Category Archives: スピーカーシステム - Page 2

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 日本のスピーカーには、日立、東芝、三菱といった、いわゆる家電メーカーがトップランクの独自の技術を活かして高級スピーカーの分野で素晴らしいモデルを市場に送り出していた時代があった。このことは、現在の若いオーディオファイルにとっては、予想外の出来事であるであろう。
 しかし若い人でも、第2次大戦後に、NHKの放送局モニタースピーカーの開発を行ない誕生した三菱電機のダイヤトーンブランドのことは、おそらく、知っている人のほうが多いであろう。
 マランツ用OEMスピーカーとして開発したモデルのバリエーションタイプが同社民生用システムのスタートであったが、’70年に発売されたDS251は、驚異的なベストセラーモデルとして評価され、愛用されて民生用の地盤固めに成功する。
 同時に、かつてのNHKモニターとして全国的に採用された2S305系の2ウェイ方式・バスレフ型エンクロージュアから、次第にDS251やDS301系のマルチウェイ方式と完全密閉型エンクロージュア採用が同社製品で主流を占めるようになる。そして’80、振動板材料にハニカムコアとケブラースキン材を組み合わせたアラミド・ハニカム振動板(低・中低域用)や新素材ボロン化チタンをドーム型ユニットに採用し、振動板とボイスコイルボビンを一体化したDUD構造の開発(中域・高域用)など、いわば新世代のダイヤトーン・スピーカーとして誕生したのが、4ウェイ構成ブックシェルフ型DS505である。
 この新世代シリーズの頂点として開発されたモデルが、4ウェイシステムのDS5000で、中低域再生能力を高めるために大変に個性的な設計方針でつくられたモデルであった。それというのも、それまでの4ウェイシステムは、3ウェイ方式の中低域を補うために専用ユニットを組み合わせた開発だったのにたいし、本機では、中低域ユニットと中高域ユニットで2ウェイ構成の狭帯域バランスをつくり、これをベースに、いわばサブウーファーとスーパートゥイーターを加えたようなシステムアップしていたからである。ここがDS5000の最大の特徴であり、ミッドバスの充実したエネルギーバランスは、従来にない、大きな魅力であった。しかも、設計思想が最優先され、変換器としては高性能であろうが振動板材料の音が際立ったDS−V9000などの後継作と比較して、余裕タップリに大人の風格で音楽が楽しめる点では、同社の最高作品といえよう。

ビクター SX-1000Laboratory

井上卓也

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 独自性豊かなビクターのスピーカー技術の、文字どおり集大成といえる内容の濃い製品である。
 システム全体の構造から考えれば、底板部分が他の部分と同様に仕上げられているために、六面化粧仕上げのいわゆるブックシェルフ型の分類に含まれるが、独自の非常に独創的な構造を持つベースブロックと、準独立構造の4本の脚部を組み合わせた、中型フロアーシステムというべきモデルだ。この構造は、一見すれば、単純な発想として軽く受け止められているようだが、スピーカーわかる一部の人にとっては、相当にショッキングな内容を含んだ考え方であった。
 なぜなら、現実のスピーカーシステムの設置では、床との相関性をどのように考え、コントロールするかが、最大のテーマであるからである。その結果が、そのスピーカーシステムで聴くことができる、音楽性を決定する部分なのだ。
 SX1000LABのスピーカーと床面との間に介在する、いわゆる、スタンドと呼ばれる部分は、重量級の分厚い木製ベースが床面を安定化するアブソーバー的に働き、かつ、本体、底面と床板面に生じる定在波の影響を抑えようとする構造である。
 このブロックには、4個の円筒形の穴が開いていて、円柱状の4本の脚で、ほぼフリーな状態で本体を支える構造。円筒形の穴の内壁は厚いフェルトが取り付けてあり、各ブロックの相互干渉が少なく、かつ、固有の共振や共鳴が生じ難い特徴を備えている。当然のことながら、スピーカーシステム本体は、底板のサイズさえマッチしていれば、他のスピーカーシステムとの組合せでも固有音の少ない音が聴かれるはず。硬い木材や鉄材を組み合わせ、スタンドの固有音を積極的に活かす設計が多い海外製スタンドとは、完全な逆転の発想である。
 ただし、スピーカー本体の基本設計が、かなり高次元でないと、好結果を期待したとしても、逆にスピーカー自体の弱点を露呈する厳しい構造といえる。
 ユニット構成は、アナログディスクのプレス技術を基盤として開発した独自の振動板材料を使うコーン型ウーファーと、異なった製造方法によるダイアモンド振動板採用のドーム型の中域/高域ユニットによる3ウェイ。重要なネットワーク系の巧妙なレイアウト、内部配線材の吟味、ビクターが独自開発したエステル・ウール吸音材などを、かつては、カットモデルで見ることが可能であった。
 エンクロージュアは準楕円断面を採用し、各部の2次反射を巧みに調整したもので、独自の空間表現を備えている。なお、表面仕上げは非常に凝ったカナディアンメイプル材と丹念な塗装技術によるもので、同社の木工技術の成果を示す。
 豊かな時代の豊かな感性を聴かせる名作であり孤高の存在だ。

