Category Archives: アンプ関係 - Page 72

ビクター JT-V75

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 FM・IF段、MPX部、AM部、出力アンプ部、チューニングホールド部、それに333Hz発振器をすべてIC化したチューナーである。
 主な特長は、300%の過変調に対応した低歪と広いダイナミックレンジをもつ出力アンプ部、最良同調点を保つチューニングホールド回路、録音レベル設定用発振器、、遅延特性を保ちながら選択度をさらに改善した4レゾネーター型セラミックフィルター、ダブルミューティング回路、ミラー構造の目盛と凸型文字使用のダイアルである。

テクニクス ST-8080

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 プリメインアンプSU8080のペアチューナーである。FMフロントエンドは、4連バリコン使用であり、IF段は、4共振素子型セラミックフィルター4個(1個は狭帯域型)とIC2個の組合せ、MPX部は、波形伝送特性を向上させる独自のパイロット信号キャンセル回路がある。また、シグナルメーターは、65・2dBfまで直線指示をする電解強度比例型である。付属機能には録音レベル設定用の440Hz50%変調に相当する発振器を内蔵している。

トリオ KT-9700

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 外観からは、あまり特長めいたものを感じさせないモデルだが、内容では新しいFMチューナーの技術をフルに盛り込んだFMのトリオらしい快心作である。
 フロントエンドは、RF増幅にリニアリティが優れたDD−MOS型FET、バランスドタイプのミキサーには、2乗特性が優れたDD−MOS型FETを使用し、バリコンはエアーギャップが広い局部発振器内蔵型8連を採用し、アンテナ入力回路がシングル、段間がトリプル、トリプルチューニングとしている。なお、局部発振はバッファーアンプ付である。
 IF段は、帯域3段切替で、ワイドでは6ポールLC集中型フィルター、ノーマルでは、12ポールLC集中型、さらにナローでは、4素子3段のセラミックフィルターを使い、ワイドとノーマルにはバッファーアンプが入る。また、IF段は、10・7MHzの第1IFと水晶発振器による1・93MHzの第2IFをもつダブルコンバート方式で、これは中間周波数の約10倍の周波数特性が要求されるパルスカウント方式の検波段で、パルス変換を容易にすると同時に、相対周波数偏位をあげて検波効率を高め、SN比を上げる目的があるためである。
 パルスカウント方式の検波段は、直線検波が可能なため歪みが少なく、調整箇所がないため、安定度が高い特長がある。直線性の優れている利点は、多少の同調ズレがあっても歪率が悪化せず、シンセサイザーやAFCで周波数をロックする必要がない。
 MPX部は、トリオ独自のDSDC方式で、ビートを抑えるPLLループ応答切替、ノルトン変換した7素子ローパスフィルターを使うキャリアリークフィルターがある。オーディオアンプは、差動直結オペレーショナルアンプで、300%の過変調時でも歪の劣化は少ない。
 機能面では、80dBまでの信号強度が読める直線目盛のシグナルメーター、38kHz検出型マルチパスメーター、デビエーションメーター、2段切替のミューティングレベル、2系統のアンテナを切替使用できるアンテナ切替スイッチなどがある。
 本機は、現時点の高級チューナーとして頂点に位置する音質と性能をもっている。とくに音質は、オーソドックスなもので、最近聴いたチューナーのなかでは抜群である。選局のフィーリングは優れているが、繊細な同調ツマミの動きにダイアル指針が敏感に反応しない点が大変に残念である。

ソニー ST-A7B

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 長らくの間高級チューナーの発表がなかったソニーから、同社のトップモデルのプリメインアンプTA−F7Bの発売と同時に、ペアチューナーST−A7Bが発売されることになった。
 パネルフェイスでの特長は、何といっても受信周波数をデジタルで表示するディスプレイの採用であろう。本機では、受信周波数は、一般の横行ダイアルでチェックする他に、独立したデジタルディスプレーで正確な受信周波数を読み取ることができる。つまり、ダブルに表示をするわけだ。
 FMフロントエンドは、デュアルMOS型FETのRF増幅、デュアルFETによるバランスドミキサーと5連バリコンの組合せである。局部発振は、水晶を基準発振器として100kHzおきにロックするタイプで、精度が高く、刑事変化、温度変化による同調ズレが皆無に近く、正確な同調点を保つことが可能である。なお、ロック状態はロックインジケーターで確認可能である。IF段は、帯域2段切替型で、ノーマルではユニフェイズフィルター、ナローでは、さらに選択度を重視したユニフェイズフィルターが加わる。MPX部は、PLL・ICにデュアルFET使用の差動2段のプリアンプを設け、PLL・ICの出力をプリアンプに負帰還する構成で、ビート音を除く、ビートカットフィルターを備えている。オーディオアンプは、電源部に定電圧の±2電源を採用した音質重視設計である。なお、完全に独立したAMチューナー部をもち、FMダイアル右端に、専用ドラム型ダイアルが組み込まれている。
 本機は、ダイアル系がスムーズなため、選局のフィーリングは、さすがに高級機らしい印象である。放送局の同調点は、ロックインジケーターでも確認できるが、ダイアル指針が同調時には上下2段のLEDが発光し確認は容易である。音質は、大変にプリメインアンプTA−F7Bに似ており、粒立ちが細かく、豊かで軽い感じの中低域と伸びやかな高域が特長である。

