菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より
テクニクス・ブランドというのは、いまさらいうまでもなく、松下電器がオーディオ製品の本格派にだけ使うブランドとして誕生したものである。しかし、一時は大メーカーの節操のなさといおうか……このブランドが作ったイメージの良さを普及製品に大々的に使って、ナショナル・ブランドと差のないものにしてしまった。ここ20年間くらいのことだろうか……。かくしてオーディオという理想郷は消滅し、ただのファッショナブル電機産業と堕してしまったかの観がある。〝テクニクス〟がその本来の主旨を一貫して守り、それにふさわしい〝クォリティセールス〟の体質を築き上げていれば、いまのオーディオ業界もファンの質も違っていただろう。そうした意味で、このブランドの歩みは象徴的であった。同社の一般ブランドはナショナル、そして音響機器にはパナソニックを用いているが、そうした中でこの〝テクニクス〟は今後、本来のクォリティオーディオに使われるようになるらしい。それにしても松下は、長年オーディオの研究開発に終始一貫して真正面から取り組むメーカーであり、とっくに撤退してしまった他の大電機メーカーとは異なる。〝テクニクス〟が本格的なクォリティオーディオの象徴として新しい時代を築くことを信じている。このSE−A5000は、そうした背景の中で〝テクニクス〟を厳選したスペシャルブランドとすべく誕生したパワーアンプであって、プリアンプSU−C5000とペアを成すものである。多様化した現代のプログラムソースをコントロールする多目的プリアンプであるが、フォノイコライザーも持つ。それだけにその出力をパワードライブするSE−A5000の質へのこだわりにはテクニクス・ブランドに恥じないだけの内容を実現した。きわめて繊細な美しさを持つ音のマチエールは独特の魅力をもち、日本の製品ならではの精緻さといってよいもの。決して濃厚ではないが、透明でしなやかだ。
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