ワーフェデール Airedale

菅野沖彦

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 ワーフェデールの「エアデール」は、20代のころの僕の、憧れのスピーカーシステムであった。このスピーカーシステムの開発は、たぶん1950年前後であろうと思われるが、このころ、僕は自作のシステムでオーディオを楽しんでいた。そのスピーカーシステムはまったくのオリジナル発想による3ウェイシステムで、低音は約140cm(H)×80cm(W)×50cm(D)の大型コーナータイプエンクロージュアを、近所の家具職人に頼んで桜材で作ってもらい、これにダイナックスの12インチ・フリーエッジのウーファー(フィールド型)を入れたもの。中音はコーラルの6・5インチ・フルレンジユニットを小型のバッフルボードに取り付けて3基、それぞれ45度の角度をつけたもの。高音は、ディフューザー付きのトーアのホーントゥイーターを真上に向けてセットして、写真印画紙の乾燥に使うフェロタイプ板を天井から斜めに吊るして反射板としたものだった。自分の言うのもおかしいが、このシステムは当時としてはわれながら素晴らしい音で、このままそっくり譲ってくれという人が何人もいたほどだったのである。もちろん、モノーラルシステムであった。
 その後、英国製のワーフェデールの「エアデール」という高級システムを知ることになるのだが、実物を見て驚いたのなんの……。美しいコーナー型エンクロージュアには、12インチ・ウーファー(W12)、8インチ・スコーカー(スーパー8)、3インチ・トゥイーター(スーパー3)が収められているのだが、スコーカーとトゥイーターがエンクロージュア上部に上向きに取り付けられているではないか! つまり僕と同じ間接放射式なのであった! ワーフェデールの創始者で、設計者のA・G・ブリッグスはスピーカーの著書もある音響学者と聞いていたが、その彼が、このようにいわばヘテロドックスとも言える、スピーカーユニットのオフ・アクシスによる間接放射型を、自社のフラッグシップモデルに採用していたのだった。
 じつは、当時、僕は自己流で中高音を間接放射式にしたシステムに、若干の後ろめたさを感じていたのだったが、これを見て、大いに意を強くしたものなのである。エアデールのエンクロージュアは3つのユニットの背面の音がすべてスリットから出るようになっているという徹底した開放型で、しかも、それを十分計算して、中高域のユニットの周波数特性にはわざとピークを作って、音のエッジのメリハリをもたせているのは心憎いところだ。
 僕はこれを、先年、本誌のO編集長の口利きで手に入れたから感激ものである。しかも、ほぼ半世紀近く立経っているはずなのに、2台そろって信じられないぐらいの美しいミントコンディションである。

