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ダイヤトーン DS-205

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS205は、当初Aシリーズの高級機と聞いていたが、型名は伝統的な放送用モニターに準じたものに変った。側面は大きく弧を描く積層合板製で、これをバッフルと裏板で結合し、これに天板と底板を嵌めこむ構造は、簡潔だがかなり高度な木工技術の成果であろう。20cmアラミドコーン型ウーファーは、DS−A3系の振動板とアルニコ・ツボ型磁気回路を採用したもので、明快なサウンドを志向した低域として同社初の設計だ。高域は2S3003系のDS8000出使われた5cmB4Cコーン型。2S3003系を、より豊かに柔らかくパワフルにした印象の音は、清澄な印象もあり、非常に興味深い意欲作だ。

BOSE 901WB

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 現在の901WBは、ウェストボロウ・シリーズの表面仕上げと細部のデザインのマイナーチェンジが施されたモデルで、専用スタンドPS9が別売で用意される。エンクロージュアは、比重が大きく硬度の高いMDF材が新しく採用され、響きが明るく、音の分解能が向上して、全域型独自の生き生きとした表現力豊かな音が楽しめるようになった。外形上は小型なシステムであるが、11・5cmユニット9個の振動板面積の合計は、34・5cm全域型ユニット1個分相当になり、想像以上の空気駆動能力を備えていることがわかるであろう。
 901に好適なリスニングルームは、程よくライヴで響きの美しい部屋が好ましい。そして聴取位置に対しての角度調整や、床からの高さ、両方のスピーカーの間隔などを調整し、最も響きが自然になる設置位置を決めてから、アクティヴEQをプリアンプのテープ系か、外部アクセサリー端子に入れて、サウンドバランスを調整すればよい。セパレート型アンプを使用する場合は、プリアンプとパワーアンプ間に入れる使用方法と聴き比べてみるとよいだろう。
 901WBの発展した使用方法として、小型高密度な特徴を活かして2段重ねにスタック設置にして使うと、一段と豊かなプレゼンスを余裕タップリに楽しむことができるだろう。

マランツ CD-16SE

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 CD16SEは、CD16のスペシャルエディションで、CD15ほどの重厚さ、密度感はないが、広帯域型のfレンジと、粒立ちがよくシャープに反応するスピード感は、このモデル独自の魅力。また、本機に採用のCDM4MDをはじめ、CDM9PROなどメカニズムが製造中止になり、独自のスイングアーム方式1ビーム・メカニズムの在庫分も残り少なく、次第にCDM12/14などリニアトラッキング方式3ビーム型に移行されようとしている。その意味でも貴重なモデルだ。

ダイヤトーン DS-2000ZX

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS2000ZXも、従来のZモデルから全面的にフレッシュアップされた新製品だ。ユニット構成は、伝統的なアラミドハニカムコーン採用の30cm低域、6cmB4C・DUDハードドーム型の中域、2・3cmB4C・DUDドーム型高域と変更はないが、各ユニットは基本的な部分から見直され、かなり大幅にクォリティアップされたようだ。低域は、ややタイトなアラミドハニカム振動板特有の音から、最低域までスローダウンして伸びる密閉型独自の性質がより聴きとれるようになった。特に低域ユニットのネットワークではカット不可能な中域〜中高域成分が巧みに処理され、クリアーさが一段と増しているため、鮮やかで歪みの少ない低域に力が増して、いかにも高級機らしい貫禄のある低音再生となった。
 中域は、低域とのつながりが厚くなり、B4C・DUD型の威力が一段と明瞭に発揮されている。特に分解能に優れ、シャープに付帯音なく伸びるダイナミックレンジ的な余裕度は、前作にないものだろう。中域ユニットとチューニングのリフレッシュで、高域ユニットも細部が改良されているらしく、やや硬質な面があった前作と比べ、しなやかさ、伸びやかさが加わり、固有の鳴きが低減されている点に注意したい。全体的に格段に内容が濃く、音的にもリファインされて完成度が向上。仕上げも美しくなりながら、予想に反して価格は大幅に低減されているのも異例のことで、このモデルに対する想い入れの深さの証であろう。

