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ラックス SQ505

ラックスのプリメインアンプSQ505の広告
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

SQ505

サンスイ AU-555, アコースティックリサーチ AR-Amp

岩崎千明

無線と実験 6月号(1968年5月発行)
「新型プリメインアンプを試聴する サンスイAU-555」より

まえおき
 この原稿を本誌に間に合わせることができたのは、編集者の大へんな努力のたまものといえます。というのはこの原稿がきわめて特殊のケースにより、特殊な状態のもとで書かれたため締切りぎりぎりだったからです。
 メーカー以外の人間が、この原稿を書いた時点で未発表の製品を手にすることができるのは、ちょっと例のないことだろうと思うからです。そして、この原稿のネタとなった新型アンプを見せて頂いた山水電完KKにも誌面をかりてお礼を申し上げます。
 山水から新型アンプが出るという噂を伝え聞かれたのは、東京で桜の満開に近い頃のことだった。もっともこの種の噂というものは、しょっちゅ出るものらしい。そして、それは多くの場合、競争メーカーから出される作戦的なもののようである。相手メーカーから新型発売のニュースが流されるというのは、ちょっと変な感じがするが、需要者は現時点での製品を買うことをためらってしまうことになるので、そのメーカーの製品販売を直接押えるという巧妙な戦略的作戦になるわけだ。
 もっとも新型発表近いという時に、いやがらせを兼ねてすっぱぬきを強行して、発売される新型のイメージを薄れさせようというイジワルな兢争メーカーも少なくない。
 この辺の事情は、もっと商売の額の多い、したがって競争もはげしいクルマのメーカーを見れば、Hi−Fiメーカーにおけるより高度のテクニックが展開され、実例から判断のたしになるようだ。
 ちょうどその頃、昔からの友人でくるま気狂いのトーキ関係の技術屋さんから、アンプを探してくれないかと依頼されていた。手軽に使えて、手軽に買えて、しかも性能も十分よく、多用途のHi−Fiアンプというめんどうな希望だった。
 その時点で、これを探すと、市場にはトリオのTW61ぐらいしかない。ラックスSQ77Tの方が好きなんだが、あれは音楽マニア用にしか作っていないとうそぶいたかたの顛を思い出して、これ幸いときっかけに利用して山水に尋ねてみたのである。「どこからそんなことを聞いたんですかねえ! 確かに出ることは出ますが、5月の予定なんですよ」というメーカー側の返事だった。そこでもうひとふんばり、ずうずうしくも、それを見せてくれないか、と強引に頼みこんでみた。
 いいわけが成功したかどうか、条件づきでこの未発表のアンプを見せてもらうことにこぎつけた。

