Category Archives: スピーカー関係 - Page 64

ダイヤトーン DS-35B

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ブックシェルフ型システムのベストセラー機種であるDS28Bの上級モデルとして開発されたブックシェルフ型のシステムである。したがって最近のバスレフ型エンクロージュアを採用することが多い傾向に反して、本機は完全密閉型である。
 ユニット構成は、30cmウーファーをベースとした3ウェイシステムで、中音用は10cmコーン型、高音用は3cm口径のドーム型である。ウーファーは、機密性に富み腰が強いコルゲーション付コーン紙と耐熱性が高いボイスコイルボビンとコイルの組合せで、磁気回路は低歪化されている。スコーカーは、エッジ部分にリニアリティが高いポリエステルフィルムにダンピング処理を施して使い、パルシブな入力に対して立上がりの良い再生を可能としている。また、磁気回路はウーファー同様な低歪磁気回路である。トゥイーターのダイアフラム材質には、ガラス繊維強化プラスチック、GFRPを使っている。また、音色は、レーザーホログラフィーでの振動解析や、新しく導入されたインパルス応答による累積スペクトラムなど最新の技術とヒアリングにより検討されている。
 エンクロージュアは、分散共振型で補強桟は不均一に配置してあり、箱鳴りを抑えた設計である。
 DS35Bは、タイトで明快な低音をベースとして、粒立ちがよく、エネルギー感のある中域と滑らかに伸びた高域が巧みにバランスし、密度が濃い音を聴かせる。この音は、個性を聴かせるタイプではなく、オーソドックスな安定感、充実感が魅力であり、併用するアンプ、カートリッジで、かなり結果としての音をコントロールできる余裕があるようだ。価格帯から考えるともっとも正統派のシステムで信頼性が高い。

JBL D44000 Paragon

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 JBLパラゴン家の中に持ち込んでみてわかったのは、この「パラゴン」ひとつで部屋の中の雰囲気が、まるで変ってしまうということだった。なにせ「幅2m強、高さ1m弱」という大きさからいっても、家具としてこれだけの大きさのものは、少なくとも日本の家具店の中には見当らない見事な仕上げの木製であるとて、この異様とも受けとめられる風貌だ。日本人の感覚の正直さから予備知識がなかったら、それが音を出すための物であると果してどれだけの人が見破るだろうか。何の用途か不明な巨大物体が、でんと室内正面にそなえられていては、雰囲気もすっかり変ってしまうに違いなかろう。「異様」と形容した、この外観のかもし出す雰囲気はしかし、それまでにこの部屋でまったく知るはずもなかった「豪華さ」があふれていて、未知の世界を創り出し新鮮な高級感そのものであることにやがて気づくに違いない。パラゴンのもつもっとも大きな満足感はこうして本番の音に対する期待を、聴く前に胸の破裂するぎりぎりいっばいまでふくらませてくれる点にある。そして音の出たときのスリリングな緊張感。この張りつめた、一触即発の昂ぶりにも、十分応えてくれるだけの充実した音をパラゴンが秘めているのは、ホーンシステムだからだろう。ホーン型システムを手掛けることからスタートした、ジェイムズ・B・ランシングの、その名をいただくシステムにおいて、正式の完全なオールホーンを探すと、現在入手できるのはこのパラゴンのみだ。だから単純に「JBLホーンシステム」ということだけで、もはや他には絶対に得られるべくもない、これ限りのオリジナルシステムたる価値を高らかに謳うことができる。このシステムの外観的特徴ともいえる、左右にぽっかりとあく大きな開口が見るからにホーンシステム然たる見栄えとなっている。むろんその堂々たる低音の響きの豊かさが、ホーン型以外何ものでもないものを示しているが、ただ低音ホーン型システムを使ったことのない平均的ユーザーのブックシェルフ型と大差ない使い方では、その真価を発揮してくれそうもない。パラゴンが、その響きがふてぶてしいとか、ホーン臭くて低い音で鳴らないとかいわれたり、そう思われたりするのも、その鳴らし方の難しさのためであり、また若い音楽ファン達の集る公共の場にあるパラゴンの多くは、確かに良い音とはほど遠いのが通例である。しかしこれは、決して本来のパラゴンの音ではないことを、この場を借り弁解しておこう。優れたスピーカーほどその音を出すのが難しいのはよく言われるところで、パラゴンはその意味で、今日存在するもっとも難しいシステムといっておこう。パラゴンの真価は、オールホーン型のみのもつべき高い水準にある。
 パラゴンは、米国高級スピーカーとしておそらく他に例のないステレオ用である。正面のゆるく湾曲した反射板に、左右の中音ホーンから音楽の主要中音域すべてをぶつけて反射拡散することによりきわめて積極的に優れたステレオ音場を創成する。この技術は、これだけでもう未来指向の、いや理想ともいえるステレオテクニックであろう。常に眼前中央にステージをほうふつとさせるひとつの方法をはっきり示している。

KEF Model 5/1AC, 104AB, 103

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 #5/1ACは、デュアル・チャンネルのパワーアンプとデバイダーを内蔵したモニタースピーカーだが、その原形は1950年代までさかのぼり、英国BBC放送局の研究スタッフと、KEFの社長レイモンド・クックとの長期に亙る共同研究の結果完成したモニタースピーカーLS5/1Aが基本になっている。
 LSというモデル名は、BBC放送局で正式に採用されるモニタースピーカーだけに与えられる。中でもLS5/1Aは、NHKでのAS−3001(市販名は2S−305。現在は改良型のAS−3002が主力)に相当するマスターモニターの主力機としてBBCで長期間活躍している。これをもとに、いっそうの耐ハイパワー化と、解像力に優れた現代のモニターに成長させた製品がKEF#5/1ACで、これを機にKEFでは、一般市販用の〝C〟シリーズに加えて、新たに〝リファレンス〟シリーズを作りはじめた。その名のとおり音質比較の基準としても使えるだけの優れた特性のシリーズとして、まず#104が発表され、小型であるにもかかわらずフラットでワイドな周波数特性で世界の注目を集めた。またKEFはこれらのシリーズ開発のプロセスで、コンピューターによる全く新しいスピーカーの測定・解析法を考案し、今ではこの方法が、日本でも多くのメーカーによってとり入れられて成果が上がっている。
 104に続いて発表された103は、指向性改善のためにスピーカーバッフルの向きを変えられること、そしてより一層にハイパワーに耐えることに特徴がある。最近になって、さらに進んだ解析の結果ネットワークを改良した104ABを発表したが、低音ユニットと高音ユニットり音のつながりが明らかに改善されて、見事に洗練された繊細で自然な音を聴かせる。イギリスのスピーカーの概してハイパワーに弱い性格はKEFも同様だが、家庭用として常識的な音量で鳴らすかぎり、このこまやかで上品な音質は、音を聴き込んだファンには理解されるにちがいない。

エレクトロボイス Sentry IVA

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 エレクトロボイスは、名実ともに一流メーカーと呼ぶにふさわしいアメリカの名門である。本社はミシガン州ブキャナンにあり、一九二七年創立以来、数々の高級スピーカーユニットおよびPAシステムを世に送り出してきた。同時に、量高級スピーカーシステム、パトリシアンに代表される家庭用の大型フロアータイプや、近年ではブックシェルフ型まで幅を広げ、製品化してきたのである。
 現在では、残念ながらパトリシアンは製造中止になってしまったが、今日発売されているスピーカーシステム中、最も高級なモデルがこのセントリーIVAである。外観は、明らかにプロフェッショナル・ユースであり、かつてのパトリシアンに見られたような、ファニチュアライクなフィニッシュは見られない。この点では、一流品として登場する他のスピーカーに比べて、少し味けなさすぎるという印象を持たれるかもしれないが、しかし、現在のエレクトロボイスからすれば、やはりこの機種を挙げるべきだろう。
 アルテックのA7に一脈通じるシステムだが、同社のドライバーユニット、あるいはスピーカーエンクロージュアづくりの、長年のノウハウの蓄積が凝縮した高級スピーカーシステムといえるだろう。
 エレクトロボイスとしては、私はやはり一時代前につくっていた、きわめて緻密な木工技術をいかした家具調の大型スピーカーシステムの再現を、いま希望したいところだが、同社の歴史、実力からこのシステムを一流品として挙げておきたい。

