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ダイヤトーン DS-8000N

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS8000Nは、クロスオーバー特性可変の独立ネットワーク方式を採用したモデルで、同社初の38cm径紙コーンによる低域と、Aシリーズで開発された新アラミドクロスコーンの中域、2S3003直系のB4Cコーン型高域の3ウェイフロアー型システム。内容は非常に濃く、モニター的にも、家庭内での定音量再生でもバランスを崩さず、伸びやかに鳴る鳴りっぷりの良さは格別だ。なお、クロスオーバー固定型のベーシックモデルも用意されている。

オーディオ・フィジック Medea, Spark

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 オーディオ・フィジック社は、1985年にヨアヒム・ゲアハート氏により、ドイツのブリロン市で設立されたメーカーだ。同社は、電気的素子を使用しないで、滑らかな周波数特性と位相特性を実現することを主眼に、スピーカーシステムの開発を行なっていることが特徴だ。その理想を実現するため、DSP技術を導入することを発案し、イギリスのエセックス大学と共同で、数年前から研究開発中とのこと。最終的な製品の完成にはまだ時間がかかるようである。
 わが国に紹介された同社の最初のモデルは、小型2ウェイ機のブリロン1・0だ。本機は、強度アップと内部定在波処理のため独自の構造を採用したエンクロージュアが、後方にわずか傾斜するよう専用スタンドで支持されている。これは、同社が目標とする位相特性の整合性を図るためである。
 その理想をさらに追求したシステムが最新トップモデルのメデアだ。本機は、ドイツのヨーゼフ・W・マンガー氏が主宰するマンガー研究所で、20年以上にわたり独自に研究されてきた全帯域を非ピストンモーション化したベンディング・ウェイヴ・トランスデューサー(BWT)全域型ユニットを採用し、アクティヴ型ウーファーと組み合わせたシステムだ。
 BWTは、1967年に研究が始まり、’70〜’80にドイツ連邦政府から研究資金を受け、’74年に基礎が完成、’84年に現在のタイプとして完成されたユニットだ。基本は、現在のピストニックモーション型スピーカーの最大の問題点が過渡応答の悪さと、それに起因するパルス性トランジェントにあるとする、新スピーカーユニットの研究開発である。
 メデアは、BWTを前面に1個、左右に2個使用し、前面1に対し、左右2個の合計が0・5+0・5=1となる音響出力を持たせ、低域はアクティヴウーファーで補うシステムだ。ナチュラルで色づけが少なく、ストレスフリーな音が聴かれる点が魅力である。
 また、最新のスパークは、ブリロン1・0のフロアー型ともいえる、細く長い角パイプ状のエンクロージュアが特長の2ウェイシステム。7度の傾斜角は位相整合が目的だ。

テクニクス

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 テクニクスは1965年に、小さな組織で高級スピーカーシステムを作ろうという、大企業にしては非常に困難であり、非現実的な発想が実現してスタートしたブランドだ。当初はスピーカーのみという発想であったが、どのように優れたスピーカーであっても、それを駆動するアンプが必要であり、またプログラムソース側として、アナログプレーヤーやフォノカートリッジ、カセットデッキにまで開発範囲を拡げていく。そしてついにオープンリール・テープデッキ、それも業務用の頂点とされた76cmスピードのモデルまで開発するようになる。当時のテクニクス開発スタッフでも、これほど巨大なブランドになるとは想像もしなかったということだ。
 テクニクス誕生以前でも、松下電器つまりナショナル・ブランドから、大家電メーカーとしては異例の、時代の最先端をいく構想のスピーカーユニットが発売されていたことに注目したい。’54年に、彗星のように突然ナショナルから発売された、後に「ゲンコツ」の愛称で親しまれたフルレンジ型8P−W1だ。本機は、メカニカル2ウェイ振動板に球形ディフューザーをつけた斬新なデザインと、論理的な設計に基づいた、当時としては驚異的な特性の見事さで注目された。実際に使ってみて、その素晴らしいサウンドにまた驚かされ、一躍スピーカーのトップランクに位置づけられる傑作モデルとなった。
 しかしそれ以前にも、30cmコーン型ユニットの前面に多数の小穴を設けた発泡材(?)の覆いを付け、高域レスポンスをコントロールした、型名は忘れたがユニットがあった。実際に音を聴いたが、当時の一種独特のコーンの高域共振による騒々しさがなく、大変にナチュラルな音であったことも記憶に新しく、その後の一連のディフューザー付フルレンジ型が、8P−W1へのひとつのアプローチであったように思われる。
 このように、すべての部品を自らの手で開発する思想は古くからあり、これがテクニクスの誕生で技術集団として形成されたことで、大企業の幅広い分野をカバーするメリットがオーディオに結集し、他社にない独自のオーディオ理論が形成されたように思われる。

