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デンオン DCD-3500RG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 適度に緻密で安定感のある中域を中心に、ナチュラルな帯域バランスと標準的な音場感の再現能力、明快な音像定位が聴かれるリファレンスモデル的な内容の音は、昨年発表された時点とは格段の差のグレードアップである。聴取位置は中央の標準的位置である。ロッシーニは柔らかい雰囲気型の音で、音像は奥に定位する。安定度は充分にあるが密度感が不足気味で、ウォームアップ不足だ。Pトリオは、安定感のある帯域バランスと芯のしっかりした音で、 一種の重厚さめいた印象が特徴。ブルックナーは厚みのある安定した、いわば立派な音だが、斉奏では混濁気味。平衡出力ではホールトーンはたっぷりとあるが表現が甘く、コントラスト不足の音で、かなり音量を変え、セッティングを少し変えた程度では変化がなく、再生系との相性の問題がありそうだ。ジャズは、低域が腰高で安定せず、全体にモコモコとした一種の濁りのある音とプレゼンスでまとまらない音だ。

サンスイ AU-α707L Extra

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ダイヤトーン DS-77Zとの相性
ナチュラルで、響きがほどよく溶け合ったプレゼンスの良い音だ。音場感は遠近感たっぷりにパースペクティヴに広がり、音像は小さく柔らかくまとまる。プログラムソースの録音されたホールなどの空間の再生は見事であり、とかく硬調でエネルギー感が誇張気味となりやすい77Zの個性を巧みにカバーした楽しく聴ける音だ。

マイクロ CD-M2 + DC-M2

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 穏やかで、一種独特の重さ、暗さがある渋い音を持つ個性型の音である。CDとしては再生する情報量は多く、演奏会場の空気の動きや椅子などのキシミ、楽器のノイズなどを聴かせる。試聴位置は、中央の標準位置。ロッシーニは、基本的にはウォームトーン系のまとまりだが、角がとれたクッキリとした音はアナログディスク的なイメージがある。各パートの声は少し伸びが抑えられ、音像はフワッと大きく定位する。Pトリオは、低域が重く粘りがあり反応は遅いが、中低域以上はほどよく立上りの良い素直な音であるため、低域のコントロールをすれば個性的な良い音になるだろう。ブルックナーは、音楽的な意味でのブルックナーらしさがあるが、オーディオ的には見通しが悪く、晴々としない音である。平衡接続ではプレゼンスが良くなるが、Dレンジが抑えられ、表情も鈍くなる。ジャズは、狭帯域型バランスと閉鎖空間的プレゼンスが特徴だが、安定度、力感が欲しい。

ビクター SX-700

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

 小型2ウェイ方式に、低音専用のサブウーファーシステムを独立したキャビティで組み合わせ、トールボーイ型システムとしてまとめた手堅い手法の製品である。柔らかく量感があり、ほどよく反応が速いサブウーファーを加えた低域の豊かさは、この製品の特徴であり、この部分をどうこなすかがアンプの実力の問われるところ。

パナソニック SU-MA10

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
細身で、さらさらとして、薄味の印象は共通6Siから700になったことで低音部の支えが出てきたのは当然だが、どうしても高音域に耳が寄る。空間が透ける分、音の実体感が不足して、演奏がつまらなく聴こえてきた。T&Pはステージにうんと白い照明を当てたよう。ボーカルが若返り胸の鳴りが薄い。