JBL 4343, 4350

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 その音を耳にした瞬間から、価格や大きさのことなど忘れてただもう聴き惚れてしまう。いい音だなあ、凄いなあ、と感嘆し、やがて音の良し悪しなど忘れて音楽の美しさに陶酔し茫然とし、鳴り止んで我に返って改めてああ、こういうのを本当に良い音というのだろうな、と思う……。スピーカーの鳴らす音の理想を書けば、まあこんなことになるのではないか。それは夢のような話であるかもしれないが、少なくともJBL#4350や#4343を、最良のコンディションで鳴らしたときには、それに近い満足感をおぼえる。
 JBLの創始者ジェイムズ・B・ランシングは、アルテックのエンジニアとしてスピーカーの設計に優れた手腕を発揮していたが、シアター用を中心として実質本位に、鋳物の溶接のあともそのままのアルテックの加工法に対して、もっと精密かつ緻密な工作で自分の設計をいっそう生かすべく、J・B・ランシング会社を設立した。その最初の作品である175DLHは、ショートホーンに音響レンズという新理論も目新しかったが、それにもまして鋳型からとり出したホーンの内壁をさらに旋盤で精密に仕上げるという加工法、また、アルニコVと最上級のコバルト鉄による漏洩の極度に少ない高能率の磁気回路の設計や、油圧によるホーン・ダイアフラムの理想的な整形法に成功したことなどにあらわれるように、考えられる限りの高度で最新の設計理論と、材料と手間を惜しまない製造技術によって、1950年代の初期にすでに、世界で最も優れたスピーカーユニットを作りあげていた。続いて設計された375ドライバーユニットは、直径4インチという大型のチタンのダイアフラムと、24000ガウスにおよぶ超弩級の磁気回路で、今に至るまでこれを凌駕する製品は世界じゅうにその類をみない。375のプロ・ヴァージョンの#2440は、#4350の高域ユニットとして使われているし、175の強力型であるLE85のプロ用#2420が、#4343の高域用ユニット、という具合に、こんにちの基礎はすでに1950年代に完成しているのである。驚異的なことといえよう。
 JBLのユニット群は、エンクロージュアに収めてしまうのがもったいないほどのメカニックな美しさに魅了される。1950年代はむろん飛び抜けて斬新で現代的な意匠に思えたが、四半世紀を経た今日でも相変らず新しいということは、不思議でさえある。が、その外形は単に意匠上のくふうだけから生れたのではなく、理想的な磁気設計や振動板の材質や形状、それらを支えて少しの振動も許さないダイキャストの頑強なフレーム構造……など、高度な性能を得るための必然から生まれた形であり、その性能が今日なお最高のものであるなら、そこから生まれた外観がいまなお新しいのも当然といえるだろう。
 JBLのエンクロージュア技術も、ユニットに劣らず優れている。最大の特長は、裏蓋をはじめとしてどこ一ヵ所も蓋をとれる箇所がなく、ひとつの「箱」として強固に固められていること。そしてユニットのネットワーク類はすべて、表からはめ込む形でとりつけられる。現在では多くのメーカーがこれに習っているが、長いあいだこの手法はJBLの独創であった。それはエンクロージュアが絶対に共振や振動を生じてはならないものだ、というJBLの信念が生んだ考案である。その考案を生かすべくJBLのエンクロージュアは板と板の接ぎ合わせの部分が、接着ではなく「溶接」されている。JBLではこれをウッドウェルド(木の溶接)と呼ぶ。パーティクルボードまたはチップボードは、木を叩解したチップ(小片)を接着剤で練り固めたものだ。その一端を互いに突き合わせ高周波加熱すると、接触部の接着剤が溶解して、突き合わせた部分は最初から一枚だった板のように溶接されてしまう。だからJBLのエンクロージュアは、輸送や積み下ろしの途中で誤って落下した場合つき合わせた角がはがれるよりも板の広い部分が割れて破壊する。ふつうのエンクロージュアなら、接着した角の部分がはがれる。そのくらいJBLのエンクロージュアは、堅固に作られている。
 ユニットやエンクロージュアへのそうした姿勢からわかるように、JBLのスピーカーシステムは、今日考えられる限りぜいたくに材料と手間をかけて作ったスピーカーだ。多くのメーカーには商品として売るための何らかの妥協がある。JBLにもJBLなりの妥協がないとはいえないが、しかし商品という枠の中でも最大限の手間をかけた製品は、そうザラにあるわけではない。JBLが高価なのは、有名料でもなければ暴利でもなく、実質それだけの材料も手間もかかっているのだ。JBLだからと、ユニットだけを購入してキャビネットを国産で調達しようとする人に私は言おう。ロールスロイスが優れているのは、エンジンだけではないのだ、と。あなたはエンジンだけ買ってシャーシやボディを自作して名車を得ようというのか。材質も加工法も全然違うエンクロージュアに、ユニットだけを収めてもそれはJBLの音とは全然別ものだ。
 JBLの栄光に一層の輝きを加えた作品が、新しいプロ用モニタースピーカー#4350であり#4343である。どちらも、低・中・高の3ウェイにさらにMID・BASSを加えた4ウェイ。#4350は低音用の38センチを2本パラレルにした5スピーカー。こういう構成は従来までのスピーカーシステムにあまり例をみない。その理由について解説するスペースがないが、JBLは必要なことしかしない、と言えば十分だろう。こんにちのモニタースピーカーに要求される性能は、広く平坦な周波数特性。ひずみの少ない色づけ(カラーレイション)の少ない、しかも囁くような微細な音から耳を聾せんばかりのハイパワーまで、鋭敏に正確に反応するフィデリティ、そして音像定位のシャープさ……。そうした高度な要求に加えてモニタースピーカーは、比較的近接して聴かれるという条件を負っている。こういう目的で作られた優れたスピーカーが、過程での高度なレコード観賞にもまた最上の満足感をもたらすことはいうまでもない。
 #4350も#4343も、外観仕上にグレイ塗装にブラック・クロスのスタジオ仕様と、ウォルナット貼りにダークブルーのグリルがある。どちらのデザインも見事で、インテリアや好みに応じていずれを選んでも悔いは残らない。

