Category Archives: コントロールアンプ - Page 11

ラックス C-5000A, M-4000A

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 独自のデュオβ回路と、新しい方向性を示したパネルフェイスに特長があるラックスのニューラックスマンシリーズはプリメインアンプL58Aが最初の製品であるが、今回発売されたコントロールアンプC5000AとパワーアンプM4000Aは、このシリーズの最高に位置づけられるほか、ラックスのトップランクモデルでもある。
 C5000Aは、L58Aと同じデザインのパネルフェイスをもつコントロールアンプである。
 基本的な設計ポリシーは、高NFBアンプの問題点としてクローズアップされたTIM歪を軽減することにある。このため、オーディオアンプの基本に戻り、NFBをかける以前のアンプの裸特性を改善し、これに最適量のNFBを僅かにかけ、動特性および静特性を向上させようという構想に基づいて、デュオβサーキットを採用している。
 回路面の主な特長は、イコライザー段とフラットアンプ段を同じ回路構成とし、
入力段にはFET4石のカスコード入力ブートストラップ回路を使用、トランジスターによる動抵抗回路や定電流回路を組み合わせて裸特性の向上を図る。出力段にはトランジスター4石によるSEPP回路を採用し、出力インピーダンスを極力低く抑えていることにある。
 コンストラクション面では、最近の技術的傾向を反映して、アンプ基板に近接するシールド板、シャーシーなどの金属類を排除。静電的ノイズには抵抗体シートを木箱に貼って対処するなどのほかに、電源部を含めた左右チャンネルの分離、配線の単純化、最短距離化のためすべてのスイッチ類が直接基板に取付けられ、この基板を縦位置に取付けているため、独特のパネルフェイスとなって現れている。使用部品には音質の優れたチッ化タンタル抵抗やコンデンサーを使用し、ノンポーラコンデンサーのオーディオ的なポラリティまでも検討するなど、音質を重視した設計となっている。
 M4000Aは、従来のM4000系の筐体に高域特性が優れ、クロスオーバー歪やスイッチング歪の少ないパワーMOS−FETを使用し、多量のバイアス電流と高速ドライバー回路を組み合わせて〝ノッチレスAクラス〟動作方式とした出力180W十180Wのパワーアンプである。
 回路的には、裸特性の優れた回路に少量のNFBとDCサーボ回路を組み合わせた独自のデュオβサーキット使用で、左右独立電源、音質のよい15、000μF×4の電解コンデンサーとフィルムコンデンサーをパラレルに使用したことなどが特長である。入力端子は金メッキのRCAピンプラグ、出力端子はユニークな使用法のキャノンコネクターを採用している。

マッキントッシュ C29

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「第2回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント17機種の紹介」より

 マッキントッシュの代表的なコントロールアンプが、このC29である。現在同社は、この他にC32とC27という合計3機種のコントロールアンプをラインアップしているが、価格的に見ると、このC29は、その中間に位置するものだ。しかし、C32は、エキスパンダーなどの附属機能をもったり、帯域分割型のトーンコントロールなどにコストがかかっており、本質的なプリアンプ、つまり、イクォライザーアンプとフラットアンプ部に関しては格差のないものといってよい。同社によれば、C32はまったく新しい製品の出現であり、C29が従来のC28の発展したものという。
 C29は、現在のテクノロジーでリファインした、マッキントッシュの伝統的製品といってよく、使用パーツや回路技術は最新の技術水準をもったものである。機能はきわめてオーソドックスなもので、MCヘッドアンプも持っていない。例によって、中味の詳細は発表されていないから、特性のデータ競走をする姿勢は全くもってない。しかし、その音質の素晴らしさ、信頼性の高さ、作りの入念さ、品位の高い製品としての質感は、まさに高級機たる風格と魅力に溢れているといってよい。新シリーズになって、デザインに若干の変更を受け、両サイドパネルのエッジは、従来の峰型から、すっきりとした直線型に変った。そのため、以前のC28などからすると、やや小型に見えるようになり、さっぱりした印象になっている。人によっては、従来のデザインを好む人もいるようだが、実際使っていると、このほうが美しいと思えるようになる。赤、緑、ゴールドのイルミネーションパネルは、全く同じ精度と仕上げの高さをもつものだし、スイッチ類の感触と信頼性は明らかに向上している。入力切替えなどは全くノイズレスでわずかなタイムディレイのかけられたスムースなものになっている。欠点といえば、わずかに出る電源オン・オフのクリックノイズ(現在は改良された)と、このプッシュボタンの色合いの品位に欠けることぐらいだ。
 なによりも、その明晰で豊潤な音質は、あらゆるコントロールアンプの中で傑出したものであろう。旧C28と比較すると、明らかにワイドレンジとなり、解像力が上っている。それでいて、決して冷たい感触や、ギラギラとした機械的肌ざわりを感じさせず、あくまで、音楽の人肌への共感の情緒を失うことがない。マッキントッシュが常にもっている重厚な安定感は、ここまでワイドレンジ化したC29においても、いささかも失われていないのである。最近のアンプのもっている、冷徹さや、人工的な音の輝きなどとは、次元を異にするヒューマンなサウンドである。音像の立体的な再現、そのアタックの向う側まで見通せるような透明感、ホールのプレゼンスを生き生きと伝える空間感のデリカシーも見事で、オーソドックスなステレオフォニック・レコーディングならば、音はまさに空間に浮遊しながら、音源の楽器はぴたりとステージの上に定まっている。
 レコード音楽を楽しむものにとって、このアンプをコントロールして音楽を演奏する醍醐味を味わうことは至福であろう。決して、コントロールは繁雑ではない。マニアックな知識を必要とするものでもない。むしろ、誰にでも扱える簡易なコントローラーである。一例として、そのローカットフィルターとハイカットフィルターは、一つのスイッチにまとめられ同時におこなうように簡略化されている。人によっては、この簡略化を嫌うかもしれない。しかし、実際使ってみると、こんなに実用的で効果の上からも妥当なものはない。使いもしない複雑なフィルターがついているより、はるかに親切で効果は大きいのである。こうした実用的な一般性をもちながら、高い品位を失わせないところにマッキントッシュの大人の風格がある。2台のセパレート・モノ・プリアンプをコントロールすることに喜びを感じる人とは無縁の完成品なのである。いい意味でメーカー製らしいバランスのとれた製品といえるだろう。クォリティと生産性の調和という難問を見事に克服している専門メーカーらしい貴重な存在といえるだろう。

