オーレックスのスピーカーシステムSS220W、プリメインアンプSB220、チューナーST220、アナログプレーヤーSR220の広告
(オーディオ専科 1975年4月号掲載)
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サウンド STC-11, STO-140
マクセル UD-XL
オーディオテクニカ AT-15E
菅野沖彦
スイングジャーナル 3月号(1975年2月発行)
「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ・システム紹介」より
AT15Eはオーディオ・テクニカが同社のオリジナルであるVM型の発電機構を持ったカートリッジとして何回か改良を経て完成した最新製品である。この後に普及版の、AT14シリーズを発売しているが、同じ設計思想にもとずくものだ。AT15Eのよさは、VM型の同社のカートリッジに共通のきわめて明解な音像再現に加えて、豊かな陰影やニュアンスの再現力が得られたところにあると思う。VM型の振動発電系というのは.45/45方式の現在の2チャンネル・ステレオ・ディスクの溝の構造と同系のもので、互いに45度ずつ傾いた左右の壁の振動を、ちょうど、その振動を刻み込んだカッティング・ヘッドの左右のドライビング・コイルのポジションのようにV字型に2つ独立したマグネットが設けられて変換するというものだ。その構造が、いかに音質に結びついているかを明確に断言する自信はないが、今まで聴いてきた同社のVM型に共通した音質傾向が、先に述べたように、明解な音像再現とクリアーなセパレーションにあったといえる。曖昧さのないソリッドな音の再現は、時にドライで鋭角な印象を与えられ、音楽のニュアンスによっては不満を感じる場合があった。AT15Eでは、それが大きく変化して、適度な味わいと音のタッチの快さを感じるものになったのである。カートリッジは変換器として、ディスクの溝に刻まれた信号を忠実にとり出すことが、その大きな役目であるから、こういう音のカートリッジ……というような存在や、表現は本来おかしいというのは正論である。カートリッジが音を持つことは間違いだという理屈は正しいと思う。しかし、それはあくまで理屈の上であって.現実は大きく違う。全てのカートリッジは固有の音をもっている。カートリッジだけではない。全ての機械系をもつ変換器は固有の音を持っているのが現実である。そして、そこに楽しさや、喜びを感じることは間違いだといってみてもはじまらない。いい音、快い音は、まきに好ましいのであって、感覚に正邪はないのである。私はよく自分の部屋でカートリッジをテストするが、自分の作ったレコードでは、よくそのマスター・テープと聴きくらべることがある。変換器として、マスター・テープに近い音を良しとするのは当然だが、そういう比較は遠い昔にやめてしまった。つまり、近いといえば全てのカートリッジはマスター・テープに近いし.遠いといえば全て遠いのである。そして、その差の部分は千差万別で、そこにカートリッジの音として固有の音楽的魅力の有無が存在することのほうに大きな楽しみを見出してしまっている。
高品性かつ豊かな感性を持つジャズ・サウンドを再現
そんなわけで、このAT15Eに対する私の評価も、かなり柔軟な態度で音楽を聴いた上でのものであり、このところそうした味わいを聞かせてくれるカートリッジが国産でポツポツ出始めてきたことに喜びを感じているのである。ところで.このAT15Eを使って一式コンポーネントを組み合わせろという編集部の注文だが、小さなカートリッジ一個から、システムに発展させるというのは、少々こじつけがましいこともあり、本来、カートリッジは最後に決めて、なお、その上でも、いくつかのものを使い分けるという性格からすれば、この注文は少々無理があろうというものである。そこで、AT15Eの価格や実質性能、感覚的な満足度にバランスした装置を漠然と考えてみると、やはりかなり高級なシステムになるようだ。決して10〜20万の普及システムはイメージ・アップされてこない。AT15Eというのはそういうクラスのカートリッジなのだろうと改めて思った。ここに作ったシステムは、それでも、ギリギリ節約して作ったつもりのものである。プレイヤー・システムとしてはAT15Eのよさを発揮させるにはアームが重要。多くの普及、中級、時には高級システムまでが、トーンアームに問題があって、カートリッジの性能を充分に発揮しきれないのである。ひどい場合はトレース不能、ビリつきを生じて、一般にはカートリッジのせいにされている。
デンオンDP3700Fはこの点で安心して使える。シンプルだが精度のいいアームは高感度でしかも神経質ではない。私の好きなアームの一つだ。モーターはいうまでもなくDDの有名なもの。話が前後するが、AT15Eのシェルはあまりいただけない。形は気取っているし、作りもよいが、音は最高とはいえない。他のシェルに変えて、よりよい結果が得られた経験がある。シェルに対するカートリッジ本体の食いつきもよくないし、ダンピングが不充分だ。
アンプは同じデンオンのPMA700Zを使う。デンオンのプリメイン・アンプとしては既に定評のあったPMA700の改良でMKII的新製品である。音の透明度と実感がより確かな感触になった。よく練られた回路は高度な技術に支えられた音の品位のよさを感じさもる。味わいも豊かで、音楽の生命感がみなぎる。
スピーカーはダイヤトーンの新製品DS28Bだ。去年の暮に発売になったばかりだが、すでにかなりの台数がファンの手許に渡っているという。ダイヤトーンのスピーカー技術が、商品としてまとめの技術とよく結びついた完成度の高いもので、とにかくよく鳴る。AT15E、
ソニー TC-5550-2
菅野沖彦
スイングジャーナル 3月号(1975年2月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
