じように続いているのである。それぞれのジャンルという言葉を使いながら、価格帯の分類まではいっている。価格帯によっては、選出の基準がちがってもいいということなのか? 僕自身にもよく解からないのである。
 スピーカーのジャンルでは、20万円未満から160万円の価格帯に分類されているが、選出の基準は、この事実からだけでも大きく制約を受ける。安くてよいものという基準はまず成り立たない。最高品位のものというのもおなじく成り立たたない。
 価格帯別に基準はふらつくわけで、ジャンルでくくって、確固たる基準を述べることは不可能である。いわば無理難題であるわけで、この種の企画に共通の矛盾を含んでいることをまず申し上げておきたい。結論を言えば、率直にいって基準などという厳格なものは僕の場合にはない。述べれば述べるほど矛盾を生むことになって、やり切れない。観点とか基準とかいう言葉は曖昧であったり矛盾と流動性を含んでいてはナンセンスである。近頃、あまりに安易にこうした言葉が使われ過ぎる。もっともらしくて恰好いいのだろうが、本当は恰好悪いのである。
 僕の場合どう考えても、よくいえば柔軟性をもって総合的に価値を見当して、〝よいもの〟を選んだということになるが、悪くいえば、どうもまんべんなく選んだようにも思え、改めて、後味の悪い思いをしながら反省しているところである。数の制限もあってのことだから、こうなるのもやむを得なかったのだが、いずれにしても選出というのは骨の折れることである。
 スピーカーの低価格帯域のベストとして選んだのはB&OのCX100である。小型で使用条件の限定を受けるが、何より、その音とつくりのセンスの高さが抜群だ。小型ながら、その高貴さ故にベストワンとした。他に外国製ではスウェーデンのラウナの〝ティール〟、セレッションのSL6など素晴らしいものがたくさんあるが、能力としてはこのランクでは国産のほうが高い。特にケンウッドLS990AD、オンキョーD77、ヤマハNS500Maなどのように選にはいったものはもちろん、選外にも優れた特性と能力をもったものが多数ある。しかし、音の品位、表現の説得力となると今一歩のものが多いのである。
 20〜40万円のベストワンはボストンアコースティックA400であるが、このスピーカーの素直でありながら、豊かな情感を伝える能力、価格も含めた製品としてのバランスのよさは高く評価したい。国産ではダイヤトーンのDS2000、コーラルDX−ELEVENが充実している。CP的には外国製品を大きく上廻ることはいうまでもない。ユニットの作り、エンクロージュアの密度の高さなど、同じ価格で比較すると、国産品の充実は外国製を圧倒している。しかし、ハーベスやスペンドールの、あるいは、タンノイの音の味わいや魅力には欠けるのだ。
 40〜80万円では異例といってもよい国産のベストワンをあえて選出した。ダイヤトーンDS10000である。この音の美しさは、遂に世界的なレベルに達したように感じられる。それも、日本的な緻密で繊細さを極めた音であって、海外スピーカーのもつ味わいに追従すするものではない。技術のオリジナリティも他に類例のないアイデンティティをもっているものだし、作り手の情熱の感じられる作品としての表現力が力強い。他はすべて、このランクになると海外製品になった。JBLの新製品4425は、いかにもJBLらしい鮮鋭さと精度の高い音像再現性をもった素晴らしいもので、その発音の基本的性格が他の製品に聴けない独自の明るさとエネルギーに満ち溢れているスピーカーシステムだ。タンノイのエジンバラの重厚な風格、B&O/MS150−2のモダニズムの精密さ、ボーズ901SSのオリジナリティと長年にわたるリファインの成果は、いずれも明確なアイデンティティと魅力を持っている。
 80〜160万円ではJBLの4344が、圧倒的に安定したリファレンス的サウンドで好ましい。頼りになるシステムだ。
 160万円以上では、ユニークな技術的特色と、熟成した音の魅力で独自の世界を創ったマッキントッシュのXRT20の姉妹機XRT18を選んだ。重厚にして柔軟だ。

スピーカーシステムのベストバイ(1985年)

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 スピーカーシステムは、基本的にメカニズムを使ったトランスデューサーであることが、エレクトロニクスの産物であるアンプやCDプレーヤーと異なった特徴であり、スピーカーユニットを構成する振動板材料、磁気回路、フレームなどがある水準以上の性能を要求されれば、それ相応の物量の投入が前提となるため、いわゆる生産性の向上で価格の低減を期待することは不可能と考えてよい。
 もちろん、スピーカーシステムの分野でも、いわゆる売れ筋価格帯というものが存在し、このゾーンに製品が集中する傾向が強いが、ここ数年間にわたり売れ筋価格が維持されているために、各社各様のサウンドポリシーを貫いてはいるものの、その内容は、やや希薄化の動向は否めない事実といえるだろう。
 基本的に、ある水準以上のサウンドクォリティを要求される、いわゆるコンポーネント用のスピーカーシステムに相応しい内容、実力を備えた製品となれば、現状では、ステレオ・ペアで約20万円以上のシステムが好ましいといえるが、やや妥協して考えても、売れ筋価格帯上限の、ステレオ・ペアで12〜13万円クラス以上が、ベストバイの下限であろう。
●20万円未満の価格帯
 自分なりに価格帯の下限を設定したために、選択した製品は、海外製品を除いて、標準サイズのブックシェルフ型システムである。外形寸法的には、やや大型である点が特徴でもあり、内容的な問題点でもあるようで、そろそろ大きいことは良いことだ!的な観念を捨てて、少しは小型、高密度化の方向のシステムの開発を各メーカーの企画担当者に要望したいものである。
 海外製品は、ともに英国の小型ブックシェルフ型システムを選択したが、基本性能もかなり見事であり、音質的にもかなりインターナショナルな雰囲気を備えている。気軽に小型、高性能を楽しむためにはSL6が相応しく、やや構えて、高密度な音を聴きたい向きには、LS3/5Aはベストバイ中のベストバイである。
 この価格帯の製品には、いわゆるAV対応という、防磁構造のユニットを採用したモデルが散見されるが、本来、防磁構造はスピーカーのシステムの基本性能を向上する不可欠の要素であることを認識してほしいものだ。洩れ磁束は、内部の配線、ネットワーク素子、アッテネーターに影響を与え歪を発生する元凶なのである。
●20〜40方円の価巷帯
 内容が充実しており、選択するのが楽しい標準サイズのブックシェルフ型がメインの価格帯である。国内製品の大勢は、CDの驚異的な情報量に対応するための、低歪化に代表される性能向上による、聴感上でのSN比の向上の方向の開発であるが、一部には、音の輪郭をクッキリと聴かせるアナログ派とでもいえるモデルもあるようだ。
 DS2000は、強烈なインパクトこそ受けないが、新開発ユニットをベースとした内容の濃い製品。使いやすく、誰にでも高性能を基盤にしたバランスの良いハイディフィニッションな音が楽しめ、完成度の高さは同社製品中で文句なしにトップだ。飛躍的に完成度を高めたS9500DVの柔らかく豊かな低域。未完の大器らしい凄さのあるZero−FX9。木目仕上げが魅力のNS1000XWなどの新製品に注目したい。S955IIIの爽やかさ。SX10のソフトドームならではのしなやかさと、アンティークなムードも個性派の存在。玄人好みのDS1000。伝統的タンノイの魅力を凝縮したスターリングも使いたいシステム。
●40〜80万円の価格帯
 ペストバイの感覚からは少し離れた価格帯の製品で、ジックリ聴き込んで選択をしないと後悔を残す個性派が多い。現代的な高密度ハイデイフィニッション型では、DS3000が最右翼の存在。さりげなく高品位の音楽を楽しむためには901SS−W。少しメカニカルなイメージを求めれば901SSだ。実感的なバリュー・フォー・マネーならタンノイに限るし、個性派には、QUAD/ESLだろう。目立たぬがベストバイに最も相応しいのがMONITOR1である。また、NS2000の美しい仕上げもヤマハならではのものだ。ベスト1は、唯一の鋳造磁石採用の磁気回路をもつ2S305だ。最新のCDプレーヤーで一度は追込んでみたい製品。
●80〜160万円未満の価格帯
 上位5機種は、傾向は大きく異なるが、正確な目的さえ持っていれば、長期間にわたり充分に楽しめるシステムである。締切り後に聴いた製品ではDUETTAがドライブしやすく一聴に値する。

