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モジュラー・ステレオのすべて

菅野沖彦

スイングジャーナル 8月号(1968年7月発行)
「モジュラー・ステレオのすべて」より

 ステレオ装置はこりだしたらきりがない。入りこんだが最後、泥沼の世界だともいわれる。そして、このことはとりもなおさず、楽しく深い趣味の世界と、その醍醐味を暗示している。しかし、ここにもう一つ泥沼にめりこむことを好まないレコード愛好家にとって、便利で、高性能の本格的再生装置をという希望にかなったシステムがある。その名はモジュラー・ステレオ。小さな身体に秘めた底力、場所もとらないし、出費も10万円ていどで、ハイファイが楽しめるというわけだ。モジュラー・ステレオとはなにか? 現在店頭をにぎわしているこの新しいタイプのステレオ装置にスポットをあててみよう。
 このところメーカー製ステレオ装置の中でめだって多くなったのがモジュラー・タイプといわれる小型装置である。小型装置というと、17cmそこそこのターンテーブルにプラスティック製の短いアームのついた安価な装置と一緒にされる危険がある、が、これはそれとはちがう。アンプ、プレイヤー部を一つのキャビネットに収めてコンパクトにまとめてあって、しかも本格的なステレオ装置としての機能を犠牲にしてはいない。ターンテーブルの大きさも25cm以上、30cmのものが中心で、トーンアームはほとんどパイプアームの本格派、そしてムービング・マグネット・タイプのカートリッジ(もちろんダイヤ針)を備えている。クリスタルや半導体タイプも一部ある。
 アンプ部はFMマルチプレックス・チューナー付の総合アンプで、トランジスタライズドで小型になってはいるものの、パワーは片チャンネルで10ワット以上、中には30ワット+30ワットという大出カのものもある
 スピーカーは小型ボックスに16cmか20cmクラスのウーハー(低音用)を基礎に高音用トゥイーターを加えた2ウェイが圧倒的。
 これがモジュラー・タイプといわれる装置の特徴ということになるのだが、他のタイプとのはっきりした区別となると、決定的な条件が見つからない。ほぼ同じタイプのものの中にも、アンプとプレイヤー部を独立させたものがあるが、これはどうもモジュラーとは呼ばないらしいのである。
 もともとモジュラー・タイプというのは、これといった厳格な規格があるわけではなく、タイプという表現のようにきわめて大ざっばなスタイルの表現語にすぎないようだ。だからメーカーによってはモジュラーという言葉を使わず、ハイイコンパクトステレオとかブックシェルフ・ステレオそして、マイクロセバレート等々……その表現は各社各様である。

モジュラー・タイプの条件
 このようなわけで、モジュラー・タイプというのは技術的規格ではなく、デザイン上の問題として考えるべきであろう。そこで、一応、ここに扱うモジュラー・タイプの条件をあげると次のようになる。
①プレイヤーとアンプは一つのケースに組み込まれていること。
②ターンテーブルの直径が小さくても25cmあって、トーン・アームやカートリッジが3グラム以下の針圧で安定にトレースするようなものを備えていること。
③アンプは小型化に有利なトランジスタ式で、やや能率の低いスピーカーを駆動するのに十分なパワー(片チャンネル10ワット以上)のものであること。
④独立した1組のハイ・ファイ・スピーカー・システムを備えていること。
 ①の条件がモジュラーの最大条件であるが、この条件にはかなってももっと安価な、あまりにも普及型で性能の低いものもあるため②以下の条件を付加しておいた。もともとこのモジュラーという言葉は、単位、基準という意味の単語モジュラールをひねって作ったものだと思うからサイズや性能が同じようでもプレイヤーとアンプが一つにまとまっていないものはこの範ちゅうからはずれるわけだろう。
 さて、それでは、実際にこのモジュラー・タイプのステレオはどんな使用目的に適し、再生音はどうで、使い勝手はどうか、ということになるのだが、個々のメーカーの製品によってあまりにも差があって一概にはいえない。具体的にはそれぞれの製品の紹介にゆずるが、中でも共通していえることは、あまりうるさいことをいわなければ、現代人の生活のアクセサリーとしては実に手頃なもので、適度に、メカニカルな興味の対象としても満足させてくれる要素があるし、アクセサリーとしてもデザイン的にハンディにまとまっている。大がかりでとりとめのない化物のような再生装置とちがって、リヴィング・ルームの調和をくずさないし、「これから鳴ってやるから真正面に座って静聴すべし!」といった威嚇的なところがないのもいい。
 室内での置き方にもヴァラエティを作りやすいので、小さな部屋でもなんとか収めることもできるという利点はたしかにあるのだが、現実にかなり困ることが一つある。それは、プレイヤーとアンプの一体となった、装置の心臓部の奥行である。これは小さいもので37.4cm、大きいものでは50cmちかいものまである。これは本格的な大型ターンテーブルをそなえ、長いトーン・アームをつけさらにアンプが組込まれているところからくる必要寸法で、これを小さくしては本来の機能面で性能が低下する。そこで、実際に一般の家で幅はともかく、これだけの奥行をもった手頃な棚があるだろうか? 蓋を開けると後方へさらに5cmぐらい出るから棚の奥行は42〜55cmを必要とする。また、本体はフラットで背丈が低いから別に脚が用意されているものでなければ床へジカに置くわけにはいかない。そうかといって上蓋を開けてレコードを演奏するものだから高い整理ダンスなどの上に置いては使えない。机の上などが最適だが、大抵の机は、これを置いてしまうとスペースは残り少く机としての機能は死ぬ。このへんが実際の住宅事情にもう一つぴったりこないところのようで、買ったはいいが意外に置き場所に苦労するということになりかねない。前もってこのことを念頭に入れて置き場所をよく考えてから購入する必要がある。
 肝心の音は、良い装置、悪い装置がいろいろ入り乱れて店頭にあるから、よく聴いて判断しなければならない。大きさから想像する音よりはかなり良いのに驚ろかされるだろう。これがモジュラーの特長である。