ダイヤトーン DS-V9000

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS−V9000は、磁気回路の歪みを低減する独自のADMC方式により、一段と振動系の能力を発揮させるようにした新フラッグシップVシリーズの4ウェイ密閉型システムだ。エンクロージュアには各種の天然材を適材適所に採用した同社としては異例の設計と、もの凄い物量投入型の豪華な使用ユニットに注目したい。大人の風格を感じさせる、使いこんではじめて魅力のわかる名機だ。

ソニー MDS-JA50ES

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 MDデッキのMDS−JA50ESは、従来よりDレンジの広い録・再を可能とするワイドビットストリーム技術と、新開発ATRAC用ICの採用をはじめ、トレイ部とベースメカ間を振動遮断する新機構や、異なったレベルのDBS、LD、CDの音量差を解消するディジタル録音ボリュウム、可変ディジフィルなど、ソニーの最新ディジタル技術を集大成したモデルだ。

ダイヤトーン 2S-3003

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ディジタルプログラムソースに対応する新放送局用モニターとして、小型高密度設計で最大音圧レベルを大幅に向上したモデルが2S3003。低域はネットワークレスの全域型で、高域を低いクロスオーバーから使うコーン型2ウェイ方式は、2S305を受け継ぐ設計だ。定機器のアラミドハニカムコーンと、究極の振動板といわれるピュアボロン(B4C)コーン型の組合せにより、見事な音の純度の高さとダイナミックな表現力の豊かさが聴かれる。

ソニー CDP-XA50ES, CDP-XA30ES

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 CDプレーヤーCDP−XA50ES/30ESは、光学固定方式、カレントパルスDAC、Rコアトランスに加え、ジョグダイアル操作の機能として新たに20kHz以上の帯域を合計9種類の遮断特性とする、可変係数ディジフィルを採用。ただ、微細な調整が可能だが、一方では悩みの種にならないだろうかと思わざるを得ない面もある。50ESのみ亜鉛ダイキャスト光ピックアップベースと、2電源トランスが追加される。

ソニー TA-FA70ES, TA-FA50ES

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 新製品TA−FA70ES/50ESは、終段にMOS−FETを使用した全FET構成回路の採用をはじめ、一次巻線を内側に変更した継ぎ目のない新円断面コア電源トランス、ツインモノ構成5分割筐体構造、機械的ストレスを解消した新構造、電源トランス下部のMDFダンパーなどの採用が特徴。70ESにはメタルコアモジュールによる平衡入力が備わる。