マランツ SC-23, MA-23

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 SC23プリアンプとMA23モノーラルパワーアンプは、DAC1でスタートした他に類例の少ない小型・高密度のモデルで、シリーズ化された同社独自のミュージックリンク・シリーズのモデルである。SC23は、パッシヴアッテネーターSL1の筐体に本格派プリアンプを組み込んだライン入力専用機で、出力段にはフィリップスLHH2000で初採用されたNF専用巻線付のバランス型出力トランスを備えたモデルだ。MA23は、AB級50W定格の超小型パワーアンプ。シリーズ製品には、SPレコード用の3種類のEQを備えた、MC昇圧トランス内蔵、NF−CR型フォノEQのPH1、トップローディングの小型高級CDプレーヤーCD23D LTDがあり、さり気なく高いクォリティの音を楽しむには好適なラインナップだ。
 シリーズ共通の音の特徴は、あまりにオーディオ、オーディオせずに安心して音楽が楽しめるだけのコントロールされたfレンジと、伝統的に電源を重視するマランツらしく、十分に広いダイナミックレンジをもち、質感に優れたサウンドが、大人のテイストを感じさせる。

BOSE 901 Series

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ボーズのフラッグシップモデルとして良い伝統を誇り、同社を代表するモデルが901シリーズである。コンサートホールでの直接音と間接音の比率は、数多くのホールで測定したデータからすると、直接音1に対して間接音が8の比率になることから、リスニングルームでコンサートホールの雰囲気を再現するために、前面に1個、背面に角度を付けて4個1組が2組の計8個をセットした独自のユニット配置法を採用。しかも、そ全ユニットには、ボーズで全域型に最適な口径と決定された11・5cmタイプを採用していることが特徴だ。また、自然な周波数特性を実現するために専用アクティヴEQが付属しており、低域から高域にかけての位相特性、周波数特性をスムーズなものとし、システム全体で見事な音場再生を可能としている。

ダイヤトーン DS-200ZX

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ’96年の最新注目モデルは3機種。まずDS200ZXは、DS1000ZX以来、従来モデルに改良を加え、DVDに代表される将来のハイサンプリング・ハイビットのプログラムソースに対応できるようリファインされてきたZXヴァージョン化が、同社のベーシックシステムDS200ZAに及んだ新製品だ。
 全体のデザインは、従来の安定感はあるが地味な存在といった印象が薄らぎ、新鮮な印象が加わったが、基本構成は変らず、ややエンクロージュアの奥行きが伸びただけだ。使用ユニットは、16cm低域、2・5cmDUD型ともに大幅に手が入れられている。特に高域のDUD型は、振動板材料がボロン化チタン材に変更され、その音色は見事な変化を遂げている。エンクロージュアは、前作を受け継ぐバスレフ型だが、木組み構造が変更され、全体に剛性感が高く、響きが明るくなっていることに注目したい。
 また、バスレフ型のチューニングにも手が加えられた。とかくこの種の小型システムは狭い場所に押し込められやすく、予想以上にブーミーでカブリ気味な低音となる点に注意が払われている。これがエンクロージュアの響きと相乗効果的に働き、明るくダイナミックになる低域が、この新モデル固有の美点だ。比較的明るくのびのびとは鳴るが、国内版ポップスなどでは、ややもすると騒々しくなりがちなシステムが多い中にあって、価格を超えた正統派の小型高級システムといった性格は実に小気味がよい。