メリディアン 206

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 英国、ブースロイド・スチュワート社よりすでに発表されている200シリーズコンポーネントは、201プリアンプを核として204FMチューナータイマー、205モノーラルパワーアンプ、209リモートコントロールユニットから構成され、そのデザインや機能のユニークさで話題を集めていた。
 今回同シリーズ中の、プリアンプ機能をあわせ持つCDプレーヤー/207MKIIの派生モデルとして、このプリアンプ機能を排し、よりコンプリートな単体CDプレーヤーシステムとして、音質や機能の細部をリファインしたCDプレーヤー/206が登場した。
 従来通り、エレクトロニクス部とCDトランスポート部を独立した筐体に納めているが、使い勝手の向上を期して、ジョイントバーで結合された一体化構造をとる。
 従来通り、D/Aコンバーターは16ビット4倍オーバーサンプリングを採っているが、ディスクユニット部は最新のフィリップス製CDM4を採用している。
 メカニズムおよびサーボ部は、3ポイントサスペンション(ゴム系緩衝材のソルボーテン)によってフローティングされ、振動による悪影響を排除している。
 出力は3系統あり、固定アナログ、同軸デジタル、および光デジタル出力を備え、より組合せの自由度を増している。
 見慣れたとはいえ、やはりこのデザインの美しさは、単に個性的と言うレベルをつきぬけ、メカニカルの機能美と趣味線の高さを高いレベルで融合させている。
 過度にコスメティックな要素でゴテゴテと飾りたてるのではなく、洗練と簡素化を究めたより純粋な意味でのインダストリアルデザインのあるべき姿の良い見本となっていると思う。
 これは、北欧のB&Oと並び、究めて貴重な存在であり、わが国にも、そろそろこういったコンセプトの瀟洒なシステムが登場してもよいような気がする。
 音質についても同様なことがいえる。そこには、あざといメリハリ強調型の紋切り的音作りは皆無で、落ち着いた穏やかな表現がまず印象に残る。
 従来の弾力性のあるやや暖色系の暖かさは引き継いでいるが、よりニュートラルで中立的といえる大人っぽさを仕上げの要素に含んでいるように聴けた。
 中庸を得た破綻のなさが、どんな装置に組み入れても、全体のバランスを掻き乱すことなく、安心して使用できる汎用性を高めたといえよう。
 プリアンプ機能を省略したために回路がシンプルになり、電気的に洗練された結果だろうが、明らかに響きの透明感や音場の再現性の向上が聴き取れた。

デンオン PMA-890DG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ダイヤトーン DS-77Zとの相性
柔らかくしなやかで、雰囲気のある音ではあるが、77Z本来の力強く、押し出しの良い音とは異なった、薄味できれいな音空間のまとまりである。音場感は奥に引っ込んで広がり、Pトリオの、ライヴネスたっぷりによく響き、美しい音の消え方が印象的である。適度のクォリティがあり、使いこなせばかなり楽しめそうな印象。

ビクター SX-700

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

小型2ウェイ方式に、低音専用のサブウーファーシステムを独立したキャビティ採用で組み合せ、トールボーイとしてまとめた手堅い手法の製品である。柔らかく量感があり、ほどよく反応が速いサブウーファーを加えた低域の豊かさは、この製品の特徴であり、この部分をどうこなすかがアンプの実力の問われるところ。

セレッション SL6Si

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

英国系の小型2ウェイシステムを代表する、適度に反応が速くプレゼンスの良い音と、メカニカルでわかりやすいデザインが巧みにマッチした製品である。Siに発展して中域の薄さが解消され、低軟、高硬の性質は残っているが、小型システムの、音離れが良くプレゼンスの良い特徴も併せて、総合的な完成度はかなり高い。

ソニー TA-F555ESG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
少し厚ぼったい低音域と細身の高域端で、これは6Siの音そのままだなと思わせた「レクイエム」。Pトリオでは838ほどではないが楽器がONで、響きは抑えめ。「コリオラン」でも低音部の重々しい鳴り方が、いかにも6Siの低音そのままだ。T&Pはヴォーカルが少し暗めで、ギターのボディ音が大きく、リズムがもったりしている。

アキュフェーズ P-500L

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 このアンプの音は、国産のアンプでは珍しい味わいをもつ。とろっとした〝おいしさ〟とでも表現したいほどだ。かといって、アンプとして支配的な音色が強いのではなくて、ソースの各楽音の特質はよく鳴らし分ける。「ドゥムキー」のコーエンのヴァイオリンは艶っぽくて、プレスラーのピアノは丸く暖かい音色に加えて、輝きもある。切れ込みも鋭いが、決して荒れることはなく、質感は滑らかだ。ベートーヴェンの「エロイカ」のトゥッティは力強くマッシヴで、細部と全体のバランスはよく整っていて立派。ffの弦楽器、特にヴァイオリンの音域がドライにならないので、ウィーン・フィルらしい優雅さが常に保たれる。木管の瑞々しさ、金管の繊細な輝きの美しさも大変よく再現してくれた。重低音がしっかりしているので、重厚なバランスが音楽に安定感を与える。ヘレン・メリルの声は低域の厚みがきいて、最近の彼女らしい幅のある表現に聴こえる。ベースも充実。