ビクター JA-S75

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 型番末尾数字が従来の1から5に変わった新シリーズアンプの第一弾製品である。パネルフェイスは、印象が少し変わっているが、もっとも大きい点は、フロントパネル面のテープ入出力端子が省かれたことだ。
 回路構成上の特長は、音楽信号のダイナミックな変化に伴ってアンプ内部に発生する動的干渉を抑え、音像定位の向上を狙って、電源部をかなり重点的に強化している点だろう。プリアンプ部およびパワーアンプ部のプリドライバー以前のA級動作をしている部分には、独立トランスを使い、各ユニットアンプには、左右独立給電方式を採用している。パワーアンプのB級動作部分は、左右チャンネル独立の専用トランスを使うなど、3トランス方式である。なお、イコライザー段は、初段FET3段カスコード接続の入力コンデンサーレス型だ。
 使用部品では、音量を絞ったときに音量対歪率のリニアリティがよい、ハイリニアリティボリュウム、高調波歪みが少ない新開発マイラーコンデンサーの採用が目立つ。
 JA−S75は、滑らかな粒立ちの細やかさと、力強い伸びやかさが両立した音である。全体に表情が豊かで洗練された印象が強く、充分にクォリティは高い。

トリオ KA-7700D

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 本機は、左右独立電源、DCアンプと話題を投げかけたトリオらしい新製品で、さらに、プリアンプ電源を独立した3電源方式に発展している。
 回路構成は、FET差動を含む差動2段の3段直結ICLイコライザー、初段FET差動2段直結フラットアンプと独立した高音と低音のNF型トーンコントロール段、アクティブ型の高域とサブソニックフィルター、初段FET差動を含む差動3段のA級増幅段とパワーダーリントンブロックをつかうDCアンプ構成のパワーアンプ部である。

サンスイ BA-2000

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ブラックフェイスのパネルに、対数圧縮目盛をもつ、実効値指示型の2個のパワーメーターがあり、1mW〜150Wのパワーを読みとることができる。パワーは、110W+110Wで、現代アンプらしい、低歪率、高SN比設計のモデルである。回路構成は、カレントミラー付差動増幅を初段にもつ、パラレルプッシュプル出力段の全段直結純コンプリメンタリーOCLである。電源部は、左右チャンネル独立巻線をもつトロイダルトランスと12000μF×4の電解コンデンサーの組合せである。
 保護回路は、パワートランジスター用に電流制御回路、スピーカー用に、直流検出と温度検出回路があり、高信頼性設計である。また、ヒートシンクは、包絡体積12000ccの新しい対流放熱器を4個使用し、チムニー型で高い放熱効率がある。
 内部構造は、ドライバー段、出力段、電源部を完全に分離したブロック別の機構設計で、相互干渉や影響を防止している。
 CA2000とBA2000を組み合わせた音質は、デザインが上級機種と同じだけに、共通のトーンポリシーを想像しがちであるが、設計が新しいだけに、オーバーな表現をすれば、まったく異なった現代アンプらしい、帯域が広く、滑らかでクリアーな音といえよう。とくに、ステレオフォニックな左右の拡がりが、パッと視界が開けたように感じられる。音色は、明るく軽いタイプで、ある種の反応の早さ、表情のナチュラルさがこのペアの特長である。中域がしっかりしているサンスイのアンプの特長は、受け継いでいるが、従来のものにくらべ、表面的に感じられないのが、全体の質的向上を意味している。

サンスイ CA-2000

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サンスイのセパレート型アンプ、コントロールアンプCA3000を中心に、2機種のハイパワーアンプBA3000/5000でラインナップをつくっているが、今回、ジュニアタイプとして2機種の製品が加わり、製品群としての厚みが一段と加わった。
 CA2000は、標準的なコントロールアンプに要求される、多機能とセパレート型アンプらしい高い物理的性能を備えた、オーソドックスなコントロールアンプである。
 イコライザー段は、動特性重視の差動1段を含む7石構成で、終段は純コンプリメンタリーA級プッシュプルで、入力感度3段切替、最大許容入力は、入力感度8mVのとき1000mVである。ボリュウムコントロールは、4連ディテント型で残留ノイズを抑え、実用上のSN比を向上させている。トーンコントロールは、サンスイ独特の中音コントロールをもつトリプルタイプであり、低域フィルターは、2石構成のアクティブ型である。このトーンコントロールとフィルターは、機能を必要としないときにはディフィートスイッチで、信号系から完全にバイパスすることができる。