パイオニア S-9500DV

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 パイオニアから新製品として登場したスピーカーシステムS9500DVは、そのモデルナンバーが示すように、従来のS9500をベースに大幅な改良が加えられ、内容を一新したシステムである。
 改良のポイントは、低域磁気回路の防磁化と、エンクロージュアでのラウンドバッフル採用と、形式がバスレフ型から密閉型に変更されたことがあげられる。
 磁気回路の防磁化は、単にTVなどへのフラックスによる色ずれを避ける目的に留まらず、エンクロージュア内部に位置するネットワーク用コイル、配線材料、アッテネーターなどへの磁束の影響がなくなり、歪が減少するメリットは非常に大きい。
 また、エンクロージュアのラウンドバッフル採用は、現在のスピーカーの大きな動向であり、情報量が非常に大きいCDの普及も、プレゼンスに優れたこのタイプに移行する背景となっていると思う。次に、エンクロージュア形式のバスレフ型から密閉型への変更は、現在のバスレフ型を中心としたパイオニアのスピーカーシステムとしては異例なことであるが、伝統的には、ブックシェルフ初期の完全密閉型として定評の高いCS10以後の密閉型システムの技術は現在でも保たれているはずである。
 ユニット構成の基本は前作を受け継いでおり、ウーファーは2重ボイスコイル採用のEBD型で、駆動力の直線性を向上するリニア・ドライブ・マグネティック・サーキットの新採用と、二重綾織りダンパー採用のダイナミック・レスポンス・サスペンション方式、フレームの強度向上などが特徴。スコーカーは、イコライザーの2重ダンプ処理、新開発ケミカルエッジ・ウーファーと共通の低抵抗リード線採用などが改良点だ。トゥイーターは、低磁気漏洩設計と防磁カバーの防振処理が特徴である。
 ネットワークは、中域と高域用で基板を廃した低損失化と高域でのバランス回路化が改良点であり、エンクロージュアは、黒檀調リアルウッド仕上げで、重量は4kg増しの37・5kgである。
 試聴は、同時発売のウッドブロックスピーカーペースCP200を使って始める。基本設置は、左右の幅は側板とブロック外側が合った位置、前後はブロックの中央とされているために、これを基準とする。聴感上の帯域バランスは、異例ともいえるほど伸びた、柔らかく豊かな低域をベースに、穏やかだが安度感もあり安定した中域と、いわゆる、リボン型的なキャラクターが感じられないスッキリとしたナチュラルな高域が、スムーズなワイドレンジ型のバランスを保っている。音色は、ほぼニュートラルで、聴感上のSN比は、前作より格段に向上しており、音場感的情報はタップリとあり、見通しがよく、ディフィニッションに優れ、定位は安定感がある。ウッドブロックの対向する面に反射防止のため、フェルトをあてると、中高域から高域の鮮明さが一段と向上し、高級機ならではの質的な高さが際立ってくる。使用上のポイントは、良く伸びた低域を活かすために、中高域から高域の鮮度感を高く維持する設置方法や使いこなしをし、広いスペースを確保する必要があるだろう。

コーラル DX-ELEVEN

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 コーラルのスピーカーシステムは、伝統あるユニット専業メーカーとしての独自の技術を活かしたユニットを基盤にシステムアップされている特徴があるが、今回、発売されたDX−ELEVENは、同社初の4ウェイ構成、完全密閉型ブックシェルフシステムである。
 ユニット構成は、低域が項角の異なった2枚のカーボングラファイトを重ねたモノコックコーンで、ネック部分に円型のクボミ型メカ二カルフィルター付で高域をカットする構造を採用し、ボイスコイルはOFCエッジワイズ巻き。磁気回路はバランス型で、直径160mmのマグネットと銅キャップによる低歪設計が特徴。中低域は口径10cmの超大口径ハードドーム型で、商品化されたユニットとしては、世界的に見ても最大口径であり、このシステムの注目すべき部分だ。振動板は新開発の特殊な軽合金といわれ、詳細は不明。磁気回路は、低域同様のバランス型で銅キャップ付。銅クラッドアルミ線エッジワイズ巻きボイスコイル使用で、97dBの高能率を誇る。中高域は、中低域と類似した構造と振動板採用の口径60mmハードドーム型高域は、同じく新開発振動板採用の口径22mmハードドーム型である。
 クロスオーバーは、280Hz、4kHz、8kHzと発表されており、中低域と中高域のクロスオーバーが、使用ユニットの口径から予想される数値より大幅に高い周波数4kHzであることが特筆に値する。
 エンクロージュアは、前後バッフルが15mm厚パーチクルボードの2枚貼合せ使用。側板、天板、底板は、25mm厚パーチクルボード採用で、前後ともラウンドバッフル構造の完全密閉型。ネットワークは、低域が独立した2分割型で、音帯域にマッチした素材を投入した高性能設計で、高域と中高域共用の連続可変型アッテネーター採用。
 木製のスタンド上に置き、システムのあらましを聴いてみる。タイトで、少し抑え気味の低域をベースに、穏やかで安定した中低域、輝かしく明るい中高域とシャープな高域が、やや高域に偏った帯域バランスを聴かせる。使いこなしの第一歩は床に近付けて低域の量感を豊かにすることだ。コーラルのBS8木製ブロックに似た高さ20cmほどの木型ブロックに置き直してみる。かなり、安定型になるが、基本的な傾向は変らない。そこで、10cm角ほどの木製キューブの3点支持を試してみる。バランス的にはナチュラルであるが、中高域ユニットのエージング不足のせいか、表情が硬く、アコースティックなジャズなどでは抜けが良く聴こえるが、クラシックの弦楽器では、線が硬く、しなやかさが少し不足気味である。そこで、かなり大きくトータルバランスが変化する高域と中高域連動のアッテネーターを絞ってみる。
 変化は、かなりクリティカルではあるが、最適位置での音は、引締まった低域をベースとした、明るく抜けの良さが特徴である。
 使用上のポイントは、壁やガラスなどの部屋の反射の影響を受けやすいタイプと思われるため、カーテンなどで響きを抑え気味にコントロールした部屋で使えば、4ウェイらしい音が楽しめるだろう。

