Category Archives: アンプ関係 - Page 9

マイ・フェアリーオーディオ

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「Music Consolette 偶然の結晶を求めて」より

 白金台にある古い住宅街のはずれに、白い高層マンションがある。その十二階に彼女の部屋はあった。
 さきほどまで耳を圧していた都会の暗騒音は夜の闇に吸い取られたみたいにすっかり消え、濃紺の夜空に影絵のようにひろがる雑木林のシルエットがときおりふきぬける風にかすかにざわめく音しか聞こえなかった。
 エレベーターを十二階で降り、絨毯をしきつめた廊下を歩く。彼女の部屋は廊下のつきあたりにあった。
 2LDKのすっきりした部屋の中は、あからさまに女の子の部屋であることをしめす象徴的なものは何もなく、うまく冷たさと暖かさを均衡させた空間だった。
 板張のフロアーには寒色系の色をつかった精緻な幾何学模様が織りこまれたファブリックのソファが、弧を描くようにしてゆったりと置いてあり、北と西側の壁全体が窓になっている。大都会の夜が目の前に広がり、闇に浮かびあがるようにして見える東京タワーには昼間の姿とは違った美しさがあることに気付く。
 反対側の真っ白な壁には、シックなリトグラフが掛かっていた。
 彼女は翻訳の仕事をしながら、雑誌にエッセイや詩を書いているフリーランス・ライターだ。外交官を父にもついわゆる帰国子女だった彼女は、語学力をいかし大学大学中から翻訳の仕事をしていた。
 僕が知ってるのはその頃からの彼女だ。1941年、早春のウーズ河に身を投じ自殺した英国の女流作家、ヴァージニア・ウルフの著作The Waves『波』という作品が一番すきだという彼女。
象徴散文詩といわれる繊細であやうい詩的な世界を好む彼女は、まだ二十三歳になったばかり。ほっそりとした、やや背の高い女の子だ。以前から今様の即物的な価値観からは距離を置いたところにひっそりと潜行した、いわばミニマルマイノリティーな存在だった。
 リトグラフがかかった壁に接するもう一方の壁には、B&Oのウォール・ハンキングタイプのスピーカーが、まるでなにかの抽象絵画か彫刻のようにとりつけられていた。
 サイドボードの上には同じB&OのレシーバーとCDプレーヤーがあった。
 漆黒とクロームの面で構成された直線的で清潔なフォルムには一見、無機的で人工的な感じがあるけれど、なぜか柔らかな部屋の空気にも自然に溶け込んでいた。
 僕は部屋に入った時からその存在に気付いていたが、いったいどんな経緯でB&Oのシステムがこの部屋に収まることになったのか、あえて訊ねなかった。以前は、もっと大袈裟で神経質な音を出す装置があったはずなのだ。
 彼女もそれについて、いちいち説明や弁明をすることはなかった。
 テーブルの上には細長く精巧な感じのするリモコンが置いてある。彼女は華奢な腕をのばし、繊細な指つかいでそっとそのボタンに触れた。
 ほどよい音量で音楽が鳴りはじめる。
「ティム・ストーリーのグラス・グリーンというアルバムなの。飲み物は何がいい?」
 僕は水割りをもらうことにした。
「彼が先週ヨーロッパで買ってきたロイヤル・サリュートがあるんだけど、それでいいかしら?」
 僕は黙って頷いた。
 金属成分が多いクリスタルグラスの冷たい透明感が琥珀色な液体をきりっと引き締めるようにして包み込む。
 恐る恐る一口、舐めるようにして舌の上でころがしてみた。トロっとした絶妙の味わい。そして濃縮された税金の味がうっすらと喉に残った。
 彼の存在は僕もよく知っている。
 来月、カメラマンである彼の三冊目の写真集が発刊される予定だが、僕の手元にはすでに彼自身から送られた、その写真集があった。
「『写真なんていうのはね、見る人の皮膚や神経に現実的な存在感の印象をダイレクトに刻み込んでくれる。だから、無意識にものを眺めているときの視覚より鋭利に対象にくいこむんだ』たしか、そんな風に言ってたっけ」
 彼女を手に持ったグラスの氷をときおり細い指でつつきながら、そのことについてじっと考えていた。
「多分、ファインダーを通して眼に映ったものだけは彼の網膜で記号化され、きちんと記録されるのね……二進法の記憶」彼女はたしかそんな風に言った。
 僕は水割りをすすりながら、しばらく黙ってその事の意味を考えてみた。
 その時、彼の写真集の表紙になっていた北欧のとある風景が目に浮かび、スピーカーがかなでるティム・ストーリーのピアノの響きがそこに霞のようにひろがった。
 透明感を大切にした音造りには、儚い記憶のぬくもりを呼びさますような優しさや柔らかさが溶け込んでいて、それを音楽そのものがもつ孤独感、硬質な哀しみ、といった対立的な要素と、うまくつりあいをとっている。そんな微妙な陰影をぼかさないで、きちんと再生していた。
 無感動に飽和した質と量の偏った均衡より、彼女のB&Oが聴かせた知と情がやわらかく均衡した響きには、不思議な説得力があった。これは彼女が選んだ装置だ。
 その時、僕はそう確信した。
     *
今回のシステムは、厚さがわずか8cmのスピーカー、ベオラブ5000を中心に、レシーバーとして、B&O最新のベオマスター4500、CDプレーヤーはベオグラムCD4500を使用。どちらも操作はアクリルパネルに軽く触れるだけでよいが、リモコンでの操作も可能だ。ベオマスター4500は、FM/AMあわせてして20局までプリセット可能で、アンプ部のパワーは片チャンネル55W。このスピーカー出力を直接パワーアンプ内蔵(120W×2)のアクティブ型スピーカーであるベオラブ5000に接続する。一見パワーアンプがだぶるようだが、長い接続ケーブルの引き回しでも有利な点があり問題はない。なお、アナログプレーヤーのベオグラム4500とカセットデッキのベオコード4500も別にある。

