瀬川冬樹
ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より
10号のときと違って今回はブラインド・テストではなかったが、結果からみると、ブラインド的な聴き方をしてしまった。とにかく53個のプッシュボタンを切換えながらの比較だから、手もとの対照表を見さえすればどのスピーカーかすぐにわかわけだが、スイッチのナンバーと採点表の各項目を結びつけ、加えて音質についてメモをとるだけで手一杯で、いま押したボタンが何社の何型かまで考えるゆとりがない。
トランプに「神経衰弱」というゲームがあるが、あれがわたくしには大のにが手でいくらひっくり返しても、カードの位置と記憶とが整理できない。それと同じように、たとえばNo.40がJBL、ぐらいはすぐに憶えるけれど、53このボタンすべてが、メーカーの型番と結びつくようには、なかなかならないもので、結局今回は丸3日かけてしまったが、三回目の試聴で、ボタンのナンバーと出てくる音とが(メーカー名と型番までは記憶が及ばないが)いちおう結びつくようになったので、最終的な採点に踏み切ったというわけである。
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53機種の中には、よく聴き馴染んだ製品も少なからず入っていて、あとで採点表とつき合わせてみると、意外に思うケースが少なくなかった。前回(10号)のときも同じことだが、数多くのスピーカーを部屋いっぱいに積み上げると、隣接したキャビネットの共鳴音や、おかれる場所による特性のちがいなどの悪影響が思いのほか出てくるもので、置き方が変れば、また違った音になるだろうと想像されることがしばしばあったが、わたくしとしては、与えられた条件の中で最善を尽くしただけのことで、条件が変れば評価も変ることがありうるという点については、改めてお断りするまでもない。
そういう次第だから、前回の経験などともあわせて、置き場所や試聴室の条件等になるべく左右されにくい要素として、音の品位の良し悪しという項目を、最も重視している。音の質そのものが良いスピーカーは、多少バランスが悪くても使いこなしでカヴァーしうるし、もともと品位のよくない音は、いかにワイドレンジでも、いかに特性がフラットでも、聴いていて永続きしないものだから。
もうひとつ、わたくしの場合、トーンコントロールをごく大幅に変化させて一機種ごとに音のバランスを大幅に変えて試聴してみたことをつけ加えておきたい。こうすると、単純な切換えでは、音のバランスが良くないというだけで聴き逃しかねない隠れた長所を探し出すことができるし、逆に、低音や高音を強調することによってユニットやキャビネットの共鳴音やトランジェントの悪さなどの欠点を探すことができた。むろん音量も大幅に変化させた。その場合、大きなパワーでも音がくずれないということも大切な条件だが、音量をぐんと絞りこんだ場合にも音像がしっかりして、音の形がくずれないということの方を、さらに重要視した。
試聴にかかる前には、できるだけ各製品の長所を探す態度で臨もうと考えていたのに、やはりこれほど数多い機種を与えられた短時日に採点しようとすると、いわゆる減点法というのか、欠点の目立つものから落してゆくという方法をとらざるをえなくなるため、結果として、ややアラ探し的な採点法になってしまったが、精一杯、甘い点をつけたつもりである。
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