ヤマハ CA-2000

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ヤマハのプリメインアンプは、当初からCA1000をトップモデルとして、これに改良を加えたMKII、さらに外形寸法がひとまわり大きくなった現在のMKIIIと発展してきたが、ハイパワー化の影響によるパワーアップの要求と、セパレート型アンプのC2、B2との間をうめる意味もあってか、CA1000IIIのボディのなかに、ひとまわり強力なパワーをもつ新モデルを今回発表することになった。逆にいえば、X1シリーズにはじまったプリメインアンプの置換えはR1シリーズで終了し、それら一連のプリメインアンプとは差別化の意味で、上級モデルが最初から2機種企画されており、これがCA1000IIIのボディがひとまわり大きくなった理由と思われる。つまり、パワーアンプに対するアンプの容量の増加が見込まれた結果である。
 CA2000は、ボディサイズは、既発売のCA1000IIIと同じであり、フロントパネルの機能もほとんど同様であるために、外観からは両者の判別は難しいようだ。しかし、トーンコントロールツマミの部分が、C2と同様にデシベル目盛になっているあたりが、両者の違いをあらわしている。
 機能面では、基本的にCA1000IIIと同じで、インプットセレクターでフォノ入力を選択した場合には、独立したフォノセレクターで、フォノ1とフォノ2が選択でき、フォノ1は、さらに3種類の負荷抵抗切替とMC型カートリッジ用のヘッドアンプの使用がセレクトできる。また、独立したテープアウトセレクターがあり、インプットセレクターとは関係なく、録音プログラムソースが選択可能で、さらに、レコーディングアウトがOFFにもできる特長がある。また、ピーク指示型のレベルメーターは、切替でパワーとレコーディングアウトのレベルをチェックできる。
 回路構成は、イコライザー段がC2と同じで、超低雑音FETによる初段、SEPPコンプリメンタリーの終段で構成され、高級セパレート型アンプとしてもトップクラスのSN比と歪率を誇っている。なお、別に超低雑音IC採用のMC型カートリッジ用のヘッドアンプを内蔵している。トーンコントロール段は、基本的にイコライザー段と同様な構成で、ボリュウムを絞り込んでも信号源インピーダンスにより、歪率はほとんど変化しない特長がある。
 パワーアンプは、出力段が並列接続のパラレルプッシュプルの全段直結OCL型で、B級120W+120W、A級時30W+30Wの定格があり、DCアンプ構成である。
 CA2000は、CA1000IIIと共通性がある音をもっているが、音の粒子が一段と磨かれた印象が強く、パワーアップのメリットで、低域の質感がよく再生され、安定度を増した余裕のある感じが特長である。充分に熟成した大人っぽいこの音は、違いのわかる人に応わしいものだ。

サンスイ AU-707, AU-607, AU-10000

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 現在プリメインアンプの需要の中心は数量的には5万円未満のモデルであるが、オーディオ敵に質的・量的のバランスを考え、プログラムソースであるディスク側のダイナミックレンジの拡大を含めれば、やはり6〜9万円台のモデルが魅力あるプリメインアンプとして、本来の中心機種の座にあるといってよい。
 新しいサンスイのプリメインアンプは、この価格帯に投じられた専門メーカーらしい製品で物理的データの高さと現代アンプらしい音質、それに、新しいブラックフェイスのデザインをもつ、意欲作である。
 AU707、606のパネルフェイスは、サンスイが初期の管球プリメインアンプAU111以来一貫して守ってきた伝統的なブラックパネルであるが、色調はマットブラックで統一され、簡潔でダイナミックな印象としている。このパネルは、サイドにハンドルをつければ標準ラックパネルにセットすることができる。
 AU707の回路構成上の特長は、イコライザー段が初段カレントソースつき差動1段、バッファー、アクティブロードつきA級増幅1段、純コンプリメンタリーSEPP出力段の8石構成で、1kHzの許容入力300mV、RIAA偏差±0・2dB、SN比77dBを得ている。パワーアンプは、初段デュアルFET差動2段、カレントミラーつき電流差動プッシュプル(特許申請中)、3段ダーリントン接続のDCアンプであり、電源部は左右チャンネル独立型、電解コンデンサーは、15000μF×4である。
 機構設計上の特長は、入力端子、イコライザー、トーンコントロール、パワーアンプと、信号経路を合理的に配置しシールドカバーの併用で物理性能の向上をはかっている。また、パワー段の放熱板は、チムニー型で放熱効果が高く、信号経路のコンデンサーは、低雑音タイプのBRN電解コンデンサーとマイラーコンデンサーをセレクトして採用している。
 AU607は、出力が65W+65W(707は85W)である点と、トーンコントロール段のバッファーアンプの省略、電源部の電解コンデンサーの容量が、12000μFに変更されたあたりが、基本的に、AU707と異なった点である。
 AU10000は、コントロールアンプCA2000とパワーアンプBA2000を一体化して、プリメインアンプとした新製品で、デザインは高級機に準じている。
 AU707/607は、サンスイのアンプとしては音質的にCA2000、BA2000の系統である。各ユニットアンプの性質が素直なためか、歪感がなく、滑らかで静かだが、それでいて充分に力もある音だ。とくに、AU607のハーモニーの美しさと、表情の豊かさは見事で、音楽を楽しく聴かせてくれる。

