Category Archives: プリメインアンプ - Page 14

パイオニア SA-9900

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

エクスクルーシヴ・シリーズのアンプの優秀であることは定評があるが、それとくらべてさして遜色ない内容を持ったプリメイン型で、とくに目立った個性のないところが話題になりにくいが、十分に質の高い、聴きごたえのある音質は見事なもの。チューナーとペアで並べたときの風格もかなりのものだ。

ローテル RA-1412

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 輸出を主としているメーカーだけに、海外マーケットを意識したデザインの個性の強さが、国内では必ずしも良くない先入観を抱かせてしまうので損をしているが、音質は本誌42号でも書いたように一級の水準だし、機能その他も価格に見合う内容を十二分に持っている。もっと注目されてよいアンプだ。

オンキョー Integra A-722nII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 プリメイン型という枠の中では、個人的に最も音の好きなアンプである。なよやかとか、しなやか、と表現したいような繊細で品位の高く色っぽい鳴り方は、他に類のない貴重な存在だと思う。音とデザインにいっそうの磨きをかけてぜひとも永続きさせてもらいたいと思わせる力作だ。

デンオン PMA-235

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 国産のアンプには珍しくデザイン的にも大人のムードを漂わせて、よくこなれた作品だと思うし、チューナーと並べた印象もなかなか悪くないのだが、新型の501で、なぜ再び品の悪い下劣きわまるデザインに堕落してしまったのか。内容も音質も、現時点で別にまずいところはないし、短命で終らせたくない名作。

オンキョー Integra A-5

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 5万円から6万円までのプリメインをざっと眺めまわして、これほどやわらかくしなやかな表情を出すアンプはほかにちょっと見当らない。どちらかといえばウェット型で、音をあまり引締めるタイプではないが、この価格帯で、クラシックの弦や女性ヴォーカルをうまく聴かせるというのは貴重な特長。

ラックス 5L15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 本誌42号で、この音はラックスらしくないという意味のことを書いたが、新しいラボラトリーシリーズの各機種が出揃うのを聴いてみると、これは決して偶然の所産でなく、周到に練り上げられたラックスの新しい一面であることに納得がゆく。ただ、音のバランスのコントロールが全くできないというのは個人的には賛成できない。あとから発売された5F70(トーンコントロールユニット)との併用をすすめたい。

ラックス L-309V

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 新製品ではないが、これも本誌42号の試聴テストで再発見しなおしたアンプのひとつ。ラックスというメーカーの体質の一面ともいえる、押しつけがましさのない上品な音が、十分に練り上げられた質の高さに裏づけられて、じっくりと聴き込むに耐える本ものの魅力に仕上がっている。デザインもよくこなれているし、ペアとなるべきチューナー(T300V)と並べた印象も、買った人に満足感を与えるだろう。

デンオン PMA-700Z

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 一時期、本誌でも標準アンプのひとつとしていたことにもあらわれているように、デンオンが本腰を入れて全力投球したプリメインの力作で、いまとなっては公称出力がやや少なめであるにしても、それ以外の機能や音質では、最新機種にまじってもひけをとらないだけの内容を持っている。こういう良心的な製品は、旧型というだけで中止したりしないで、ぜひとも小改良を加えながら生き長らえさせて欲しいものだ。

テクニクス SU-8080

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 回路構成や操作ファンクション、そしてデザインと、すべての面でテクニクスが新生面を切り開いた意欲作として評価したいアンプ。一聴していかにも歪の少ない、澄んだ美しい音。ひっそりとひかえめで、いくぶんとり澄ました印象を聴き手に与える。個人的にはもう少し色っぽい表情が欲しいところだが、データをまじめに追求した良さは好みを別として理解できる。操作ツマミ類、ことにボリュウムの感触は抜群。

トリオ KA-7100D

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 型番のうしろ三桁に300のつくシリーズが最もオーソドックスなのに対して、100番のつくのは若いポップス愛好家向きで、メーターつきはメカマニア向きとというような作り分けをしているのではないか、というのは私の勝手なかんぐりだが、ともかく7100Dは、調味料をかなり利かせたメリハリの強い、5万円台の製品の中で独特の個性を聴かせる。

