井上卓也
ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より
小柄ながら、滑らかで、粋な音を聴かせてくれるスピーカーである。エネルギッシュなサウンドを求めるむきには適さないが、小編成のクラシックからジャズまでは楽しい。
井上卓也
ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より
小柄ながら、滑らかで、粋な音を聴かせてくれるスピーカーである。エネルギッシュなサウンドを求めるむきには適さないが、小編成のクラシックからジャズまでは楽しい。
瀬川冬樹
ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より
非常にスムーズなレスポンスで滑らかな中~低音を聴かせる名作ユニット。ハイコンプライアンス型独特の低域端の重さを、使いこなしでどうカヴァーするかがキーポイント。
井上卓也
ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より
能率は、あまり高くないが、ESL独得の清澄な音は、他に求められない魅力である。セットする場所的な制約は多いが、小音量で、室内楽などを聴くためには絶品である。
井上卓也
ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より
特長のあるプロポーションをもつフロアー型の新機種である。能率が高く、トータルのバランスが優れているのが魅力で、かつてのテクニクス4などを思い出させる音と思う。
岩崎千明
スイングジャーナル 3月号(1975年2月発行)
「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ・システム紹介」より
アルテックのシステムは、本来、シアター・サウンドとしての名声があまりに大きいため、その家庭用システムの多数の傑作も名品も、どうも業務用にくらべると影がうすい。それは決してキャリアとしても他社に僅かたりともひけをとるどころではないのに。つまり、それだけ業務用音響システムのメーカーとしての「アルテック」の名が偉大なせいだろう。
だから、アルテックの名を知り、その製品に対して憧れを持つマニアの多くは、アルテックの大型システムを揃えることをもって、アルテック・ファンになることが多い。そうなればなるほど、ますますアルテックは若いファンにとって、雲の上の存在とならざるを得なかった。
「ディグ」の日本市場でのデビューと、その価値は、実はこの点にある。
「ディグ」のデビューによって、初めて日本のアルテック・ファンは、すくなくとも若い層は、自分の手近にアルテックを意識できるようになったといってもいい過ぎでない。
「ディグは」小さいにもかかわらず、安いのにかかわらず、まぎれもなく、アルテックの真髄を、そのままもっとも純粋な形で秘めている。アルテックの良さを凝縮した形で実現化したといった方が、よりはっきりする。
「アルテックの良さ」というのは、一体何なのであろうか。アルテックにあって、他にないもの、それは何か。
アルテックは、良いにつけ、悪いにつけ、シアター・サウンドのアルテックといわれる。シアター・サウンドというのは何か。映画産業に密着した米国ハイファイ再生のあり方は、どこに特点があるのだろうか。
もっとも端的にいえば、映画の主体は「会話」なのだ。映画にとって、音楽は欠くことができないし、実況音も、リアル感が大切だ。しかし、より以上に重要なのは、人の声をいかに生々しく、すべての聴衆に伝えるか、という点にかかっている、といえるのではなかろうか。
だから、アルテックのシステムは、すべて人の声、つまり中声域が他のあらゆるシステムよりも重要視され、大切にされる。それらは絶対的な要求なのだ。だからこそアルテックのシステムが、音楽において、中音域、メロディーライン、ソロ、つまりあらゆる音楽のジャンルにおいて、共通的にもっとも大切な中心的主成分の再生にこの上なく、威力を発揮するのだ。
音楽を作るのも、聴くのも、また人間であるから……。
「ディグ」の良さは、アルテックの真価を、この価格の中に収めた、という点にある。きわめて高能率なのは、アルテックのすべての劇場内システムと何等変らないし、そのサウンドの暖か味ある素直さ、しかも、ここぞというときの力強さ、迫力はこのクラスのスピーカー・システム中、随一といっても良かろう。
その上、システムとしての「ディグ」は、マークIIになってますます豪華さと貫禄とを大きくプラスした。