アキュフェーズ C-240, P-400

アキュフェーズのコントロールアンプC240、パワーアンプP400の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

P400

QUAD 44

井上卓也

ステレオサウンド別冊「AUDIO FAIR EXPRESS ’79」
「注目の’80年型コンポーネント355機種紹介」より

 QUAD405パワーアンプのペアとなるコントロールアンプ。待望久しい新製品の登場である。外観から受ける印象では、管球式の22、ソリッドステート化された33のイメージを受け継いだ、クォードらしい伝統の感じられるデザインである。
 内部のコンストラクションは、その外観から予想するよりははるかに現代的な、それもプロ用機器的なプラグイン方式のモジュールアンプを採用していることに特長がある。基本的なモジュールの組合せは、フォノ、チューナー、AUX、2系統のテープの入力系をもつが、任意のモジュールアンプの組合せが可能であり、近く、MCカートリッジ用フォノモジュールも発売される。なお、このモジュールには交換用のプッシュボタンが付属している。
 機能面は伝統的な高域バリアブルフィルターに加えて、ティルトコントロールとバスコントロールを組み合わせたトーンコントロール、フォノとテープモジュールのゲインと負荷抵抗の切替え、フォノ入力とプリアウトにピンプラグがDIN端子と併用するなど、一段と使いやすくなり、リファインされ、コントロールアンプにふさわしい魅力をもっている。

アムクロン SL-1, DL-2, D-75 IOC, D-150A IOC, DC-300A IOC, M-600, SA-2, PSA-2, PL-1, EQ-3, VFX-2A, IC-150A, OC-150A, RTA-3

アムクロンのコントロールアンプSL1、DL2、パワーアンプD75 IOC、D150A IOC、DC300A IOC、M600、SA2、PSA2、PL1、グラフィックイコライザーEQ3、エレクトリッククロスオーバーネットワークVFX2A、その他IC150A、OC150A、RTA3の広告(ヒビノ電気音響)
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

Amcron

マッキントッシュ C29

マッキントッシュのコントロールアンプC29の広告(輸入元:ヤマギワ貿易)
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

C29

ティアック PA-7, MA-7

ティアックのコントロールアンプPA7、パワーアンプMA7の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

TEAC

パイオニア Exclusive Model 2301, Exclusive Model 3401W, Exclusive C3a, Exclusive C10, Exclusive M4a, Exclusive M10, Exclusive F3, Exclusive P3, Exclusive P10

パイオニアのスピーカーシステムExclusive Model 2301、Exclusive Model 3401W、コントロールアンプExclusive C3a、Exclusive C10、パワーアンプExclusive M4a、Exclusive M10、チューナーExclusive F3、アナログプレーヤーExclusive P3、Exclusive P10の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

Exclusive

オーレックス SY-99, SC-88

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 音の感触は、ややウェットで粘り気がある。ピアノの粒が重くなる傾向だし、ヴァイオリンも、やや響きがにぶい。低音が堂々と力強く豊かでいいが、中高域の魅力に、もう一歩、洗練された磨きが欲しい。大音量での音くずれは少ないが、小音量ではやや冴えない。

アキュフェーズ C-240, P-400

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 キメの細かいスムースな音は、きわめて洗練された品位の高いものだ。暖かい肌ざわりをもっているし艶のある、粘りのある音は、美音といってよい次元にまで高められている。しかし、反面、素直さ、自然さの面で少々不満がある。荒さは荒さとして聴きたい。

最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その13)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

 かつてC22とMC275の組合せの時代にしびれるほどの思いを体験したにもかかわらず、マッキントッシュの音は、ついにわたくしの装置の中に入ってこなかった。その理由はいまも書いたように、永いあいだ、音の豊かさという面にわたくしが重点を置かなかったからだ。そしてマッキントッシュはトランジスター化され、C26、C28やMC2105の時代に入ってみると、マッキントッシュの音質に本質的に共感を持てないわたくしにさえ、マッキントッシュの音は管球時代のほうがいっそ徹底していてよかったように思われて、すますま自家用として考える機会を持たないまま、やがてレビンソンやSAEの出現以後は、トランジスター式のマッキントッシュの音がよけいに古めかしく思われて、ありていにいえば積極的に敬遠する音、のほうに入ってしまった。
 MC2205が発売されるころのマッキントッシュは、外観のデザインにさえ、かつてのあの豊潤そのもののようなリッチな線からむしろ、メーターまわりやツマミのエッジを強いフチで囲んだ、アクの強い形になって、やがてC32が発売されるに及んで、その音もまたひどくアクの強いこってりした味わいに思えて、とうていわたくしと縁のない音だと決めつけてしまった。
 C29が発売されて、MC2205との組合せで、全く久しぶりに、ましてわたくしの家では本誌3号以来十数年ぶりに、マッキントッシュを聴いた。そして認識を新たにした。というよりも、マッキントッシュの音に、再びあのC22+MC275時代で築いた確固たる豊かさが蘇った。もう少し正確な言い方を心がけるなら、C22時代のあのいくぶん反応の鈍さとひきかえに持っていた豊かさ、あるいはC32で鳴りはじめた絢爛豪華で享楽的なこってりした味わい。そうした明らかな個性の強さ、というよりアクの強さが、ほどほどに抑制されて、しかも音に繊細な味わいと、ひずみの十分に取り除かれた滑らかさが生かされはじめて、適度に鮮度の高くそして円満な美しさ、暖かさが感じられるようになってきた。
 レビンソンのアンプが、発売後も大幅に改良されていることはすでに書いたが、マッキントッシュのアンプもそれほどではないにしてもやはり、発売後も少しずつ改良されているらしいことは、ずっと以前から推測できた。たとえばMC2105でも、初期のモデルと後期のそれとでは多少音質が違っているし、プリメインのMA6100に至っては、発売当初はひどく歪みっぽい音がしたのに、後期のモデルではすっかり改善されていた。
 MC2205を久々に聴いて、同じような印象を持った。あるいはそれはC29との組合せの結果であったのかもしれないが、以前に試聴したモデルにくらべると、弱音でのディテールの表現にわずかに感じとれた粗さがなくなって、管球時自体に築いた音の豊かさに、現代のトランジスターアンプならではの音の鮮度の高さや解像力の良さがほどよくバランスして、ひとつの新しい魅力を表現しはじめた。マッキントッシュは確かに蘇った。