「リアルサウンド・パワーアンプを聴いて 上杉佳郎の音」

黒田恭一
ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「マイ・ハンディクラフト リアルサウンド・パワーアンプをつくる」より

 力士は、足がみじかい方がいい。足が長いと、腰が高くなって、安定をかくからだ。そんなはなしを、かつて、きいたことがある。本当かどうかは知らぬが、さもありなんと思える。上杉さんのつくったパワーアンプの音をきかせてもらって、そのはなしを思いだした。なにもそれは、上杉さんがおすもうさん顔まけの立派な体躯の持主だからではない。そのアンプのきかせてくれた音が、腰の低い、あぶなげのなさを特徴としていたからである。
 それはあきらかに、触覚をひくひくさせたよう音ではなかった。しかしだからといって、鈍感な音だったわけではない。それは充分に敏感だった。ただ、そこに多分、上杉佳郎という音に対して真摯な姿勢をたもちつづける男のおくゆかしさが示されていたというべきだろう。
 高い方の音は、むしろあたたかさを特徴としながら、それでいて妙なねばりをそぎおとしていた。むしろそれは、肉づきのいい音だったというべきだろうが、それをききてに意識させなかったところによさがあった。上の方ののびは、かならずしも極端にのびているとはいいがたかったが、下の方のおさえがしっかりしているために、いとも自然に感じられた。そこに神経質さは、微塵も感じられなかった。
 座る人間に対しての優しいおもいやりによってつくられたにちがいない、すこぶる座り心地のいい大きな椅子に腰かけた時の、あのよろこびが、そこにはあった。ききてをして、そこにいつまでも座っていたいと思わせるような音だった。

ラックス CL32

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 この外観に接して、これが管球式とは誰も思うまい。さらにこの音に触れれば、その思いは一層だろう。今様の、この薄型プリアンプはいかにも現代的な技術とデザインとによってすべてが作られているといえる。クリアーな引きしまった音の粒立ちの中にずばぬけた透明感を感じさせて、その力強さにのみ管球アンプのみのもつ量感が今までのソリッドステートアンプとの差となってにじみ出ている。高級アンプを今も作り続けている伝統的メーカー、ラックスの生まれ変りともいえる、音に対する新体制の実力をはっきりと示してくれるのが、このCL32だ。管球アンプを今も作るとはいえ、もはやソリッドステートが主流となる今日、あまりにも管球アンプのイメージを深くもったラックスの新しい第一歩はこのCL32によって大きく開かれたといってよいだろう。おそらくソリッドステートを含むすべてのアンプの基礎ともなり得る新路線が、CL32に花を咲かしたと思うのである。

マランツ Model 150

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 今もってマランツ10Bの名は、高級オーディオ・ファンの間でしばしば口にされる。この幻を絶つことは今回のマランツにとっての最大の課題のひとつであった。モデル150がデビューしたときの米誌の評はこの辺の事情を思わずして語っており、しかもその上で10Bを越える性能と、その音の誕生に両手を挙げて喜んでいる、というのが目に見えるほどだった。
 事実、モデル150は、10Bの時代より一層過密なFM電波を望み通り選び、楽しむことのできる性能と特性とを具えた数少ない高級かつ低歪チューナーの最大の傑作だ。今回、多くの製品があふれる中で「オーソドックスな機構による真の低歪チューナー」を選ぶとすれば、このモデル150のみだ。

デンオン POA-1001

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 デンオンは、76年暮にソリッドステート・アンプのコントロールアンプとパワーアンプのペアをデビューさせた。その一年前に、同じくセパレート・アンプでも真空管方式を発表した。管球式にくらべて、価格的に半分だがソリッド・ステート型の新製品の水準は真空管式に優るとも劣らないと思える。
 管球アンプを出して一年後にソリッド・ステートを出したという点にこのかくされた秘訣がありそうだ。つまり管球式の良さを十分に確めた上で、その上にトランジスターにする最新技術を積み重ねて行った点だ。ソリッドステート・アンプもV−FETあるいはA級アンプとさまざまな技術が投入され試みられてその良さを競った製品が多く市場にあふれる。
 その中でデンオンがセパレートアンプを遅ればせながらデビューするに当っての開発テクニック、あるいはその方法として狙ったものは仲々のものであるようだ。真空管ならざるアンプのソリッド・ステートならざる音は忘れ得ぬ大いなる魅力だ。

