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フィデリティ・リサーチ FR-1MK2

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 スクラッチノイズがよくおさえられ、聴感上の歪みも少ないし、音のバランスも良い。適度の奥行きもあるし、やわらかく、温かいきれいな音で、特にピアノの高域など、いわゆる粒の立ったというのか、タッチの明瞭な独特の美しさも感じられる。強いてあげるべき欠点も無いし、おそらく計測上の特性も相当に良いという製品なのだろうか、どういうものか聴き終わった後の印象が稀薄で、個人的には食指の動きにくい音であった。たとえば、ここにもう少しシャープな切れ味を求めたい。生き生きとした躍動感が欲しい。特にピアノやジャズでは、低域の締まりがやや不足しているし、中音域がもっと充実していて欲しい。フォルティシモでやや音が伸びきらない点も気になった。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

ナガオカ NR-I

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 かなり美しい音質をもっているのだが、どこか柳腰美人のような腺病質的な音のカートリッジだ。音の左右の拡がりは充分よく出るが奥行きが不足して、従ってやや平面的な印象を免れない。オーケストラの強奏では中低域の充実感に欠け、腰が弱いシリつき気味の音で、ハイ・エンドの上がっているような音質である。ピアノではタッチの弱さや音像の輪郭の甘いところが先に立ちすぎて、ハープシコードのような音になってしまう。弦合奏はそういう癖が逆に美しさにもなるが、ユニゾンの厚みには欠ける。ロスアンヘレスの声は割合美しく、伴奏とのコントラストもよく出る。ジャズやムードでは意外に立体感がよく出て、ややハイ上がりながらおもしろく聴ける。かなり癖の強い製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆★
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

オルトフォン SL15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 スクラッチノイズが多少強調されるし、ノイズの性質からすると必ずしも優等生的なカートリッジではなさそうだが、この音質にははなかなか魅力的なところがある。オーケストラでは、やや中域の薄い細身の音質だが、歪みが少なくよく切れ込むしフォルティシモでもよく伸びたみずみずしい音が聴ける。ピアノは丸い粒がよく揃った感じで、一音一音がキュッと引き締ったシャープな音像である。弦合奏もやや厚みを欠くがユニゾンのハーモニーが美しく、楽器の数が増える感じである。独唱、合唱は、声がわずかにやせぎみだが、ツヤっぽく魅力的だ。やや小造りだが、シャープでいて温かく、音が生き生きと奥行きを持って立体的に聴こえる。細身だが彫りの深い現代風美人といったところか。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:95
コストパフォーマンス:100

グレース F-8M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 音が幾分平面的で混濁気味になりやすい。ピーク性の音は殆んど聴かれないが、中高域の引っ込みがちの音質で、従ってオーケストラでは奥行きと厚みをやや欠いて、楽器の距離感が充分に再現されず、フォルティシモでは音が充分に伸びきらない。ピアノは、中域全般に力のないソフトタッチで、音がくしゃんとつぶれ気味。弦合奏も中高域の引っ込んだ、こもった感じでつやが余りなく躍動感に乏しい。ロスアンヘレスの声は割合良いが、やや固く金属質に響く。ヴェルディの強奏部では歪みは少なく分離も良いが、音がやや薄く平板だ。ジャズはシンバルが安っぽくなり、ギターはふくらみがなく小型になる。音の素性は悪くないが、製品としてのコントロールに難があるのではないか。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

テクニクス EPC-210C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 全部のレコードを、きわめて安定にトレースして、全く危なげのない音を聴かせてくれた。おそらく、物理特性のいいカートリッジに違いない。中音域は充実して適度の厚みがあり、温かく柔らかく、刺激も少ない。しかし、音色そのものは明るい方ではなく、やや暗く、重いところがあり、オーケストラや合唱曲では音のバランスが実に見事ではあるが、音離れが良くないというか、スピーカーの中に音がくっついてこちらまで飛んでこないというような、ややもったりしたところがある。ピアノや弦合奏でも、高域の切れ込みにもどかしさを感じるし、打楽器の衝撃音やオケのフォルティシモで十二分に伸びきらないようだ。スクラッチノイズはきわめて少なく、ほとんど耳につかない。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

サテン M-11E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 トーン・コントロールでハイ・ブーストしたような、特異なバランスの音質である。このために、すべてのレコードが、他のカートリッジと比べてまるで音質が変わってしまい、ロスアンヘレスの声などは、ことさらにハスキーになる。しかしこういう華やかで鮮明な音は、他にないだけにうまく使いこなせば貴重なのかもしれない。たとえばオーケストラでは、非常に分離の良いような、ある種のきめ細かさが出るし、ムード音楽は部屋いっぱいに音が浮き上る印象になる。ピアノの打鍵も、鈍く重くまつわりつくものがなくてスカッと抜けて、軽くよく切れ込むタッチである。要するに非常に特徴があるのだが、ここまでバランスをくずしてしまうと、何となく薄っぺらで安手な印象が先に立ってしまう。

オーケストラ:☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆★
ジャズ:☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆
総合評価:60
コストパフォーマンス:65

デンオン DL-107

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 ハイ・エンドのしゃくれ上がりは感じられないが、中高域がやや張り出し気味で、スクラッチノイズがわずかながら耳につく。こういう特性のためか総体にやや派手な、明るい印象を受ける。オーケストラは多少勇ましいという感じがあり、ピアノはきらびやかでタッチが軽く、打鍵もしっかりして切れ込みが良い。しかし弦合奏のユニゾンがややうるさく、合唱では特に中高域の張りが目立ちすぎ、内声部の温かみも欠け、ロスアンヘレスの声は、何となくハスキーがかる……というように、音のバランス上難点があった。音の性質(タチ)そのものはそう悪い方ではないのだから、おそらくもっと良くできるカートリッジのはずだ。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

フィデリティ・リサーチ FR-5E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 聴感上では中高域がややひっこみ気味で、ハイ・エンドのしゃくれ上がった特長のある音をもっているが、総じて美しいつやっぽい音質に魅力が感じられる。合唱の項目の点数だけがよくないのは、大編成のオケと混声合唱というように音の厚みを要求される曲であるのは、前記の特性の傾向ゆえか、多少ドンシャリ的な、中音域の薄っぺらな音になってしまったからで、この辺がこのカートリッジの弱点らしい。従って、時間をかけていろいろなレコードでテストすれば、あるいはもっと点数が下がるかもしれないが、今回のテストに限っていえば、歪みの少ない柔らかく美しい音、切れ込みの良いよく抜けた分離の良さ、独特のツヤっぽさ等、一応上位にランクされてよい製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

