井上卓也
ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
先般、新発売されたプリメインアンプL309Xを従来からのラックスサウンドを継承したトップランクの製品とすれば、今回、続いて発売されたL58Aは、ラックスの新世代を意味する新回路設計とサウンドをもつ、新しい展開の第1作である。
外観上で、伝統的な木枠をもつフロントパネルは見慣れた雰囲気であるが、ファンクションスイッチは、従来のレバー型を多用するタイプから、角型に縁どられた横方向に動く小型のレバー型に変更されたため、全体の印象は相当に異なったものとなっている。
外観の変化に呼応するように回路構成も新しいチャレンジが感じられる。ブロックダイヤグラム的には、MC型カートリッジのインピーダンスによりゲインが20〜28dBに変化する利得自動調整型MCヘッドアンプ、FET差動入力でカスコードブートストラップ回路採用で42・4dBの現在の標準からは利得が高いイコライザーアンプ、前段に利得0dBのFET入力でカスコード接続ソースフォロア一回路のバッファーアンプをもち、回路構成を同じくする利得0dBの湾曲点3段切替のラックス型トーンコントロール、全段プッシュプル構成で出力段にMOS型FETを使い、無信号時に300mAのアイドリング電源を流しスイッチング歪を除いたラックス独自のスタガ一方式により、出力10Wまでは純A級動作をするスタガー方式A級動作のパワーアンプの5ブロック構成で、バッファーアンプとトーンアンプは、フロントパネルの小型プッシュスイッチでバイパスが可能である。
設計上のポリシーは、基本的にアンプのNFBをかける以前のオープンループ利得を抑え、NFB量を適度に保つ、ローNFB設計がポイントである。このためには裸特性の優れたことが条件となるが、例えばパワーアンプでは、オープンループ利得80dBで定格出力時の歪率0・2%、NFBをかけた後の利得は43dB、歪率0・005%になっている。これが従来の設計ではオープンループ利得が100〜120dB、NFB後の利得が32dB程度とのことである。
また、NFB量を少なくしたときに生じやすい低域の音質劣化を改善するために、一般のNFBの他に、DC・NFBを併用するデュオβ回路が採用され、超低域成分を抑え低域の分解能を向上している。
さらにイコライザーアンプでは、低域の裸利得を上げ、高城と低域のNFB量の差を少なくし、TIM歪の低減を図り、イコライザーアンプの低域カットオフ周波数を5Hzに設定している。
L58Aは、低域から高域までフラットに伸びきった広い周波数レスポンスとクリアーに引締まった、クッキリと粒立つ音が特長であり、従来の滑らかで柔かく、それでいて豊かなラックストーンとは全く異なる音だ。力強くゴリツとした低域と適度に輝やく中高域は巧みにバランスし、新しい実体感のある魅力の音を聴かせる。
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