ソニー TA-NR1

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 キメが細かく滑らかな高音域と、中庸をいく音の雰囲気は明るすぎず、当然暗さとは縁遠く、よくコントロールのきいたバランスである。どこといって欠点や、ないものねだりをしたくなるようなところのないパーフェクトなアンプだと思う。いかにも日本の製品らしいクォリティとパフォーマンスの両立した音だ。ドヴォルザークの「ドゥムキー」での繊細で透明な弦楽器の質感とソノリティには、このアンプの質の高さがよくうかがえるし、全体のマッシブなffでの明晰さに、物量を投じたアンプらしい力量が現われている。「エロイカ」のトゥッティでの安定感も立派だ。100W/8ΩのA級アンプだが、スピーカーの能率が87dB以上あれば、かなりのエンスージアスティックな大音量再生も可能だし、なにより音の密度感や力感は数百W級のアンプのそれに匹敵するものがあるのが頼もしい。ヘレン・メリルは優しく、少々肌ざわりが滑らかすぎて美化されすぎ。

ダイヤトーン DS-77Z

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

口径30cmを超すウーファーベースの伝統的3ウェイブックシェルフ型の典型的存在であり、現在生き残っている数少ない機種だ。3ウェイらしく中域のエネルギーが充分にあり、情報量が多いため、使いこなしを誤れば圧倒感のあるアグレッシヴな音になりやすく、このあたりを使いこなせないようではオーディオは語れない。

YBA YBA1 POWER AMPLIFIER

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 イシドア・コーエンのヴァイオリンが、なんとも洒落たニュアンスでデリケートな魅力を聴かせる。線は細目で、倍音がよくのった繊細な美音である。ピアノは透明で、プレスラーのタッチはやさしい雰囲気を加える。チェロもよく歌い弾み、中低音のエネルギーがよくコントロールされている。ベートーヴェンの「エロイカ」は、瑞々しい潤いのある質感で、ウィーン・フィルの特質がよく生きた音だと思う。相当感覚的に洗練された音で、ただ物理的に優れた音というようなものではないようだ。決してドライに響かず、常に柔軟さと輝き、艶を失わない音である。サン=サーンスの「オラトリオ」も魅力的で華麗で透明なソノリティながら、陰影のニュアンスにも富む再現だ。ヘレン・メリルはやさしさが加わりセンサブル。ジャズの力と熱っぽさを前面に押し出してくる音ではなく、瞬時に消える音の一つ一つが印象に残るような美音に感じられるのが興味深い。

マークレビンソン No. 27L

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

「ドゥムキー」のヴァイオリンは硬質透明で華麗な音色。もう少ししなやかで柔軟な質感が欲しいと感じた。ピアノは輝きのある自然な質感で、プレスラーのタッチがよく生きていた。合奏の表現はよく抑揚が生きて弾みもよい。ベートーヴェンの「エロイカ」も明るく透明な音色で、やや硬質なウィーン・フィル。細部の明瞭度は実に鮮やかに浮彫りになり、分解能が高いことが音に現われている。陰や濁りは全くないので、若干ニュアンスの微妙さやムードに欠ける音だ。隅々にまで照明が当りすぎるという感じの音なのである。サン=サーンスの「オラトリオ」も同じ傾向で、こうしたヨーロッパ特有の雰囲気を持ったソノリティ(教会での録音)には見透しがよすぎて、やや違和感がある。ヘレン・メリルの声は充実していて生き生きとした生命感が感じられ、ロン・カーターの躍動感のあるベースの力と弾みも見事。ジャズの方が、明らかにこのアンプに同質の音だと感じた。