東京サウンド STC-4E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 音のバランスは仲々良く、欠点の少ない整った音質だが、音色に明るさをやや欠いて、どことなく湿り加減になる。オーケストラでは低域に適度の厚みもあり高域のキメも細かく、音の分離もいいし奥行も深みもあるのだが、何となく音がスピーカーから離れてこないような感じである。ピアノの音もバランスよく、弦合奏もよく溶け合ったハーモニーを聴かせるし、中高域もやわらかく美しい。ロスアンヘレスの声と伴奏のコントラストもよく再現される。要するに素性の良い音なのだが、行儀がよすぎるというか、躍動感とかつややかさをもっと望みたいような暗調の音質がもどかしくて、総じてフォルティシモで音がややつまるようにのびきらないところが残念に思われる。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:85

ADC ADC550E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 音のクォリティから想像すると、割合ロー・コストの製品だろうと考えられる。高音域のレンジはそう広いと思われず、中~低域の音質が重く粘るが、特に中音域に音のバランスが集中している感じで、腰の強い音がする。高域は丸く甘いのだが、レコードによっては何となくドンシャリ調になるのは、おそらく振動系のナチュラル(高域共振点)が可聴周波の割合低い方に出ているのを、無理やり押えたといった特性なのではないか。フォルティシモでは音が混濁してやや硬くなり、ピアノも声も、品に欠けるところがある。バリバリと力強い独特のねばりが特長で、周波数レンジを欲ばらないで、バランスよく、うまくまとめたという感じの音質であった。

オーケストラ:☆☆☆
ピアノ:☆☆☆
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆★
ジャズ:☆☆☆
ムード:☆☆☆
打楽器:☆☆☆
総合評価:60
コストパフォーマンス:70

グレース F-8L

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 目立った特徴も欠点も無く、ごく穏健な製品のようだ。総体に丸く甘いが聴き易い音である。ハイ・エンド(高域端)はやや上昇ぎみにもおもわれるが、ピーク性のものではなく、これが音に適度のツヤを持たせているようである。オーケストラのフォルティシモや打楽器の衝撃的な音でやや腰が弱くなるが、トレーシングも割合安定しているし、反ったレコードでも不安がない。スクラッチ・ノイズも少なく、雑音の性質は軽く、耳ざわりでない。「ツァラトゥストラ」のフォルティシモや「レクィエム」の大合唱で、音の分離が幾分物足りないこと、柔らかく聴き易いがやや薄手で、音の奥行きに不足を感じることや、強奏の部分で僅かだが音にあらさが残る点が気になった。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:85

オーディオテクニカ AT-35X

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 中高域が多少張り出す感じだが、耳ざわりなピークもなく、圧迫感のない滑らかな音を聴かせる。中低域は幾らかふくみ声のような丸い感じでおとなしいが、総体に明るい新野しっかりした音質で、音像が甘くならない。特に弦合奏はつややかでハーモニーが美しい。ピアノの音色も独特で、コロコロとタッチが明瞭。ロスアンヘレスの声はやや中抜けのような気がするが、ヴェルディの大合唱で男声がしっかりきれいにハモるのは、音のバランスに難点が少ないためだろう。ジャズはややおとなしく迫力に欠けるが、近接感を伴って楽しく聴ける。立夏如何がよく出るが大編成のフォルティシモでは、音が僅かに荒くなる傾向がなくてもない。しかしトレースは割合安定している。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:90
コストパフォーマンス:100

スペックス SD-801 EXCEL

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 これは非常に特徴ある音だ。低域の独特の厚みというか、ふてぶてしいと言いたい程の量感は一度聴いたら忘れ難い。特にジャズやムード(今回試聴に使ったディスク)の場合には、ホットなプレイを楽しむ雰囲気をかもし出す。しかしこの低域はやや重く粘って、しかも不思議なエコーがつく感じで、ピアノやベースの音離れがよくない。中域の充実感は充分だが、弦やピアノではときとしてややキャンつく傾向がある。中高音域からハイ・エンドにかけては、ダラ下りになったようなレンジの狭い感じの音質で切れ込みが物足りない。かなり低い周波数にスペクトラムを持つ重いスクラッチ・ノイズが、楽音にまつわりつくように耳障りな傾向があった。

オーケストラ:☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:90

パイオニア PC-20

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 低域から中域にかけての音域がやや弱く、高域端が上がっているようなバランスで、腰が弱いがあたりはやわらかく、耳あたりのよい音質である。繊細感も適度にあってひずみも少なく美しい。ピアノのタッチはやわらかすぎるきらいがあるが、こまかい音もよく出る。ただ、中音域の力が弱いせいか音が平面的で、ややこもり気味のところがある。弦合奏はよく溶け合うが、躍動感に欠けてきれいごとの感じ。ロスアンヘレスは多少ふくらみ声で、おもしろ味に欠けるが、耳あたりがやわらかい。ヴェルディでは、さすがに内声部の厚みに掛けて、特に男声の美しさが感じられない。総じて柔らかすぎる印象だが、バッググラウンド的に聴き流すには好適の音のように思う。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:70
コストパフォーマンス:80

パイオニア SX-100TD

岩崎千明

スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 米国でハイ・ファイ・ショーと並ぶコンシューマー・エレクトロニクス・ショー略してCEショーがこの6月下旬にニューヨークで盛大に開かれた。今年の特長はハイ・ファイ・ショー的な色彩がかなり濃く、大規模な電気メーカーの参加がなかったかわり、各メーカーの強い意欲が強烈に出ていたという。そして特に注目されたのは日本のハイ・ファイ・メーカーの著しい進出ぶりである。
 その中心はなんといってもハイ・ファイ・アンプである。この数年間、各メーカーによる米国ハイ・ファイ市場のすざましい攻勢はすでに何度も語ってきたが、その猛烈ぶりと成果が今度のCEショーでもはっきりと出てきたのである。ハイ・ファイ・ステレオ・アンプはごく一部の超高級品を除き、日本製品が市場をおさえてしまったのである。
 この猛烈なアンプの進出は、しかし一朝一夕に築かれたものではない。トランジスタの回路技術、生産性の高い、しかもクォリティと信頼性の点からも米国製品を上まわる量産技術の蓄積が今日の国産アンプを創り上げたのである。
 コンシューマー・レポート誌のテストにおいての報告によると、米市場における主力製品20種をテストした結果、性能も優れ、コスト・パーフォーマンスの点で推薦された製品の中の4種は日本製であった。
 そのひとつの詳細なテスト表をみると多くの点で圧倒的に他をしのぎオーディオ全般にわたる優れた性
能、特に歪の少なさと120ワットの大出力特性を持っていた。その名はパイオニアSX1000TAで国内向けSX100TAと諸性能は全然変ることのない輸出用製品である。これがSX100TAの名声を、国内でも一挙に高めるきっかけとなったことは間違いない。SX100TAは、その後日本においてもチューナーつきアンプのベストセラーにのし上った。
 高価な高級品に多くの魅力をおりこんでまず新シリーズを発表し、次第に普及型にその範囲をひろげていくという。いつもの方法がトランジスタ・アンプではとられなかった。それは多くの点で出おくれたが、しかし賢明な着実な戦略であった。トランジスタにつきものの、多くのトラブルや技術的難点は、まず普及型から始めることにより容易なレベルから次第に高度な技術水準に無理なく達することが可能であり、そのため製品に対するクレームは避けることができたと見られる。
 トランジスタ化によって失敗した例は限りなく、そのすべては製品の不完全さによるクレームが原因であり、パイオニアはそれをもっとも安全にさけたのである。そして、パイオニアが自信をもって世に送ったトランジスタ・アンプの豪華型こそSX100TAであった。すでにあった他社の製品をもしのぐ性能は決して隅然でもなく幸運でもない。パイオニアの技術力を示したのだ。
 今まで、トランジスタによるといわれたスティーリーな音は、探しても聞き出すことが出来ない。ウォーム・トーンといわれた管球アンプ特有の音と共通のサウンドが、片側50ワットという強烈な迫力を秘めて発揮されたのである。その音の秘密は従来のこのクラスのアンプをひとケタ下まわる歪の少なさが大きな力となっているように思われる。
 SX100TAのパネル・デザインを改め、スイッチをまとめたのがSX100TDである。米国市場にはさらにパワーアップしたSXT1500Tもあるが、チューナーつきアンプのロング・ベスト・セラーとして、世界の市場に君臨してすでに2年、この級のアンプの新型はおそらく必要ないだろう。まぎれもなく世界一のチューナー・アンプなのだから。

