タンノイのスピーカーシステムIIILZ、Autograph、GRFの広告(輸入元:シュリロ貿易)
(スイングジャーナル 1970年6月号掲載)
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タンノイ IIILZ, Autograph, GRF
Lo-D HS-500
菅野沖彦
スイングジャーナル 6月号(1970年5月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より
もう1年前くらいの話だが、内外スピーカーを何種頼も集めて比較試聴をしたことがあった。その時、テストに使ったレイ・ブラウンのベースが一際鮮やかに、張りと豊かさをもって鳴ったシステムがあった。音程が明瞭で、ベースのもつサブ・ハーモニックスも十分再生し豊麗なレイ・ブラウンのサウンドが決して鈍重にならない。一体どのスピーカー・システムが、こんな魅力的な低音域特性をもっているのかとたどってみると、これが、日立のHS500であった。
HS500から出た低音は、実に自然で生命感溢れるものだったのである。しかも、このシステムに使われているウーハーL200は20cm口径で、決して大口径ウーハーではないし、箱の容積もそんなに大きいものではない。一定容積の箱に入れる場合は口径の大きいものより小さいもののほうが低域の再生は周波数特性上有利ではあるが、実際には口径の小さなウーハーからは十分に量感、音圧感のある低音を得ることは難しいのである。それにも関わらず、このシステムは、20cmウーハーの常識を破った低音の魅力を聞かせてくれる。ここで、このウーハーについてちょっとふれておくことにしよう。低音域用ユニットL200は、先に述べたように口径は20cm、半頂角の小さい浅いコーンに、ギャザード・エッジという日立独特のエッジを採用している。たくさんのヒダをもった、ちょうど、チョコレート(板チョコではなく、丸いチョコレート・キャンディという奴?)の受皿に使われているヒダの入った紙のような具合に加工され、これが実に巧妙に円周に張りつけられ、コーンのピストン・モーションを全く自由にしている。コーン紙はかなり剛性の高いがっしりしたもので、不規則なたわみやしなりが出にくい。つまり、コーンの分割振動を極力防いでいるらしい。しかし、このウーハーの受け持つ帯域は3kHzまでとかなり高いので、高域のモーションには問題がありそうな気もする。
そのために、最近3ウェイの新製品がでたが、私としては、このHS500により大きな魅力を感じる。話が横道へそれたが、この独特のウーハーは、日立の高い技術水準と、よくオーガナイズされた音響の基礎研究から生れたもので、一朝一夕には出来るものではない。設計から仕上加工に至るまで、明確なポリシーと綿密さのうかがわれる抜群のユニットである。
このウーハーに配する高域ユニットはホーン型のトゥイーターで、これまたピストン・モーションの理想を追求した大変ロジカルな設計理論に基いたもの。14mm径のマイラー・ドームにアルミの削り出しのホーン、独特なハの字型ディフューザーでアッセンブルされた高級トゥイーターである。これと先のウーハーとを3kHzでクロスさせて2ウェイ構成をとり、エンクロージュア一にはダンプドバスレス型のブックシェルフタイプを採用している。バスレフのダクトはパイプ型で、グラス・ウールによってダンプされている。材質、加工共に高度なエンクロージュアーで、あの低音のすばらしさはもちろんこのエレクロージュア一によって生かされているわけだ。
このスピーカー・システムについて、あえて難点をあげれば、音があまりにも素直でおとなしいことだろう。この辺がいつも云うオーディオの問題点であって、日立の卓抜な技術水準がいかにソフトウェア一に結びつき、理論的に優れたものが、どう美学と結びついてくるかが楽しみである。
ジャズファンでもソフト派、知性派にはぴったりの最高級システムとして推薦したい。
アカイ SW-125, AA-6000, X-200D
ビクター BLA-405
アカイ SW-125, 4000, X-2000SD
サンスイ SP-10, SP-70, AU-555A, AU-666, TU-666, SR-1050, SR-2050, SD-7000
JBL Lancer 101
菅野沖彦
スイングジャーナル 5月号(1970年4月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より