マランツ Model 1250

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 設計がアメリカ・マランツで製造が日本。いわばハーフだが、そのせいか、純国産のアンプとはひと味違った、バイタリティに富んだ積極的な鳴り方をする。明るく輝きのある音が独特だが、質的によく練り上げられているために、上すべりしないで良い意味の華やかな音として聴き手に満足を与える。

トリオ KA-9300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 音楽の実在感を生き生きと聴き手に伝えるという意味で、なかなかの出来栄えだと思う。いくらか硬目の音で、自己主張の強いところがあるから、そこが好き嫌いの分れ目になるが、音の鳴り終えたあとの余韻が空間に美しく響きながら消えてゆく感じの再現力からも、優れたプリメインであることがわかる。

トリオ KA-7700D

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 音楽の表情を生かすためにアンプが積極的に働きかける、といった感じがトリオの新しい一連のシリーズに共通した印象。その中でも、型番の下三桁に300のつくシリーズがクラシックまで含む広い適応性を持っているのに対して、それ以外のモデルは、ややハード型の方向で音をまとめているように思える。

パイオニア SA-8900II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 パワーその他のスペック面でも音質の面でも、価格以上の水準で絶妙のバランスを保っているし、機能の意外に豊富でありながら、処理のたくみさでデザイン的にも不消化のところがない。あまりにも過不足なく仕上がっているために、かって目立ちにくくて損をしているような、妙なアンプだ。

パイオニア SA-8800II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 42号にも書いたように、5万円から6万円のあいだでは、デンオン701やトリオ7100DやオンキョーA5等がそれぞれに特徴のある音を鳴らすが、反面それぞれに弱点も持っているということで、8800IIのように特徴は言いにくいかわりに弱点もあまりないという音は、目立ちにくいが実は大したことなのだ。

デンオン PMA-501

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 この価格のアンプの音に、本格的な充実感や重量感を望むのは無理であるだけに、メーカーがどういう音に仕上げるかが成否の分れみちだが、501の音にはフレッシュな印象があって、スピーカーの音をキリッと引締めながら音楽の表情を生き生きと楽しませる。ただ、デザインはやや装飾過剰のように思える。

ダイヤトーン DA-U750

菅野沖彦

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 音の解像力もいいし、張りのある充実した響きは特性のいいアンプであることがわかる。力の入ったアンプだが細かく聴くと、いくつか気になる点がある。まず、高音域が、線が細く、やや耳を刺す。鉛筆にたとえれば、H、2Hといったタッチである。本当は、HBのタッチがほしいのだが。それでいて、中音から低音にかけては、HBからBの方向の感触なのだ。低音は大変豊かで、やや鈍重と評したくなるような重苦しさを備えているが、これは組み合わせるスピーカーと部屋の問題で変わってもくるだろう。これで、高域がのびきっている優秀な特性に、しなやかな肉ののったものになればかなりよい。弦楽器の音が硬く細い線になるのが惜しまれるのである。これは外観上のイメージとも共通するものでしっかりときれいに作られていながら、余裕のない硬さを感じさせるのである。明解さは、この高域によるところが大かもしれぬが、どうしても耳障りなキャラクターが残る。