ダイヤトーン DA-P15S, DA-A15DC

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 細かい音色のニュアンスを再現しきれないので品位の高い再生音とはいいにくい。全体に、音の汚れが耳につく感じで、それぞれの楽器の固有の魅力を味わいにくいアンプだ。派手で、効果のある音ではあるが、セパレート型としての品位の点では物足りない。

最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その1)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

     I
 アンプは「買う」ものでなく「作る」ものと、相場がきまっていた。古い話である。といって、なにも好んで昔話などはじめようというのではない。こんにちの新しいアンプたちについて考えてみようとしたとき、ほんの少しばかり過去にさかのぼって振り返ってみることが、何かひとつのきっかけになりそうな気がするからだ。
     *
 アメリカでは一九五〇年代の後半にはすでに、マランツ、マッキントッシュに代表される超高級アンプをはじめとして、大小の専業メーカーが、あるいは一般家庭用の、あるいはオーディオ愛好家むけの、それぞれに完成度の高い各種のアンプを市販していた。
 けれど一方の日本のオーディオは、まだおそろしく幼稚な段階にあった。いや、ごく少数の熱心な研究家や数少ない専門の技術者の中には、当時の世界の水準をいち早くとり入れて優秀なアンプを製作していたケースもあったが、当時の日本のオーディオまたはレコード愛好家の数からすれば、そうしたアンプが商品として一メーカーを支えるほどには売れるものではなかった。
 商品としての良いアンプが入手できないのだから、それでも何とか良いアンプが欲しければ、自分で作るか、それとも誰か腕の立つ技術者に一品注文の形で製作を依頼するほかはない。アメリカやイギリスの優れたアンプは、まだ自由に輸入ができなかったし、入荷したとしてもおそろしく高価。それよりも、海外の本当に優れた製品を実物で知ることができなかったために、いわゆる有名メーカーまたは高級メーカーの製品といえども、そんなに高価な代償を支払ってまで入手する価値のあるものだとは、ほとんどの人が思っていなかった。わたくし自身も、マランツやマッキントッシュの回路そのものは文献で知っていたが、回路図で眺めるかぎりはそれがそんなにズバ抜けて音質の良いアンプだとはわからない。なに、高価なだけでたいしたことはない、と思い込んでいたのだから世話はない。
 アンプの性能を、回路図から推し量ろうというのは、ちょうど、一片の白地図か、あるいはせいぜい住宅の平面図から、その場所あるいは出来上った家を推測するに等しい。だがそういう事実に気づくのはずっとあとの話である。
     *
 良い製品を自作する以外に手に入れる方法がないというのが半分の理由。そしてあとの半分は、いまも書いたように、わざわざ高い金を払って買うこたぁないさ、という甘い誤算。そんな次第でわたくしも、もっぱらアンプの設計をし、回路図を修正し、作っては聴き、聴いては改造し、またときには友人や知人の依頼によって、アンプを何台も、いや、おそらく何百台も、作ってはこわしていた。昭和35年以前の話であった。
 昭和26年末に、雑誌「ラジオ技術」への読者の投稿の形でのアンプの研究記事が採用されたことが、こんにちこうしてオーディオで身を立てるきっかけを作ってくれたのだったが、少なくとも昭和40年代半ば頃まではたかだか専門誌への寄稿ぐらいでは生計を立てることは不可能で、むろんその点ではわたくしと同じ時代あるいはそれ以前からオーディオの道にのめり込んでいた人たちすべてご同様。つまりつい十年ほど前までは、こういう雑誌に原稿を書くことは、全くのアマチュアの道楽の延長にすぎなかった。言いかえれば、その頃までは少なくともほとんど純粋のアマチュアの立場で、オーディオを楽しむことができた。アンプを自分で設計し組立てていたのは前述のようにそれよりさらに10年以上前の話なのだから、要するにアマチュアのひとりとして、アンプを自作することを楽しんでいたことになる。費用も手間も時間も無制限。一台のアンプを、何年もかけて少しずつ改良してゆくのだから、こんなにおもしろい趣味もそうザラにはない。

最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その2)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

