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マランツ Sc-9, Sm-9

井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 Sc9は、そのフロントパネルのレイアウトからもわかるように、基本的に従来のSc7を発展、改良した、そのMKIIと考えてもよいコントロールアンプである。
 基本的な回路構成は、FET使用DC構成のMCヘッドアンプ、同じくFET・DC構成のイコライザーアンプ、中音を加えたターンオーバー可変の高・低音コントロールアンプとヘッドフォンアンプのオーソドックスなラインナップで、バイパススイッチによりトーンコントロールアンプを通さずにフォノ入力はダイレクトにプリアウトへ信号を送り出し可能である。また、トーンコントロールがREC OUTに切替使用できるのはSc7以来の特長である。
 回路は各ブロックごとに基本から再検討され、部品関係、配線材関係に新しいタイプが採用されているが、Sc7に比べ大きく変更しているのはモード切替スイッチ関係の基板を廃止し、直結方式としてセパレーション特性の改善を図ったこと、電源部の新設計の2点がある。MCカートリッジ用ヘッドアンプも新タイプになった。
 また、マホガニー材使用の木製キャビネットが標準装備となり、パネルフェイスにESOTECの文字が加わった。
 Sm9は、Sc9と同様に、従来のSm7をベースとしてリファインしたAB級動作150W+150Wのステレオパワーアンプである。
 主変更点は、パワートランジスターに高域特性が優れスイッチング歪が少ない新開発スーパーfTトランジスターの採用。電源部のコンデンサーに高周波特性が優れたコンピューターグレイドの大容量型が使われている他に、部品、配線材料の検討がおこなわれていることなどである。
 外装関係では、マホガニーキャビネットの標準装備、ESOTECシリーズになりメーターの色調が、高級機のSm1000と同様のブルー系に変った。
 Sc9とSm9のペアは、Sc7/Sm7がやや中域が薄く滑らかで、細かい粒立ちのワイドレンジ型であったのに比べ、安定したダイナミックな低域をベースとするアメリカ系アンプの魅力である。エネルギー感が充分にある中域、ナチュラルに伸びた高域をもつ、エネルギーバランスがフラットなタイプに変っている。音色は明るく活気があり、ステレオフォニックな音場感の拡がり、音像定位のシャープさも第一級のできである。とくに分解能が優れた印象は、主にSc9側のグレイドアップによるものであろう。

マランツ Tt1000L

瀬川冬樹

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」より

●音質/アーム交換型だが、アーム取付ベースが、発表されている三種類(一種類はSME専用なので実質的には二種類)では、市販のアームに対して不足で、現時点では選択の範囲がかなり限られる。たとえばオーディオクラフトもSAECもテクニクスも、ベースの取付孔が小さすぎて組合せ不可能。孔を拡げればよいというのは理屈で、実際に工具のないアマチュアには不可能だ。というわけで、不本意ながらFR64S一本でのみ、試聴した。
 明るい音。多少カリカリした硬質の傾向。そしてプログラムソースによっては、いくぶんカン高い、ないしはハシャギ過ぎのような音になる。これは、ターンテーブル金属の材質や、テーブルマットやベースのガラスという材質の音であるかもしれないが、FRのアームにもこの傾向があるので相乗効果がウラ目に出たのだろう。しかしアームの交換が事実上不可能なので、アーム引出しコードをマイクロの新しい二重構造の銀線コード(MLC12S)に変えてみた。これでかなり改善され、音の明るさが、躍動感、生きの良さ、といったプラス面で、生きてきた。ただ、どちらかというと、やや、大掴みで屈託がなく、こまやかなニュアンスという点ではもう一息の感じ。また、どことなくワウ的な音のゆれ、および音量を上げるとモーターのゴロが、それぞれ、他の同クラスの機種よりもわずかずつ耳につくように思った。
●デザイン・操作性/ガラスを主体にして、ユニークで、しかも明るい楽しい雰囲気にまとめた点はとてもいい。デザインで欲しくさせる。スタート・ストップのスイッチが、ワンタッチの電子式で、ターンテーブルの回転の切れ味も悪くない。アームベースのロックの方法も確実でユニーク。音質本位というより、見た目の楽しさも含めて買うべき製品、といった作り方のように思える。

マランツ Pm-6, Pm-5

井上卓也

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 Pm6は、マランツの定石通り、Sc6とSm6を一体化したモデルで、両者に共通の特長を備える。
 音にはプリメインアンプらしいまとまりがあり、基本的なキャラクターはSc6、Sm6を受け継いでいる。
 Pm5はAB級80W/ch、純A級20W/chの出力をもち、ドット表示ピークメーター付である。Sc6同様ハイゲインイコライザーを採用したストレートDC回路切替え可能が特長である。

