トリオ KA-6000

菅野沖彦

スイングジャーナル 8月号(1969年7月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 市販アンプのほとんどがソリッド・ステート化された今日だが、その全製品をトランジスタ一本化にもっとも早くふみ切ったのがトリオである。現在でこそ、トランジスタそのものの特性もよくなり、回路的にも安定したものが珍らしくなくなったが、トリオがそれにふみきった時点での勇気は大変なものだった。つまり同社はトランジスタ・アンプには最も豊富な経験をもったメーカーといえるのである。このKA6000は同社のアンプ群の中での代表的な高級品だが、昨年秋の発売以来、高い信頼性と万能の機能、ユニークで美しいデザインが好評で、今や国産プリ・メイン・アンプの代表といってもよい地位を確保している。
 KA6000の特長は片チャンネルの実効出力70Wという力強さに支えられた圧倒的な信頼感と細かい配慮にもとずく使いよさにある。
 アンプにはプレイヤーやテープ・デッキ、そしてチューナーなどというプログラムを接続するわけだが、そうした入力回路の設計はユティリティの豊富なほど使いよい。
 2系統のフォノ入力端子は、1つが低インピーダンス(低出力)のMC系カートリッジ用に設計され、専用トランスやヘッドアンプを必要としない便利なものだし、そのほかのライン入力端子も3回路あって十分な活用ができる。プリ・アンプ部とメイン・アンプ部の切離しも可能で今はやりのチャンネル・アンプ・システムへの発展も可能であるが、欲をいうと、この部分のメイン・アンプの入力感度がやや低い。しかし、一般のアンプと混用して使っても決定的な欠陥とはならないし、同社の製品同志でまとめる限りは全く問題はない。
 フロント・パネルはポイントになるボリューム・コントロールを大胆に大きくし、デザイン上のアクセントとすると同時に使いよさの点でも意味をもっている。高、低のトーンコントロールはステップ式でdB目盛の確度の高いものがトーン・デフィート・スイッチと同じブロックに並べられてあり、このスイッチによってトーン・キャンセル、高、低それぞれを独立させて働かせるようにも配慮されている。この辺はいかにマニア好みだし、使いこめば大変便利なものだ。スピーカー端子は2回路あり、2組のシステムを単独に、あるいは同時に鳴らすことができる。ラウドネス・コントロール、高域、低域のカット・フィルター、−20dBのミューティング・スイッチがパネルの右上部に鍵盤型のスイッチでまとめられ使いやすく、また見た目にもスマートである。入力切換のパイロットがブルーに輝やきフォーン・ジャックを中心に左右にシンメトリックに3つずつ並び、使い手の楽しさを助長してくれているのも魅力。
 このような外面的な特徴はともかくとして、肝心の音だが、私は、この製品を初めにも書いたように、安定した大出カドライヴ・アンプの最右翼に置くことをためらわない。国産同機種アンプを同時比較した結果でもそれは確認できた。ジャズのように、きわめて強力な衝撃的な入力には絶対腰くだけのしない堂々たる再生が可能であるし、ソリッドで輝やきのある音質もジャズ・ファンの期待に十分応えるものと思う。出力の点でも、また、価格的にも、相当パワーに余裕のあるスピーカー・システムとの共用が望ましく、本格的ジャズ・オーディオ・マニアの間で好評なもの当然のことだと思う。デザイン的に統一された同社のKT7000チューナーとのコンビでは最高のFM受信再生が可能であり、相当な高額商品だが、その支出に十分見合った結果は保証してよいと思う。

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