     *
 アンプの設計者には、どちらかといえばプリアンプに妙味を発揮するタイプの人と、パワーアンプの方が得意な人とに分けられるのではないかと思う。たとえばソウル・マランツは強いていえばプリアンプ志向のタイプだし、マッキントッシュはパワーアンプ型の人間といえるだろ。こんにちでいえば、GASの〝アンプジラ〟で名を上げたボンジョルノはパワーアンプ型の男だし、マーク・レビンソンはどちらかといえばプリアンプ作りのうまい青年だ。
 で、わたくしはといえば、マランツ、マーク・レビンソン型の、つまりプリアンプのほうにより多くの興味を抱くタイプだった。だった、といまうっかり過去形で書いてしまったが、この点はたぶんいまも同じだ。いや、少なくともごく最近まで、そうだった。
 パワーアンプは本質的にフラットアンプで、決められたインプット(入力電圧)に対して必要な出力をとり出す。そのプロセスで、入力は型をできるだけ忠実にそのまま出力端子まで増幅すればそれでよい。これに対してプリアンプ(コントロールアンプ)は、フォノ入力のようなミリボルト級の微小電圧と、チューナーまたはテープデッキの少なくとも0.1ボルト級以上の入力とを交通整理しながら、フォノ入力に対してはイクォライザー、そして必要に応じてトーンコントロールやフィルター、ラウドネスの補整、さらにモードスイッチやバランス調整……というように、数多くの複雑なコントロール機能を巧みに配置しなくてはならない、という制約が数多くあって、それはまるで、厳格に法則の定められた複雑なパズルを解くに似た難しさ、それゆえの汲めども尽きない面白さがある。回路のブロックダイアグラムを何度も作り直しては、細部の設計と計算をくりかえす。それこそ、一年や二年ではとても理想の回路には到達できない。実際に製作に着手する以前のそうした設計自体が、何とも興味深い頭脳プレイであるために、一旦この楽しさにとり憑かれたら、容易なことでやめるわけにはゆかない。昭和二八〜九年頃から、専らこのおもしろさに惹きつけられて以来、前述のように三十年代の半ばすぎまでは、プリアンプのブロックダイアグラムを、回路のディテールを、何百枚書き直したことだろう。
 プリアンプのもうひとつのおもしろさは、これはいわゆる〝回路屋さん〟一本槍の人にはわからない部分だが、全体のシャーシコンストラクションと、パネル面のファンクションの整理、そのためのデザイン、といった、立体的かつ実際的な部分をあれこれ考える楽しさもある。わたくしなど、そのことのほうがおもしろくなってしまって、それが高じてインダストリアルデザインを職業に選んでしまったといってもいいくらいだ。

スレッショルド SL10, 4000 Custom

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 カリフォルニアのサクラメントにあるスレッショルド社は、高級アンプの専門メーカーで、いわゆるアンプ界のニューウェイヴとして我が国でも注目されているメーカーの一つである。こうした新しいメーカーの製品は、それぞれに、技術的特徴をもち、エレクトロニクスのニューテクノロジーを標榜しているが、中でも、スレッショルド製品は、ひときわユニークな存在である。
 スレッショルド社は、ルネ・ベズネとジョー・サミットという二人のオーディオ気違いが、遂に趣味の領域を脱して、高級コンポーネントを自ら創り出すことの止むなきに至り、若いエレクトロニクスエンジニアのネルソン・パスという人物と出合って会社を創立したという背景をもっている。パスは天才的なエンジニアといわれ、完璧主義、ベズネはデザイナーとしてこれに協力しているらしい。サミットはもっぱら資金面を担当しているらしいが、自身も大変な音好きで、この三人がとことん満足のいくものが出来ないと、製品として登場してこないという、いかにも専門メーカーにふさわしい体質を持っている。
 SL10と4000カスタムは、現在、同社を代表する新しい機種であるが、それぞれ、スレッショルドらしい特徴と技術的個性をもった興味深い製品であるとともに、そのデザインや仕上げの完成度が、こうした小規模な新しいメーカーのものの中では際立って優れていて、製品としての完成度が高い。
SL10の特徴
 SL10は、DCアンプ構成のハイスピード・プリアンプで、入力端子から出力端子までの信号の伝達速度は10ナノセカンド、つまり一億分の一秒、スルーレイトは150V/μsecという応答特性をもっているという。加えて、大量のアイドリング電流によるAクラス動作となっていて、ユニークな補正回路の採用で、DCアンプの安定化を計っている。使用パーツも厳選され、抵抗、コンデンサー、スイッチ、レベルコントローラーには高精度の高級パーツが使われている。操作、機能はきわめてシンプルなもので、余分な機能を一切排除し、信号系路の純度を確保している。ユニークなデザインはパネルの色調、表面のフィニッシュ、ツマミの形状などに並々ならぬ個性と雰囲気を備えていて、オリジナリティを強く感じさせる高級品にふさわしいものだ。
4000カスタムの特徴
 4000カスタムのほうも、これに劣らずオリジナリティをもったパワーアンプである。スレッショルド方式といわれる効率のよいAクラス動作は、すでに国産アンプにもいくつかの亜流を見出すことが出来る。同社独特の回路によるものだ。全段カスコード接続、クラスA動作のDCアンプ構成で、200W+200W(8Ω)の出力をもち,ブリッジ動作でモノーラルアンプとして使えば700Wの大出力を得ることができる。同社の技術思想のバックボーンともいえる、ハイスピードのコンセプトはここにも見られ、ライズタイムは1μsec、スルーレイトは50V/μsecと発表されている。LEDによるピークレベルとアベレージの2段表示パネルを中心に、いかにもパワーアンプらしいデザインは重厚感と、スタイリッシュな感覚がよくマッチした、個性的で美しいフェイスである。このパワーアンプは、単独でよく使う機会があるが、音質は大変優れていて、一種の粘りのある、弾力性に富んだ質感は、人の感覚に快いものだ。力感は溢れているが、荒々しさがなく、音像の立体感も豊かで、実感のあるプレゼンスが魅力的だ。
SL10+4000カスタムの音質
 今回のテストでは、このSL10、4000カスタムという同社の組合せで試聴したわけだから、これこそ、スレッショルドの主張する音と考えてよいだろう。
 前述した4000カスタムの弾力性のある粘る音の特質は、この組合せにおいても同じ傾向であったが、SL10とのコンビでは、それが、やや、好ましくないほうにいくようだ。とういよりも、これがスレッショルドの志向する音の方向なのだろうが……。私個人の好みからすると、もっと明解で鮮烈な響きであってほしい気がする。たしかに、キメの細かく、スムースな、艶と柔軟性をもった品位の高い音ではある。ヴァイオリンの音が、やや、ウェットで、擦過音が押えられ、少々太い響きだし、ピアノの音も丸みがあるのはよいのだが、鋭いタッチの輝きが、甘く重いムードになる。アカペラのコーラスを聴いたが、本来の明晰な軽やかなソノリティが、重厚で深々としたものになった。こういう音の質感、色彩感といった領域になると、もう完全に個人の嗜好の問題といわざるを得ない。音のように無限の表情、質感、色合いをもつものは、単純に、ある素性だけをよしとするわけにはいかないと思う。しかし、数々のレコードを聴いて、そのどれにも、ある種の癖らしい固有の質感があまり強くつきまとうというのは感心出来ないのである。
 スレッショルドのアンプは、パワーアンプのほうが好ましいというのが私の結論である。4000カスタムについては、第一級のパワーアンプであることを認めよう。しかし、SL10プリアンプのほうは、同列に評価するには抵抗があった。それにしても、不思議なことに、ハイスピードを標榜するアンプの多くが、一様に、眠たい、もやっとした傾向の音を聴かせるのはどういうわけだろう。ライズタイムやスルーレイトだけを追求する立場からは、それが本物の音だという主張が生れるであろうけれど、それは音を理屈で云々することになりはしないだろうか。立上りと立下りのバランスによっても、音の傾向は変ってくる。バランスをくずしてまで、立上りがよくなってもいけないようだ。