マランツ Sc-6, Sm-6

井上卓也

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このところ、製品の層が一段と厚くなったマランツの新シリーズアンプ群は、パネルレイアウトが左右対称タイプとなり、往年の名器として伝統的な管球コントロールアンプ♯7のイメージを踏襲した雰囲気をもつことが特長である。
 コントロールアンプSc6とステレオパワーアンプSm6の組合せは、従来の♯3150と♯170DCを受け継ぐ位置づけに相当する製品だ。
 Sc6は、過渡混変調歪を低減する、いわゆるLOW−TIM設計を採用した点に特徴がある。全段完全プッシュプルDCアンプ構成、片チャンネル13石構成のMCヘッドアンプを採用。左右独立型ディフィート付高・低音コントロール、2段切替ラウドネスコントロール、イコライザーサブソニックフィルター、3段切替のMM型カートリッジ負荷抵抗切替のほか、出力0・5Wの純A級動作ヘッドフォンアンプなどを備える。
 Sm6は、AB級動作120W/chと純A級動作30W/ch切替使用が特長である。AB級動作では出力段に高域特性が優れたパワートランジスタ

マランツ Ma-5

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

マランツ最初のモノーラル構成のパワーアンプである。タテ長の外形寸法は、かつてのモデル15/16が2台のパワーアンプを機械的に結合していた歴史を物語るようだ。

マランツ Model Sm1000

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

特徴
 マランツといえば、その名は泣く子もだまるオーディオ界の名門。ソウル・マランツの手を離れ、広くバラエティに富んだ製品が、このブランド名の下で作られるようになった現在だが、トップエンド製品では、その血統を受けついだ優れた製品が作り続けられていることは喜ばしい。パワーアンプも、♯500、♯510は長くリファレンスアンプとしての信頼を維持してきたことは御存知の通りである。そのマランツから今度新しく発売されたSm1000は、現時点での新しいテクノロジーにより、400W/チャンネルのステレオパワーアンプで、同社のプレスティッジ製品としての力の入れようが理解出来る力作といえる。マランツの名声を受け継ぐことは名誉であると同時に重荷でもあるはずだが、この製品、決してそうした期待を裏切るものではない。もともと、ソウル・マランツはインダストリアルデザインに手腕を発揮した人だけに、そのデザインイメージの継承も、現在のマランツ・メンにとって大きな負担であるだろう。ゴールドパネルを基調とした高いクォリティは、往年のオリジナルモデルと同種の品位は感じられないにしても、よく、マランツのイメージを活かしていると思う。
 このSm1000は、オーソドックスなパワーアンプといってよく、その構成は、かつて、二台のモノアンプをドッキングしてステレオ構成とした♯15などのオリジナルにならい、左右独立構成をとっている。800VA容量のカットコア・トランスと20000μFの大容量コンデンサー2本をそれぞれのチャンネルに使った信頼感溢れる電源部を基礎に、全段プッシュプル構成のパワーブロックは透明で暖かいサウンドクォリティを保ちながら400Wの大出力をひねり出す。NF量も比較的少なくして、これだけのクォリティを得たことにも、音質重視の設計思想が理解できるだろう。スピーカー端子もダイレクト・コネクトで、保護リレーは使っていない。スピーカー保護は、一側フューズを切断する方法である。よく選び抜かれた素子やパーツを使い高い安定性を確保したDCアンプといえよう。
音質について
 音質は、大変ウォームな肌ざわりを持ったのだ。ゴールドフィニッシュの外観からは、もっと華麗な音が想像されるが、鳴らしてみると、しっとりと落着いた柔軟な音に驚かされる。ピアノには、もう一つ、しっかりした芯のある粒立ちが欲しいという気がしたが、しなやかなヴァイオリンの魅力にはうっとりさせられた。甘美な個性ととれなくもないが、決して、その個性は癖というほど強いものではない。むしろ、これは、レコードの個性を素直に再現した結果と思われる。とかく、冷たい、ガラスを粉々にしたような鳴り方になりがちな大聴衆の拍手の音を聴いてみたが、このアンプでは決してうるさくならず、自然な拍手の量感が得られた。オーケストラもウィーン・フィル特有の繊細で艶のある、滑らかな弦の音がよく生きて楽しめた。
 ジャズでは400W/チャンネルの力感を期待したが、それは、やや肩すかしを食った感じであった。JBLの4343が、どちらかというと、きれいに鳴らし込まれる方向であった。ベースは明快によく弾むのだが、もう一つ豊かさが出てほしいし、チャック・マンジョーネのブラスには、もっと輝きのあるパンチの利いた音が欲しかった。400Wを量的に期待した話ではなくその音質面での力感が、少々物足りなかったのである。「ダイアローグ」のベースとドラムスのデュオにおける、バスドラムのステージの床に共鳴するサブハーモニックス的量感ももう一つ大らかにどっしりと、床の広さを感じさせるような響きが欲しかったと思う。

