最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その1)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

     I
 アンプは「買う」ものでなく「作る」ものと、相場がきまっていた。古い話である。といって、なにも好んで昔話などはじめようというのではない。こんにちの新しいアンプたちについて考えてみようとしたとき、ほんの少しばかり過去にさかのぼって振り返ってみることが、何かひとつのきっかけになりそうな気がするからだ。
     *
 アメリカでは一九五〇年代の後半にはすでに、マランツ、マッキントッシュに代表される超高級アンプをはじめとして、大小の専業メーカーが、あるいは一般家庭用の、あるいはオーディオ愛好家むけの、それぞれに完成度の高い各種のアンプを市販していた。
 けれど一方の日本のオーディオは、まだおそろしく幼稚な段階にあった。いや、ごく少数の熱心な研究家や数少ない専門の技術者の中には、当時の世界の水準をいち早くとり入れて優秀なアンプを製作していたケースもあったが、当時の日本のオーディオまたはレコード愛好家の数からすれば、そうしたアンプが商品として一メーカーを支えるほどには売れるものではなかった。
 商品としての良いアンプが入手できないのだから、それでも何とか良いアンプが欲しければ、自分で作るか、それとも誰か腕の立つ技術者に一品注文の形で製作を依頼するほかはない。アメリカやイギリスの優れたアンプは、まだ自由に輸入ができなかったし、入荷したとしてもおそろしく高価。それよりも、海外の本当に優れた製品を実物で知ることができなかったために、いわゆる有名メーカーまたは高級メーカーの製品といえども、そんなに高価な代償を支払ってまで入手する価値のあるものだとは、ほとんどの人が思っていなかった。わたくし自身も、マランツやマッキントッシュの回路そのものは文献で知っていたが、回路図で眺めるかぎりはそれがそんなにズバ抜けて音質の良いアンプだとはわからない。なに、高価なだけでたいしたことはない、と思い込んでいたのだから世話はない。
 アンプの性能を、回路図から推し量ろうというのは、ちょうど、一片の白地図か、あるいはせいぜい住宅の平面図から、その場所あるいは出来上った家を推測するに等しい。だがそういう事実に気づくのはずっとあとの話である。
     *
 良い製品を自作する以外に手に入れる方法がないというのが半分の理由。そしてあとの半分は、いまも書いたように、わざわざ高い金を払って買うこたぁないさ、という甘い誤算。そんな次第でわたくしも、もっぱらアンプの設計をし、回路図を修正し、作っては聴き、聴いては改造し、またときには友人や知人の依頼によって、アンプを何台も、いや、おそらく何百台も、作ってはこわしていた。昭和35年以前の話であった。
 昭和26年末に、雑誌「ラジオ技術」への読者の投稿の形でのアンプの研究記事が採用されたことが、こんにちこうしてオーディオで身を立てるきっかけを作ってくれたのだったが、少なくとも昭和40年代半ば頃まではたかだか専門誌への寄稿ぐらいでは生計を立てることは不可能で、むろんその点ではわたくしと同じ時代あるいはそれ以前からオーディオの道にのめり込んでいた人たちすべてご同様。つまりつい十年ほど前までは、こういう雑誌に原稿を書くことは、全くのアマチュアの道楽の延長にすぎなかった。言いかえれば、その頃までは少なくともほとんど純粋のアマチュアの立場で、オーディオを楽しむことができた。アンプを自分で設計し組立てていたのは前述のようにそれよりさらに10年以上前の話なのだから、要するにアマチュアのひとりとして、アンプを自作することを楽しんでいたことになる。費用も手間も時間も無制限。一台のアンプを、何年もかけて少しずつ改良してゆくのだから、こんなにおもしろい趣味もそうザラにはない。

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