オンキョー Integra P-307, Integra M-507

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 ふっくらとした情緒勘のよく出るアンプで、音の質感はウォームでスムーズなものだ。鮮烈でパルシヴなソースに対しては、もう一つ明るく、抜けのいい再現が望まれる。ワイドレンジがいたずらに耳につくことなく、しかもレンジの狭さは全く感じない。

Lo-D HCA-9000, HMA-9500

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 日立のLo−Dのオーディオ製品は常に日立らしい技術開発の精神に立って、素材の開発から手がけ、新製品らしい新製品を発表している。その規模と技術の層の厚さは、いうまでもなく日本のメーカーの中でも飛び抜けた存在であるから、中途半端な製品開発は出来ないのが当然だ。スピーカーをみても、アンプをみても、必ず、そこには注目すべき、新しい技術が生かされている。基礎研究の力は、大いに信頼に足るメーカーであることは、ここで、改めて断るまでのこともない。要は、この技術力が、いかにオーディオ的に生かされるかにあって、人の心情や感性を対象としたオーディオ機器にあっては、高度なテクノロジーが即、これに対応できるものとはいい切れない。この辺りが「技術の日立」の最大の課題であろうと思われる。しかし、それも、このところ、同社なりに豊富なノウハウを蓄積してきているようで、音楽を楽しみ、音を味わうことの出来る製品作りのコツを心得てきたようである。音キチといわれるように、高級オーディオ機器のユーザー達は、音に関して、きわめて集中的かつ求心的な関心の持主であり、音に関わる機器に求めるものは単に機械としての存在を超えた形であり、触感であり、雰囲気であり風格である。しかも、それは人それぞれの嗜好によって、様々な要求があるところに、オーディオ製品の趣味性が生れていることは読者諸兄がもっともよく御存知のはずだ。
 音楽の感覚的な娯楽性や精神的な芸術性に共感し、評価する、その心に同次元の印象や感動を与え得るモノの存在は並大抵のものではない。最高級オーディオ機器を生み出すことは、この点で、決してイージーなものではないのである。研究所、開発設計室、生産工場、営業宣伝といった常識的なメーカーのプロセスの中で、はたして、どこで、どうしたら、そのクォリティを付加することが出来るのだろうか。これは頭でだけ考えてシステム化できるような問題ではあるまい。Lo−Dの製品に接して常に感じること、考えさせられることはこのことである。世界的な大企業である日立製作所のオーディオ製品が、この点で全く欠けているとはいわないが、前述した「製品作りのコツ」という同社への賛辞は、同時にまた、同社製品への不満でもある。つまり、要領は巧みに心得てきたといえるが、それが、強烈な個性と、製造者の情熱が生みだす創造性、心情性という面で、まだ一つ、物足りなさを感じさせるのである。
 たまたま、Lo−Dの製品の項で、このような私の考えを述べさせてもらったが、これは、他のメーカーにもいえることであって、Lo−D製品に限ったことではないことをつけ加えておく。
 Lo−Dのアンプの中での最高級機種といっていい、セパレートアンプ、HCA9000とHMA9500は、以上述べた性格を過不足なく備え、数々の技術的フィーチュアや、製品の特性には、最新最高のテクノロジーの生きた優秀なものであった。
HCA9000の特徴
 HCA9000プリアンプは前段ICLのDC構成をとり、出力段のコンデンサーにも周到なセレクトのおこなわれたもの。その選択と使い方には音質との兼ね合いが十分配慮され、アンプ作りのコツの一端をうかがい知ることが出来る。ボリュウムは連続可変で、クリックのないところが気に入った。音楽ファンにとって、音をカチカチと段階的に増減するという感覚は抵抗があって不思議ではない。4連ボリュウム採用で残留ノイズは耳につかない。出力インピーダンスは40Ωと低いから、スピーカーを近づけて使いたい人には、ラインレベルでコードを延ばすのに好都合。電源は全段独立安定化電源を採用し音質へのキメの細かい配慮をおこなっている。MCヘッドアンプはS/Nのよいもので、パネル面で切替えが出来る便利なもの。薄型のデザインは率直にいって、それほど高級感があるとはいえない。かなりこった作りではあるが、その割に効果が上っていないようだ。
HMA9500の特徴
 HMA9500パワーアンプは、日立が開発した新しいデバイスの誕生によって実現したもので、技術的なオリジナリティを持った製品だ。コンプリメンタリーパワーMOS−FETという素子がそれで、オーディオ用のパワー素子として優れた特徴をいくつかもっている。大きな電力ゲインをもっているため、複雑なドライバー段を必要とせず、比較的シンプルな構成で、高いリニアリティをもった音声出力を得られる。回路構成は、左右独立電源のDCアンプで、NFBループにコンデンサーは使用していない。
HCA9000+HMA9500の音質
 HCA9000とHMA9500の組合せによる試聴では、透明感のある繊細な音の粒立ちはよく生かされたが、豊かな力強さの点で、少々不満があった。ヴァイオリンは、線がやや細く硬目の響きだが、芯のしまった音で、演奏の毅然とした精神性がよく表現された反面、柔軟でしなやかな遊びの雰囲気といったものが希薄であった。ピアノの質感は高く、響きが冴える。オーケストラでは、弦合奏の高域が時々とげとげしくなる傾向があったが、弦のプルートの数がだんごになってしまうようなことがなく、分離が大変よく聴こえた。トゥッティでのエネルギーバランスとしては、やや高域が勝って聴こえたがこれは、ジャズのビッグバンドでの低域の図太さの再現不足とサックス群のハーモニーの厚みの再現不足と共通したイメージであった。しかし、こうしたバランス上の問題は、スピーカーや部屋のコントロールで補える範囲でのことであり、それほど大きな不満とはいえない。MCヘッドアンプ使用の音は、癖のない、おとなしいもので、歪感がない好ましいものであった。総合的に、緻密で明解な音は、音量によって音色変化の少ない使いよいアンプであった。