音をとる楽しみは大きい。オーディオの世界は長い間、音を聴く世界であった。専門家だけが音をとることを許され、一般アマチュアは、それを聴く楽しみに限定されていた。レコード、ミュージック・テープ、そしでラジオというように、全て与えられたプログラム・ソースの再生に楽しみの世界があった。無論、そこには大きな趣味の世界があった。一般にいわれるように、必らずしも、聴くことは受身の行動だとはいい切れない。まして、自分で再生装置を構成して、同じプログラム・ソースからありとあらゆるバリエーションをもった音を再生するオーディオの楽しみは、再生とはいいながら、かなり創造性の強い趣味の世界だといえるのである。しかし、自分で録音をするということになると、その性格は一段と明確になってくる。写真の楽しみは撮影にあるし、写真というメカニズムは、素人が撮影するというプライバシーと共に今日のような大きな発展を見た。もし、写真が、オーディオのように、撮影済みのフィルムを再現するという範囲に限られていたら、とても現在のような発展は望めなかったであろう。そして、この音をとるということの楽しさは、録音機をうまく操ったり、S/Nのいい音を録音再生するというメカニックな楽しみと共に、自分の頭の中にイメージとしである音を具現化するところに、その真骨頂があるといってよいのである。実際には自分の外にある音を対象として、これを録音するのに違いないが、ただそこに音があるから録音するというのでは次元が低くすぎるし、楽しさも浅い。自分のイメージに合った対象を求め、それをイメージ通りに録音すること、あるいは思いがけない対象を発見して、それを瞬間的に自分のイメージに火花を散らせ、自分の感じた音として適確に把えること、時には強引に自身のイメージに合わせるべく音をつくり変えてしまうこと、こうした録音の楽しみこそ、まさに創造的な制作としての楽しみであり、その世界は大きく深いといえるであろう。
ところで、そうした目的には世の中の多くのテープレコーダーがあって、それぞれ目的と用途が設計思想の基本となっているが、ここにご紹介するソニーの新製品TC5550−2は、そうした高級な趣味層向けに、ハイ・クォリティ・サウンドで、サウンド・イメージをクリエイトするための道具として作られた高級デンスケである。同社でも、オープン・デンスケ、TypeIと称しているが、この分野での経験の豊富なソニーらしい立派なマシーンが登場して嬉しい。その昔、デンスケの呼称の元となった、ゼンマイ式の重いデンスケをかついで肩をこらせた筆者にとって、あらゆる点で、これは理想のマシーンだと思える程なのである。この種の機械の最も重要なポイントはパワー・サプライだが、これは4電源方式という便利なもので、単一乾電池8個、充電式バッテリー、カー・バッテリー、AC100Vと万全である。まず、どこへ行こうと電源に悩むということはない。メカニズムは少々繁雑だが、それだけ機能は豊富である。筆者としてはもっとシンプルなもののほうが好ましいが、メカニズムの好きな人にはその欲求が充分満たされるであろう。デザイン、仕上げにはマニア好みの格好よさが溢れているのである。トランスポートの要めはがっしりとダイカストで固め、19cm/sec、9・5cm/secの2トラック・2スピードの録音特性は素晴らしい。音楽録音にも全く心配なく使えるほどだから、野外の自然音などは完璧。あまりよいので家庭用のデッキとしても使いたくなるほどでなぜ7号リールがかけられるようにしなかったのだろうなどと、少々見当はずれの欲が出てくるほどなのである。ヘッド構成は3ヘッドの独立式、駆動モーターはDCサーボのワン・モーター、44×94mmのダ円型スピーカーがモニターとしてついている。マイクの入力はロー・インピーダンスで−72dBの感度を持つ本格的なプロ仕様。ラインは勿論、100Ω以上で−22dBである。音質は明解で安定し、バイアス、イコライザー共に3段切換で、テープに対する適応性も広く、高性能テープも使いこなせる。重量は6・8kgと決して軽くはないが、この内容としてはよく押えられている。19cm/secは勿論、9・5cm/secの音質のよさは特に印象的で、基本性能をかっしりと押えたメカニズムとエレクトロニクスのよさを感じた。
ダイヤトーン DS-28B
岩崎千明
スイングジャーナル 12月号(1974年11月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
この秋の新製品の中でも文句なしの出来と認められているのが、このダイヤトーンの新型システムDS28Bだ。
ダイヤトーンは、言うまでもなく、初心者にとっては名作といわれる16センチ・フルレンジ型ユニットP610のブランドとして良く知られ、オーディオ・ファンとしてそろそろ判ってくると、これまた日本の名作スピーカーDS251という名のブックシェルフ・スピーカーのブランド名として忘れられない名前となっており、さらにマニア度が昂じてくると、今度はNHKで活躍し本格派にとって目標とされるモニター・スピーカー2S305のメーカー名として脳に叩き込まれる。
つまり、オーディオ・ファンのあらゆる層に対して、ほんの、しかもオーディオという事象が日本で始まった時から、僅かでも絶えることなく、偉大なるウェイトと輝きをもってファンの上に聳え続けてきた。こうした事実は、三菱電機郡山音響部というより、ダイヤトーン・スピーカーの実力の高さを示す以外なにものでもないのだが、メーカーにとってはかえって不幸となるべき要素も胎んでいるのである。3つのピークが永い年月を乗り越えてきたので、あまりにも大きく裾が広く、まさに壮大というほどの輝やかしいものだから、その他の峰はすべて霞んで、いかに光ろうと、目立つことがないからだ。
かつてDS301という画期的な名作ブックシェルフがあった。決して影の薄い商品ではないし、現在でも、そのマイナー・チェンジ版がDS303として確固たる座にあり、海外誌でしばしばこのうえなく誉め讃えられてきた。にもかかわらず、DS301やDS303は果してDS251ほどの人気を持っているかというと、答えるまでもなく、P610と、251と、305の輝きの下で霞んでしまっているとしか形容できないのである。まだある。DS36Bというフロア型ともいえそうな大型ブックシェルフ・スピーカー・システムが、一部のファンの間で熱愛されているが、これまたDS251の前には商品としてすっかり薄れてしまう。つまり余りに3つの印象は大きく強烈なのである。そうした内側の問題ともいえそうな3つのピークは今秋遂に打破られた。そう言っても言い過ぎではなかろう。それは時間が証明するだろう。