ソニー CDP-R3

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 音の粒子が細かく、滑らかに磨き込まれた低域から中域と、聴感上で高域がゆるやかに下降したかのように聴きとれる、柔らかく、穏やかな帯域バランスをもつが、基本クォリティが高く、際立ちはしないが、聴き込むとナチュラルに切れ込む音の分離は相当なものだ。ロッシーニは、中高域に輝きのある硬質さが、時折顔を出すが、空間の拡がり感もあり、やはり価格に見合うだけのクォリティの高さは感じられる。Pトリオは、全体に低軟・高硬の2ウェイスピーカー的なまとまりとなり、一種のアンバランスの魅力があるまとまりといえるだろう。ブルックナーは、演奏会場の暗騒音もよく聴きとれ、一応の水準を保つ音だ。平衡出力は、全帯域にゆとりがあり、しなやかさが加わって、弦楽器系の硬質な音が解消され、見かけ上でのDレンジも大きく聴かれるが、高域は抑え気味。ジャズは、ライヴハウス的イメージの音で、音源が少し遠くなるが、適度なノリで、かなり楽しめる。

マイ・フェアリーオーディオ

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「Music Consolette 偶然の結晶を求めて」より

 白金台にある古い住宅街のはずれに、白い高層マンションがある。その十二階に彼女の部屋はあった。
 さきほどまで耳を圧していた都会の暗騒音は夜の闇に吸い取られたみたいにすっかり消え、濃紺の夜空に影絵のようにひろがる雑木林のシルエットがときおりふきぬける風にかすかにざわめく音しか聞こえなかった。
 エレベーターを十二階で降り、絨毯をしきつめた廊下を歩く。彼女の部屋は廊下のつきあたりにあった。
 2LDKのすっきりした部屋の中は、あからさまに女の子の部屋であることをしめす象徴的なものは何もなく、うまく冷たさと暖かさを均衡させた空間だった。
 板張のフロアーには寒色系の色をつかった精緻な幾何学模様が織りこまれたファブリックのソファが、弧を描くようにしてゆったりと置いてあり、北と西側の壁全体が窓になっている。大都会の夜が目の前に広がり、闇に浮かびあがるようにして見える東京タワーには昼間の姿とは違った美しさがあることに気付く。
 反対側の真っ白な壁には、シックなリトグラフが掛かっていた。
 彼女は翻訳の仕事をしながら、雑誌にエッセイや詩を書いているフリーランス・ライターだ。外交官を父にもついわゆる帰国子女だった彼女は、語学力をいかし大学大学中から翻訳の仕事をしていた。
 僕が知ってるのはその頃からの彼女だ。1941年、早春のウーズ河に身を投じ自殺した英国の女流作家、ヴァージニア・ウルフの著作The Waves『波』という作品が一番すきだという彼女。
象徴散文詩といわれる繊細であやうい詩的な世界を好む彼女は、まだ二十三歳になったばかり。ほっそりとした、やや背の高い女の子だ。以前から今様の即物的な価値観からは距離を置いたところにひっそりと潜行した、いわばミニマルマイノリティーな存在だった。
 リトグラフがかかった壁に接するもう一方の壁には、B&Oのウォール・ハンキングタイプのスピーカーが、まるでなにかの抽象絵画か彫刻のようにとりつけられていた。
 サイドボードの上には同じB&OのレシーバーとCDプレーヤーがあった。
 漆黒とクロームの面で構成された直線的で清潔なフォルムには一見、無機的で人工的な感じがあるけれど、なぜか柔らかな部屋の空気にも自然に溶け込んでいた。
 僕は部屋に入った時からその存在に気付いていたが、いったいどんな経緯でB&Oのシステムがこの部屋に収まることになったのか、あえて訊ねなかった。以前は、もっと大袈裟で神経質な音を出す装置があったはずなのだ。
 彼女もそれについて、いちいち説明や弁明をすることはなかった。
 テーブルの上には細長く精巧な感じのするリモコンが置いてある。彼女は華奢な腕をのばし、繊細な指つかいでそっとそのボタンに触れた。
 ほどよい音量で音楽が鳴りはじめる。
「ティム・ストーリーのグラス・グリーンというアルバムなの。飲み物は何がいい?」
 僕は水割りをもらうことにした。
「彼が先週ヨーロッパで買ってきたロイヤル・サリュートがあるんだけど、それでいいかしら?」
 僕は黙って頷いた。
 金属成分が多いクリスタルグラスの冷たい透明感が琥珀色な液体をきりっと引き締めるようにして包み込む。
 恐る恐る一口、舐めるようにして舌の上でころがしてみた。トロっとした絶妙の味わい。そして濃縮された税金の味がうっすらと喉に残った。
 彼の存在は僕もよく知っている。
 来月、カメラマンである彼の三冊目の写真集が発刊される予定だが、僕の手元にはすでに彼自身から送られた、その写真集があった。
「『写真なんていうのはね、見る人の皮膚や神経に現実的な存在感の印象をダイレクトに刻み込んでくれる。だから、無意識にものを眺めているときの視覚より鋭利に対象にくいこむんだ』たしか、そんな風に言ってたっけ」
 彼女を手に持ったグラスの氷をときおり細い指でつつきながら、そのことについてじっと考えていた。
「多分、ファインダーを通して眼に映ったものだけは彼の網膜で記号化され、きちんと記録されるのね……二進法の記憶」彼女はたしかそんな風に言った。
 僕は水割りをすすりながら、しばらく黙ってその事の意味を考えてみた。
 その時、彼の写真集の表紙になっていた北欧のとある風景が目に浮かび、スピーカーがかなでるティム・ストーリーのピアノの響きがそこに霞のようにひろがった。
 透明感を大切にした音造りには、儚い記憶のぬくもりを呼びさますような優しさや柔らかさが溶け込んでいて、それを音楽そのものがもつ孤独感、硬質な哀しみ、といった対立的な要素と、うまくつりあいをとっている。そんな微妙な陰影をぼかさないで、きちんと再生していた。
 無感動に飽和した質と量の偏った均衡より、彼女のB&Oが聴かせた知と情がやわらかく均衡した響きには、不思議な説得力があった。これは彼女が選んだ装置だ。
 その時、僕はそう確信した。
     *
今回のシステムは、厚さがわずか8cmのスピーカー、ベオラブ5000を中心に、レシーバーとして、B&O最新のベオマスター4500、CDプレーヤーはベオグラムCD4500を使用。どちらも操作はアクリルパネルに軽く触れるだけでよいが、リモコンでの操作も可能だ。ベオマスター4500は、FM/AMあわせてして20局までプリセット可能で、アンプ部のパワーは片チャンネル55W。このスピーカー出力を直接パワーアンプ内蔵(120W×2)のアクティブ型スピーカーであるベオラブ5000に接続する。一見パワーアンプがだぶるようだが、長い接続ケーブルの引き回しでも有利な点があり問題はない。なお、アナログプレーヤーのベオグラム4500とカセットデッキのベオコード4500も別にある。