JBLの三字を書けば、このスピーカーの名門についての説明は必要あるまい。ジェームス・ビー・ランシング・サウンド・インコーポレイションはアメリカ、カリフォルニア州、ロスアンジェルスにあるオーディオ・メーカーである。J・B・ランシング氏がその創設者だが、彼はもともとアルテック・ランシングのエンジニアであった。そしてアルテック・ランシングも同じカリフォルニア州、ロスアンジェルスの郊外にある。従って、アルテックのスピーカーとJBLのそれとは、もともと同じ技術の流れをくむものである上に、同じ風土で誕生したものだ。
JBLのスピーカーはずいぶん多くの種類があるが、このランサー101というシステムは高級システムとしてもっともコンパクトなもので、その端正な容姿がそのまま音の印象につながるといってもよく、音と形が見事に調和した傑作だ。14インチ口径のLE14Aと音響レンズ付ホーン・ドライバーのLE175DLHをLX10ネットワークで、1、500Hzでクロスオーバーさせた2ウェイ・システムで、マーブル・トップ(大理石)の、きわめてリファインされたエンクロージュア一に収められている。
LE14Aは小型エンクロージュアーで十分低域まで再生されるように設計されたQの小さなハイ・コンプライアンス・ウーハーであり、LE175DLHは、すばらしい特性をもつLE175ドライバーと音響レンズをもったホーン1217−1290とを組み合せたJBLのユニット中の代表的傑作であり、この2つの高級ユニットの組合せを見てもマニアならばぞくぞくするだろう。からっと晴れた青空のように明るく透明な、しかも力感溢れる締った音はJBLサウンドの面目躍如たるものがある。これは、私がよく感じることだし、いろいろな機会にしゃべったり書いたりすることであるが、JBLやアルテックの音を聴くと、その技術の優秀性はもちろんのこと、アメリカのウェスト・コーストに育った音という地理的な、あるいは人文的な環境を思わずにはいられない。イースト・コーストのボザークやARのスピーカーには重々しい音があって、それなりに大きな魅力を感じるものであるが、明らかにウェストの音とちがう。コンテンポラリー・レコードなどウェストの録音と、ヴァン・ゲルダー・サウンドのようなイーストの録音の質のちがいになぞらえては、あまりにもうがち過ぎであろうか……?
ランサー101は、価格からして、決して一般に広くすすめられる製品ではないかもしれないが、もし経済的に多少の無理をしても、このシステムを所有されれば、世界の名器をもつ誇りと、見るからに魅力的なその雰囲気に支えちれて、レコードを聴く楽しみがより充実し、豊かになることは間違いない。そうした名器の中では、このシステムの価格は決して高いほうではないのである。参考までにつけ加えておくと、このLE14AとLE175DLHの2ウェイ・システム(JBLではこれをS1システムという)専用のC51アポロというエンクロージュアーがあって、これは、ランサー101よりぐんと大きく、音のスケールは一段と増す。もっともエンクロージュアーだけで、ブックシェルフ・システムのランサー77よりはるかに高いので一般的ではないが、特に関心のある方のためにつけ加えておく。ランサー101はバランスのとれた第一級の音だが、部屋によってはやや低音感が不足するかもしれないので、アンプでブース卜してやるとよいだろう。パワフルなドライヴには抜群のパーフォーマンスを示し、
しかもロー・レベルでの静的な再生にも気品のある繊細な味わいを再現するという数少ないシステムの一つであるこのランサー101、機会があれば是非一聴することをすすめたいし、お金があれば思い切って買っても絶対に後悔はしない価値がある。
サンスイ SP-10, SP-70
アルテック BF419 Malaga
JBL Olympus S7R, S8R
瀬川冬樹
ステレオ 5月号(1970年4月発行)
「世界の名器」より
低音の再生ほど、むずかしいものはないと思う。ぶんぶんと締りのない低音なら楽に出る。腹にこたえるほどの量感を出すなども、たやすい話だ。が、そんな低音は「ほんもの」ではない。ほんものの低音は、むしろ控えめだ。それは決して鳴り響かず、音というよりは振動的で、部屋いっぱいの空気を、一瞬、確実に押しのける感じに身体をやわらかく包みこむ。しかもそういうほんものの低音は、レコードやテープにひっきりなしにつめこまれているわけがなく、ふだんはひっそりとおとなしく、プログラムソースに低音がある場合だけ、たしかな手ごたえで聴こえてくる……。