「テスト結果から 私の推選するプリメインアンプ」

菅野沖彦

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 全35機種中、推選機種をあげるとなると難しい。線の引き方で、どうにでもなってしまうからだ。価格とのかね合いで、徹底的に主観的判断をもって音質の好みをとり、客観的に、デザインを含めた商品としての完成度とバランスさせて選んだのが13機種である。視点を変えれば20機種以上を選び出してもおかしくないし、極端に言えば一機種にしぼることもできるというのが、この種の選考である。
 以下簡単に、13機種について推選理由を述べておくことにする。
 ソニーのTA3650は、きわめて手馴れたアンプづくりのキャリアが生きていて使い勝手のいいパネルレイアウトと、万人向きのデザイン、音のよさはこのクラス随一といってよいし各種スペックも控えめながら信頼性が高い。
 サンスイのAU607は、同社のアンプとしては飛躍的な佳作で、DCアンプ構成をとり、操作類は簡略化されながら、よく検討された機能とスムーズな動作で安心感がある。元祖のブラックパネルは現代的で緻密な感覚にあふれたデザインの高品質なアンプである。
 パイオニアのSA8900IIは、IIになってやや音が無性格になったとはいえ、試聴記でも書いたようにあらゆるソースをこなすオールマイティと、よく練られた造形とセンスは第一級の製品だと思う。
 ビクターのJA−S75は、大変オーソドックスで格調の高い音質、ややアンバランスなところはあるが嫌味のないデザインと、がっしり組まれた電源の質の高さなど、プリメインの模範的製品という感じである。
 サンスイのAU707は、AU607をさらに充実させたもので、ここまでくると、あとはファンクションの豊富さと質を落とさずパワーアップという発展を残すのみ。85W×2というパワーと、この音質の両立は文句なく推選に値する。
 ソニーのTA5650はTA3650のパワーアンプ・バージョンと考えるのは間違い。機能をより豊富にして質を上げたもので、私にはDCアンプの同社新製品をしのぐ音の品位が感じられた。
 トリオのKA7700Dは、現在のアンプとしての特性のあらゆる点を盛りこんだ代表的なモダンアンプとでもいえるもので、DCアンプ構成、3電源方式の採用など、豊富なフィーチュアを持ち、それが単なるフィーチュアに止まらず、実質的に中味の濃い製品まで練られた徳用品である。高級プリメインアンプとして充分な質とパワーを備えた信頼度の高い製品だ。
 オンキョー・インテグラA722nIIは、同社としては新しい製品ではないが、充実した内容と、オンキョーらしさをもった佳作である。新シリーズより安心して音楽が楽しめると思う。新しいものにそれなりの良さもあるが、このほうが音の品位、堅実味で好感が持てる。
 ラックスのL309Vも同社の旧シリーズのイメージ・デザインだが、いかにもラックスらしいアピアランスと音の品のよさが魅力だ。マニアックな製品をつくるラックスの体質が感じられる趣味性を評価したい。
 トリオのKA9300は、プリメインアンプとして同社の最高級に位置するのみならず、一般的にいって、代表的プリメインアンプとするに足る。音質については試聴記を参照していただきたいが、質に独特な弾力性のあるのが好みの分れるところだろう。力強く、よく弾む音と、トリオの経験が集積されたアンプ構成・レイアウトは、さすがに完成度が高い。
 ヤマハのCA2000は一口にいって最高の機能と質をかねそなえた一級品だ。使ってみれば、その感触のデリカシーに高級品の味わいを感じであろう。
 パイオニアのSA9900とマランツ1250は20万円近いプリメインの究極的な製品で、パイオニアのヴァーサタイルな信頼性、マランツの個性と風格は、互いに異質ながら、このクラスを求める人に充分な満足感を与えるはずである。
 以上の他、上げればキリがないが、詳しくは試聴記から判断していただければ幸いである。

Lo-D HA-5300

菅野沖彦

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 日立のお家芸、ダイナハーモニーのアンプであるが、その割には、この価格で60W×2というスペックは、びっくり仰天するほどのもではない。細かいところに神経の配られたアンプだが、どうもその神経の配り方が、私がアンプに要求するポイントとずれている。たとえば、ボリュウムのアッテネート目盛りにライティングシステムを取入れているところなどは、大変なこりようだと思うが、そのわりには、レバースイッチの操作ノイズなどが大きく感触が安っぽい。そうしたことはともかく、肝心の音だが、あまり繊細なうるささを要求しなければ、なんでも適当な華やかさと、粘りで再現する効果音である。決して品位を要求する音楽の質の再現までは望めないが……。楽器のもつハーモニクス領域の再生が、あまりに大ざっぱなため、微妙なニュアンスや魅力が再現されないのが惜しい。残留ノイズは普通。トーンディフィートすると増えるというのは不思議だ。