オーディオテクニカ AT-VM3

菅野沖彦

スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 カートリッジは手軽に差変えて使えるので、ちょっとオーディオにこった人なら2〜3個はもっているものだろう。というよりは、お金が貯って、良いカートリッジが発売されたと聞くと、つい買ってきて使ってみたくなるのが人情。事実、カートリッジを変えると良悪は別にしても音が変るからついつい、これで駄目ならあっちでは……ということになるものだ。もっとも、カートリッジというものは、それを取付けるトーンアームと一体で設計されるべきもので、うるさくいえば、先ッチョだけを変えるというのは問題がないわけではない。だから、同じアームにAとBのカートリッジをつけ変えて、Aがよかったからといって一概にAのほうが優れたカートリッジだと断定できない場合もあるのである。アームを変えたらBのほう力くよくな
る可能性もあるのだ。そこで、カートリッジを差変えて使うことのできるトーンアーム、いわゆるユニバーサル・アームは勢い高級な万能型でなければ回るわけであるが、今回のテストには英国製のSME3009を使用した。国産にも優れたアームが多数あるが、このSMEのアームは精度の高い加工とスムースな動作、ユニバーサル型としての妥当な設計、そして外国製ということで国産アームよりも客観性があると考えられるためか、研究所の測定などにも、現在ではこのアームを使うことが常識となっている。
 アームの条件について前書きが長くなってしまったが、この試聴記はSJの試聴室で実際にじっくリテストした結果なのでその条件について書いておくことも必要だと考えた。アンプやスピーカーは別掲の通り。使用レコードは新譜として各社から発売されたものの中から録音のよいものを数枚選び、さらに私自身の録音したものを何枚か聴いた。これは私にとってもっとも耳馴れたプログラム・ソースなので、その出来不出来はともかくテスターとしての私の耳には最高のプログラム・ソースだからである。
 さて肝心のオーディオ・テクニカの新製品AT−VM3だが、この製品は同社がすでに発売しているAT3というロング・ベスト・セラーに変るものとして登場させたもの。そして構造的には同社の開発したVM式という独特なムービング・マグネット型である。これは、AT35という同社の高級カートリッジで初めて実現した方式で、AT35そのものはかなり長期にわたって改良が重ねられたものだ。音の本質的なよさを認められながら帯域バランスの点でいろいろ問題があったものをコントロールして現時点ではバランスのよいカートリッジに成長した。このAT35を普及タイプとして設計しなおしたのが、このAT−VM3と考えられ、価格的にも求めやすいものになった。VM型の特長は、左右チャンネルに独立した発電機構をもつことと、振動系がワイヤーで支持され支点が明確になっていることだが、この2点は従来のMM型が指摘された問題点を独創的に改良したものである。そのためと断言してよいかどうかはわからないが、音の根本的な体質とてもいうものがVM型共通のクォリティを得ていることがわかる。つまり、きわめて明解な締った音質がその特長で、冷いとも思えぬほどソリッドなダンピングのきいた音がVMシリーズの特長である。硬質で現代的なスマートな音がする。比較試聴に使ったシュアーV15IIやエンパイヤー999、ADC10EMKIIなど世界の一級品に悟して立派な再生音が得られた。ベースの音程の分解能は特に注目に価いするものだった。ブラスの高域やシンバルが、冷いのが特長でもあり難点であるが、対価格という立場で考えれば、優秀製品として推したい。ただし、本誌では蛇足かもしれないが、弦のアンサンブルやクラシックのヴォーカルやコーラスにおいてはもうひとつ不満があることをつけ加えておこう。音響機器にハードでドライな客観性を求めるか、ソフトでウェットな個性を容認するかというオーディオの興味の焦点の一つがそれであろう。

テクニクス SU-50A (Technics50A)