デンオン PMA-890DG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
柔らかく、しなやかな音を雰囲気よく聴かせるアンプだ。音場感はスピーカーの奥にやや引っ込んで広がり、音像はソフトにフワッと浮くタイプだ。低域は全体に軟調でソフトフォーカス気味にまとまり、中域から高域は少しメタリックで硬調に聴かせる。大編成の曲は散漫になりやすく、トゥッティでは混濁気味となる。

ブルメスター Model 878

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 輝かしく豊潤な音だが、繊細さには欠ける。とろっと脂ののった〝大とろ〟のような質感で、独特の魅力を感じるし、並のアンプにはないクォリティの高さをもっているとも思う。このアンプの真価は同社のコントロールアンプとのコンビで発揮されるものだと思う。パワー単独で聴くと若干大掴みで、濃やかさに不満が残るようだ。「ドゥムキー」のピアノは丸く太く輝かしく立派だが、弦が倍音ののりに欠けるので鈍くなる。力感に溢れた音だから、オーケストラの充実したサウンドは聴き応えのあるものだが、ウィーン・フィルのしなやかさと精緻さにはもっと繊細感がほしい。しかし、神経質で刺激的な音からは遠く、私の好みの音の範疇に入るものだ。太く艶っぽいヘレン・メリルの声は、彼女の豊かさをよく表現しているが、一方でハスキーな特徴が出ていない。いわば豊満な女体を連想させるような色艶には富んでいる。ベースも豊かだがやや鈍く重い。

デンオン PMA-890DG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
響きのたっぷりとした、軽く雰囲気の良い音が聴かれる。低域は柔らかく量感も充分にあるが、音色は軽いタイプで分解能は不足気味である。バランス的には、中域が薄くエネルギー感が少ないため、大編成の曲でのハーモニーは薄くなり、中高域の硬く、ややメタリックな面が強調される。小編成は聴きやすいが、突っ込み不足。

ソニー TA-F555ESG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
柔らかい低域は、ややエネルギー的に腰高にまとまり、線が細く硬く、整然と音を出す中域から高域が、まとまりの良い音を聴かせる。「レクイエム」のスッキリとしたプレゼンスは爽やかであり、演奏会場の空間の広がりがわかる音ではあるが、間接音を抑え気味に聴かせるこのペアの特徴がよく出た例といえるだろう。