ダイヤトーン 2S-305

菅野沖彦

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 ダイヤトーン2S305は日本のスピーカーの歴史のなかでの傑作である。これほど、あらゆる点で日本的な美徳を備えたスピーカーシステムはないだろう。
 まず、桜のツキ板張りによるエンクロージュアのラウンドバッフルが見せる、その容姿である。グレイのサランネットと調和したサラッとした? 淡泊な印象。ちょっと見のつまらなさは、飽きの来ない日本的感性以外のなにものでもあるまい。これが作られたのは1950年代だから、こういう日本調が生まれたのかもしれない。いまなら、もっと欧米の影響を受けたものになったであろう。そして、その最大の日本的特色と言えば、なんと言っても音である。
「日本には2S305という素晴らしい製品がある。あんなに綺麗な音のスピーカーを聴いたことはない!」これは’70年代に、デヴィッド・ベイカーというアメリカ人の録音制作家が僕に語った言葉である。そして、そのとき、僕が思い出したのは、夭逝した不世出の名ピアニスト、ジュリアス・カッチェンが、以前、同じような言葉で日本製のピアノについて語ったことである。僕が彼の録音のために用意したスタインウェイDとヤマハの初期のCFを聴き比べた彼は、CFを「こんなに綺麗な音色のピアノは初めてだ!」と言ったのである。
 エキゾティシズムが美の要素足り得るかどうかは美学的には議論のあるところであろうが、僕が大変興味を持っているテーマである。彼らにとって、日本的な音はエキゾティックな魅力を強く感じさせるものではないだろうか? 逆にわれわれは欧米のサウンドには、彼ら以上に強い魅力を感じるのではないだろうか? 自国の文化には、ある意味で透明だからである。日本人の場合、欧米系の文化には基本的に劣等感が染み込んでいることに悲劇があって、オーディオや西洋音楽の美的評価には注意を要すると思っている。
 2S305はダイヤトーン・スピーカーで有名だった三菱電機が、NHKと共同で開発したスタジオモニタースピーカーである。放送用のモニターが主たる設計目標であったが、当時の日本ではNHKの「お墨付き」という技術的権威に裏付けされたエリート・システムであり、いまでは想像できないほどの君臨振りで、録音スタジオなどでも広く使われ、信頼度の高いものであった。当然、これにたいする反発も強く、一部には無味乾燥の音だとか、こんな音でモニタしているから日本の録音は駄目なんだ!などと非難する過激な人達はいたが、これらの意見はオーディオマニアに多かったように思う。バスレフ型エンクロージュアに、30cmのパルプコーンウーファーと、5cmの同じくパルプコーントゥイーターをハイパス・コンデンサー1個でつないだ2ウェイは、当時としては画期的で本格的なシステム設計であった。満開の桜を見るように、端正で、淡泊でいて豪華な響きの音は「はんなり」とでも形容したい上品な佇まいのバランスと音色であって、決して無味乾燥な音などではなかったと僕は思う。そしてなによりも、僕にとって長年にわたる録音制作の仕事に欠かせないモニターとしてなじんでいたものだから、忘れられない懐かしさなのである。