「ディグ」の使いやすさの大きな支えは、高能率にある。平均的ブックシェルフが谷くらべて3dB以上は楽に高い高能率特性は、逆にいえば、アンプの出力は半分でも、同じ迫力を得られることになる。システム全体として考えれば、総価格で50%も低くても、同じサウンドを得られるという点で、良さは2乗的に効いてくる。
つまり割安な上、質的な良さも要求したい、この頃の若い欲張りファンにとって、「ディグ」こそ、まさしくうってつけのシステムなのだ。
アンプのグレード・アップを考えるファンにとっても、「ディグ」はスピーカーにもう一度、視線をうながすことを教えてくれよう。パワーをより大きくすることよりも、システムをもうひとそろえ加えて、2重に楽しみながら、世界の一流ブランド「アルテック・オーナー」への望みもかなえてくれる夢。これは「ディグ」だけの魅力だ。
内容外観ともにガッツあるシステム
キミのシステムに偉大な道を拓く点、グレード・アップにおける「ディグ」の価値は大きいが、ここでは「ディグ」を中心とした組合せを考えてみよう。
アンプはコスト・パーフォーマンスの点で、今や、ナンバー・ワンといわれるパイオニアの新型SA8800だ。ハイ・パワーとはいわないが、まず家庭用としてこれ以上の必要のないパワーの威力、それをスッキリと素直なサウンドにまとめた傑作が8800だ。
パネルの豪華さという点でも、8800は文句ない。やや大型の、いや味なく、品の良ささえただようフロント・ルック。ズッシリと重量感あるたたずまい。
「ディグ」とも一脈相通ずる良さがSA8800に感じられるのは誰しも同じではなかろうか。
チューナーには、これもハイ・コスト・パーフォーマンスのかたまりのようなTX8800。
もし、キミにゆとりがあればSA8800の代りにひとランク上の、最新型8900もいい。チューナーは同クラスのTX8900でも、8800でも外観は大差ない。
プレイヤーとしては、同じパイオニアからおなじみ、PL1200もあることだが、今回はビクターの新型JL−B31を使ってみよう。ハウリングに強いのもいい。
カートリッジもこのプレイヤーにはひとまず優良品と
いえるものがついている。
デザイン的にも、また使用感も一段と向上したアームは、仲々の出来だ。このアームをより生かすカートリッジとして、スタントンを加えるのも楽しさをぐんと拡大してくれる。600EEあたりは価格・品質は抜群だ。
出ッとしてマニアライクなオープン・リールの新型、ソニーTC4660を推めようか。
岩崎千明
スイングジャーナル 12月号(1974年11月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
この秋の新製品の中でも文句なしの出来と認められているのが、このダイヤトーンの新型システムDS28Bだ。
ダイヤトーンは、言うまでもなく、初心者にとっては名作といわれる16センチ・フルレンジ型ユニットP610のブランドとして良く知られ、オーディオ・ファンとしてそろそろ判ってくると、これまた日本の名作スピーカーDS251という名のブックシェルフ・スピーカーのブランド名として忘れられない名前となっており、さらにマニア度が昂じてくると、今度はNHKで活躍し本格派にとって目標とされるモニター・スピーカー2S305のメーカー名として脳に叩き込まれる。
つまり、オーディオ・ファンのあらゆる層に対して、ほんの、しかもオーディオという事象が日本で始まった時から、僅かでも絶えることなく、偉大なるウェイトと輝きをもってファンの上に聳え続けてきた。こうした事実は、三菱電機郡山音響部というより、ダイヤトーン・スピーカーの実力の高さを示す以外なにものでもないのだが、メーカーにとってはかえって不幸となるべき要素も胎んでいるのである。3つのピークが永い年月を乗り越えてきたので、あまりにも大きく裾が広く、まさに壮大というほどの輝やかしいものだから、その他の峰はすべて霞んで、いかに光ろうと、目立つことがないからだ。
かつてDS301という画期的な名作ブックシェルフがあった。決して影の薄い商品ではないし、現在でも、そのマイナー・チェンジ版がDS303として確固たる座にあり、海外誌でしばしばこのうえなく誉め讃えられてきた。にもかかわらず、DS301やDS303は果してDS251ほどの人気を持っているかというと、答えるまでもなく、P610と、251と、305の輝きの下で霞んでしまっているとしか形容できないのである。まだある。DS36Bというフロア型ともいえそうな大型ブックシェルフ・スピーカー・システムが、一部のファンの間で熱愛されているが、これまたDS251の前には商品としてすっかり薄れてしまう。つまり余りに3つの印象は大きく強烈なのである。そうした内側の問題ともいえそうな3つのピークは今秋遂に打破られた。そう言っても言い過ぎではなかろう。それは時間が証明するだろう。