ダイヤトーン DA-A100

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ダイヤトーンの歴史は、日本のオーディオの歴史そのものといってもよい。日本におけるハイファイ創成期ともいうべき昭和20年代以後から早くもダイヤトーンの16センチのスピーカーの活躍はスタジオ、放送局で始められていた。というわけで、必ず出てくるのはスピーカーだけだった。ダイヤトーンがこのDA−A100をデビューさせるまで、ダイヤトーンのアンプの存在は、スピーカーの影にかすんで、すっかり薄くなってしまっていた、といわざるを得ない。ところが電機メーカーとしての三菱の技術は、当然、アンプの分野でも三菱ののれんにかけて、おそらくそれなりの指向をもっていたろうし、それはスタジオ用の大型スピーカー・システムを作ったときに早くも、地道ながら成果を挙げて「システム・ドライブ用出力増幅器」として存在していたわけだ。こう語れば判る通り、ダイヤトーンアンプはデビューするはるか以前から、その独自の技術をつくした成果を遂げていたわけである。だからDA−A100が出たとき、始めて知ったその技術は驚くべき水準にあったとしても少しも不思議ではない。ハイファイの歴史の、陽の当らざる所にあったアンプの技術は、かくてDA−A100のデビューによって力強く見事に芽吹いたのである。DA−A100の実力は、デビュー以来三年経た今日といえども少しも影ることはない。中音の充実したイメージのまま、全体に無駄のない透明感に加え、冷たさのないサウンドの完成度は実に高い。

ダイナコ Mark VI

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 マークIIIとして永く愛用される60ワットアンプをもって、数少ない管球アンプの伝統を持つダイナコのもっともハイパワーかつ強力なるアンプが、このモノラル・パワーアンプMKVIだ。おそらくMKIIIの倍の出力を持つためにMKVIとなったのだろう。
 120ワットの出力はソリッドステートパワーアンプなみで、もしMKVIにくらぶべきソリッドステートとなると300W級だから、驚くべきハイパワーだ。
 ダイナコ製品の、もうひとつの大きな特徴は、米国のコンシュマーレポートの常連といえるほどに、しょっちゅうその名が「お買得ベスト」の中に名を連らね、それも年を追っても型番が変らないという点だ。つまり、ひとたび製品化するとこれを中止することはめったにせず、幾星霜たつといえど同じ製品がずっと永く市場をにぎわす主要製品として続く点だ。寿命の驚くほどの永さこそダイナコの製品の最大の強味でもある。MKVIおそらく10年後もそのまま続くだろう。

オーディオリサーチ D-76A

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 米国にきら星の如く数多く出てきた新進アンプメーカー中、もっともユニークな存在がこのオーディオリサーチだ。その作るアンプはすべて管球式。注目すべきなのはすでにソリッド・ステート万能の時期である数年前からのスタートでありながら、管球式アンプにこだわるといえる姿勢だ。たしかに真空管アンプの音の良さはオールドファンを中心にベテラン達の堅く永く口にする点だ。ソリッドステートに技術的性能では遠く及ばずとも、音の良さは明らかな差を感じさせる。オーディオリサーチ社のアンプが高級ファンに愛される理由は、高水準のマニアほど十分に納得できるだろう。プリアンプに対する評価よりもパワーアンプに対する評価が高いのは「スピーカー・ドライブの点での管球アンプの有利性」のためではなかろうか。デュアル75でスタートして、トランスを含むパーツや機構を大幅に変えて76年にデュアル76となっている。