ソニー CDP-X77ES

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 聴感上での帯域バランスを重視し、あまり広帯域のfレンジとせず巧みに総合的な音をまとめた印象が強い手堅いモデルだ。ロッシーニは、音の細部にこだわらず、素直なバランスの音を聴かせる。表情は真面目型で少し抑える傾向があるが、ややウォームアップ不足気味の音と思われる。Pトリオは、柔らかく線の細いピアノと硬質なヴァイオリン、線が太く硬さのあるチェロのバランスとなるが、金属的に響かないのが好ましい点だ。しかし、響きが薄く、厚みがいま一歩不足気味である。ブルックナーは、線が太く硬い鉛筆で描いたような一種の粗さがあり、演奏会場のかなり後ろの席で聴いたような音の遠さがある。平衡出力にすると、バランスは広帯域型に変り、全体に薄いが独特のクリアーさ、シャープさがある音になり、高域はむしろ透明感がかげりがちだ。ジャズは薄味の軽快指向型のまとまりで、表情が表面的になりやすく、低域の質感をどうまとめるかがポイントだ。

デンオン PMA-890DG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
柔らかく、しなやかな音を雰囲気よく聴かせるアンプだ。音場感はスピーカーの奥にやや引っ込んで広がり、音像はソフトにフワッと浮くタイプだ。低域は全体に軟調でソフトフォーカス気味にまとまり、中域から高域は少しメタリックで硬調に聴かせる。大編成の曲は散漫になりやすく、トゥッティでは混濁気味となる。

