最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その2)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

     *
 アンプの設計者には、どちらかといえばプリアンプに妙味を発揮するタイプの人と、パワーアンプの方が得意な人とに分けられるのではないかと思う。たとえばソウル・マランツは強いていえばプリアンプ志向のタイプだし、マッキントッシュはパワーアンプ型の人間といえるだろ。こんにちでいえば、GASの〝アンプジラ〟で名を上げたボンジョルノはパワーアンプ型の男だし、マーク・レビンソンはどちらかといえばプリアンプ作りのうまい青年だ。
 で、わたくしはといえば、マランツ、マーク・レビンソン型の、つまりプリアンプのほうにより多くの興味を抱くタイプだった。だった、といまうっかり過去形で書いてしまったが、この点はたぶんいまも同じだ。いや、少なくともごく最近まで、そうだった。
 パワーアンプは本質的にフラットアンプで、決められたインプット(入力電圧)に対して必要な出力をとり出す。そのプロセスで、入力は型をできるだけ忠実にそのまま出力端子まで増幅すればそれでよい。これに対してプリアンプ(コントロールアンプ)は、フォノ入力のようなミリボルト級の微小電圧と、チューナーまたはテープデッキの少なくとも0.1ボルト級以上の入力とを交通整理しながら、フォノ入力に対してはイクォライザー、そして必要に応じてトーンコントロールやフィルター、ラウドネスの補整、さらにモードスイッチやバランス調整……というように、数多くの複雑なコントロール機能を巧みに配置しなくてはならない、という制約が数多くあって、それはまるで、厳格に法則の定められた複雑なパズルを解くに似た難しさ、それゆえの汲めども尽きない面白さがある。回路のブロックダイアグラムを何度も作り直しては、細部の設計と計算をくりかえす。それこそ、一年や二年ではとても理想の回路には到達できない。実際に製作に着手する以前のそうした設計自体が、何とも興味深い頭脳プレイであるために、一旦この楽しさにとり憑かれたら、容易なことでやめるわけにはゆかない。昭和二八〜九年頃から、専らこのおもしろさに惹きつけられて以来、前述のように三十年代の半ばすぎまでは、プリアンプのブロックダイアグラムを、回路のディテールを、何百枚書き直したことだろう。
 プリアンプのもうひとつのおもしろさは、これはいわゆる〝回路屋さん〟一本槍の人にはわからない部分だが、全体のシャーシコンストラクションと、パネル面のファンクションの整理、そのためのデザイン、といった、立体的かつ実際的な部分をあれこれ考える楽しさもある。わたくしなど、そのことのほうがおもしろくなってしまって、それが高じてインダストリアルデザインを職業に選んでしまったといってもいいくらいだ。

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