マランツ Ma-5

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 パワー感は充実し、信頼性の高いハイレベル再生が可能で、大掴みには堂々たる再生音だ。Aクラスでは良いのだが、ノーマルなBクラスでは、高音域のキメの細かさに欠ける。中域に一種の癖が感じられ、ボコボコした出張りのように印象づけられる。

マランツ Model Sm1000

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 マランツのハイパワーアンプは、管球時代の♯9をはじめ、ソリッドステート化された以後も、♯15、♯16などがつねにその時代のトップランクのパワーを誇るモデルであったが、やはり、超弩級アンプといえるものは、非常に見事なコンストラクションと伝統を受継いだデザインをもつ♯500であろう。
 この流れを継承した現在の♯510は、開発以後かなりの歳月が経過したが、依然として、現時点でもハイパワーアンプのティピカルな製品として、その性能、音質の高さにおいて高い評価を得ているが、基本的に、物量を惜しみなく投入して開発された♯500とは異なり、非常に合理化された効率の高い設計とパワーに比較してコンパクトさに魅力がある製品であること、急速に進展するエレクトロニクスの技術や各種デバイスの進歩を併せ考えると、現時点ではいささか、性能、音質共に、古典的という印象は避けられないということである。
 そろそろ、新モデルの登場が期待されている現実の声を反映して、現時点でのトップランクのパワーアンプとして開発されたのが今回登場したSm1000である。
 この新製品は、マランツの回路設計技術者マイク・キャスターの考える現代の理想のハイパワーアンプ像に基いて設計された、400W+400Wのハイパワーアンプであり、回路構成上は、全段完全プッシュプルDC構成とし、パワー段にはコレクター損失200Wのパワートランジスターを片チャンネル18個使用し、リニアリティの優れた部分のみを使うとともに、現代アンプの動向を採用した、低TIM歪設計により、裸利得を56〜57dBと抑え、NF量を減らし、ハイパワーアンプの音質上の問題点とされた、中域から高域の音の粗さを解消している。また、従来まではパワーアンプに不可欠のスピーカープロテクター回路に、独自のSCRクローバーサーキットを新開発し、機械的な接点をもつプロテクターリレーを完全に取除き、接点での音質劣化を解消したことも注目すべきポイントである。この回路は、事故によりDC成分がスピーカー端子に発生すると、瞬間的にSCRクローバーサーキットが動作をし、電源とランス一次側のフューズを切るとともに、電源コンデンサーに蓄えられた巨大なエネルギーをディスチャージするタイプである。
 また、伝統的に強力な電源部をそなえるポリシーどおりに、左右独立型の800VAの容量をもつカットコアトランスと音質重視型の20000μFの特注オーディオ用コンデンサーを片チャンネル2個使用している。これは、♯510の両チャンネル共通電源で10000μF×2の電解コンデンサー使用と比較すれば、その充実ぶりが判るというものである。
 コンストラクションは、パワーアンプでは巨大な電流を扱うだけに、結果としての性能や音質に決定的な影響力をもつ重要な部分である。ここでは、非常にコンパクトで放熱効果が高い、♯500以来の風洞型、フィンガーヒートデシペーターによる強制空冷システムを採用し、5種の長さの異なったフィンを、ドライバー段のトランジスターを含み、それぞれのパワートランジスターに取り付け、均一な放熱効果を得ている。冷却ファンの回転は、サーミスターによるヒートシンクの温度を一定に保つようにする可変型で、筐体が慰撫から取り外し可能なエアフィルターを備える。
 クーリングシステムで、パワーアンプ本体はコンパクトに構成できたが、奥行55cm、重量42kg
筐体のほとんどは、左右独立ツインモノ構成の強力電源部で占められ、余分の空間のまったく存在しない非常に密度の濃いコンストラクションである。
 19型ラックサイズのフロントパネルは、2個の対数圧縮型ピーク動作で、rms表示の大型パワーメーターがあり、8Ω負荷時の出力が直読できる。下側は、ヒンジ付サブパネルがあり、レベル調整、スイッチ経由の2系統のサブスピーカー切替え、AC/DC入力切替えがある。なお入力は、RCAとキャノン。
 歪感がなく、スムーズに伸びた広帯域感と、情報量豊かな音場感再現は抜群の製品である。