ロジャース LS7

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 英国ロジャース社のスピーカーシステムには、BBCモニターシステムとして有名なLS5/8、LS5/9、LS3/5Aなどのシステムの他に、一般のコンシュマー用として開発されたスピーカーシステムが数多く存在するが、今回、新製品として試聴をしたモデルは、ドメスティックシリーズとして登場したLS1、LS5、LS7の3モデル中のトップモデルLS7である。
 LS7は、独自のポリプロピレンコーンと超高耐熱ボイスコイルを採用した205mm口径ウーファー、R205ユニットと25mmソフトドーム型セレッション製T1001を組み合わせた2ウェイシステムで、最大入力300Wを誇るシステムである。エンクロージュアは、バスレフ型が採用され、仕上げはチークとブラックがあるが、構造上の特徴として、STUDIO−ONEシステムで開発された特殊ファイバーレジン材が、前後のバッフルに採用してある。
 スピーカーの試聴でつねにポイントになるのが、スピーカーを置く台であるが、ロジャースにはSTUDIO−ONEとLS7用に、スピーカースタンドSS40が別売で用意されているため、ここではこのスタンドを使い聴くことにする。
 使用機器は、このところリファレンス的に使っているデンオン2000Zと3000Zのペアとソニー552ESである。
 SS40は、台の底の部分に鋭い針のような突起部があり、これでカーペットなどを貫通して床に直接スタンドを設置できる構造が特徴である。まず、基本的な間隔と聴取位置からの距離だが、平均的な置き方よりはやや間隔を広く、距離もとったほうが、英国系のシステムでは音場感的にも拡がり定位もクリアーで、いわゆる、見通しのよいサウンドになるようだ。
 LS7は、しなやかで適度に明るく弾む低音と、スッキリと細部を聴かせる爽やかな高音が巧みにバランスした、気持ちよく音楽が聴けるタイプで、物理的特性の高さを基盤としたトランスデューサーとして完成度の高い国内スピーカーシステムとは明確に一線を画した、異なった出発点をもつ、フィデイリティの高いサウンドである。
 左右のスピーカーの聴取者に対する角度は、音場感、定位感をはじめ、音像の立つ位置に直接関係するポイントであるが、わずかに内側に向けた程度が、音場感がキレイに拡がり、見通しもよいようだ。音像定位は小さく、かなり輪郭がクッキリとした特徴があるが、このあたりはSS40のもつキャラクターが適度にLS7の音にコントラストを与えているようで、この種のシステムとしては、中域のエネルギー感がそれなりに感じられるのが好ましい。
 スピーカーケーブルは、同軸、平行線、スタッカートなどの構造およびOFCなどの材料の違いを含め、各種試みてみたが、純銅線採用というISORAのスピーカーケーブルが、トータルバランスが良く緻密さもあり、粒立ちの良い音が楽しめる最終的なバランスは、SS40上での前後方向の位置移動で整えるとよい。中央やや後ろで、表情豊かな雰囲気のよい音になる。

ボストンアクースティックス A40V(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「CDで聴く海外小型スピーカー中心の組合せに挑戦」より