そんな音を商品に望むのは無理だとあきらめて、家を削り、壁に穴をあけ、コンクリートを流し、はた目にはきちがいとしかみえないような努力を堂々と続けるマニアが後をたたないのも、つまり低音の再生がいかに難しいかの証左であり、逆にいえばそれほどのクロウトひきかえにしても惜しくないほどの魅力が低音にはあり、そして努力するに値するけわしい道のりだといえるだろう。しかもそれほどまでにしても、成功する確率は甚だ低い。まして商品にそれを望むのは無理だという見方も、まんざら見当外れとはいえない。
そういう理想の低音再生に、商品としてあえて戦いを挑んだのがJBLオリムパスではないか、とわたくしは思う。たとえばキャビネットの中を覗いてみると、誰もがその補強のものすごさに驚きの声をあげる。1・5寸×4・5寸といったふつうの常識では考えられないような角材が、補強のためにふんだんに使われている。こんなにすごい補強をしたキャビネットは商品としてはオリムパス以外にわたくしは知らない。ここには、キャビネットのごく僅かな共振さえも許さないといった、低音再生の正攻法の姿勢が伺える。
こうした形で完璧な補強をしてみるとスピーカーそのものにも、かえってボロが目立ってくるものだ。箱の共振をうまく利用して、ユニットのアラを隠して作ったスピーカー・システムのいかに多いことか──。JBLはそういうテクニックを使わない。あくまでも正攻法に、LE15Aというすばらしい低音スピーカーを作りあげる。LE15Aに、パッシヴ・ラジエーターPR15(マグネットもコイルも持たない、振動板だけの、いわゆるドロンコーン)を組み合わせたオリムパスの低音は、かちっと締って音の輪郭が鮮明で、重くもったりと粘るようなところが少しも無く、軽く明るく力強い。
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オリムパスには、S7RとS8Rの二種類がある。JBLの型番のつけかたは独特で、スピーカー・ユニットとキャビネットとに、別々の型番がついている。オリムパスというのはキャビネットのニックネームで、型番はC50という。このキャビネットに適合するスピーカー・システムとして、S7R及びS8Rが推奨されていて、それらを組み合わせて完成品になると、キャビネットの型番の記号CがDと変わって、D50S7R及びD50S8Rとなる。S7RとS8Rは低音は共通だが、高音用ユニットが全然違うもので、S7Rは2ウェイ、S8Rは3ウェイになっている。
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オリムパスは1960年に市販された。最初の形は完全密閉型で、S7システム(S7RからPR15を除いたもの)専用のエンクロージュアだった。パッシヴ・ラジエーターが加えられたのは1965年、そしてS8Rが加えられたのはその一年後のことで、ほんらいS7Rがスタンダードの組合せであることがわかる。実際、LE15AとLE85とのすっきりした2ウェイで構成されたS7Rの方が、音のバランスのよさでS8Rにまさるように思われる。S8Rでは、JBL最高の中高音用375ドライバーを使っているところがミソなのだが、あの大きな375をオリムパスに押し込むために、かんじんのホーンに、まるで土管みたいにずん胴で短いHL93型ホーンを組み合わせているので、375独特の中音の滑らかさが充分に発揮されにくい。
そこでS7Rの中高音の音質だが、JBL特有の夾雑物のない鮮明な、低音同様に歯切れのよい、一切のあいまいさを拒否した澄明感にあふれている。しかしそれだけに、JBLのスピーカーは雑な鳴らし方をすると、荒くとげとげしい、ぎらぎらした音質に変わりやすく、乗りこなしのむずかしいじゃじゃ馬的な要素を多分に持っているために、多くの人たちがJBLの音をそうしたものと誤解しているようだ。たとえばオリムパスの場合でも、高音のレヴェル・コントロールを、ミニマムよりもさらに一段絞り込みたい感じで、とくに小住宅では、中~高音のユニットにさらにアッテネーターを加えて、もう3dBほど絞った方が、バランスの良い音質が聴かれる筈だ。
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オリムパスはまた、内容や音質ばかりでなくデザインの素晴らしさでも一頭地を抜いている。とくに木工のよさ、中でも特徴のある組格子のの、繊細でしゃれた雰囲気は類が無い。理屈で押して筋が通り、音を聴いて素晴らしく、それが見事な意匠に包まれているという、これが名器というものだろう。