かくて、DS251以来の、それ以上の出来をささやかれ、認められつつあるこのDS28Bは、今後のダイヤトーンの最も主力たるスピーカー・システムとなるであろうことは、まず間違いない。というのは、今やコンポーネントの一環としての、市販スピーカーは、ひとつの価格水準として、ほぼ4万前後がオーディオ・ファンの最も多くから認められる最大公約数といえるからである。もっとも、そうした最近の状況をよくわきまえた上で企画されたのがDS28Bであり、その成功を獲得するための、あらゆる条件を究めつくした結果と言うこともできる。
28Bは一見したところ、従来のダイヤトーン・スピーカーとはまったく異って、現代的なセンスに溢れる。まるで海外製品のようだ。更に前面グリルをはずしても、それが言える。
あるいは全世界の製品中、最も秀れた外観的デザインと云われる米国JBLのブックシェルフと間違えるほどに、フィーリングが相似であるのは今までの三菱というメーか−を知るものにとり、その製品の武骨な外観を見てきたものにとって意外なほどだ。その次に音に触れると、それは感嘆に変わるだろう。なんと鮮明な、なんと壮麗で豪華なサウンドであろう。そこにはブックシェルフ型というイメージはまったくない。もっと10倍も大きなシステムからのみ得られる、深々とした重低域の迫力と、歪を極端に抑えた静けきと、生命力の躍動する生き生きとした力とが、まったく見事に融合して湛えられているのを知るのである。音のバランスは確かにDS251と相通ずるものがあるが、その帯域の広さと音のゆとりとの点で一桁も二桁も高い水準にあり、DS251たりといえども28Bとは比べむべくもないほどだ。音像の確かさと広いステレオ感などとやかく言うこともあるまい。必ずや28Bは251を軽く凌ぐ人気と実績をものにするだろうから。
菅野沖彦
スイングジャーナル 12月号(1974年11月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
JBLがL26ディケイドという普及型のスピーカー・システムを出したのは、そう古い記憶ではない。今は値上りしてしまったが、発売当初は7万円ぐらいで買えたので、大きな人気を呼んだ。たしかこの欄でも私が採I)上げたと思うが、普及型ながら、まぎれもないJBLのクォリティをもった優れたスピーカーであった。アメリカでも好評であったらしく、今度、このディケイド・シリーズを上下に拡大し、L16、L36というニュー・フェイスが登場したのである。このシリーズの開発は、私の知る限りでも、かなり長い時間をかけており、ロスのカシタス・アヴェニューにあるJBL本社の試聴室には、そのプロト・タイプが前から置いてあった。昨年の春、同社を訪れた時にも、それを聴かせてもらって、その発売を楽しみにしていたものである。この1〜2年、小型ブックシェルフ・スピーカー・システムはヨーロッパ・メーカーから続々と優れたものが発売され、世界中で好評を得たというバック・グラウンドが、JBLにも、ディケイド・シリーズの拡大を考えさせる刺戟になったことは疑いない。ヘコー、ブラウンなどの製品が、同社の試聴室にあって、L16のプロト・タイプとの比較試聴に使われていたことからも、こうした事情がわかろうというものだ。
この秋になって、ようやく輸入発売されたL16を試聴してみて、さすがにJBL! という感概を改めてもったほど、この小さな〝ジャイアンツ〟は私を魅了してしまったのである。27×49×26cmという小さなエンクロージャーに収められたこの2ウェイのコーン・スピーカー・システムの音は、とても外観から想像できないスケールの大きさと、本格的なJBLクォリティーを備えているものであって、JBL製品の成功作といってよいと思う。JBLといえども、稀れには失敗作と思える製品を発売してしまうこともあるが、そのほとんどは、最高級のJBLシステムに通じる音の質感をもっていることは見事というほかはない。ほとんどのスピーカー・メーカーからの製品は、同シリーズといえども、全く異質な音を出してみたり、ましてや、発売時期に2〜3年と隔りのあるものや、使用ユニットやエンクロージャーのサイズが違ってしまえば同質のサウンドを聴かせてくれるものはないといってよい。スピーカーというものの赦しさをそのたびに感じさせられるものである。