かくて、DS251以来の、それ以上の出来をささやかれ、認められつつあるこのDS28Bは、今後のダイヤトーンの最も主力たるスピーカー・システムとなるであろうことは、まず間違いない。というのは、今やコンポーネントの一環としての、市販スピーカーは、ひとつの価格水準として、ほぼ4万前後がオーディオ・ファンの最も多くから認められる最大公約数といえるからである。もっとも、そうした最近の状況をよくわきまえた上で企画されたのがDS28Bであり、その成功を獲得するための、あらゆる条件を究めつくした結果と言うこともできる。
28Bは一見したところ、従来のダイヤトーン・スピーカーとはまったく異って、現代的なセンスに溢れる。まるで海外製品のようだ。更に前面グリルをはずしても、それが言える。
あるいは全世界の製品中、最も秀れた外観的デザインと云われる米国JBLのブックシェルフと間違えるほどに、フィーリングが相似であるのは今までの三菱というメーか−を知るものにとり、その製品の武骨な外観を見てきたものにとって意外なほどだ。その次に音に触れると、それは感嘆に変わるだろう。なんと鮮明な、なんと壮麗で豪華なサウンドであろう。そこにはブックシェルフ型というイメージはまったくない。もっと10倍も大きなシステムからのみ得られる、深々とした重低域の迫力と、歪を極端に抑えた静けきと、生命力の躍動する生き生きとした力とが、まったく見事に融合して湛えられているのを知るのである。音のバランスは確かにDS251と相通ずるものがあるが、その帯域の広さと音のゆとりとの点で一桁も二桁も高い水準にあり、DS251たりといえども28Bとは比べむべくもないほどだ。音像の確かさと広いステレオ感などとやかく言うこともあるまい。必ずや28Bは251を軽く凌ぐ人気と実績をものにするだろうから。
オンキョー E-212A
岩崎千明
スイングジャーナル 11月号(1974年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
「オンキョーの新製品」といわれるまでは、それを知らないものはてっきり米国製新型システムかと思い込むだろう。また、このオンキョーのE212Aを見知っているのがJBL・L16に接すればオンキョー製と間違えるに違いない。それほどまでよく似た外観だが、どちらが先か、 といわれると指折り数えて月日を改めたくなるほどに同時期の新製品なのだから、お互いに真似たわけではないだろうし、おそらく偶然の一致なのだろう。
しかし、オンキョーE212Aは、戦後いち早くスタートした同社のスピーカー専門メーカーとしての永いキャリアにおいて、おそらく始めて海外製品を意識して企画され、作られたスピーカー・システムなのではなかろうか。
この数年、日本のオーデイオ市場における海外製スピーカーの人気はすっかり普及化し定着した。その背景からヒット商品のデビューのあり方も国産品なみで、爆発的な人気と売り上げは、国内のメーカーのライバルとして対象にならないわけがないだろうから、オンキョーのこうした意図は当然かも知れぬ。
しかし似ているのはサウンドと外観だけであって、決して内容や機構ではない。日本製品の一般的あり方を考えると、これは讃えられるべきといえる。ヒット商品が出れば、あらゆる点においてそれに追随する、という製品が多いのだから。
E212Aのフロント・グリルの内側には2本の16センチ・コーン型ユニットと1本の逆ドーム型トゥイーターとが収められ、一見、ヨーロッパ製ブックシェルフによくみられる並列に接がれた2ウーファーを思わせるが、実は単純な並列駆動ではなくて、一本は高音ユニットとクロスオーバーさせて、中音以下を受け持ち、もう1本だけが低音域のみに対して動作するという、つまり、エネルギーの不足になりやすい低域においてのみ、2ウーファーとして動作し、中域では2本ではなく1本のみが動作するように配慮されている。これは2つの振動板から放射される音響エネルギーが、完全なるピストン・モーションの範囲にあれば理論的にもスッキリとした音響エネルギーとして受けとれるが、その振動板が分割振動をし始める周波数以上においては、2つの振動板による相互の影響が幅射エネルギーとしての音源のあり方を決して純粋な形にしておくわけがない。初歩的ファンが、単純に受け入れてしまう多数の小型スピーカーを無定見に並べて、並列接続して分割振動の範囲までも動作させるシステムが持つ位相歪に起因する音他の定位のぼける欠点を、このシステムは知っており、2つのユニットに対してすら留意している、ということになるわけだ。
こうした今までのシステムでは見逃されがちの、弱点に対して細心の注意を注いだ結果が、2つのユニットを用いながら、そのクロスオーバーを変えてトゥイーターに近いひとつは中音域から低域まで、もうひとつの下のユニットは、低音用としているわけで、いうなれば3ユニットの3ウェイ的な変り型2ウェイ、というややこしい動作をしているわけだ。しかもこうした大口径ウーファーによらぬ2ウーファーの大きな特長でもある重苦しさの少しもない軽やかで、迫力ある低音は失われることがないのは無論だ。
実は、このE212Aの発売直後に、すでに好評を得ていて、オンキョーのブックシェルフ中の傑作といわれているE313Aと並べて試聴する機会があった。E313Aの重量感もありながら、さわやかさを失なうことのない中音から低域にかけての迫力に対して、E212Aはなんと少しもひけをとらなかったのには驚きを感じたのである。価格において50%安く、大きさにしてふたまわりは小さいといえるこのE212Aが、ふかぶかとした低音をスッキリと出してくれた。
むろん、16センチの中音は、低音でゆすられるのではないかという心配をよそに、力強く、シャープな立上りと明快なサウンド・クォリティーで、いつもオンキョーのシステムに対して感じられる品の良さの伴った充実ぶりで、心おきなく楽しめるし、音域ののびもまた十分。つまり内外含めてライバル多きこのクラスの中にあって実感度の高いシステムと断言できよう。
