ヤマハ B-3

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 軽快で伸びやかな、フレッシュな音をもつパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジは、現代アンプらしいナチュラルなワイドレンジ型で、音の粒子は細かく滑らかに磨き込まれており、バランス的にはフラットレスポンスタイプであるが、中域の密度は少し薄い印象がある。音色は、軽く明るく滑らかであり、音の反応が早く、伸びやかに活き活きとした音を聴かせる。
 ステレオフォニックな音場感は、左右方向にも前後方向のパースペクティブをもよく広げて聴かせ、音像定位もナチュラルであるが、スケール感はやや小さく、音場が箱庭的な精緻さで再現される傾向がある。

アキュフェーズ C-220 + M-60

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 C200SとP300Sの組合せが一聴して音の切れこみや鮮明さを際立たせたのに対して、C220とM60(×2)の組合せは、アキュフェーズがもともと目ざしていた音のまろやかさ、あるいは機械臭さや電気臭さのないよくこなれた上品な音、という方向に仕上っている。「オテロ」のフォルティシモでも、音がわめくような荒々しい感じが少なく、しかし十分に底力を感じさせる充実した音がする。欲をいえば重低音の厚みがもう少し欲しい気はするが。また、これはM60の特徴だが、音像をいくぶんオフぎみに、どちらかといえば奥の方に定位させる傾向はC220との組合せでも変らない。ヴォーカルの場合には、歌い手の声帯のしめり気を感じさせるような、音の潤いはとても好ましい。300Wというパワーを露骨に感じさせないようないくぶんスタティックな印象があるが、音の上品さとあいまって、音楽ファンを十分に満足させるだろう。調子が出るまでにはいくらか時間のかかるタイプのようだ。

ビクター M-7070

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 シャープで立ち上りの早い、反応の早い音が特長のパワーアンプである。
 トータルバランスやエネルギーバランスの面では、EQ7070よりも、むしろこのM7070のほうが一段と優れており、120Wの定格パワーから予想した音よりも、充分にパワーの余裕を感じさせる音である。バランス的にはフラットレスポンス型で、音色は低域から高域に渡ってよくコントロールされた、明るく軽く、細やかなタイプで、音の表情も活き活きとし、鮮度が高い爽やかな音を聴かせる。ステレオフォニックな音場感は、ナチュラルに広い空間を感じさせるタイプで、音像の立ち方もクリアーで、実体感がある。

アキュフェーズ C-200S + P-300S

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 内容に多少の手が加えられてSタイプと名前が変ったにしても、すでに発売以来5年を経過するのだから、内外を通じても最も寿命の長い製品で、まして変転の激しいセパレート型アンプの中ではきわめて稀な好例といえ、こういう製品づくりの姿勢には心から拍手を送りたい。さて当初のC200+P300の音は、いわゆるトランジスター臭を極力避けたかのように注意深く練り上げられながらも、こんにちの時点ではいささか音の粒の粗さと解像力の甘さが感じられたが、今回の改良で音は一変して新鮮味を加え、とても切れこみの良い、音の輪郭もディテールも鮮明な現代ふうのアンプに変身した。おそらく改良の意図も解像力の向上にあったと思われるが、例えばアメリンクの声などで、歌の表現の抑揚がごくわずかだが大ぶりになりがち。あるいは「サイド・バイ・サイド3」のギターのコードもやや際立つなど、高域にかなりアクセントがあるようだ。また低音ではリズムを幾分重く聴かせる傾向も聴きとれた。

ビクター M-3030

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 低域ベースの安定した、かなり活気のある音をもつパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジは、豊かな低域をベースとした安定感のあるバランスで、高域もハイエンドは少し抑え気味の印象を受ける。低域の音色は、豊かで柔らかく重いタイプで、重心の低いズシッとしたエネルギー感があり、中域は、量的には充分なものがあるが、音の粒子がやや粗粒子型で、滑らかに磨かれてはいるが、引き締ったクリアーさでは今一歩という感じがする。カートリッジは、4000D/IIIや881Sよりも、ピカリング系のソリッドで輝きがあり、クォリティの高いタイプがマッチしそうで、アンプ本来の特長が活かせるだろう。

トリオ L-07M

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 安定感のあるソリッドで、かなりタイトな音をもつパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジは、ローエンドとハイエンドを少しシャープに落したような印象があり、このためか、中域が量的にタップリとあり、張り出した活気のある音となっている。バランス的には、低域の音色はやや柔らかく甘く暗いタイプで、反応は少し遅いが安定感は充分にある。中域は寒色系の硬質な音で、とかくなめらかで細かいが中域が薄く充実感に欠けがちの最近のパワーアンプのなかでは、このパワーアンプのソリッドさは、一種の割り切った魅力にも受け取れる。音の表情は、L07Cよりも伸びやかさがあり、反応も一段と早いようだ。

トリオ L-05M

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 同じモノ構成のパワーアンプL07Mと比較すると、音の伸びやかさが一段と加わった、滑らかで細かい音がこのパワーアンプの魅力である。聴感上での周波数レンジはかなりナチュラルに伸びており、バランス的には中域が少し薄く、低域は豊かで柔らかい。音の粒子は細かく、よく磨かれていて、細やかなニュアンスの表現や、表情の伸びやかさをかなり引き出して聴かせる。
 ステレオフォニックな音場感は、左右にもよく広がり、前後方向のパースペクティブをもナチュラルに聴かせるが、音源は少し距離感を感じるタイプで、左右のスピーカー間の少し奥まったところに広がる。音像はソフトで適度なまとまりと思う。