しかし、JBLは、コーンの2ウェイからホーンを使った3ウェイに至る多くのバリエーションが見事に同質のサウンドで貫かれているということは驚異といってよいくらいである。明るく、解像力に富み、屈託のない鳴り方は音楽の生命感や現実感を見事に浮彫りにして聞かせてくれる。濁りのないシャープな音は、時にあまりにも鋭利で使いこなしの難しさに通じるが、使用者が、自分の理想音を得る場合の素材としては、これほど優れた正確なものはないと思えるのが、私のJBL観である。可能性というものをこれほど強く感じさせてくれるスピーカーは他にはない。ほとんどの所で聞くJBLスピーカーの音は、その可能性を発揮していないといってもよいので、一部ではJBLスピーカーが誤解されているようにも思えるのである。
さて、このL16は、20cm口径のウーハーと3・6cm口径のコーン・ツイーターの2ウェイで、ウーハーは新設計のものだが.ツイーターはL26、L36、L100、4311モニターに共通のダイレクト・ラジエーターである。エンクロージャーはバスレフ型だ。JBLのユニット群は同社がスピーカー・ユニット製造の長年の歴史から得た貴重なノーハウと、確固たる信念にもとずいた、磁気回路、振動系の設計製造法によっているため、新しいシステムを出した時にも、全く別物のようなサウンドにならないといってよいだろう。それでもなお、ユニットの組合せ、エンクロージャーの違いによって、そのまとまりに出来、不出来が生じることもあるのだから、スピーカーというものは難しい。L16は、前にも書いたように、きわめて幸運?なまとまりが得られたシステムとなった。許容入力は連続で35W、音庄レベルは75dB(入力1Vで4・57mに置ける測定値)だが、ドライブするアンプは、50W×2ぐらいのパワーは欲しい。こんな小さなシステムでありながら、プリ・アンプやパワー・アンプのクォリティーを完全に識別させるほどの実力をもっているからである。
岩崎千明
スイングジャーナル 11月号(1974年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
「オンキョーの新製品」といわれるまでは、それを知らないものはてっきり米国製新型システムかと思い込むだろう。また、このオンキョーのE212Aを見知っているのがJBL・L16に接すればオンキョー製と間違えるに違いない。それほどまでよく似た外観だが、どちらが先か、 といわれると指折り数えて月日を改めたくなるほどに同時期の新製品なのだから、お互いに真似たわけではないだろうし、おそらく偶然の一致なのだろう。
しかし、オンキョーE212Aは、戦後いち早くスタートした同社のスピーカー専門メーカーとしての永いキャリアにおいて、おそらく始めて海外製品を意識して企画され、作られたスピーカー・システムなのではなかろうか。
この数年、日本のオーデイオ市場における海外製スピーカーの人気はすっかり普及化し定着した。その背景からヒット商品のデビューのあり方も国産品なみで、爆発的な人気と売り上げは、国内のメーカーのライバルとして対象にならないわけがないだろうから、オンキョーのこうした意図は当然かも知れぬ。
しかし似ているのはサウンドと外観だけであって、決して内容や機構ではない。日本製品の一般的あり方を考えると、これは讃えられるべきといえる。ヒット商品が出れば、あらゆる点においてそれに追随する、という製品が多いのだから。
E212Aのフロント・グリルの内側には2本の16センチ・コーン型ユニットと1本の逆ドーム型トゥイーターとが収められ、一見、ヨーロッパ製ブックシェルフによくみられる並列に接がれた2ウーファーを思わせるが、実は単純な並列駆動ではなくて、一本は高音ユニットとクロスオーバーさせて、中音以下を受け持ち、もう1本だけが低音域のみに対して動作するという、つまり、エネルギーの不足になりやすい低域においてのみ、2ウーファーとして動作し、中域では2本ではなく1本のみが動作するように配慮されている。これは2つの振動板から放射される音響エネルギーが、完全なるピストン・モーションの範囲にあれば理論的にもスッキリとした音響エネルギーとして受けとれるが、その振動板が分割振動をし始める周波数以上においては、2つの振動板による相互の影響が幅射エネルギーとしての音源のあり方を決して純粋な形にしておくわけがない。初歩的ファンが、単純に受け入れてしまう多数の小型スピーカーを無定見に並べて、並列接続して分割振動の範囲までも動作させるシステムが持つ位相歪に起因する音他の定位のぼける欠点を、このシステムは知っており、2つのユニットに対してすら留意している、ということになるわけだ。