マランツ Pm-4

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 このアンプからまた一段ランクが上がる。七万四千八百円だから、この前のグループから約五千円上がるわけだ。それがどういうようなメリットとして出てくるかということが興味の中心になる。このマランツのPm4は全くの新製品で、白紙の状態で試聴したが、まず音の点でいうと大変いいアンプということが言える。
音質 アンプの音をソフト派とハード派に分けると、このアンプはハード派、男性的な女性的かというと、男性的な方だ。とても明るいし、妙に湿ったり、暗くなったりするところがない。非常にさっぱりとふんぎりよく音を出してくれるのは聴いていて非常に心地よい。心地よさというのは単に気持ちのよさを通り越して本当に聴きごたえのある、充実感のある音だからだ。このアンプは実に音楽が楽しく聴こえてくる。
 その特徴は強いて言うと、クラシック、ポピュラーに分けた場合には、むしろポピュラー系に最大限良さを発揮するということが言える。音が充実しており、本当の意味で力がある。
 このアンプはAクラス・オペレーションにできるが、その場合の出力は15Wで非常に減るが、ほんのわずか音にやさしさが加わる。Aクラス・オペレーションにしたからといって、いわゆる歪とか透明感が改善されるという感じはしない。言い換えると、Aクラスではない方も相当練り上げられているということだ。
 しかし、フォーレのヴァイオリン・ソナタのような曲をAクラスで聴くと、いくらかフォーレにしては明るくなりすぎる。そしてヴァイオリンの音としては少し冷たい、あるいはメタリックと言いたい傾向の音になるので、フォーレの世界とは少し違うな、という違和感を感じさせる。しかし、もちろん音の質がいいので、そこを承知で聴けばなかなかいい気持ちで聴いていられるわけで、やはり音のかんどころは外していない。
 もう一つ、例えばカートリッジをエラックのような少し線の細いものよりも、スタントン881Sのようなものにすると、音の充実感、厚み、力といったものをさらに増やしてくれるので『サンチェスの子供たち』あるいはアース・ウインド&ファイアなどにしても、一層このアンプの特徴を生かす。
MCヘッドアンプ MC20MKII、103DでもMCヘッドアンプ自体の音はとてもいい。音質という面で言えば、さすが値段が高いだけのことはある。しかし、ノイズの点ではMC20MKIIはゲインいっぱいになるので、かなり耳につく。これは実用すれすれのところだろうと思う。一方、103Dの方はもちろん十分だが、このアンプは必ずしもSN比がよくないので、大きなパワーを出した、そのボリュームの位置で針を上げてみると、ややノイズが耳につく。ノイズがもう少しなくなれば、さらにこのアンプの音のよさが生きてくると思う。
トーン&ラウドネス トーン・コントロール、ラウドネス・コントロールの効き。これはもしかすると、このアンプが輸出などを意識しているのかもしれないが、効き方がかなりはっきりしており、ちょっとビギナーふうにわかりやすくしたという感じがする。これはこの
アンプの持っている質感のよさと比べて、もう少し効きを滑らかにしてもいいのではないか。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音はなかなかよくできている。出力はやや低いが、ボリュームを上げればいくらでも音が出てくるし、ヘッドホン端子での音質もいい。
 それからデザインは、前例のないユニークな形で、好ききらいがあるかもしれないが、むしろ往年のマランツ・ファンを泣かせるようなかんどころを押えている。個性的なデザインを含め、総合的には非常に良くできたアンプだと思う。