ARのアンプ
 ところで、山水のその時点では未発表であったその新型アンプが、手元に届けられる数日前に、私は米国市場における普及型アンプとして注目されるべき製品に接した。おそらく、この数年間、米国市易のベストセラーになるに間違いないであろうこのアンプというのは、ARのアンプである。
 ARは日本ではブックシェルフ型のスピーカー・メーカーとしてのみ有名である。56年、アコースティック・サスペンション方式という、特殊のスピーカーをひっさげてデビューしたアコースティック・リサーチは、もと米国オーディオ誌の編集者として聞こえたエドガー・ビルチューが、この特殊スピーカーでデビューした新進メーカーである。
 60年代初頭のステレオ初期になって、スピーカーを2つ必要とする時期になるや、小型で大型なみの豊かな低音が、たちまち人気となり、305mmと203mmの2ウェイであったAR1から、AR2型になるや、米国きってのベストセラースピーカーとなったものだ。
 その頃の在米の友人たちの噂を聞き、早速購入した62年製の、高音用がまたドーム・ラジェターでない126mm2本がまえのAR2、オリジナルは、一昨年までの私のメイン・スピーカーとして、また今でももっとも楽しめるスピーカー・システムとして、ジムランのLE8Tと共に数多い手元の中でも、音出しのチャンスの多いスピーカーである。
 今日ではAR3が、そしてその改良型のAR3aがAR社のスピーカーの主力製品で、これらのスピーカーのずばぬけた低音を通して、日本でもあまりにも評判の高いAR社だが、米国内では、スピーカーと並んで家庭用レコード・プレーヤーのまぎれもないベストセラーAR・XA(テンエー)のメーカーとしても知られている。
 これについて書くのはまた次の機会として、超小型モーターによりライト・ウェイト・ターンテーブルをベルトで回す独特のメカの超薄型プレーヤーは、セカンド・プレーヤーとして実に快的である。
 スピーカー、プレーヤー共米国市場ベストセラーのこのAR社が出したアンプということで、注目されるこのアンプのショッキングな点のひとつは型番がないことである。つまりAR社はこのアンプだけしかアンプの製品を出さないことを意味する。いかに自信に満ちたことか!
 このアンプは、2ヵ年間の完全保証を打出しているのも、トランジスターアンプ最大の難点であるパワーTr破損という点を解決してしまっていることを意味しよう。
 そんなバックグランドで、このアンプをのぞこう。
 さてARのアンプ、ひとくちでいうなら非常に広い需要層を対象にしたインテグレーテッドアンプだ。これは今までの同社の出してきたスピーカー、プレーヤーをみればわかることであるし、アンプ自体のシンプルなデザインをみれば一目瞭然だ。
 特に入力切替が”PHONO” “TUNER” “TAPE”のただ3つしかないことや、電源スイッチがボリューム連動であることからもうかがい知れる。しかし中をみて、そこに入力トランスがあったことに気がかりがのこる。日本の多くのマニアはトランスのアレルギーがひどいようだ。この入力トランスにかなりの反応を示すに違いない。
 しかし音をきいてみると、この素直なややソフトな静かな音、そしていざフォルテとなる時のすさまじい迫力からは、トランスの有無などは全然問題とはならない。それよりも、信頼性を第一と考えて、あえて入力トランス・ドライブを採用したAR社の良心を知る。
 しかも、このアンプの性能を知るとき、さらに真価を見直さざるを得ない。各チャンネルの出力は。4?負荷でクリッピング点において60Wをこえ、両チャンネル動作時で、50Wをしのぐ大出力ぶりだ。これはAR社の主力スピーカーである、AR3または AR3aが4Ωとかなり低いインピーダンスのため、トランジスターアンプ時代の今になって低負荷のため、オーバーロードとなりがちで、たとえばソニーのアンプなどでは動作中フォルテの時、しばしばスイッチを入れなおさなければならなくなる。
 低負荷はど出力の出る傾向のトランジスター時代に、AR3の4Ωというインピーダンスは8Ωが標準の今、やや低すぎて使い難いという非難がないでもなかったのだが、こうしてAR社アンプが発表されると、ARスピーカーをもつ者はARアンプを買いたくなるように、スピーカーを作った59年から、すでにトランジスターアンプの欠点と長所を熟知して、あえて4Ωとしていた企画性のうまさは舌を巻く思いだ。

