井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
管球式のアンプは、真空管という優れた増幅素子のおかげで、少ない増幅段数でそれなりに優れたアンプを完成することができる。そのため、趣味的な製品をこつこつと手作りでつくるタイプの作り方が、もっとも相応しいように思われる。
ソリッドステートアンプのように構成部品数が莫大な量になれば、安定度の高いアンプを作るとなれば、生産性を考えなくても、必然的にプリント基板のお世話にならなければならない。けれども、プリント基板そのものが、優れたアンプを作るうえで、音質上での足を引っ張る存在にもなっている。
一般的にプリント基板の問題点として直流抵抗があげられるが、銅箔の厚みを30ミクロンとしても、パターン幅を6・5mm程度とすれば、φ0・5mmの銅線の断面積と等しくなり、70ミクロンなら3mm強の幅で等価的になるわけで、想像ほどに悪くはないのである。
むしろ、振動と音質の相関性から考えれば、ある程度の面積があるプリント基板そのものが、内外の振動により共振することのほうが問題であるはずだ。この振動が基板上に取りつけられた多数の部品を動かしたら、かなりのデメリットが出ることが予想されるだろう。この点、管球式なら基板レスの配線は手数をかければ可能であり、充分に厚みがあるベーク板などに配線用ポストを立てて基板的な特徴を活かすことも可能だ。
エアータイトは、6CA7プッシュプルのATM1を第一弾製品としたメーカーであるが、今回の製品も管球アンプで一世を風靡したメーカーで活躍した実績のあるオーナーの体験を活かした開発によるもの。管球アンプならではの音が楽しめながら、それなりの価格に抑えた製品づくりは、すでにある種の定評を獲得しているように思われる。
今回第二弾のパワーアンプとして開発されたATM2は、パワーステージにKT88をプッシュブルで採用したステレオ構成の新製品である。フロント側シャーシ前面と背面に2系統の入力端子を備え、入力切替スイッチとボリュウムコントロールで、パワーアンプ単体でも使える最低の機能を持たせ、単独使用ができる基本構成は、ATM1と変わらぬポリシーの現れだ。
SS試聴室のリファレンスCDプレーヤー、ソニーR1の出力をATM2の前面入力に入れる。試聴前にスタティックには予熱を充分にしてあるが、信号を加えるとダイナミックなウォームアップが始まり、ほぼ30分間もすれば安定状態になり、ATM2本来の音が次第に聴きとれるようになる。
柔らかく、豊かな雰囲気を管球アンプの音としがちだが、ATM2は、やや線は太いが、力感に裏付けされた押し出しのよい、ざっくりした音を聴かせる。最新アンプの音をナイロン的な滑らかさとすれば、ATM2の音は、いわば麻ならではの粗い質感がたいへん魅力的である。
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