QUAD 44, 405

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 全体にナローレンジの傾向をもつ、聴きやすい音だ。節度と品位のある鳴り方で、音楽の重要な骨格はきちんと聴かせてくれる。特性のよさが表に出た機械的な感触の音よりもはるかにいいとはいえるが、現代的な音楽では物足りなさが残る。

マッキントッシュ C29, MC2205

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 製品としての完成度の高さの点で、現在、マッキントッシュのアンプの右に出るものはないといってよかろう。デザインのオリジナリティと、そのクォリティ、コンストラクションなどの総合的なバランスのよさは、まさに、専門メーカーとしてのキャリアと風格を証明し、アマチュアに毛の生えたような製品の多い昨今、ますます、その存在が輝きを放っている。仕上げの高さ、創りのよさといった見地からみると、アンプに関して、いまや国産の高級機を凌ぐ外国製品の数は、それほど多くはない。前述した、アマチュアに毛の生えた程度の作りの粗さや未熟さは、メーカー製にはあってはならないものだろう。真に価値のあるものは、中味にふさわしい外観、外観にふさわしい中味の各々相まって然るべきである。音さえよければそれでいいという考え方は未熟である。それも、買い手がいうのならまだしも、作り手や、売り手が口にすべきことではない。ましてや、作りの粗さや雑なところが、いかにも専門メーカーの小量生産品らしくてよいなどというのは、詭弁以外のなにものでもない。外観の風格は、中味の充実からくるものであるし、その品位と重みといった雰囲気は一朝一夕に出来上がるものであるはずがない。マッキントッシュの製品は、こういう観点から見た時、真の一流品、高級品といえる数少ない現役製品のひとつだ。
 このC29、MC2205という製品は、現在のマッキントッシュのラインアップのなかでは最も新しい設計による矢野で、一貫したマッキントッシュの風格は、その外観にも音にも堅固に生き続けている。
C29の特徴と音質
 C29コントロールアンプは、価格的にみればC32の下のクラスということになるが、必ずしもC32の普及モデルというのではなく、むしろ、C28の新型が、このC29で、C32は新しいコンセプションによるニューモデルと考えるのが妥当であろう。それは、コントロールアンプとしての機能や、音の上からも肯定できるところであって、C32の豊潤な艶は、従来のマッキントッシュのサウンドとはやや異質だし、コントロールアンプとしてはコンセプトの異なるものだ。また、多分割のバンド型トーンコントロール機能も、マッキントッシュ伝統のものとはいえない。その点、このC29はオーソドックスで、シンプルなコントロールアンプで、必要なファンクションは完備したマッキントッシュ伝統のコンセプトを反映しているものである。グラスパネルのイルミネーションは、いまさらいうまでもなく、ユニークで美しく、機械の精度の高さをよく表現し、かつ、マッキントッシュのガウ社長のいう「エモーショナルレスポンス・フォー・ミュージック」を感じる心に豊かに呼応するフィーリングである。従来の同社のコントロールアンプは、いわゆるS(スイッチ)付ボリュウムを使っていたが、新シリーズから、パワースイッチとボリュウムは分けられ、プッシュ式の角型スイッチで電源のオン・オフをおこなうようになったのは好ましい。S付ボリュウムというのは、たしかに普及品のイメージに連なることは否定できない。パワースイッチにふれたついでだが、このプッシュボタンの色は、あまり好ましいとはいえない。新シリーズの出始めの頃は、他の一群のプッシュボタンと同じ、黒であったが(私が現用しているC32はそれだ)、見分けにくいということで、現在の色にしたらしい。しかし、この赤茶のような透明感のない色の質感は、マッキントッシュにしては、少々不満なクォリティであると思う。
 そして、音は、充実した質感……いかにも中味がつまっているといったソリッドネス……力と重みのある堅固な造形感をもった音像再現の見事さといった、マッキントッシュ・サウンドに、明るい陽光が射し込んだような、透明さが一段と冴え渡るようになったフレッシュなものなのである。
MC2205の特徴と音質
 新しいマッキントッシュのアンプに共通していえることだが、コンストラクションの確かさは、その精選されたパーツとのコンビネーションで最新のエレクトロニクステクノロジーをオーディオ的に洗練し、見事な再生音楽のリクリエイトに成功している。その伝統ゆえに、古い世代のアンプという偏見をもつ人がいるが、愚かな認識である。確かに、マッキントッシュは、実験的な突飛なパーツや回路は採用しないが、これは、同社が、製品の信頼性と、音楽の豊かな情緒的再現を重視しているからである。ポルシェが、市販車にターボチャージャーを装備したのは、大変な実験とレース実績の積み重ねをしてからであった。BMWが、それより先にターボチャージャーを装備した車を売り出し、そのレスポンスのタイムラグや故障のために生産を中止した事実とは対照的である。マッキントッシュのプロダクションの考え方には、これと一脈通じるものがある。やれDCアンプだ、サーボアンプだと大さわぎをしてはいるが、はたして音はどうなのだ? はたしてオーディオにとって本当に有効な技術進歩かどうか? そんなことは半年やそこいらで結論が出るものではないだろう。往年のマランツやマッキントッシュほどのものになると、10年前の製品でも、オーディオ機器として最新の製品と堂々と比肩する性能をもつものである。人によっては、昔のもののほうを高く評価するという事実もある。
 MC2205は、こうした音とテクノロジーの関連を、マッキントッシュらしい慎重さと、豊かな想像力で検討し、有能なエンジニア達が、古くからの体験に基づき、よいものを大切に、新しいテクノロジーの中から厳重に選択したポイントを盛り込んで作り上げられただけあって、外観も、お供、まさに威風堂々の充実感を覚える力作である。これらのすべてが、今回のテストで改めて如実に確認できた。

