パイオニアのカセットデッキT3300、オープンリールデッキT6100、T6600、T8800の広告
(スイングジャーナル 1970年9月号掲載)
Category Archives: テープデッキ関係 - Page 25
アカイ X-2000SD
アカイ CR-80D
ティアック A-2300
菅野沖彦
スイングジャーナル 9月号(1970年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
4トラック・オープン・リールのテープ・デッキは、FM本放送にともなって増々その需要を高めているらしい。家庭用のステレオ・テープ・レコーダーとして、この4トラックの往復2チャンネル録音再生という規格は完全に定着した。もちろん、カセット式の高性能化、普及化など、常に新たな規格の製品が開発されていて、いろいろな面で落着きのない、刺激の強い、流動的なテープ界ではあるが、その中で一つ一つ残っていくものが標準と呼ぶにふさわしいメリットを持っている。テープ自体の高性能化はこれからもどんどん進むだろうから、今までのものより、より小単位面積で、より低速で同等の性能が得られる方向へいくであろう。しかし、常に時間当りの単位面積の大きなテープが有利であることはうたがいないので、ハイ・ファイ用のテープとしては現在の6mm巾に4トラックの録音帯を持つものが当分その地位を占めるだろう。テープ・スピードも、19cm、9.5cmというのが高品質の録音再生用として標準的なところである。
ところで、ティアックは、この4トラック、2チャンネルのテープ・デッキの普及の一翼をになって来た強力な専門メーカーだが、今度発売された新製品A2300は、今迄の技術の蓄積を生かして、もっともシンプルでオーソドックスなデッキとしてまとめ上げたという感じのする製品である。
まず、このデッキのフューチャーをみると、3モーター、3ヘッド式という高級テープレコーダーの標準モデルといってもよい構造である。したがって、オート・リバースはなく、往復動作はテープリールのかけかえでおこなう。つまり余計なものを排して基本性能を追求しようという開発精神がここにうかがえる。業務用のテレコはすべてこの形式によっているが、それは.テープ巾を片道だけで使い切ってしまうためもある。4トラックの場合はこの点でオートリバース機構の必然性があるのだが、実際に使ってみれば便利だが、必らずほしいという機構でもない。レコードだって裏返えすのが当然で、それほどわずらわしくもないし、テープリールのかけかえをいとうようなら、そもそもオープン・リール式のテープの高性能を追かけるという本筋からはずれているようにも思える。つまり高性能を追求することと、簡便さとはどうしてもうらはらなのである。また、オートリバースは録音再生両方に使えるものならよいが、高級機の録再独立ヘッド型では、再生だけのオートリバースがほとんどだ。しかし、本当にオート・リバースがほしいのはむしろ録音のほうだといってもよいのである。FM放送などで、連続的なプログラムを出来るだけ中断することなく録音したい時にこそ、オート・リバースは威力を発揮する。待ったをしてくれないプログラムで、あわててリールをかけかえるのはかなり骨が折れる。そこへいくと再生のオートリバースは便利この上ないが、ゆっくりかけかえても別にどうということはない。オート・リバース機能については人それぞれの考え方もあろうが、私としては再生には絶対必要とは思われないのである。とすれば、独立型の3ヘッド・タイプについてはオート・リバースのメリットがあまり認められないわけで、このA2300のような機構は大変好ましい。
3モーターなので、その操作性、動作の確実性はすばらしく、特にリレーとロータリー・スイッチの組合せによるコントロールは合理的であるし、きわめて使いよい。いちいちその使用方法を書くスペースがないが、使いこなし次第で大変便利だ。