テクニクス SE-A1 (Technics A1)

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 スケール感の大きな、ゆとりが感じられるパワーアンプである。音の細やかな表現や、情報量の豊かさがベースとなるステレオフォニックな音場感の再現性では、コントロールアンプA2のほうが一枚上手のようである。音色は軽く柔らかく滑らかなタイプであり、ゆとりがタップリとあるために、スケール感の非常に豊かな音を聴かせる。表現はおだやかでやや間接的な傾向があり、マクロ的に音を外側から枠取りを大きく掴んで聴かせる特長があり、バランス的には、中域の密度がやや薄く、中高域あたりには少し音の粒子が粗粒子型で、柔らかく磨いてあるのが感じられる。おおらかで安定した音は、ハイパワーアンプならではのものだろう。

私の推奨するセパレートアンプ

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 94機種プラス46組合せと、合計140回。それに1機種ごとにリファレンスを念のために聴き、また実際に試聴はしたが種々の事情で掲載されない10機を加えると、ざっと300機種ぶんほど聴いた計算になるが、これだけ数多く聴いた中で、試聴後もあえてメモをみなくてもその音をはっきり思いだせるようなアンプが、ほんとうの意味で優秀な製品といえるにちがいない。しかし機種名を聞いてとっさに音が思い浮かばなくても、メモを参照すると、あ、そうだとたちどころにその音を思いだせる程度のアンプなら、一応の合格機種ということになりそうで、その線までは一応の水準と考えた。もっとも、あまりにもひどい音がして忘れないというアンプも中にはあるから、音を憶えているということが必ずしも基準にはなりえないが。
     *
■同一メーカーの組合せによる推薦機種
 別表の①から⑨までは国産、⑩から⑲までは海外の、それぞれ同一メーカーどおしの組合せ(⑪のみ例外)をまずあげる。
 ①から③までは、その音質はもちろん、外観や仕上げの良さ、コントロール機能に至るまで、それぞれに水準以上のできばえで、いわば特選クラスといえる。ただし①のラックスは、私か実際に入手するとしたら、トーンコントロールアンプ5F70を必ず追加したいところだ。
 次の④から⑥までの三機種は、音質という面ではそれぞれのよさはあっても、①から③までのようなどこからみてもスキのない完成度の高さまでには至っていない。たとえば④のアキュフェーズは、デザイン面と、コントロールアンプがあまりにもシンプルで実際の使用に際してはときとして機能上に不満を感じることがあるだろう。⑤のオンキョーも機能的に省略しすぎて、少なくとも私には、トーンコントロールやフィルターが、ごく簡素なものでいいから欲しいし、それなりに出てくる音優雅さにくらべて、外観が失礼ながら野暮すぎる。その点⑥はさすがラックスで、デザインには不満は全くないが,やはりファンクションが少々不足であることと、音がいくらか甘口なのでその点使用者の感覚とピントが合わないと理解されにくい。
 ⑦はやや硬調ぎみだが音楽の表現力、彫りの深い表現がとても好ましい。調子の出るまでにかなり時間のかかる点は使いこなし上の注意点だ。しかしコントロールアンプのデザイン(というより仕上げや色あい)は、誰にすめても嫌われるので、この点がややマイナスポイントという次第。
 ⑧はデザインも音質もトータルにバランスがとれて、中庸をおさえたおとなの風格を持っていて、製品としての完成度は最上位のグループにひけをとらないが、音質の面でこれならではという魅力をわずかに欠くという点で特選とまではゆかないが、反面、あまり個性の強い音を嫌う向きには喜ばれるだろう。
 その点では⑨にも同じことがいえる。ただし、外観が少々メカ志向であること、ファンクションが私には少々ものたりないことで、やはり上位には入らない。
     *
 海外製品に移ると、⑩のおそろしく透明度と品位の高い、しかしやややせ型の音質と、⑪透明感でわずかに劣るが⑩にはない音の厚みと豊かさをとるか、の違いはあるが、ともに私自身がこんにちの世界中のアンプの中でベストに入れたい組合せだ。
 ⑫はそれとは全く逆に、書斎やベッドルームや、またオーディオマニアでない愛好家のインテリアを重視した部屋などで、出しゃばらず場所をとらず、いつまで飽きずに使えるアンプとして、やはり存在価値が高い。
 ⑬から⑮までは、トータルバランスのよさ、そしてグレイドの高いハイパワーアンプでしか聴くことのできない充実感と安定感が、それぞれに音のニュアンスを異にするもののいずれも見事なバランスに支えられて好ましい。
 ⑯のマッキントッシュは、⑭のGASと共に必ずしも私個人の好みとは違うが、この豪華な味わいはほかのメーカーの製品からは決して得られない。
 ⑰と⑱は、スリムで簡潔な作りの、最近のアメリカのセパレートタイプのひとつの傾向の中で、バランスよく手際よくまとめられた手ごろな製品で、ともに肩ひじの張らない音のよさが見陸だ。
 ⑲は、この仕上げの粗さが必ずしも私の好みではないが、内容本位という点で、ローコストであることを前提にその割には良い音、という意味であげた。