マークレビンソン ML-6L, ML-3L

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 優秀な特性による品位の高い音だとは思えるけれど、どうも、音楽の表現にゆとりがなくなる。大らかな歌い方、暖かく、やさしいニュアンスといった雰囲気が十分ではなく、どこか、ギスギスした、せせこましい印象の音であった。ダイナミックな力もいま一つ。

GAS Thaedra II, Godzilla AB

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 品位の高い再生音。つまり、あらゆるプログラムソースの特徴を見事に再生し分ける。ヴァイオリンのデリケートな音色から、パルシヴなドラムスの音まで、それぞれに生き生きとしたリアリティをもっている。質感は弾性的で肌ざわりのよいものだ。

アムクロン DL-2, SA-2

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 たくましい明るい音で、ロックやジャズには圧倒的な再生音を聴かせる。その反面、デリカシーやニュアンスを要求すると、やや不満もある音で、弦楽器の高音は、少々粗く、しなやかさに欠ける嫌いがある。大音量で実力を発揮する傾向をもったアンプだ。

ヤマハ C-2a, B-5

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 音に勢いのある、明解な再生音で、低音もよく締り密度が高いし、中高域の冴えた再生音も美しい。パワーアンプのプロテクションが、やや安全度の見過ぎか、公称パワーの大きさの割には、低域の大出力に余裕が欠けるようだ。充実した高品位の再生音。

トリオ L-07C II, L-07M II

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 トリオは、アンプのハイエンド製品の開発には、主張テーマを明確に標榜し、そのテーマにもとづく物理特性を測定限界にまで追求することを開発のバックボーンとしているようだ。忠実な伝送増幅を目的とするアンプにおいて、この姿勢は絶対に正しいといえるだろう。しかし、オーディオの録音から再生までの複雑なプロセスにおける、相互的な複雑な依存性は、あたかも、人生における、がんじがらめのしがらみにも似て、これをトータルな音としてスピーカーから効果を上げることをことを考える時にはそう単純に、一元的にテーマを追求してすむものではないし、時としては部分的独走に終る危険性すらもっている。現在のようにコンポーネント各部が専門的に開発される情況においては、この傾向が時として総合的な音の効果を損ねることに連なるといえるだろう。また、コンポーネント相互の相性などといわれる問題の発生の要因となることも考えられるであろう。そしてまた、リスナーの嗜好との相性がこれにからんでくることを思えば、問題はますます複雑になるのである。専門メーカーとして長いキャリアと豊富な蓄積をもつトリオのことだから、この辺は先刻承知のはずで、そこを、試聴に重ねる試聴によって、試聴者の個性と感性と知性の限界はあっても、出来得る限り普遍性をもった「美しい音」の具現で埋めようと努力しているはずだ。現在のようにエレクトロニクス技術が高度に発達した時点でさえ、アンプによる音の違いがあるという原因の背景は、こうした事情によるものとしか思えない。素子と回路の追求やパーツの選択、配線やコンストラクションのちょっとした違いで音が変るという事実の上で、音の審美と価値感の決定にたずさわる人間の存在の重要性は、今後も失われることはないであろう。
L07MIIの特徴
 L07CII、L07MIIの標榜する技術テーマは、同社の、この数年来の追求テーマであるハイスピードアンプの実現であり、それは、100V/μs以上の波形の立上り傾斜、1μs以下のライズタイム、信号の正負両方向のレスポンスの同値と出力の大小による悪影響を受けないこと、リンキングなどの波形の乱れがないことなどである。これによって、全帯域にわたってアンプのダンピングファクターを出来るだけ一定化することにより、良質の音を得るというのが、主張の要旨である。こうして、L05M以来、スピーカーをダイレクトにドライブするという思想、その結果、当然2台のモノーラルアンプという形態のパワーアンプが登場し、それが、そのまま、このL07MIIにも受けつがれている。
L07CIIの特徴
 コントロールアンプL07CIIは、左右を極力独立したコンストラクションとし、出力インピーダンスは10Ω以下と低くとって、優れたトランジェント特性を持つ薄型のコントロールセンターである。L07CIIは、この他にも、MM、MC各独立型のイコライザーを内蔵し、各部品は高級なものを選び、細部にも徹底した神経の行き届いたマニアライクな製品となっている。必要な機能は完備したコントロールアンプではあるが、信号系路は音質重視設計でシンプルに構成されている。入力セレクターは、2イコライザーであるので、イコライザー通過後のフォノ1、2をチューナーやAUX端子とスイッチし、微少レベルでのスイッチ接点介在の害を防いでいるし、ボリュウムの選択や使い方にも細かい配慮がなされている。ミューティングリレーで出力をオン・オフにするスイッチを採用しているのも実用上合理的である。使い勝手のよいコントロールセンターといえる。
L07CII+L07MIIの音質
 その、ふくよかな音質も、品位の高いものだ。このコントロールアンプは、今回のテストでは単独では試聴しなかったが、すでに、いろいろな機会に単独試聴しているが、プレゼンスの豊かな、良質の再生音を聴かせてくれた。音像の定位や立体感の再現は、そのアンプのクォリティを物語るものといってもよいのだが、このL07CIIの再現するステレオフォニックな空間感覚は、まさに、そのハイクォリティを感じさせるものだ。
 ところが……ここからが、前述した、オーディオのしがらみになるのだが、今回の試聴では、どうしたわけか、♯4343をL07MIIでドライブした音からは、L07CIIのよさが、あまり感じられなかったのである。この稿では、あくまで、今回の試聴を中心にした音の印象記を述べなければならないのであるが、あまり、好結果は得られなかったのである。全体に、やわらかい、ソフトタッチの音のよさは感じられたけれど、率直にいえば、むしろ、もったりとした眠い音で、鮮烈な冴えのある音が出てこなかったのである。エネルギーバランスも、中高域に落ち込みが感じられ、拍手の音などが不自然であったし、ヴァイオリンの音色にも、冴えた鋭敏なところがなく、ハーモニックスの成分が、ずいぶん、常識的なバランスを欠いた響きであった。ジャズのビッグバンドのサックスセクションも前へ出てこなかったし、ベースも少々鈍重で、迫力を得るために、つい音量を上げると、響きがやかましくなるといった具合であった。日頃の試聴感と、今回のテストで、かなり大きく違いが出たことにあるが、このアンプは、どうも、コンポーネント相互の組合せによって結果が大きく変るような傾向があるらしい。