トリオ Supreme 700C, Supreme 700M
菅野沖彦
スイングジャーナル 10月号(1974年9月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
トリオが久しぶりに〝サプリーム〟という名のもとに高級アンプを発売した。かつて、マルチ・チャンネル・アンプ・システムが流行した当初、総合マルチ・アンプとでもいえる3チャンネル・アンプを発売した時からこの〝サプリーム〟(本当はシェープリームと発音すべきだが)という名前が生れたと記憶するが、その時点での同社の最高級技術とノー・ハウを集中して作られる製品にだけ使うことになっているようだ。今回の製品はモデル700Cプリ・アンプと700Mパワー・アンプの2機である。最高級アンプを目指すものだけあって、同社のこの製品にかけた努力は並々なものではなかったらしい。実際の製品のデビューが、他社のこのクラスのものより遅れた理由も、慎重な開発のためだろう。
たしかに、現在の日本のオーディオ界は高級アンプに大きな成果をあげつつある。この一年間に各社から発売されたハイ・パワー・アンプ、それにマッチした高級プリ・アンプはそれぞれ自社の持てる力をフルに発揮した力作ばかりといってよかろう。それぞれが優れた物理特性を誇る高水準のもので平均的にいっても外国製の同クラス・アンプを凌駕するといってよい。ただし、デザインのオリジナリティ、音の風格の面ではそうとばかりはいい切れないが、音の純度の高さは最近の国産アンプの大きな特長だと感じている。私の装置は3ウェイのマルチ・アンプだが、その各帯域のパワー・アンプとして優れた性能を発揮してくれるのはむしろ国産の優秀アンプであるが、全帯域として使うと、不思議と外国アンプの魅力が生きてくるという事実を痛感している。魅力とか音楽性というあいまいな表現は、全て物理的にはネガティヴな要因、つまり、歪に起因するものという見方があるが、心のせまい思考である。それが本当に歪の存在であるかどうかも解らぬくせに、技術領域でだけに思考の輪を限り、現実の音のよさを理解もしないで、頭から否定するという貧しさである。そういう考え方の人間に限って全体を把えることなしに、部分だけに気をとられ、そこさえよくなれば全体もよくなったと錯覚する。エレクトロニクスの進歩とオーディオのトータルな世界でのバランスにおいて、未だ混沌とした情勢にある中で、各社のアンプが、それぞれに実際に鳴らしてみると、ちがう音がするという事実はきわめて当り前の結果だという気がするのである。
このトリオの700C、700Mも、こうした現状を反映したアンプであって、特に、700Cプリ・アンプの音の強烈な個性は好き嫌いがはっきり分れる性質のものだと思う。私の手許にいくつかあるプリ・アンプ、マランツ7T、マッキントッシュC28、JBL・SG520、パイオニアC3、ソニーTAE8450、テクニクスSU9600など、一つとして同じ音のするプリ・アンプはない。そして、しかもそれらは、組み合わせるパワー・アンプとスピーカーで、さらに千変万化するという有様である。700Cを私の常用システムに繋いで鳴らした時の魅力はここでは書くまい。何故ならば、それはあまりにも個人的なものだから。ここではあくまで、700Mとの組合せでアルテックのA7をSJ試聴室で鳴らした感想に止める。音は大らかで底抜けに明るく、ウワーと前面に躍り出た。屈託のない表現の大きさは実にユニークで戸惑いを覚える程である。内向的で悪くいえば陰湿な、じめじめしたデリカシーに伏目がちに涙する日本人的気質とは程遠いのである。私自身、味や女性への好みもマルチブルで自分でも自分が解らなくなるほど浮気っぽいから、音の好みも相当多岐にわたる。700Cの持っている充実した明るい大らかな音は大変魅力的だった。細かい特性はカタログを見ていただければわかるから、ここではふれる必要もあるまいが、各種コントロール機能もよく練られ、これぞプリ・アンプといったパネル・デザインもオリジナリティこそ高く評価は出来ないが、仕上げの高さ、感触のよさなど、高級感に溢れている。700Mパワー・アンプは、170W×2の大出力らしい余裕と、中低音の豊潤さは圧倒的だ。低音の量感がするだけではなく、その質が弾力性に富んでいる。平板な量感をもつ低音ではなく、丸いのである。電源の基本特性もぜいたくに設計されている。出力段は3段ダーリントン接続コンプリメンタリー・トリプル・プッシュである。最近の大出力アンプはパワーの余裕と、よくコントロールされた低歪率のために、音質の向上は著しい。しかし、大出力アンプの共通の欠点としての残留ノイズ・レベルの高さがあげられる。高能率のスピーカーで深夜ひっそりとした中での使用は大変気になるものだ。この点、この700Mは、最近、私が接したハイパワー・アンプの中では格段に残留ノイズ・レベルが低いことを特筆しておこう。ロー・レベル再生の透明度にも影響をもたらすものだけに、残留ノイズは、全てのアンプがこの程度に押えられなければ家庭用のハイ・ファイ・アンプとはいえないのである。700C、700Mはトリオらしい強い主張をもった製品であり、手応えのある堂々とした高級機であった。
コーラル BETA-8
岩崎千明
ステレオサウンド 32号(1974年9月発行)
「AUDIO MY HANIECRAFT C・Wホーンシステムの制作と試聴記(下)」より
20cmフルレンジユニットとして、国内の中でもおそらく、一番高価な部類に入るであろうこのユニットは、非常に手の込んだコーン紙で、その品質管理などは大変なものだろう。このユニットは高音域において、このユニット自体の出し得る低音のマキシマムに充分マッチし得る高域を持つ。そのためにこのユニットは、普通の使い方では高音がかなり強調されている、と受けとめられており、BETA8の使い方の難しさ、ということばになって伝えられているといえよう。