オンキョー Integra A-701XG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
音を充分にコントロールして、柔らかく雰囲気の良い音を楽しむことを指向した音づくりのアンプであろう。アクティヴに適度の個性で音を楽しく聴かせるスピーカーとは相性が悪いようで、各プログラムソースは、嫌な音は出さないが表現がかなり間接的となり、録音上の個性が薄められ、聴きやすさはあるが楽しさをも抑え気味。

ルボックス B150

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ダイヤトーン DS-77Zとの相性
聴感上の帯域バランスはややナローレンジ型にまとまり、各プログラムソースをそれなりの持ち味を掴んで聴かせるフレキシビリティに特徴がある。スケール感は全体に小さく音場感情報も少ないタイプで、音源は遠く距離感があるまとまりとなる。突っ込んで聴くと問題は残るが、音づくりの巧みさが感じられるアンプである。

ゴールドムンド Mimesis 3

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 いかにも緻密精緻な音の質感がスイス製であることと、このアンプのコンパクトなサイズに似つかわしく好ましい。品のよい音だ。「ドゥムキー」の弦、特にヴァイオリンは輝かしく、かつ艶っぽい。ピアノもよく締まった粒の立つ音で、生き生きとして立上りも鋭い。ベートーヴェンの「エロイカ」における柔軟性のあるしなやかなウィーン・フィルらしいヴァイオリンの音色の艶には感心させられたし、潤沢な木管の響きも美しかった。各楽器の音色の鳴らし分けも敏感な方である。ただ、トゥッティでややにぎやかな音になるのが惜しい。どっしりとした重厚な安定感が失われるのである。同じパワーのアンプでも、このあたりに違いが生じるのは、電源を中心とした全体の物量の差といえそうだ。サン=サーンスの「オラトリオ」における、各独唱者の声の色合いや質感の微妙な味わいの再現では最も優れたアンプの一つといえる。ヘレン・メリルは暖かく、ベースは少々力不足だ。

カーヴァー Silver Seven-t

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 繊細さや瑞々しさは十分とはいえないが、ごく標準的なレベルのグレードの再生音だ。中域がしっかりした密度感をもっているから、音楽のバランスはよく保たれる。「ドゥムキー」のヴァイオリンの音色は少々太く生ぬるいけれど、神経質になったり、粗くなったりしないのがよい。ピアノも、透明な輝きが不十分だが、厚みのある音である。
 ベートーヴェンの「エロイカ」では、細かい音やニュアンスの再現は不足するが、全体としては力もあり、トゥッティでの濁りや不安定さも感じられない。もちろん、ウィーン・フィルらしい魅力の再現というレベルには至らないが……。サン=サーンスの「オラトリオ」では、音が軽々とした雰囲気に変るのが不思議であった。ソースによってずいぶん変化するものだ。透明度もよく再現し、のびのびとしたソノリティを聴かせる。ヘレン・メリルの声の色艶はよく、ベースはやや軽い音である。

チェロ ENCORE POWER AMPLIFIER

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 チャンネルあたり60Wのパワーとは思えない力とソリッドネスを聴かせるアンプ。しかし、それは決して熱っぽくはなく、常に冷静である。冷徹と呼んだほうがよいかもしれない。このアンプの粒立ちの見事さ。繊細精緻な音の微粒子感の見事は、特質に値するものである。他に類例がない音といってもよいアイデンティティをもっている。チェロのアンプの特質なのである。まるで、すべてのプログラムソースのベールを一枚はいでしまうような透明さを聴かせるのが凄い。濁り、汚れ、曖昧さなどの一切を排し拒絶した透徹さをもっているし、この微粒子感の感触は、一種の快感を感じさせもする。つまり、決して冷たい無機質な音とは違うのだ。何を聴いても、ただその美しさに聴きほれて、絶句するありさま。しかし、どうしてもなじめない音なのだ、この音は僕にとって! これだからオーディオは面白い。端正明晰な麗人の肌の冷たい湿度に心凍てつくような妖しき誘惑である。