菅野沖彦

スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 すばらしいスピーカーであるはずなのになんとなく音が残らない。一体どうしたんだろう。カートリッジを変えてみよう。たしかに音はよくなった。しかし、いつかよそできいたこのスピーカーはもっとしまった音で、明るく音がのびのびしていた。そうだ部屋のせいかもしれない。部屋の改造はそう簡単にはいかないから、しょうがない締らめるか……。アンプというものは純粋に電気的な動作をするもので、音響機器のパーツの中ではもっとも進歩したものだというから、アンプのせいではあるまい? なんでも、周波数特性は10Hzから100KHzまで±1dbなどというアンプが珍らしくないというし、この周波数範囲は我々の耳に聴える範囲をはるかに上廻っている。しかも±1dbということは、どの周波数ポイントでもほとんど凸凹はないということだから、特定の音の強めたり弱めたりする心配はないわけだ。出力だって、このアンプはミュージックパワー50ワットということだし、50ワットといえば大変な出力で、事実今ツマミの位置を90度ぐらい廻したところで、音量は十分だ。つまり出力にはまだまだ余裕があるっていうことだろう。そうそう、音質に害を与える最大の敵は歪だそうだが、その点でも、このアンプのカタログをみると高調波歪率0・5%以下とある。なんでも1%以下の歪ならあまり問題にならないとか本に書いてあったっけ。そうだ、ダンピング・ファクターとかいうものがあるんだっけな。どれどれ、8Ωで15以上とか書いてあるぞ。他のアンプはどうだろう。あれ? こっちのは50とある。ダンピング・ファクターは大きいほどよいとか、奴がいっていたな……? いや待てよ。本にはそうは書いてなかったぞ、ダンピング・ファクターのちがいで音が変ることは事実だが、大きいからそれだけ音がいいとは限らないと書いてあった。しかも、10以上になると20〜30になってもほとんど変化はないと書いてあったから、15あれば十分だろう。しかし、それならどうして普及品から高級品まで値段の開きが10倍にもおよぶいろいろなアンプがあるんだろう? 高いアンプは大出力のものが多いけど、ただ大きい音を出せるというだけなのだろうか? 大きい音はこれ以上必要ないんだが、音質がよくなるというのなら高いのを使ってみたいなあ……。
 こんな悩みは、オーディオに関心をもつ人の多くが経験されることだろう。アンプの値段は果して音質に大きな影響をもつものだろうか。論より証拠に、このナショナル・テクニクス50Aを使ってみたまえ。アンプがいかに音質に大きな影響を与えるものかが明瞭になるはずだ。このアンプは、ナショナル・テクニクス・シリーズ初のトランジスタ・アンプで、その回路構成は理論的によしとされている各種新回路を積極的にとり入れた最新鋭機である。トランジスタ・アンプのほとんどがOTLといって出力変成器を省いたものだが、このアンプはさらに出力段コンデンサーも取りはずしている。そのためには2電源方式を採用してバランスの安定を計るというこった方法をとっている。また増巾段の結合コンデンサーもとりのぞき全段直結回路にして多量のNFBをかけ、その安定化は2段差動増巾回路という方式によっている。その結果、低域まで非常に安定したNFBがかかり、しかも5Hzまで素直にのびたという。
 先程の疑問の中に、アンプの出力、ダンピング・ファクター、周波数特性、歪率などのスペックが出てきたけれど、たしかに、こうした物理特性は欠かすことの出来ない大切な要素で、特性はよいほどよい。しかし、特性要素というのは測定の条件によってかなりちがったものになるし、これを完全に理解することは一般には無理なことだろう。専門の技術者だって、カタログ・データからそのアンプの性能を推しはかることは不可能なのである。だからこそ、試聴室でこれを借りてきて、いろいろとテストしてみたわけだ。実に締った豊かな音のするアンプであった。アルテックのA7という大型スピーカーも、一般のブックシェルク・タイプのスピーカーも持前の本領を発揮して朗々と鳴る。それにデザインも実によい。イルミネイション式のブラック・パネルもジャズを聴く雰囲気にはピッタリ。95、000円とかなり高いが、それだけの値打はある。外国製の数十万のアンプと匹敵できる。テクニクス・シリーズの徹底した物を創るについての熱意とクラフトマンシップが伺える作品だ。レイ・ブラウンのベースののび。エルビンのドラムスのパルシヴなアタック、日野皓正のペットのハイノートの破れるような音がピリッと締って小気味よい限りであった。

サンスイ CD-5

岩崎千明

スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

「マルチ・アンプにしたいのだがまず手始めにどうしたらよいか」という質問が、やたらに多い。本誌の技術相談はもとより、時々顔を出しているメーカーや専門店のオーディオ相談などで、今までのマニア達に加えて、近頃は、これからステレオを買おうとする程度のごく若いオーディオ・ファンやジャズ・ファンなどの熱心な問合せが、マルチ・アンプに集まる。
 マルチ・アンプ方式では、プリアンプの出力を高音・中音・低音と分けるためのディバイダー・アンプが必要だが、この製品は意外と市販品に多くはない。古くからあるL社のFL15、これはクロスオーバー周波数の選び万に限度がある。現在市場にあるビクター200、ソニー4300、山水のCD3と今回発売されたCD5の4種である。あとはマイナーレーベルの局地的な製品しかない。T社は最近発売し予告されているが市場にはまだ出ていない。
 マルチ・アンプ時代としては意外に、ディバイダー・アンプの製品は少ないのである。そしてかなり初級とみられるオーディオ・マニアにも求めることができ、使いこなせることができるディバイダー・アンプは、今までは皆無であった。そして、その穴を埋めたのが今日の山水CD5である。、
 1万円台という今までの製品の1/2〜1/3の価格がまずうれしい。ディバイダー・アンプは本来、量産がむつかしいので、どうしてもコスト高になるが、山水のこの価格は、アマチュアがこれを自作する場合のパーツ代にプラスα程度の驚くべき価格なのである。おそらく、メーカー側としての狙いはマルチ・アンプ推進のためのサービス製品としてディバイダー・アンプが企画されたためではないかと思える。
 安いから普及型なのかと思うと決してそうではない。本格的なかなりのレベルを狙った製品だ。それはマルチ・アンプ方式自体が、非常に高いグレードを狙ったシステムであるだけに、文字通りそのかなめともなるべきディバイダー・アンプなのだから相当なクオリティーは絶対だ。
 まず、クロスオーバー周波数、3チャンネルのときは低音と中音の分割周波数が200、340、560、900ヘルツ、高音と中音の分割周波数が2・5K、3・6K、5K、7K各ヘルツとそれぞれ4ポイントを自由に選ぶことができる。そして2チャンネルのときは、不要側を2CHポジションにして必要周波数の1点を選んでおけば、低音がその周波数で分割される2チャンネルとなる。つまり上記のどの周波数でもひとつを自由に選び得るわけである。さらにシャーシー下部の切換スイッチで分割周波数の減衰特性をオクターブ6デシベルにも、12デシベルにも選ぶことができるというのもこまかい配慮である。使用スピーカーさえ十分広いfレンジを持っていれば、オクターブ6デジベルの方が「位相歪の点で有利」という説があり、ごく高級なマニアではそれを希望することもあるからだ。
 CD5の親切な行届いた設計はこの切換を不用意に違うポジションに切換えたりして、スピーカーを破損させたりすることのないようにロックがついていて、一度セットしたクロスオーバー周波数切換スイッチはロックを外さなければ切換えられない。音量レベルには一般の中高音にくらべて能率の低い低音スピーカー用を考慮して低音レベルは最大のままでついていないが、中音・高音が前面パネル左右別々についている。
 一般にマルチ・アンプのレベル調節はむつかしいがこのCD5には超ハイ・ファイ録音のジャズ的な、チェック・レコードが付属してアナウンスの声、ベース、ドラム、シンバルなど楽器の音を聞きながらレベル調節ができるのは嬉しい。
 SJ試聴室のアルテック・A7もCD5によるマルチ・アンプで重低音は一層迫力を増し、アーチー・シェップのファイア・ミュージックにおいて「マルコム」のデイビッド・アイゼンソンのベースに緊張感と迫真力が一段と加わるのを意識させられたのであった。

