Category Archives: スピーカー関係 - Page 51

オンキョー Scepter 500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 すべてのスピーカーに共通の、全体のバランスをみるために必ずかけるカラヤンのベートーヴェンの「コリオラン」をまず鳴らす。やや重いが荘重で、トゥッティでもやかましさのない、適度にしなやかな音が鳴ってくる。ブラームスのピアノ協奏曲(一番、ギレリス/ヨッフム)では、オーケストラのバランスにはほとんど破綻がなく、ピアノの音像はやや大きくなるが十分にたのしめる。ベートーヴェンの「七重奏曲」でも、4個の各ユニットが有機的に帯域を補いあってバランスよく、しかも広いレインジで各楽器の音色の特徴をよく鳴らし分ける。独奏楽器の十分にしなやかな表情を聴かせる。音の色あいにもうひと息、生き生きした弾みが出れば満点に近い。菅野録音の「SIDE BY SIDE 3」では、ベーゼンドルファーの特色ある音色の再現がもうひと息。ベースもいくらか粘って重い。ただしギターのサイド面としてのバランスは非常に良い。……ひとつひとつをこまかくあげるスペースがないが、総じて、いくらか重く粘る傾向はあるものの、国産の大型スピーカーとしては、レインジも十分に広くバランスもよく、非常によくこなれているしワイドレインジでありながら音に冷たさのない点も立派だ。価格やデザインを頭に置くと百点満点というわけにはゆかないが、それにしてもよくここまで仕上げたものだと感心させられた。

スペンドール SA-1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 B&WのDM4/II、それにJRの149とくらべるとほんのわずかに価格が張るが、ユーザーサイドからみれば、やはり比較の対象としたい興味のある製品だろう。まして兄貴分のBCIIの出来栄えのよさが先例としてあるのだから、このSA1にある種の期待を抱いて試聴にのぞむのはとうぜんだ。まず総体のバランスだが、いかにも「ミニモニター」の愛称を持つだけに、帯域の両端の存在を意識させるような誇張がなくごく自然だ。つまりトゥイーターによくあるハイエンドのピーク性の共振音や、エンクロージュアまたはウーファーの設計不良によるこもりのような欠点は全く耳につかない。どちらかといえば(イギリスのスピーカーにはめずらしく)中音域に密度を持たせてあって、内声部の音域、ことにフィッシャー=ディスカウやキングズ・シンガーズのような男声の音域でも、薄手にならず実体感をよく出すところがみごとだ。ただし、バルバラのような女声の場合に、声の表情がやや硬くなるような傾向があって、BCIIよりも少々生真面目さを感じさせる。また、パワーを上げると中〜高域で多少硬い音がしたり、低域でのこもりがわずかに感じられ、どちらかといえばおさえかげんの音量で楽しむスピーカーだと思った。台はあまり低くせず(約50センチ)、背面を壁につける方がバランスが良い。

アルテック Model 19

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 従来のアルテックからみると、まず二つの点で大きく変っている。第一に、中〜高域のドライバーに、「タンジェリン・タイプ」と名づけられた新型を採用して、2ウェイでありながらハイエンドのレンジを延ばしていること。第二に、ネットワークをくふうして、中域、高域のバランスを独立にコントロールして細かくバランスの調整ができるようにしてあること。レベルコントロールには、HIGH、MIDそれぞれにOPTIMUMの表示をしてある幅を持たせてあるが、今回の試聴ではMID、HIGHともOPTIMUMの文字の〝O〟のあたりに合わせた。MIDをこれ以上上げると中音がやかましくなるし、HIGHも上げればレンジは広がるがややキャンつく傾向も出るので、右のポジションがよかった。置き方では、フロアーにじかに置くと低音がわずかにこもるので、ほんの数センチの低い台で持ち上げると、音の抜けがよくなった。左右にはあまりひろげると中央の音が抜ける傾向があった。総体にJBLのような緻密な質感とは違っていくらかラフな鳴り方だが、アンプの方でいろいろいコントロールしてみると、結局、ハイもローも適度におさえてナロウレインジに徹してしまう方が、中域のたっぷりして暖かく楽しい、アルテックの良さが生かされると感じた。アルテックはワイドレインジにしない方がいいと思った。