AU555は日本のマニア向け
 新入荷のARのアンプは、ひとくちにいうなら「合理性のかたまり」である。これに触れて数日後、日本市場で最新である山水の新型アンプAU555に接した。
 両者がきわめて広いマニア層を対象として企画されたものである点、また偶然であろうがその外形寸法もほぼ同じで、規格の上でもよく似た点が少なくない。しかし、その根本にある相違点は日本のマニアのあり方を熟知した山水と、あくまで米国のマニアを対象としたARの違いに他ならない。
 まず第一に、出力の大きさである。山水は20W−20Wを基準としているのに対し、ARでは50Wと倍のパワーをもっている。日本の家屋構造を考えると片側20Wは妥当な線であろう、日本市場で最近ベストセラーのブックシェルフ型スピーカーを次々に発表する山水のSPシリーズの製品をみると、全面的にこの種のものとしては高能率である点を注目したい。
  SPシリ−ズの音が好評の大きなポイントは、その充実した中音域にあるのだが、これはあまりマスの大きくないコーン紙をもった大口径ウーファーによってのみみたされる特長であり、これが今までの国産Hi−Fiスピーカーと違った好ましい音色を作る大きな因となっている。
 そして、このような高能率スピーカーをドライブするのなら、あえて大出カアンプを必要とすることはないであろう。大出力はそのまま大出力Trと大型の電源を条件とすることとなり、強いては高価格につながる。
 山水のアンプではこれをおさえて高品質化を他にそそいでいる。そのひとつはアクセサリー回路の充実である。最近のマニアの傾向として、マルチ化が著しいが、万事マルチ化をしたがるぜいたくマニアの傾向のひとつの表れとしてカートリッジや、アームをまたスピーカー・システムを複数個もつことが最近のマニアの通例であり、これの完全利用のための入力、出力回路のマルチ化が、新型アンプでは大きなセーリング・ポイントとなってきている。
 このAU555もこの点が特に充実していることはパネル面をみてもうなずける。
 このアンプの兄貴分にあたる最近のベストセラーAU777そっくりのパネルがいかにもマニア向。一見AU777の4/5というところだが、外観的なデザインだけでなく性能の方もほぼそういうことができる。
 このアンプの中味をみると、そこにはまさに山水らしい信頼性に重点をおいた技術を知らされる。ガッチリしたシールド板は、AU111とまったく同じ構造で、プリアンプ部をそっくりかこみ、正面右端の入力切替スイッチのスイッチ・ウェファーの背部は、そうくり組みこまれたイコライザーの小基板が、高いSNを保つための巧妙な手段となっている。
 その上部には、トーン・コントロールのCRと共にプリアンプ増幅段の基板が配され、その全体をガッチリと厚い鉄板のL字型シールドが掩う。パワー用ステージは、これも一体のプリント基板がシャシー上に取付けられているが、総じてプリント基板上のパーツの配置が、この種の量産アンプには珍らしいくらいスッキリと整理されているのも、検討が十分加えられていることを物語る一面だ。
 パワー用のTrはシャシー背面パネル下部を内側にL型に曲げて、そこに下から取付けられており、背面パネル全体が放熱板として利用されるという巧妙なユニークな構造で、放熱板が特に不要となり、量産時に価格を下げる有力な手段だ。
 山水のアンプにはどれにもこの種の巧妙で合理的で、しかも優れたアイデアが散見できるが、メカに強い設計屋がいるに違いない。ずらりと並ぶスイッチの切れ味もかなりいい線をいっているが、特筆できるのはスピーカー端子だ。下をちょっと押さえて、小さな穴にスピーカーリード線をちょっと差し込んではなすだけで固定できるのは、うれしい。トランジスターアンプでは出力リード線のもつれなどが原因で、出力Trを破壊してしまうことがよくあるが、この端子なら間違いないし、もつれも起すまい。
 さて、音を出してみると、このアンプの良さはまさに納得させられてしまう。ゆとりのあるパワーが重低音域の豊かな迫力となって圧倒される。しかも音全体のイメージとしては、AU777それと同じく冷徹な明解性の高い音だ。

ケチをつけると……
 まず回路をみてそのケミカル・コンデンサーの多いのが気になる。丁寧なこととはいうものの間違いないからなんでも使っておけという、万事ことなかれ主義の優等生的設計屋さんの手法をみる思いだ。もっとも丁寧すぎてケチをつけるのはお門違いかもしれない。
 もうひとつ、PHONO端子のSNの良さに比べ、AUX端子のSNが意外なくらい良くない。回路図をみるに至って了解したが、全入力がNFを深くしたイコライザ−のトップから入っており、TAPEやDIN端子だけがイコライザー次段から加えられるようになっている最近のアンプでは、これが常識のようだがAUX端子の感度を上げるのが目的ではあるが、SNの多少の劣化は、入力が大きいから問題とされないのだろう。
 そして、最後にもうひとつケチをつけるなら、バランスつまみとボリュームつまみは、操作上ぜひ逆配置につけておきたかったと思う。つまり入力切替えのすぐ隣がボリュームつまみ、そしてその次に繁度の低いバランスを置くべきであろう。
 ともあれ,山水のAU555その3万円台というお値段としては破格の内容の魅力的新製品といえよう。

