菅野沖彦
スイングジャーナル 5月号(1970年4月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より
JBLの三字を書けば、このスピーカーの名門についての説明は必要あるまい。ジェームス・ビー・ランシング・サウンド・インコーポレイションはアメリカ、カリフォルニア州、ロスアンジェルスにあるオーディオ・メーカーである。J・B・ランシング氏がその創設者だが、彼はもともとアルテック・ランシングのエンジニアであった。そしてアルテック・ランシングも同じカリフォルニア州、ロスアンジェルスの郊外にある。従って、アルテックのスピーカーとJBLのそれとは、もともと同じ技術の流れをくむものである上に、同じ風土で誕生したものだ。
JBLのスピーカーはずいぶん多くの種類があるが、このランサー101というシステムは高級システムとしてもっともコンパクトなもので、その端正な容姿がそのまま音の印象につながるといってもよく、音と形が見事に調和した傑作だ。14インチ口径のLE14Aと音響レンズ付ホーン・ドライバーのLE175DLHをLX10ネットワークで、1、500Hzでクロスオーバーさせた2ウェイ・システムで、マーブル・トップ(大理石)の、きわめてリファインされたエンクロージュア一に収められている。
LE14Aは小型エンクロージュアーで十分低域まで再生されるように設計されたQの小さなハイ・コンプライアンス・ウーハーであり、LE175DLHは、すばらしい特性をもつLE175ドライバーと音響レンズをもったホーン1217−1290とを組み合せたJBLのユニット中の代表的傑作であり、この2つの高級ユニットの組合せを見てもマニアならばぞくぞくするだろう。からっと晴れた青空のように明るく透明な、しかも力感溢れる締った音はJBLサウンドの面目躍如たるものがある。これは、私がよく感じることだし、いろいろな機会にしゃべったり書いたりすることであるが、JBLやアルテックの音を聴くと、その技術の優秀性はもちろんのこと、アメリカのウェスト・コーストに育った音という地理的な、あるいは人文的な環境を思わずにはいられない。イースト・コーストのボザークやARのスピーカーには重々しい音があって、それなりに大きな魅力を感じるものであるが、明らかにウェストの音とちがう。コンテンポラリー・レコードなどウェストの録音と、ヴァン・ゲルダー・サウンドのようなイーストの録音の質のちがいになぞらえては、あまりにもうがち過ぎであろうか……?
ランサー101は、価格からして、決して一般に広くすすめられる製品ではないかもしれないが、もし経済的に多少の無理をしても、このシステムを所有されれば、世界の名器をもつ誇りと、見るからに魅力的なその雰囲気に支えちれて、レコードを聴く楽しみがより充実し、豊かになることは間違いない。そうした名器の中では、このシステムの価格は決して高いほうではないのである。参考までにつけ加えておくと、このLE14AとLE175DLHの2ウェイ・システム(JBLではこれをS1システムという)専用のC51アポロというエンクロージュアーがあって、これは、ランサー101よりぐんと大きく、音のスケールは一段と増す。もっともエンクロージュアーだけで、ブックシェルフ・システムのランサー77よりはるかに高いので一般的ではないが、特に関心のある方のためにつけ加えておく。ランサー101はバランスのとれた第一級の音だが、部屋によってはやや低音感が不足するかもしれないので、アンプでブース卜してやるとよいだろう。パワフルなドライヴには抜群のパーフォーマンスを示し、
しかもロー・レベルでの静的な再生にも気品のある繊細な味わいを再現するという数少ないシステムの一つであるこのランサー101、機会があれば是非一聴することをすすめたいし、お金があれば思い切って買っても絶対に後悔はしない価値がある。
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