岩崎千明
ステレオサウンド 32号(1974年9月発行)
「AUDIO MY HANIECRAFT C・Wホーンシステムの制作と試聴記(下)」より
20cmフルレンジユニットとして、国内の中でもおそらく、一番高価な部類に入るであろうこのユニットは、非常に手の込んだコーン紙で、その品質管理などは大変なものだろう。このユニットは高音域において、このユニット自体の出し得る低音のマキシマムに充分マッチし得る高域を持つ。そのためにこのユニットは、普通の使い方では高音がかなり強調されている、と受けとめられており、BETA8の使い方の難しさ、ということばになって伝えられているといえよう。
すでにこのユニットに関しては、メーカー自身の「BL20D」という製品がある。それは今回作った2個付バックロードに対して、に対して、ユニット1個使用という点での相違点はあるにせよ、構造はきわめて似ているので、このシステムでの場合にも当然良い結果が得られるだろうと予測される。
今回の場合、2個のユニットを使用したことで高域のやかましさと一口に言われる音域上のバランスが抑えられたことは事実だ。より好ましい状態に鳴ってくれたといえよう。しかし、それでもなお、今日ここで聴いた中では6kHzから10kHzの高域において非常に鮮かさが目立つ。この鮮かさに対比される低域は、デュアル・バックロードホーンにより非常に豊かな力量感をもち、さらに質的にシャープさをも充分に加え、立上りの良い、切れ味の鋭い、しかも雄大なスケールを再現する低音といったところで、その点ベストだ。
しかし、全体の音のバランスという点からいえばやや高い音の鋭さが気になる。それは「鮮かさ」という点ではプラスであるにしろ、鋭さという形で感じられてしまう。だからユニット前面にパンチングメタルとかフォームラバーの塊による、ディフューザーを付加し、高域のエネルギーを拡散させるのが有効だ。アンプのトーンコントロールを操作するよりも音響的に処理する方が優れたバランスを得られるのではなかろうか。高域の鮮鋭さに対して、中音域での豊かさがちょっと物足りなく感じられ、どうも低音の豊かな冴えた雄大な感じを生かしきれず、もどかしさを感じさせてしまう。いわゆるアンプの中域を上げると、このユニットの持つ中高域の鮮かさを助長させてしまうので、中域を上げるというよりも、中低域を上げるというほうが望ましい。さらに中低域でも低音に類する中低域ではなく、中音に近い中低域、周波数でいうとたとえば300Hzから600Hzまでのオクターブぐらいの音をうまく強められるとすれば、より高いクォリティを望めよう。低音の豊かさが印象的なだけによけいそれを感じさせる。
これは前記のような使い方での改善が期待できるという結論するのが大変なだけに、充分に使いこみ馴らすことが大切であろう。
音のひとつひとつの質的なものが非常に高く、国内のユニットの中では特にバックロードホーンに適しているだけに、バランス的なプラスα(アルファ)が欲しいと感じさせてしまう。それを完成させた結果においては、かのJBLの持っている良さを凌ぐかもしれない。またはエレクトロボイスSP8Bの持っている良さと共通している優秀性ともいえるだろうか。
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