ブルメスター Model 878

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 輝かしく豊潤な音だが、繊細さには欠ける。とろっと脂ののった〝大とろ〟のような質感で、独特の魅力を感じるし、並のアンプにはないクォリティの高さをもっているとも思う。このアンプの真価は同社のコントロールアンプとのコンビで発揮されるものだと思う。パワー単独で聴くと若干大掴みで、濃やかさに不満が残るようだ。「ドゥムキー」のピアノは丸く太く輝かしく立派だが、弦が倍音ののりに欠けるので鈍くなる。力感に溢れた音だから、オーケストラの充実したサウンドは聴き応えのあるものだが、ウィーン・フィルのしなやかさと精緻さにはもっと繊細感がほしい。しかし、神経質で刺激的な音からは遠く、私の好みの音の範疇に入るものだ。太く艶っぽいヘレン・メリルの声は、彼女の豊かさをよく表現しているが、一方でハスキーな特徴が出ていない。いわば豊満な女体を連想させるような色艶には富んでいる。ベースも豊かだがやや鈍く重い。

デンオン PMA-890DG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
響きのたっぷりとした、軽く雰囲気の良い音が聴かれる。低域は柔らかく量感も充分にあるが、音色は軽いタイプで分解能は不足気味である。バランス的には、中域が薄くエネルギー感が少ないため、大編成の曲でのハーモニーは薄くなり、中高域の硬く、ややメタリックな面が強調される。小編成は聴きやすいが、突っ込み不足。

ソニー TA-F555ESG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
柔らかい低域は、ややエネルギー的に腰高にまとまり、線が細く硬く、整然と音を出す中域から高域が、まとまりの良い音を聴かせる。「レクイエム」のスッキリとしたプレゼンスは爽やかであり、演奏会場の空間の広がりがわかる音ではあるが、間接音を抑え気味に聴かせるこのペアの特徴がよく出た例といえるだろう。

オンキョー Integra A-701XG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
音を充分にコントロールして、柔らかく雰囲気の良い音を楽しむことを指向した音づくりのアンプであろう。アクティヴに適度の個性で音を楽しく聴かせるスピーカーとは相性が悪いようで、各プログラムソースは、嫌な音は出さないが表現がかなり間接的となり、録音上の個性が薄められ、聴きやすさはあるが楽しさをも抑え気味。

メリディアン 206

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 全体に各種プログラムソースを、ややクラシカルな個性的な自分の音として消化して聴かせる独特のキャラクターに注目したい製品。ロッシーニは、全体にナローオレンジで硬質な音にまとまり、情報量は少ないが、古いアナログディスク的な一面のある音とでも表現したい印象がある。Pトリオは、206の硬質な個性がよく出た明快なピアノとチェロがオーディオ的にわかりやすいコントラストを聴かせる。音場感は少し狭いタイプだ。ブルックナーは、音の輪郭をクッキリと聴かせる、かなり個性的なまとまりとなるが、一種の思い切りの良さが感じられるポイントを押えた音楽の聴かせ方は、再生音楽としてオーディオ的にこれならではの魅力を感じる向きもありそうだ。ジャズは、明快なクッキリとした音を描くまとまりである。聴き込めばブラスは薄く、ベースが小さく硬調となるが、余分な音を整理し、分離よく聴かせどころを巧みに残したような独特の個性は興味深い。

アキュフェーズ DP-11

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかく、軽く、爽やか指向の音を持つモデルであるが、音場感はフワッと柔らかい雰囲気にまとまる傾向があり、見通しの良さは平均的程度である。ロッシーニは爽やかで軽い音にまとまるが、中高域に独特の輝く個性があり、声の伸びやかさを抑え気味として聴かせ、空間の拡がりも不足気味。Pトリオは音色が暗く、暖色系となり、中域の表情が硬く、息つぎの音が少し誇張気味に感じられ、プレゼンスもあまり出ない。
 ブルックナーは予想よりも大掴みで、大味なまとまりとなり、低域に強調感がある。全体に力がなく、低域の輪郭の明瞭な特徴が活かせない。平衡出力は、空間の再現能力が高く、ホールの広さが感じられるようになる。低域の軟調描写傾向は残り、大太鼓はボケ気味で、弦楽器が全体に硬くなるが、全体のバランスは保たれている。プログラムソース全般に同一傾向があるが、再生システムとの、いわゆる相性のようでもある。