すでにこのユニットに関しては、メーカー自身の「BL20D」という製品がある。それは今回作った2個付バックロードに対して、に対して、ユニット1個使用という点での相違点はあるにせよ、構造はきわめて似ているので、このシステムでの場合にも当然良い結果が得られるだろうと予測される。
今回の場合、2個のユニットを使用したことで高域のやかましさと一口に言われる音域上のバランスが抑えられたことは事実だ。より好ましい状態に鳴ってくれたといえよう。しかし、それでもなお、今日ここで聴いた中では6kHzから10kHzの高域において非常に鮮かさが目立つ。この鮮かさに対比される低域は、デュアル・バックロードホーンにより非常に豊かな力量感をもち、さらに質的にシャープさをも充分に加え、立上りの良い、切れ味の鋭い、しかも雄大なスケールを再現する低音といったところで、その点ベストだ。
しかし、全体の音のバランスという点からいえばやや高い音の鋭さが気になる。それは「鮮かさ」という点ではプラスであるにしろ、鋭さという形で感じられてしまう。だからユニット前面にパンチングメタルとかフォームラバーの塊による、ディフューザーを付加し、高域のエネルギーを拡散させるのが有効だ。アンプのトーンコントロールを操作するよりも音響的に処理する方が優れたバランスを得られるのではなかろうか。高域の鮮鋭さに対して、中音域での豊かさがちょっと物足りなく感じられ、どうも低音の豊かな冴えた雄大な感じを生かしきれず、もどかしさを感じさせてしまう。いわゆるアンプの中域を上げると、このユニットの持つ中高域の鮮かさを助長させてしまうので、中域を上げるというよりも、中低域を上げるというほうが望ましい。さらに中低域でも低音に類する中低域ではなく、中音に近い中低域、周波数でいうとたとえば300Hzから600Hzまでのオクターブぐらいの音をうまく強められるとすれば、より高いクォリティを望めよう。低音の豊かさが印象的なだけによけいそれを感じさせる。
これは前記のような使い方での改善が期待できるという結論するのが大変なだけに、充分に使いこみ馴らすことが大切であろう。
音のひとつひとつの質的なものが非常に高く、国内のユニットの中では特にバックロードホーンに適しているだけに、バランス的なプラスα(アルファ)が欲しいと感じさせてしまう。それを完成させた結果においては、かのJBLの持っている良さを凌ぐかもしれない。またはエレクトロボイスSP8Bの持っている良さと共通している優秀性ともいえるだろうか。
デンオン DH-710S
岩崎千明
ジャズ 9月号(1974年8月発行)
ステレオ・デッキの市販品を完成したのがDH710であり、メカとアンプをセパレートさせてレザーケースに入れ可搬型としたのがDH710Sである。ダイレクト・サーボドライブのキャプスタンモーターと、これにベルト結合されたサブ・キャプスタンとの2キャプスタン機構により立上りもすばらしく、ワウ・フラッタも0・03%と超高性能。
大きな特長以外に随所に、走行系操作メカニズムヘッド、アンプあらゆる所にプロ用メーカーとしてのキャリアが生かされ、プロフェッショナルの信頼性と性能とか、すばらしいサウンドの上に成立している。
プロ用のメカとして例えば、純エレクトロニクス方式のテンション・サーボをみてみよう。高級プロ用メカしか採用されることがなかったこのメカニスムにより、低速再生の演奏中も早送りし、巻戻しもすべての状態において、テープへ加わる張力は一定に保たれるので、丁度よい力でリールに巻きとられる。これにより低速再生時において供給側つまり未使用側の巷径の違いによるスピード変動がないし、ワウ・フラッターなどの理由による変調もない。これは十万円以上のデッキでも殆ど見舞われる大きなトラブルであるのは、高級デッキのユーザーなら知りつくしているに違いない。またテープ張力・テンションが一定なのでテープヘッドへの接触、テープの走行の安定性などあらゆる面でこの特点が生かされることになるし、電気的にはテープの四チャンネル各トラック間の位相歪も極端に少ない。むろんヘッドへのタッチが適当なのでヘッドの摩粍もまたテープ自体の傷みも少ないのはむろんだ。
こんなぐあいにたったひとつの技術があらゆる点に画期的な効果を生み出してくる。
もっともこのたったひとつを、今まではコストがかかりすぎるため、プロ用以外では採用しなかったわけで、デンオンのデッキの価値はこういう点にこそあるのだ。
デッキで音質的に直接重要なのはヘッドだが基本的に音域を高域までのばすとヘッドの摩耗が早くなり、これは相反する条件だ。デンオンの場合、プロ用の一時(いっとき)、数十時間という苛酷な条件のもとに耐久力を培ってきたヘッドの技術がここにも生かされ放送用・高密度フェライト・ヘッドを採用している。特に再生ヘッドはテープの接触面付近を加工の手間に制限なしにという加工で特殊な面に仕上げることにより今までどうにもならなかった「形状効果による低域のあばれ」が生じないのは特筆できる大きな成果だ。
デッキメカニズムの良否をみるにはテープが無理なく走行するかどうかをみればよいといれれるが、デンオン710Sにおいてこの点でももっとも優れてただただ見事という他ない、左石のテンション・アーム間のテープはほとんど直線に近く、テープの接触するのはヘッド以外にはローラーで行ない、さらに一方向エアダンパーをテンションアームにとり入れてスタート時の張力の過度に加わるのを防いでいるという至れり尽くせりのメカだ。
むろんアンプもプロ用そのもので、PP回路を用いて録音の最高レベルは高級プロ用なみ規準レベルに対して3dB以上のゆとりを持つ。イコライザーも精密な調整が
できる連続可変型。マイク録音では驚くべき55dBのSNを得ているのである。
パイオニア SA-6300, TX-6300, CS-W5
岩崎千明
ジャズ 8月号(1974年7月発行)
一般大衆向きの志向が強くて「確かに悪くはないし、誰にでも勧められ、誰にも否定されないけれど、しかし魅力がうすい」といういい方で判定されてしまったのがパイオニアの音響製品のすべてであった。
パイオニアほどの巨大企業となれば、確かに商売の目標としては一般大衆を狙わざるを得ないし、そうなれば最大公約数的に「良い音」をきわめた製品こそがメーカーの考えるサウンド志向であろう。