ボリバー Model 18

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるくすっきりきこえるピッチカート。
❷奥の方でくっきりと示される。力強いとはいえないが。
❸個々のひびきに一応対応するが、積極的とはいいがたい。
❹低音弦のピッチカートはふくらみすぎる。
❺クライマックスでは、ひびきが空虚になり、刺激的になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像が大きめで、響きにまろやかさがたりない。
❷ファゴットが、どういうわけか、ひっこみがちである。
❸響きが、ふくらみずき、重くなる傾向がある。
❹ひっこんで、はえない。さわやかさがほしい。
❺音色的な対比が、さらにすっきりついてもいいだろう。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声の自然なのびは示す。表情は幾分濃くなる。
❷接近感は示すが、音像が大きいので、充分な効果をあげるとはいえない。
❸声がひっこみ、クラリネットがふくらんで、バランスに問題がある。
❹はった声が硬くならないのはいいが、艶をなくす傾向がある。
❺響きはよくブレンドしているが、効果的とはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方のパートが、きわだつ傾向がある。
❷声量をおとしたことが、強調されるように感じる。
❸残響がまといついているとでもいうべきか。
❹鮮明さが不足するために、響きの綾がはっきりしない。
❺のびてはいるが、必ずしも効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比はついているが、音場的にいかにも狭い。
❷後へのひきが充分でないために、効果があがらない。
❸ひびきが充分に浮いているとはいいがたい。
❹横へのひろがりは示すが、前後のへだたりはつまりぎみである。
❺ひびきの力のないことが、マイナスに働いている。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ここでのひびきにしては湿度は高すぎるようだ。
❷ギターの音像は大きめなために、せりだしの効果がいきない。
❸もう少しくっきり示されないと、あいまいになる。
❹きこえるものの、ひびきに輝きがたりない。
❺一応きこえはするが、うめこまれがちで、はえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの響きが強調されて、12弦ギターの響きの特徴がいきない。
❷響きの重心が低い方にかかりがちで、さわやかさにかける。
❸響きの乾き方が不足だ。全体に重くひきずりがちである。
❹ベース・ドラムは重くひびいて、充分な効果をあげえない。
❺言葉のたち方が、不充分である。バック・コーラスの効果は稀薄だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶入れものの中でのように響いて、力感が感じられない。
❷もうひとつ鮮明に、くっきり示してもいいだろう。
❸音の消える尻尾は、不鮮明で、はっきりしない。
❹鋭く反応できているとはいいがたい。下にいくほどひきずりがちだ。
❺音像的に差がありすぎるので、不自然である。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶響きは、切れが鈍く、重い。もっとシャープでもいいだろう。
❷どういうわけか、細く、弱々しくなる。
❸響きに本来の力が不足しているので、効果がいきない。
❹さまざまな響きがいりまじって、音の見通しがつきにくい。
❺もう少しめりはりがくっきりついてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶奥へのひきがとれないためか、かなり前の方にでてくる。
❷尺八の音は、もう少し乾いて、脂っ気のない方が望ましい。
❸きこえることはきこえるが、くっきりととはいいがたい。
❹一応の響きの広がりは示すが、スケールゆたかにとはいいがたい。
❺この響きの特徴である硬質さが充分に示せているとはいえない。

