井上卓也
ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より
エレクトロ・アクースティックのカートリッジは、ステレオ用として初期から完成度が高いMM型の製品があり、米シュアーと双壁をなした存在であった。音色は、やや乾いたソりッドなものであるが、最近では、滑らかさ、柔らかさが加わり、現代的傾向が見られる。
STS655D4は、CD−4システム用のモデルで、音の粒子が微粒子型で滑らかさがある。低域はソフトで甘く、中低域あたりに間接音成分がタップリとつき、厚味はあまりないが、薄くしなやかで強調感がないナチュラルな暖かみがある。
STS555Eは、粒立ちが細かく、適度の帯域バランスが保たれた安定した音をもつが、低域が甘く、中域の密度が不足しがちで、音がピタリと決まらない面がある。表情はストレートで、やや素気なく、抑揚を抑える傾向がある。ヴォーカルは柔らかくゆとりはあるが、細身となり軽くなる。ピアノはキレイだが、やや実体感が乏しい。音場感は、柔らかな拡がりがあるが、音像定位はあまりクリアーではない。
STS455Eは、全体に柔らかく、甘い響きがあって、ゆったりとした雰囲気があるが、低域は甘く、悪くするとベトつく感じとなる。ヴォーカルは、適度にリアルさがある落着いた印象で、ピアノはスケール感豊かに響くが、いま少し明快さがほしい感じだ。性質はウェット型で、おだやかな良さがあるが、積極的な働きかけが、やや足りぬようだ。
STS355Eは、全体の音が引き締まり力強く明快に音を決めていく魅力がある。帯域バランスはよくコントロールされているが、上級モデルよりはレスポンスが狭い。粒立ちは粗いタイプだが適度に輝きがあり、破綻を示さずに音を鋭角的に処理をする。表現は線が太く骨太でラフな感じもあるが、力感があるため安定感につながるメリットがある。エレクトロ・アクースティックの製品中では、プログラムソースやコンポーネントシステムとの対応性の幅はもっとも広く、安心して使えるカートリッジである。
STS255−17は、音の粒子が上級モデルよりも粗くなり、聴感上のSN比が気になる場合もある。聴感上の帯域バランスは中域が充実した安定型だが、レスポンスはあまりワイド型ではない。低域はソリッドで腰は強いが、あまり伸びがなく、中域から中高域がやや硬調で骨太な感じがあり、艶が不足し乾いた感じだ。全体の音は、明快型でクリアーなタイプだが、ヴォーカルは、やや大柄でハスキー調になる。ピアノは、力はあるが、スケールが小さく硬質に輝く。クォリティは、この価格の平均的で、355系のジュニアモデルといった印象が強い。
STS155−17は、粒立ちはかなり粗く、粒子が大きいが、適度に磨かれた丸味があり刺激的にはならない。帯域バランスは、中低域にウェイトをおいたカマボコ型のレスポンスをもち、高域は低域よりも急峻に下がっているようだ。全体の音の響きに柔らかさがあり、豊かで柔らかい音に加え、スッキリした低音感も、高級品らしい。
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