JBL SG520, SE400

瀬川冬樹

ステレオ 9月号(1969年8月発行)
「世界の名器」より

 カートリッジやテープヘッド、マイクロフォンやスピーカー等のトランスデューサー(transducer)に対して、アンプが取り扱うのは純粋に電流の増減だけで、従って、オーディオ・パーツの中でアンプは解析が最も容易な部分といわれる。たとえば、A、B二つのスピーカーを聴きくらべて音質が違うと判っても、現在の理論では、その違いが何によって生じるのかを十二分に解明することができないが、アンプの方は、たとえばAというアンプの電気特性を測定すれば、それとほとんど変らない音のアンプを再現することができる。再現はできるがしかし、アンプとはほんらいそれほど個性的な音色を持つ筈がなく、持つべきでもない。アンプの中を通って増幅されてくる音には、できるだけ色がつかないことがよい。……とおろかにもわれわれは承知してきた。たとえばマランツのアンプなどは、いかにもそういう理解が誤りではなさそうだと思わせる音質で鳴る。
 JBLとマッキントッシュのアンプの音が、そのことに疑いを抱かせた。たとえばマッキントッシュの底力のある肉づきの豊かな、JBLとくらべたらやや大味ながらグラマラスな量感を持った音質は、ほかの多くのアンプからは聴くことができない。
 そしてJBL──。小味でピリッと胡椒が利いて、いささか細身だがシャープによく切れこみ、まるで幕一枚取除いたように音量を絞ってもディテールの失われないその音質は、スコアのどんな片隅までも照し出すような、演奏会場とリスニング・ルームが直結したような錯覚をおぼえさせる。はじめてこの音に接したときの驚きといったらなかった。
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 アンプの特性は九分通り解析できる。JBLのその類のない音質も、電気特性でいえば、主として可聴周波数の上端をわずかに盛り上げた意識的な音作りの結果だと、エンジニアはしたり顔でいうが、マッキントッシュ以前に、JBL以前に、誰がこれほど魅惑的な音を作りえたか。アンプで音をこしらえてはいけないというが、それならアンプ以外のどのパートで、こういう音が作れるのか。
 作る、といっては誤解が生じるかもしれない。JBLのこの独特の切れこみは、しかし原音のイメージを損なうといったたちのものでは絶対になく、これ以上胡椒が利いたら鼻もちならないだろうといった、ギリギリのところで危うく踏み止まっている。これ以上は度が過ぎるという微妙な一線を嗅ぎ分け、その崖っ渕まで大胆に踏み出すことが、いわば「奥義」といわれる性質のものであることはいうまでもないが、そういう音質をアンプに於て、あえて作りあげたという点が、第一級のスピーカーを生み育ててきた彼等の知恵であったのだろう。JBLの中を吹き抜けてきた音には、だから不思議な清涼剤が微妙に利いて、爽やかな高原のオゾンを漂わせる。
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 もともとスピーカー・メーカーであったJBLが、アンプの市販に手を染めたのはそんなに古い話ではなく、一九六三年の秋に、いまのSE408Sの前身であるSE402が、エナージャイザー(Energizer)の名で発表されたのが最初のことだ。マランツやマッキントッシュが、まだトランジスターに踏み切りかねていた時に、JBLは最初の製品からTRアンプをひっさげて登場したわけだが、一九六五年、JBL・T回路と称する全直結のユニークな回路を採用したSE400Sの出現によって、JBLのアンプに対する評価は決定的なものとなった。さらに翌66年、プリメインのSA600が市販されて以来、JBLのすばらしい音質が広く知られるようになったわけである。
 SE400S、SE408Sは、80ワット×2の出力時にも歪(高調波歪、混変調歪とも)が0・15%という驚異的な特性が公表されているが、実測データではこれよりさらに歪が少ないと報告され、その少しの濁りもない澄んだ音質が裏づけられている。そして一般のパワーアンプと最も変っている点は、指定のイコライザー(特性の補整回路)をとりつけると、JBLの各スピーカーシステムに対して、周波数特性やダンピング・ファクターをそれぞれ最適値に調整して、スピーカーを理想的なトランスデューサーとしてドライブする。これがエナージャイザーの名称のゆえんである。
 SG520は、一九六四年に発売されたプリアンプで、ストレート・ライン型のボリュームや、イルミネーティング・プッシュボタンによって操作を視覚的に整理した、いわゆる「グラフィック・コントローラー」である。450ドルという、家庭用としては最も高価なプリアンプで、音量バランス調整用の1kHzのテスト・トーン発振器を内蔵していることはよく知られているが、SE400S(又は408S)と組み合わせ際に、リレー・コントロールF22を追加すると、aural nuL(オーラル ナル)バランシングとJBLが名付けるところの、スピーカーからの音が最少になるようセットすると音量バランスの最良点が調整できるという合理的な動作をするようになる。なお、各モデルの型番のうしろにEがつく(例=SE400SE)ものはエクスポート・モデルの意で、電源電圧が220Vと117Vに切換えられること以外、何ら変らない。
 SG520の卓抜したデザインに対して、一九六五年度のWESCON工業デザイン・コンペテーションから、最優秀賞が授与されていることも附記しておこう。

(註)トランスデューサー
エネルギー変換器のことで、たとえばオーディオでは、空気の振動(音響エネルギー)を電流(電気エネルギー)に変換(トランスデュース)するマイクロフォンとか、その逆のスピーカーなどのパーツを総称している。アンプは電流というひとつのエネルギーの増減を行うだけで、トランスデュースは行わない。