JR JR149

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 B&WのDM4/IIと価格もほとんど同じ、そして同じくイギリス生まれとなると、とうぜん両者の比較に興味が湧く。まず総体に、DM4/IIがあくまでモニター的に真面目に音を聴かせるのと全く対照的に、JR149の音は響きが豊かで、暖かみのあるアットホームな雰囲気を持っている。このいかにもくつろいだ響きの豊かさは、他のスピーカーとくらべてもJRの最大の特徴で、ことにオーケストラ録音のレコードの場合など、目の前にいっぱいに音をひろげて展開する感じで、いわゆるアンビエンス効果(周囲を音にとり囲まれたような感じ)がよく出るスピーカーだ。DM4/IIのところでも書いたように、楽器の構造を正確に聴き分けようとすると、B&Wよりも細かな声部がやや正確さを欠くようで、いわばB&Wよりも不正直にはちがいない。その点はバルバラのシャンソンでも、伴奏のアコーディオンの音がDM4/IIより細かく聴こえ、それらのことからおそらく帯域ないでどこか薄手の部分があることが想像できるが、反面、すべてのレコードで、音のひろがり、奥行き、音の溶け合いの豊かさを含めて柔らかく耳当りよく響かせる所が特徴といえる。やや雰囲気重視型だが、楽しめるという点では随一かもしれない。置き方や組合せにあまり神経質でなく使いやすい。ただし能率はB&Wよりも聴感上で6dB近く低かった。

トリオ LS-707

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきは薄く、遠くにきこえる。音に力がほしい。
❷もう少しくっきりひびきのりんかくがついてもいいだろう。
❸ひろがりをたっぷりと感じさせて、それぞれの音色を明示する。
❹低音弦のピッチカートがふくらみすぎる
❺一応迫力ははやかに示すが、もう少しひびきに力がほしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、きわめて大きくふくらむ。
❷音色的な対比はなされているが、不自然なところがある。
❸ひびきそのものにキメ細かさがほしい。
❹特徴をきわだたせはするが、誇張感がある。
❺右とほぼ同じことがいえる。ひびきにしなやかさがほしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶残響の非常に多い部屋ではなしているようにきこえる。
❷接近感がもう少しあきらかになってもいいだろう。
❸クラリネットの音像がかなり大きい。声も前にはりだす。
❹はった声はニュアンスにとぼしいものとなる。
❺くっきり提示するがいくぶんこれみよがしだ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶右端のバスがせりだしがちで、定位があいまいになる。
❷ひびきが全体にひきずりだかちで、言葉のたち方が弱い。
❸残響を拡大するため、鮮明さの点で不足だ。
❹吸う息を誇張ぎみに示す傾向がなくもない。
❺一応はのびているが、自然なのびとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンという高い音はいいが、ポンという低い音に力がほしい。
❷ひっそりとしのびこむべきところが、そうはなっていない。
❸音がバラバラにきこえる傾向がなくもない。
❹シンセサイザーの特徴的なひびきが示されにくい。
❺ひびきは横にひろがり、ピークはメタリックになる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶このひびきは、もう少し透明に、ひっそりとひびいてほしい。
❷ギターの音像は大きく、横にひろがりつつ、前にせりだす。
❸ひびきそのものに力が不足ぎみなので、実在感がとぼしい。
❹くっきりとひびき、ききのがしようがないほどだ。
❺これもまた、かなりきわだってきこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースのひびきが強調されて、12減ギターの特徴をききとりにくい。
❷音の厚みということでいえば、いくぶんものたりない。
❸ひびきが湿っていないのは、このましい。
❹ドラムスの音像はかなり大きく、ひびきはひきずりがちだ。
❺バック・コーラスがもう少しとけあってきこえてもいいだろう。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ダブルベースの大きさを感じさせる。
❷指を弦の上をはしらせている音には誇張感がある。
❸弦をはじいた後の音の尻尾は示すものの、ひびきの力がもうひとつだ。
❹細かい音に対しての反応がもう少しシャープでもいい。
❺音像差の点でいくぶん不自然なところがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきが横にひろがり、リズムの切れが甘い。
❷ブラスの中央からのつっこみは、刺激的なひびきになりがちだ。
❸ひびきとして拡大されがちだが、前にせりださない。
❹後方へのひきは充分だが、見通しはつきにくい。
❺もう少し軽いひびきで、鋭く反応してもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶尺八は奥の方でひびくものの、入れものの中でひびいているかのようだ。
❷ひびきに乾きがあり、尺八らしさが感じられる。
❸ききとることができるが、音の輪郭ははっきりしにくい。
❹大太鼓の音の消え方を伝えるが、スケールゆたかとはいいがたい。
❺ききとれる。ここで求められる一応の効果はあげる。