JBL 4333A, L300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 JBLのスタジオモニター・シリーズの中で最初に評価されたのが#4320であることはよく知られているが、さかのぼればその原形は、プロフェッショナル部分を設立するよりはるか以前のC50SM型モニタースピーカーにはじまっている。C50SMにはS7(LE15A+LE85の2ウェイ)とS8(LE15A、375、075の3ウェイ)の二つの型があった。エンクロージュアのデザイン(外観および外形寸法)は#4320も全く同じだがC50SMの構造は密閉箱だったため、低音の伸びが悪く寸詰まりの感じで、良いスピーカーだという印象があまり残っていない。そのC50SM−S7を位相反転型に改良し、クロスオーバー周波数を800Hzに変更(S7は500Hz)したものが#4320だと思えばいい。こまかいことをいえばユニットその他相異はあるが大づかみにはそういう次第で、したがって#4320はプロ部門設立と同時にある日突然生まれたモニターではなく、C50SM−S7以来の十数年のつみ重ねがあったわけだ。
 #4320は、低域およびウーファーとトゥイーターのクロスオーバー附近での音質の問題点が指摘された結果、#4330および31に改良された。さらに高域のレインジを拡げるためにスーパー・トゥイーター#2405を加えた3ウェイモデルの#4332、#4333が作られた。しかしこのシリーズは、聴感上、低域で箱鳴りが耳につくことや、トゥイーターのホーン長が増してカットオフ附近でのやかましさがおさえられた反面、音が奥に引っこむ感じがあって、必ずしも成功した製品とは思えなかった。
 #4333を基本にして、エンクロージュアの板厚を、それまでの3/4インチ(約19mm)から、1インチ(25mm強)に増し、補強を加えて作ったコンシュマーモデルのL300は、家庭用スピーカーとしては大きさも手頃だし、見た目にもしゃれていて、音質はいかにも現代のスピーカーらしく、繊細な解像力と徴密でパワフルな底力を聴かせる。音のぜい肉を極力おさえた作り方で、ダブついたような鳴り方を全くせず、やや線の細い鋭敏でシャープな音がする。
 こうしてL300が完成してみると、#4333の問題点、ことにエンクロージュアの弱体がかえっていっそう目立ちはじめた。そのことにJBLもとうぜん気付いたのだろう。#4333のエンクロージュアの板厚と強度を増すと同時に、位相反転のチューニングを変更し、タテ位置にもヨコ位置にも自由に使えるよう、ユニットの取付け方にくふうを凝らすなど、こまかな改良を加えた#4333Aを発売した、という次第である。#4333よりはL300が格段に良かったのに、そのL300とくらべても#4333Aはむしろ優れている。従来、内蔵ネットワーク型とマルチアンプドライブ専用型とに分かれていた#4332と33とが、#4333Aでは兼用型となったのも便利だ。

ダイヤトーン DS-40C

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ダイヤトーンの新しいフロアー型システムは、既発売の3ウェイ構成のフロアー型DS50Cのシリーズ製品として開発された、2ウェイ構成のシステムである。
 エンクロージュアのプロポーションは、いわゆるトールボーイ型で、一般的なブックシェルフ型システムをタテ方向に伸ばしたようなタイプであり、床面積をあまり広く占有しないため設置上での制約が少ない利点がある。バッフルボード上のユニット配置は、変調歪みが少なく、椅子に座ったときに、音軸が耳の位置とほぼ同じ高さになるように位置ぎめされている。
 低音用の30cmウーファーは、バスレフ型エンクロージュア専用に設計してあり、クロスオーバー周波数付近の特性を良くするために、コーン紙はコルゲーション入りのいわゆるカーブドコーンを使っている。また、ボイスコイルにゴム製のダンプリングを付け、一種のメカニカルフィルターとして、ウーファーの高域特性をコントロールしている。エッジは、熱硬化性樹脂と念弾性樹脂を混合し、数回にわたりコーティングしたクロスエッジで、さらにその上から特殊なダンピング処理をしてある。
 磁気回路は、今回もっとも重点的に改良された部分である。一般の低歪磁気回路は、ポールピースに銅キャップをつける方法や硅素鉄板の積層材を使う方法があるが、ダイヤトーンで新しく開発した方法は、ポールピースに特殊な磁性合金でつくったリングをつける方法で、磁気回路での非直線歪みが、ボイスコイルにリアクションをして音の歪みとして再生されることを大幅に低減している。歪率の低下は、周波数によっては、1/10と発表されている。
 磁気回路のマグネットには、ダイヤトーンは、ウーファーに限りフェライトマグネットを使わないのがポリシーであったが、新しい低歪磁気回路の開発により、フェライトマグネットを採用しても低歪磁気回路の採用で、総合的な性能としては鋳造マグネットを上廻る、として、初めてフェライトマグネットが採用されているのも、新しいシステムの特長であろう。
 トゥイーターは、5cm口径のコーン型ユニットだが、センタードームが円錐形の独特な形状をしているためにセミ・ドーム型と呼ばれている。磁気回路は、クロスオーバー付近の特性を良くするために、磁束密度14000ガウスの強力磁気回路による磁気制動と、バックチャンバー容積を大きくして振動系を臨界制動で動作させている。なお、バックチャンバーは、楕円形でチャンバー内の残響をコントロールして、トランジェントの悪化を防いでいる。
 DS40Cは、バスレフ型の豊かな低音の味わいと、2ウェイらしいスッキリとした音がバランス下、ダイヤトーンらしい音である。低歪化のためか、クロスオーバー付近の硬さがなく、量的に不足しないのがメリットで、音像定位は明瞭で安定しているのは、ダイヤトーンの伝統である。

オンキョー Scepter 10

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 型番こそ高級システムのセプター名称をもっているが、スピーカーシステムとしての性格は、個性を聴かせるモデルとして定評が高い、M6、M3の延長線上にある製品のように思われる。
 エンクロージュア形式は、バスレフ型でユニット構成は2ウェイ・2スピーカーだが、低音に大口径ウーファー、高音に、音響レンズ付のトゥイーターというよりもハイフレケンシーユニットと呼びたい本格的なドライバーユニットとホーンを組み合わせたユニットが使用されている。
 ウーファーは、38cm口径の大型ユニットで、180φ×95φ×20mmのフェライト磁石を使い、11000ガウスの高い磁束密度を誇り、ポールピース部分には銅のショートリングを装着し低歪化している。
 コーン紙はコルゲーションつきで物理特性が異なった2種類のウレタンフォームを7対3の比率で貼合せた特殊成形の2層発泡ウレタンエッジと耐熱性樹脂積層板を使う薄型ダンパーでサスペンションされている。ボイスコイルは、直径78mmのロングボイスコイルで、コーン紙との接合部にアルミ補強リングをつけ、コーン紙のつりがね振動防止と中低域の音色改善を計っている。
 トゥイーターは、ダイアフラム材質に、高域再生用として理想的な高度をもつ厚さ20ミクロンのチタン箔をドーム型に成形し、ポリエステルフィルムを使ったフリーエッジ構造や2重スリットのイコライザーの併用で、高域のレスポンスを伸ばし、硬く、軽い特長は、過渡特性を一層改善し鋭い立上がり特性を得ている。ホーンは、カットオフ500Hzのアルミダイキャスト製ショートホーンで、ハイインパクト・スチロール樹脂製の共振が少ない大型音響レンズと組み合わせて、30度の指向周波数特性が20kHzまで、軸上特性にほぼ等しい結果を得ている。
 トゥイーターのレベルコントロールは、一般のタイプとは異なり、モードセレクターと名づけられている。ポジションは3段切替型で、①ウーファーとトゥイーターが密結合の状態で、クロスオーバー付近のレスポンスはやや盛りあがり気味で、メリハリが効いた幾分ハードな音、②ウーファーとトゥイーターつながりが、音圧周波数特性でフラットになる設定、③中低域に、やや厚みをもたせ、トゥイーターレベルを抑え気味にしたソフトな再生パターンに変化することができる。
 エンクロージュアは、容積が160リットルあり、バッフルボードは20mm厚の米松合板を、側板には針葉樹材チップボードを使い、補強材を組込んで減衰波形の美しいエンクロージュアとし、外装はローズウッド木目仕上げで、フロアー型システムらしいデザインにまとめ上げている。
 出力音圧レベル95dB、最大入力100Wであるから、最大出力音圧レベルは115dBとオーケストラの最強音圧に匹敵する。

ビクター S-755

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、大口径ウーファーをベースとした3ウェイシステムというよりは、中口径フルレンジユニットの低域と高域をそれぞれ専用ユニットで補ったシステムというほうが適当であろう。
 20cmシングルコーン型ユニットは、250Hzから8kHzの幅広い帯域を受持っている。コーン紙は、新開発のSP1コーンで、ハイヤング率、軽量タイプである。
 ウーファーは、このクラスとしては異例に大口径な38cm型で、SP1を使ったコーン紙は、ボイスコイルとの結合部にコンプライアンスをもたせ、機械的なハイカットフィルターとして、ネットワーク用の大きなコイルがウーファーと直列に入り、直流抵抗が増加することを防ぎ、併せて価格を抑えるのに役立っている。トゥイーターは、スコーカーに同軸型に組込まれた4cm口径のコーン型で、フェイズ・リンク・コアキシャル方式である。
 このシステムは、スケールの大きな落着いた音である。低域は豊かで安定し、高域のやや輝く感じが低域とバランスをとり、アクセントを効果的につけている。