BOSE

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ボーズのスピーカーシステムはすべてDr.ボーズのユニークな音響理論に基づいて開発されている。その主なものはまず、ダイレクト/リフレクティング理論で、よい音には3要素があり、一つは全周波数のエネルギーバランス、二つめはどの方向からどれだけのエネルギーが来るかの空間的アスペクト、三つめは音源から出た音のエネルギーが聴取者に届くまでの時間である。この3要素をスペクトラル、スペイシャル、テンポラルと呼び、これらが家庭内でどこまで再現できるが、実際の演奏会場での音に近い再生ができるかどうかの鍵になり、そのために、直接音と間接音を調整し複雑に混合することで、自然なエネルギーバランスと方向性を作りだそうというわけだ。つまり、スピーカーの放射パターンを拡散させて間接音成分を増し、自然な音色と立体感を感じさせているわけである。
 次はステレオ・エブリウェア理論。これは、正しいステレオイメージを広範囲な聴取位置で得られるようにするための理論で、最初に到達する音よりも、後から到達する音を大きくしてマスキングさせようという考え方。ボーズではこのため、スピーカーユニットに特定の角度を付けて音響エネルギーと方向性をコントロールし、広いサービスエリアを実現している。
 アクースティマス方式は、小型エンクロージュアで強力な低域再生能力を獲得するボーズ独自の技術だ。共振と共鳴を利用し、低歪みで高いダイナミックレンジが得られる方式で、構造上、方向性を感じさせる高域輻射がなく、設置位置を選ばせない特徴は大きい。
 アコースティック・ウェイヴ・ガイド方式は、長大なチューブの内部に低域ユニットを取り付け、その前後両面に放射されるエネルギーを利用して、共振点の異なる2本のチューブ中の空気を共振させ、3オクターブもの広い帯域の重低音再生を可能とするものだ。
 それぞれの方式論は、米国特許が認められており、ボーズ製品に幅広く活用されている。

AR Model 310HO

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 最新作HOシリーズは、ハイアウトプットを意味する高能率型で、旧インフィニティのケアリー・クリスティ氏が独立した会社でARのために開発した、クリスティ・デザインの叡知を結集した力作で、細部に独自の音響処理が施された最先端技術の成果ともいえる傑作。キメ細かな音とダイナミックな音を巧みにミックスしたサウンドは、さすがに名手の手腕が光る印象だ。

ダイヤトーン DS-A5

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS−A5は、Aシリーズ本来のエンクロージュア構造と材料に凝った魅力の小型高級システムだ。低域13cm、高域4cmの2ウェイ方式バスレフ型で、小粋な音とでも表現できる独特のサウンドが新鮮な味わいだ。

AR AR303a, AR218V, AR338, Limited Model 6

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 AR303aは、AR3aの現代版。平均的な密閉箱となり低域は明るく、独特なソフトドーム型ならではの中・高域は素直。AR218Vは小型2ウェイ型で、フレッシュな鳴り方が魅力。AR338は、20cm3ウェイ型で非常に魅力的な好製品だ。スペクトラルEQのモデル6は、マーク・レビンソン氏が参加した開発だけに調整能力は非常に高く、任意にサウンドコントロールできるEQとして特筆に値するモデルだ。

マランツ CD-17D

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 CDプレーヤーのCD17Dは、一体型モデルとしては初のディジタル入力をフロントパネルに備えた製品で、最近急速に需要が増したMDポータブル型やDATにも対応したことに特徴がある。ディジタル入力系は光2系統(フロント/リア)、出力は光と同軸の2系統あり、ディジタルボリュウムコントロール機能も備える。
 CD駆動ユニットは、新リニア型CDM12・1と新サーボ/デコーダーIC・CD7採用のディジタルサーボが特徴。DAC部はデュアルビットストリームDAC7、ディジタルフィルター部はSM5841Dの20ビット8fs型だ。
 アナログ部は新HDAM採用で、数MHzまで高周波ノイズは差動増幅でキャンセルされ、22・05kHz以上はアクティヴフィルターで十分に抑圧される。すっきりとよく伸びたfレンジとシャープで反応の速いフレッシュな音は、この価格帯としてユニークな存在といえよう。

AR Limited Model 2, Limited Model 200

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 プリアンプのモデル2、パワーアンプのモデル200も、リミテッド・シリーズの製品。素直な音のアンプで個性的な面が少ないが、内容は十分に濃く、安心して使えるスタビリティの高さと高級機ならではの陥落が音として聴かれるのは、さすがである。