ダイヤトーン

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 三菱電機ほどの大企業が、すでに50年間オーディオ用のスピーカーシステムを開発し続けてきた例は他社にはない。
 その発端は、戦時中に東工大で開発された酸化鉄系のオキサイドパウダー(OP)磁石を製造していたが、戦後になって、その平和利用の一つとしてスピーカーの製造が発想されたことに始まる。好都合なことにNHK技研のバックアップで、ラジオ用としては異例に高域が伸びた全域型を完成。そして整合共振理論に基づくコーン制御により、後のベストセラーモデルP610の原形P62Fを生む。
 さらにNHK技研と共同開発により、2S660/205放送用モニターシステムの完成へと続き、厳しい基準であるBTS(放送技術規格)をクリアー。1958年には有名な2S305が完成し、コーン型2ウェイ放送モニターシステムの形態が確立された。
 一方、計測データの必要性から民間初の無響室が1953年に設置された。それまではカット・アンド・トライで、コーンのコルゲーションの位置を検討するのにも莫大な時間が必要であったことを、本誌企画のダイヤトーン三代記のインタビュー取材で、当時の設計スタッフから聞いた記憶がある。
 民生用スピーカーシステム開発の第1号機DS32Cの内容が2S305系ユニットであったことも、スピーカーシステムの設計に当って、平坦な周波数特性を現在でも最優先させているダイヤトーンならではのことだ。こうした、最も完成度が高く信頼できるユニットでシステムアップすることは、まさしく正統派の設計・開発である。
 放送用モニターの2S305、2S208という2ウェイ型や、全域ユニットP610の開発過程で得られた技術データとノウハウをもってすれば、民生用システムの開発は比較的に容易であったと思われる。
 民生用として’68年に発売されたDS11S/12S/31C/32Cは基本的に2ウェイ型で、これに続いて3ウェイ型のDS33B/34Bが発表された。そして、スーパーダイヤトーン・シリーズとしてハイエンドを狙う3桁ナンバーのDS251/301が、3ウェイ、4ウェイ型として登場し、ラインナップを拡げていくことになる。
 これらの一連の製品は、非常にフラットなf特をもっていたため、2S305の特性とオーバーラップし、定規で直線を引いたようなf特といわれた。また、3桁シリーズにはスーパートゥイーターが採用され、超高域レスポンスが表示されたこともあって、ダイヤトーン≒フラットレスポンスというイメージが一段と強調されたように思われる。
 優れたスピーカーシステムは、基本特性に優れたユニットとエンクロージュアの組合せが、まず基盤としてあり、これを無限ともいえる時間をかけてヒアリングし、システムを磨き上げていってはじめて完成する、ということが、当時から同社の伝統であるようだ。そのために、優れた振動板を求めてアラミドハニカム、ボロン化チタン、B4Cなどを開発する一方で、駆動歪みを低減するADMC磁気回路を開発するなど、常に基本からリセットして開発が始まっている。こうした製品作り姿勢が、製品に対する信頼感を高めているが、技術集団的なイメージがあまり感じられないことは、大変に興味深いことである。

ソニー TCD-D10 ProII

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ポータブルDATのTCD−D10プロIIは、アルミダイキャスト筐体採用の小型で信頼性の高いモデルだ。室外、室内を問わず、録音結果も優れ、最も信頼度の高い、レコーディングファンには必携の最優秀DATである。

ソニー DTC-2000ES

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DATのDTC2000ESは、DATとしては珍しく4ヘッド・4DDモーターメカを搭載。モニターヘッドによる録音同時モニターが可能だ。また、DAC出力の24ビットデータをディジフィル処理し、16ビットフォーマットを守りながら20ビット相当の録音を可能としたスーパー・ビット・マッピング(SBM)を採用している。さらに、44・1kHzでのアナログ録音が可能など、現時点で最高の性能・機能を備えたDATのリファレンスモデルである。

ソニー TC-KA7ES

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 カセットデッキTC−KA7ESは、現在やや注目度が薄らいでいる中堅機ではあるが、さすがに録音機での伝統を誇るソニーらしく、デュアルキャプスタンDD駆動メカの供給・巻取り双方のキャプスタンモーター軸受にサファイアを使用し、長期走行安定度を向上。加えて、Rコア2電源方式、銅メッキFBシャーシの採用など、手堅いESならではの処理が行なわれ、この十分な技術が投入された成果は大だ。

インフィニティ Compositions, Kappa 6.2i

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 新製品のCOMPOSITIONSは、同社の技術をAV関連SPに結集した開発が明瞭な製品。全域型ユニット的なコーン型を複数個使う手法は、オーソドックスだが、これぞインフィニティということになると、従来とは異なる指向性のモデルであろう。
 KAPPA6・2iは、程よいオーディオマインドをもつ見事な中堅機だ。