そうした姿勢が次第にポピュラー化したあまり、真の良さ、魅力ある製品からずれてきて、かけ離れた存在となるのは明らかであり、永い眼でみればメーカーの衰退にまでつながり得る。事実最近二年間のパイオニアの営業成績は以前にも増して爆発的なのに、その製品は、商品として成功していても本格的マニアの眼からは魅力は薄いといわざるを得ない。こうした危惧にメーカーは気付いていないわけではなかった。
その回答がSA6300アンプであり、TX6300チューナーである。
このやや小ぶりながら端正といいたいほどにシンプルなパネルのアンプは、メカニズムとしても、確かに今までのアクセサリー過剰な国産アンプの傾向を促進してきたパイオニアの、今までの姿勢をまったく捨て去ってしまったようだ。
切換スイッチにしても数は少ないし、ここには入力切換のポジションが3つしかない。近頃常識化している2回路のフォノを捨て、ステレオ切換のモードスイッチもない。だが、そのシンプルきわまりないパネルに外形に似合わず大型のつまみを二個配したデザインは迫力を感じるほどに力強い。
そうだ、この力強さは、そのまま、この小ぶりながら20/20ワットの大きいパワーに象徴される。力に満ちたサウンドは、立上りの良いクリアーな分解能力と、かえって妙に生生しい自然感のあるプレゼンスを感じさせる。
20/20ワットの出力は、常識的にいって、五万円台のアンプのものだが、このパイオニア6300は、なんと三万円をほんの僅かだが切った価格だ。驚異といういい方で、すでにオーディオ誌に紹介されているのは、このパワーにおいてたが、実はパワーそのものではなくてサウンドのクオリティに対してなされるのがより適切であろう。
だまって聴かされれば、このアンプの音は五万円台のそれに違いないのである。
このアンプと組合せられるべきチューナーTX6300については、二万四千八百円という普及価格ながら今まで七万円クラスのチューナーにのみ採用されたパイオニアの誇るPLL回路が採り入れられて、ステレオ再生時において、ここに画期的なSNレベルが獲得されている。このひとつを注目して、他はいうまでもない。優れた特性を普及製品に盛り込んだパイオニアの、まさに脱皮したとしかいいようのない魅力溢れる製品なのである。
そしてこのパイオニアの新しい姿勢を示す製品をもうひとつ加えよう、CS−W5だ。二つの20センチウーファーに一見コーン型だが新マイラーダイヤフラムを具えた高音用の2ウェイ3スピーカーシステム。この二万九千八百円のスピーカーは、価格的にこれと匹敵する海外製品とくらべても少しも遜色ないというよりもパイオニアの方こそが海外製品ではないかと思えるサウンドとプロポーションとを持ったヤング志向の製品だ。
アキュフェーズ E-202
岩崎千明
スイングジャーナル 7月号(1974年6月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
商品として完成されたE202をSJ試聴室の机の上に置いて秘かに舌を巻いた。
E202との初顔合せはすでに数10ヶ月前のプロト・タイプであった。すでに、その時見せつけられた高性能振りと、力に溢れるサウンドにおいて、言うべき言葉も無かった程に感服してしまったのだが、その外面的デザイン、特に仕上げの話に集中した。
「このアンプが20万前後だとすれば、20万円という少なからざる投資をする側の期待は、おそらく絶大なものであろうし、この外観上、パネル・デザインではなく表面の仕上げの不完全さからだけで幾分不満を抱いてしまうのではなかろうか。しかも購買者との最初の出合いはおそらく外観のみで、多くの面がユーザーの内側に入りこむことなく、決断を迫られるに違いない」
ところでこの言葉は実は数ヶ月前に某社の高額アンプを示された時にもやはりメーカーの担当者に語ったと記憶する。日本のオーディオ・メーカーは、今までコスト・パフォーマンスという面を中心的に、あらゆる面を推進してきたため、高額コンポーネントで完備していなければならないはずの真の「高級感」、「豪華なフィーリング」高級投資者に向けるべき感覚やその満足感をよく知らないのではなかろうか。
それというのも今や世界を席巻しつつある日本のアンプ、といえどもその国の最高級製品、例えばマッキントッシュ、マランツをはじめ米国における新らしいメーカーの諸高級商品の持っている、高級品のみの具える「フィーリング」を体得せんと意図した事が今までに無かったためか。
ところが、である。今日、こうして目の前にある商品となったE202は、パネル・デザイン、外観と、何ら変わるところが無いにもかかわらず、まったくパーフェクトに完成されていたのだ。例えば、プロト・タイプでは安っぽさの残っていたメーターとそのグリルの成型について言えば、商品ではいかにも高級VU計のフィーリングそのもので、やや小型とはいえ、プロフェッショナル用のイメージをはっきりと感じさせる。ツマミひとつにしても、一見さりげないのに、指で触れてその感触の良さ、動きのスムーズさに底知れぬ信頼感さえ指先から感じ取れるのだ。つまりすべての面で高級商品のみの持っている豪華なフィーリングが満ちみちて、それが外観の上にもにじみ溢れているのである。
国内メーカー製品も、ついに海外高級アンプにも負けないだけの豪華なセンスを秘めるに至ったかと、じっくりと見入ってしまったのだ。
たまたま手元に量産第1号と称する大手ステレオ専門メーカーの20万近いといわれるプリ・メインアンプの新製品が参上した。このメーカーの商品企画の腕は抜群と定評あるのだから当然だが、このP社製にもE202に較べ得るだけの豪華で重厚な高額商品でなければ出てこないたたずまいを感じさせて、いよいよ日本製アンプが、量だけでなく質においても名実共に世界一になる日も遠くないのを感じさせたのは感激的ですらあった。
その感激の真只中でのE202のSJ社の試聴が僅かなりともマイナスとされるような点がある訳がない。新着の「ザ・クルセイダース」のライブの力に満ちた明快なサウンドは試聴室に爆発し、分厚いコンクリート壁を隔てた編集諸氏の面々から「もう少し音を絞ってくれまいか」と陳情されたほどであった。