■コントロールアンプ単体
 ❶のML1Lについては改めていうまでもない最上の音質。ただ、実際に使ってみて私にはやはりトーンコントロールのないのがちょっぴり不満になる。
 ❷は設計がアメリカ、製造が日本で、そのためにかなりローコストだが、価格以上の音質で、仕上げもよく、機能も充実して、コントロールアンプによいものの少ない現時点では、注目してよい製品。
 ❸のハフラーはメーカーとしては新顔だが豊富な体験を持つヴェテランの作品らしく、簡潔な手際よいまとめかたで、仕上げはまあまあだが輸入品としては安いという点が魅力。
 ❹から❻までは、コントロールファンクションが省略されすぎているが、最近の海外のソリッドステート技術のいわゆる反応の鋭敏さがそれぞれの音質の良さを支えている。
 ❼はコントロールアンプ唯一の国産品だが、パワーアンプとの組合せで示さないのは、同じシリーズどおしでは少々音がブライトすぎるように思われるので、もう少し穏やかなパワーアンプと組合せることを前提に、時間がなくて試みれなかったが、案外後出のダイナコの管球パワーアンプなど、おもしろいのではないかという気がした。

■パワーアンプ単体
 ❽と❾は、ともに数少ないヨーロッパ製のアンプだが、その繊細な品の良さ、滑らかでことにクラシック系の弦や声を鳴らすときのほどよい艶のある美しさと、やややせぎすながら立体的な彫りの深さはとても魅力的で、いずれもすばらしいパワーアンプだ。
 ❿はプロ用として入力回路が平衡型低インピーダンスになっているので使用上の注意が必要だが、内容は❽をプロ用としてモディファイした製品で、いくぶん硬質だが支えのしっかりした骨太の安定感のある音は独特だ。
 ⓫から⓰までは、国産の、それぞれによくできていると思われる製品を列挙した。これらはすべて、ペアとなるコントロールアンプとともに企画されている製品ばかりだが、あえてパワーアンプ単体だけをあげたは、裏がえしていえばペアとなるべきコントロールアンプの完成度が、それぞれのパワーアンプのレベルまで達していないと思えたからだ。その意味では、これらをより一層生かす、或いは持てる能力を100%抽き出すコントロールアンプが、それぞれに欲しくなる。ただ、⓬のパイオニアM25は、バランスを無視すればエクスクルーシヴC3があり、⓭のラックスM12は5C50が、またアキュフェーズはC220が、それぞれにあり、同じメーカーの中に良いコントロールアンプがある。もちろん他のメーカーの優秀製品と組合せることは一向に差し支えない。⓰についてはコントロールアンプの❼のところで書いた事を繰り返しておく。
 ⓱から⓳までの3機種は、アメリカ製の、それぞれに性格のかなり強いパワーアンプで、中ではダイナコ/マークVIの、いささか反応が遅いがすばらしく豊かで暖かい音がいまだに耳に残っている。解像力の良いコントロールアンプと組合せたときに音が生きてくる。⓲のDBシステムズと⓳のスレシュオールドは、ともにコントロールアンプがあるが、同一メーカーどおしで組合せない方がその個性が生かされそうに思って、別々にあげた。

国産/組合せ特選機種
①ラックス 5C50+5M21
②エクスクルーシヴ Exclusive C3+Exclusive M4
③ヤマハ C-2+B-3

国産/組合せ準特選機種
④アキュフェーズ C-220+M-60 (×2)
⑤オンキョー Integra P-303+Integra M-505
⑥ ラックス CL32+MB3045(×2)

国産/組合せ推薦機種
⑦トリオ L07C+L-05M (×2)
⑧デンオン PRA-1001+POA-1001
⑨テクニクス SU-9070 II+SE-9060 II

海外/組合せ特選機種
⑩マーク・レビンソン LNP-2L+ML-2L (×2)
⑪マーク・レビンソン LNP-2L+SAE Mark 2600
⑫QUAD 33+303

海外/組合せ準特選機種
⑬アムクロン IC150A+DC300A IOC
⑭GAS ThaedraII+AmpzillaII
⑮マランツ model P3600+Model P510M

海外/組合せ推薦機種
⑯マッキントッシュ C32+MC2205
⑰GAS Thalia+Grandson
⑱スレシュオールド NS10custom+CAS1custom
⑲スペクトロアコースティック Model 217+Model 202

コントロールアンプ特選機種
❶マーク・レビンソン ML-1L
❷マランツ Model 3250
❸ハフラー DH-101

コントロールアンプ準特選機種
❹AGI Model 511
❺DBシステムズ DB-1
❻オーディオ・オブ・オレゴン BT2
❼ビクター EQ-7070

海外/パワーアンプ特選機種
❽ルボックス A740
❾QUAD 405
❿スチューダー A68

パワーアンプ推薦機種
⓫Lo-D HMA-9500
⓬パイオニア M-25
⓭ラックス M-12
⓮サンスイ BA-2000
⓯アキュフェーズ P-300S
⓰ビクター M-7070 (×2)
⓱ダイナコ Mark VI (×2)
⓲DBシステムズ DB-6
⓳スレシュオールド 400A custom

テクニクス SE-9060II (Technics 60AII)

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 かなり国内製品のパワーアンプとしては平均的な性格をもった、オーソドックスな音である。聴感上での周波数レンジは、ローエンドとハイエンドを少し抑えたナチュラルなバランスであり、音色は均一で軽く、やや明るいソフトなタイプで、低域もあまり柔らかくなりすぎないのが特長である。バランス的には、中域は量的には充分のものがあるが、エネルギー感としては不足気味で音が伸びず、頭を抑えられた印象の音となる。リファレンスコントロールアンプLNP2Lの特長を引き出して聴かせることができず、あまり音の反応が早くなく、本来のペアの魅力が出ないが、このクラスのセパレート型アンプとしては、これが本当だろう。

