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シーメンス Baden, ヴィソニック David 5000

黒田恭一

サウンドボーイ 10月号(1981年9月発行)
特集・「世界一周スピーカー・サウンドの旅」より

 シーメンスのBADENとヴィソニックのDAVID5000では、大きさも、それに価格も極端にちがうので、とても一緒くたに考えられないが、でも、ふたつとも、まぎれもなくドイツ出身のスピーカーであることが、一聴してわかる。その意味で、まことに特徴的である。ドイツのスピーカーをきくのであるからと、クラフトワークの『コンピューター・ワールド』とニナ・ハーゲンの『ウンバハーゲン』を中心に、ここではきいた。
 シーメンスのBADENできいたニナ・ハーゲンは、圧倒的というべきであろうか、なんともすさまじいものであった。ききてに迫る音のエネルギーの噴出には、きいていてたじろがざるをえなかった。このレコードは、これまでにもいろいろなスピーカーできいているが、それらと、ここでシーメンスのスピーカーできいたものとは、決定的にちがっていた。リズムのうちだす音の強さは、さて、なににたとえるべきであろう。鋼鉄のごとき強さとでもいうべきであろうか。
 クラフトワークのレコードできけた音についても、同じようなことがいえる。そうか、このグループはドイツのグループであったのだなと、あらためて思った。そういう音のきこえ方であった。音場的にかなりのひろがりは感じられたが、そのひろがった間をぎっしり強い音がつまっている感じであった。このスピーカーの音の力の示し方は、独自であるが、すばらしいと思った。
 ところが、たとえば、ハーブ・アルバートのレコードなどをきくと、たしかに音の輪郭をくっきりあいまいにせずに示すあたりはすばらしいのであるが、このレコードできけるはずの本来の軽快さやさわやかさからは、遠くへだたったものになっていた。どことなくPA的になっているとでもいうべきであろうか、微妙なニュアンスの感じとりにくいはがゆさをおぼえた。
 シーメンスのBADENというスピーカーの音の特徴は、あぶなげのない、そしてあいまいさのない、いうべきことをはっきりいいきったところにある。きいていて、すごいと思うし、それなり説得力もある。しかし、すべての音楽を、そしてすべてサウンドを、自分の方にひきつける強引さが、ときにうっとおしく感じられることもなくはないであろう。そういうことを含めて、たしかにドイツのスピーカーであると思わせる音をきかせたということになる。
 小さなDAVID5000についても、似たようなことがいえる。コマーシャルを真似て、DAVID5000は小さなドイツです──などといってみたくなる。小さな身体にエネルギーがみちみちているといった感じである。よくもこの小さな身体からこれだけダイナミックな音をだすものであると感心した。クラフトワークのレコードなどでも、音楽的特徴は、一応つつがなくききてに示した。なかなかたいしたものである。
 このDAVID5000の泣きどころは、声のようである。声が、概して、がさつきぎみであった。しかし、その一方で、ソリッドな音を、くずれをみせずに示しているのであるから、あまりないものねだり的なことはいいたくない気持である。
 いずれにしろ、シーメンスとヴィソニックで、ドイツの人が好むにちがいない音の力を堪能した。

ヴィソニック David 5000

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 ヴィソニック・ダヴィッド5000は、ミニスピーカーあるいはコンパクトスピーカーのジャンルに入る。デスクに置いて聴くもよし、壁につけて置けば結構低音感も味わえる。ダヴィッド50からすると、ずっと素直で自然になり、小口径の特質の生きた指向性のよさが、美しいステレオフォニックなプレゼンスを再現する。

Speaker System (Mini type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第31項・市販品をタイプ別に分類しながら(4) ミニスピーカーと小型ブックシェルフ」より

 たとえば書斎の片すみ、机の端や本棚のひと隅に、またダイニングルームや寝室に、あまり場所をとらずに置けるような、できるだけ小さなスピーカーが欲しい。しかし小型だからといって妥協せずにほどほどに良い音で聴きたい……。そんな欲求は、音楽の好きな人なら誰でも持っている。
 スピーカーをおそろしく小さく作った、という実績ではテクニクスのSB30(約18×10×13cm)が最も早い。けれど、音質や耐入力まで含めて、かなり音質にうるさい人をも納得させたのは、西独ヴィソニック社の〝ダヴィッド50〟の出現だった。その後、型番が502と改められ細部が改良され、また最近では5000になって外観も変ったが、約W17×H11×D10センチという小さな外寸からは想像していたよりも、はるかに堂々としてバランスの良い音が鳴り出すのを実際に耳にしたら、誰だってびっくりする。24畳あまりの広いリスニングルームに大型のスピーカーを置いて楽しんでいる私の友人は、その上にダヴィッド50(502)を置いて、知らん顔でこのチビのほうを鳴らして聴かせる。たいていの人が、しばらくのあいだそのことに気がつかないくらいの音がする。
 ダヴィッド5000とよく似た製品に、西独ブラウンのL100がある。しかしブラウンなら、これと価格のたいして違わないL200のほうが、大きさで無理をしていないだけ音に余裕が出てくる。ミニスピーカーのチャンピオンは、やはりダヴィッドだと私は思う。ちなみにダヴィッドの名は、巨人ゴリアテを見事に倒した例のダヴィデから名づけられている。
 ブラウンL300は、外径はL200の奥向きがわずかに増しただけだが、このサイズで3ウェイを収めた強力型で一聴の価値がある。ブラウンとヴィソニックは、ともに西独の製品特有の、カチッと引締まった気持のいい音がするが、どちらかといえばブラウンの音のほうがやや弾力的だ。
 これらの製品に音質の点ではおよばないが、おそらくいま世界最小のスピーカーは、フォステクス(日本)のG700だろう。またアイデンのCUBEは、アメリカ・オーラトーンを真似た正方形のサイコロ型で、これも場所をとらない点がおもしろい。ほかに国産の注目製品を左にあげておく。
 これら超小型スピーカーよりもひとまわりサイズを増して、そのかわり無理をせずにまとめた小型ブックシェルフの中に、いくつかおもしろい製品があって、もしスペースが許せば、超小型の意外性を別としてこちらのほうがやはり音の伸びが自然だ。
 ロジャース(英)のLS3/5Aは、英国BBCがモニターに採用しているだけあって、音のバランスが自然で、繊細な音の美しさでズバ抜けている。
 これよりさらに少々大きくなるが、国産のヤマハNS10M、その成功に刺激されて後を追ったダイヤトーン、オンキョー、デンオンはそれぞれに出来がいい。ヤマハとダイヤトーンがやや真面目な音。オンキョーとデンオンは弾みのある豊かな感じ。そしてこれらほど音をうるさく言わずに、食堂の片すみなどに気軽に設定する製品として、フォステクスのG11Nは目をつける価値がある。