そのサウンドに関してとやかくは言うまい。ただ伝えておかねばならないのは、すでにケンソニックの最高製品として発表されているC200、P300との組合せと切換えてもその迫力一杯のジャズ・サウンドは、信じ難いことにはE202においても殆んど変らない、という事実だ。ごくごく低レベルの歌において、E202に明快さが加わるという以外には。
市販高級アンプの続出する此頃だが、今までの製品とはっきり次元を異にする、世界を目ざした超豪華アンプということになると、残念ながらこれだというものは滅多にない。しかし、ケンソニックE202こそは、そういう意味で、世界に誇り得る、海外においてもその良さをはっきりと認め得るプリ・メイン型アンプのベストと言っても良い。
ヤマハ NS-470
菅野沖彦
スイングジャーナル 7月号(1974年6月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
ヤマハのスピーカー・システムとして最新型のNS470を聴いた。新しいNSシリーズのスピーカー・システムは、NS650、NS690を頂点としていずれも、まともな音を再生するスピーカーという印象で好きなものだが、(事実、まともな音を再生するスピーカーがいかに少いかというのが実感だから……)、今度のNS470という、いわば普及価格のシステムも一口にいって、バランスのよい、音楽本来の姿を再現してくれるシステムであった。やはり、さすがに楽器作りの長年のキャリアを待ったヤマハらしい体質が感じられる。このシステムは、NS690などで使われているものと同系の振動材を使ったソフト・ドーム・ツイーターを新開発のコーン使用の25cm口径ウーハーと組み合わせた2ウェイであって、クロスオーバーは2kHz、エンクロージャーは密閉型のアコースティック・サスペンション式、ブックシェルフ・システムである。300×577×275・5(mm)というサイズは、ブックシェルフらしいプロポーションで、比較的重い13・5kgという重量だが、これなら、たしかに棚へ乗せて使う事が出来そうだ。あまりにも大きく、重いブックシェルフ・システムが多いので、このシステムぐらいの大ききのものをみるとほっとするのである。正面グリルはオレンジとグリ−ン系の2種が用意され、好みで選択出来るが、モダーンなカラー・タッチは若い層に喜ばれるだろう。エンクロージャーの仕上げはきわめて高く、木工の得意なヤマハらしい美しい仕上げである。ただし、表面木目の仕上げ材はツキ板でなく木目プリントのビニール材である。つまり偽物である。コストからして、こうせざるを得ないのかもしれないが、私個人の気特を率直に述べれば、趣味の世界に偽物が入りこんで来るのは不快である。もし、木が使えないならば、ビニールらしい仕上げでカラフルにする事を考えたほうがまともではないか。わざわざ木目プリントをしてまでも木にみせようという根性のデコラやビニールや紙を見ると、いじましくて嫌になる。デコラやビニールそのものを否定しているのではなく、無理に木に見せようとする態度が嫌なのである。このスピーカーの性能や音質は、明らかに、コンポーネント・システムとしての品位の高さを持っていると思うので、それだけに、この仕上げにはどうしても不満なのである。あまりにも巧みに張ってあるので初めは解らなかったが、解った途端に音まで悪く聞えてしまった。こんなことはどうでもいいという人には音だけについて語らねばなるまいが、音は本物である。ステレオフォニックなプレゼンスの豊かさ、音場の奥行の再現、モノフォニックな音像の定位の明解さと、楽音のリアリティに満ちたタッチの鮮やかさは、このクラスのスピーカーとしては高い讚辞を呈したい。小型ながら、かなりの音圧レベルも再現し、ジャズのパルシヴな波形にも頼りなさがない。弦楽器やピアノの倍音のデリカシーもよく出るし、小音量での音のぼけや鈍い濁りもない。ドーム・ツイーターは能率をあまりかせげないので、ウーハ一に対してのレベルのノーマル・ポジションはほぼマキシマムに近いが、ウーハーの中高域が軽く明るいので、部屋の特性か低域上昇タイプでも重く暗くなることがない。32、000円という価格は、NS650と比較してやや割高という感じもするが、実際には値上げをしていないNS650が割安だという評価が妥当だと思う。上手に組み合わせれば、10万円台でトータル・コンポーネントとして組み上げる可能性をもったシステムで、これだけバランスのよい、音質も美しく、しっかりしたスピーカー・システムは決して多くないと思う。ジャズを大音量で聞くというケースでは、さすがに低域の敏感と力強さには物足りなさも残るけれど、全体のバランスを考えれば、これは我慢するべきといえるだろう。スピーカー・システムというものは、必らず、どこかを重視すればどこかが犠牲になるという宿命をもっている。ましてや、ある範囲でコストを限定すれば、これはしかたのないことなのである。総合的に見て、このNS470いう新製品はヴァリュー・フォー・プライス、つまり、買って損のない価値をもった快作といえると思う。最近好調なヤマハのオーディオ製品への力がよく発揮されたシステムである。
ダイヤトーン DA-A100
井上卓也
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
パワーアンプが自己の存在を主張し、フロントパネルをメーターなどで装う傾向が強いなかにあって、このアンプのように機能に徹したデザインはオールドファッションではあるが不思議に心をひかれる魅力がある。音の隈どりがナチュラルでローレベルの音の消え方が美しい。現在ではアンティーク化したと感じた往年の名器マランツ♯7に精気をよみがらせ、新しい原題の音の魅力として私に教えてくれたのは、このアンプなのだ。
ラックス SQ38FD
井上卓也
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