スタックス DA-80M

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ウォームトーン系の豊かで細やかな音をもつパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジはかなりナチュラルに伸びており、バランス的には、中低域が柔らかく量感が豊かで、中域は少し薄く、高域はわずかに上に向ってなだらかに下降するレスポンスに受けとれる。低域は甘く軟調傾向を示すが、M4よりも厚みはあるが音色はやや重く、暗いタイプである。中域は細やかだが、エネルギー感は不足ぎみで、粒立ちも甘いタイプである。LNP2Lの中域を+1、高域を+2に調整すると帯域バランスはかなり改善され、本来の細やかで伸びのあるウォームートン系の、響きの豊かなクォリティの高い音となる。

ソニー TA-N7B

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 おだやかな、寒色系のクリアーな音をもつパワーアンプである。聴感上での周波数レンジは、組合せで予想したよりもナローレンジ型となり、低域は重くおだやか型、中低域はやや薄く、中域から中高域はソリッドで硬質な面があり、高弦では輝きが過剰気味に再生される。音の表現はかなりマジメ型で、表情を抑える傾向があり、音の反応も早さと遅さがあってバランスが悪くなるが、リファレンスコントロールアンプLNP2L,またスピーカーシステムの4343と、かなりミスマッチの印象が強い。やはり本来のN7BのペアコントロールアンプはE7Bであり、トータルバランスは数段優れていると思う。

ヒアリングテストのポイント

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

聴き手の心を音楽にむかってふくらませるかどうか
●ヒアリングテストのポイント

 アンプの比較試聴を永年くりかえしてきて、ここ数年間で以前とはっきり違ってきた点が二つある。
  第一は、アンプの性能の限りない向上によって、現時点ではもはや、切換回路を通してスイッチで切換えたのではアンプ個々の微妙な音質の差が正しく掴めなくなっていること。第二に、アンプによってはスイッチを入れて音が鳴りはじめてから動作が安定状態に入るまでの一~二時間のあいだに、ごく微妙ではあっても音質の次第に変化するものが増えてきたこと。
 とうぜん、切換スイッチに何台か同時に接続して一斉に電源を入れて、はい聴きましょうといった単純な比較では、もはや個々の音の性格を正しく掴みとれなくなっている。
 本誌ではすでに数年前から切換スイッチの使用を廃止しているが、さらに、前回のプリメインアンプテスト(42号)のとき以来、試聴するアンプをあらかじめ最低3時間以上実働させてから試聴に入るというめんどうな方法をとっている。くわしくは別項(試聴テストの方法)をご参照頂きたい。
     *
 こうして一台一台を、切換回路を通さずに実際の使用状態と同様に正しく接続し入念に試聴すると、ふつうに切換スイッチでパチパチと瞬間比較するときには殆んど見落しがちの性格がよく聴き分けられる。
 テストレコードはいわば試聴用の素材にすぎないわけだが、しかし目の前に置かれた、一台のアンプのボリュウムを上げれば、機械をテストしようという態度よりはもっとふつうの愛好家の心理状態と同じに、さあこれからレコードを聴こう、という気持に自然になってくる。
 少なくとも私自身は、今回のテストにかぎらず常に、そうしたレコード愛好家としての心理状態を保ち続けるよう心がけているつもりだ。いわゆる単独試聴のときはもちろんだが、今回のような一部合同試聴の際にでも、おもて向きは嫌々ながらといったふうをよそおいながら、自分の手でレコードをのせてアンプの操作系を買って出るのも、そうした方がレコード愛好家としての心理状態を保つために、実をいえば私には具合がいいからだ。
 前にも書いたことだが、こうして一枚一枚のレコードを音楽として楽しみたいという態度で臨んだとき、そういう聴き手の心理をふくらませ、音楽を聴くことを楽しく思わせ、もっと先まで聴きたい、ボリュウムを絞りたくない、という気持にさせるような音がすれば、アンプでもスピーカでもそれが私には好ましい製品といえる。本当に良い音になってくると、もう何十回も繰り返し聴いている同じレコードの同じ部分を、つい我を忘れて聴き惚れて、しばらく捜査の手を忘れてしまい、同席の岡、井上両氏に叱られることもある。
 だが残念なことにそういう音は決してたびたびは聴こえてこない。とくに今回のテストでは、発売後かなりの時が流れてすでに一般的評価の定着した製品もいくつか登場しているが、私自身の評価はそれと必ずしも一致しなかったというのも、右に書いたように音楽を聴かせ幸せな気分にさせてくれるアンプでなくては、たとえ物理的にどんなにワイドレインジで歪が少なく音の立上りが良いという製品でも、それだけでは私には何の価値も認めらないからだ。せめてほんの少しのパッセージでいい、ふっと比較試聴という時間を忘れさせ、聴き惚れるまで行かなくてもつい耳を傾けさせる音のするアンプ。それが私の絶対の基準尺度だ。価格の高低、出力の大小、機能の多少などとはそれは全く無関係なことなので、今回の試聴でも、ことにコントロールファンクションの多い少ないはほとんど無視している。
 だが現実には、私にとってコントロールファンクションは意外に重要な項目だし、デザインのよしあしも大きな要素になる。そのことは別項の推薦機種の選定の中でふれている。