トリオ KA-6000

菅野沖彦

スイングジャーナル 8月号(1969年7月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 市販アンプのほとんどがソリッド・ステート化された今日だが、その全製品をトランジスタ一本化にもっとも早くふみ切ったのがトリオである。現在でこそ、トランジスタそのものの特性もよくなり、回路的にも安定したものが珍らしくなくなったが、トリオがそれにふみきった時点での勇気は大変なものだった。つまり同社はトランジスタ・アンプには最も豊富な経験をもったメーカーといえるのである。このKA6000は同社のアンプ群の中での代表的な高級品だが、昨年秋の発売以来、高い信頼性と万能の機能、ユニークで美しいデザインが好評で、今や国産プリ・メイン・アンプの代表といってもよい地位を確保している。
 KA6000の特長は片チャンネルの実効出力70Wという力強さに支えられた圧倒的な信頼感と細かい配慮にもとずく使いよさにある。
 アンプにはプレイヤーやテープ・デッキ、そしてチューナーなどというプログラムを接続するわけだが、そうした入力回路の設計はユティリティの豊富なほど使いよい。
 2系統のフォノ入力端子は、1つが低インピーダンス(低出力)のMC系カートリッジ用に設計され、専用トランスやヘッドアンプを必要としない便利なものだし、そのほかのライン入力端子も3回路あって十分な活用ができる。プリ・アンプ部とメイン・アンプ部の切離しも可能で今はやりのチャンネル・アンプ・システムへの発展も可能であるが、欲をいうと、この部分のメイン・アンプの入力感度がやや低い。しかし、一般のアンプと混用して使っても決定的な欠陥とはならないし、同社の製品同志でまとめる限りは全く問題はない。
 フロント・パネルはポイントになるボリューム・コントロールを大胆に大きくし、デザイン上のアクセントとすると同時に使いよさの点でも意味をもっている。高、低のトーンコントロールはステップ式でdB目盛の確度の高いものがトーン・デフィート・スイッチと同じブロックに並べられてあり、このスイッチによってトーン・キャンセル、高、低それぞれを独立させて働かせるようにも配慮されている。この辺はいかにマニア好みだし、使いこめば大変便利なものだ。スピーカー端子は2回路あり、2組のシステムを単独に、あるいは同時に鳴らすことができる。ラウドネス・コントロール、高域、低域のカット・フィルター、−20dBのミューティング・スイッチがパネルの右上部に鍵盤型のスイッチでまとめられ使いやすく、また見た目にもスマートである。入力切換のパイロットがブルーに輝やきフォーン・ジャックを中心に左右にシンメトリックに3つずつ並び、使い手の楽しさを助長してくれているのも魅力。
 このような外面的な特徴はともかくとして、肝心の音だが、私は、この製品を初めにも書いたように、安定した大出カドライヴ・アンプの最右翼に置くことをためらわない。国産同機種アンプを同時比較した結果でもそれは確認できた。ジャズのように、きわめて強力な衝撃的な入力には絶対腰くだけのしない堂々たる再生が可能であるし、ソリッドで輝やきのある音質もジャズ・ファンの期待に十分応えるものと思う。出力の点でも、また、価格的にも、相当パワーに余裕のあるスピーカー・システムとの共用が望ましく、本格的ジャズ・オーディオ・マニアの間で好評なもの当然のことだと思う。デザイン的に統一された同社のKT7000チューナーとのコンビでは最高のFM受信再生が可能であり、相当な高額商品だが、その支出に十分見合った結果は保証してよいと思う。

パイオニア PAX-A30

岩崎千明

スイングジャーナル 8月号(1969年7月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 日本でのロング・ベスト・セラーはトヨタの「コロナ」シリーズと、パイオニアの「PAX」シリーズだといったやつがいた。カー・マニアでオーディア・マニアだった。
 どちらも若者の心を捉えるベスト・セラーという点で共通点がある。しかし、PAXシリーズには欠陥があるわけではない。今度、Aシリーズとして全面的に改良された。PAX30Aはその新シリーズの中で最大口径の、最高級製品である。
 PAXシリーズは、ステレオ以前の昔に端を発する。バイオニアのトゥイーターをウーファーの軸上に配したコアキシャル・タイプということでPAXと名付けられた。PAXシリーズが、もっともポピュラーとなったのは30センチのPAX30Bという傑作のあと、20cmのPAX20Aの出現によってであった。PAX20Aはステレオ期に突入した時期にあって、比較的小さい箱で、十分な低音が出せることで当時のベスト・セラーだった。その後、国産スピーカーはこのPAX20Aをイミッた製品が多く出たことが、いかに売れたかを意味しよう。Aという字がついているが、今度のAシリーズとは違う製品だ。PAXシリーズはその後、Fシリーズとして大幅な改良をされた。このFシリーズの改良点は、特に低音特性をさらに低域にのばすことを自的としていた。その効果は実に明瞭で従来のいかなるスピーカーの低音よりも重低音の迫力がものすごかった。
 そして、またまた、このFシリーズの成功はスピーカー・メーカーの各社を刺激しこれと似たスピーカーがはんらんした。現在のスピーカー・ユニットは大半がこのFシリーズのウーファーとほぼ同じ狙いである。
 今回の新シリーズAタイプはどんな点を狙って改良されたのであろうか。ひと口にいうのはむつかしいが、音のアタックが一段と冴えたことからその多くを判断できる。
 最初にこのスピーカーに接した時は日本製のスピーカーから出てる音とは思えなかった。それほどに国産の今までのスピーカーとは音の鮮かさの点でひらきがあった。それはレコードの音とマスター・テープの音との差ほどに違った印象を受けた。それは、私のいつも使っているJBL・C40オリジナル・ホーンに組み込まれたD130の中低域から低域にかけての鮮かさとあまりにも酷似していたのであった。
 PAX新シリーズの30cm口径のPAX−A30を筆頭に、PAX−A25、PAX−A20、PAX−A16とあるが特にこのA30はスケールの大きさでも、38cm級の外国製とくらべて、ひけをとらない。A25の方が全体のバランスがよいという声も聞くが、スケールの大きさ、圧倒的な迫力という点では口径の大きなA30の方に一段と優る点が認められる。従来の低f0型の重低音本位のスピーカーが、中低音域にやや物足りなさを覚えるのに対し、新Aシリーズでは、音域がきわめて充実しており、その鮮列なアタックこそ最も優れている点といえるのである。これは米国のコーン製造技術を導入して得た新たしいコーンによるところが大であったことも付加えておこう。
 それに加えて、このAシリーズのもうひとつの特長は高音の指向特性の優れている点である。事実このスピーカーとマルチ・スピーカー・システムとを切換えると音場の定位が、きりりとひきしまって、くっきりした楽器の定位が認められるのである。数少ない国産のステレオ・モニター用スピーカーといわれるのはこの高域のずばぬけた指向特性による所が大きい。
 PAXシリーズの真価は、今後ますます広く認められ、新しいスピーカーの路線として注目されることは間違いないであろう。