QUAD 33, 303, ダイナコ PAT4

岩崎千明

無線と実験 5月号(1968年4月発行)
「最近の海外Hi-Fiアンプの傾向」より

まえがき
 近着の米国オーディオ誌を眺めていたら、変ったことに気付いた。最近のオーディオやハイファイ誌に小型のFMラジオの広告が多いことである。それも1頁あるいは2頁みひらきという堂々たる広告でありながら、そのラジオはステレオ・アダプターもついていない程度の、小型パーソナル・タイプである。しかし、そのFMラジオは、本格的なHi−Fiメーカーで作られていることが興味をそそった。
 Hi−Fiアンプの最大メーカーから総合メーカー的な色合を濃くしているフィッシャー社、ブックシェルフ型スピーカー・メーカーとしてARと並び、最近はモジュラー・ステレオから完全な総合メーカーへと脱皮をとげて登り坂のKLH社、カートリッジ・メーカーとしてシュアに並ぶ高品質をもって鳴り、最近はスピーカー・システム、アンプへと手を拡げているADC社など、そうそうたる一流メーカーの手で、小型FMラジオがどんどん作られているのは何を示すか?
 その辺の事情を調べてみたら面白いことが判った。昨年末は米国市場においてFMラジオが爆発的に売れて、民需電子産業としてカラー・テレビに次ぐ売行きだったとか。これはFM放送網の拡充した50年代後期以来の流行だということである。
 何が理由で、今どろFMラジオが急激に売れてきたか。この辺が今年の米国市場のHi−Fi界のアンプの行き方と決して無関係ではなさそうなのである。
 そこでFMラジオが今までとどこが違うか。その技術的背景を考えてみよう。昨年末以来のFMラジオは、むろん例外なくトランジスター化されている。そしてその技術を踏台とLて、Hi−Fiメーカー製ラジオは、コンパクトながら、かなり完全な密閉型スピーカー部を備えているのが特長だ。管球式では小型ラジオのスペースの多くはシャシーにとられてしまうが、Tr化されればごく小型の基板以外は全部スピーカーが占められる。
 グッドマンのマキシム・タイプのスピーカーは米国でUTCが一手に引受けてマキシマスという名で売っていたが、その売行きは当初における予想を下まわって大したことはなかったが、その技術はモジュラー・ステレオのスピーカーにおいて生かされ、さらに今日、小型FMラジオにおいて真価を発揮しているわけである。
 もうひとつ、FMラジオで見逃がされないのは、フロント・エンドへFETを採入れることにより、永年問題となっていた強力電波による過大入力のクロストークの解決である。Hi−FiアンプのFETの採用はスコット社のチューナー・アンプを皮切りにシャーウッド、ケンウッドなどから今日では大部分の製品に採用されているが、これはFETの量産体制が備わった67年における大きな進歩であった。FMラジオの大流行は、「FETの採用により今までのクロストークの問題が解消し、Tr化によりスピーカー・システムを充実させることができ得た」ことが理由だ。

アンプの大きな流れ
 米国のHi−Fiアンプを見るとき、FM小型ラジオの著しい売行きからも判断できるように、Hi−Fiレシーバーが今や完全に庶民の実用品となってきている点を見逃がせない。そこで、Hi−Fiアンプのあり方も日本での場合とかなり違っており、その辺のことを了解していないと全般的傾向を判断しにくいいわけである。
 今年度のアンプ界における傾向で注目できるのは、マランツ18にみられるような、超一流ブランドによるレシーバー、つまりチューナーつきアンプの出現である。価格700〜500ドルという従来の倍の価格の高級アンプが狙うのはどんな層か。マランツ以外に、マッキントッシュ、アルテック、スコット フィッシャー、さらにソニーからもこの級の豪華型が発表されており、高級アンプはますます高級化、デラックス化の道をたどりつつある。
 スコット、フィッシャーなどの場合には、その一連の製品のイメージアップが大きな目的であるが、マランツ、マッキントッシュ、アルテックなどにおいてははっきりした目的があり、それがハイファイ・マニアでないオーソドックスな高級音楽ファン、ないし金持ちの一般市民に狙いを合せた製品であることは間違いなかろう。
 これと対照的に一般のHi−Fiアンプ、特にチューナーつきのレシーバーと呼ばれる総合アンプは全般的傾向として低価格の方向に進んでいる。米国でもっとも一般的な名声をもつフィッシャーを例にとると500ドルの700Tの最高ブランドを頂点にしていながら一般向けは200ドル級という、今までにない低価格の200Tと普及化されているのが判る。
 ケンウッド、パイオニア、サンスイなど日本製米国向けのアンプにもこの傾向はみられ、これらの製品はそのままの型で日本市場に出ているので如実に見ることができる。ハイファイ産業は今やマニアだけの物でなく一般市民の間に大きく根を下してきているのだ。