ソニー CDP-XA7ES

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 CDプレーヤーCDP−XA7ESは、光学固定方式採用の初の中堅機で、フル・フィードフォーワード・ディジフィル、FET駆動DCサーボ出力アンプ、スタティック点灯FL表示管などを備え、手堅く安定した音は正統派で、幅広いソースに確実に応答を示す音だ。

インフィニティ IRS-Sigma

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 最新のIRS−SIGMAは、RENAISSANCEシリーズとIRSシリーズの接点に位置づけられるシステムで、ユニット構成やネットワークを見れば、それは一目瞭然だ。全体としては非常に巧みにつくられた見事なシステムである。趣味のオーディオのスピーカーとしては、これならではの魅力は少ないが、逆に言えば安心して使えるという意味で、素晴らしいシステムだ。

ソニー TA-NR1

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 パワーアンプTA−NR1は、純A級Trモノーラルパワーアンプで、NR10のベースとなったモデルだが、全帯域にわたり独特の硬質の光沢をもつ音がビッシリと詰った純度の高い音を聴かせる。これは、上級種とは異なる本機ならではの魅力であり、最もソニーらしい音が聴かれる珠玉の名作だ。

インフィニティ Renaissance 90

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 RENAISSANCE90は、現代的にソフィスケイトされた素晴らしいソノリティを聴かす、実に魅力的なモデルである。音の陰影を色濃く再現し、誇張感なく音楽を聴かせる、という意味では同社の最高傑作で、まさに粋のわかる人のためのモデルといえよう。

インフィニティ Kappa 7.2i

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 KAPPA7・2iは、このサイズとしてはスケール感も大きく、必要にして十分な性能・音量をもつが、8・2iが見事であるだけに、設置条件に制約がある場合に推奨したいモデルである。

インフィニティ Kappa 8.2i

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 KAPPA8・2iは、上級機の9・2iとともに非常に価格帯満足度の高い同社の新しいモデルだ。先代譲りの高度に熟練したエンジニアのヒラメキといった、絶妙なシステムチューニングは類例のない見事さだ。このシステムは最も信頼度が高く、オーディオマインドを絶妙にくすぐるサムシングをもつシステムとして文句なしに推奨できる製品だ。

インフィニティ IRS-Epsilon

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 IRS−EPSILONは、かつてのGAMMAに位置づけられるモデルだが、低域ユニットが2個から1個になった。その低域は、IMGコーンの30cmユニットで、磁気回路が強化されて駆動力を増し、さらに独自のサーボ制御を採用している。中低域は平面振動板の精度を上げ、磁気回路を見直した新L−EMIM型、中域も同様に高能率化したHE−EMIM、高域はHE−EMITで、全ユニットはGAMMA当時とは異なり、一段と高精度・高能率化された新タイプに変っている。
 付属のサーボコントロールユニットは、調整が簡単で使いやすくなったが、GAMMAのように微妙な調整ができないことに少々の不満は残るようだ。
 IRSシリーズは、基本的にダイポール型放射をするが、本機になって背面の音圧をコントロールし、正面の特性を向上させようというコントロールド・ダイポール・スピーカーという考え方が新しく導入された。つまり、ユニット背面に音響ロードをかけてコントロールする技術が応用され、スピーカーシステムと対峙して聴取する位置でのフィデリティが改善されている。
 しかし、逆に考えれば、本来ダイポール特性をもつユニットの背面の放射をコントロールするということは、ホーン型やコーン型などの前面にのみ音を放射するユニットに近似させることとなり、これが、振動板前後の空気の圧力が同じ条件になることがベストな、平面振動板のメリットを損なうことになりはしないかという疑問が生じる由縁でもある。背面放射を制御する考え方は大変に合理的とは思われるが、短絡的に考えれば、ダイポール型のEMIユニット本来の魅力が、この手法により薄らいだ印象があることはいなめない。
 IRS−EPSILONは、平均的に使いやすくなったことは見事なリファインであるが、これならではの魅力も、その分だけスポイルされた点をどう考えるかが問題だろう。

