菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム/その他篇」より
SMEはイギリスのトーンアームの専門メーカーとして知られているが、その3文字のイニシャルはScale Model Equipmentからとられたように、元来は精密模型のメーカーとしてスタートしたらしい。社長のアイクマン氏が徹底したこだわりをもって作る精密工作を基本にしたものづくりの見事さは第一級の高級品と呼ぶにふさわしい精緻さをもっている。トーンアームの生命である感度の鋭敏さと共振の防止の二つのテーマは精密な機械加工仕上げが必須条件であり、これこそSMEが最も得意とするところである。トーンアームの上下方向の支えをナイフエッジ構造とし、左右回転方向はベアリング式としたSME3009とそのロングヴァージョンの3012によって、SMEはトーンアームのリファレンスを確立したのである。ヘッドシェルをチャック式で交換可能な形にしたのが、カートリッジとトーンアームを二分することから独特の趣味の発展を促進した。それまではカートリッジとトーンアームは一体として考えられ、まとめてピックアップと呼ばれていたのである。理想的には、カートリッジとトーンアームは一体として設計されるほうがよいが、SMEのシェル交換方式はオーディオの趣味としてのあり方にぴったりときたのであろう。またたく間に全世界に普及したのである。シェルの接点やネックの規格はSMEのものがそのまま世界の標準になったほどインパクトが強かった。そのSMEが最後の理想的な作品として開発した最高級トーンアームが、このシリーズVである。精密加工は新素材の採用でさらに困難に直面したが、見事にこれを克服してアナログ最後の銘器が誕生した。詳細は他に譲るが、それまでSMEが蓄積してきたトーンアームに関するノウハウを結集した傑作である。その徹底した機能構造と材質の高品位さが、そのまま美しいフォルムの造形として昇華した見事な作品である。カートリッジは半固定式となった……。
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