こうした今までのシステムでは見逃されがちの、弱点に対して細心の注意を注いだ結果が、2つのユニットを用いながら、そのクロスオーバーを変えてトゥイーターに近いひとつは中音域から低域まで、もうひとつの下のユニットは、低音用としているわけで、いうなれば3ユニットの3ウェイ的な変り型2ウェイ、というややこしい動作をしているわけだ。しかもこうした大口径ウーファーによらぬ2ウーファーの大きな特長でもある重苦しさの少しもない軽やかで、迫力ある低音は失われることがないのは無論だ。
実は、このE212Aの発売直後に、すでに好評を得ていて、オンキョーのブックシェルフ中の傑作といわれているE313Aと並べて試聴する機会があった。E313Aの重量感もありながら、さわやかさを失なうことのない中音から低域にかけての迫力に対して、E212Aはなんと少しもひけをとらなかったのには驚きを感じたのである。価格において50%安く、大きさにしてふたまわりは小さいといえるこのE212Aが、ふかぶかとした低音をスッキリと出してくれた。
むろん、16センチの中音は、低音でゆすられるのではないかという心配をよそに、力強く、シャープな立上りと明快なサウンド・クォリティーで、いつもオンキョーのシステムに対して感じられる品の良さの伴った充実ぶりで、心おきなく楽しめるし、音域ののびもまた十分。つまり内外含めてライバル多きこのクラスの中にあって実感度の高いシステムと断言できよう。
岩崎千明
スイングジャーナル 10月号(1974年9月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
白い小さな現代的な姿のシステムが、広いけれど数多いパーツがその空間の多くを占めるSJ試聴室の正面にちょこんと据えられると、ひどくスッキリと目立つ。ただ、左右に2本置かれているだけでたいへんしゃれたたたずまいである。
白いシステムの、後側に嫌み上げられたたくさんのシステムが、やたらに大きく感じられ、ぶっきらぼうなくらいに実用むきだしの体裁にみえる。
アドヴェントIIの四隅をほんの少々丸みを持たせた小さな箱がこの上なくまっ白であるのは、それが塗装ではなくプラスチックのためだ。プラスチックの箱というと、これはまたただプラスチックというだけで価値も見映えもおそまつな感じを受けてしまいがちなものだが、このアドヴェントIIにおいては、プラスチックといわなければそう気がつかないほどに品のある仕上げだ。まっ白なので、塗装でないとすれば素材の色だろうし、その素材としては常識的に塩化ビニール・プラスチックにきまっているのに、そう見えないのは、その表面がきめ細かい艶消し仕上げだからだ。もっともそれだけではなく、板との2重張りの箱は工作上も現代工芸的イメージだ。さらにそれを決定的にするのは、この小さな箱に収められた20cmウーファーとドーム型の2ウェイ・システムのサウンドであろう。
とてもこの大きさが信じられない程の太くゆったりした低音の響き、それとバランスよく釣合って鮮かに輝くような高音のタッチだ。
この快く豊かなエネルギーが、聴き手をつつむとき、それは姿態通りの現代的なセンスに満ちたシステム。単にスマートなデザインというのではなく、しゃれた雰囲気がぴったりの小型システムなのだ。
この一見、いかにも現代ヨーロッパ調のイキなシステムは、かくのごとく、サウンドの上でも、西独製の新進ブランドのスピーカー・システムを思わせるにもかかわらず、なんと米国製のスピーカーなのである。
アドヴェントは、すでにこの4年間米国の新しいブックシェルフ・システムの名として、コンシュマー・レポート誌において絶賛され、BestBuy(最高のお買い物)に選ばれて以来先輩格のARやKLHに並ぶロング・ベストセラーを続けているシステムだ。このアドヴェントはARやKLH同様、米国スピーカーの中にあって、生粋のイースト・コースト派で、いわゆる品がよくて万人向けの優等生的サウンドのシステムだが、その中でもアドヴェントは高音に鮮かさを加えている点と、価格的にもっとも安い点で、いかにも現代的だ。
アドヴェントには「レギュラー・アドヴェント」と「スモーラー・アドヴェント」のただ2機種のみしかなかったが、この新しいシステムが「アドヴェントII(ジュニア)」として登場してからはまだ間もない。つまり、アドヴェント・システム中の新顔なのだ。
この数少ない製品から「品種をやたら増やすことのないメーカーの姿勢」が感じられるが、アドヴェントIIは、それなりの理由があって加えられた新製品だ。
