瀬川冬樹
ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より
色でいえば薄ねずみ色を感じるような音。もう少し具体的にいえば、テストレコードの中の、ヴィヴァルディの協奏曲をヴェニス合奏団の演奏したエラート盤(36号120ページ参照)を鳴らしたとき、ヴェニスのあのどこまでも明るい澄み渡った空が、どんより曇ってしまったような、そんな感じの音に変ってしまう。おそらく物理特性的には周到にコントロールされたスピーカーであるらしいことが、たしかに聴きとれる。このメーカーのスピーカーは一貫して、耳ざわりなやかましい音を一切出さない方針のようで、中域を張らせずむしろおさえ込んだバランスに仕上っている。低音も共振がよくおさえられ、イヤな音を鳴らさない。音像定位の面でも、ややスピーカーの向うに引っこむ傾向だが、一応無難にひろがりと定位が聴きとれる。台の高さは50センチぐらいの高さの方が、分離もよい。つまり耳をいわば測定器的に働かせるかぎりでは欠点の少ない音なのだが、レコードにはもっと生きた鮮度の高い音、人間の情感が録音されている筈だ。
採点:73点
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