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スタックス DA-80M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 のびのびと屈託のない印象で、すべての音を明るく鳴らす。その明るさとは、たとえていえば写真電球のフラッドタイプで一様に照らし出された光景に似て、いくぶん陰影を欠いた、どこかあっけらかんとした感じのにぎにぎしさがある。苦労知らずに育てられた坊やがはた目かまわず鷹揚にふるまっているような感じさえあって、もう少し音の微妙な陰影や繊細な質感が出てほしいとという感じを抱かせる。ただ、国産アンプによくありがちの、どこか抑えこみすぎたような表情の乏しい音にくらべれば、この萎縮した感じのないところは多とすべきだろうか。Aクラスにしては表示パワーも大きいが聴感上もかなり力があって、それがいっそう音の伸びを助けているのだろう。

スタックス SRA-12S + DA-80M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 組み合わせたSRA12Sは、コントロールアンプとしてよりは同社のヘッドフォン(スタックスではイヤースピーカーと呼んでいるが)の専用アンプとしての性格が濃いと思うし、価格的にみてもDA80M(2台)とはかなりバランスが違うようなので、本来は、DA80Mは別のコントロールアンプでとライブすることを考えているのではないだろうか。ただ、この両者の組合せで鳴らしてみると、いかにも屈託のないのびのびとした明るさ、一様にステージ前面に並列にせり出したような独特の音像の並び方、といった音の性格は一貫している。その意味で、音像のひとつひとつに、もう少し引きが欲しい。言いかえれば奥行き方向への立体感をもっと感じとりたい。また、シェフィールドのテルマ・ヒューストンの黒人独特の声の艶とか、ベーゼンドルファーの一種脂っこいトロリとした味わいなどを、どちらかといえば脂気をおさえて鳴らす傾向があった。

スタックス DA-80M

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ウォームトーン系の豊かで細やかな音をもつパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジはかなりナチュラルに伸びており、バランス的には、中低域が柔らかく量感が豊かで、中域は少し薄く、高域はわずかに上に向ってなだらかに下降するレスポンスに受けとれる。低域は甘く軟調傾向を示すが、M4よりも厚みはあるが音色はやや重く、暗いタイプである。中域は細やかだが、エネルギー感は不足ぎみで、粒立ちも甘いタイプである。LNP2Lの中域を+1、高域を+2に調整すると帯域バランスはかなり改善され、本来の細やかで伸びのあるウォームートン系の、響きの豊かなクォリティの高い音となる。

スタックス SRA-12S, DA-80, DA-80M

スタックスのコントロールアンプSRA12S、パワーアンプDA80、DA80Mの広告
(オーディオアクセサリー 8号掲載)

STAX

スタックス DA-80

岩崎千明

スイングジャーナル 10月号(1976年9月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 8月のまだ暑さの厳しい、ある日の昼下り、SJ試聴室にふと立寄った時、見なれぬブランドのパワー・アンプが眼に入った。〝Stax〟と小さく、しかし、鮮やかな文字がパイロット・ランプ以外に何もない、そのスッキリとしたパネルにあった。知る人ぞ知る個性派ナンバー・ワンのメーカー、スタックス・ブランドのアンプということで、大いにそそられ、聴きたくなったのも当然だろう。
 SJ試聴室の標準スピーカーJBLスタジオ・モニター4341が接続され、音溝に針を落してボリュームが上がると、響きが空間を満たした。その時のスリリングな興奮は、ちょっと口では言えないし、まして、こうして文字で表わすことなどできない。なんと言ったらよいのだろうか、まず4341が、JBLがこういう音で鳴ったことは今までに聴いたことがない。それは、やわらかな肌触わりの、しなやかな物腰の、品の良いサウンドであった。いわゆるJBLというイメージの、くっきりした鮮明度の高い強烈さといった、いままでの表現とまったく逆のものといえよう。だからといって、JBLらしさがなくなってしまった、というわけでは決してない。そうした、いかにもJBLサウンドという音が、さらにもっと昇華しつくされた時に達するに違いない、とでもいえるようなサウンドなのだ。まったく逆な方向からのアプローチであっても、それが極点に達すれば、反対側からの極点と一致するのではないだろうか。ちょっと地球の極点のように、南へ向っても北へ向っても、ひとまわりすれば極点で一致するのと同じ考え方で理解されようか。
 スタックスのアンプのサウンド・クォリティーを説明するのは、むづかしい。本当は今までになく素晴しい、といい切っても少しも誇張ではないが.それならば、どんなふうにいいのか。少なくとも、音溝のスクラッチ音が極端に静かになる。JBLのシステムで聴くと、レコードのスクラッチはきわめてはっきりと出てくるが、その同じスピーカーでありながら、スタックスのアンプでは、驚くほど耳障りにならなくなってしまう。さらに演奏者の音が、そのまわりの空間もろとも再現されるという感じで鳴ってくれる。ステージでの録音ならばそれは、良い音としての必要条件ともなるが、スタジオでのオンマイク録音においてでさえも、こうした演奏現場の音場空間がスピーカーを通して聴き手の前にリアルに表現される。優れた再生というものの重要なるファクターであるこうした音場再現性が、スタックスのこのパワーアンプDA80でははっきりと感じられる。もし聴きくらべることができる状態ならば、おそらくそうした事実は、誰もが非常にはっきりと感じとることができるのではないだろうか。それは、ちょっときざっぼい、言い方をすれば、再生音楽の限界の壁を越え得たといえる。または、生(なま)へ大きく一歩前進したともいえよう。
 さて、こうした、かってない未知の再生効果の衝撃的体験をしたときから、このアンプDA80は、私に新たなる可能性を提示し拡大してくれたのである。その製品の、オリジナリティーおよびクォリティーの高さは、スタックス・ブランドの最も誇りとするところであり、これはごく高いレベルのマニアの間でこそ常識となっているとはいうものの、「スタックス」というブランドは必らずしもよく知られているわけではない。だからSJ読者の中にも、このページの登場で初めて意識される方も多いことと思われる。スタックスは、国内オーディオ・メーカーの中でも、もっとも永いキャリアーと他に例のないユニークな技術とで知られる、今や世界にもまれになったコンデンサー・カートリッジとコンデンサー・スピーカーからそのスタートを切り、アーム、さらにヘッドフォン、そのためのアダプター・アンプと順次に作ってきて分野を序々に、しかし確実に拡げてきたのち、1年前に、パワー・アンプDA300を発表した。150/150ワットのA級アンプは、ごく一部のマニアの間で、話題になったが商品としては、高価格のため必らずしも大成功とまではいかなかったようだ。今回、このDA300を実用型として登場したのが、このDA80だ。しかし、DA80は、兄貴分たるDA300を、性能的にも再生品位の上でも一歩前進したといって差支えないようだ。AクラスDC構成アンプというその回路的な特長による技術的な優秀性だけが、決してそのすばらしさのすべてではないのだ。おそらくオーディオも商品としてもまた兄貴分DA300は、一歩を譲るに違いあるまい。