 ボストン・アクースティックスのA40Vというのは、同社のシリーズの中で一番小型でローコストのA40に防磁対策を施したモデルです。
 このA40Vもそうですが、ボストン・アクースティックスのスピーカーは、どのモデルも、ナチュラルなバランスを持ち、音色的にも非常にニュートラルなんです。そういうと無個性のように感じられるかもしれないけれども、決してそんなことはない。非常に温かい、熟っぽさのある音です。
 このボストン・アクースティックスはARの系譜の中で発展してきたスピーカーですが、ARのスピーカーに感じられた、密閉型の音の重さはなく、密閉型のよさである、非常にきちっとした、ダンピングの効いた音が出て、それに、さわやかさと明るさが加わってきて、アメリカ的というよりもむしろヨーロッパ的な音と言えるのではないでしょうか。
 17cm口径のウーファーとソフトドームの2ウェイ構成の小型スピーカーですから、スケール感はそれほど期待できませんが、小型のよさを充分に生かしたバランスが感じられます。ウーファーの口径が小さいため、重低音は無理ですが、リニアリティもいい、無理のない鳴りかたをしてくれます。また、ウーファーの口径が小さく、エンクロージュアも小さいため、ディスパージョンが優れていて、A40Vの音場再現性は、価格を考慮すると、かなり高いレベルのものと言えます。
 A40Vの持っている魅力で際立っているのは、質感のよさですね。それもアコーステック楽器を再生したときに、それが強く感じられます。何か特定の色づきのある魅力は持っていませんが、楽器の持っている質感を非常にナチュラルに聴かせてくれます。
 最初の組合せは、プリメインアンプがサンスイのAUーD507Xと、CDプレーヤーがマランツCD34で、組合せトータルで20万円と、出てきた音を考えると、非常に安くまとまりました。
 外国製品、特にスピーカーは、国産のオーディオ機器では味わえない味を持っており、オーディオの、大事な楽しみとも言えますが、海外スピーカーを使って組合せをまとめますと、どうしても高い値段になってしまう。その異文化の薫りを、限られた予算の中で感じとれる音を出したいということが、今回組合せをつくる、すべてのスピーカーに対するねらいなんです。ぼくが担当する4つのスピーカーの中で、A40Vはペアで六万円台と、大変に安い。ですから、A40Vのよさを充分に生かしながら、どこまで予算を抑えることができるかということで、もっともローコストのアンプ、CDプレーヤーをいくつか聴いた中から、サンスイとマランツを選んだのです。
 AU−D507Xの音の性質は、A40Vの音と非常によく合うところがあるようです。A40Vのよさである、ナチュラルな質感をよく引き出してくれます。この価格帯のアンプは、妙に高城に癖があったり、力感は出すけれども少し音が粗っぽかったりするのが多い中で、AU−D507Xは真面目に音づくりされている。価格を考えると、思ってた以上に、質感、肌ざわりがよくて、高城にも癖がない。ヴァイオリンも、高域の音が非常に滑らかに出て、楽しめる味がある。フィルクスニーのピアノも、中域の温かな、トロッとした軽やかなタッチの味が出てきます。
 CD34の音も、A40Vの性格に似ているところがあります。CD34は、近視眼的に、CDのもっている能力を発揮させることだけにとらわれないで、音楽を楽しく、情緒的に聴かせていこうという方向でつくられたCDプレーヤーだと思います。
 CDプレーヤーとスピーカーの性格が非常によくマッチしている。そして、その間をつなぐアンプも、共通した音のよさをもっている。しかも価格的にも安い。3つの価格的バランスもよくとれていますし、音も、いいバランスを保っている組合せだと思います。
 最初の組合せをつくるときは、A40Vをこう鳴らしてみたいという意図はもってなかったのですが、二番目の組合せをまとめるために、いくつかアンプを聴いていくうちに、こんな小型スピーカーでも、アンプへの対応度が広く、いろんな音で鳴るということを、この場で気づかされました。これは、鳴らすアンプの個性に、A40Vが寄り添うのか、このスピーカーの持っている個性の幅の中の一面を、それぞれのアンプが引き出しているということかもしれませんけれども、とにかく違ったニュアンスで鳴るアンプがたくさんありました。その中でケンウッドのKA1100SDが、最初の組合せでは得られなかった、繊細さとさわやかさを出してくれました。特に弦の音の魅力は、非常に強く引かれるところがあります。
 KA1100SDは、力で聴かせるという方向のアンプではなくて、質感の美しさを聴かせてくれるタイプです。しかもオーケストラのトゥッティのときでも、音の崩れが全然なく、どんな細かい音もピシッとよく出てくる。前の組合せが、ポピュラー系のソースを、全体の力でもって聴かせるのに対して、こちらは、まったく違う味わいの音ですね。この組合せは、クラシックの音の持っている美観を大事に聴かせてくれる印象です。
 CDプレーヤーは、アンプと同じケンウッドのDP1100IIを使いました。この音はKA1100SD同様、非常によく洗練されていて、デリケートに、細やかな音をきちんと出してくれます。消極的に、全体をふわっとまとめて聴きやすくしたのではなく、CDに収められている情報はきちんと出しながら、音の美しさをねらって成功したCDプレーヤーだと思います。ケンウッド同士の組合せは、細やかな音の粒立ちに素晴らしいものをもっており、それが、A40Vの、少しファットになってしまう傾向をうまく補ってくれて、細やかな音をきちんと出してくれました。
三番目の組合せは、プリメインアンプにヤマハのA2000、CDプレーヤーも同じヤマハのCD2です。
 前の二つの組合せは、アンプの音色の変化に興味を持って、アンプを選んでみましたが、今度は、もう一段クォリティの高いアンプをつないでみたら、一体どんな音がするのだろうということで、かなり価格的には高くなりますが、A2000を鳴らし
てみたわけです。
 やはりアンプのランクが上がっただけあって、A2000によって、A40Vが持っている音の特徴が、リフレッシュされたというくらい、クォリティが一段上がります。A40Vの、滑らかで癖のないよさを積極的に出してくれます。悪いところを抑えて、うまく鳴らし込むというんではなくて、積極的によさを引き出してやるといった鳴り方をしました。
 音の傾向としては、前二つの組合せの中庸をいくものだと思います。最初が聴きやすい丸い音、二番目が美しいさえた、すがすがしさが特徴でしたが、この組合せはちょうど真ん中といった感じです。
 こういうふうに言いますと、A2000の音のよさがシステム全体の音を決めてしまったように思われるかもしれませんが、CDプレーヤーにCD2をもってこなければ、もう少し違った傾向の音になっていたでしょう。
 A2000は、高域の繊細さとかさわやかさが、非常に印象的なアンプですが、反面、中域あたりの豊かさが、やや欠けるという印象も持っていました。その中域の薄さを補う意図で、CDプレーヤーにCD2を選んだのです。CD2は、国産のCDプレーヤーの中で、最も中域に甘さ、豊かさといった味わいを持っている製品です。この中域の味わいが、A2000の中域の薄く感じられる部分をうまく補ってくれて、二番目の組合せが持っているさわやかさに対して、ちょうど中庸をいく音になったのも、CD2によるところが大きいと思います。事実、アンプはA2000のままで、CDプレーヤーをマランツのCD34に換えて鳴らしてみましたところ、中庸というよりも、やはりさわやかさ、すがすがしさの方向へいくんです。
 例えば、CD2とサンスイのAU−D507Xを組み合せて鳴らせば、アンプの温かい音とCD2の中域の豊かさが、相乗効果で、ファットになりすぎる危険性があります。この点が、組合せのおもしろいところで、ふたつを組み合せることで、お互いによさを生かしあったり、欠点を補ったりすることができる。
 同じスピーカーを使いながらも、三つの組合せはそれぞれに違った音を出してくれました。けれども、音とは正直なもので、クォリティの追求ということでいったら、いちばんお金のかかった、最後のA2000とCD2の組合せが一番高い。前二者は金額の差はありますけれども、クォリティの差よりも、音色の傾向の違いの方が大きいと言えます。

JBL 4425

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「SS HOT NEWS」より

 JBLから、新しいモニタースピーカーシステム4425が発表された。この3月、ノースリッジのJBLの工場を訪れ、これを試聴する機会をもったが、その後、私の帰国と同時に日本に送られてきた製品を自宅で聴く機会も持てたので、簡単に御紹介してみたい。
 4425は、そのモデルナンバーからしても明らかなように、4435、4430のシリーズとして開発されたものであり、バイラジアルホーンと呼ぼれる垂直・水平方向の指向性を100度×100度でカバーする(コンスタントダイレクティヴィティ)高性能ホーンをもつ高域ドライバーを特徴としている。4425に使用されているバイラジアルホーン2342は、4435、4430に使われでいる2344ホーンのスケールダウンモデルであるが、その性能は、クロスオーバーの1・2kHzに至るまで平均した指向性パターンであることに変りはない。ドライバーは2416という新設計のもので、チタンダイアフラムにダイアモンドエッジ構造をもつなど、JBLのニューテクノロジーが生かされている。低域のユニットも、2214Hという新設計のもので、口径は30cm、ボイスコイル径は7・6cmの強力なものだ。バスレフタイプのエンクロージュアは40・6cm×63・5cm×31・1cmと、大型のブックシェルフサイズといってよいものである。ネットワークは2ウェイではあるが高域のパワーレスポンスを、絶対レベルとは別に調整でき、12dB/octのものだ。
 4400シリーズのバイラジアルホーンは、その奇異な外観のためか、わが国における人気は今一つ……の印象を受けるが、その性能の高さは、さすがにJBLらしいもので、その優れた放射パターンによる音色の自然さと音場の豊かさは、もっともっと高く評価されて然るべきものだと思う。この製品では、小型化されているので、それほど奇異な感じも受けないし、チタンダイアフラムのコンプレッションドライバーとの組合せで、きわめて精度の高い緻密な音を再生する。しかも、たいへん滑らかなレスポンスのため、質感の品位も高い。そして、新しい2214Hウーファーがエネルギッシュな面からも、質的違和感がなく、よくつながっていて、全体のバランスは4430、4435をも上廻る完成度をもっている。200ワットの連続プログラムに対応するパワーキャパシティをもつ、このシステムの音は、JBLのコンプレッションドライバーシステムらしい安定性と、タフネスにより圧倒的な迫力が得られるし、音の質感は明らかに、新世代の製品らしい品位の向上が認められるものである。一般家庭用としても手頃なサイズでありながら、本格的な再生音は並のスピーカーとは異次元だ。