最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その7)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

 少し前、これはテクニクスの石井伸一郎氏だったか、それともラックスの上原晋氏から伺った話だったか、ちょっとそこの記憶があいまいだが、おもしろい説を伺ったことがある。それは、こんにちのオーディオアンプは、その最先端では、こんにちの電子工学のほぼ最高の成果をいち早くとり入れて作っているが、その点で、そのオーディオアンプを測定する測定器自体も、アンプの技術水準以上のものであるわけがない。むしろ開発の早いオーディオアンプのほうが、電子工学的には測定器を上まわっているというのが現実ではないか。そうであるのなら、と、ここからは石井氏の説になるが、アンプがアナログ増幅器である以上、測定器もアナログで追いかけていたのではナンセンスではないか。S/Nも、歪も、周波数レインジも、アンプと測定器とが同格の性能であるなら、どうしても、ディジタルその他の全く別のテクノロジーを、測定技法に導入しないかぎり、アンプの動作状態をいま以上に精密に分析することは不可能なはずだ、という説である。
 このことに関連して思い出すのはもうひとつ別のあるメーカーの技術社の話で、それは、こんにちのアンプが右のような段階にある以上は、そのメーカーとしては、ある意味で頼りになりにくい聴感を頼りにしてアンプの開発をするという手法を一旦捨てて、アンプとしてあるべき理想の姿についてひとつの仮説(理論)を立てる。その理論は、進歩の時点時点で少しずつ修正しなくてはならないかもしれないが、測定できる部分は測定で、また測定不可能の部分はその時点で最良と思われるひとつの仮説(理論)にもとづいて、あるべき姿に近づけるべく改良を加えてゆく。その改良のプロセスで、仮に、聴感上どういう結果になろうと、いつかその仮説の十全に具現できた暁での音質の改善を信じてアンプを改良してゆく、という話なのだ。抽象すぎてお分かりにくいかもしれないが、それはこういうことなのだ。
 アンプを改良してゆくプロセスで、ある段階でたしかに音がよくなってくる。だが、そこから次の段階に進んだとき、理論的には明らかに進歩であるはずなのに、聴感上はどうも改良以前のほうがよかった、というような結果の出ることがよくある。問題はここからなのだが、仮ににそういう結果の出たとき、その理由のはっきり糾明されるでは、中途での改良をやめて元に戻すというのが、一般的に言って商品づくりのうまさであり、また、ユーザーにとってもそのほうがいいはずだ。
 だが、右の技術者はそうではない。ひとつの理論が正しいと信ずるに値するかぎり、というよりその理論が違っているという証明のできないかぎり、正しいと信ずる理論にしたがって、アンプの音をその方向に修正する。仮にその音に、以前にくらべてかえってよくない部分が出てきたとしても、めれはもしかしたらアンプ自体の問題でなく、スピーカーやプログラムソースやリスニングルームその他すべての周辺の問題まで含めての疑問であるべきで、周辺機器の矛盾をアンプに負わせるべきではないという説なのだ。
 まあ、こういう問題をあまりこまごまと紹介することは、かえって混乱を招くもとになるかもしれないのでほどほどにしておくが、あえてこうした問題にいくぶんのスペースをさいたのは、次項の、新型アンプの試聴の話を受けとめて頂く上で、アンプの開発がいまこういうシビアな段階にさしかかっているということを、知っておいて頂くほうがいいのではないかとの老婆心からである。