デュアル 1019

岩崎千明

スイングジャーナル 6月号(1969年5月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 つや消しみがきの白く光る金属肌と黒のつや消しのツートーンのガッチリしたメカニックなデザインで仕上げられたやや小ぶりのオートマチック・チェンジャー。それが、この3年間、米国ハイ・ファイ市場のプレイヤー分野をわがもの顔に独占しているDUAL1019である。
 小型回転機器はキャリアに優る欧州製品が、常に米国市場を席巻していた。永い間、英国ガラードの製品が、そうであったし、最近では、ARXAという簡易型プレイヤー以外は、このデュアルの製品だ。
 67年も68年にも込めコンシューマー・レポート誌ではレコード・チェンジャーを採り上げているが、その65年以来続けて A Best Buy に選ばれているのはDUAL1019だけである。
 デュアルの良さは、ひとくちにいって、そのメカニズムの完全さと、ユーザーの立場ですべてを考えられた扱いやすさである。メカニズムの完全さ、口でいうとやさしいが、量産製品にとってこんな大へんな話はない。ひとつだけを精密に作ることはできても同じ精密さをそろえるのはすごく高くついてしまう。
 アームのスタート点、カット点は0・1mm以下精度を要求され、量産オートチェンジャーの難点のひとつが、デュアルにはこの点でもむらは全然見当たらない。
 デュアルならではの扱いやすさ、これは圧倒的なメリットだ。米国人に受けているのも、その実質的な扱いやすさからだ。扱いやすさというのは、プレイヤーとしてチェンジャーとしての根本的なメーカーサイドの姿勢によるものだ。今までの考え方、見方からは生れてこない。そして、それを実現するためには高い精度によって裏付けされた優れた機械工作技術が条件となっている。
 その実例をコンシューマー・レポート誌は、68年8月号でこう述べている。振動回転むら、回転数の偏差はごくわずかで問題にならない……。米国の数多くのプレイヤーの中でこう評価を受けているのはARXAとDUAL1019だけである。
 その使い良さの端的な例を上げてみよう。アンプのボリュームを、しぼらずに、アームをアームレスト(受け台)に落とすとき、普通はカタンとかカチとかスピーカーから、ショック音が出るものである。アームを指でなでると、スピーカーからサーサーと雑音が出る。これは市販の最近のアームのすべてにいえる程度の差こそあれそうでないアームはまずない。ところがデュアルにはこれがない。カートリッジ・シェルをさわる、たたく、こんなことはアンプのボリュームをしぼらずには禁物だった。デュアルは雑音はほんの僅かで気になるほどではない。一見チャチな感じさえするストレート・パイプ・アームは何の変哲もないようにみえていて、ここまで考えて作られている。
 デュアルにはオートチェンジャーであるのにそこまで扱いやすさを考えている。ケースに装備されたままケースをたたいてみる。……なんていうことは、針飛びして国産品はおろか、舶来品でも禁物だ。ところがデュアルでは所ックにもびくともせずトレースも安定だ。しかもおどろくのはそのとき針圧1g。3箇所のピラミッド型の3回捲いた支えスプリングがショックを吸収している。
 ベンツを生みワーゲンを創った西独の機械工業技術が、プレイヤーに結晶した。といえそうなのがこのデュアルなのである。
 オートチェンジャーでありながら0・7gまでの針圧でトレースが可能という高級プレイヤーとしての高性能にプロ用を思わすメカニックなデザインで今後ますます愛用者も増すことであろうと思われるデュアル1019である。

トリオ KT-7000

岩崎千明

スイングジャーナル 6月号(1969年5月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 本放送をきっかけに「絢爛たるFM放送時代」がやってくる。
 音楽ファンにとってFM放送はレコード以上のミュージック・ソースですらある。ある意味というのは、レコードのように金を出してそれを買う必要がない点と放送局用の標準仕様のレコード・プレイヤーや高級テープメカニズムによって演奏される点できわめて品位の高い「音」をそなえているところにある。
 FM放送の高水準の音質をそのまま再現することは多くの点でたいへんむずかしい問題を含んでいる。ただ従来はメーカーがそれをほおかぶりしてきたに過ぎない。それというのもFMの音が本質的にすぐれていたため、多くの点でイージーに妥協して設計された受信回路によってもかなり優れた再生を期待できえたのであり、それがFM放送の良い音だと思われていたすべてであった。
 たとえば高域のfレンジの広さを考えてみよう。放送で聞いたローチのシンバルとくらべ、同じレコードの音の方がずっと鮮かであるのが常であった。そして、これは局側て放送波になるまでの多くの過程をへたことに起因するのと思いこまれていた。これはなにも技術を知らない者だけでなく、高い技術的知識を持ったオーディオ・マニアでさえそう信じていたのてある。
 トリオからKT7000の予告があったとき、私はその技術的すべてが信じられなかった。その実物をみるまで、予告されたクリスタル・フィルター+ICという回路は、あくまでも宣伝のメリットであるにすぎないだろうとたかをくっていた。’68年代に入ってから米国のレシーバーの多くにICが採用されてきたが、それはICの良さを発揮するというよりも、あくまて宣伝上のうたい文句であったことからそう思っていたのである。ICによってトランジスターと比べものにならぬほど高い増幅度を得ることができるのは確かだが、それはいままでの回路常識によっては本当の良さを発揮できず、集中同調回路、または理想的なクリスタ・ルフィルターと併用してこそ本当にすぐれた回路構成ができることを私は知っていたのである。そして、その通りの理想的構成をKT7000はそなえていた。KT7000を初めて見たのは内輪の発表会ではあったが、その後メーカーを訪ずれた際、その全貌をじっくりみせてもらうことができた。
 その技術的レベルの高さ! ここにはまぎれもなく世界最高水準のFM受信回路が秘められていた。それもクリスタル・フィルター+ICのIF回路だけでなく、いたるところ、チューナー・フロント・エンドにもマルチアダプター回路にも新しい技術が、周到な準備を棟重ねた上でのきめこまかい配慮によってびっしリと織りこまれていることを確かめたのであった。
 この高い技術に支えられたKT7000の優秀さは、ほどなく行なわれたオーディオ各誌の市販チューナー鳴き合せでもいかんなく発揮された。国産中はおろか、はるかに高価な海外製品とくらべても一歩も譲るところなく、それに上まわる結果を示し、米国市場において、もっとも多量のFMチューナーを提供してきた実績を持つトリオの真価を発揮したのである。
 私の耳によって確かめた優秀さの実際をひとつだけ記しておこう。
 ステレオ放送の初め片チャンネルからのみ音を出す準備の音だしの際、音のでていないはずのもう一方のチャンネルの音量だけあげて聞いてみる。KT7000の以外のチューナーの多くは、もれた音が歪っぼく聞けるのに、KT7000ては優れたセパレーションがもれを極端に少なく押え、その音はいささかも歪ぽい感じを受けない。これはIF特性、マルチ回路全体の優れた位相特性のたまものであり、KT7000によってそれが初めて実現されたといえるのである。
 6万円近い高価な価格も、技術とその音を聞けば、お買徳品てあることは間達いなく、ベスト・セラーになるだろう。