サンスイ SP-G300

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 新しい価格帯に登場したフロアー型スピーカーシステムである。構成は、ユニークな、同口径で異った性質の2本のウーファーを並列駆動する低音、本格的なコンプレッション型ドライバーユニットと音響レンズつきホーンを組合せた高音を採用した2ウェイ・バスレフ型である。
 低域、高域ともに、充分に伸びた聴感の帯域は、近代型モニターシステム的であり、とくに低域の音の姿、かたちをナチュラルに表現し、スケール感が大きいのは、フロアー型ならではの魅力である。また、ホーン型ユニットが受持つ帯域は、いわゆるホーン的な感じが皆無で、特定のカラリゼーションがないのは珍しい。音でなく、音楽を楽しむスピーカーである。

ビクター S-777

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近では珍しい同軸型ユニットを使ったフロアー型システムである。このユニットは、基本的に既発売のバックローディングホーン型エンクロージュアを採用した、フロアー型システムFB7のユニットを同軸化したと考えてよい。
 30cm口径のウーファーは、軽量で腰が強い米国ホーレー社製コーンで等価質量35gと軽く、直径10cmのエッジワイズ巻ボイスコイルは、アルニコV型マグネットをスタックした内磁型の磁気回路と組み合わされ、95dBの出力音圧レベルを得ている。トゥイーターは、開口部にドリップ型イコライザーをもつ、700Hzカットオフのアルミホーンと直径38mm、厚さ40ミクロンの米国製強力アルミ合金のダイアフラムを使い、アルニコV型マグネット使用の磁気回路で14000ガウスの磁束密度を得ている。このトゥイーターは、ホーン部分がウーファーの磁気回路を貫通して組立てられ同軸化している。ウーファーとトゥイーターの相対的な位置は、新測定法フェイズ・モアレ伝送パターンから決定され、位相干渉が少ないフェイズ・リンク・コアキシャル型とし、整った波面が放射状に伝送され、また周波数による音像移動が少なく、安定した音像定位を得ている。
 エンクロージュアは、バスレフ型で、内部の定在波を減らすために、バッフルボードはやや上方に傾斜させあわせて椅子に座ったときに音軸が耳の位置にくるようにユニットの配置がしてある。
 このシステムは、全体に引締まったクリアーな音である。聴感上では、やや中域が薄い傾向があるが、質的に充分磨かれ緻密さがあるのがよい。音の反応が速く活気があり、キビキビした印象は、新鮮で気持がよい。

ソニー SS-G7

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 スピーカーのユニット設計に、アポロ計画をはじめ、宇宙船の開発に応用されたNASTRANと呼ばれるコンピューター技法を導入し、聴感とデータの徹底的な検討により完成した注目すべきソニーの新製品である。
 ユニット構成は、3ウェイ・3スピーカー方式で、使用ユニットはバッフルボード面に、一線に配置されるインライン方式であるが、本機ではさらにたくユニットの音源位置を垂直線上に揃える、ブラムライン方式としている。各ユニットの音源の位置を揃える利点は、聴感上の定位感が明瞭になると同時に臨場感が豊かになることが確認されている。
 30cm口径のウーファーは、音源を揃えるために、巨大な、自動車のアルミホイールを思わせる形状の特殊成形アルミ合金フレームを採用している。コーン紙は、半頂角60度カーボコーンで、コルゲーションが設けられ、ボイスコイル直径は、10cmと大口径である。磁気回路は、直径25mm×20mmのアルニコ系鋳造磁石を14個使った内磁型で、T型ポールには特殊鋼材を使い低歪化してある。
 スコーカーは、コーン型とドーム型の中間的なバランスドライブ型で、口径は10cm、磁気回路には、120φ×70φ×17tmmの大型フェライト磁石とT型ポールピース採用である。このT型ポールピースは、磁気ギャップ内の磁束分布を均一化でき、磁場の非対称による歪みを低くできる。
 トゥイーターは、口径3・5cmのバランスドライブ型で、ダイアフラムには厚さ20ミクロンのチタンを深絞り一体成形して使用し、エッジ部分は人工皮革を採用して金属的な鳴りを抑えている。磁気回路はアルニコ系磁石を壺型ヨークと組み合わせて、16000ガウスの磁束密度を得ている。
 エンクロージュアは、バスレフ型で、バッフルボードは厚さ30mmの硬質カラ松材パーチクルボードを使用し、中高域の拡散効果を目的として格子状の加工が施してある。ACOUSTICAL GROOVEDを略してAGボードと名づけられたこの加工により、聴感上の臨場感を向上することができる。また、エンクロージュアの各壁面の放射周波数帯域を分散することにより、箱鳴りといわれて敬遠されていた現象を音色的に有効に利用している。エンクロージュア内部は、高密度フェルトを壁面に密着させ、板共振を抑え、定在波の発生を防ぐために、多量の吸音材を入れてある。
 このシステムは、各ユニットが音色的にも周波数レスポンス的にもよくつながり、音が安定している特長がある。聴感上では、さしてワイドレンジと感じないが、必要な場合には充分な帯域の伸びがわかるタイプである。音の密度は濃く、力感もあって、大人っぽい完成度の高さが、このシステムの魅力といえよう。

サンスイ SP-G300

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サンスイのフロアー型システムには、現在バックロードホーン型エンクロージュア採用のSP707J、バスレフ型エンクロージュア採用のSP505Jがあるが、いずれも使用ユニットは米JBL製のフルレンジユニットであり、そのシステムをベースとしてマルチスピーカー化する可能性を残した、いわば基本型といった性格が強い製品である。
 今回、新しく発売されるSP−G300は、最初から自社開発のユニット使用を前提として企画されたコンプリートなフロアー型システムで、開発にあたっては、かなりJBLのモニターシステムの影響を受けていることが、そのユニット構成、規格からも知ることができよう。
 トールボーイ型をしたエンクロージュアは、バスレフ型で西独ブラウンのスピーカーシステムと同様に、コーナーが大きくRをとってあるために、全体の印象は穏やかな感じがあり、SP707Jなどとはかなり異なっている。
 ユニット構成は、2ウェイ・3スピーカー方式で、ウーファーは、30cm口径のユニットを2個並列使用、トゥイーターは音響レンズ付のホーン型が採用されている。
 ウーファーは、ちょっと見には、単純なパラレル駆動と思われやすいが、それぞれコーン紙の形状が異なっており、性質の違ったユニットであることがわかる。タテ位置に2個取りつけてある下側のウーファーは、低域共振周波数が低く、振動系の質量が重いタイプで、本来のウーファーとしての低音を受持ち、上側のウーファーは、やや低域共振周波数が高く、振動系の質量が軽いタイプで、低音の高いパートから、トゥイーターにクロスオーバーする帯域を受持っている。このユニットは、いわばスコーカー・ウーファーと考えてもよいものだ。
 一般的には、ウーファーは重低音を要求すれば中低域に欠点が生じやすく、中低音を要求すれば重低音不足となりやすい傾向があるが、逆の声質をもつ2個のウーファーをコントロールして並列駆動として使う方法は、大変に興味深いものがある。
 考え方を変えれば、38cmウーファー1個を追い込むよりは、実効的なコーン面積がそれと等しい異なった種類の30cmウーファー2個をコントロールするほうが、ある場合には、むしろ好結果が得やすいのかもしれない。この場合にはその成功例といえる。
 トゥイーターは、本格派のハイフレケンシーユニットで、ショートホーンとスラントタイプ音響レンズの組合せで、SP6000で使用されたユニット発展型と考えてもよいのかもしれない。
 このシステムは、表情が豊かで、伸びやかな音である。ややウォームトーン型だが、低域が安定しよく響き、よくハモる。中域以上は、ホーン型とは思われないほどの細やかさと滑らかさがある。小音量でもバランスを保つのは実用上の利点で、JBLと異なった音であることが好ましい。