先日、ある美術全集の中で、伊達政宗の建立になるという国宝、端厳寺の玄関花頭窓のパターンが、全くオリムパスの組子のそれであることをみつけておもしろく思った。桃山期の日本の建築の文様が、現代のアメリカの工業製品に生きている。こんなところにも、オリムパスの意匠に日本人が惹きつけられる何かがあるのかもしれない。
オンキョー F-500A
ダイヤトーン DS-34B, DA-44UA
パイオニア CS-300
岩崎千明
スイングジャーナル 4月号(1970年3月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
ライバル・メーカーのブックシェルフ・スピーカーの追求にあって永年ハイファイ・スピーカーの専門メーカーとして君臨していたパイオニアの牙城がおぴやかされたのが3年前。CS10というブックシェルフ型の国内製品最高の名作が王座をゆるぎないものとしてきたが、最近の各社ブックシェルフ・タイプ・スピーカーの見覚ましい改良で新型はますます向上していることはご存知の通り。それに対抗して、パイオニアが専門メーカーとしての面目を、スピーカー・メーカーのめんつにかけて発表したのが新シリーズCS700、CS500、そして今度のCS300である。
FBコーンと称した新したコーン材料は、米国のJBL、アルテック社などのそれらと同じ低すき紙によりコーンの繊維が従来のものとはくらべものにならぬくらい丈夫さを増すことになり、軽く薄い外国製スピーカーと同じコーン紙を完成させることを可能とした。従来のウーファーとはコーン重量も格段に軽くなって、ウーファーの受持周波数をはるかに越える範囲まで歪率を押えた上でレンジも拡げられたという。これが新シリーズのスピーカーの音を従来のパイオニア・ブックシェルフを一変してしまった。ウーファーのこの向上は他社の場合よりもパイオニアにおいては条件としては技術的にはるかにむつかしいものを克服しなければならないことは予想ができる。というのは米国のARのオリジナル・ブックシェルフと同じ、ウーファー方式、つまリアコースティック・サスペンション方式に準じた完全密閉式のブックシェルフ型は、パイオニアのブックシェルフと、クライスラーのそれだけであり、密閉式の新作中におけるコーン紙に加わる内部空気圧の変化と圧力は他社のバスレフ型や、それに準じた形式にくらべてはるかにきびしいものであることは容易に想像でき、それを克服するためにはコーンの硬度というか丈夫さは一段と高いものを要求されることとなる。
これを完全に解明して完成したFBコーンは、パイオニアのブックシェルフ・スピーカーを大きく前進させたのである。
新シリーズのスピーカーが従来、ややもすると「品がよい」という言葉のもとに触れられなかった再生音のいきいきとしたVIVAな魅力をパイオニアのスピーカーにも与えることになったのである。
ジャズにおいては、特にこの楽器のいきいさした活力が欲しい。ジャズ再生の決め手といえるが、この新鮮な感覚であり真の手ごたえである。そして、今度の新シリーズがこの点で今までになく向上したのは、ジャズを生活の中に取入れているオーディオ・マニアとしてこんな喜ばしいことはないといえよう。
CS700が高音にマルチセラー・ツィーターをそなえ、CS500がコーン型ツィーターでともに中音コーン型の3ウェイである。
今度、発売された普及型の300は、2ウェイだ。20センチ・ウーファーとコーン型ツィーターで構成され、ちょうどAR4とよく似たものである。AR4の音がおとなしくプログラムソースを選ばずに品のよい音を出すが、類をみないほど低能率でアンプのボリューム設定点が全然達ってしまうくらいにレベルが落ちこんでしまうのにくらべ、パイオニアのCS300は一級品のシステムにくらべても損色ないほど高能率だ。そしてこのCSの需要層を考えるとき、スピーカーの高能率はなににもまして嬉しい。あまりパワ一にもゆとりをゆるせない、どちらかというと比較的普及型クラスのアンプと組み合せても十分なエネルギーを保たれ、しかもこの位の小型スピーカーでは苦手の低音域において豊かさといい、スケールといい実に見事である。低音域から中音域にかけての鮮明度の高いサウンド。アタックのきれのよさ、そして高域の澄んだ迫力。この小型ブックシェルフの傑作が1万円という価格で市場に出たことを柏手をもって迎えたい。
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