★★★

マランツ Model Pm-8

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「JBL♯4343研究(2)」より

 今回のテストの中でも、かなり感心した音のアンプだ。この機種を聴いた後、ローコストになってゆくにつれて、耳の底に残っている最高クラスのセパレートアンプの音を頭に浮かべながら聴くと、どうしてもプリメインアンプという枠の中で作られていることを意識させられてしまう。つまり、音のスケール感、音の伸び、立体感、あるいは低域の量感といった面で、セパレートの最高級と比べると、どこか小づくりになっているという印象を拭い去ることができない。しかしPm8に関しては、もちろんマーク・レビンソンには及ばないにしろ、プリメインであるという枠をほとんど意識せずに聴けた。
 デュカスの「魔法使いの弟子」で、オーケストラがフォルティシモになって突然音が止んでピアニシモに移る、つまり魔法使いの弟子が呪文をとなえて、箒に水を汲ませているうちに、箒が水を汲むのをやめなくなって、ついに箒をまっぷたつに割ったクライマックス、そして一旦割れた箒がムクムクと起きあがるコントラファゴットで始まるピアニシモの部分の、ダイナミックレンジの広さ。試聴に使ったフィリップス盤では、この部分が素晴らしいダイナミックスと色彩感をもって、音色の微妙な変化まで含めて少しの濁りもなく録音されている。また、菅野録音の「ザ・ダイアログ」冒頭のドラムスとベースの対話。この二枚とも相当にパワーを上げて、とくに「ダイアログ」ではドラムスが目の前で演奏されているかのような感じが出るほどまで音量を上げて楽しみたいのだがこれはアンプにとってたいへんシビアな要求だ。だがそのどちらの要求にも、Pm8はプリメインという枠をそれほど意識せずに聴けた。
 初期のサンプルより音がこなれてきているのだろう。最初にこの製品を聴いた印象では、華麗な、ややオーバーに言うと音が少々ギラギラする傾向が感じられ、それがいかにも表だって聴こえた。しかし今回聴いたかぎりでは、それらがほとんど姿を消し、一種しっとりした味わいさえ聴かせた。
 バッハのヴァイオリン協奏曲では、フランチェスカッティのヴァイオリンは相当きつい音で録られているため、本質的にきつい音のアンプだとこれが強調されてしまうが、Pm8は弦の滑らかさ、胴鳴りの音もかなりよく再現した。
 中間アンプのバイパス・スイッチをもつが、このスイッチをオン・オフしてみると、バイパスした方が音の透明度が増し、圧迫感、混濁感が減るようだ。こう書くとその差が実際以上に大きく感じられそうだが、バイパスすると前述した点が心もち良くなるという程度の違いでしかない。内蔵MCヘッドアンプは、オルトフォンMC30のように出力の低いカートリッジだと、いくぶんノイズは増えるものの、音質的には十分実用になる。
 総合的には、同価格クラス、あるいはもう少し高価なセパレートアンプと比較しても十分太刀打ちできる、あるいは部分的には上廻っているプリメインといえるだろう。

最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その3)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

     II
 余談が長くなってしまったが、そうして昭和三十年代の半ばごろまでアンプは自作するものときめこんでいたが、昭和36年以降、本格的に独立してインダストリアルデザインの道を進みはじめると、そろそろ、アンプの設計や製作のための時間を作ることが困難なほど多忙になりはじめた。一日の仕事を終って家に帰ると、もうアンプの回路のことを考えたり、ハンダごてを握るよりも、好きな一枚のレコードで、何も考えずにただ疲れを癒したい、という気分になってくる。そんな次第から、もうこの辺で自作から足を洗って、何かひとつ、完成度の高いアンプを購入したい、というように考えが変ってきた。
 もうその頃になると、国内の専業メーカーからも、数少ないとはいえ各種のアンプが市販されるようになってはいたが、なにしろ十数年間、自分で設計し改造しながら、コンストラクションやデザインといった外観仕上げにまで、へたなメーカー製品など何ものともしない程度のアンプは作ってきた目で眺めると、なみたいていの製品では、これを買って成仏しようという気を起こさせない。迷いながらも選択はどんどんエスカレートして、結局、マランツのモデル7を買うことに決心してしまった。
 などと書くといとも容易に買ってしまったみたいだが、そんなことはない。当時の価格で十六万円弱、といえば、なにしろ大卒の初任給が三万円に達したかどうかという時代だから、まあ相当に思い切った買物だ。それで貯金の大半をはたいてしまうと、パワーアンプはマランツには手が出なくなって、QUADのII型(KT66PP)を買った。このことからもわたくしがプリアンプのほうに重きを置く人間であることがいえる。
 ともかく、マランツ7+QUAD/II(×2)という、わたくしとしては初めて買うメーカー製のアンプが我が家で鳴りはじめた。
 いや、こういうありきたりの書きかたは、スイッチを入れて初めて鳴った音のおどろきをとても説明できていない。
 何度も書いたように、アンプの回路設計はふつうにできた。デザインや仕上げにも人一倍うるさいことを自認していた。そういう面から選択を重ねて、最後に、マランツの回路にも仕上げにも、まあ一応の納得をして購入した。さんざん自作をくりかえしてきて、およそ考えうるかぎりパーツにぜいたくし、製作や調整に手を尽くしたプリアンプの鳴らす音というものは、ほとんどわかっていたつもりであった。
 マランツ7が最初に鳴らした音質は、そういうわたくしの予想を大幅に上廻る、というよりそれまで全く知らなかったアンプの世界のもうひとつ別の次元の音を、聴かせ、わたくしは一瞬、気が遠くなるほどの驚きを味わった。いったい、いままでの十何年間、心血そそいで作り、改造してきた俺のプリアンプは、一体何だったのだろう。いや、わたくしのプリアンプばかりではない。自作のプリアンプを、先輩や友人たちの作ったアンプと鳴きくらべもしてみて、まあまあの水準だと思ってきた。だがマランツ7の音は、その過去のあらゆる体験から想像もつかないように、緻密で、音の輪郭がしっかりしていると同時にその音の中味には十二分にコクがあった。何という上質の、何というバランスのよい音質だったか。だとすると、わたくしひとりではない、いままで我々日本のアマチュアたちが、何の疑いもなく自信を持って製作し、聴いてきたアンプというのは、あれは一体、何だったのか……。日本のアマチュアの中でも、おそらく最高水準の人たち、そのままメーカーのチーフクラスで通る人たちの作ったアンプが、そう思わせたということは、結局のところ、我々全体が井の中の蛙だったということなのか──。
 マランツ7の音に心底びっくりさせられたわたくしは、会う人ごとにそのすごさを説いた。その中に、当時オーディオテクニカを創設されて間もない松下秀雄氏がおられた。松下氏は早速、そのころ試聴室として公開しておられたご自宅の装置に、マランツ7を迎えられた。松下氏のそれまで使っておられたのは、わたくしなどよりよほど腕の立つエンジニアの作ったプリアンプだったはずだが、それにもかかわらず、松下氏もまた、本当にびっくりした、とわたくしに洩らされた。
 マランツ7にはこうして多くの人々がびっくりしたが、パワーアンプのQUAD/II型の音のほうは、実のところ別におどろくような違いではなかった。この水準の音質なら、腕の立つアマチュアの自作のアンプが、けっこう鳴らしていた。そんないきさつから、わたくしはますます、プリアンプの重要性に興味を傾ける結果になった。

