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タンノイ Cornetta(ステレオサウンド版)

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「マイ・ハンディクラフト タンノイ10″ユニット用コーナー・エンクロージュアをつくる」より

 完成したコーネッタのエンクロージュアには、295HPDとIIILZ MKIIの新旧2種のユニットを用意して試聴再確認をおこなうことにする。この場合、295HPDは、このユニットのデータを基準としてエンクロージュアが設計してあるため問題は少ないが、IIILZ MKIIについては、まったく振動系が異なるため、あくまでテストケースとして使用可能かがポイントになる。なお、IIILZ MKIIでは、低域に何らかのコントロールをする必要があるが、バスレフのポートの全面もしくは一部に吸音材を入れる方法か、板をポートの幅か高さに合わせてカットし、その量を調整する方法が考えられるが、今回は、ポート断面の半分に吸音材を入れた状態が、かなり好結果をしめした。
 295HPDをプロトタイプに入れると壁面を離れたフリースタンディンクの状態でも、低域から中低域にかけて量感が増し、中域が薄く聴える、いわゆるカブリをおこし、ネットワーク補正後でも、コーナー位置ではかなり低い周波数にウェイトをおいたバランスで、音としてはグレイドが高いものであったが、いわゆるタンノイの音のイメージとは、かなり異なった音である。
 最終モデルのコーネッタは、コーナー位置でオートグラフを想い出すバランスと音色を狙っただけに、低域が柔らかく量感があり、中域はわずかに薄く、高域が輝く、タンノイ的バランスの音である。しかし、ユニット自体がワイドレンジ型であるため、トータルの音は、柔らかく、キメが細かいソフトなものとなり、いわゆるタンノイの硬質な魅力とは、やや異なった現代型の音色である。この音はスケール感が大きく、コーナー型特有のピンポイント的なクリアーな音像定位と、充分に引きがある空間のパースペクティブを聴かせる特長があり、あきらかに、ブックシェルフ型エンクロージュア入りの295HPDとは、大きく次元が異なった別世界の音である。
 IIILZ MKIIにすると低域の伸びは抑えられるが低域はソリッドに引き締まり、中域が充実した密度が高く凝縮した音になり、タンノイ独得の高域が鮮やかに色どりをそえるバランスとなる。この音は、すでに存在しない旧き良きタンノイのみがもつ燻銀の渋さと、高貴な洗練さを感じさせる、しっとりとした輝きをもったものだ。まさしく、甦ったオートグラフの面影であり次から次へとレコードを聴き漁りたい誘惑にかられる、あの音である。
 カートリッジは、エレクトロ・アクースティックのSTS455Eや、オルトフォンのVMS20E、M15Eスーパーが柔らかく透明になるソフトでデリケートな音であり、オルトフォンのSPUシリーズが音のくまどりが鮮やかで密度が濃く格調の高い音となるが、とりわけSPU−Aが抜群の音である。アンプは、295HPDには50Wクラス以上のハイクォリティなソリッドステートタイプが現代的な伸ぴやかで粒立ちが細かい音で相応しく、IIILZ MKIIには、ソリッドステートタイプでも充分であるが、パワーアンプには、少なくとも30Wクラス以上の管球タイプを使うと磨きこまれたまろやかな、柔らかく拡がる音場空間をもった立派な音となって、素晴らしい音を聴かせる。

タンノイ Cornetta(ステレオサウンド版)

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「マイ・ハンディクラフト タンノイ10″ユニット用コーナー・エンクロージュアをつくる」より