フィデリティ・リサーチ FR-5

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1969年5月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 カートリッジが再生装置の入口として大切なことは今さらいうまでもない。確実にレコードの音溝に刻まれた振動を検出して、素直に電気エネルギーに変換するのが役目である溝を針がたどって、そのふれを発電素子に伝えるという点ではどのカートリッジも同じ方法によっている。つまりカンチレパーといわれるパイプの棒の先に針がついていて、その反対側にマグネットなりコイルなりあるいはその他のエネルギ一変換に必要な物体がついているわけだ。その材質や形状には各設計者の意図や技術が反影していて千差万別だが、基本構造には変りがない。この振動体を弾性体て支えて、針先が常に所定の位置を保つようになっているがこれをダンパーといっている。これらを総称して振動系というが、この振動系の設計製造がカートリッジの特性をほぼ決定するのである。これを電気エネルギ一に変換する変換系にはいろいろな方式があるが、まず振動系が正しく働かなければ、そのあとにいかなる忠実な変換系を用意してもまったく無意味である。MMとかMCとか、あるいは光電子式とかいったカートリッジの種類はすべて変換系についての分類であるが、こうしたタイプの差だけをもってどれがよいか悪いかを決めこむことは出来ないという理由がここにある。
 フィデリティ・リサーチというピックアップ専門メーカーは従来その代表作FR1シリーズで高い信頼を得てきたメーカーである。FR1は改良型MK2になってますます力を発揮し、最高級カートリッジとして広く認められている。このFR1系はMC型であったから、FRといえばMCカートリッジという印象をもっておられる方もあるだろう。同社は古くからMM型の開発もしていたらしいが、製品として市場に登場するのはこのFR5が初めてである。MM、MCというタイプの違いこそあれ、FRの専門メーカーとしてのキメの細い設計製造技術は、まず振動系の完成度の高さに特徴があると思われ、このMM型の出現には大きな期待が寄せられた。
 MM型はMC型に対して使用上いくつかの利点をもっている。まず、出力電圧が高く、そのまま普通のアンプに接続できること、次に針先の交換が容易であることなどである。商品として大量生産向きであることもひとつのメリットだが、これはメーカー・サイドの問題である。そして、このFR5はMM型とはいえ、本体内のコイルのターンニングが特殊で、あまり量産向きではない。このMM型はいかにもFRらしい、こった設計でマニア向けの高級品といえる。磁性体の歪については、すでにFRT3という整合トランスで立証済の高い技術力をもつFRだから低歪率のMM型カートリッジの出現となったのも不思議ではない。ここへくると話は変換系の問題になるのだが、水準以上の振動系が出来上ると変換系の直線性も問題になってくるのである。ひらたくいえば、正確に楽器をたたくテクニックが完成してこそ次に音楽性の問題がでてくるようなものだ。もっとも音楽性のない奴はテクニックも完成しにくいように、カートリッジも変換系と振動系は密接な関係があって実際には2つを分けて考えるのが難しい。ある種の変換系では振動系を理想的にもっていけないという制約もある。その点、MC、MMといった方式では非常に高度なものを実現化できるのである。FR1の追求によって生れた高い機械的技術と磁性歪に関する豊富な資料が生んだこのFR5はMMカートリッジに新風を吹きこむものだ。
 音質は非常にクリアーで歪が少ない。これはジャズのプログラム・ソースに対してはパンチの欠けた弱々しい印象につながる場合もあるかもしれない。特にある種のルディ・ヴァン・ゲルダーの録音のように、どす黒い凄みのある音には品がよすぎるようだ。しかし、物理的に歪の少い高度な録音、たとえばボブ・シンプソンのO・ピーターソンの録音とかコンテンポラリーのロイ・デュナンのものなどには真価を発揮する。のびきった高域特性が保証するシンバルのハーモニックスの美しさ、デリケートな息使いの手にとるような再現が見事であった。

パイオニア SA-70

菅野沖彦

スイングジャーナル 5月号(1969年4月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 プリ・メイン・アンプSA70はパイオニアが新しく発売した一連のアンプの中の一つで、求めやすい価格で高級アンプの機能をそなえた注目の製品である。アンプの形式として、プリ・メイン型は最も人気のあるものだし、事実、使いやすさの点でもセパレート型や一体型の綜合アンプよりも好ましい。プリとメインの独立したセパレート型は、それなりに設計上の理由があるはずだが、市販製品のすべてがそうした必然性から生れてきたものばかりともいえない。プリとメインが一体になっていて感じる不都合さはないといってもよいほどなのである。ただし、それにはプリ部とパワー部とが切離すことができるというのが条件であるが、この点でも最近のプリとメイン型は考慮がされているし、このSA70は後で述べるが、特にこの点には細かい気の配ばられた設計である。一方、チューナーつきの綜合アンプ、いわゆるレシーバーと称されるものも、ほとんどの場合、別に不都合はないのだが、チューナーを使わない時にも電源が入っていて働いているといったことや、配置の変化や機能的な制約などで不満がでることもある。また、なんといっても、各種単体パーツを自由に選択し使いこなすといったマニア心理からすれば綜合型は向かないだろう。そんなわけで、アンプの主力がプリ・メイン型となったわけだろうが、ここ当分はこのタイプの全盛時代が続きそうである。当然のことだが、このタイプのアンプには各社が最も力を入れていて種類も豊富だし、性能のよいものが多いのである。そうした状況下で発売されたのが、SA70とSA90だが、共にパイオニアとしては初の本格的なTRプリ・メイン・アンプなのである。同社がこの製品にかける熱意がよくうかがえる力作だ。まず音質についてだが、大変好ましいバランスをもっていて、高域の癖がなく自然な再現が得られ、中低域の量感が豊かで暖い。切れこみのよい解像力は音像がくっきりと浮彫りにされて快い。パワーも十分余裕があって、能率のよくないブックシェルフ・タイプのスピーカー・システムでも思う存分ドライヴすることができる。この価格として考えると大変プライス・パフォーマンスの優れた、まさにお買徳品といった印象が強い。
 このアンプの機能的特長としては最高級アンプと同等の、ないしは、かつてのアンプにはない、豊富なユティリティを持ち、アイディア豊かな、そしてユーザーの立場に立った親切な設計が感じられる。その最たる点はプリ・アンプ部とメイン・アンプ部とのジャンクションである。最近のプリ・メイン型はすでに書いたようにプリとメインを切り離して独立させて使えるようにジャンパー・ターミナルのついたものが多くなったが、特にこの製品では、プリ・アンプの出力を大きくとって単体として使いやすいように工夫されている。スイッチによって、結合状態と分離状態とで入出力のゲイン・コントロールをバランスさせているのが興味深い。これは、後日チャンネル・アンプ・システムなどに発展させるにあたって便利である。プリ・アンプの出力とメイン・アンプの入力レベルの規格が各メーカーによって異る場合にも心配がない。さらに、フォノの入力は2系統で、フォノ2は前面パネルに設けられたプッシュ・ボタンでMCカートリッジ用の入力回路に切り換えられるし、−20dbのミューティング、2組のスピーカーの切換と同時駆動スイッチなど万全のアクセサリーだ。トーン・コントロールは3dbステップのスイッチ式というように、なかなかこっていて、いかにもマニアの心理を知りつくしたサービス精神にあふれている。
 短時間ではあったが使ってみて感じたことは、最近の製品の共通した特長であるパワー・スイッチとスピーカー切換スイッチの共通は必らずしも便利とは云い切れないこと、モード切換スイッチのST、L、R、L+Rの順序は
ST、L+R、L、Rのほうが使いよいと思ったぐらいで、非常に使いよく、デザインも美しく、コンパクトなサイズとよくバランスして愛着を感じるに十分な雰囲気をもったまとまりである。全予算を10〜15万円位にとった時のアンプとして最適のものだし、将来のグレード・アップにも立派にフォローできる。