デンオン PMA-501

菅野沖彦

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 フォノ・クロストーク・キャンセラーという武器を備えたアンプ。これを調整して使うと相当な効果がある。音場が一段と拡がってステレオフォニックな空間再現のイメージがはっきりと変るのである。この回路の入切による音質の変化はないので、大変有効なものだと思う。このアンプの音は、なにを聴いてもプログラムソースの持つ音、音楽のニュアンスをよく再現し、音楽を聴く意欲が損なわれない。どちらかというと、大型の高能率型のSPがよく、音の品位の高い、安定した再生が可能である。瑞々しい魅力が、やや硬いニュアンスとして再生される傾向にあるが、それだけに、音の充実感を強く訴えかけるのである。このクラスとしては音質面で高く評価したいアンプだ。ただし、トーン・ディフィートやモードスイッチなどの切替によるイズが出るのは、現在のアンプの水準からしてあまりにも無神経に過ぎる。それも、不安定な出方で、精神衛生上きわめて有害だ。

オプトニカ SM-3510

菅野沖彦

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 やる気十分の力作であることは一目でわかるし、コントロールした限りでは、技術的に攻め込んでいることもよくわかる。残留ノイズの少なさ、各種スイッチ類のショックもなく、トーン回路のオン・オフ時の音の変化もほとんどない。3トランスフォーマー・トロイダルと銘打つように、左右パワー電源、プリ電源を独立させるなど、大変な努力の跡はうかがえる。しかし、音質は、高域に浅薄な品の悪さがあってけばけばしい。パネルデザインのイメージもきらびやかなもので、心なしか、音のイメージと共通したものを感じさせる。これが、このメーカーの持つ個性的感性なのかしれないが、そうだとしたら、音楽の魅力の把み方の次元が少々低すぎはしないか。プリメインアンプとしては、かなりの高級品にランクされる製品だけに、もっと格調ある音の再現ができなければ不満である。表面的な繊細華麗さに止っている音であった。

サンスイ AU-707

菅野沖彦

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 AU607のところで、空気感の再現のよさを指摘したと同時に、音が空芯だという表現を使った。この707では、この音の感触がぐっと密度が高くなり、いうならば、空気圧が上ったという充実感がある。それだけに607ほど、他のアンプと異った特徴というものは感じられなくなったけれど、音のよさ、品位は明らかに一枚も二枚も上手である。フィッシャー=ディスカウの声の気品と重厚、柔軟な風格はちゃんと再現するし、弦楽四重奏の美しさは特筆してもよい。高弦のフォルテで破綻がなく、それでいて弦の色彩感は色あせることがない。オーケストラのfffも音くずれがないし、弦管打が遊離せず、がっしりとハーモニーを聴かせる。相変らずの黒パネルは、より洗練されて、昇華され、品のいいメカニックなイメージで好ましい。立体感のあるアンプの姿に共通した、充実した音の優れたアンプである。欲ばれば、もう一つさわやかなプレゼンスがほしい。

ラックス 5L15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 音を聴くかぎり、これはいままでのラックスのアンプという気がしない。しいていえば、最近のアメリカ製の良くできたアンプを聴いているときのような、いわゆる入力に対するレスポンス(応答)のよい、新鮮で、細部まで解像力のよい澄み渡った冬の冴えた青空のような、カチンと引緊って冴えた音がする。つまり、どちらかといえばクールで、音の肌ざわりのやや冷たい、しかしそのことで音楽を凍らせてしまうようなことのない反応のよさで聴き手に一種の快感を与える。いかにも現代のトランジスターの音だ。ただ、これをSQ38FD/IIの直後に聴いたせいばかりでなく、弦の音やヴォーカルの音色を、いくらか硬目に鳴らす傾向があり、ピアノの打鍵やパーカッションも、切れ込みは素晴らしい反面、あとほんのわずかとはいえ、音の響きの自然さと豊かさが出てくれると素晴らしいのにという気がした。しかしこの質の高い澄んだ音は相当の水準だ。

ビクター JA-S41

菅野沖彦

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 大変オーソドックスな響きを聴かせてくれるアンプだ。以前に他の機会にこのアンプを聴いた時には、もっと豊潤な、魅力を感じさせる音だという印象だったのだが、今回の試聴では、そうした効果的な響きがなく、ある面、物足りなさを感じさせる音であった。スペンドールBCIIでは、この傾向が強く出て、魅力に乏しく、音楽の楽しさが生きてこないようで、JBL4343では、オーソドックスなよさが、端正な再生を可能にしてくれる。このクラスの製品としては実際に組み合わせられるスピーカーなどの価格的制約を考えれば、もう少し、美しいと感じさせる音を持ったアンプの方が圧倒的に多いし、その必然性もあるだろう。このアンプは、今回聴いた限りでは、大変真面目な音に徹していて、総合的には高く評価できるように思われるが、現実には商品性の難しい立場にある。一言にしていえばあきのこない音だ。聴感上のSN比は大変優れ残留ノイズは極少だ。