マランツ Tt1000, Tt-7

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このところ、プレーヤーシステムの分野では高価格帯の重量級プレーヤーシステムが各社で開発され、次々に発売されることが目立った傾向となっている。
 今回、マランツから発売されたTt1000は、昨年秋の全日本オーディオフェアに出品された、プレーヤーベースやターンテーブルマットに高密度ガラスを採用した高性能マニュアルモデルであり、Tt7は、Tt1000に採用されたトーンアームと共通なストレート型アームを備えたクォーツロックPLLサーボ方式のダイレクトドライブ型フルオートモデルである。
 Tt1000は、マランツのプレスティッジシリーズの製品に新しくつけられた、ESOTECの名称をもつ最初の超高級マニュアルプレーヤーシステムである。
 まず、最大の特長は、プレーヤーベースの構造材に硬質ガラスが極めて高密度であることに着目をし、質量が異なる物質をサンドイッチ構造とし、振動エネルギーを熱エネルギーに変換し、振動の伝達を速断するという理論のもとに、ガラス(15mm)+アルミ(8mm)+ガラス(15mm)を3重構造サンドイッチに積層したソリッドベースを採用している点にある。
 ターンテーブルは、重量2・7kgのゴールドに着色されたアルミダイキャスト製で、ターンテーブルマットには、厚さ5mm、重量500gの硬質ガラス板を採用している。これは、従来のターンテーブルマットが内部損失が大きいゴムに代表される材料を使い、振動を吸収する目的であったことに対して、マットは振動を吸収するものではなく、振動そのものを受けつけない構造にするという構想によるものとされている。この考え方は、むしろ、振動を伝達しやすくし、まずマットとターンテーブルのマスで熱エネルギーとし、次に軸受を経てモーターを含めた重量が大きいプレーヤーベースで吸収するといったらよいだろう。
 モーターは、起動トルク1・66kg・cmクォーツロックPLLブラシレスDC型で、0・5秒で定速に達し、電磁ブレーキ内蔵である。なお、電源部は、電磁誘導を防止するために外部に独立したパワーサプライユニットをもつタイプである。
 トーンアームは、専用の挿入式面接触型のシェルを採用したストレートパイプのダイナミックバランス型で、カートリッジのコンプライアンスに応じてアーム実効質量をコントロールする付加ウェイトがストレートパイプ部分に取付可能である。アームベースは重量級のアルミ削り出しで、偏芯したアーム取付穴をもつため、これを回転すれば実効長230mmまでの他のアームを取付けできる。この場合にはプレーヤーベース左奥の45回転アダプター設置場所の加工済みの穴に付属アームを取付け、2本のアームが使用可能となる。スタート、ストップ、回転数切替はベース前面のフェザータッチスイッチで操作をする。なお、電源スイッチは電源部にある。