ボザーク B-410 Moorish

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 コンポーネントアンプが高性能化し、ハイパワー化してくると、それらの高級アンプをつかってドライブするスピーカーシステムのほうは、名器として定評が高い大型システムが次々と姿を消して、世界的にみてもこれぞというスピーカーシステムは数えるほどしか残っていないし、新製品として登場する例も異例といえるほど少なくなった。
 米・ボザーク社の代表製品である、B−410コンサートグランドは、現在も生き残っている数少ない伝統的な大型フロアーシステムである。構成ユニットは、低音に30cmウーファー・B−199が4本、中音16cmメタルコーン型スコーカー・B−209Aが2本、高音5cmメタルコーン型トゥイーター・B−200Yを8本使った3ウェイ・14スピーカーのマルチウェイ・マルチスピーカーシステムの代表作である。
 ボザークのユニットは、B−410に使用されている専用ユニットが3種類と、他に全域用の20cmメタルコーン型・B−800の4種類があるだけで、創業以来、基本的な設計変更もなく、一貫して、優れたユニットは一種類、といわんばかりに同じユニットを作り続けている。ウーファーコーン紙には、羊毛を加えた独得なタイプが使用され、例外的に複数個の使用でも特性が崩れない特長があるといわれている。ウーファー以外の3種類のユニットは、コーンが継目のない軽合金製のメタルコーン型であることが特長であり、表面に特殊なゴムをコーティングして金属の共鳴を抑えているから、一般のパルプでつくったコーン紙と見誤ることもあるであろう。
 ボザークのスピーカーシステムは、普及機を除いてすべてこの4種類のユニットを組合せてつくられているが、クロスオーバーネットワークは、もっともシンプルな6dB/oct型である。このネットワークも同社のシステムの特長で、位相特性が優れ、聴感上でもっとも好結果が得られるとことだ。基本的に各専用ユニットが広帯域型であることにより、傾斜のゆるやかな6dB/oct型ネットワークの採用を可能としていると思われる。また、高音、中音のレベルコントロールを装備せず固定型であるのは、大変に使いやすいメリットになっている。
 コンサートグランドシリーズは、デザインにより、B−410がクラシックとムーリッシュ、B−310Bコンテンポラリーの3種類があり、ユニット配置は下側から低音用が2本づつ2段に並び、その上に中音用が横一列に2本、高音用は縦一列に8本が中央に置かれているが、B410クラシックだけが、左右専用型の対称配置である。
 このシステムは、エネルギー感が充分にあり、密度が濃く重厚な音が魅力である。とくに低域のレスポンスが伸び、腰の強い重低音を再生できるのは、この種の大型フロアーシステムならではの感がある。また、音量の大小によって聴感上のバランスが変化せず、小音量でも小型スピーカーと同様に扱うことができる。一般に数多くのユニットを使うシステムでは、音像定位で問題を生じやすいが、小音量のときでも音像がシャープに立つのは、このシステムの特筆すべき点だ。

モニター・オーディオ MA3 SeriesII, MA4, MA5 SeriesII, MA7

菅野沖彦

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 シリーズとしての一貫性はよい。バランスのとり方の上手なメーカーだけに、どれを聴いても帯域バランス、高域の味つけなどが巧みになされていて、効果的な鳴り方をする。最上機のMA3が質的にもっとも高く、どんなプログラム・ソースにも破綻のない再生音が得られる。最も小型のMA7は小じんまりまとまった雰囲気の再現が得られ効果的。中間機種が中途半端で、色づけが濃く楽器の音に固有のスピーカー自体の音色が結びついてくる。

モニター・オーディオ MA3 SeriesII, MA4, MA5 SeriesII, MA7

瀬川冬樹

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 なじみの薄い新ブランドだが、フランスやカナダで評価がよいことを以前から耳にしていた。MA7、5、4、3と、いずれの機種にも共通した一種独特の中〜高域のツヤを持っていて、シリーズ製品としての一貫性を持たせてあることはわかる。MA3のシリーズIIでない方の製品を一年前に聴いたときは、もう少しキリッと引締った好ましい音と感じたが、今日のは外観からもトゥイーターが変わっていて、前の製品より音をゆるめてあると感じた。

エレクトロボイス Interface:A, Interface:B

菅野沖彦

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 インターフェイスAとBは明らかにシリーズである事が音に現われている。しかし、BはAのギリギリのところで守っている中域の品の悪さが、そのままでてしまう。これを、ひっくり返せば、Aの特色として表現することになるだろう。つまり、張り出した中域の豊かさが充実していて、やや粗々しいが、限界でふみ止まっているのだ。いずれの場合も付属イコライザーは使わずにすめば使わないほうが音の質はよい。

エレクトロボイス Interface:A, Interface:B

瀬川冬樹

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 インターフェイスAは背面にも高音の一部を放射する構造のため、置き方にちょっとしたくふうがいるが、うまく使いこなすと音のバランスのなかなか見事なスピーカーだ。パワーも気持よく入る。ただし音の質は乾いていて、音に透明感があまり感じられず、艶消しの音、という印象を受ける。インターフェイスBは、Aをコストダウンしたということが露骨に感じられる音。原の音に奇妙なくせがつくし、中域がいささかきつい。

JBL 4331A, 4333A, 4343

菅野沖彦

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 JBLの新しいプロシリーズは一層洗練された。その代表的なものは4333Aと4343の二機種である。4331は2ウェイで私としては、どうしてもトゥイーター2405をつけた4333Aでありたい。シリーズとしては文句のつけようもない端然とした系統をもっており、音にも製品企画にもJBLらしい並々ならぬメーカー・ポリシーがあり感心させられるのである。真の意味でのスピーカーの芸術品と呼びたい妥協のない製品群で、今時、他に類例を見ることができない。

JBL 4331A, 4333A, 4343

瀬川冬樹

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 4320以降のJBLのスタジオ・モニターシリーズの充実ぶりは目を見張るものがあるが,最新型の3機種を聴いて、このシリーズが一段と高い完成度を示しはじめたことを感じた。シリーズとしては4333Aからあえてスーパー・トゥイーターを除いた4331Aの必然性には少し疑問を感じる。新型の4343は単に4341の改良型であることを越えて、すばらしく密度の高い現実感に溢れる音で我々を魅了し尽くす。

