Daily Archives: 1977年7月1日

JBL 4343(組合せ)

瀬川冬樹

世界のステレオ No.2(朝日新聞社・1977年夏発行)
「オーディオ・コンポーネントを創る」より

 こんなに大がかりな機械を揃えて、いったいどんなに大きな音で聴くのかと質問した人がある。ところが実際はまるで反対だ。およそ繊細で鋭敏で精巧で、しかも美味な──これらはすべてdelicateという言葉の内容する意味だが──音を聴かせる組合せなのである。実をいえばこれは筆者の実用している装置と殆ど同じなのだが、私自身の部屋はといえば、貸しマンションの3階の約8畳ほどの一室で、何の音響的な処理をしているわけでもなく、大きな音量を出そうとすれば下の家から文句を言われるし、逆に2階の家でピアノを弾けば音がつつ抜けになるというような環境で、したがって音量はおさえて、むしろひっそりと小さめの音量でレコードを楽しんでいるというのが現状だ。
 概してこういう小さな音量では、レコードの音は生彩を欠いて、いかにも缶詰然とした鳴り方をしがちだ。ところが私はそういうレコードの世界が大嫌いで、たとえ一枚のレコードであっても、溝の隅々まで掘り起こして、刻みこまれたどんな微細な音でも新鮮に再現して、時間空間を超越して元の演奏を実体験したいという、欲ばりな望みを持ち続けている。こういう最新型の装置を完全に調整して調子を整えれば、たとえばフルトヴェングラーのモノーラル時代の録音でさえも、まるで昨日演奏されたかのようなみずみずしい新鮮さで再現することができる。アメリカの最新型のアンプとスピーカー、などといえば、およそこうした古い録音のクラシックなど鳴らせないかのように云う人があるが、それは、こういう鋭敏な装置を使いこなすだけのテクニックを持たない人のたわごとだ。
 そして言うまでもないことだが、そこまで調整し込めば、最新の録音のあらゆるジャンルに亘る音楽のすべてを、スピーカーからとは思えないほどの最上の質で聴かせて堪能させてくれる。

スピーカーシステム:JBL 4343 ¥739,000×2
コントロールアンプ:マークレビンソン LNP-2L ¥1,180,000
パワーアンプ:SAE Mark 2500 ¥690,000
チューナー:セクエラ Model 1 ¥1,480,000
ターンテーブル:テクニクス SP-10MK2 ¥150.000
キャビネット:テクニクス SH-10B3  ¥70,000
トーンアーム:テクニクス EPA-100 ¥60,000
カートリッジ:オルトフォン MC20 ¥33,000
ヘッドアンプ:マークレビンソン JC-1/AC ¥125,000
計¥5,266,000 

タンノイ Arden(組合せ)

瀬川冬樹

世界のステレオ No.2(朝日新聞社・1977年夏発行)
「オーディオ・コンポーネントを創る」より

 最近の新しいオーディオ装置の鳴らすレコードの音にどうしても馴染めない、という方は、たいてい、SP時代あるいは機械蓄音器の時代から、レコードに親しんできた人たちだ。その意味では、このタンノイの〝ARDEN〟というスピーカーと、クォードのアンプの鳴らすレコードの世界は、むろん現代のトランジスター時代の音でありながら、古い時代のあの密度の濃い、上質の蓄音器の鳴らした音色をその底流に内包している。
 〝古き酒を新しき革袋に〟という諺があるが、この組合せはそういうニュアンスを大切にしている。
 ピックアップに、あえて新製品でないオルトフォン(デンマーク)のSPU−GT/Eを選んだのも、そういう意図からである。
 こういう装置で最も真価を発揮するレコードは、室内楽や宗教音楽を中心とした、いわゆるクラシックの奥義のような種類の音楽である。見せかけのきらびやかさや、表面的に人を驚かせる音響効果などを嫌った、しみじみと語りかけるような音楽の世界の表現には、この組合せは最適だ。
 むろんだからといって、音楽をクラシックに限定することはなく、例えばしっとりと唱い込むジャズのバラードやフォークや歌謡曲にでも、この装置の味わいの濃い音質は生かされるだろう。
 しかしARDENというスピーカーは、もしもアンプやピックアップ(カートリッジ)に、もっと現代の先端をゆく製品を組合せると、鮮鋭なダイナミズムをも表現できるだけの能力を併せもった名作だ。カートリッジにオルトフォンの新型MC20、プリアンプにマーク・レヴィンソンLNP2Lを、そしてパワーアンプにスチューダーのA68を、という組合せを、あるところで実験してたいへん好結果が得られたこともつけ加えておこう。

スピーカーシステム:タンノイ Arden ¥220,000×2
コントロールアンプ:QUAD 33 ¥83,000
パワーアンプ:QUAD 405 ¥156,000
チューナー:QUAD FM3 ¥87,500
ターンテーブル:ラックス PD-121 ¥135.000
トーンアーム:フィデリティ・リサーチ FR-64 ¥50,000
カートリッジ:オルトフォン SPU-GT/E ¥43,000
計¥994,500 

KEF Model 104aB(組合せ)

瀬川冬樹

世界のステレオ No.2(朝日新聞社・1977年夏発行)
「オーディオ・コンポーネントを創る」より

 価格の面でもまた大きさの面からも、できるかぎり大げさになる事を避けたい。しかし音楽を十分に味わうために、音の質を落としたくはない……。そんな要求に対して、私がよくおすすめする組合せのいくつかのなかのひとつがこれだ。
 KEFの104というスピーカーは、いわゆるブックシェルフ型というスタイルの、わりあい小型の製品の中では、目立って洗練された上品な音を聴かせるスピーカーだ。いくらか神経質で線の細いところがないとはいえないが、常識的な音量で鳴らすかぎり、ことにクラシック系の音楽に対して、艶やかで美しい余韻のある独特の音質は、オーケストラを上等のホールの、ほどよい席で味わうような快い響きを楽しめる。そしてどちらかといえば、たとえばブルックナーやワグナーのような、音のつみ重なった厚みを大切にする音楽よりも、バロックの室内オーケストラのような、小さな編成でしかしパートごとの音形のデリケートな動きを大切にするような種類の音楽に特長を発揮する音質といえる。
 ことに弦やチェンバロやフルートの典雅な音色は、とてもこういう小型の装置とは思えないほどの上質な味わいで聴き手に満足感を与えるだろう。
 アンプはわざと新製品でないオンキョーの旧型を示した。KEFのスピーカーのデリケートなニュアンスの表現力を生かすには、このアンプが実に優秀だ。ある意味ではKEFのスピーカーと一脈通じる性格の音のするアンプといえる。プレーヤーはダイヤトーンの傑作であるオートマチック型。カートリッジは、ヘッドアンプが必要というわずらわしさを承知なら、オルトフォンのMC20とした。その場合のヘッドアンプは、オルトフォンのMCA76を使うかトランスの方なら、STA6600が使いやすい。

スピーカーシステム:KEF Model 104aB ¥99,000×2
プリメインアンプ:オンキョー Integra A-722nII ¥128,000
チューナー:オンキョー Integra T-433nII ¥150,000
プレーヤーシステム:ダイヤトーン DP-EC1 ¥120.000
カートリッジ:オルトフォン VMS20E ¥27,000
計¥623,000