スチューダー A68

スチューダーのパワーアンプA68のサービスマニュアル
A68 _Serv

マランツ Model P3600, Model P510M

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 この四半世紀アメリカの高級アンプリファイヤーの部門を、マッキントッシュとともに二分する一方の最高級メーカーとして、マランツのブランドは不動の地位を確立してきた。ソウル・B・マランツによってニューヨークのロングアイランドに工場を設立されたマランツ社は、それ以来きわめて優れたテクノロジーとオリジナリティをもった最高級アンプリファイヤーづくりに徹し、#7や#9など数々の名器を生んだのである。それらの数々のアンプリファイヤーが、世界中のほとんどのアンプメーカーの行き方に与えた影響は、デザイン面あるいはサーキットの面において大なり小なりといえども計り知れないものがある。したがって、マランツの名前が、今日世界最高のブランドとして光輝いているのも当然のことだろう。
 しかし、残念ながら現在のマランツは、スーパースコープ社の傘下に入り、ソウル・B・マランツが退いて同社の体質は変化し、普及機までもつくるようになったが、ただ単にブランド名だけが受け継がれたのではないことは、現在のトップランクのアンプリファイヤーを見れば理解できる。アメリカのメーカーの良いところは、ある会社を受け継ぐ、あるいは吸収するときに、そのメーカーが本質的に持っていた良さを生かす方向に進むということだ。マランツもそういう意味で、ソウル・マランツ時代のイメージが消えてはいない。特に、このP3600とP510Mという、同社の現在の最高級アンプリファイヤーは、やはり一流品としての素晴らしさを維持し、マランツの歴史に輝くオリジナリティと物理特性の良さを持っているのである。そして、デザインも明らかに昔からのマランツの血統を受け継いだものといえるし、クォリティも昔のマランツの名を恥ずかしめない実力を持つアンプリファイヤーである。パネル・フィニッシュなどには昔日のようなクラフツマンシップの成果を偲ぶことが出来ないのが残念だ。
 コントロールアンプのP3600、パワーアンプのP510Mは、同社のコンシュマーユースの最高峰に位置するMODEL3600、MODEL510Mの特に優れた物理特性を示すモデルに〝プロフェッショナル〟の名を冠した機種である。フロントパネルは、厚さ8mmのアルミのムク材をシャンペンゴールドに仕上げ、プロフェッショナル・ユースとしての19型ラックマウントサイズになっている。この二つのセパレートアンプは、マランツのステータスシンボルだけに、最新のエレクトロニクス技術の粋を結集し、シンプルな回路と高級なパーツで、オーソドックスなアンプの基本を守り、音質も、マランツらしい力感と、厚みを感じさせる堂々たるもの。中高音の艶やかな輝やきは、まさにマランツ・サウンドと呼ぶにふさわしい魅力をもっている。パネル仕上などには昔日のような繊密さがないと書いたが、現時点で求め得る最高のフィニッシュであることを特筆しておこう。ソウル・マランツ時代の血統が脈々と生きていることは心強い限りである。

マッキントッシュ MC2300

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 マッキントッシュ・ラボラトリー・インクは、すでにご承知のとおり、アメリカ合衆国のニューヨーク州ビンガムトンに本拠を置く、高級アンプリファイヤー・メーカーとして広く知られている。創設以来ほぼ30年という歴史は、他の分野からみれば決して長いとはいえないが、創立当時の会社組織と首脳陣に変更がないという点では唯一のメーカーともいえ、アンプリファイヤー・メーカーのみならず、他の部門を見渡してみても最古の歴史をもつメーカーといえるだろう。
 有名なマッキントッシュ・サーキットという、独特のユニティ・カップルと称する特殊巻線方式によるアウトプットトランスを中心とする回路を、かたくななまでに守り続ける商品づくりの強固な姿勢で一貫している。現代のエレクトロニクス技術の最先端をいくものと比較すれば、いまや古い回路技術だという見方ももちろんできる。私もそれを否定はしない。しかし、自分たちが信ずる方向を全く妥協せずに、一つの商品としての主張を通し、長年の間に磨きに磨きをかけて生かしきってきたマッキントッシュの姿勢は、まさに私は一流メーカーの名に恥じないものがあると思う。そして、その製品はきわめてグレードが高く、あたかもメルセデス・ベンツのごとく、マッキントッシュと名前の付けられたアンプリファイヤーは、最も安価な製品といえども高級アンプであるという、確固たる地位を築いてきているのである。
 多くのマッキントッシュ・アンプリファイヤーの中で、特にこのMC2300というパワーアンプは、同社のソリッドステート・パワーアンプ中、最大のパワー(300W+300W)を誇り、しかも、同社の長年の間に培われた技術の蓄積がフルに生かされた製品である。そういう意味において、私はこのMC2300をパワーアンプの一流品とし躊躇なく挙げたい。このMC2300は、同社の管球式アンプのステータスシンボルともなっていた、350Wというとてつもない大出力のモノーラルパワーアンプMC3500のシャーシをそのまま継承したソリッドステート・モデルで、現在のマッキントッシュの象徴として、パワーといい、重量といい、このガッチリとした堅牢なつくりといい、まさに王座に君臨しているのである。また、このパワーアンプは、モノーラル切替スイッチによって、600Wのシングルチャンネル・アンプとして使用できるという、驚異的なマシーンでもある。
 先に述べたような、マッキントッシュ社が目ざす姿勢は、外観にもはっきりとオリジナリティを持ったデザインとして表われているが、性能面でも独自のマッキントッシュ・サーキットが再現する、非常に重厚な、マッキントッシュならではの安定したバランスのよい音が聴ける。そして、このチャンネル当り300Wというハイパワーに支えられた、次元を異にする充実した立体音は、まさにアンプリファイヤーの一流品として、堂々たる風格を備えているのである。