JBL L200B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 L200もBタイプになって格段に音質が向上して、JBLはこのところ乗りに乗っていると実感できる。実に音の質が高く緻密で、これが鳴り始めると、これ以前に聴いた数多くのスピーカーとは格が違う、と思わせる。もちろん、タンノイのARDENやKEFの105や、ルヴォックスのBX350など、イギリスやドイツのスピーカーの鳴らすあのしっとりと潤いのある、渋く地味な音、しかしそこにえもいわれぬ底光りのするような光沢を感じさせるような音とくらべると、JBLの音は良くも悪くも直接的だ。ことにL200Bのようにスーパートゥイーターのついていな、ハイエンドを延ばしていないスピーカーの音は、骨太で、よくいえば男性的なたくましさのある反面、クラシックなどでは図太さあるいは音の構築の細部に対して見通しの利かない部分がある。いわば本当のデリカシーやニュアンスを欠いている。しかし、音量を絞ってもまた逆にどこまで上げていっても、少しも危なげのない、ピアノの打鍵音で全くくずれずに安心して身をまかせられる良さは、ヨーロッパ系のスピーカーにはとうてい望めない。ことにポップス系では、最高域をあえて伸ばさない良さがはっきり聴きとれる。床に直接置いても低音が重くなったりこもったりすることが全くない。ただし、アンプにはグレイドの高いセパレート型が欲しくなる。

デンオン SC-105

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるくひびくピッチカートの音。木管の音色の特徴もよく示す。
❷くっきりきこえる。響きの重さを強調しないよさがある。
❸さまざまなひびきの特徴を鮮明に示す。
❹キメこまかなひびきをきかせる第1ヴァイオンのフレーズ。
❺刺激的にならず、一応のゆたかさもあり、好ましい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は小さく、くっきりして、さわやかである。
❷音色的な対比を、誇張感なく、さわやかに示す。
❸「室内オーケストラ」の響きの特徴をよく伝える。
❹薄味ながら、すっきりと示して、効果的だ。
❺独特の鮮明さがあるものの、ことさらはりだしてはいない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声に強調感がなく、自然に、のびやかにきこえるのがいい。
❷接近感をくっきり、誇張感なく示すのがいい。
❸クラリネットの音色はまろやかでこのましい。
❹はった声は硬くなりがちだが、通常の声はしなやかでいい。
❺バランスが自然で、響きの明るいのがいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶上下の音のバランスがいいので、凹凸がない。
❷声量をおとしたことを、特に意識させない。
❸残響の強調がないために、すっきりときこえる。
❹響きはいくぶん重めだ。もう少しぜい肉がとれてもいい。
❺自然なのびで、すっきりとまとまっている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比も、音場的対比も、充分に示されている。
❷ひびきは、不自然になることなく、ひっそりとしのびこむ。
❸ひびきのとびかい方に軽さがあるので、広々と感じられる。
❹前後のへだたりは、充分に示しえている。
❺ある種の鮮明さは保つものの、ピークではきつくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきの透明感はある。ひろがりを示しえている。
❷ギターの音像が大きくふくらんでいないのがいい。
❸ふくらみすぎず、くっきり示されて、きわめて効果的だ。
❹輝きをもって響いて、充分に効果的である。
❺うめこまれることなく、きわだってきこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶上下のバランスがよく、12弦ギターの特徴をよく示す。
❷独自の効果によく対応して、効果をあげる。
❸響きは乾いていて、反応もシャープである。
❹ベース・ドラムの、力があって重くならない音がいい。
❺言葉はよくたって、鮮明だ。バック・コーラスの効果も示す。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ふやけることのない響きで、力強さをよく示す。
❷なまなましさを感じさせはするが、誇張感はない。
❸音の消え方には、独特の自然さがあって好ましい。
❹シャープに反応できているので、迫力も一応示す。
❺音像的対比の点でもさしたる問題はない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶軽い音で鋭く反応しているので、ききやすい。
❷つっこみの鋭さは充分に示されているが、力感の点では多少不足だ。
❸必ずしも積極的とはいいがたいが、一応の効果はあげる。
❹奥行きがとれていて、音の見通しがつきやすい。
❺めりはりをくっきりつけて、あいまいにならない。

