岩崎千明
スイングジャーナル 5月号(1974年4月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
CD4用のカートリッジとして、海外製品がこのところ続々と名乗りを上げている。いち早く製品を市場に送ったピッカリングを始め、ADCや西独のエラックなどもその製品の出るのは時間の問題だが、その中でも日本のオーディオ・ファンの間で、もっとも注目されたのはオルトフォンのCD4用のカートリッジSL15Qである。デンマークのオルトフォンというよりも、世界市場でもっとも高品質を誇るカートリッジ・メーカーとしてのオルトフォンであり、かつては業務用のディスク・カッターから再生機器の専門メーカーとして日本においてすら伝鋭的に語られている名門中の名門、それがオルトフォンであり、この方面では今日も全ヨーロッパに業務用機器を提供しつづける確固たる業績を誇る専門メーカーである。オルトフォンのCD4用カートリッジが、かくも注目され話題となったのは、それが他に例のないMC(ムービング・マグネット)型の故である。4チャンネルの前後分離のための前後差信号成分は、CD4方式において他の信号とまったく独立した形で、35、000ヘルツという超音波信号にFM変調の形で乗せられているのだ。デイスクの中からこの35、000ヘルツという気の遠くなるような超振動をとり出すために、カートリッジの針先は極端にミニチュアライズされなければならず、ダイヤ・チップをつけたカンチレバーは、従来よりひとまわりも、ふたまわりも小さくされなければならない。それをカンチレバー基部にコイルが着装されているMC型において実現することは、とうてい考えもよらぬことであったのに、さすがオルトフォン。SPU以来のコイル型カートリッジのクラフツマン・シップを発揮してSL15Qという形で製品化してしまったわけだ。CD4の開発者である日本ビクターの4チャンネル担当技術者さえ賞賛した傑作を、4チャンネル時代の擡頭期たる今日、いち早く完成してしまったわけである。他のあらゆるCD4用カートリッジがすべてMM型であるのに、オルトフォンはMC型として。
以上は前置き。お話の本題はこれからだ。オールド・ファンにとって、スピーカーが変り、アンプが同じ真空管ながらよりハイパワ一に替えられたとしても、絶対に変わりないのがオルトフォンSPUカートリッジだ。ステレオ初期において決定的といえる勝利を収めたオルトフォンが、米国市場においてシュアに質的な意味でなく、たとえ量的な意味にしろ優位を奪われたのは、軽針圧動作という時代の要求によるものだったのだろう。歴史に残る傑作SPUを軽針圧したのがS15であり、さらにSL15に改良されて完璧といい得る軽針圧MC型は完成された。SPUのそれよりも半分の軽い針圧のもとではるかに広い再生帯域がSL15によって成し遂げられたのであった。しかし、SL15Q、4チャンネル・カートリッジの技術がSL15の姿をこのままですませて置くことにメーカーとしての責任をオルトフォンは意識したのに違いあるまい。
SL15MKIIがSL15Qの発表された昨11月から半年目にデビューしたのである。SL15Qの出現を予想した時よりもごく当然のように、それはSL15Qのクオリティーをそのままステレオ用に移植したとでもいいたくなる成果をはっきりと示しながらのデビューだ。シュアv l15typeIIIになって中声域にMC型に匹敵する格段の充実をみせながらも、実は本質的にあのコアーとコイルの構造では量産上CD4への足がかりすら掴めないとも受けとれるのに対し、オルトフォンはCD4用を完成したあとで、その技術によりMKIIをものにしたのはさすが世界に冠たる名門ぶりといえてもよかろう。音色上SL15MKIIはSL15よりもさらに超ワイドレンジを感じさせる。果しなく高域のハイエンドが延び切ったという感じだ。しかも中域のピアニシモの繊細感は、多くの国産MM型カートリッジのそれに似て、より緻密で粒立ちの良いサウンドエレメントがビッシリと詰め込まれたといえようか。低域での豊かなひろがりに加えて、引き締った冴えたタッチは、従来のSPUの重厚な響きは薄れたとしても、それに優るローエンドの拡大を如実に示している。
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