マッキントッシュ XRT20

菅野沖彦

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 マッキントッシュXRT20は1980年以来、僕が愛用するスピーカーシステムである。したがって、もう20年も愛用し続けていることになる。現在は、XRT26というモデルナンバーの製品にリファインされているが、基本設計に変りはない。このXRTシリーズは、マッキントッシュのユニークなアイデンティティに満ちあふれるスピーカーシステムで、他の凡百なスピーカーシステムとは画然と異なる着想から生まれた傑作だと思うのである。
 このスピーカーシステムに出会ったのは’79年9月、チェコ出身の名ピアニスト、故ルドルフ・フィルクシュニーの録音のためにニューヨークを訪れたときであった。
 マンハッタンにあるホーリー・トリニティ・チャーチという教会で、数日間にわたる予定の録音だったのだが、2日目の録音が終わったところで、翌日からの録音予定が2日間延引されてしまったのである。なんでも、その教会の長老が急に亡くなり葬儀を行なうことになったとやらで、録音予定を変更してほしいという教会側からの急な申し入れであった。もともと、無理に頼んで礼拝堂を録音に使わせてもらったわけだから、だまってしたがうほかはない。われわれは予定を2日間延ばすことになったのである。
 僕にとって、ニューヨークへ行ったら連絡を入れないわけにはいかない友人が何人かいるが、その一人が、マッキントッシュ社の社長ゴードン・ガウ氏であった。通常日本を発つ前に連絡するのだが、このときは、1週間の録音だけでトンボ帰りの予定だったので、連絡をすればマッキントッシュ社のあるビンガムトンからマンハッタンに来ると言うだろうから、かえって迷惑をかけるのもどうかと思い、前もって連絡を入れていなかったのである。しかし、2日間空いたとなると、そうもいかない。早速、電話して事情を伝える。案の定、「明日の朝、ホテルにクルマを迎えにやるからニュージャージーからチャーター機でビンガムトンに来てくれないか? 前から話していた例のエキサイティングなスピーカーシステムが、20年かけてようやく完成したんだ! ぜひ聴いてほしい。夕方には一緒にマンハッタンにもどって食事とナイトライフを楽しもう」と言う。この録音にはピアニストの山根美代子さん(フィルクシュニー門下生で後年、大ヴァイオリニスト、シモン・ゴールドベルグ氏と結婚、いまはゴールドベルグ未亡人となられた)がプロデューサーとして日本から同行していた。その旨を告げると、「そのピアニストにもぜひ聴いてもらいたい。よければ一緒に来てくれないか?」ということだったので、われわれは彼の言葉通りに翌日の朝、ビンガムトンに飛んだのである。
 マッキントッシュ社の試聴室で聴いたXRT20には完全にまいった! その音の質感の自然さはどうだ? オーケストラの弦合奏をこのような感触で再生するスピーカーシステムを、僕は、かつて聴いたことはなかった! また、リスニングポジションに関わりなく展開するステレオフォニックな立体感の豊かさと定位の安定感、いままで聴いたことのないスピーカーシステムの特質の数々が、このスピーカーシステムから聴けたのであった。多くの音楽家、とくに女流音楽家の例に漏れず、オーディオにはとくに造詣が深いとは言えない山根女史も、この再生音には、非常に強い印象を持ったようで、現在もXRT18をマッキントッシュのアンプともども、自宅で愛用しておられる。
 翌1980年、XRT20は発売されたが、1958年の45/45ステレオレコードの発売を契機として、当時の、たんにモノーラルスピーカーシステムを2台並べてステレオを聴く状況にたいする、疑問と不満を発想の原点として開発がスタートして以来、じつに、20年かけたステレオフォニックスピーカーシステムの完成であった。
 僕の愛用システムは、「375+537−500」の項で書いたように、1968年以来、JBLのホーンドライバーを中心としたマルチアンプシステムで、時折、他のスピーカーシステムを使ってみても、永く居座る製品はこのXRT20以外にはなかった。それが、すでに20年以上の歳月をメインシステムと共存する状態が続いているというわけである。XRT20の詳細は過去に「ステレオサウンド」本誌でも詳しく書いたし、いまはここにあらためて書く字数の余裕はない。しかし、現在も、その技術的な多くの特徴はまったく色褪せるものではないし、僕にとっては、その後、この音を超えるメーカー製システムは、現われていない。