マッキントッシュ XRT18

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 XRT18という新しいスピーカーシステムがマッキントッシュから発売された。そのモデルナンバーからしても、また、全体のサイズからも、あのXRT20の弟分であることを想像する人が多いだろう。それは、しかし、全面的に正しい推測ではない。理由は、この製品が、XRT20にない、一歩進んだテクノロジーに裏打ちされたものだからである。ウーファー以外のユニットは全く新しいものに代っている。それだけではない。トゥイーターコラムが、一段と進歩し、時間特性の向上を見ているのである。
 もともと、このユニ−クなマッキントッシュのスピーカーシステムは、全帯域にわたって、位相特性を精密に調整し、ステレオフォニックな空間イメージと、楽器の音色の忠実な再現を実現したところに大きな特徴があった。真のステレオスピーカーと呼ばれる所以である。XRT18ではこれを一歩進め、トゥイーターコラムを構成する16個のユニット相互の関連にまでメスを入れたのである。つまり、XRT20では24個のユニットを使ったトゥイーターコラム全体を、スコーカー、ウーファーとタイムアライメントをとるにとどまっていたのであるが、今回は、そのコラム内でのアライメントまでとっている。そして、トゥイーターコラムは、スコーカー/ウーファーエンクロージュアとインラインで使うようになった(XRT20は、エンクロージュアのサイドにコラムを置いていた)。トゥイーターは、上下二個ずつ一組として順次時間調整がほどこされているのである。これには、ハーバード大学の大型コンピューターを使って膨大な計算をおこなったということだ。この結果、高域は一段と滑らかで、しなやかなものとなり、音色の再現はより忠実になった。XRT20もそうだが、もはや、そこにはスピーカーの存在が意識されなくなった観がある。
 また、このシステムも、マッキントッシュらしい細かなノウハウがみられ、〝よい音〟のための技術の柔軟性が大人の考え方として現われている。一方において、緻密な計算と測定によるテクノロジーの追求がおこなわれ、他方において、そうした経験によるコツとでもいったものが無視されていないのである。つまり、剛性といえば、それ一点張り、軽量化といえば、他に目もくれないといった近視眼的なアプローチに傾くメーカーのような子供っぽさはないのである。
 その一例として、このシステムのウーファーのエンクロージュアへの取付けを御紹介しておこう。ウーファーはエンクロージュアのバッフルボードに強力に締めつけるのが一般的である。特に密閉型の場合、エアータイトの面からも、この傾向が強い。しかし、XRT18のウーファーのフレームは直接バッフルボードに固定されていないのである。フレームのエッジは、エアーシールドも兼ねた弾性材のガスケットを介してバッフルボードに密着し、その上から別の弾性材を二重に介して、リング状のキャストフレームで圧着されている。今時、こんな非常識とも思える方法で、しかも手間暇かけて、ウーファーをマウントしているのは、マッキントッシュとしての理由があるからこそだ。何が何でも剛性一点張りの考え方で、ギューギュー締めつけ、補強のかたまりのような箱に改造し悦に入っている中途半端なエンジニアやアマチュア諸君の顔が見たい。どんなに剛性重視でやってみても、所詮は、物質や形状の本性をコントロール出来るものではないし、やればやるほど自然性から離れ、アンバランスな弊害が音となって現われる。肩肘張った、ガチガチのオーディオ的低音が好きならそれもよかろう。しかし、いい加減に不自然なオーディオサウンドから脱脚したほうがよい。ものごと全て、バランスが大切であり、トータルとしての視野をもって、音の自然な質感を追求すべきではないだろうか。このXRT18の方法がベストとも思わないし、未来に向って絶対的だとも考えられないが、少なくとも、音を目的とした行為である以上、見習うべき姿勢であろう。
 MQ107とう専用イコライザーを使って、部屋との総合特性を調整する点はXRT20と同様であり、入念な調整で部屋の欠点をカバーし、かつ、聴き手の感性にぴたりと寄りそわせる努力は必要である。私はXRT20と、もう三年も取組んでいるが、確実にその努力は報いられ、しかも、まだまだよくなりそうな可能性を感じているほどである。スピーカー自体に強引な主張と個性がないように感じられるが、実は、自然に、素直に鳴るという性格こそ、最も重要なのである。

JBL 18Ti(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「CDで聴く海外小型スピーカー中心の組合せに挑戦」より