座鬼太鼓座
❶奥行きがとれているので、広がりが感じられる。
❷尺八の響きの特徴をよく示して、好ましい。
❸過不足なく自然なバランスでききとれる。
❹一応のスケール感も示し、消える音の尻尾も明らかだ。
❺くっきりきこえて、効果をあげている。

タンノイ Arden

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 タンノイの新シリーズが、アルファベットのABCDEでそれぞれ始まるニックネームでランク分けしてあることはよく知られているが、ARDENはその中の最高クラスだけのことはあって、音のスケールの大きなこと、響きの豊かなこと、とうぜん表現力の大きいこと、やはりさすがといえる。この上のGRFやオートグラフがオリジナル製品でなくなってしまったので、不満はいくらかあってもアーデンがタンノイの代表機種ということになるが、以前からの音像の芯のしっかりした、鮮度の高いしかしやかましさのない独特の味わいのあるタンノイ・トーンは相変らず残っていて、そこにいっそうのバランスの良さとレンジの広さが加わっている。たとえばKEFの105のあとでこれを鳴らすと、全域での音の自然さで105に一歩譲る反面、中低域の腰の強い、音像のしっかりした表現は、タンノイの音を「実」とすればkEFは「虚」とでも口走りたくなるような味の濃さで満足させる。いわゆる誇張のない自然さでなく、作られた自然さ、とでもいうべきなのだろうが、その完成度の高さゆえに音に説得力が生じる。ブロック程度の台に乗せた方が、そして背面を壁からやや離した方が、低域の解像力がよくなる。かなりグレイドの高いしっとりした音のアンプと、ヨーロッパ系の優秀なカートリッジが必要だ。

オーレックス SS-930S

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 バランスポイントをみつけるまでに、かなり時間のかかったスピーカーだ。フロアータイプだが、台なしで床にじかに置くと、低音のこもりがかなり耳ざわりだ。ブロック一段の上に乗せてみると、こんどは低音が不足する。そのまま背面を壁につけるようにしてみて、一応低音は出るようになったが、こさ」も他の多くの国産フロアータイプと同じように、試聴室にモルトプレンの吸音ブロックを多目に入れてデッドにした方が総合的にはよかった。このスピーカーは大型にもかかわらず音量の大小によって音色やバランスが変わりやすい傾向を聴かせる。音量を中程度以下におさえているかぎりは、一聴してソフトでむしろ音が引っ込んでいるといいたいようだが、フォルテからffと音量が上ってくると、途中から中〜高域の一部がかなり張り出してくる。音量でいうと平均で80dB近辺から、この試聴室でのパワーでいえば1〜2Wまでは一応いいが、3Wをしばしば越えるようになると急にカン高い音になる。低域は置き方でかなり調整したつもりだが、ベースの音は重い、というより鈍い。ピアノも鍵(キイ)が太くなったような印象だ。シェフィールドのテルマ・ヒューストンの歌は音量を上げて聴きたいところだが、リズムが粘って重く響きがつきすぎる感じ。ピカリング4500Qのような強烈なカートリッジにしてみると一応は楽しめる。