エレクトロボイス Patrician 600

井上卓也

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 米国のスピーカーシステムには、感覚的なサウンド傾向と音楽的な表現力から考えると、対比的なサウンドを持った、いわゆる西海岸タイプと東海岸タイプが、かつては明確に存在していたように思われる。
 西海岸タイプはウェスタン・エレクトリックの流れを汲んだ、例えばプレッシャー(コンプレッション)ドライバーユニットの振動板材料でいえばアルミ軽金属ダイアフラムを採用したものが多いのにたいし、東海岸タイプは、エレクトロボイス(EV)、クリプシュ、かつてのユニヴァーシティなど、フェノール系のしっかりと焼いた黒茶色のダイアフラムを採用しており、この両者の音質、音色、さらに、エネルギーバランスやトランジェントレスポンスの違いは、しっかりと聴きこめば誰にでも簡単にわかるものであった。こうした好き嫌いを越えた、地域的、文化的な大きな違いが確実に存在することは、簡易単に否定できない現実であろう。
 近代におよび、ブックシェルフ型が台頭してくると、低感度ながら驚異的な低音再生能力をもつようになり、メカニズムそのものの姿・形がストレートに音質、音色、表現力に表われる新世代スピーカーシステムが、沈静した新しい音の世界を展開するようになる。しかし、そのひとつ以前の世代では、JBL、アルテックといった西海岸タイプと、EV(地域的には中西部になるが)、クリプシュの東海岸タイプの音の対比が大変に興味深い話題であった。
 EVはいまはプロ用システムのイメージが強いが、かつてはステレオ時代以前から、ホームユース主体のハイエンドブランドとして、わが国でも揺るぎない地位を得ていた。
 EVの製品もステレオ時代を迎えて全体に小型傾向が進展したようではあるが、ここで取り上げるパトリシアン600は、EVならではの、スピーカーづくりの真髄を製品化したモノーラル時代のオールホーン型コーナーシステムである。
 低域はP・クリプシュが発明した独得な構造のコーナーホーン型エンクロージュアによるもので、部屋のコーナーに設置することで、その能力から考えると非常にコンパクトにまとめられた構造に驚かされる。このエンクロージュアには、当時16Ωが標準的だったインピーダンスを、約4Ωという非常に低いものとした18インチ(46cm)後継の18WKが組み合わされた。
 とくに注目したいのは828HFプレッシャーユニットと折り返し型ホーンを組み合わせたミッドバスで、大型化して実用不可能といわれた中低域ホーンを見事にコンパクトにまとめていることだ。詳細な部分は覚えていないがこの中低域部は、前面と背面双方にホーンが取り付けてあり、これひとつで2ウェイ的な働きをしていたようだ。つまりパトリシアン600は、4ウェイ構成プラスαの5ウェイシステムであったのかもしれない。なお、中高域にはT25系ユニットを、高域にはT35系ユニットを搭載している。
 コーナー型エンクロージュアのメリットで非常にコンパクトな外形寸法で優れた低域再生能力を実現した、とはいうものの現実のパトリシアン600は、じつに巨大なシステムである(実測で高さは150cmを超え、幅は約90cm)。しかしそのサイズを意識させぬ軽妙な表現能力の素晴らしさは譬えようのない、オーディオのロマンそのものである。とくに、忘れてならないことは、旧世代超大型スピーカーシステムのなかでも、ホーン型エンクロージュアと軽量高能率ダイアフラム型振動板ならではの、かけがえのない魅力を本機は色濃く備えている。
 スピーカーシステムの夢と理想に、経費、人材、時間という現代の3悪を無視し挑戦し到達しえた、この壮大なプロジェクトの成果は現代の欠陥の裏返しである。

インフィニティ IRS-Beta

井上卓也

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 ハイエンドスピーカーシステムをつくるメーカーとして、伝統と独自の開発技術を持つ米国のインフィニティは、コンデンサー型スピーカーメーカーとしてスタートをしたという興味深い会社である。
 コーン型、ホーン型、ドーム型など、磁気回路のリング状ギャップの内側にボイスコイルを置き、これに信号を加えて振動板を介して電気音響変換をするダイナミック型が、現在においても、スピーカーユニットの主流を占めるメカニズムだ。
 しかしインフィニティは、静電型の利点と動電(ダイナミック)型の利点を併せ持つタイプの変換系としてEMI型ユニットを開発した。これは耐熱樹脂カプトンフィルムにボイスコイルを貼り付け、前後双方向に音を放射する平面振動板方式の動電型ユニットである。
 インフィニティのトップモデルシリーズであるIRS(インフィニティ・リファレンス・スタンダード)シリーズは、次第に小型化され、独自のEMIユニットは、ドーム型やコーン型に移行しているようである。おそらく、製造技術面での問題と経費をはじめ、感度、許容入力と最大振幅リニアリティなど数多くのネックをクリアーすると標準的なコーン型が最も高効率となるからであろう。
 しかしIRSベータが開発された時期は、世界的にインフィニティのIRSシリーズが、ハイエンドオーディオのスピーカーシステムとして認められたころであり、IRS−Vを筆頭に、ベータ、ガンマ、デルタと揃った一連のIRSシリーズの展開は、物凄くゴージャスなラインナップであった。
 トップモデルのIRS−Vが天井から床まで低音、中音、高音の各専用ユニットを一直線に配置した、いわゆるインライン配置のユニット取付方法を採用した伝統的なインフィニティタイプであることにくらべ、ベータ、ガンマ、デルタの3モデルは、基本的に床面に近いほうから低域、中低域、中高域と高域の各ユニットを配置したコンベンショナルレイアウトの採用が一般的であり、特徴ともいえるだろう。
 ベータならではの特徴は、低域用タワーと中低域以上用のタワーの2ブロック構成であることにある。
 低域タワーには、グラファイト強化ポリプロピレンコーンの30cmウーファーが4個搭載され、その1個は、いわゆるMFB方式を採用したサーボコントロール型ユニット。このコーンに指を軽く触れ、少し押すと瞬間的に押し返されるような反応があり、部屋の条件や駆動状態にアクティヴに制御されるサーボ系独自の特徴が実感できるのが楽しい。
 中高域以上のタワーは、基本的には、EMI型が双方向(前後)に音を放射するバイポーラ型であるため、平板にユニットを取付けたプレーンバッフル構造である。
 興味深いのは、使用帯域が高い周波数になる、つまり中低域、中高域、高域になるにしたがい、ユニットの左右のバッフルがカットされ、あたかもユニットが中空に浮かんでいるような、バッフルの反射を避けた独自の発想が感じられる部分だ。なお、高域用EMITは、バイポーラ音源とはいっても絶対的な寸法が小さく、背面放射が少ないため、背面放射用のEMITがもうひとつ後方放射用に取付けてある。
 独自のサーボコントロールユニットはシステムのコントロールセンター的な働きを備え、一通りの調整を覚え、効果的に扱うまでには半年は必要だろう。
 予想以上にコンパクトで6畳の部屋にも置ける魅力と、双方向放射型独自の音場感や風圧を感じさせる低域は絶妙の味わいだ。