「最新プリメインアンプ35機種の試聴テストを終えて」

瀬川冬樹

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 前回のプリメイン総合テスト(33〜34号)のとき参加できなかったので、私にとっては27号以来約四年ぶりの集中テストであった。27号のテストで個人的に印象の強く残った製品は、デンオンPMA700、500、300Z、トリオKA8004、ヤマハCA1000、ラックスSQ38FD、などだった。あれから四年のあいだに、生き残っている製品はひとつもなくなってしまった。が、それならいまあげたアンプを、現在、という時点で聴き直してみたら、はたしてどう聴こえるだろうか。新製品あるいは改良型というものが、ほんとうに必然性を持って生まれてくるものなのだろうか。
 たとえば音楽的なバランスの良さ、とか、音の魅力、といった面では、右にあげた製品はいまでも立派に通用すると思う。しかし最近の良くできた製品からみれば、音の充実感あるいは緻密さ、音の鮮度の高さ、などの点で少しずつ劣る部分はある。製品によってはパワーが少々不足するものもある。ただ、そうした面が、それぞれのメーカーの改良型や新製品ですべて良くなっているか、となると、必ずしもそうではない。改良または新型になって弱点を改良した反面、以前の製品の持っていた音の独特の魅力の方を薄れさせ或いは失ってしまった製品もある。
 細かくいえば、いまの時点でも十分に魅力を聴かせるのはデンオンのPMA500と300Z、それにトリオのKA8002だ。言いかえれば、それらの改良型または新型が、軌道修正をはかった結果、プロトタイプの持っていた音の魅力を失ってしまったと私は思う。
 デンオンのPMA700はZになって、またヤマハCA1000とラックス38FDはともにマークIIになって、プロトタイプの良さを失わずに改良に成功し、た方の例だと思う。ところがヤマハはさらにマークIIIを出したが、これは必ずしも改良とは言いきれない。というよりその直後に出たCA2000の方が出来栄えが良いために、この方がむしろCA1000のマークIII的な性格を素直に受け次いでいて、かえってオリジナルのマークIIIのかげが薄くなってしまったように思える。製品の練り上げとは、ほんとうに微妙で難しいものだと思う。
 どんなに良い製品でも、完璧ということはありえないし、時の流れとともに変化する周囲の情勢の変化に応じて、少しずつであっても改良を加えなくては生き残ってゆくことはできない。しかしアンプに限っても、改良のサイクル(周期)が、少し短すぎるのではないか。新製品あるいはモデルチェンジが、頻繁におこなわれすぎるのではないか。アンプテストをふりかえってみると、いつもそう思う。研究し比較し、貯金して、買おうと思うアンプに焦点を絞ったところで、また新型が出る。やっと念願かなって一台のアンプを購入したと思った途端に新型が出て裏切られたような口惜しい思いをする。
 改良は必要なことだ。製品がより良くなるのは嬉しいことだ。けれど、いまのように、一年やそこいらで全面モデルチェンジなどという必然性があるとは、私にはとても思えない。たしかに素材や技術の進歩・改良のテンポは早い。だが、それをとり入れて十分に消化し熟成させて製品化するのに、半年や一年でできるわけがない。少なくとも、春と秋に各メーカーが一せいに歩調を合わせてニューモデルの発表をするというような現状は、少々狂っているとしか言いようがない。
 たしかにここ数年来、レコードプレーヤーやカートリッジや、テープデッキや、チューナー等、プログラムソース側の機材の進歩はいちじるしい。スピーカーもまた、急速に改良されはじめている。そうした周辺機器ばかりでなく、レコードの録音の技術的あるいは芸術的な変遷や、音画の作品や演奏や聴き手を含めての時代感覚の変容を、本質のところで深く鋭く掴え性格に敏速に反応してゆくことが、ンアプには要求されている。そうした本質を正しく掴えた改良であるか、それとも単にマーケットの表面的な動勢に振り回されての主体性を失ったモデル珍事であるか、が、新製品の存在理由を明らかにする、と私は思う。