日本市場での海外アンプ
 米国市場でのデラックス化を反映して、日本に最近入ってきたアンプも多くが超高級品である。30万円前後の高価格だ。マランツ18、アルテック711B、フィッシャー700T。最近発表されたソニー6060やパイオニアの1500T、トリオの1300、サンスイでも同級のものがあるというが、米国市場では全て超豪華型といわれる級だ。
 これらのレシーバーは取扱いやすさを考えれば、一般向けという点に焦点を合わせた以外の技術的グレードの点で、今までのプリメイン型よりも高級であるといわれる。
 しかし今日の日本における需要層であるマニアの立場からはちょっと物足りない点が多い。たとえば入力端子が、本格的高級機なみにたくさんほしい。またチャンネル・アンプ化のためプリアンプ、メインアンプを独立して使いたいなど、数え上げればきりがない。日本製の高級アンプでは、こういうマニアの要望がほぼ完全に実現されているだけに海外アンプに対する物足りなさは一層だ。
 しかし、考えてみると日本のマニアのレベルはおそらく世界一ではなかろうか。チャンネル・アンプにしても日本ではかなり多く実用されているのに、米国市場ではアコースティックX以外の商品はなく、むろんマニアの間でそれが実用化している例も聞いたことがない程度だ。最近では米オーディオ誌の3月号に、チャンネル・アンプの記事がアコースティックXを例としてのっているのが珍らしいほどだ。特にステレオ期以後において、マニアに関しては日本の方が水準が上である。
 67年のコンシューマー・レポートの米国市場におけるアンプのテスト・レポートにおいても、日本製アンプがパイオニアの1000TAをはじめ、輸出専門メーカー製などがフィッシャー、スコットとならび、上位にランクされていることからも日本製品のグレードの高さが判ろうというものだ。これは結局、日本のハイファイ需要層の底辺の広さと、そしてマニアの満点の高さが製品に反映しているのだといえる。

ダイナコとクワッド
 さて、コンシューマー・レポートといえば、そのトップ・ランクの製品が、米国で低価格製品の異色とされているダイナコであった。
 ダイナコはアクロ・サウンドの技術者であったD・ハフナー氏が戦後アンプ・キットのメーカーとしてスタートした独特なメーカーである。この社の製品の高品質ぶりは定評があるのだが、最近、米国市場を湧かしているアンプは次のようなものがある。
 マランツ初のチューナー・アンプ〝モデル18〟、マッキントッシュ初のチューナー・アンプ〝1500〟とその改良型〝1700〟、これは終段は球で7591をPPとしたトランスつきだ。そしてこの高級2機種に対してARが初めて出すアンプ、そしてこのダイナコのTr化されたアンプのシリーズ、メインアンプの〝ステレオ120〟と、プリアンプの〝PAT4〟である。
 コンシューマー・レポートにおけるダイナコは管球プリアンプ〝PAS3X〟、とTrパワーアンプ〝ステレオ120〟だ。Trプリアンプ〝PAT4〟はすでに一昨年末に発表され、一部の商品が出まわっていたものだが、メーカーとしても「PAT4が必らずしもPAS3Xよりも優れているとはいわない」という微妙ないい方で、その販売に力を入れてることをしなかったものだ。それはTr化に伴いトラブルの予測ないしは実際に起きていたに違いなく、現実に市場に出ていた〝PAT4〟は全製品ダイナコの手で回収されたと伝えられていた。
 しかし、昨年、67年暮以来、そのS/Nに関するトラブルも解消し予期の高性能に達したようで、68年度は大々的に〝PAT4〟を売る方針のようだ。
 そしてその第一陣はすでに米市場で好評をもって迎えられ、日本でも4月には発売れよう。
 〝ステレオ120〟、60/60ワット・パワーアンプとの組合せは、価格を考えると最高品質といわれており、米国でも売行はキットを含めてプリ・メインのトップを行き、ものすごいようである。なおFMチューナーは管球式の従来のFMステレオ・マルチつきがコンビとされている。
 日本ではこのダイナコと前後してクワッド・ブランドで知られる英国アコースティカル社のTr化された新型アンプが入ってきた。
 QUAD33プリ、303パワーアンプの組合せである。クワッドは日本でハイファイ初期から特に高く評価されており、ファンも多く、人気も高い。このクワッドとダイナコのアンプが、日本マニアの間で当分の間人気争いの2大製品となろうことは明らかであり、またその内容、技術の対称的な点を含めて興味が深い。