それなりの理由とはなにか。それをこの現代的デザインの白く小さな姿が物語り、コンチネンタル・サウンドを思わすこの響きがそれを示そう。
アドヴェントIIは、明らかに従来のアドヴェントの、今までの米国製スピーカーから突き抜けた企画で創られた「新しいシステム」なのである。
このシステムが、西独でもなければ、英国でもないし、北欧でもなくアメリカから生れた、という点に、大きな意義があるというのである。
アドヴェントはすでに、米国市場において大成功を収めているが、アドヴェントIIのデビューによって、アドヴェントの新たなるファンが大いに増えることは間違いなかろう。アドヴェントが狙うファンは、ヨーロッパ製システムを予定していた、センスフルな若者なのだから。それはちょうど、クルマでいえば、ワーゲンを買おうとしていた若者ともいえるし、ありきたりのアメリカの良識にあき足らない感覚を満たすに違いない。そして、日本市場でもまったく同じ意味でアドヴェントIIは、大いにファンを獲得するに違いない。アメリカと違うのは、このアドヴェントIIによって日本市場で初めてアドヴェントが本格的に腰を据えるだろうという点である。
岩崎千明
ジャズ 8月号(1974年7月発行)
一般大衆向きの志向が強くて「確かに悪くはないし、誰にでも勧められ、誰にも否定されないけれど、しかし魅力がうすい」といういい方で判定されてしまったのがパイオニアの音響製品のすべてであった。
パイオニアほどの巨大企業となれば、確かに商売の目標としては一般大衆を狙わざるを得ないし、そうなれば最大公約数的に「良い音」をきわめた製品こそがメーカーの考えるサウンド志向であろう。
そうした姿勢が次第にポピュラー化したあまり、真の良さ、魅力ある製品からずれてきて、かけ離れた存在となるのは明らかであり、永い眼でみればメーカーの衰退にまでつながり得る。事実最近二年間のパイオニアの営業成績は以前にも増して爆発的なのに、その製品は、商品として成功していても本格的マニアの眼からは魅力は薄いといわざるを得ない。こうした危惧にメーカーは気付いていないわけではなかった。
その回答がSA6300アンプであり、TX6300チューナーである。
このやや小ぶりながら端正といいたいほどにシンプルなパネルのアンプは、メカニズムとしても、確かに今までのアクセサリー過剰な国産アンプの傾向を促進してきたパイオニアの、今までの姿勢をまったく捨て去ってしまったようだ。
切換スイッチにしても数は少ないし、ここには入力切換のポジションが3つしかない。近頃常識化している2回路のフォノを捨て、ステレオ切換のモードスイッチもない。だが、そのシンプルきわまりないパネルに外形に似合わず大型のつまみを二個配したデザインは迫力を感じるほどに力強い。
そうだ、この力強さは、そのまま、この小ぶりながら20/20ワットの大きいパワーに象徴される。力に満ちたサウンドは、立上りの良いクリアーな分解能力と、かえって妙に生生しい自然感のあるプレゼンスを感じさせる。
20/20ワットの出力は、常識的にいって、五万円台のアンプのものだが、このパイオニア6300は、なんと三万円をほんの僅かだが切った価格だ。驚異といういい方で、すでにオーディオ誌に紹介されているのは、このパワーにおいてたが、実はパワーそのものではなくてサウンドのクオリティに対してなされるのがより適切であろう。
だまって聴かされれば、このアンプの音は五万円台のそれに違いないのである。
このアンプと組合せられるべきチューナーTX6300については、二万四千八百円という普及価格ながら今まで七万円クラスのチューナーにのみ採用されたパイオニアの誇るPLL回路が採り入れられて、ステレオ再生時において、ここに画期的なSNレベルが獲得されている。このひとつを注目して、他はいうまでもない。優れた特性を普及製品に盛り込んだパイオニアの、まさに脱皮したとしかいいようのない魅力溢れる製品なのである。
そしてこのパイオニアの新しい姿勢を示す製品をもうひとつ加えよう、CS−W5だ。二つの20センチウーファーに一見コーン型だが新マイラーダイヤフラムを具えた高音用の2ウェイ3スピーカーシステム。この二万九千八百円のスピーカーは、価格的にこれと匹敵する海外製品とくらべても少しも遜色ないというよりもパイオニアの方こそが海外製品ではないかと思えるサウンドとプロポーションとを持ったヤング志向の製品だ。
菅野沖彦
スイングジャーナル 8月号(1974年7月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