パイオニア Exclusive Model 2404

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

比較的に古典的設計を守るホーン型システム。抜本的に入力系の直結化を計り、音圧が非常に高い振動板エッジ部の対策を施した設計が、ストレートに音に聴かれる成果は、異例中の異例。鋳鉄フレームの禁を犯したウーファー設計は、確信犯的な技術成果で、少し硬質だがビシッと決まる低音はスリリングでもある。

テクニクス SB-M1000

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

2組のパッシヴラジエーター付きケルトン型低域を背向させ、振動板振動反作用を打ち消す設計は、瞬発力を備えた同社最新セパレートアンプとの組合せによって、遅れ感のない柔らかく豊かで深々とした低域再生を実現させた。スーパーグラファイト超高域ユニットは、次世代メディアの特徴を見事に再生する。

テクニクス SB-M800

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

SB−M10000/M1000系の最新製品。高域は100kHzのレスポンスを誇る上級機譲りの特徴がある。密閉型とバスレフ型の利点を併せもつ独自のDDD方式ウーファーは、最新プリメインアンプの低域駆動能力の向上で、従来と一線を画した、柔らかく豊かでドライブ感のある低域再生を聴かせる。予想を超す魅力の新モデル。

アクースティックラボ Stella Harmony

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

ステラ・シリーズの末っ子モデル。5種類の表面仕上げが選択可能であり、別売スタンドの用意もあり、視覚的にも聴感上でも楽しめる多彩な魅力は、高級機に匹敵する高次元の趣味性があり、オーディオの楽しさを実感できるのは嬉しい。小型モデル独自の点音源的な発音源の小ささは、定位明瞭で空間再現も実に見事。

タンノイ Turnberry/HE

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

音の密度の高さ、同社独自のセンシティヴな反応を示す音の魅力を求めると、設置場所の制約の少ないトールボーイ型の本機は、ディストリビューテッドポート採用の独自の調整箇所を含めて、使い易さという点でも格別の魅力がある。同社最新スーパートゥイーターST200を加えて使いたい実力派。

BOSE 505WB

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

サテライト部は、5・7cmウーファー×と2cmトゥイーターの2ウェイ型、アクースティマス方式低域は、16cm×2と同社初の3チャンバー方式により、振動板面積の音を集約し、量と速度を制御する効果は大きく、楕円ポートは流出空気ノイズ低減に寄与する。爽やかで鳴りっぷりがよく、ダイナミックな音は小気味よい。

BOSE AM-15

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

ドルビー・ディジタルやdtsなどのディジタルサラウンド方式用5.1チャンネル・スピーカーシステム。60mmドライバー×2の全域新型ユニットを5本と、LFEレベル調整付120Wアンプを採用した13cm×2アクースティマス型サブウーファーの組合せは取付け自由度が高く、気軽に使えて効果の大きい注目作。