QUAD33プリアンプ
 回路全体を簡略化、単純化するという点でダイナコと似た構成上の考え方を示しているが、ダイナコが球をほとんどそのままTrに置きかえた構成に対しクワッドはその2ブロックとボリュームとの段間に2つのエミッター・フォロワーのインピーダンス変換回路を挿入し、スイッチ配線に対してのリードのストレイ容量の影響および回路間のマッチングを考慮している、この点がダイナコと差があるだけである。トーン・コントロールが2段にわたるNF型である点、LCによるハイカット・フィルターがプリアンプ最終段にある点などダイナコとまったく同じであるのも興味深い。
 英国製共通のパワーアンプがハイゲインなため、プリアンプ出力は規格歪率にて0・5Vと低いが、この構成では1Vの出力においてもなんら差支えないであろう。
 ダイナコとの差は写真より判るように、その構造の違いだけといえそうだ。ダイナコのPU入力端子は3つあり、これは回路図よりみられるように入力端子において低レベル入力なみに落されてイコライザーに加えられるような方式をとっており、回路内でのスイッチを含め複雑化を防いでいるが、クワッドのプリアンプでは永年やってきたようなプラグイン・イコライザーの考え方をプリント基板の挿し変えという方式によっている。
 これは従来のようにいくつかのイコライザー・ユニットを用意するのでなく、あらかじめ0.5〜2mVまでの低出力、1.5〜6mVまでの高出力、セラミック用の各種のカートリッジのイコライザー、それに予備の端子を具えたプリント板の向きを換えて挿し変えて必要に応じた使い方をするわけである。
 テープ・アダプターの方はイコライザーに続くエミッター・フォロワーそのもので、プリント基板裏面にあるスクリューを切換えてテープ出力に応じたレベル・セットができる。このようなクリッピングを考慮した設計はTr化されたセットでは適切なものといえる。

ダイナコのPAT4
「偉大なものはすべて単純である」この言葉はフルトヴェングラーの芸術に対しての名言だが、ダイナコの回路図をみたとき、この言葉を想起した。実に単純きわまりない。片側の構成は4石、それも2段直結の2ブロックという、もっともシンプルな構成である。一般にハイファイ・アンプTr化の最大の問題点はトップの雑音発生である。S/N比を高く保つことがいかにむつかしいか、最高級を謳われるマランツ7TにおいてさえS/Nのバラツキが需要家最大の悩みのたねであった。
 ダイナコはこれを、構成を最少滅に喰いとめるという、もっとも当り前なオーソドックスな方式で解決したわけである。たくさんのツマミが好きで、マルチ・スピーカーが好きな変形マニアにはこのダイナコの良さは納得できないであろう。すべて製品は最終的に到達した性能、ハイファイでは、それに加えて出てきた音で判断すべきである。
 初めの2石直結ブロックはNF型のイコライザーを構成している。イコライザーはフォノ・テープヘッドおよび特別入力端子の3つが用意されている。直結アンプの前後に入力切換のスイッチがあり、その出力側にモニター・スイッチ、ヘッドフォン・ジャックによる入力端子、簡単なCR型のロー・フィルターが続く。
 そのあとにシーソー・スイッチ2個によるステレオ・モード切換があり、ボリューム・コントロール、バランス・コントロールと一連のリード配線を経て第2ブロックの2段直結回路に導かれる。
 この2つの直結構成の回路はほとんど同じもので電源B電圧の後段が高いため、動作点も後段が大入力用となっているわけだ。
 第2ブロックは、ダイナコ特許の2段構成NF型トーン・コントロールで、すでに管球式PAS3Xにおけるもの。もっと初期のモノ用プリPA1の回路と基本的に何ら変るところがない。BAX型と呼ばれるNF型のトーン・コントロール素子がエミッター・コレクター間の2段にわたって結ばれている。このため全体の中域のゲインは20dB以上あり、しかも従来起りがちの低域の上昇がなまることもなく、超低域上昇特性のよさは、まさにマランツなみを誇るものである。ダイナコ・プリアンプの優秀さの最大の支えとなっているのが、このダイナコ特許の2段NFトーン・コントロール回路であり、Tr化された今日でもこれは少しも変ることなく続いているのをみると、米国製品に珍らしい技術的なしぶとさを感じるのである。
 この2段出力段のあとにLCによるハイカット・フィルターが入り、出力端子へと導かれる。低出力インピーダンスのあとのハイカット・フィルターだけに素子のインピーダンスを下げなければならず、コア一に巻かれたインダクタンスを採用したのであろう。出力インピーダンスの十分低いトランジスター回路ではLは管球以上に利用されるわけだ。
 ダイナコPAT4の出力は2Vまで規格歪率でおさえられており、むろん電源負荷である点を考えると、規格出力が0.5Vのクワッド・プリアンプ〝33〟よりも独立使用の点で有利であり,またクワッドがヨーロッパ規格のコネクター式入力端子であるのに対し,ダイナコが米国のRCAピン・プラグ入力端子である点も、日本のオーディオ層にはなじみ深く、有利といえそうである。内部配線の米国らしいみてくれを考えない合理的なリードの引きまわし方は、一見弱々しくみえる内部構造とともに,神経のこまかいマニアには納得できないかも知れない。そういう点からはクワッドの測定器なみの組み立て配線の方がはるかに良心的で日本人的センスであるが、出てきた性能はほとんど同レベルと考えてよく、まさに合理主義的米国式か、ガッチリと伝統を守る英国式かという内部構造の点と約2万円近い価格差だけが選ぶ者にとっての導標だ。