ソニー TA-N86

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ソリッドで引き締った音をもつパワーアンプである。聴感上では充分に広い周波数レンジを感じさせ、バランス的にはかなりフラットレスポンスで凹凸が少なく、音色では、低域が軽くソフトであり、中低域は粘った印象があり、中域にはソリッドな硬質さがある。音の鮮度はかなり高いタイプで、表情にはフレッシュな魅力がある。
 ステレオフォニックな音場感は、左右方向・前後方向のパースペクティブともによく広がるが、音源はかなり近づいた印象となる。音像のまとまりはよく、輪郭の線もかなりクッキリとしてシャープさがある。低域は、やや厚み不足を感じさせることもあるが、定格パワーからは充分な力をもつと思う。

サンスイ BA-2000

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 素直で、伸びやかさを感じる音をもったパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジはナチュラルに伸びた、現代アンプらしい印象があり、音の粒子が全帯域にわたり、細かく滑らかに磨かれ、音色も軽くフワッと明るい印象に統一され、充分にコントロールされている。バランス的には、中域が少し薄い傾向があり、低域が柔らかいために、エネルギー感は薄いが、スッキリと爽やかな音である。
 ステレオフォニックな音場感は、スッキリとした爽やかなプレゼンスが感じられるタイプで、音像も小さくまとまり、その輪郭も細くシャープでナチュラルに定位をする。スケール感もあり、かなり良い音である。

デンオン PMA-830

デンオンのプリメインアンプPMA830の広告
(スイングジャーナル 1978年5月号掲載)

PMA830

ジュエルトーン JT-110, JT-120

ジュエルトーンのカートリッジJT110、JT120の広告
(スイングジャーナル 1978年5月号掲載)

JT110

A&E E-3000, DCA-150M, ECN-50, ECN-50M

A&EのコントロールアンプE3000、パワーアンプDCA150M、エレクトロニッククロスオーヴァーネットワークECN50、ECN50Mの広告
(オーディオアクセサリー 8号掲載)

