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ソニー XL-MC9

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ソニーの新MC型カートリッジシリーズの製品は、フレッシュなサウンドが魅力的なXL−MC7が、既に高い評価を受けているが、このシリーズのトップモデルとして、今回XL−MC9が開発された。
 XL−MC9は、伝統的な空芯8の字型コイルを採用する純粋なMC型力−トリッジで、分類的には、MC型としては高インピーダンス型に属するモデルである。
 振動系のカンチレバー材料には、ベリリュウムの表面にアモルファスダイヤモンドをコーティングした新素材が採用され、針先はスーパートラッキング針と名付けられたマイクロリッジタイプである。
 発電部は、磁気回路は独自の構造をもつ、発電効率の高いダブルリングマグネットを使った同極対向リング磁石型で、0・4mV・5cm/sec/45度の高い出力電圧を得ている。
 カートリッジボディは、アルミ削り出しの取付台採用、U字型バンド締め付けにより交換針ユニットは固定されており、針先交換はユニットを交換する方式である。
 最適針圧は、ソニーでは伝統的に1・5gを指示するが、今回のXL−MC9も1・5g±0・3gと発表されている。
 針圧とインサイドフォース・キャンセラーを1・5gとし、デンオンPRA2000Zのヘッドアンプを使って音を出す。プログラムソースは、ポップ系から始める。
 ナチュラルな帯域バランスと目鼻だちのクッキリとした明快な小気味のよい音だ。音場感は標準的に拡がり、音像の立ちかたはやや大きいが、輪郭はクッキリとしたタイプだ。音色には少し重い印象があり、表情がときおり抑えられるが、基本的にはキャラクターが少なく、よくできた製品と思われる。
 試みに針圧とIFCを1・75gに増す。帯域感が少しナロー型に変わるが、安定感が増し、音の芯がシッカリと聴かれ、音のエッジは適度の丸みをもってまとまり、ボーカルに附加されたエコーがタップリと響いて聴かれる。これまでは、金属系の重量のあるスタビライザーを併用していたが、これを取除いてみる。少し浮いた印象にはなるが、メリハリの効いた華やかな音に変わる。使いこなしによる音の変化は明瞭であり、音的には非常に興味深いものがある。
 プログラムをオーケストラに変えてみる。
 針圧1・5gでIFCも同じでスタートする。柔らかい低域ベースのサラリとしたある種類の硬質な魅力をもつ音だ。音場感的な奥行きも充分にあり、反応の速さが特徴ではあるが、少し表面的な傾向もある。
 針圧とIFCを1・75gに増す。低域の質感が向上し、厚みがある安定感が良い。中高域に少し輝きがあるが、程よく魅力的なアクセントだ。音場感の拡がりは標準的で、クォリティは充分に高いが、表情に少し冷たさがあるが、エージングでこなせそうな印象だ。JBLが逆相システムのため、試みに端子の±を逆にして聴いてみる。表情に和らぎがあり、プレゼンスの優れた良い雰囲気の音だ。バランス的に中高域に硬さは残すが、鮮度感に優れた見事な音である。針圧とIFCは、1・5gが最適で、1・75gとすると穏やかに過ぎる。