トリオ TW-200

トリオのレシーバーTW200の広告
(スイングジャーナル 1968年3月号掲載)

TW200

ラックス SQ78

ラックスのプリメインアンプSQ78の広告
(スイングジャーナル 1968年3月号掲載)

SQ78

サンスイ SAX-270

サンスイのレシーバーSAX270の広告
(スイングジャーナル 1968年3月号掲載)

SAX270

ラックス WL313

ラックスのチューナーWL313の広告
(スイングジャーナル 1968年2月号掲載)

WL313

ソニー STR-6060

ソニーのレシーバーSTR6060の広告
(スイングジャーナル 1968年2月号掲載)

STR6060

サンスイ SAX-500

サンスイのレシーバーSAX500の広告
(スイングジャーナル 1968年2月号掲載)

SAX500

JBL Olympus S7R, S8R, Lancer 44, Lancer 77, Lancer 101, Trimline, SA600, SG520, SE400E, SE408SE, LE15A, LE14A. 375, 075, LE85, LE175, HL91, 537-509, 1217-1290, サンスイ SP-LE8T

JBLのスピーカーシステムOlympus S7R、S8R、Lancer 44、Lancer 77、Lancer 101、Trimline、プリメインアンプSA600、コントロールアンプSG520、パワーアンプSE400E、SE408SE、ウーファーLE15A、LE14A、トゥイーター075、ドライバー375、LE85、LE175、ホーンHL91、537-509、1217-1290、サンスイのスピーカーシステムSP-LE8Tの広告(輸入元:山水電気)
(スイングジャーナル 1968年1月号掲載)

JBL

ソニー TA-1120A

ソニーのプリメインアンプTA1120Aの広告
(スイングジャーナル 1968年1月号掲載)

TA1120A

サンスイ SAX-270

サンスイのレシーバーSAX270の広告
(スイングジャーナル 1968年1月号掲載)

SAX270

ラックス SQ78

ラックスのプリメインアンプSQ78の広告
(スイングジャーナル 1968年1月号掲載)

SQ78

ラックス SQ77T, VL70T

ラックスのプリメインアンプSQ77T、チューナーVL70Tの広告
(モダン・ジャズ読本 ’68 1967年10月増刊号掲載)

LUX

トリオ SC-201, TW-61, AFX-21T

トリオのスピーカーシステムSC201、プリメインアンプTW61、チューナーAFX21Tの広告
(モダン・ジャズ読本 ’68 1967年10月増刊号掲載)

Trio

サンスイ AU-111, AU-777, CA-303, BA-202, BA-303, SAX-270, SAX-500, SAX-600, SAX-700, CD-3

サンスイのプリメインアンプAU111、AU777、コントロールアンプCA303、パワーアンプBA202、BA303、レシーバーSAX270、SAX500、SAX600、SAX700、エレクトリッククロスオーバーネットワークCD3の広告
(モダン・ジャズ読本 ’68 1967年10月増刊号掲載)

AU777

ニッコー STA-501

ニッコーのレシーバーSTA501の広告
(スイングジャーナル 1967年12月号掲載)

STA501

ラックス SQ77T/II

ラックスのプリメインアンプSQ77T/IIの広告
(スイングジャーナル 1967年12月号掲載)

SQ77TII

ティアック LS-260, LS-300, AS-60

ティアックのスピーカーシステムLS260、LS300、レシーバーAS60の広告
(スイングジャーナル 1967年12月号掲載)

LS300

サンスイ SAX-270, SAX-500

サンスイのレシーバーSAX270、SAX500の広告
(スイングジャーナル 1967年11月号掲載)

