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アントレー EC-45

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 カートリッジ専門メーカーのアントレーからの新製品は、ユニ−クなコンセプトによる重針圧タイプの低インピーダンス型MC力−トリッジである。
 基本的構想は、軽針圧型独特の音場感情報の多いプレゼンスの良さと、重針圧型ならではの、彫りの深いリアルな音質とを両立させるために、まず、カンチレバー材料に一般的に使われる、軽量で剛性が高い特徴をもつ軽金属系のパイプを採用せず、ムクの軽金属棒とパイプを組み合わせて、これを3重構造としたカンチレバーを開発し、新しいサウンドの世界に挑戦しようというものである。
 具体的には、アルミパイプに、アルマイト処理をしたアルミのムク棒を入れ、基部をアルミパイプで補強したカンチレバーが、EC45の最大のポイントである。コイル部分は、0・04φ銅線を磁性体巻枠に巻いた低インピーダンス型で、サマリュウムコバルト磁石を採用した効率の高い磁気回路により、2・5Ωのインピーダンスで、0・25mV(1kHz・3・45cm/dyne・45度)の高出力を得ている。なお、針先は、バイタル型ソリッドダイヤ楕円針付。
 ボティ部分は、アルミダイキャスト製で、剛性が高く、軽量であり、表面はレザーペイント仕上げ、上部カバーは銀メッキが施してあるが、それぞれに適度な制動効果があり、材料独自の固有音を抑え、再生音のクォリティを確保している。
 マイクロSX8000IIシリーズのターンテーブルとSME3012R−PROの組合せで試聴する。定格針圧は、2・5g±0・6gのため、2・5gからスタートする。聴感上での帯域感は、両サイドを少し抑えた安定型で、低域は柔らかく豊か、中域はクッキリと音の芯がクリアーで、力感もあり、音像は輪郭がクッキリとしており、サラッとした淡白な表情が特徴だ。
 針圧の上限と下限での音をチェックし、インサイドフォースを検討した結果では、針圧、インサイド共に2・75gがベストサウンドだ。安定感があり、落着いた音の魅力が聴かれるが、低域の表現力の甘さと重針圧型ならではの、力強いリアルさが不足気味である。SME用のシールド線を、LC−OFC型から銅線に変え、昇圧をヘッドアンプから手もとにあったオルトフォンT2000にする。この変更で、音に厚みが加わり、緻密な印象も出てはくるが、再度、針圧やインサイドフォースを追込んでも、音場感的な情報量が不足気味だ。
 次に、水準器付のアントレーのヘッドシェルをテク二力のAT−LS13に変えてみる。標準的な、かなりオーソドックスな立派な音になった。やや、中域のキツさはあるが、針先のエージングが済めば、解決できそうな音である。昇圧トランスの置き場所を選び、トランスと置く台との間に敷く材料を選び、追込んでいくと、音質的にはかなりグレイドの高い、リアルなサウンドになり、重量級らしいリアリティの高い音と、適度に拡がる音場感と定位感がある安定したサウンドになった。
 かなり使いこなしは要求されるが、開発目標とした狙いは、音にも充分に現われ、アナログならではの魅力をもつ好製品だ。