 試聴は例により、ステレオサウンド試聴室でおこなうことにする。用意したスピーカーシステムは、今回の企画で製作した〝幻のコーネッタ〟、つまり、フロントホーン付コーナー・バスレフ型システムとコーナー・バスレフ型システム2機種で、それぞれ295HPDユニットが取り付けてある。また、これらのシステムとの比較用には、英タンノイのIIILZイン・キャビネットが2モデル用意された。一方はIIILZ MKII入りのシステムで、もう一方は英国では “CHEVENING” と呼ばれる295HPD入りのシステムである。
 試聴をはじめて最初に感じたことは、2種類の英タンノイのブックシェルフ型が、対照的な性質であることだ。
 まず、両者にはかなり出力音圧レベルの差がある。それぞれのユニットの実測データでも、295HPDが出力音圧レベル90dB、IIILZ MKII93dBと3dBの差があり、聴感上でかなりの差として出るのも当然であろう。それにしても、295HPDの出力音圧レベルは、平均的なブックシェルフ型システムと同じというのは、HPDになりユニットが大幅に改良されていることを物語るものだろう。
 第二には、IIILZが聴感上で低域が量的に不足し、バランスが高域側にスライドしているのと比較し、295HPDでは低域の上側あたりがやや盛り上がったような量感を感じさせ、高域にある種の輝きがあるため、いわゆるドンシャリ的な傾向を示す。しかし、質的にはIIILZ MKIIのほうが、いわゆるタンノイの魅力をもっているのはしかたがない。量的には少ないが、質的にはよく磨かれている。一方295HPDでは逆に、とくに低域が豊かになっているが、ややソフトフォーカス気味で、中域から中高域の滑らかさが、IIILZ MKIIにくらべ不足気味に聴こえる。
 次に、295HPDの入ったオリジナルシステムと、今回製作した2機種とでは、当然のことながらブックシェルフ型とフロアー型の間にある壁がいかに大きいかを物語るかのように、少なくとも比較の対象とはなりえない。同じユニットを使いながら、この差は車でいえば、ミニカーと2000c.c.クラス車との間にある、感覚的な差と比較できるものだ。まだく両者のスケール感は異なり、やはりフロアー型の魅力は、この、ゆったりとした、スケール感たっぷりの響きであろう。
 2種類のコーナー型システムは、フロアー型ならではの伸びやかな鳴り方をするが、予想以上に両者の間には差がある。
 フロントホーン付コーナー型は、低域がよく伸び、中低域あたりまでの量感が実に豊かであり、とても25cm型ユニットがこのシステムに入っているとは思われないほどである。また、高域はよく伸びて聴こえるが、中域の密度がやや不足し、中高域での爽やかさも少し物足りない。ただ、ステレオフォニックな音場感は、突然に部屋が広くなったように拡がり、特に前後方向のパースペクティブの再現では見事なものがある。音質はやや奥まって聴えるが、くつろいでスケール感のある音楽を楽しむには好適であろう。聴感上バランスではやや問題があるが、ステレオフォニックな拡がりの再現に優れている。
 一方、コーナー型では全体に線が細い音で、中域の厚みに欠けるために、ホーン付にくらべかなりエネルギーが不足して感じられる。いわゆるドンシャリ傾向が強い音であり、ステレオフォニックな拡がりも、とくに前後方向のパースペクティブな再現が不足し、音像は割合に、いわゆる横一列に並ぶタイプである。
 スピーカーシステムの構造としては、フロントホーンの有無だけの差であるが、フロントホーンの効果は、ステレオフォニックな空間の再現で両者の間に大幅な差をつけている。オーバーな表現をすれば、一度フロントホーン付のシステムを聴いてしまうと、ホーンのないシステムは聴く気にならなくなるといってよい。つまり、豊かさと貧しさの差なのだ。
 概略の試聴を終って、次には幻のコーネッタに的をしぼって聴き込むことにする。このシステムの低域側に片寄ったバランスを直すためには、高域のレベルを上げることがもっとも容易な方法であるが、実際にはもっともらしくバランスするが、必要な帯域では効果的ではなく、不要な部分が上がってしまうのだ。いろいろ手を加えてみても解決策は見出せない。次には仕方なく、ネットワークに手を加えることにする。
 狙いは、高域側の下を上昇させ、低域側の下を下降させことにある。合度&と来で決定した値にしたところ、トータルバランスは相当に変化し、鈍い表情が引き締まり、システムとしてのグレイドはかなり高くなる。しかし好みにもよろうが、ローエンドはやや締めたい感じである。方法は、バスレフポートをダンプするわけだが、これはかなり効果的で、ほぼ期待したような結果が得られた。補整をしたシステムは、ますますホーンなしのシステムとの格差が開き、ほぼ当初に目標とした音になったと思う。ここまでの試聴は、レベル、ロールオフとも0位置に合わせたままで、特別の調整はしていないことをつけくわえておきたい。
 このシステムに使用するアンプは、中域の密度が高く、中低域から低域にわたりソリッドで、クォリティが高いタイプが要求される。少なくとも、ソフトで耳ざわりのよいタイプは不適である。逆に、ストレートで元気のよいものも好ましくない。プリメインアンプでいえば、少なくとも80W+80Wクラスの高級機が必要であろう。