井上卓也
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より
インフィニティは、1968年にアーノルド・ヌデール、ケアリー・クリスティ、ジョン・ユーリックの3氏によって創設されたスピーカーメーカーだ。
同社の第1作は、中域以上に静電型フルレンジユニットを使い、低域に18インチ(45cm)コーン型ウーファーをエンクロージュアの床面に向けて取り付け、これをサーボコントロール方式で制御する、サーボ・スタティック1である。このシステムは、低域を左右チャンネルに使ういわゆる3D方式であるため、比較的コンパクトで、なおかつ静電型ユニットで中域以上を再生するため、コントロールの容易なシステムだ。
この第1作が静電型+サブウーファーという構成であったことは、以後の同社の製品開発に直接結びついているようだ。静電型のトランジェント特性は、優れてはいるが構造上振幅がとれず、最大出力音圧レベルが低いこと、振動板の両側に音を放射するダイポール型で、前面と背面では位相が180度異なること、などの特質から、ダイナミック平面振動板の開発が始められた。
エレクトロ・マグネティック・インダクション(EMI)型と名づけられた、極薄のフィルム状振動板に直接、薄膜状のボイスコイルを貼り合せ、その両側に小型磁気回路を並べた構造、つまり静電型ユニットをそのままダイナミック型に置き換えたような構造のユニットだ。
’80年には、インフィニティ・リファレンス・スタンダードの頭文字をモデルナンバーとするIRSが発売され、EMI型ユニット+サブウーファーの基本構成が確立された。このIRSシリーズは、現在まで続いているインフィニティのスペシャルモデルである。かなり以前から同社の製品は国内に輸入されていたが、注目を集めるようになったのは、’80年代後半のKAPPAシリーズが発売された頃からだ。IRSシリーズには、フラッグシップのIRS−Vを筆頭に、IRS−β/γ/δなど一連の高級機がラインナップされたが、KAPPAシリーズの9/8/7は、非常に高い価格対満足度をもつモデルとして高い評価を受け、インフィニティ・ブランドを国内市場に定着させる原動力となったようである。
その後、’89年にアーノルド・ヌデール氏が会社を去り、独立してジェネシスを創立。2代目社長をケアリー・クリスティ氏が受け継いだが、’93年には同氏も独立し、クリスティ・デザインを創立。現在はヘンリー・J・サース氏が社長。しかし、長期にわたり開発責任者であったケアリー・クリスティ氏は、新しいシグネチュア・シリーズの開発をすることになっており、その製品には同氏のサインが記されることになるようだ。
なお、インフィニティはハーマン・グループの傘下にあり、一段と内容を強化するため、設計部門に広く世界から人材をスカウトしているようで、今後の動向にも大いに期待したいと思う。
0 Comments.