ハーマンカードン HK6900

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
スピーカーの奥にホールトンを伴ってナチュラルに広がるプレゼンスの良さと、柔らかい低域と細身の高域がほどよくバランスした音は、個性は強いがそれなりに説得力のあるまとまりである。大編成の曲では予想よりも力不足となり、やや厚みに欠けることになる。ミクロ的に問題は多いが、マクロ的にはまとまった音である。

ソニー TA-F555ESG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ダイヤトーン DS-77Zとの相性
音の輪郭がクッキリと付き寒色系の押し出しの良いダイレクトな音である。音場感は比較的間接音が少なく、音が前に出るタイプであり、総合バランスはオーディオ的にわかりやすくまとまりはよい。大編成の曲では、予想よりもfffで濁りがちで安定度が崩れるが、小編成は使いこなせば本格派の音が楽しめそうだ。

ハーマンカードン HK6900

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
柔らかく、ほどよく滑らかさのある雰囲気的にまとまった音である。聴き込むと低域は軟調で聴きやすいが、中域から高域は線は細いが硬質な面があり、かなり個性のある音であることがわかる。音場感はスピーカーの奥に広がり、音像はほどよく立つタイプ。中高域に個性的な輝きが潜在的にあり、一種の個性の出るところだ。

ハーマンカードン HK6900

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ダイヤトーン DS-77Zとの相性
柔らかい低域と細身でシャープの中高域がバランスした、ある種の軽快さが感じられる個性的な音だ「レクイエム」は小さくまとまるが響きが薄く、Pトリオは柔らかい一面が出るが、中域の密度が薄く散漫になる「コリオラン」は平坦な表現となり伸びがなく、T&Pでもリズム感が単調で抑揚不足となる。相性の悪い典型的な例だ。

NEC A-10X

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
個性的なスピーカーと個性的なアンプを組み合わせた一種独特な不思議な音、とでも表現したいユニークな音だ。「レクイエム」での各パートの声は、独特なキャラクターが乗りながらもある種のバランスを保ち、「コリオラン」の鳴り方でも好き嫌いが決定的に分かれそうな特異な音にまとまり、直接音と関節音のバランスが面白い。

NEC A-10X

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
滑らかさがあり、スッキリとした、微粒子状の薄くきれいな音を聴かせる。基本的にクォリティの高い音であるが、表情は抑え気味で、かなり手を加えて音をつくった印象があり、表現を換えれば一種の個性的な音だ。音場感は距離感を伴って奥深く広がり、音像は小さく素直にまとまり、雰囲気よく聴かせる。

ラックスマン L-540

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

パイオニア S-1000Tとの相性
音色が軽く、ほどよく明るい柔らかな低域をベースとして、しなやかでこまやかな中域から高域がスムーズなレスポンスを聴かせる。全体に薄い音ではあるが、プログラムソースの個性を誇張することなく、平均的にこなれた音として聴かせるために、むしろ効果的に働いてる。クォリティも高く、さりげなく音楽を楽しむ音である。

スレッショルド SA/3.9e

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 A級60W/8Ω/chのステレオアンプだが、繊細で明晰な音は美しい。しかし若干、音は軽めの雰囲気で、響きの深みや厚み、音の重厚な質感といった面に不満もある。スピーカーの能率が高ければ60Wのパワーは音量としては十分なはずだが、音の密度感や充実感にやや物足りなさが残るようだ。どちらかというと、重々しい響きを不得意とするアンプという印象。その分、明晰透徹で、緻密繊細な音色の鳴らし分けは魅力的である。肩の力が入りすぎない表情で音楽が美しく軽快に流れるのである。室内楽にはこのようなアンプの特質が生きて好ましかった。ベートーヴェンの「エロイカ」になると、明るく軽快できれいだし、ウィーン・フィルの特徴のある面はよく生かされるのだが、マッシヴなトゥッティの厚みと力に一つ押しと迫力が欠けるのだ。歌手の声の鳴らし分けはひじょうに鋭敏なレスポンスで多彩なのが印象的。どちらかというと小味なアンプだ。