ヤマハ NS-500

岩崎千明

音楽専科 9月号(1976年8月発行)
「YOUNG AUDIO 新製品テスト」より

 ヤマハNS500は、ヤマハの数あるスピーカーの中で、最新の実力機種だ。ヤマハには、NS1000Mという世界に誇るスピーカーシステムがある。つい先頃、ヨーロッパの中でも特に音にうるさいスウェーデンにおいて国営放送が、このヤマハのNS1000Mをモニタースピーカーに選んだという。総数1000本も使われるというこの大事な役割も、品質のそろっている事が前提でなければならない。ヨーロッパ始め世界のメーカーの作るモニタースピーカー数ある中からヤマハNS1000Mが選ばれたのは、もっと注目すべきだろう。
 ところで、このNS1000Mは、1本で10万を超すという高価格だ。誰にでも推められ、また買えるというのでもないだろう。特に最近の若いファンにとっては、いくら世界一の音といっても、スピーカーだけで20万を払うというのは、とても無理で、よほど恵まれていなければ、実現性がない。そこで、この弟分のデビューは、待ちこがれていた。
 NS500は、この待ちにまったNS1000Mの実用型弟分なのである。
 その最大の特長とするところは、ヤマハ独特の技術によって生れたベリリウムダイヤフラムを振動板とした高音用スピーカーだ。NS1000Mでは、中音用と高音用がこの技術で作られたユニットで、それに低音用を加えた3ウェイ・スピーカー・システムだったのが、NS500では、高音がベリリウム・トゥイーターで、それに低音用の25cmウーファーを加えた2ウェイ・システムだ。つまり、ひとまわり小さい外観だけでなく、中味も弟分だ。
 さて、このベリリウム、金属のくせにモーレツに硬くて、その硬さは、宝石なみの超硬度だ。プレスも曲げることもできやしない。それを、半球上の薄膜に作るなんていうことは、とてもできるわけがなくて、だから、いくら理想的な材料といわれていながら、今まで作られていなかった。
 ピアノやオートバイの部品から作っているヤマハが、この難かしい問題を解決して、理想的スピーカーを作りあげたというわけだ。ベリリウム・トゥイーターのおかげで難しいといわれていた高音用の動作が理想的になったため、理論どおりの設計が具体的に製品として、出来あがるようになった。
 NS500は、NS1000Mを作る時に得た技術的なノウハウをさらに加えたという点で、あるいは、NS1000Mよりも一歩一前進したスピーカーということもできる。その力強く、輝きに満ちて、素晴しい音の粒立ちのある再生能力は、NNS1000Mとまったく同じレベルにあるが、さらに、NS500には、もうひとつのプラスがある。それは、歌や、インストルメンタルのソロが、ぐいぐいと間近にせまってくるという形で、再生される事だ。NS1000Mのやや控えめなのにも比べて、音が積極的だともいえよう。
 だから、NS500は、若いファンにとって、今考えられる最も高いレベルの推薦スピーカーであると断言しよう。日本の市場には、多くの海外製を含め国産の限りない製品がひしめきあっていて、それに毎年のように新型が加わり、せっかく新しく手に入れたとしても、2、3年で色あせてしまう。つまり、買う時に、いますぐだけの事でなく、2年先、3年先の事を考えておかなければ損をする。
 だから、ヤマハのNS500を推めたいのだ。ヤマハが世界に誇るベリリウム・トゥイーター付きの自信作なのだから。