各メーカーのモジュラー・ステレオ製品
●サンヨー
オットー1 DC-434カスタム 125,000円
オットー2 DC-534デラックス 84,900円
 サンヨーの意欲的製品で、モジュラーのブームをつくった代表製品といってよい。オットー1より2のほうがスピーカーも小さく、アンプも小型、価格も安い。しかし音のバランスは2が、スケールの大きな音では1のほうが上のようである。
●ナショナル
メカニシア1 SC-120 110,000円
メカニシア2 SC-130 85,000円
メカニシア3 SC-125R 120,000円
 ナショナルのモジュラーの3機種は、いずれも音のまとまりのいいもので、どちらかというと派手な音。
 2、1、3の順に価格が高くなる。メカニシア3は話題のソリッドステイト・カートリッジを採用している。回転速度自動切替方式というレコードをのせるだけで33と45の回転が変るというアイディア豊富な新機構もあるが、45RPM盤などの演奏にはかえって不便。キャビネット、メカの仕上など三機種ともに美しい
●ビクター MSL-8 88,500円
 初の半導体カートリッジ採用のモジュラー。大変聴きよい、快よい音で、音づくりのうまさはさすがである。デザイン、仕上もこのタイプ中最高のものだと思う。
●コロムビア CMS-100 129,800円
 モジュラーの高級品。大変ぜいたくな設計で、マニア向けの製品だといえる。しかし、ここまでくると、いっそ大型装置のほうに気が傾く。各部の仕様はプロ級である。
●シャープ
白馬 GS-5500 64,800円
白馬 デラックスGS-5600 84,500円
 GS-5500はモジュラーの中では普及型で、カートリッジがセラミック。それなりにうまくまとめられた音で、音楽を聴き流すのにはまったく不満がない。GS-5600はモジュラーとしては標準品。つまり本格派だ。軽いタッチの美しい音色はやや人工的に過ぎるのが惜しい。
●トリオ MT-35 81,00円
     MT-55 89,900円
 この二機種はスピーカー・システムが共通である。歯切れのよいシャープな音はやや刺戟的。しかしプレイヤー、アンプの本体は、さすがに専門メーカーらしい手馴れた仕上げでまとめられている。ホワイト・ブロンズ仕上の丈夫な脚が別売りされている。
●パイオニア C-600 104,900円
 デザイン、仕上が大変よく、もっともユニークな製品。プレイヤー部は優秀で信頼性が十分。ソフトな音はやや迫力に欠ける。音に厚味がたりないのが人によっては物足りないだろう。
●コーラル VS-3000 73,800円
 唯一のオートチェンジャーつきモジュラーで、音楽をBGM的に聴き流すのがねらいだろう。音はやや鈍重だが、それだけに難がない。耳障りな音ではないので楽しめる。

 以上寸評は、各社のショールームで製品をみた印象をメモしたのだが大きく分けて二つの行き方があるのが感じられた。一つは小型装置としての音づくりを意識的にまとめたもの、他はオーソドックスに各パーツの性能に頼って全体のまとめということを意識的にはしていない傾向の製品である。前者を一般的とすれば、後者はマニア向きということになるだろう。前者の代表としてサンヨー、ビクターの製品が特に印象に残ったし、後者に属するものではトリオ、パイオニアの製品がよかった。