オンキョー Integra A-701XG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ダイヤトーン DS-77Zとの相性
ほどよく角のとれた表情の豊かな音と、演奏会場の環境条件を音場感情報として聴かせるだけの能力を備えた音である。音色は独特の粘りっ気のある柔らかさがあり、中域から高域に硬質さが残ってはいるが、バランスを崩すものではない。正統派の音ではないが、一種独特のこれならではの魅力を持つ音の表現力は大変に興味深い。

オンキョー Integra A-701XG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
SX700のSP端子は全域用にケーブルを接続する。柔らかく少し粘った印象のある低域と滑らかで線が細く、しなやかな独特の高域がバランスした、コントラストと色彩感を抑え気味とした個性の強い音だ。T&Pはライヴハウス的なプレゼンで充分に楽しめるが、クラシック系は少し軟調なまとまりで突っ込み不足だ。

クレル KMA160

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 クレルは最近製品の種類が多いためか、一時(特に創業時から数年)のように、クレルのアンプの音という明確なイメージが感じられなくなった。つまり、いろいろな音がするようになった。全くアイデンティティがないとはいわないが、このアンプの音などは初期のクレルの音とは大きく異なり、かなり力強く華麗である。鋭いアタックが鮮やかで、ピアノの音が硬質になるし、中域にやや独特の響きがのって、効果的な場合と逆効果の場合とがある。繊細緻密で、べたつかず、端正で深々とした音が味わえた昔日のクレルはどこへ行ったのだろうか? ベートーヴェンの「エロイカ」のトゥッティも十分透明とはいえない。しかし、有機的で力のある充実した音で、強い表現力を聴かせる。サン=サーンスの「オラトリオ」では、歌手の発音の小音が強調され気味であり、声の出方に圧迫感がある。もっと軽く出てほしいところ。ヘレン・メリルは力強く濃厚でベースも明解。

ルボックス B150

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
音楽をマクロ的に外側から掴み、聴かせどころを巧みに聴かせる楽しいアンプだ。「レクイエム」での聴感上Dレンジたっぷりに、音のくまどりをほどよくクッキリと聴かせる巧みなまとめ方。Pトリオでの実体感があり、ほどよく弾む躍動感のある音は充分に楽しく魅力的である。音楽を自分の音として聴かせるアンプの典型的な例だ。

ゴールドムンド Mimesis 9

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

「ドゥムキー」のヴァイオリンもチェロも引き締まった音で毅然とした端正な演奏に聴こえる。ピアノも自然で、どちらかというと控えめな鳴り方。緻密な分解能をもち、きちんとした音像の再現だが、決して物理的な裸の音ではなく、美しさを感じさせるアンプだ。「エロイカ」も、オーケストラの複雑な音色の綾を明解に、そしてよくまとまったバランスで聴かせる。よく調和して響くがウェットに濁ったりはしない。あくまで明晰な解像力を失わない。音質はやや硬質だし、線画調の細かさのある音だが、決して冷たくはない。緻密な音、精緻な音といった魅力が特徴で、ウィーン・フィルのしなやかな甘美さにはもうひとつ柔軟性が足りないようだ。ジャズには品位の高い音で、シンバルのこまやかな音色の変化をよく再現するし、ベースも締まっていて明るい。馬力のある音ではないが、決して弱々しい感じはなく、ジャズの強烈な直接音も極端な低能率SPでなければ大丈夫。

パナソニック SU-MA10

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
適度に滑らかさのある線の細い音を聴かせるアンプだ。帯域バランスはナチュラルで、一種の鮮明さが聴かれるが、中域のエネルギー感が不足気味で、コントラストが薄くなり、聴きやすいが音の表情が硬くなる。音場感はスピーカーの奥に広がり、音像は小さいがやや引っ込み気味である。全体にもう少し力強さがほしい音だ。

ルボックス B150

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
プログラムソースとの適応性の幅が広く、それなりに納得のできるバランスで聴かせる音だ。いわば、良い意味でのカセットデッキの音のように、巧みに、そして不満感を抱かせずに音楽を聴かせる特徴は、表現は悪いが、巧みにウソをつく音である。音の細部を聴く気にさせない特徴は、良くも悪くも国内製品にはない味である。