マッキントッシュ C26

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 マッキントッシュ・アンプリファイヤーのパネルデザインはゴージャスな雰囲気をたたえた、じつにユニークなオリジナリティを持っている。そして、仕上げにも緻密な神経が行き届いている。特にコントロールアンプは、ガラスのパネルを使い、イルミネーションによって、ゴールドの文字をグリーンに変えるというアイデアは透逸である。そのデザインにはアンプとしての機能の必然性があり、音楽を聴くために使う道具としての、同社のミスター・ガウがいうところの〝エモーショナル・レスポンス・フォー・ミュージック〟ということまでを考えた、アンプのパネルデザインのもつ一つの究極の姿を完成させたことは、やはり高く評価されるべきものだと思う。
 どちらかというと、マッキントッシュの得意とする部門はパワーアンプリファイヤーであり、コントロールアンプに関して、同社の製品を世界一とするにはいささか抵抗がなきにしもあらずだが、しかし、さすがにテクノロジーを高い水準で維持しているマッキントッシュらしく、このC26というコントロールアンプは、トランジスターライズドされた初期の頃の製品でありながら、より新しい機種であるC28や、近々発表されるであろうC30に比べて、スペックの面ではいろいろと問題はあるかもしれないけれども、いかにもマッキントッシュらしい、重厚な、落ち着いた、線の太い堂々とした音を再現してくれるという点において、そして、先ほども触れたガラスのパネルデザインの、完成した最初の製品だという意味において、私は一流品に値するコントロールアンプとして推選したい。

アムクロン DC300A

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 今、日本のアンプが、さかんにハイパワー、DCアンプ化への血道を上げている。アムクロンDC300は今を去る10年近くも前にこの2点「ハイパワー」「DCアンプ」として米国にデビューし、米国でのハイパワー時代のトリガーとなった製品である。150/150Wのこのアンプの出現によってすべての高級メーカーは100ワット以上の出力を目指すことに踏み切らざるを得なくなったといってもよい。ところがアムクロンDC300、決してこうしたオーディオ高級アンプとしての目的で作られたものではない、あくまでラボラトリーユースの産業用アンプであり、そのためのDCアンプであったわけだ。アムクロンというメーカーが当時超高級デッキのシェアーでもっともよく知られた点でオーディオ用としても使われたとみるべきだろう。さてDC300、今日純粋なオーディオ用として300Aに生まれ変り、その内容の大要は変ることなく、もっとも伝統ある誇り高きハイパワーアンプとして今日も存在するが、その存在は色あせることなくまだ続こう。

アキュフェーズ M-60, T-100

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 アキュフェーズのブランド名でケンソニックからスタートして、もはや数年の月日がたつ。ケンソニックの名は伝統の深からざるオーディオ業界にあってもなおもっとも日が浅い。それだけに、一流ブランドとしての成り立ち、あるいは信頼を勝ちとるための努力はなみのものではなかったろう。
 それにしても僅かな期間に世界的に高い製品評価と高級メーカーとしての信頼とを得たのは十分にうなずける根拠を容易に求められる。そのひとつは高級機種のみを限定して製造することであり、その二は一応発表した製品は決して競合すべき新型を出さず、また中止もしないということだ。
 この一流品たる資格の基本条件たる二つの点を当事者たるメーカーが製品発表の事前にはっきりと明言しているというケースは、めったにあるものではないがアキュフェーズの場合がこれだ。高級製品メーカーとしての見識と誇りの高さとを知らされ、それが信頼への深いきずなとしてユーザーとメーカーとを結びつけている。
 プリアンプC200と共に最初に発表したパワーアンプP300こそケンソニックの名を世界に知らしめた最初のアンプであり、その時にペアーとなるべきチューナーとして出たのがT100である。
 この三機種こそ、アキュフェーズブランドの名を代表するべき3つの象徴といってもさしつかえなかろう。しかしこの後のハイパワー時代の急激な拡大に伴ってパワーアンプはさらに、2倍のパワーアップを図った国産初と思われる300Wの大出力を秘めたモノーラルパワーアンプ、M60となった。そこでP300に代ってM60がアキュフェーズ・ブランドの旗頭となったのだ。M60は、300Wのハイパワーながら、その価格28万円を考えると、今日はっきり国際的な市場を視点としてもなお価格的に妥当なものであろう。
 日本製アンプが、日本国内市場でごく割高なる価格をつけられた海外製アンプと競争でき得るとても、当事国では日本製アンプが、あまりに高価になり過ぎる例が多い中でアキュフェーズ製品はすべて価格的に国際市場のどこにおいても十分に納得でき得る価格であるという点は、見逃せない大きな特徴であり、この点こそがアキュフェーズ製品が国際的な意味からも優秀製品であることの、もっとも大きな理由だ。
 ケンソニックの中核がかつてはトリオの主脳陣であったことはよく知られており、さればチューナーの文字通り開発者としてアキュフェーズのチューナーもまた大いに期待できる製品だ。その期待は海外の評価が早くも、T100デビュー早々に、「FMチューナーのロールス・ロイス」という賛辞で示された。アンプ同様、豪華な仕様と風格とはその底知れぬ深い完成度を感じさせ、そのまま製品の高い品質への信頼感へもっとも大きな支えとなっているからだ。