 JBLの18Tiというのは、同社の新しいTiシリーズの中の一番小さいモデルです。JBLにはコンプレッションドライバーを使ったシステムが上級機種にあって、そのJBLのコンプレッションドライバーのすばらしさが、多くのファンをつくってきて、JBLサウンドを確立したきたわけですが、JBLは同時に、ダイレクトラジェーターの持っている能力も追求しようということで、コーン型ウーファーにドーム型のユニットを加えたブックシェルフ型のスピーカーも、かなり長い間、手がけています。
 Tiシリーズというのは、Tiという言葉が示しているように、チタンのダイアフラムを待ったドームトゥイーターを開発して、それを採用したシリーズなんです。18Tiは、いちばんローコストのモデルなんですけど、JBLの、ダイレクトラジェーターを使ったスピーカーで一つの完成度を見たシステムではないかと思います。
 小型ではありますけれども、JBL伝統の非常に力のある、エネルギッシュな、そして音像の輪郭の明快なサウンドというのは、依然として持っている。さらに、新しいドームトゥイーターのおかげでしょうか、高域が非常にスムースになってきています。これは、物理特性を追求していくと、どうしてもこういう傾向になるわけで、高域のスムースさは、明らかに特性の改善なんです。そのスムースさゆえに、古いJBLのスピーカーの、言うならば毒が薬になっている個性が、やや丸められ薄まったと言う人もいますけれども、音の個性というのはどんなに物理特性を追求していってもなくなるものではないと思いますし、毒として残っている部分を、特性をよくしてなくしていくということは、オーディオが科学技術の産物である以上、必要なことだと思います。ぼくは、いささかもTiシリーズが、JBLのサウンドを損なってはいないと思います。むしろ、JBLサウンドの本質を理解すれば、これは明らかにJBLの音を保っているものだと思います。ただ、表面的な、外面的なところでJBLサウンドをとらえると、変わったとか、角が矯められたとかいう受けとり方になるかもしれませんが、JBLの音というのは、そういう外面的なところで理解すべきものではないと思っているんです。
 18Tiの音も、いかにもアメリカ的で、そこには、アメリカ文化の独自性がありますが、そのアメリカ文化というのは、異質な文化のまじり合った、ある意味では非常にコスモポリタンな文化だと思うんです。ですから、JBLのサウンドは、確かにアメリカ的なサウンドですけれども、しかし、それは非常にコスモポリタンなミックスされた文化から生まれてきているだけあって、ある種のプログラムソースにしか向かないというようなことはないと思うんです。実際、この18Tiを聴いてみても、こちらの狙いによっていろいろと変化してくれます。つまり、このスピーカーをアメリカ的な、かなりギラッとした音で鳴らして、例えばショルティのマーラーの録音の音を生かしていこうとすれば、その方向で鳴りますし、それからハイティンク、コンセルトヘボウのようなヨーロピアンサウンドのしなやかさと、ややベールをかぶったようなニュアンスというものを求めようとすれば、そのようにちやんと鳴るんです。これは、やはりJBLスピーカーの持っている能力の高さだというふうに、ぼくは解釈します。
 組合せは三例つくるわけですが、それぞれニュアンスの異なった音で鳴る組合せになったと思うんです。最も安いトータル金額にまとまったのが、ヤマハのA550というプリメインアンプと、マランツのCDプレーヤーCD34の組合せです。マランツのCD34を使ったというところから推測できると思いますけれども、このスピーカーから、ヨーロピアンサウンド的な特徴を、ちゃんと鳴らせるかどうかを試してみたわけです。
 その結果は、A550の持っている素直さが大きく作用したと思いますが、CD34の持っているヨーロッパ的雰囲気が非常に生きてきて、ヨーロッパ録音のヨーロッパサウンドというものが、ちゃんと出てきました。この組合せは比較的コストを安くしようという目的だけではなくて、18Tiから、ヨーロッパの伝統的な音楽を違和感なく聴こうと思うときの組合せとしても成功したと思います。
 この組合せで、音源主義的な、ショルティのマーラーを聴きますと、ギラギラとした録音の本質は変わらないけれども、そこに雰囲気が出てきますね。木管が非常にフッと脹らむような音になってきますし、弦の鋭さもやや角が取れて、しなやかさも出てくる。そしてフィルクスニーのピアノを聴くと、非常にソフトなやさしいタッチによる、彼の音楽性がとても生きてきたと思います。
 二番目の組合せは、プリメインアンプにデンオンのPMA940V、CDプレーヤーはパイオニアのPD7010です。この組合せはJBLのはつらつとした音を出す組合せと言えると思うんです。特に、この組合せによる、ショルティのマーラーとかジャズは大変に輪郭の明快な、よく弾む、明るいいい音で鳴ってくれました。ただし、明快な傾向が非常に強くて、ヨーロッパ的な雰囲気の音や音楽には、少々違和感を持つ結果になりました。ですから、最初の組合せと、対照的な音の組合せというふうに考えていただいていいと思います。ショルティのマーラーの迫力、録音の特徴をよりストレートに出したのは、こちらの方かもしれません。ただ、このロンドンの録音に抵抗のある方にとっては、最初の組合せの方がいい音だと聴こえるでしょう。この二組の組合せはそういう関係にあります。
 三番目がいちばん高い組合せで、プリメインアンプはサンスイのAU−D707X、CDプレーヤーはヤマハのCD3です。この組合せから出てくる音は、前二者の音の中間に位置しているといえるでしょう。ギラッとした音にも偏らず、ヨーロッパ的な、やや薄曇りのような音にもならない、ちょうどその中間をいくような音です。
 ヤマハの製品は、前の組合せに使ったA550、そしてCD3も素直な性格を持っている。魅力の点では、この上のCD2が持っているトロッとした中域がないので、CD2と比べるとものたりなさを感じていましたが、素直さでは、CD3の方が上ですね。アンプやスピーカーの組合せに素直に応じていくという特質を持っているとも言えます。そういう意味で、CD3はなかなかいいCDプレーヤーだと思います。
 AU−D707Xも、非常に中庸をいった、普遍性のある音のアンプだなということを再確認しました。おそらく、このアンプで鳴らした18Tiの音というのが、18Tiの持っている能力の幅みたいなものを、一番ストレートに出してくれたと思います。ですから、プログラムソースによって、どっちらにもこなせるということに通じる。非常に中庸をいった、いい組合せです。三者三様はっきりとした音の傾向の違いというものが、18Tiから出てきたんではないかと思います。

B&O CX100(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「CDで聴く海外小型スピーカー中心の組合せに挑戦」より