ムッシュ・キャバスによって1950年創立されたフランスの音響機器専門メーカーについては日本ではあまり知られていない。従来、製品が本格的に輸入販売されていなかったからである。今回、試聴する横合を得たサンパン・リーガー31000というシステムが、私にとっては同社の製品との初対面であった。
キャバス社は資料によると、もともとスピーカーの専門メーカーとしてスタートし、その後アンプにも着手、主にプロ機器を手がけてきたメーカーである。ヨーロッパではかなりの実績をもつメーカーなのである。このブックシェルフ・システムを聞いても、並々ならぬ実力が感じられるのである。生産は比較的小量らしく、入念な作り方をされているようだが、素朴ともいえる何の変哲もないシステムに見えながら一度音を出すと、その素晴しさ、オリジナリティの美しさに、すっかり魅せられてしまった。
3ウェイ3スピーカーで使用ユニットはオール・コーン、63×40×31(cm)の比較的大型のブックシェルフ・システムである。外見上変っているところといえば、ハイ・フリクエンシー・ユニットのボイス・コイル・ボビン前面に、普通ならダスト・カバーか、それ兼用のドーム型のキャップがつけられているが、この製品では、それが円筒状のプラスチック製キャップつきのポールピースとなっているくらい。しかしコーン紙の質はよく見てさわるとなかなかユニークで、どこかしっとりとした感触をもっていて、適度な内部損失を推測させる。深いコーンをもったウーハーのエッジ・サポート部分などにも一見それとわからぬが細かい工夫と独創性がある。特に上出来とはみえないエンクロージャーだが、材料と構造には豊かな経験とデータの蓄積が生んだ吟味が感じられる。バッフルへのユニット取付にもフェイズを充分考慮に入れた跡が感じられ、このメーカーの質の高さが理解できる。一見きわめて無雑作でありながら、ポイントだけはしっかり押えられたかなり緻密な科学技術力による設計生産品であることが感じられた。
3ウェイのレベル・アッテネーターはなく各ユニットのレベル・バランスは調整不能であるが、これにも同社の強い姿勢を感じる。こんなところに金をかけて、基準を失うようなことはする必要なしといわんばかりである。しかし、プロ用ならともかく、一般用として、特に輸出までするとなると、どんな再生条件になるかわからないのだから、中高域のレベル・アッテネーター(ノーマルから±に増減できるもの)はやはり必要だと思う。
ところで、この音についてもう少し詳しく感想を述べると、私にはやはりフランスの音という個性が感じられてならない。メーカーとしては無響室データーを基準につくっていて、特に意鼓した個性的表現はおこなっていないというかもしれないが、この音は明らかに一つの美しく強い個性である。センスである。ふっくらと豊かで透明な中音域の魅力! 音楽のもっとも重要な音域が、こんなに充実して味わい深く鳴るスピーカーはめったにない。楽器がよく歌う。もちろん、低音も高音もよくバランスしているからこそ、調和した美しさが前提でこそ、こうした中域の魅力が語られ得る。まるでルノアールの女像のように水々しく柔軟でいて腰ががっしりしている。ジャズをかけても大きなスケール感も、微視的に拡大するシンバルやハイ・ハットの質も、ベースの弾みも、リードやブラスの歌も文句ない。それでいて全体に潤沢で、輝かしく、しかも特有のニュアンスを持つ。色合いは深く濃い。しかし、決してくどくない。モーツァルトのデュポールのヴァリエ−ションが素敵な佇いと、うるわしいとしかいいようのないソノリティで私を魅了してしまったのである。全く別な持味で私を魅了したブラウンのスピーカーと対象的に、惚れこんでしまったのであった。惜しむらくは、エンクロージャーのデザイン、フィニッシュが一級とはいえないことだ。ウォルナット、チーク、オーク、マホガニーという4種類の仕上げが用意されているらしいが、実際に4種共が輸入されるかどうかは知らない。今回聴いたものはチーク・フィニッシュのものだった。
このスピーカーの高い品位を十分に発揮させるためには、優れたハイ・パワー・アンプが必要だと思う。試聴はマッキントッシュC28、MC2300というコンビでおこなったが、ピークで1150Wはラクラクと入る。このスピーカーの許容入力は35Wであるが、これはコンティヌアスなマキシム・パワーであるから、瞬間的なピークなら、200〜300Wには耐え得る。安全と必要との合致点からみて70〜100Wクラスのアンプがほしいところだろう。
近来、稀に得た、フレッシュな音の世界の体験であった。
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