ソニー CDP-X5000, TA-F5000

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 CDプレーヤーCDP−X5000とプリメインアンプTA−F5000は、さりげなくグレードの高いオーディオを楽しみたいファンへのソニーの回答であろう。コンパクトなモデルながら、CDは光学固定方式、カレントパルスDAC、外部振動打消し偏心インシュレーター、アンプはツインモノ構成、MOS−FETパワー段、楕円断面コア・トロイダル電源トランス採用など、細部にこだわらず要所を押さえた、程よく息の抜けるサウンドは大人の味わいがあり、ソニー製品中ではひと味違った安心して音楽が楽しめる製品だ。

インフィニティ IRS-V

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 IRS−Vは、インフィニティが考える理想のスピーカーシステムを具現化した製品ともいえる超弩級システムだ。とくに注目したいことは、低域、中域、高域の最小限の3ウェイ構成を採用し、かつ各専用ユニットは、上下方向に一列に並ぶ、いわゆるインライン配置とされていることだ。この配置は、水平方向の指向周波数特性は広いが、上下方向には逆に狭いという特徴がある。これは、一般的な大型スピーカーで問題となるサービスエリアが限られること、トールボーイ型システムでは椅子に座ったときの耳の位置に、ベストなサウンドバランスの音軸が来ないことへの、ひとつのアプローチの結果であるのだろう。
 低域は2kWの専用アンプ内蔵、中域はEMIM×12個、高域はEMITを前面に24個、背面に12個の合計36個使った超大型システムである。

ソニー SS-R10

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 SS−R10は、従来のトップモデルSS−GR1が、ドーム型ユニット採用のスピーカーとして頂点を狙って開発され、所期の目的が達成されたため、次なる未知の領域を求めて静電型にチャレンジし、完成したモデルである。
 静電型は、基本的にフルレンジ型として使えることとトランジェント特性に優れ、現状では最も理想のトランスデューサーではあるが、現在のパワーアンプが低電圧・大電流のソリッドステート型なのに対して、極端に超高電圧かつ、ほとんど電流を必要としない、いわば電圧のみに依存する変換器であり、この両者をいかに効率良く結びつけるかに最大の問題があるようだ。つまり、変換器(トランスデューサー)として理想の変換結果が得られるが、最大音圧レベルが低いことを、どのようにクリアーするかが最大のテーマとなる。
 逆説的に考えれば、非常に特徴的な変換器では、すべての幅広いプログラムソースに対応する必要はなく、特別なジャンルでならこれならではの、かけがえのない音や音楽を再生できればよいと、潔く割り切ることもハイエンドオーディオでは認められなければならない、とも考えざるを得ない両刃の剣的な性質を、静電型は備えているのである。
 SS−R10は3ウェイ構成で、指向性の改善と各帯域ごとの最適設計が可能なことをメリットとした開発だ。ネットワークはソニー伝統の18dB型で、ユニット正相接続とすること、最低の素子数とし、ユニットの特性を損なわないことを条件としている。ネットワーク出力には昇圧トランスが必要で、アンプ負荷が重くなるため並列抵抗を入れて、システムインピーダンスを4Ωとし、インピーダンスカーブを普通のスピーカーなみとしているとのことだ。固定極はエポキシ樹脂を自動塗装設備により流動侵積塗装を施すことで絶縁耐圧を高め、固定極と振動膜を支えるフレームには、アクリル樹脂を採用している。
 バイアス電圧は、ダイオードとコンデンサーを積み重ねたコックフロフト・ウォルトン回路で取り出し、バイアス電圧変動を防ぐツェナーダイオードによる定電圧回路の採用で、高域1・8kV、中域3・9kV、低域8・8kVという安定した高い電圧を得ている。低域は2段重ねのタンデム型で、空気付加質量を半分とすることで出力音圧を6dBアップ。これによるf0の上昇は、膜テンションで調整している。
 全体に手堅く、正統派の設計で徐々につめていくアプローチは、技術的に最先端に挑戦するソニーとしては「イッツ・ア・ソニー」という印象が少ないが、静電型に初挑戦し、十分な成果が得られたことは認めたい。だが、ブラウン管製造技術を活かした昇圧トランスレス化ぐらいは望みたくなるのは、技術集団のソニーを認めていればこその願いである。