テクニクス SB-007

黒田恭一

ジャズランド 8月号(1976年7月発行)
「音と音楽・音楽と音──ピストルを持たない007」より

 小さい方がいい。小さい方が、おおむね、美しい。アンプにしても、プレーヤーにしても、ましてカセットデッキにおいておやだ。タバコの箱ぐらいのスピーカーがあればいいのに──といって、笑われたことがある。笑われながら、釈然としなかった。今のところは、やはりどうしても、ゆったりとした、底力のある低音がききたかったら、俗にフロア型といわれるどでかいスピーカーが必要のようだ。スピーカーの原理から説明されれば、なるほどと納得せぎるをえない。しかし、不可能を可能にするのが技術だろうなどと、にくまれ口のひとつもたたいてみたくをる。
 大きい方が、立派にみえるからいいというのは、なんとなく、さもしい。やけに図体ばかり大きい、そのくせにのぞいてみると中がすかすかのアンプなどをみると、音をきく前から、さむざむとした気特になってしまう。その種の手合が、これで結構多いから、困る。そしてメーカーは、ふたことめには、「ユーザーのニーズ」などという。もし柄を大きくしてもらうことが、本当にユーザーのニーズなら、そのユーザーの根性は、なんともさもしい。
 本当にそんな、メーカーのいう「ユーザー」がいるのかと、思う。そこでいわれている「ユーザー」とは、所詮、メーカーが、ユーザーとはこんなものさと思った、その「ユーザー」ではないのか。そこには、一種の、たかくくりの精神が、ちらつく。そういうメーカーが悲しい。そんな風に甘くみられたユーザーも悲しい。
 マニア訪問とか、あるいはオーディオ装置のある部屋とかいったページが、オーディオ雑誌等には、かならずといっていいほどある。そして、いわゆる名器といわれるアンプやプレーヤーがみがきあげられて棚に並んでいる写真がのっている。しかもごていねいに、カラーであることさえすくなくない。ぼくもこれまでに、そういう写真を何度か、とられたことがある。恥しかった。それに、なんとなく、無駄をことをしているように思えてしかたがなかった。その写真をうつす人の腕が、いかにすぐれていても、この部屋でなっている音はうつせないのだから、うつされていて、申しわけなかった。
 その雑誌の編集者だって、本当は、音そのものをうつしたかったのだろうが、それができないので、やむをえず、再生装置というものとか、それをつかっている人間といういきものをうつさざるをえなかったのだろう。音はみえないので、あくまでもやむをえずの処置だったにちがいない。
 たのしもうとしているのが音楽であるかぎり、目は、あくまでも二義的を感覚器官でしかない。肝心なのは耳だ。だとすれば、オーディオ機器は、大きくて目ざわりなのより、小さくて目だたない方がいい。小さいアンプやカセットデッキが美しく感じられるのと、そのこととは、関係があるのではないか。
 小さなスピーカーをきかせてもらった。試作品なので、市販はされていないということだった。そういう特殊な機器について書くのは、なんとなく気がひける。自分だけきけたので、いいきになって、自慢ばなしをしているように思われるのではないかと思うからだ。しかし、その小さくて、粋な姿が気に入ったので、そのスピーカーのことを書いてみることにした。
 テクニクスのスピーカーで、俗称は007というのだそうだ。例の、テクニクス7の、ミニアチュアだ。すべての部分が10分の6の大きさになっている。むろん、あの特徴的な頭の部分もついている。
 普段つかっているJBLのスピーカーの横において、コードをつなぎ、ならしてみた。その姿にふさわしい、かわいい音がした。かわいい音──といういい方には、多分、説明が必要だろう。
 こういう時に、かっこうをつけてもしょうがない、正直に書こう。ターンテーブルの上にのっていたのは、山崎ハコの二枚目のアルバム「綱渡り」だった。すでにそのレコードは、JBLのスピーカーで、一度ならずきいていたから、どんな音がするかは、知っていた。必然的に、あれとこれとでは──といったきき方になってしまった。ちびの007と大きなJBL四三二〇とでは、勝負になるはずもない。007の表面面積は、ざっとみて四三二〇のほぼ三分の一といったところだ。
 そのうちに、段々、007の音になれてきた。それと同時に、山崎ハコの歌をなにかとても懐しい歌をきいているようを気持できいている自分に、気づいた。ぼくは、なんとなく、くつろいでいた。部屋にはひどくインティメイトな雰囲気があった。しんみりときいた。
 音楽の途中で音量つまみをちょこちょこうごかすのが嫌いだ。よく、レコードをかけてしまってから、途中で、大きくしたり、小さくしたりする人がいるが、あれはどうなんだろう、あまり好ましいこととは思えない。よほ大きすぎた時とか、逆に小さすぎた時ならともかく、よほどのことがないと、ぼくは音量のつまみを途中でいじらない。このレコードならこの程度といったことは、あらかじめわかっている。昨日今日レコードをききはじめたわけではないからそのぐらいのことはわかる。
 その、007をはじめてきいた時も、そうだった。その直前にきいたからこそ、山崎ハコのレコードが、ターンテーブルの上にのっていたわけで、そのまま、007できいたことになる。その間に、音量つまみには、一切手をふれていなかった。
 007は、JBL四三二〇より、小型だから当然というべきか、能率がわるい。この辺がちょっと困ったところで、小さなスピーカーをつかおうと思えば、ハイパワーの、したがって大きいアンプをつかわなければならなくなる。具体的にいうと、パイオニアの、C二一+M二二のくみあわせなど、値段を考えると、本当にすてきなアンプだと思うけれど、つかっているスピーカーがフロアタイプならいいが、ブックシェルフだと、30W+30Wということで、充分な結果は得られないのではないか。小さなスピーカーをつかおうとすれば、大きなアンプが必要になり、大きなスピーカーをつかっていればアンプは小さくてもいいというのは、どうしようもないパラドックスのようだ。
 パワーをいれたら、007は、その愛らしい姿に似あわず、張りのある音をだしたが、それはどうやら彼の(007だから、やはり、彼というべきだろう)本領ではないようだった。
 自分のきく位置を、普段より前に、つまりスピーカーの近くにしてみた。音がかなりなまなましくなった。007の横腹は、ローズウッドというのか、小し赤っぽい木でできている。ともかく、その木の材質は、ぼくのつかっている机と同じで、そのことから思いついて、ぼくの机の幅は一七五センチあるが、机の両すみにおいてみた。スピーカーの横腹の材質と机のそれとが同じだから違和感は、まったくなかった。それに、音も、さらにチャーミングなものとをった。
 結局、その夜は、レコードをあれこれとりかえながら、机にむかって、007をきいてすごした。楽しい夜だった。ごく親しい、気のおけない友だちと、のんぴりすごした後のようをここちよさが、残った。
 しかしぼくは、次の日の朝、机の上の007をおろしてしまった。理由はふたつあった。ひとつは、しごく単純なことだった。仕事をする時、ぼくは机の上にさまざまな資料をひろげてする習慣で、その際、スピーカーがふたつも場所をとっていてはじゃまだったからだ。もうひとつの理由は、少し複雑だった。ごく親しい、気のおけない友だちと、のんびり時をすごす──ことに対しての、不安を感じたからだった。それはむろん、わるいことじゃない。大変に楽しいことというべきだろう。できることなら、くる日もくる日も、そうやってすごしたいと思うほどだ。
 しかしぼくは、同時に、音楽をきくことを、精神の冒険たらしめたいとも思っている。せっかくレコードをきくのだったら、あそび半分にはききたくないと思う気持がある。そう思っているききてにとって、ききてをくつろがせる007の音は、危険きわまりない。この007は、ききてをおびやかさない。ピストルを持たない、つまり凶器をもたない007だ。007に対決すべきスペクターは、けっこうのんびりできてしまう。007は、やはり、安全装置をはずしたピストルの銃口を、こっちにむけていてほしいと思ったりした。
 ぼくは、自分でもあきれるほど、ケチだ。せっかく買ってきたレコードだから、そのレコードに入っている音は全部ききたいと思う。もしそのレコードがライヴレコーディングされたものなら、聴衆のひとりのしわぶきひとつききのがしたくないと思う気持がある。なんのはずみでかポケットからころげおちた十円玉をひろおうとしてタクシーにひかれそうになるのがぼくだとすれば、テクニクス007には、そんなぼくを、お前はなんてケチなんだ、もっとおっとりしていたらどうなんだといさめるところがある。007のいうことは、もっともだと思う。もっともだと思いつつ、腰を丸めて十円玉をおいかける自分が悲しい。そこで気どっていられないところに俺の、俺だけの栄光があるんだなどと、見栄をはったって、誰も相手をしてくれるわけではない。
 プレーヤーやアンプのつんである台には車がついているから、それを机のそばまでひっぱってきて、「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ」のうちのあれこれを、つまみぎきした。話はそれるが、その全百枚の「遺産シリーズ」は、きいて本当に勉強になるし、おもしろい。特に、ジェリー・ロール・モートンの巻などは、傑作だ。最近は、朝がはやい。きがついたら、東の空がぼんやりと白くなっていた。結局ぼくは、ピストルを持たない007と、朝まで、レコードをききつづけたことになる。
 山椒は小粒でもぴりりと辛い──という言葉を思いだしたのは、翌日、目をさましてからだった。ききては、いずれにしろ、ぴりりと刺されることを期待しているのではないか。甘やかされると、甘やかされたことを不満に思うようなところが、ききて一般にあるといえるかもしれない。
「山椒」の「ぴりり」が、007にほしいと思った。望みすぎになるのだろうか。たっぶりとした、底力のある低音は、でればそれにこしたことはないが、それは多分、フライ級のボクサーにアリみたいをボクシングをしろということになるだろう。もしそんな音がでてきたら、それはそれですばらしいことにちがいないが、ぼくはその時、007のチャーミングを容姿を、いぶかしみの目で見るにちがいない。
 蜂が尻からチロチロっとだす針のような高音がここからきこえた時、007の前のスペクターは、音楽をよりヴィヴィットにうけとめられるようになるだろう。指でつままれて、蜂は、チロチロと尻から針をだす。針先に夏の太陽が光って美しい。蜂の針は、蜂がいきていることの、なによりのあかしだろう。そういうきらめき、かがやき、生気がほしい。小柄な女の子がきらっと瞳を光らせると、とってもチャーミングだ。なのに、この007は、なんとなく伏目がち。
 三〇畳も四〇畳もある広い部屋に住んでいれば、どうということもないのだろうが、そうではないものだから、山のようなスピーカー、岩のようをアンプを、敬遠したくなる。そのためのスペースがあるなら、レコードや本をおいておきたい。おそらくこういう考え方は、おそらく非オーディオ・マニア的発想ということになるだろうが、ぼくはそう思う。当然、小さい方が好ましいということになる。しかしその一方で、再生装置は道具でもあるから、性能ということが問題になる。小さければ小さいほどいいといいきれないところにむずかしさがある。それともうひとつ、使い勝手のことも考えないといけない。いろいろのことを考えあわせないといけないからむずかしい。
 今、普段は、壁につけた大きをスピーカーできき、夜中になって、よほど大音量でききたくなったらヘッドフォンをつかうという方法をとっているが、007を机の上にのせてつかって気がついたことがある。ヘッドフォンとスピーカーの中間のもの、つまりごく近くできいてはえるもの、たとえば面とむかってきくからフェイスフォンとでもいうようなもの、そんなものは考えられないのだろうか。むろんそのフェイスフォンにも、蜂の針のチロチロがほしい。
 どうも今のオーディオ機器全般は、こうあるべきものというところにとどまっていて、つかいてに対しての歩みよりにかけるところがあるように思えてならない。