使う身になった細かい配慮はテープデッキの専門メーカーにふさわしいもので、リール台の高さ調整もその一つ。またサービス性の向上も、メインテナンスの上での大きなメリットだ。そして特質すべきはロー・ノイズ・タイプのテープに対するバイアス量の変化をスイッチで切換えている点だが、その値が実に巧みに設定されているようで、バイアス量の変化によるピーキングを上手にバランスさせて、広い適応性を与え、スコッチ203、ソニーSLH、BASF35LHなどのロー・ノイズ・タイプに平均した動作で音質的にも妥当なバランスを得ているのである。最大の難点としては高級感がそのデザイン上にうまく表現しきれなかったことぐらいである。とにかく実力のある優秀なデッキであった。
ルボックス A77
菅野沖彦
スイングジャーナル 9月号(1970年8月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より
アメリカのアンペックスに対して、ヨーロッパのスチューダーはテレコ器の両雄である。そのウィリー・スチューダー社が製作しているアマチュア用の高級機がレボックスである。G36という管球式のエレクトロニックスを内蔵した製品が、音にうるさい日本のマニア間で高く評価され、4TR、2CHテープデッキの最高級器として君臨していた。このG36に変ってエレクトロニックスがソリッド・ステート化され、それに伴って全面的にモデル・チェンジを受けて登場したのがA77である。外観的には直線が強調され、G36の丸味をもった重厚さに変って、シャープなメカニズムを思わせるスタイリングをもっている。全面的にプラスチック・パネルを使っているのは好みに合わないし、そのデザインも私個人としては決して好きなほうではない。しかし、その性能の高さ、音質のすばらしさ、メカニズムの信頼性では、世界の一級品としての貫録を認めざるを得ないのである。
A77はスイスの精密機械技術をもって仕上げられ、その機械特性の優秀さが第一にあげられる。ワウ・フラは19cm/secで0・08%、9・5cm/secでも0・1%という値だが、実際に使ってみて聴感で検知できるものではない。そして、モーター自体も振動が少く、目の前で操作しても、まず機械音はほとんど気にならない静かさだ。テレコのモーターのS/Nは機械特性に大きく影響をもつものだし、家庭用としてそばで音を立てられるのは不愉快である。テープの走行は大変安定し、モジュレイションの少い透明なピアニシモが得られる。周波数特性は、19cm/sec、
30Hz〜20、000Hzの範囲をカヴァーし、よく調整されたものなら±1dBに入るであろう。なによりも、その音質のすばらしさをとるべきで、実にバランスのとれた広いDレンジを感じさせる余裕をもっている。3モーター式のコントロールは全て電子式でブッシュ・ボタンによるスムースなものであることは勿論だが、3モーター式としてはテープ・ローディングが大変楽におこなえるのがありがたい。ワン・モーター式と思えるようなシンプルさであって、この辺にスチューダー社の家庭用機器として充分検討した設計意図が伺えるように思う。モーター式では必らずインピーダンス・ローラーやテンション・レバーがあってテープ走行の安定を計っているのだが、このデッキではこれをく取り去ってししまっているのである。これは、キャプスタンをダイレクトに駆動するモーターの精度がいかに高く優秀な性能を確保しているか、また、サプライ、テイク・アップのモーター類のバランスがいかによくとられているかの証明である。キャプスタン・モーターには精巧なサーボ・モーターが使われている。オート・リバース機構はなく、3ヘッド、3モーターのオーソドックスな機構に徹している。ライト・ビーム・センシング方式の自動停止装置があるからリールのかけかえには便利である。A77のバリエーションで、10号リールが38cm/secでドライヴされるモデルHS77があるが、特性、音質は同じライン上にあることはもちろんだ。ただ38cm/secの特性向上が得られ、高級マニア向として喜ばれる存在である。
価格的には、かなり高価ではあるが、このスチューダー社の名器はそれだけの価値をもっている。もちろん、国産高級器がこれに劣るものではないが、機械としての雰囲気や風格の差、音質の独自性などに求める価値を見出すであろう。優秀な特性に裏付けられながら、滲みでる個性的魅力、これは私たちの心にあるエキゾティズムへのあこがれとだけと思えない。音楽に血が流れ生命感が躍動する音なのである。
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