デンオン DH-710S

岩崎千明

ジャズ 9月号(1974年8月発行)

 ステレオ・デッキの市販品を完成したのがDH710であり、メカとアンプをセパレートさせてレザーケースに入れ可搬型としたのがDH710Sである。ダイレクト・サーボドライブのキャプスタンモーターと、これにベルト結合されたサブ・キャプスタンとの2キャプスタン機構により立上りもすばらしく、ワウ・フラッタも0・03%と超高性能。
 大きな特長以外に随所に、走行系操作メカニズムヘッド、アンプあらゆる所にプロ用メーカーとしてのキャリアが生かされ、プロフェッショナルの信頼性と性能とか、すばらしいサウンドの上に成立している。
 プロ用のメカとして例えば、純エレクトロニクス方式のテンション・サーボをみてみよう。高級プロ用メカしか採用されることがなかったこのメカニスムにより、低速再生の演奏中も早送りし、巻戻しもすべての状態において、テープへ加わる張力は一定に保たれるので、丁度よい力でリールに巻きとられる。これにより低速再生時において供給側つまり未使用側の巷径の違いによるスピード変動がないし、ワウ・フラッターなどの理由による変調もない。これは十万円以上のデッキでも殆ど見舞われる大きなトラブルであるのは、高級デッキのユーザーなら知りつくしているに違いない。またテープ張力・テンションが一定なのでテープヘッドへの接触、テープの走行の安定性などあらゆる面でこの特点が生かされることになるし、電気的にはテープの四チャンネル各トラック間の位相歪も極端に少ない。むろんヘッドへのタッチが適当なのでヘッドの摩粍もまたテープ自体の傷みも少ないのはむろんだ。
 こんなぐあいにたったひとつの技術があらゆる点に画期的な効果を生み出してくる。
 もっともこのたったひとつを、今まではコストがかかりすぎるため、プロ用以外では採用しなかったわけで、デンオンのデッキの価値はこういう点にこそあるのだ。
 デッキで音質的に直接重要なのはヘッドだが基本的に音域を高域までのばすとヘッドの摩耗が早くなり、これは相反する条件だ。デンオンの場合、プロ用の一時(いっとき)、数十時間という苛酷な条件のもとに耐久力を培ってきたヘッドの技術がここにも生かされ放送用・高密度フェライト・ヘッドを採用している。特に再生ヘッドはテープの接触面付近を加工の手間に制限なしにという加工で特殊な面に仕上げることにより今までどうにもならなかった「形状効果による低域のあばれ」が生じないのは特筆できる大きな成果だ。
 デッキメカニズムの良否をみるにはテープが無理なく走行するかどうかをみればよいといれれるが、デンオン710Sにおいてこの点でももっとも優れてただただ見事という他ない、左石のテンション・アーム間のテープはほとんど直線に近く、テープの接触するのはヘッド以外にはローラーで行ない、さらに一方向エアダンパーをテンションアームにとり入れてスタート時の張力の過度に加わるのを防いでいるという至れり尽くせりのメカだ。
 むろんアンプもプロ用そのもので、PP回路を用いて録音の最高レベルは高級プロ用なみ規準レベルに対して3dB以上のゆとりを持つ。イコライザーも精密な調整が
できる連続可変型。マイク録音では驚くべき55dBのSNを得ているのである。

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