マランツ Model 2

井上卓也

ステレオサウンド 50号(1979年3月発行)
特集・「栄光のコンポーネントに贈るステート・オブ・ジ・アート賞」より

 マランツの製品は、最初から単純なコントロールアンプとパワーアンプの組合せではなく、モノーラル時代としては前衛的な、エレクトロニック・クロスオーバーを含めたマルチ・チャンネル方式に発展可能な、いわばシステムアンプの構想をもっている点が、他には見られないユニークさである。
 パワーアンプMODEL2は、その後MODEL5,8B、9とつづく一連のマランツのパワーアンプの原点と考えられる作品である。シャーシーコンストラクションは、他のマランツのモデルとは大きく異なり、パワートランスとアウトプットとランスを組み込んだ長方形の重量感のあるブロックが構造的な基盤であり、これから、片持ち式にひさし状の真空管や電源部のコンデンサーなどを取り付ける、いわゆるシャーシーが取り付けられ、この部分を包むように、横方向からパンチングメタルのカバーがかかる特殊な構造である。
 メインブロックには、出力管のバイアス、ACとDCバランスをチェックするためのメーターとチェック用スイッチがあり、いわゆるシャーシー部分には、出力管を3極管接続と5極管接続に切替使用するスイッチ、ダンピングファクターコントロール、グリッド直結ジャックを含む3系統の入力端子、それに、ダンピングファクターコントロール用端子をもつ出力端子などがある。
 回路構成は、出力管に6CA7/EL34をプッシュプル構成で使い、6CG7のカソード結合位相反転段でドライブするタイプで、電源部の整流管の使用と、出力が40WであることがMODEL5や8Bと異なっている。
 内部の部品配置、配線は見事なもので、丹念に手がけられており、音質も、マランツのアンプのなかで、もっとも素直でクリアーな印象である。

マランツ Pm-8

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最高級プリメインアンプは、セパレート型のコントロールアンプとパワーアンプを一体化して開発するというマランツの伝統的な手法を現時点で実施した新しいプリメインアンプである。基本構成は、同時発売のコントロールアンプSc7をパネル側に、パワーアンプSm7をその後に配置したといえるレイアウトを採用しているため、奥行きが437mmと長いという外形寸法にもそれがあらわれている。パネル面のレイアウト、機能は、コントロールアンプSc7と同等で、特長的なサブパネルをもつ。パワーは150W+150Wの高出力をもち、電源部は2次巻線で左右チャンネルを分離する左右独立型で15、000μF×4の電解コンデンサー使用だ。
 Pm8の音は、聴感上でのfレンジでは、Sc7とSm7の組合せよりワイドレンジ感は減るが、反面において、中域のエネルギー感が充実した、よりハイデンシティ型のプリメインアンプならではの充分にコントロールされたものだ。高出力タイプの魅力で小音量時にも余裕たっぶりの音が聴けるのが特長。

マランツ Sc-7, Sm-7

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 マランツのセパレート型アンプの新製品である。デザイン的には、♯3600、♯3250で2度の全面変更があったが、今回は3度めの変更で、全体に大変華やかな色調をもちながら、コントロールアンプにまで、かつての♯9や♯500に採用された小型のツマミ付サブパネルがフロントパネルの中央下側に付けられた。現代的で、かつノスタルジックな雰囲気をもつ従来にないユニークなデザインとしているのが特長である。
 Sc7は過渡的音楽信号を忠実に再現するために低TIM設計を導入し、DC構成の各アンプは全てオープンループ利得を下げ、NF位相補正技術により入力信号と出力信号間の時間差、位相差を抑える設計方針で開発されている。機能面では、左右独立型で中音も含めたトライコントロールがTAPE・COPY時にも切替使用が可能となり、その他にカートリッジの負荷抵抗をMC型4段、MM型5段に切替えるセレクター、イコライザー段出力を直接出力端子に送り出すバイパススイッチ、DC構成のMCヘッドアンプが新しく加えられた。なお、2台のテープデッキ用の独立したレコーディングセレクターは、♯1250の機能を受け継いだデッキファンには魅力的な機能であり、500mWのヘッドフォンアンプを備える。
 Sm7は、低TIM設計の150W+150Wの出力をもつDC構成パワーアンプである。パワートランジスタ一には従来のマルチエミッター型のバラスト抵抗の電圧降下による高域特性の低下を改善した新デバイスを4個並列接続とし、2次巻線を左右分割した左右独立電源と伝統的な大容量、高性能電解コンデンサーを使った強力な電源回路、エネルギーセンサー型保護回路、大型対数圧縮型出力メーター、それに電力増幅段に直接つながるダイレクトスピーカー端子、AB2組のスピーカー切替スイッチを傭えている。
 Sc7とSm7の組合せは、現代のアンプらしい音の粒子が細かく、滑らかで伸びきった広いfレンジをもち、150W/チャンネルのハイパワーアンプならではの充分に厚みのある力強いサウンドを聴かせる。質的にも量的にも♯3250、♯170DCを確実に1ランク上回った信頼にたるべき価格に相応しいセパレート型アンプに思われる。