 B&Oは、ホームエンターテインメントという主張の中でオーディオ製品をつくっていくという会社ですから、機械が圧倒的に存在を主張するというような、マニアックなオーディオ機器は決してつくらない。こういういき方は、ともするとイージーな安物というふうに受け取られがちですが、B&Oの製品はそんな感じをまったく与えない。家庭で使われることを充分考慮した上でクォリティを追求していこうというメーカーですから、カートリッジ、スピーカーに関しては、超一級の物理的特性を持ち、かつ、すばらしい洗練された感覚を聴かせてくれるものがあります。
 CX100は、そのB&Oのスピーカーシステムの中で、壁かけ用としても使える、もっとも小型のスピーカーシステムで、10cm口径のウーファーを二発と、ドームトゥイーターを、アルミ製のエンクロージュアに収めた2ウェイシステムです。形は、同社の高級スピーカーと同じ湾曲型のバッフルを使った、本格的な同社の主張の見られる仕上げになっています。ユニットも、相当質の高いものでしょう。
 今回、ぼくが聴いたスピーカーの中ではいちばん小型ですが、音の質感はすばらしいものを持っています。先ほど、BOSEの301MMIIを、デニーズとか、マクドナルドに例えた例でいけば、こちらは小じんまりとした、しかし、非常にいい味を食べさせるビストロだという感じがします。ヨーロッパの味わいを、質で追求したいという人にとって、このスピーカーはすばらしいものだと思います。非常に小さいスピーカーですから、量は大型スピーカーのようには望めませんが、聴き手であるこちら側が頭の切りかえされすれば、十分な量感も味わえるスピーカーです。量より質というものを追求する、これは音のグルメの、いわゆるコニサーのためのスピーカーだという感じがするんです。
 このCX100で、ハイティンクのマーラー、あるいはルドルフ・フィルクスニーのピアノなどを聴きますと、本当に、ヨーロッパの文化の薫りが馥郁として薫ってくる。特に、フィルクスニーは、ヨーロッパのよき時代の薫りを待った、数少ないピアニストの一人なわけです。彼のそういう薫りが、大型スピーカーでもめったに聴けないんではないかと思うくらい、すばらしいニュアンス、雰囲気で聴けるんです。フィルクスニーのピアノの特徴が、最も生きるスピーカーという感じを持つくらい、よく鳴ってくれました。
 小型スピーカーであるだけに、ディスパージョンが非常によく、空間の再現がものすごくいい。位相差、時間差をきちんととった、オーソドックスな空間収録をした録音ならば、オーケストラを聴いても、量感を持った雰囲気を十分に伝えてくれる。ぼくはこの音に身震いするぐらい、ほれぼれとしてしまった。CX100が聴かせてくれたような音の質感を知り、その質感そのままで、リアリティとスケールの大きさを追求していくという方向でいってくれたら、オーディオは非常にすばらしい方向にいくだろうと思います。そういうことを感じさせるほど、B&OのCX100というスピーカーは、すばらしいと思います。
 CX100が持つヨーロッパの薫りを生かすには、CDプレーヤーに同じヨーロッパの雰囲気を伝えてくれる、マランツのCD34を使うことに決め、組合せを考えてみました。
 アンプは、本当は、このスピーカーのたたずまいにふさわしいセンサブルな製品が欲しいところなんですけど、いまの日本のプリメインアンプから、それを探すのは困難ですので、せめて、音だけでも、CX100にふさわしいアンプというような考えで、アルパイン・ラックスマンのLV105を選んでみました。このアンプの持っている音のニュアンスは、独特でコニサー的と言え、非常に音が軽やかに浮遊し、漂うような感じなんです。決して、音がへばりついたり、押しつけがましくなったりしない。このアンプを組み合わせてCX100から聴こえてきた音も、非常に豊かなふわっとした奥行きのある、空間の厚みまでをよく出してくれるものでした。CD34という、いい雰囲気を出してくれるCDプレーヤーと、このスピーカーとの間にあって、立派に間をつなぐ役目を果たしてくれた感じです。この組合せは、本当に音楽を非常にいいセンスで、もとの音楽の持っている薫りを楽しみたいという方に勧めたい。
 二番目の組合せは、CX100の、性能的な優秀さを引き出してみようという考えで、マランツPM84とソニーのCDP302ESとを組み合わせてみました。LV105は、他のアンプではちょっと聴けない内声部の美しさがある反面、ちょっと上と下の帯域が弱い。他のアンプにないよさを持っていますが、他のアンプにない弱点もある、という微妙なアンプなんです。それに対してマランツのPPM84は非常に中庸を得た音のバランスを持つアンプなのです。
 CDP302ESは、CD34と比べると雰囲気ではやや劣るところがありますが、情報量の豊かさ、音の伝送の正確さという面では優れており、使ってみたということです。
 この組合せで聴きますと、このスピーカーではちょっと無理だろうなと思われるような、音源主義の録音、例えば先ほどから言っている、ショルティのマーラーのような録音が意外に生きてくる。この組合せは、このスピーカーが、ただ雰囲気だけで聴くためだけのものではないことを証明できたように思います。最新録音のものにも、細部にわたり充分対応してくれるだけの能力を持っています。ですから、ショルティのような録音の好きな方、またヨーロピアンじゃなくて、少しアメリカン、あるいは最近の日本の傾向の音を、このスピーカーから聴きたいというような向きには、この組合せが合うんではないかと思います。
 そこで、第三例は、もう少しお金を出して、いま手に入るものの中で、音、アピアランスも含めて、このスピーカーを生かし切る組合せを考えてみました。頭に浮かんでくるアンプは、メリディアンのMCA1です。今回は、プログラムソースにCDしか使っていませんから、予算を少しでも下げる意味もあって、モジュールはCD用一つというシンプルな形をとりました。アンプに、MCA1を使いますと、CDプレーヤーも、やはり同じメリディアンのMCDを持ってきたいところですが、約20万円とかなり値段が高くなるので、あきらめざるをえない。そうなると、CX100の持ち味を生かすCDプレーヤーとなると、やはりマランツのCD34にどうしてもなってしまうのです。予算の関係もあって、第一例と同じものになってしまいましたが、このスピーカーの再現するヨーロッパ音楽の豊かな薫りを再現できるCDプレーヤーとしては、現状では、このCD34がベストといわざると得ませんね。
 トータル金額がかなり高いものになりましたが、出てきた音は、本当にほれぼれとするほどのものです。もう本当に、美味ですな、これは。本当にグルメの音だと思いますね。こんなにすばらしいセンスの音は、ちょっとほかではなかなか得がたいんではないでしょうか。リアリズムを追求するとか、大きな音でガーンと音を体感するとかいうようなことではなく、インテリジェンスとセンスで趣味のいい音楽を聴こうと思ったら、この組合せは、大変ハイクラスなものだと思います。

BOSE 301MM-II(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「CDで聴く海外小型スピーカー中心の組合せに挑戦」より