マランツ PM-16

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 PM16プリメインアンプは、回路的にはSC5+SM5の成果を導入した新HDAM+FETバッファーによる4連アクティヴボリュウム、新設計の超高速OPアンプを使った1段電圧増幅+3段ダーリントン電流増幅と高周波用Trのシングルプッシュプル出力段という構成で、マルチフィードバックに対応可能な高域時定数が少ないメリットをもつ。
 また、音質上問題となる出力部の補償コイルを削除し、広いパターンエリアと最小のエミッター抵抗で優れたパワーリニアリティを実現している。大型Rコア・トロイダルとランスと定箔倍率電解コンデンサーによる低インピーダンス電源部には、ダイオードノイズを抑える独自のノイズキラー素子を採用。他に、MM/MC対応フォノEQ、アクティヴフィルター式NFBトーンコントロールなどを備える。注目点は、リモコン対応でのマイコンのディジタルのイズによる音質劣化の問題がクリアーされ、本格派のプリメインアンプとして同社初のリモコン対応化が図られたことだ。
 PM16の音は、十分に伸び切った広帯域型のfレンジと、聴感上でのSN比の高さが特徴だ。特に奥行き方向に見通しのよいパースペクティヴとナチュラルに立つ音像定位感は、基本的特性に優れ、さらにオーディオ的にリファインされたアンプのみが聴かせる、わかりやすい音質上のメリットである。

ユニゾンリサーチ

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ユニゾンリサーチは1988年に、手頃な価格で入手できる最高の性能の真空管アンプを設計することを目的として設立されたアンプメーカーだ。
 同社製品の設計を担当するジョヴァンニ・M・サチェッティ氏は、20年以上イタリアの学校で電子工学を教えてきた経歴をもつ人物で、16歳の頃から真空管アンプを手がけ、友人のアンプも設計・製作してきた。ソナス・ファーベル社のためにプリウス真空管プリアンプを設計したことでも知られている。A・アムブロシノ氏は、トリノ大学化学部、ボストン大学歯学部、さらにパドバ大学医学部を卒業という多彩な経歴をもった人だ。
 同社の製品は、オーディオアンプの概念を打破するような、各種の材料を組み合せたデザイン面でのユニークさに加え、シンプルな回路構成が採用されることが多い。特に3極管を直流的にシリーズに使うSRPP(シャント・レギュレーテッド・プッシュプル)回路を要所要所に使う設計も大変にユニークだ。

テクニクス SB-M1000, SB-M500

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 最新のSB−M1000/500は、トップモデルSB−M10000の構想を中堅機に導入した製品で、既発売のSB−M300を含め、フルラインナップがDDD方式低域採用の超広帯域、省設置面積のシステムになった。
 上級のM1000は4ウェイ7スピーカー4パッシヴラジエーター構成、M500は3ウェイ4スピーカー2パッシヴラジエーター型のトールボーイフロアー型である。

テクニクス SB-M300

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 SB−M300は、SB−M10000の新重低音再生方式を驚異的低価格で実現した、同社ならではの思い切りの良い力作だ。

テクニクス SL-P860

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 SL−P860プレーヤーも、上級機SL−P2000の特徴を受け継いだベーシック版で、内容の濃い高CP機。

テクニクス SU-C2000, SE-A2000

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 同社の中核モデルは、まずセパレートアンプでは、プリアンプはSU−C2000とパワーアンプSE−A2000で、ともに上級機の構想を受け継いでいるが、注目点はともにヴァーチャル・バッテリー電源を採用していることだ。

テクニクス SU-A900

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 SU−A900は、MOSクラスAA回路、Rコア電源トランス、THCB防振構造筐体、ヴァーチャル・バッテリー電源など、上級機の成果を集大成したプリメインアンプだ。

テクニクス SL-P2000

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 SL−P2000CDプレーヤーは、SアドヴァンストMASH・1ビットDAC、インストゥルメンテーション差動回路、クラスAA出力アンプバッテリー駆動と同等にクリーンなヴァーチャル・バッテリー方式電源、ディジタル光学系サーボなど、同社が全ジャンルの製品に提唱するサイレント・テクノロジーに基づいて開発された製品だ。