E3000

私のパイオニア観

瀬川冬樹

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ・パイオニア」
「私のパイオニア観」より

「電蓄には、完全ダイナミック12吋、演奏用10吋12吋、パイオニア高声器 福音電機株式会社」
 昭和26年1月号の〝ラジオ技術〟裏表紙。A5版を八つに割った、ひと桝が6・3×4・3センチという小さな色刷りの広告。たしかその半年ほど前から、〝福音電機〟は「完全ダイナミック」というタイトルを使いはじめていた。今だから言わせて頂くが、「完全ダイナミック」とはいささか大げさで野暮のように思えて、むしろそれゆえにパイオニアのスピーカーを敬遠していたような気がする。私自身は当時、ダイヤトーンの10吋広帯域型を使っていたし、不二音響(ダイナックス)の10吋も優秀だった。公平にみてこれらのスピーカーの方が、特性も優れていた。またこれとは別に、ハークやフェランティの一派もあった。
 昭和27年の暮に、第一回の全日本オーディオフェアが開催されたころから、日本にも新しいオーディオの技術が台頭しはじめたが、やがてパイオニアからは、PE-8という20センチ・フルレインジの名作が送り出された。このスピーカーはかなり評判になって、自分でフリーエッジに解像するアマチュアも多かったし、あとになってフリーエッジやアルミニウム・ヴォイスコイルなど特註にも応じたらしいが、このスピーカーも、どういうわけか私は一度も使わなかった。最も身近だったのは、昭和31年頃の一時期、工業デザインをやろうかそれともミクサーになろうかと迷っていたころ、ほんのいっとき、見習いの形で勤務したある小さな録音スタジオのモニタースピーカーが、PE-8の、フリーエッジ、アルミ・ヴォイスコイルの特註品で、これは仕事だから一日じゅう耳にしていた。それにしても、パイオニアのスピーカーと私とのつきあいは、せいぜいその程度のものだった。ふりかえってみると、私の頭の中には、パイオニアはスピーカーではなくアンプメーカーとして、のほうが強い印象を残している。
 PE-8が有名になりはじめてまもなく、パイオニアからは、当時としてはとても斬新なデザインのコアキシャル型とかホーン型などの、新しいスピーカーが続々と発表されはじめた。オーディオフェアの会場でのデモンストレーションなどの機会に、それらのスピーカーを見たり聴いたりすることはあったが、私の耳にはどうしても、自分にぴったりくる音とはきこえない。ところが、そのデモンストレーションのためにパイオニアで使う特製のアンプが、いつも見るたびに素晴らしい。コントロール・パネルにはプロ器的な感覚がとり入れられていかにも信頼感に溢れているし、パワーアンプも当時の最先端の技術のとり入れられていることがよくわかる。市販することを考えずに技術部で試作したアンプだということだったが、なにしろそのコンストラクションが洗練されている。デザイナーのスケッチで作ったのではなく、ものの形に素晴らしく良い感覚を持ったエンジニアの作品であることが、私にはよくわかる。ほんとうに形の美しい機械というのは、内容をよく知らないデザイナーよりも、形や色彩に鋭敏な良い感覚を持ったエンジニアが、自分の信ずる通りに素直にまとめた方が、概して機能的で無駄がなく美しい。当時のパイオニアの、スピーカーの外形にはデザイナーの遊んだ跡が見受けられて、たぶんそれが私の気に入らないひとつの要因であったに違いない。が、アンプはそうでなく、見るからに惚れ惚れとする。だからといって、それを買いたいという気持は全く起らない。当時の私にとって、アンプは自分で設計し自分で組み立てるものであったから。しかし、パイオニアの試作のアンプが、いかにアマチュアの制作意欲を刺激してくれたことか。
 その頃のパイオニアのアンプを作っていた人たちの中に、のちに山根フィルターで名をなした、現早大理工学部教授の山根雅美氏がいたことを知ったのは、もっとあとになってからの話──。
     *
 工業デザインか録音ミクサーかと迷っていた私は、昭和30年代の半ばに工業デザインの道を選び、おそまきながら勉強のし直しをした。学校を出てぶらぶらしていたところへ、当時、パイオニア大森工場のアンプ設計のチーフであった長真弓氏が声をかけて下さって、非常勤の嘱託で大森工場のアンプの意匠担当、という形でパイオニアのめしを喰わせて頂くことになった。昭和38年から40年頃までの、管球アンプ最後の時代であった。木造二階建ての、床のきしむバラックの工場の一室に度ラフター(製図器)をついた机をひとつもらって、設計の人たちと膝をつきあわせてアンプのデザインに没頭した。音羽にあった本社には立派な意匠室があって、芸大出のスタッフが揃っていたが、アンプの中味を知らないデザイナーのスケッチが、大森工場の技術者たちには不評だった。私は毎日が面白くてたまらず、いくつもスケッチを描き、意匠図を作成し、パネル版下を作り、下請工場の職人さんと打合せをし、まあ一生けんめいやっていた……つもりだ。その頃としては珍しかった、アルミニウム押出材をアンプのパネルに(おそらく日本で最初に)採用したのは、当時の大森工場長であった角野寿夫氏の助言によるものだった。SX-801、802、803……等のシリーズがそれだ。また、分厚いアルミパネルの両端に、ローズウッドのブロックでコントラストをつけたSM-90シリーズも、わりあいに成功したと、いまでも思っている。またこれらと前後して発表した三点セパレート・タイプのS-51、S-41シリーズが、それからしばらくあいだは、家庭用ステレオセットの原形のような形になった。S-51シリーズはGKデザイン研究所の作品だが、S-41、42のシリーズは大森工場サイドの開発だった。
 というような次第で、この時代のパイオニアについては、申し訳ないが客観的な語り方ができない。あまりにも楽しい想い出がいっぱいだったものだから。
 昭和40年代に入ると、オーディオ・ジャーナリズムが盛えはじめ、雑誌の原稿料でめしが喰える時代がやってくる。そして私もついに、デザイン業と物書きと半々、という生活をしはじめてパイオニアとはご縁が切れてしまった。皮肉なことに、私が勤務していたころのパイオニアは、社名を他人に説明するのに骨が折れるほど小さな会社だったのに、私ごとき偏屈人間がやめてからは、伸びに伸びてあっというまに第一部上場、しかも財界でも常に話題の絶えない優良企業にのし上がってしまった。パイオニアに限ったことではないが、オーディオがこれほど陽の当る産業になることを、福音電機当時、誰が予想しえただろうか。
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 こんにちのパイオニアの製品については、まとめかたがうますぎるほど、と誰もが言うとおり、いかにも成長企業らしいそつのなさで、手がたく堅実な作り方は、もはやはた目にとやかく言うべき部分が少なくなってしまったようだ。ことにそれは8800II,8900II以来のアンプの音にはっきりとあらわれて、本誌42号のプリメインアンプのテストリポートでも書いたように、いわば黄金の中庸精神とでもいうべき音のバランスのとりかたのうまさには、全く脱帽のほかない。スピーカーについても、個人的には長いあいだパイオニアの音はいまひとつピンと来なかったが、リボントーイーターと、それを使ったCS-955の音には相当に感心させられた。テープデッキもチューナーも、やはりうまい。そうした中でプレイアーに関しては、今回の新製品に、いささかのバーバリズムというか、どこか八方破れのような構えを感じとって多少奇異な感じを抱かされるのは私だけなのだろうか。もっともそのことは、00(ゼロゼロ)シリーズの新しいアンプのデザインについても多少いえるのかもしれない。もしかすると、パイオニアは時期製品で何か思い切った脱皮を試みるのではあるまいか。私にはそんな予感があるのだが。

アルテック 612C Monitor

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 アルテックの612Cは、当社が長い歴史をかけて完成させてきた2ウェイのコアキシャル・モニタースピーカー、604シリーズの最新製品8Gを比較的コンパクトなエンクロージュアに内蔵したシステムである。コアキシャル・スピーカーらしい、音像定位の明確さ、聴感上のバランスのよさが保証されるが、エンクロージュア容積の不足もあって、なんといっても低域の再生が十分でない。これが、このシステムの一番の泣き所といってよいだろう。しかし、中・高域のバランスは最高度に整っているし、各種音色の分離、音の質感の解像力は、さすがに、世界的に広く使われているモニタースピーカーとしての面目躍如たるものがある。音像の輪郭がきわめてシャープであり、あいまいさがない。ステレオフォニックな位相感の再現も、コアキシャルらしい自然さをもっているが、やや左右の拡がりが狭くモノ的音場感になるようだ。このスピーカーの持つ、メタリックな輝きは、決して、個性のない、いわゆるおとなしい音とはいえない。にもかかわらずこれが世界的に使われている理由は一に実績である。モニタースピーカーというものは、多くのスタジオで、多くのプロが使うという実績が、その価値を決定的なものにするといってよく、この点、アルテックの長い歴史に培われた技術水準とその実績の右に出るものは少ないといえるだろう。

