井上卓也
ステレオサウンド 99号(1991年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より
英国、ラウドスピーカー・テクノロジ一社のスピーカーシステムは、74年に創立された同社の当時の社名であるアコースティック・トランスデューサー・カンパニーの頭文字ATCをブランド名として、昨年からわが国にも輸入され始めた製品である。このATCの製品は、従来の英国スピーカーの枠を超えた、新しいスピーカーの流れとして注目されている。
昨年輸入されたモデルは、アンプ内蔵型の3ウェイシステムSCM100Aと、2ウェイシステムのパッシヴ型SCM20の2機種であるが、これに加えてLCネットワーク採用のSCM100と、3チャンネルアンプ内蔵型SCM50A、そしてLCネットワーク採用のSCM50が輸入されることになった。なおSCM50Aは前号の本誌で紹介済みなので、今回試聴をしたモデルは、ともにコンベンショナルなLCネットワークを採用したSCM100とSCM50である。
同社のモデルナンバーの数字は、エンクロージュアの内容積を示しており、50は、50ℓの意味だ。SCM100は、3チャンネルアンプ内蔵のSCM100Aを一般的なLCネットワーク採用としたもので、単純明快に、リアパネルにあるアンプ収納部にパッシヴ型ネットワークを組み込んだタイプである。バスレフ型のエンクロージュアは、現在の製品としては珍しく、バッフルが取り外せる設計で、使用材料は、ロスの多い柔らかい木材で、制動をかけた使い方である。使用ユニットは、当然SCM100と変らず、低域がSB75-314コーン型、中域がSM75-150ソフトドーム型、高域がSH25-100ポリエ
スチルドーム型である。低域と中域の型名で、SB、SMに続く数字はボイスコイル口径であり、続く3桁数字は、いわゆる口径を表わすが、中域はホーン開口径である。
ネットワークは、かなりグレードの高い素子を使った設計で、大型の空芯コイルと、これも大型のチューブラータイプのポリプロピレンコンデンサーの組合せである。これは3チャンネルのディバイダー組み込みのアンプを使うSCM100Aと同等のサウンドクォリティを保つための採用と思われるが、このネットワーク素子を重視する傾向は、タンノイの新スタジオシリーズにも近似したグレードのLC素子が採用されており、ヨーロッパ系スピーカーの新しい特徴として注目したいものである。
SCM50系は、SCM100系の特徴をより小型化したシステムで実現させた小型高密度設計に最大の特徴がある。ユニット構成の基本は、上級機SCM100系を受け継いだ3ウェイ構成で、高域と中域のユニットは同じであるが、低域ユニットは口径31cmのSB75-314から1サイズ小さい口径24cmのSB75-241に変更され、バスレフ型エンクロージュアの内容積を50ℓと半減させたために、外観から受ける印象はかなり凝縮した密度感の高いものとなり、オーディオ的に十分に魅力あるモデルだ。
最初の内は全体に軟調でコントラストの不足した反応の鈍い音であるが、約30分間ほど経過をすると、次第に目覚めたように音が立ちはじめ、それなりの反応を示しはじめる。基本的にはやや重く、力強い低域をベースとして、安定感のある中域に特徴がある重厚な音である。バランス的には、一体感がある低域と中域に比べると、高域に少し飽和感を感じるのは、SCM100Aと共通だが、聴感上でのSN比が高いのが、このモデルの最大の魅力のポイントである。かなり、ウォームアップが進むと、いかにも現代のモニターシステム的な情報量の多い音場感的な見通しの良さが聴かれるようになるが、音の表情は全体に抑制が効き、音離れが悪い面が若干あるため、ドライブアンプには駆動力が十分にあり反応の速いタイプが望まれる。最近のスピーカーシステムとしては、異例に密度感が高く、重厚で力強い音が聴けるこのシステムの魅力は非常に大きい。
SCM50は、25cm口径の低域の特徴を出した、個性的なバランスの昔である。低音感は十分にあるが、中低域の量感がやや抑え気味で、音場感的なプレゼンスはミニマムの水準である。この傾向は特に小音量時に目立ち、音量を上げると本領が発揮されるタイプだ。
弦楽器はしなやかで、パーカッシヴな音もナチュラルに再現し、ピアノの実体感も良く引き出す。安定しているSCM100に比べると、本機の場合はどうにかして思い通りに鳴らしてみたい、といった意欲にかられる挑戦し甲斐のあるモデルだ。
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