 BOSEのスピーカーというのは、一般的なスピーカーの考え方とは違って、間接音を豊かに再生することによって、より自然な音が聴けるという主張のもとにつくり出されたもので、この思想をはっきりと具現化したのが、901です。901ほどまでには同社独自の思想が徹底して生かされていませんが、よりコンベンショナルな形で実用的なブックシェルフ型にまとめたのが301MMIIといえます。トゥイーターを二個、角度を変えてエンクロージュアにマウントし、高域を拡散するところにBOSE独特の考え方が生きていますが、全帯域はほとんど正面へ出ていますから、まったく普通のスピーカーと同じように使えます。
 BOSEの音の特徴、個性を一言にして言うと、アメリカ文化の音だと思うんです。それも301MMIIは、アメリカ大衆文化の音ですね。このスピーカーを聴くたびに思い出すのはマクドナルドとか、ケンタッキーフライドチキン、デニーズ、これらを思い出します。非常に大衆的ではあるけれども、ある文化の薫りを、それも異文化の薫りを持つことで成功している。そして、大衆的な値段ではあるけれども、ある種の格好のよさも保っている文化性が、BOSEの301MMIIとか、あるいは101MMの持っている音の特徴というものに、非常に合っていると思うんです。アメリカで生まれた大衆文化の中から誕生したものですから、よく売れるスピーカーだと思うんです。つまり、個性が非常にはっきりしていて、思い切りが非常にいい。特に、BOSEは小型のスピーカーで大型スピーカー並の十分な馬力を出す、パワーハンドリングも優れているというところに特徴があるわけです。この301MMIIも、相当パワーをぶち込んでもびくともしないというところが、大きな特徴と言えます。しかも出てくる音は、音量を絞ったときでもパワー感のある、非常にエッジのはっきりとした、あいまいさが全然ない、明快そのものな音と言えます。そして、その色合いが非常に濃厚であるため、他と比較するまでもなく印象づけられてしまうスピーカーです。
 デリカシーという点に関しては、文句を言いたいところもあります。しかし、きちんとしたオリジナリティを持っていますから、ある意味では、現代の大衆の心をばっちりつかむ音だと思う。そういう点で、このスピーカーを高く評価します。
 とにかく比較的安い値段で、異文化の薫りがあって、しかも何か強烈な個性の主張を聴きたいということだったら、迷うことなく、この301MMIIを勧めます。日本のスピーカーにものたりなさを感じ、もうちょっとコクのある音で、思い切り鳴らしたいというような要求を持っている人には、まさにぴったりのスピーカーです。それだけ、他のスピーカーと違ったよさを持っているということです。
 このスピーカーはペアで10万円を切る値段です。普通だったら、異文化の薫りを味わえる値段ではないともいえるわけですから、非常に安い買物と言える。だから、組合せのトータル額もできるだけ安く抑えて、異文化の薫りを充分に味わってみようということで聴いてみました。
 このスピーカーは、ボストン・アクースティックスのA40Vのようにいろんな方向にもっていくということは望めない。とにかく301MMIIが目指している方向を、ぎりぎりまで生かすべきだと考えて、最初の組合せは、アンプにオンキョーのA815RXと、CDプレーヤーはパイオニアのPD5010にしてみました。
 A815RXは、同社のプリメインアンプの中で一番安いアンプですが、オンキョーが追求してきた、電源の問題の解決によるスピーカーのドライブ能力の向上が、このA815RXからも充分感じられます。この値段のアンプとしては非常に力のあるアンプですね。その分、高域にややキャラクターがついていて、繊細な品位のある音を望むと、ちょっと艶っぽかったり癖があったりという感じがしますが、301MMIIを鳴らす限りにおいては、むしろ、それがいい方向に作用して、生き生きはつらつと鳴ってくれる。A815RXと301MMIIのコンビというのは、値段的な点からいっても非常によくマッチした組合せだと思います。
 PD5010は五万九千八百円という、現在のCDプレーヤーの最低価格のところへぶつけてきたパイオニアの意欲作ですが、ソニーのD50とか、あるいはマランツのCD34とは一味違っていますね。CD34やD50は独特のコンセプトの方向に踏み切っていますが、PD5010というのは、より価格の高いCDプレーヤーのコンセプトを、ぐっと値段を下げて実現したという感じがします。音も、非常に明快でふっきれてますね。CD34のように、何か雰囲気をつくろうというのでもなければ、D50のように徹底的に、小型軽便で、音も非常に明るい方向に徹しているわけでもない。つまり、その中庸をいくというのか、非常にまともな音です。つくりも非常にまともです。実際にさわってみてびっくりしたのは、メカノイズ、サーチノイズが少ないし、アクセスが早い。上級機種に堂々と伍していけるようなフィーリングを持っていることです。
 こうしてA815RXとPD5010と並べて置くと、デザイン的にもまったく違和感がない。同じブラックで、色合いの調子も合ってるから、デザイン的にも統一されるし、当然、音的にも非常にうまくいった組合せだと思います。できるだけ値段を安くして、301MMIIの能力をフルに発揮させる、という意図が見事に成功した例です。
 二番目の組合せは、NECのプリメインアンプA10IIとCDプレーヤーCD609を使いました。NECの製品には、常に高性能ということが印象づけられる。音の情緒性、感性という点で、やや現代的過ぎて、ぼくにはついていけない面があるのもたしかです。しかし、保証された物理特性のレベルは、非常に高いものです。その保証された高いレベルの物理特性で鳴らせば、301MMIIの個性と能力が相当なレベルで発揮できるんではないかという気持ちで鳴らしてみたわけですが、非常によく合うんですね。最初の組合せ以上に、性能のいいことを感じさせる音になります。音に精巧さが加わって、ソリッドです。アキュラシーというよりも、プリサイスな感じです。最初の組合せと同じ方向の音ですけども、明らかに、こちらの方がクォリティアップしたという感じがします。
 この301MMIIのようなスピーカーになりますと、鳴らすソースがはっきりと決ってくる。例えば、マーラーのシンフォニーでいえば、今回ハイティンクの第四番と、ショルティの第二番を使ったんですが、301MMIIはショルティ盤が相応しいですね。この両者は演黄も違えば録音も全然違う。ショルティの第二番の、ロンドンのレコーディングは、徹底的に拡大鏡でオーケストラを部分的にのぞいていったような録音なんです。マルチマイクロフォンの一つの極だと言える。こういう録音は、絶対的に、あるレベル以上の性能がないと、全然生きてこない録音になる。雰囲気でフワッと聴けない音です。ところがハイティンクの方は、雰囲気がよくない装置でないと聴けないというくらいに、両者にははっきりとした録音のコンセプトの違いがあるし、演奏にもはっきりとした違いがあります。ショルティはアメリカの指揮者ではないけれど、彼の演奏というのは、極めて戦闘的で、真っすぐ猪突猛進するところがある。それと、アメリカのオーケストラとが組み合わさって、そして、ロンドンの録音でマーラーをやられると、独自の世界と言わざるを得ないくらいになる。こういうマーラーもあってもいいんだろうけれども、一方に、ハイティンク、コンセルトヘボウの、繊細緻密でロマンティックなマーラーもある。BOSEのスピーカー音は、ハイティンクのマーラーとはまったく異質だという感じがするんです。ところが、ショルティをかけると、小型スピーカーとは思えないくらいのダイナミズムを発揮して、快適な爽快感が味わえる。
 三番めの組合せも、前の二例と同じ方向を狙いますが、もう少しパワーハンドリングを上げたいと思って選んだのが、マランツのPM84です。CDプレーヤーのソニーのCDP302ESと組み合わせて鳴らした音は、前の二例と比べて少し雰囲気が出てきます。A10IIが、いわば冷徹とも言えるハイパフォーマンスな感じに対して、マランツとソニーの音は、そこに少しぬくもりとある種のしなやかさが加わってきたように思います。
 クォリティ的には互角の第二例と第三例のどちらを選ぶかとなると、徹底的な現代性というものを求めるんだったら、NEC同士の組合せの方を、そこにニュアンスを求めたいのならば、マランツとソニーの組合せ、といったところです。