JBL 4333A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 4331Aにスーパートゥイーターを追加しただけだが、この違いは相当に大きい。まず中高音域以上の音色が、リファレンスの4343に非常によく近づいてくる。ロス=アンヘレスの唱うラヴェルの「シェラザーデ」のように、音の微妙な色あいを大切にするプログラムソースでもそのニュアンスをかなのところまでよく表現する。音域が4343よりも少し狭いためか、音像の空間へのひろがりがわずかに減少するが、オーケストラのハーモニィもバランスをくずすことなく、いつまにかつい聴き惚れてしまうだけの良さが出てくる。構造上、やや高めの(本誌試聴室では約50cmの)台に乗せる方が中域以上の音ばなれがよくなるが、反面、低音域の量感が少なめになるので、アンプの方で4ないし6dBほどローエンドを補強して聴く方が、少なくともクラシックのオーケストラに関するかぎりバランス的に好ましい。これによって、音の充実感、そして高域に滑らかさがそれだけ増して、安心して聴き込める音に仕上ってくる。
 ただ、オーケストラのトゥッティでも弦の独奏やピアノの打音でも、しばらく聴き込むにつれて4331Aのところでふれたようなごく軽微な箱鳴り的なくせが、4333Aにも共通していることが聴きとれるが、しかしハイエンドを十分に延ばしたことが利いているのか、4331Aほどにはそれが耳ざわりにならないのは興味深い。
 このJBLの新しいモニターシリーズを数多く比較しているうちに気のつくことは、スーパートゥイーター♯2405に多少の製品の差があるということ。たまたま、リファレンスに使っている4343のトゥイーターと、試聴用の4333Aのそれとの違いがあったのかもしれないが、少なくとも本誌試聴室での比較では、4333Aの高域の方が、4343よりも音のつながりがスムーズに思えた。そのためか、とくにジャズ、ポップスのプログラムソースの場合に、4343よりもこちらの方が、高音域での帯域に欠落感が少なくエネルギー的によく埋まっている感じがして、パワーを思い切り上げての試聴でも、ポピュラー系に関するかぎり、4333Aの方が、線の細い感じが少なく、腰のつよい明るい音が楽しめた。反面、クラシックのソースでは、とくにオーケストラのトゥッティでの鳴り方は、4333Aでは高域で多少出しゃばる部分があって、4343のおさえた鳴り方の方が好ましく思える。そして相対的には、4343の方が音全体をいっそう明確に見通せるという印象で、やはりグレイドの差は争えない。
 アンプの音の差はきわめてよく出る。この点では4343以上だと思う。試聴条件の範囲内では、すべてのソースを通じてモニター的に聴き分けようというにはマランツ510Mがよく、低音の量感と音のニュアンスを重視する場合にはSAE2600がよかった。

JBL 4333A

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 JBLの4333Aは、別記のベイシックモデル4331Aと同じエンクロージュアを使って、最高域(8kHz以上)に2405スーパートゥイーターを加えた3ウェイシステムである。4331Aの項でも述べたように、これが、JBLのモニターシリーズの代表的位置に存在する、もっとも標準的なプロフェッショナル・モニターである。3ウェイ構成をとっているために、当然レンジは拡がり、最高音の再生は、このほうが勝る。高域の繊細な音質、それによる細かな音色の判別には一段と威力を発揮する。しかし、4331Aのほうが、バランスとしてはよくとれている……というより、とりやすいという印象もある。このシステムの最高域を受けもつ2405は、優れたトゥイーターであるが、やや質的に異質な感触をもっていて、不思議なことに、低域の感じに影響を与え、2ウェイのほうが、低域がよく弾み、しまっているようである。3ウェイと2ウェイのメリット・デメリットは、こうして聴くと、ここのユーザーの考え方と嗜好で決める他ないように思われてくるのである。ただし、一般鑑賞用としての用途からいえば、4333Aの高域レンジののびは効果として評価されるのではないだろうか。弦楽器のハーモニックスや、シンバルの細やかな魅力は、スーパートゥイーターの有無では、その魅力の点で大きく異なってくるからである。

ダイヤトーン Monitor-1 (4S-4002P)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 おそろしく密度の高い、そしておそらくかなり周波数レインジは広くフラットなのであろうと思わせる音が鳴ってくる。フラットとは言っても、欧米のスピーカーの多くを聴いたあとで国産のスピーカーを聴くと概して中高音域が張り出して聴こえることが多く、それが日本人の平均的な音感であるらしいが、4S4002Pもその例に洩れない。この製品にはAS3002Pと違ってレベルコントロールがついている。MIDDLE/HIGH/SUPER HIGH の三個とも、+1,0,-1、-2,-3の5段切換えになっている。指定の0のポジションでは右のように中域以上が少し張り出しすぎてバランスをくずしているように思われたので調整を加えて、結局、MIDDLE と SUPER HIGH を共に-1、そして HIGH を-3と、やや絞りぎみに調整してみたところ、かなり納得のゆくバランスになってきた。好みによって、あるいはプログラムソースによっては、HIGH は-3でなく-2ぐらいにとどめた方がいいかもしれない。
 いずれにせよ、ここまで絞ってもダイヤトーンの製品に共通の中音域全体にタップリと密度を持たせた鳴り方は少しも失われないで、相当に上質の、スケールの大きい、しかし見た目から受ける印象よりはるかに反応の鋭敏な音が聴ける。ただどちらかといえば、クラシックよりもやはりシェフィールドのクロスオーヴァー的な音楽を、思い切りパワーを上げて聴いたときの方が、いかにも凄みのある音で聴き手を驚かせる。クラシックのオーケストラでは、パワーを上げると弦が少々きつい感じになるし、スーパー・ハイの領域でチリチリという感じで、もしかするとトゥイーターのエージングが進めば柔らかくなるのかもしれないが、テストの時点ではまだ硬い音がした。
 2503Pや3002Pよりははるかにグレイドの高い緻密な音だが、音の透明感がもう少しほしい気もする。このスピーカーの鳴らす中~高音域には、やや硬質の滑らかさはあるのだが、その肌ざわりが金属やガラスよりも陶器の肌を思わせる質感でいわば不透明な硬さ、を思わせるためによけいそういう感じがするのかもしれない。
 カートリッジを二~三つけかえてみると、ハイエンドの音のくせをとても敏感に鳴らし分けて高域の強調感のあるカートリッジを嫌う傾向がことに強い。とうぜんアンプの差にも敏感だ。ただ、アンプやプレーヤーをいろいろ変えてみても、弦楽器に関するかぎり、どうも実際の楽器の音と相当に印象が違う。ピアノの場合はスケールの大きさがいかにもフルコンのイメージを再現はするが、ヤマハかスタインウェイかの区別がややあいまいではないかと思った。潜在的に持っている相当に強い個性が、楽器の色あいをスピーカーの持っている音色の方にひきずってゆく傾向がある。