テクニクス SB-4500

岩崎千明

スイングジャーナル 8月号(1976年7月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 テクニクスにおけるオーディオの姿勢は、その着手の当初からひじょうに明確であって、オーディオをあくまで技術的、理論的視点から正しくとらえ、推進してきたといってよかろう。いわゆる電気的請特性、調査と計測によるあらゆるデーターを土台にし、開発が進められてきたのだろう。その時期その時期において発表された製品は、非常に長い期間諸特性の優秀さという点で.他社製品に一歩優先してきたものが少なくない。ロングセラーの優秀品がテクニクス・ブランドには指おり数えるほどに多いのも、こうした技術的裏付けがあってのことというべきだろう。
 永い間、低迷し、初期のモノーラル時代における輝やかしいキャリアが途絶えていたスピーカーが、この一年間驚くべき成功をなしとげた。その源は単に計測一辺倒だったスピーカー開発テクニックを、新たなる実際的な手段によって音楽的完成度を得たからだ。SB7000を筆頭とするシリーズの質の高さについてはすでに多く述べられ、いまさらここにいうまでもないが、比較試聴を最終的な決め手として今までになく重要視した成果といえよう。
 マルチ・ウェイの各スピーカー・ユニットを、聴き手から正確に等距離におき、ボイス・コイルを同一平面上に配置するという具体的な手法を採用して、各ユニットからの音波の位相をそろえるという国産スピーカーでは始めての特徴をアピールして、それが、過去の不評を根絶するのに大きく役立ったことも効果的だった。
 テクニクスのスピーカー・システムは、国内市場の数ある製品の中で、最も注目され、関心をそそられる製品として今や位置づけられることになったのである。SB7000を筆頚に、6000、5000とシリーズの陣容が整ったところで、このシリーズをたたき台とした新しいスピーカーのシリーズが誕生した。SB4500である。
 今までのシリーズに比べて、外観的にも、それははっきり特徴づけられる。ウーファーのエンクロージャーの上に、まったく独立して、ドーム型高音ユニットが箱の上にのせてあるという感じで設けられていた今までのシリーズに比べ、今度のSB4500は、コーン型に変更された高音ユニットは、25cmウーファーのエンクロージャーの上部を一段後退させた部分に取付けられている。従ってスピーカー・システムとしては、上端をへこませたブックシュルフ型といってもよかろう。
 少なくとも、今までのシリーズの一般のブックシェルフ型より不便をかこつ欠点は、新しいシリーズにおいては、解消されたといえる。これは、小さいことのようだが、実用上非常に大きなプラスであり、商品としての完成度を高めている。ところで、SB4500が登場した本当の意義、ないし狙いは、その音と、26、000円台という価格に接する時、始めて判断できよう。今までのテクニクスのスピーカーのもつ共通的特徴から明らかに別の方向に大きく一歩踏み出すという姿勢と、更にその成果とをはっきりと知らされる。今までの、ともすると「品がよくて、耳当りのよい素直な音」というイメージではない、「力」をまず感じさせる。その「力」も、この言葉を使うときに、例外なしにいわれる低音のそれではない。いわゆる中音域、中声部、あるいは、歌とか、ソロとかいわれる音楽のなかの最も情報量の多い、従ってエネルギー積分値の大きい音域で、力強さをはっきりと感じさせてくれる。今までのテクニクスのスピーカーにはなかった音だ。あるいは、今までが優等生なら、今度のSSB4500は少々駄々っ子だが、魅力的個性を発揮するタイプといったらよかろうか。だからその音は、いきいきして、躍動的で、新鮮だ。深く豊かな低音と、澄んだ高音が、この力ある鮮度の高い中音を支えて、スペクトラム・バランスもいい。さらにテクニクスの伝統的な技術的裏付けもデータから、はっきりとうかがうことができ、うるさ型のマニアも納得させることだろう。こうした新路線のサウンド志向は、今日的な音楽に対向するものであることはいうまでもないが、これを受け入れる層の若い年令を考慮して2万円台の価格となったに違いない。しかし、このサウンドを獲得するのに必要なユニットへのマグネットなど物的投資を確めると、この価格は驚くほど安いといえるだろう。

ヤマハ NS-500

岩崎千明

オーディオ専科 7月号(1976年6月発行)

 ベリリウム・ツィータおよびスコーカを採用し、モニタースピーカとして好評を博しているNS1000Mの弟分として発売されたのが、NS500である。NS500は25ccmウーハー、3cm口径のペリリウム・ダイヤフラムを用いたドームツィータを配した2ウェイブックシェルフ型であり、NS1000Mをひとまわり小振りにした外観は、ツヤ消し仕上げの、非常にメカニカルな雰囲気とプロフェッショナル・ユースにも合うような大変たのもしい風格を待つ。
 ヤマハの特徴であるベリリウム・ツィータは、今回のNS500においては、口径が23mmと小型で、、そのハイエンドの周波数特性は20KHzを超える程の高い音域にいたるまで、最も理想的なピストン運動動作をたもつことが出来る。しかもこのベリリウム・ツィータの最も驚ろくべき特徴は、1800Hzという非常に低いクロスオーバー周波数でありながら、なおかつ、音楽プログラムにおいて60Wという高い耐入力を持っている点であろう。一般には小口径のツィータにおいてはボイスコイルの質量がかなり制限されるためその線材としてきわめて細い線を用いることか
ら、余り大きな耐入力を得ることでは不利なわけであるが、このベリリウム・ドームツィータでは常識をはるかに超える耐入力を得ている点に注目したい。
 25cmウーハーは当然のことながら2000Hzまでをカバーするべく今までのウーハ一に比べて、低音用の中域における特性を重視した設計がなされており、具体的にほ、コーン紙を自社で独自に開発したものを使用しており、質量が軽いうえに、高い剛性を持っているので、中音域での理想的動作を持ち得る大きな要素となっている。又、このブックシェルフの大きな特徴である重低音の再生は、このすぐれたウーハ一によるところが大きいが、NS1000Mの密閉型とは違って、NS500においてはローエンドを確保すべくバスレフ方式を採用している点を見逃すことが出来ない。このバスレフ方式によって低音域におけるローエンドがスピーカのf0よりさらに拡大されることによって、非常に広い再生帯域を低い方に確保している。これはベリリウム・ツィータによるハイエンドの確保とのバランスを考えると適切な処置といえよう。さらにこのバスレフ方式採用によって、低音用ユニットからの音響幅射が極めてスムーズなため中音での音のクリアな感じがほうふつと感じられる。さらにこのウーハ一には、55mmφ×35mmhの大型アルニコマグネットを用いて、ロスの少ない高能率な内磁型のマグネットサーキットを持ち、こうした強力なマグネットを充分に生かしたショートボイスコイル方式を採用しているため、極めて高能率かつ歪の少ない再生が可能となっている。しかもボイスコイルには200度以上の高温に耐えうる素材を採用するなど耐入力特性に秀れている。こうしたいくつかのユニットの特徴に加え、ネットワークも空芯コイルを用いた極めて豪華な金のかかったネットワークとされ、ロスの少ないことによる高能率化、また音質の劣化も充分に考慮されたものとなっている。
 さらにNS500における大きな特徴は重量級のキャビネットである。松材のパルプを用いたパーチクルボードを用いた極めて重量の重い一体構造となっているわけで、こうしたブックシェルフスピーカのなかでも20kgに近いという極めて重い重量級となっている。しかも、ブラック&シルバーの外観は、ウーハーのアルミフレームおよび支持金具が形づくるレイアウトによって、非常にめだつデザインとなっている。これはこのNS500の価格帯には他社の優秀製品がライバル製品としてひしめき合っているだけに、店頭効果を充分考慮したユニークなデザインといえよう。
 さて、NS500はNS100Mに較べて、外観上もひとまわり少さく、しかも2ウェイ構成であるにもかかわらず、その中音域での音の極めて積極的な響き方は驚ろく程で、特に歌あるいは楽器の演奏等に対して非常に力強い迫力を秘めている。このローエンドからハイエンドに至る極めてフラットな感じの一様なレスポンスを感じさせる音は、現代の最も進んだハイファイ用スピーカのひとつの典型ともいえよう。
 とくに最近増えている若い音楽ファンなどにはNS500はまさにうってつけのヤマハの高級スピーカといえよう。

ビクター S-3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、このところ、新しい価格帯として注目されている2万円台のスピーカーシステムとして開発された、S−5のジュニアシステムである。
 基本的な設計方針は、当然のことながらS−5と共通であるが、ウーファーの口径が20cmとなっているのが大きく変っている点である。このウーファーは、軽合金センターキャップ付で、フレームはアルミダイキャスト製である。なお、トゥイーターは6cm口径コーン型で、S−5に採用してあるユニットと同じものだ。
 S−5は、この種の2ウェイシステムとしては、バランスがとりやすい25cmウーファーをベースとしているだけに、帯域バランスがよく保たれ、メリハリが効いたコントラストがクッキリと付いた音をもっている。音色が明るく活気があるのは、やはりビクターらしい特長である。
 S−3は、S−5にくらべると低域が軽くなった反面、スケール感は小さくなる。一般的には、アンプ側のトーンコントロールで補整したほうが、トータルなバランスはよい。トゥイーターは、このクラスとしては粗さが少ないために、適度にクリアーで輝き、トータルなシステムに活気を与えているようである。