インフィニティ

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 インフィニティは、1968年にアーノルド・ヌデール、ケアリー・クリスティ、ジョン・ユーリックの3氏によって創設されたスピーカーメーカーだ。
 同社の第1作は、中域以上に静電型フルレンジユニットを使い、低域に18インチ(45cm)コーン型ウーファーをエンクロージュアの床面に向けて取り付け、これをサーボコントロール方式で制御する、サーボ・スタティック1である。このシステムは、低域を左右チャンネルに使ういわゆる3D方式であるため、比較的コンパクトで、なおかつ静電型ユニットで中域以上を再生するため、コントロールの容易なシステムだ。
 この第1作が静電型+サブウーファーという構成であったことは、以後の同社の製品開発に直接結びついているようだ。静電型のトランジェント特性は、優れてはいるが構造上振幅がとれず、最大出力音圧レベルが低いこと、振動板の両側に音を放射するダイポール型で、前面と背面では位相が180度異なること、などの特質から、ダイナミック平面振動板の開発が始められた。
 エレクトロ・マグネティック・インダクション(EMI)型と名づけられた、極薄のフィルム状振動板に直接、薄膜状のボイスコイルを貼り合せ、その両側に小型磁気回路を並べた構造、つまり静電型ユニットをそのままダイナミック型に置き換えたような構造のユニットだ。
 ’80年には、インフィニティ・リファレンス・スタンダードの頭文字をモデルナンバーとするIRSが発売され、EMI型ユニット+サブウーファーの基本構成が確立された。このIRSシリーズは、現在まで続いているインフィニティのスペシャルモデルである。かなり以前から同社の製品は国内に輸入されていたが、注目を集めるようになったのは、’80年代後半のKAPPAシリーズが発売された頃からだ。IRSシリーズには、フラッグシップのIRS−Vを筆頭に、IRS−β/γ/δなど一連の高級機がラインナップされたが、KAPPAシリーズの9/8/7は、非常に高い価格対満足度をもつモデルとして高い評価を受け、インフィニティ・ブランドを国内市場に定着させる原動力となったようである。
 その後、’89年にアーノルド・ヌデール氏が会社を去り、独立してジェネシスを創立。2代目社長をケアリー・クリスティ氏が受け継いだが、’93年には同氏も独立し、クリスティ・デザインを創立。現在はヘンリー・J・サース氏が社長。しかし、長期にわたり開発責任者であったケアリー・クリスティ氏は、新しいシグネチュア・シリーズの開発をすることになっており、その製品には同氏のサインが記されることになるようだ。
 なお、インフィニティはハーマン・グループの傘下にあり、一段と内容を強化するため、設計部門に広く世界から人材をスカウトしているようで、今後の動向にも大いに期待したいと思う。

ソニー TA-NR10

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 TA−NR10は、シリーズ製品のTA−NR1をベースに出力段をカスタムメイドMOS−FET化し、純A級100W/8Ωとした上級機種。電源は重量10kgの巨大トロイダルトランスとスタッキング構造の分割・積層型電解コンデンサーによる構成だ。また、純銅製放熱版の採用をはじめ、ハイカーボン鋳鉄シャーシを用いた筐体には、スピーカーの音圧、床振動を低減させる音響的チューンが施されている点がユニークだ。
 非常に力強くマッシヴな低域をベースに、伸びやかで、ナチュラルに高域に向かってレスポンスが伸び、表現力にも豊かさがある。ER10との組合せで、かつてのTA2000+TA3120F的な、現代のリファレンス・セパレート型アンプとして、じっくりと聴き込んでほしいモデルである。