タオック FC7000

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

AVラックで定評の高いタオックが開発した初のスピーカーシステム。木製補強材の替わり、独自の鋳鉄角材や円筒形材料を組み込んだエンクロージュアは超重量級。高/中域はディナウディオ製、低域はフォステクス製。ネットワーク素子の材料吟味とその構造は、水準を超える見事さ。ローレベル再生時の音は実に見事。

タンノイ Westminster Royal/HE

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

伝統的デュアルコンセントリック同軸2ウェイユニットLSU15の最新作を、前後2個のホーンをもつエンクロージュアに収納した、古典的ファンが「ラッパ」と呼ぶに相応しい構造、外観、仕上げ。大型スピーカーが過去に達成した偉大の成果を現時点で聴かれる、一種素朴な感銘を受ける金字塔的な大作である。

JMラボ Mezzo Utopia

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

ユートピア・シリーズの第3世代としてMiniとともに登場した注目作。高/中/低域エンクロージュアの表面波による音の汚れを避けるための独自なスタック構造は、一面に問題点を残すが、結果の音は、サスガに第3世代ならではの革新的な魅力がある。価格の割に少々小柄だが、潜在能力の高さは計り知れない。

レヴェル・オーディオ ULTIMA GEM (HGBK-AL)

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

ベースモデルの側板部分を25mm厚アルミに変えたスペシャルモデル。ベース機にある、やや軟調傾向で、しっとりした独特の魅力は充分にあるものの、鮮鋭さを要求すると価格相応の悩みがある部分を見事に解消した音の魅力は絶大である。エネルギー量タップリの製品ではないが、研ぎ澄まされた感性のサエは凄い。

マッキントッシュ XRT26

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

XRTシリーズの上級機種。23基のトゥイーターを持つコラムとメイン・エンクロージュア部がセパレートされている。低音を歪なく20Hzまで確実に再生する数少ない既成のシステムだ。全帯域のタイム・コヒレント、無指向性に近い高域の拡散、そしてエネルギー・フラットを実現する再生音は自然感に満ちている。

B&W Nautilus 801

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

クラシックの録音モニターとして広く使われている同社のMatrix801シリーズの後継機となる最新モデルだが、今回は大幅な変更を受けて801という型番が不自然なほどである。作りも音も充実した力作である。従来の801にあった甘さと繊細さは姿を変え、より精緻な解像力を持ちスケールもいちだんと大きくなった。

カーマ Ceramique 2.0

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

オランダの製品で、この2.0は現在本邦に輸入販売されているCeramiqueシリーズのミドルクラス機である。このシリーズはセラティック・コーンを使っているのが特徴で、音は精緻である。本機は13cmのセラティック・コーンを3ウェイの中域用に使ったものだ。

ソナス・ファベール Guarneri Homage

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

このイタリアのメーカーは、まさに工房と呼ぶに相応しい。特にヴァイオリンの名工の名前が付けられたオマージュ・シリーズは同社を主宰するフランコ・セルブリンの思い入れが作らせた入魂の作品。気の遠くなるような入念な手仕事によるエンクロージュアは芸術品だ。音は明晰かつ豊潤で音楽が生き生きと躍動する。

アクースティック・ラボ Stella Opus (Lacquer)

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

ボレロ・シリーズの馴染みの深いスイスのメーカーの最新製品である。同シリーズは今年、全面的にステラ・シリーズに入れ代わったが、これはその上級機種である。従来のボレロ・グランデに相当するものだ。美しいエンクロージュアとチューニングの巧みなバランスの音がさらに洗練され、いっそうの特性向上が感じられる。

BOSE 901WB

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

前面に1基、背面に8基のユニットを持つ、この901シリーズこそ、BOSEスピーカーシステムの基本的コンセプトが体現されたモデルであり、今も創業以来、ユニットの改良を重ねて常にトップモデルとして存在させているのは立派である。このWBは美しい仕上げのシリーズ最高のモデルである。実にユニークで素晴らしい。

タンノイ Turnberry/HE

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

プレスティッジ・シリーズの中では手頃な価格の製品だが、100リッターの内容積を持つ。天然無垢材によるクラシックで上質のエンクロージュアはディストリビューテッドポート型である。25cmデュアル・コンセントリック内蔵の本機はスターリングの系譜である。