ソリッドステートアンプがパワーFETの開発で新時代を迎えようとする昨今、管球式アンプに意欲を燃やすLUXの存在は貴重である。SQ38FDはプリメインアンプとして異例な管球式であり、プアンプとパワーアンプを独立して使うと、さほどとは思わないがプリメインアンプとして使えば独特の魅力があるインテグレートアンプの特徴をもつのは好ましい。管球式アンプの音は豊かで柔らかいという誤れる伝説の作者でもある。
ヤマハ CA-1000
井上卓也
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
シンプルで、かつ精巧な印象を受けるヤマハのアンプデザインは強いポリシーの表現であり個性的である。CA1000は連続可変型ラウドネスコントロール、話題を集めたA級B級切替などの特別機能を備え、音質面ではスッキリとした格調の高さが感じられる。独特なデリケートさを70Wというパワーが巧みにカバーするが、魅力をひきだすためにはカートリッジ、スピーカーを選ぶ必要がある。ナイーブな感受性が魅力である。
デンオン PMA-700
井上卓也
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
シリーズ製品ながらPMA700は、PMA500とは性質が異なっている。ちょっと聴くと誰しもPMA500のサウンドに魅力を感じるだろうが、内面的な表現力の大きさでは比較にならぬ格差があることが、聴き込むにしたがって判るはずである。いわば体質的に異なった大陸的な稽古をもつためにオーディオ道楽をかなりしないと魅力はつかみ切れない音である。これがボザークと共通なPMA700の魅力だ。
デンオン PMA-500
井上卓也
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
プリメインアンプが現在ほどの完成度をもたなかった二年半ほど以前、初めて聴いたPMA500の音は鮮烈な印象そのものであった。アンプとしての基本的性能を抑えたうえで、音楽をいきいきと躍動感に富んで聴かせるパフォーマンスは見事である。スッキリとした音ながら色あいは濃いタイプで、ステレオフォニックなプレゼンスの再現に優れる。いまだに、このクラスの新製品でこのアンプを上回る機種がないのは何故か。
マランツ Model 500
菅野沖彦
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
マッキントッシュも一目おく優れたアンプ。いかにもアメリカを感じさせる力量アンプである。伝統のゴールド・アルマイト・フィニッシュのパネルにシンプルな、それでいて美しいツマミ。メーター周りは、特に、よきにつけ、あしきにつけアメリカ的だ。音も凄い。すっきりした透明感で、しかし力に溢れた量感。ほかのアメリカ製ハイパワーアンプより一桁上のクォリティ。品位の高さではMC2300に匹敵する両雄だ。
トリオ Supreme 700C
菅野沖彦
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
トリオの新しい高級アンプである。特にこのプリアンプの音の魅力は大変に個性的で、オリジナリティがある。中高域の明るく透明で、量感のある魅力は強烈だ。嫌いな人もあろう。しかし、世界の数多くの高級アンプの中で、これくらい個性が強く、しかも、絶対感覚的に美しく、快い、と感じさせる音をもった日本製のアンプも貴重である。デザインはマランツをお手本にしてトリオナイズしたものでオリジナリティはない。
ソニー PS-2410
瀬川冬樹
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
レコードというデリケートな素材を載せて回すプレーヤーのフィーリングは、物心ついた年齢からレコードが身近に回っていたような育ち方をした人間にでなくてはつかめない言い表し難いある種の感性が必要だが、その点、国産のプレーヤーに、満足な製品の殆ど無いのは仕方ないことかもしれない。中ではソニーの一連の製品、ヤマハの一部の製品、パイオニアのPL41の頃の製品の一部に、多少はマシといえるものがある。
ダイヤトーン DA-A100
瀬川冬樹
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
どことなくマッキントッシュやその類型のイメージが拭いきれなくて無条件にとはいえないにしても、ある種の凄味を感じさせ、ハイパワーアンプとして良いまとまりをみせている。この系統には管球式ではダイナコのMKIII、ラックスのMQシリーズや、トランジスターではC/Mラボの35Dなどのすばらしくチャーミングなデザインもあって、三菱だけが抜群という意味ではない。ペアになるプリはデザイン、性能とももう一息。
テクニクス ST-3500
瀬川冬樹
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
黒い窓の中に原色系の派手なグリーンあるいはブルーの文字がケバケバしく浮かび、同じく安っぽい赤かオレンジ色の指針をとり合わせるというパターンが国産のチューナーやレシーバーの典型的な表情だったが、テクニクス、ヤマハ、ラックスなどの新しい試みによって新鮮で清楚な、精密間、高級感に溢れたスタイルが生まれはじめたことは喜ばしい。なかでは、通信機ふうのイメージでまとめたテクニクスが、性能を含めて好きだ。
パイオニア Exclusive C3 + Exclusive M4
瀬川冬樹
ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より
プリアンプのパネル・レイアウトは国産機の大半が目差している機能的・人間工学的な処理法のひとつの典型だが、ノブ類の配置や感触やレタリングなど、キャビネットの質感の良さも含めてかなり練り上げられて安っぽさを感じさせない点、ようやく日本にも本当の意味での高級機が完成しはじめたと言えそうだ。パワーアンプも神経がゆきとどいている。合わせて63万円という価格には多少の疑問も残るが音質も素直である。
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