マランツ St-8

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 FM専用の高級チューナーにオシロスコープを採用するのはマランツの♯10B以来♯20、♯150と続く伝統であるが、今回の新シリーズのセパレート型アンプ、プリメインアンプ用に開発されたモデルがこのSt8である。これも伝統的なジャイロタッチチューニングツマミは、クォーツロックスイッチを兼用し、同調点で指を離せば以後は水晶精度で同調点はロックされる。デュアルゲートMOS型FETと5連バリコン使用のフロントエンド、リニアフェイズLCフィルターとSAWフィルターを併用するIF増幅部は更に独特のアンチバーディーフィルターを加え、帯域幅は2段切替、PLLパイロットキヤンセラー、パラメトリックミューティング回路、多用途のオシロスコープなどが特長だ。なお、ジュニアタイプに同様にスコープ内蔵の♯2110がある。

マランツ Model 3250

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

このクラスとしては抜群の伸びやかな音を聴かせる注目の製品である。

マランツ Model P3600

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

際立った特徴をもたないが、比較試聴に強いのはやはり伝統である。

マランツ Model P510M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

比較試聴の際に現代のひとつのスタンダードとして信頼できる優秀機。

マランツ Model 1122

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

安定感があり、力感が十分にある低域と活気のある表情が魅力である。

マランツ Model 1180

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

現代アンプらしいワイドレンジ感と中域の充実した魅力はマランツだ。

マランツ Model 1250

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

セパレート型の魅力を凝縮した内容の濃い長時間使える安定感がある。

マランツ Model 1152

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

ブライトな外観とサウンドが一致した説得力豊かな性格のアンプ。

30万円前後でセパレートアンプ組合せのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「読者の質問に沿って目的別のベストバイを選ぶ」より

 セパレート型アンプは本来、コントロールアンプとパワーアンプが独立した存在であり、数多くの組合せのなかから、自分の望む音、それにふさわしいデザイン的なマッチングを楽しむことに、プリメインアンプには求められない独特の魅力の世界がある。しかし、実際にはその組合せの総数は莫大であり、それを試聴する機会が得られず、幸運に機会があったとしても、試聴をして自らの求める音を判断し選択するためには、十分にオーディオと音楽を熟知し、数多くの経験をもつ場合にのみ好結果が得られやすいという制約がある。
 したがって、同一メーカーのペアとして発売されている製品の組合せがもっとも成功率が高く、次に、同一メーカーのランクの異なった組合せが好ましいというかなり常識的なことになってしまうわけである。
 他社間の組合せの場合には、現在のセパレート型アンプでは、コントロールアンプに際立った音をもつ製品が少なく、パワーアンプのほうが平均的に水準が高く、ほとんどの製品が優れた性能と音をもっていることが選択の前提条件である。つまり、優れたコントロールアンプを選択することがポイントであり、次に、それと組み合わせて自分の求める音が得られるパワーアンプを選出するアプローチが確率の高い方法である。
 価格的な制約が30万円前後と狭い範囲に絞られると、候補製品はかなり限定されてくる。
 コントロールアンプとして考えられるのは、価格的に15万円が上限となる。まず、国内製品では、デンオンPRA1003、サンスイCA2000、ソニーTA−E88、テクニクスSU9070II、ビクターP3030、ヤマハC2とC4であり、海外製品では、マランツ♯3250がある。少し枠をこすが、GAS・サリア、SAE・MARK2900は、個性派でできれば使いたいモデルだ。
 パワーアンプは、同様に15万円をリミットとすれば、国内製品はかなり多く選択が難しい。海外製品は、QUAD♯405とマランツ♯170DCのみで、ダイナコMARKIII×2やSAE・MARK2200が範囲をこすが魅力をもつモデルである。
 実際に組み合わせて使用した経験からは、ヤマハC2+QUAD♯405、マランツ♯3250+QUAD♯405が、このクラスでは好結果をもたらした例である。予想の範囲では、GAS・サリアやSAE・MARK2900ベースのダイヤトーンDA−A15DC、ビクターM3030、ヤマハB4のAクラスとBクラスがデザイン的にも興味深く、マランツ♯3250ベースのパイオニアM25、ヤマハB4も一度試みたい組合せである。

マランツ Model P510M

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

標準機たり得る力と音色のバランスをもつ信頼性の高い製品。