ダイヤトーン Monitor-1 (4S-4002P)

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 ダイヤトーン4S4002Pはモニター1と称され、一本100万円という高価なものだが、数々の新開発技術を生かして作られた新製品である。構成は、4ウェイ、4スピーカーシステムで、2S2503Pと同じく、パッシヴラジェーター方式が採用されている。ウーファー、スコーカーのコーンには、ハニカム構造のアルミをグラスファイバー計のシートでサンドウィッチ構造としたものが使用され、より理想的なピストンモーションにより低歪化が計られている。当然ながら、相当な大型システムで40センチ・ウーファーをベースに構成された4つのユニットが、見上げるばかりの大型エンクロージュアに収められ、総重量は実に135kgにも達するものだ。音質は、色づけが少ないといえるけれど、音楽の愉悦感には不足する。大音量で、かなりの聴取距離をおいて使うことを目的として設計されているので、一般家庭の至近距離で聴くと、音像定位には、やや問題が生じざるを得ない。中高域ユニットがかなり高い位置にくるので、低音と中高音が分離して聴こえてくるのである。しかし、これは使い方が間違っているので、広い場所で距離をとれば問題ではなかろう。さすがにDレンジとパワーハンドリングには余裕があり、大音量再生にもびくともしない。広い場所でのプレイバック用として効果的。

ダイヤトーン Monitor-3 (AS-3002P)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 ブラームスのピアノ協奏曲のオーケストラの前奏で、中域に密度のある、しかしアルテックとは違って音が明らかに張り出すわけではなく、丸みのあるソフトなバランスの良い音が鳴ってくる。ただしそれは中程度以下の音量の場合で、、音量を上げるにつれてまず中高音域が張り出してきていくらか圧迫感が出てくるし、やがてピアノが入ってくると、おもに右手の活躍する中音域のあたりで、コンコンと箱をこぶしで叩く感じの固有音がつきまとうことが少し気になってくる。バックのオーケストラも、ひとつのマッスとしては充実しているが、その中から各声部のデリケイトな音の動きや色彩の変化、さらにソロとの対比などを聴き分けようとすると、もう少しこのもつれて固まった井とをときほぐしたいという気持になってくる。次のラヴェルの「シェラザーデ」を含めて、これらのレコードのオーケストラのパートは、広さと奥行きを十分に感じさせるステレオ録音のはずだが、3002Pではその広さと奥行きを総体に狭める傾向に鳴る。こういうタイプのスピーカーは概して左右に思い切って開いて置くといい。事実ミクシングルームなどでもこのスピーカーは左右に3メートル以上開いて置かれるあることが多いので、本誌試聴室でもほとんど4メートル近くまで左右に離してみるが、私の求めるひろがりと奥行きをこのスピーカーに望むのは少し無理のようだ。ただしかし、ステレオの音像の定位をきわめて正確かつ明確に表現する点はさすがだと思った。左右にどこまでひろげても少しも音の抜けるようなことがないのは見事というほかない。
 ところでピアノの音にまつわる固有音だが、たとえばアルゲリチのショパン(スケルツォ)でも、冒頭の三連音などことに箱の中で共鳴している感じが強く、音がスピーカーのところからこちら側に浮き上ってこない。この試聴の一週間ほどあとで、某スタジオであるピアニストの録音に立ち会った際にもこのAS3002Pが使われていたが、プレイバックの際にそのピアニストが、なぜ私のピアノがこんなにコンコンいう音に録音されてしまうのか、と不満を漏らしていたが、どうもこのスピーカーにその傾向が強いようだ。
 一旦そういう音色に気づいてしまうと弦合奏の再生にもやはりその傾向はあることがわかる。たとえばヴァイオリンの低弦(だからせいぜい200Hz以上)で、胴鳴りの響きが実際の楽器よりももっと固有音に近い感じで箱の中にこもって弦の響きにおおいかぶさってくるので、不自然な感じがする。総体に音の粒立ちが甘く、音像が一列横隊の平面的で、ポップス系でも低音のリズムがやや粘る。
 このスピーカーはパワーアンプを内蔵しているのでそのアンプのまま試聴したから、右の傾向がスピーカーそのものか、それともアンプを代えるといくらか軽減されるのかは確かめていない。