SAX500

トリオ TW-61

岩崎千明

スイングジャーナル 11月号(1967年10月発行)
「SJオーディオ・コーナー ベスト・セラー診断」より

 編集部から「トリオのTW61をどう思うか」というよな電話を頂いたのは、厳しい日中の残暑を忘れたような夜風に乗って、庭の虫の音がクーラーを止めた室内に流れる。
 そんな9月の夜だった。
「トリオの傑作という呼声が高いし、近来のベスト・セラー製品でしょう」と答えた。そういえば私の友人のジャズ・ファン、それも音にうるさい上、本人がかなりの技術を持った奴が、TW61をぜひ欲しいと思うんだが、といってきて、トリオに頼んでみたら「ちょうど在庫が売切れてしまったので少し待ってくれ……」という返事があったのが3か月前だったっけ。
 トリオの製品が、機械いじりの好きな技術者に愛されるのは、理由がないわけではない。トリオというメーカーが、エレクトロニクス技術に強いこと、そして、その開発した最新技術を、常に製品に反映して、ユニークな魅力的な製品を、他社にさきがけて発表する点も、技術者には大きな共感を呼ぼう。
 トランジスタ・アンプという商品を、量産化とした形で、市場にまっ先に送り出したのも、トリオのこのファイティング・スピリットの現れだし、始めての本格的なトランジスタ・ハイファイ・ステレオ・アンプもトリオの栄光としてステレオ・アンプ史上に残ろう。
 さて、TW61、そういうわけでしみじみと音に接したことがなかったので、編集部の依頼もあることだし、トリオの神田松住町角の東京試聴室へ、翌日を足をしのばした。
 室の片側にずらりと並んだ最近の製品群、それをまずひとわたり聞いてみた。そして、TW61、うわこにたがわずベスト・セラーを誇るだけのことがあるなあと思ったのである。
 トリオのアンプ群、大きく分けてその音色により2系統あるようだ。その一方は、一時期私も毎日スイッチを入れ、ベイシーのフルバンドを轟かしたTW80A、豊かで迫力に満ちた低音と、ややきらびやかな高音が、ライブな部屋で特に効果的な、華麗ともいえる再生をしてくれた。
 その後この音色をややおとなしくし、きりりと引締めた80D、この線上にはチューナーつきアンプTW880も加えられよう。
 もうひとつの音色、静かといえるほどかなりおとなしく、ちょっと聞くと音域の広さをあまり感じさせないが、一般に技術向上を思わせ、高級な音楽ファンをも納得させる音色であり、これを代表するのがTW61である。そしてこの線上にあるのがチューナーつきアンプTW510であり、やや小出力のマイナーモデルTW31である。
 よく、本物の演奏はいくら聞いても疲れないといわれる。このTW61は、まさにそういう音に思われた。「ねえ、君、一日中聞いていて、どのアンプが一番欲しい?」試聴室の係のエクボがチャーミングなお嬢さんにそう聞いてみた。「そりゃあ、サプリーム1だわ、その次は、これね」TW510であった。つまりTW61にチューナーを組合せた総合アンプが510。やっぱりね。
 TW61、まずなんといったって安い! この値段は、まず音を聞いたら想像できない。31、600円!
 トランジスタ・アンプの永い経験と技術、それに量産体制とが、この価値を生みだし得たといえよう。
 ソリッド・ステートらしくブラック・パネルにゴールドつまみをあしらって、カチッとまとめてある。この小さなかたまりに秘めた出力が50ワットという強馬力ぶりは若いマニアにはたまらないであろう。つまみに触れる。なるほど友人の技術者がしびれたはずだ。アクセサリー回路が完全だ。
 2系統のスピーカーを切換えたりいっしょに鳴らすこともできるし、ピックアップを2つ切換えることもできる。むろんハイファイ・テーププレイヤーを最高に発揮するテープヘッド入力もついている。そして、テープ録音端子、録音しながら聞けるモニター端子とそのスイッチ。
 ところでトランジスタ・アンプは故障しやすくないか、とよくいわれる。トリオのアンプは全部特許の自動復帰保護装置つきだ。故障を誘起する異常事態になると、アンプが自動的に動作を止め、それを直すと動作を始める。安心できる装置である。

ラックス SQ301

ラックスのプリメインアンプSQ301の広告
(スイングジャーナル 1967年11月号掲載)

SQ301

ソニー STR-6060

ソニーのレシーバーSTR6060の広告
(スイングジャーナル 1967年11月号掲載)

STR6060

ソニー TA-1120A

ソニーのプリメインアンプTA1120Aの広告
(スイングジャーナル 1967年10月号掲載)

TA1120

ラックス SQ77T

ラックスのプリメインアンプSQ77Tの広告
(スイングジャーナル 1967年10月号掲載)

SQ77T