瀬川冬樹
ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より
●総合的な音質 見るからに精悍な外観と一脈通じる部分がある音質。いくぶん硬質ながら張りのある音で、明るくよく弾み、国産アンプにありがちな湿り気を感じさせずに、乾いた気持のよい切れ味を聴かせ、新しいポップミュージックにピントを合わせた作り方と解釈することができる。表示パワーは60Wと、このクラスとしては必ずしも大きくないものの、パワー相当の力は持っている。と同時に、基本的な音の質が緻密な力を感じさせるために、パワー感として不足はない。ただし「ニューベイビィ」のように桁外れのパワーを要求するレコードの場合、気持よくボリュウムを上げてゆくとクリップすることがある。なお、Aクラスに切替えると、音の硬質な部分が柔らげられ、ナイーヴな面を聴かせてくれるが、このアンプのもっているポップス志向の音質からいって、Aクラスの必要はあまり感じさせないだろう。
●カートリッジへの適応性 エムパイアなどに代表されるアメリカ系のカートリッジの持ち味をよく抽き出して聴かせる。反面、ヨーロッパ系のいくぶんウェットな、奥行きを感じさせるカートリッジの場合には、アンプで弱点を補うところまではゆかず、アンプの個性が上廻ってしまう。エラック794Eで傷みかげんのレコードをトレースすると、レコードの傷みを強調する傾向がある。
MCポジションでオルトフォンを使うのは無理なようで、ハムの混入する傾向のノイズがいくぶん耳につくとともに、MC30の音を甘くボカしてしまう。外附のトランスにした場合には、ノイズは減り実用上問題なく、音質にも張りが出てきて、楽しめる音がする。デンオンDL303の場合には、音質は相当良いが、ハム性のノイズが──特にボリュウムを上げた場合──いくぶん耳ざわり。
●スピーカーへの適応性 基本的に持っている音の明るさ、よく乾いた気持良さが、アルテック620Bカスタムをよく生かす。スピーカーをあまり選り好みしないアンプと想像できる。
●ファンクションおよび操作性 パネルの配置はやや独特で、ファンクションはかなり省略されているが、操作性は悪くない。トーンディフィートスイッチの表示は誤解しやすいと思う。アンプの両側にヒートシンクが露出して、それがこのアンプを独特な形に見せる要素になっているが、エッジの処理がいくぶん鋭く、うかつに手を触れたりすると怪我をしそう。一考を要する。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れは全くなく良好。
●総合的に 新しいポップミュージックを重点に聴くという明確な目的をもって選ぶかぎり、たいへんはっきりした方向づけを聴かせるアンプなので、選ぶ際のピントが合わせやすい。クラシックファンには必ずしも歓迎されないかもしれないが、ポップスファンにはこのアンプならではの明るく乾いた音が魅力で、楽しませてくれる。
チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:やや大(軽いハム混入)
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2-
9. ACプラグの極性による音の差:大
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