SAE Mark IB, Mark 2400

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より
 この7年間、70年代に入って米国市場のオーディオメーカーに新しい名が目立って多くなった。
 その中でSAEはもっとも早くからいち早く成功を伝えられたメーカーで、アンプ・メーカーとして今ではもっとも生産数を誇る実績を確立している。この成功は、SAEが、いかにも現代的な技術の優秀さで裏付けされた技術的集団であることを、初期の製品から一貫してはっきりと示しているからだ。SAEの製品は、一見して今までのそれらとは一線を画する飛躍した電子技術を内に秘めていることを、受け手がよく技術的知識を蓄えていればいるほど感じるであろう。しかもこうした新進メーカーによくみられる未熟さが全然なく、その初の製品からでさえ、きわめつくされた完成度を、あらゆる点で知らされるのも例がない。
 どこをとっても一分の隙もないパネル・デザイン、しかも一本のライン、つまみのいちカットにさえ細心の誠意と合理性とをつめ込んだ技術的なセンスの高さ。技術が芸術に昇華するほどの、高いレベルだ。
 MK2400も、決してプラックフェイスという外観だけに止まらず、技術的な内容もさらにその音にも、はっきりと感じられる。きわめてスッキリして、透明そのもの、無駄を廃した端正の極地といったような音だ。使い方により機能をどこまでまとめ上げ、どこで妥協するか、という点のむずかしいコントロールアンプでのSAEの腕前がこのMKIBにぞんぶんに発揮されて、いかにもSAEオリジナルらしい、すばらしい傑作となった。

QUAD 33, 303, 405, FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 創設者のP・ウォーカーは英国のオーディオ界でも最も古い世代の穏厚な紳士で、かつて著名なフェランティの協力を得てオーディオの開拓期から優秀な製品を世に送り出していた。ロンドンから一時間ほど車で走った郊外にあるアコースティカル社は、現在でもほんとうに小さなメーカーで、QUADブランドのアンプ、チューナーとコンデンサースピーカーだけを作り続けている。
 QUADは、なぜ、もっと大がかりでハイグレイドのアンプを作らないのか、という質問に対してP・ウォーカーは次のように答えている。
「もちろん当社にそれを作る技術はあります。しかし家庭で良質のレコード音楽を楽しむとき、これ以上のアンプを要求すればコストは急激にかさむし、形態も大きくなりすぎる。いまのこの一連の製品は、一般のレコード鑑賞には必要かつ十分すぎるくらいだと私は思っています。音だけを追求するマニアは別ですが……」
 こうした姿勢がQUADの製品の性格を物語っている。
 管球アンプ時代から、QUADはアンプをできるかぎり小型に作る努力をしている。ステレオプリアンプの#22は、それ以前のモノーラル・プリアンプと全く同じ外形のままステレオ用2チャンネルを組み込むという離れわざで我々をびっくりさせた。必要かつ十分な性能を、可能なかぎりコンパクトに組み上げるというのがQUADのアンプのポリシーといえる。
 この小さなアンプたちはデザインもじつにエレガントだ。ブラウン系の渋いメタリック塗装を中心にして、暖いオレンジイエローがアクセントにあしらわれる、というしゃれた感覚は、QUAD以外の製品には見当らない。このデザインは、どんなインテリアの部屋にも溶け込んでしまう。ことに、プリアンプとFMチューナーを一緒に収容するウッドキャビネットは楽しいアイデアだと思う。
 必要にして十分、と言っていたQUADも、一年前にパワーアンプの新型#405を発表した。100W×2というパワーをこれほど小さくまとめたアンプはほかにないし、そのユニークなコンストラクションは実に魅力的でしかも機能美に溢れている。
 アメリカや日本のアンプのような贅を尽した凄みはQUADの世界にはないが、33、303のシリーズの音質は、どこか箱庭的な、魅力的だがいかにも小づくりな音であった。405はその意味でいままでのQUADの枠を一歩ひろげた音といえる。この小柄なシャーシから想像できないような、力のある新鮮な音が鳴ってくる。クリアーで、いくらか冷たい肌ざわりの現代ふうの音質だ。アメリカのハイパワーアンプと比較すると、ぜい肉を除いた感じのやややせぎすの音に聴こえる。そして、405の音を聴くと、QUADはおそらく33よりも一段階グレイドの高いプリアンプと、やがてはチューナーも用意するのではないかと想像する。しかしそれはあくまでも良識の枠をはみ出すことのない、QUADらしいコンパクトな製品になるにちがいない。