テクニクス SE-A7000

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 SE−A7000パワーアンプは、A級電圧制御アンプとスピーカー駆動電流源となるB級アンプを組み合わせたMOSクラスAAパワーアンプ、新開発高音質マスターシリーズ電解コンデンサー、新無誘導抵抗、高剛性重量級で磁気輻射・機械振動の少ない筐体などが特徴だ。

テクニクス SU-C7000

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 SU−C7000プリアンプは、伝送経路に混入する雑音を排除する鉛電池電源の採用が注目点。音量調整はカーボン抵抗体回転型の同社独自の高音質型。回路はクラスAA構成、筐体はTHCB防振構造採用である。

テクニクス SB-M10000

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 テクニクスの第1作「テクニクス1」スピーカーシステム以来、連綿として開発されてきた同社のスピーカーシステム。最近のDDD方式重低音再生を柱にした一連の新スピーカー群は、継続は力なりを具現化した同社の意欲作だ。
 その頂点に位置するSB−M10000は、超広帯域再生の実現に挑戦し、約5年の歳月をかけて完成させた、国難異性品ではヤマハのGF1以外にあまり類例のない、超弩級・超高価格なフロアー型スピーカーシステムだ。
 基礎研究は同社の技術研究所で始まり、目標とした電気・音響トランスデューサーとして完成させてから、次に音楽を聴くためのオーディオ用スピーカーシステムとして音響事業部が製品化するといった、日本の超大型企業ならではのプロセスを経て完成されたことでは、国内製品唯一といってよいビッグプロジェクトと成果だ。
 現在のCDソフトでは、低域は5Hzまで収音されており、これを再生するためには超大型システムとするか、アンプで低域を増強するかの二者択一となるが、同社では新重低音再生方式を開発することで、これをクリアーしている。一方、超高域側は、100kHzの再生を可能とした独自のリーフ型トゥイーターがすでにあるが、本機ではスーパーグラファイト振動板のドーム型で挑戦している。また、超広帯域化により聴感上で歪みが多く感じられることもあるが、エンクロージュア時代の低振動化、振動系各部の改良や駆動源の磁気回路にも新技術が導入されている。
 構成は4ウェイ型で、低域用のパッシヴラジエーター付ケルトン型ウーファーがキーポイントになる。口径は低域22cm、中低域18cmと異なるが、共通の特徴は低歪率型リニア磁気回路、エッジ前後非対称空気排除量を低減する6分割の凹凸プッシュプルエッジ、高域にも採用された振動板外周部に高内部損失材を配したピークレス振動板などの搭載だ。
 注目の新重低音再生方式とは、一個の密閉型エンクロージュアの前面と背面に駆動ユニットを置き、そのまた前後の前面と背面にパッシヴラジエーターを取り付けた密閉型エンクロージュアを設け、同相駆動するという構造を採用。これを同社ではデュアルダイナミックドライブ(DDD)方式と呼んでいるが、この方式は振動の打ち消し能力があり、エンクロージュアの振動を大幅に低減させながら重低音再生を可能としている。この方式により、超広帯域型システムとしては予想外に台形寸法は抑えられているが、さすがに重量は155kgと物凄いスピーカーシステムだ。ただし、運送を考慮し、上下2分割が可能となっている。
 柔らかくゆったりした、しなやかな低域は、重低音という表現とは異質だが十分に伸び切る。この低域と質感が揃った中低域以上はナチュラルで、スムーズなバランスだ。特に中域のエネルギーが十分にある点は素晴らしい。

ダイヤトーン 2S-1601

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 2S1601は、ダイヤトーン50周年を記念して登場した、低域と高域にアラミドコーン採用の等音速2ウェイDS−A3をベースに、ユニットとエンクロージュアを極限までチューンナップし、小スタジオや放送局用小型モニターとして現場の信頼に応えるだけの性能にまで追い込んだ、一種のニアフィールドモニターである。したがって、サウンドキャラクターは、DS−A3の芳醇な音とは異なり、ソリッドで引き締まった質的な高さが特徴だ。