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 今回のテストは、たまたま、昨年発売された本誌別冊「世界のコントロールアンプとパワーアンプ」でのセパレートアンプ・テストから一年を経ていなかったため、セパレート型の上級機での素晴らしい音質が、どうしても頭の隅にこびりついていて困った。けれど、そのことは逆に、プリメインタイプのアンプのありかたについて、改めて考えさせてくれた。
 ほんらいセパレートにしてまで追求しなくては得られない音質を、プリメインの中級以下の機種に求めることがはじめから無理な相談であることは言うまでもないが、どうやらこの自明の理を、メーカーの中には少々誤解している向きもあるのではないか。その点、はじめにあげた、PMA500やKA8004やSQ38FDなどは、プリメインという枠の中で、ひとつの定着した世界を築き上げた名作だと私は思う。
 アンプの大きさや重さや、操作上必要なコントロールファンクションなどのあらゆる面から、もう少し機能に徹して、必要かつ十分のファンクションというものを洗い直して、そこにプリメインならではの音の魅力をあわせ持った、ピリッと小味の利いた名作を、どこかで作ってくれないものだろうか。そういう意味で、現代のプリメインのありかたというものを、製作者もユーザーもジャーナリズムも流通経路にたずさわる方々も、皆で改めて考え直してみる時期にさしかかっているではないだろうか。
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 テスト中にとくに操作面で気になったいくつかの事項を書き加えておきたい。
 国産のアンプのほとんどが、VOLUMEのつまみを大型にして他の機能と区別し扱いやすくしていることはよいが、半数以上の製品は、つまみを廻すにともなってシャーシ内部でコチコチとクリック音がする。これは、高級機で採用されたアッテネータータイプとその簡易型の変種であるディテント型(dB目盛りで音量を絞るタイプ)が、目盛りをはっきりさせるためにつけているクリックだが、このクリックストップは、そろそろやめにしてもらいたい。つまみが階段状に廻るのでこまかな音量調整がしにくいし、レコードの終ったところで手早く絞ろうとすると、コリコリコリ……と余分な機械音が、音楽を聴き終って良い気持になっている聴き手の気分のじゃまをする。この点、テクニクス80Aのボリュウムのつまみのしっとりした感触はとてもよかった。
 もうひとつ気になることは、これはずいぶん前から本誌のテストでたびたび指摘されていることだが、トーンコントロールのONによって音質の劣化するアンプがまだかなり多いこと。トーンディフィートの状態ではとても新鮮な良い音がするのに、ちょっと低音を補整したいと思ってトーンをONにすると、とたんに音が曇る、というのが多い。どうも製作者側が、トーンコントロールの活用を軽んじて、回路設計に手を抜く傾向があるようだ。フィルターのON−OFFでも音質の劣化する傾向のあるアンプがいくつかあった。
 レバースイッチ類の操作にともなうシャーシ内での機械音・共鳴音の大きいアンプも気分を害する。ボリュウムのクリックと同様にいえることだが、アンプとして必要なのは良い音を聴かせてくれることで、音楽の音以外の機械的な共鳴音は、できるかぎりおさえるべきだと思う。機械音ばかりでない。スイッチの操作にともなってスピーカーから出るノイズは、皆無にするべきだが、この点案外ルーズな製品がまだ意外にあった。残留雑音もしかり。スピーカーが一時よりも能率を高める傾向があるのだから、静かな住宅地で、深夜、ボリュウムを絞りきったときに聴取位置でノイズの聴こえるようなアンプは困る。
 もうひとつ、出力表示のためのメーターをつけたアンプの場合、ピーク指示またはVU指示のどちらでもなく、単に飾りとしか思えないような針のふれ方を示すものがあった。聴感と対応しないようなメーターはやめにしてもらいたい。この面では、ヤマハCA2000等のピーク指示計が非常に正確な反応を示したが、ラックス5L15のメーターのふれかたは、どうもよく理解できなかった。