ヤマハ NS-10M

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの響きは、薄く、細く、力に不足している。
❷あいまいにはなっていないが、低音弦の力が感じとれない。
❸フラジオレットの特徴的な響きは、はっきりしない。
❹第1ヴァイオリンの響きに艶がなく、かさかさしている。
❺かん高い響きで、刺激的になり、なめらかさがたりない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が大きくないのがいいが、ピアノ本来の力が感じられない。
❷音色的対比は、薄味だが、くっきりついている。
❸ふくらみすぎないのはいいが、響きがいかにも粗い。
❹すっきりときこえはするが、いかにも薄味である。
❺音色対比をくっきりつけて、さわやかである。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶接近感を充分に示すが、風呂場の中の響きのようだ。
❷まずまずというべきだろう。定位もいい。
❸響きが乾きすぎるためか、キメが粗くなる。
❹硬く、細く、刺激的になるのがおしまれる。
❺オーケストラ本来の響きの広がりに不足する。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶すっきり横に並んでいるとは感じとりにくい。
❷不鮮明にはなっていない。響きのたちも悪くない。
❸残響を強調していない好ましさがある。
❹明瞭ではあるが、響きが、もう少しとけあってもいい。
❺響きののびは、充分で、ある程度のしなやかさがある。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶広がりは必ずしも充分とはいえない。音色対比もいま一歩だ。
❷もう少ししなやかさがほしい。響きが硬い。
❸浮遊感がもう少しあるといい。めりはりをつけすぎているためか。
❹前後のへだたりは示されず。横にはひろがるが。
❺ピークでは、やはり刺激的な響きになる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶響きに透明感はあるが、広がりがたりない。
❷音像的に横に広がるので、効果的とはいいがたい。
❸響きのふくらみが不充分なため、本来の効果から遠い。
❹きわだってきこえて、エフェクティヴである。
❺うめこまれないで、響きの特徴を示す。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースが不足ぎみなで、ギターの音がきわだつ。
❷ひびきの厚みはかならずしもあきらかになっていない。
❸はっきりときわだつ。低い音とのバランスは必ずしもよくない。
❹乾いているというより、薄く、軽すぎる。
❺刺激的なひびきになり、バック・コーラスの効果が稀薄だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶入れものの中でひびいているかのようだ。
❷指が弦の上をすべる音はきこえる。一応のなまなましさがある。
❸響きの消え方は、ほとんどききとれない。
❹くっきり示しはするが、力感にとぼしい。
❺あたかも別の楽器ででもあるかのようにきこえる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのアタックの強さが充分に示されない。
❷鋭さと、響きの輝きはあるが、刺激的になる。
❸充分にはりだしてはするが、わざとらしさがついてまわる。
❹後へのひきが充分にとれているとはいえない。
❺あいまいにならないのはいいが、迫力は感じとりにくい。

座鬼太鼓座
❶ひきがもうひとつたりない。比較的手前できこえる。
❷ひびきが脂っぽくなっていないところはいい。
❸一応はきこえはするが、きわめてかすかだ。
❹響きの消え方は、ほとんどききとれない。
❺かすかにきこえはするものの、なまなましさにとぼしい。

「曖昧沼からの脱出ができればと思って」

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 結局は、主観な作業でしかないのはわかっているが、だからといって恣意的な発言がゆるされるというものではないだろう。せめてどのレコードのどの部分のどのあたりをきいたのかを、はっきりさせようと思った。そのことから考えついた、ごく大雑把なものでしかないが、試聴につかった部分を図表にして、特に注意してきいた部分で、しかもああ、あそこのことかと、それらのレコードをきいたことのある方に、すぐにわかっていただけそうな部分を、それぞれのレコードについて書きだした。
 ききとってメモにしるしたのは、その五つにとどまれなかったが、あまり数をふやして、煩雑になることをおそえ、五つにとどめた。
 当然、そこで言葉は、しごくそっけないものにならざるをえなかった。ひとつのポイントについて30字以内で書かなければならないという制約もあった。しかし、試聴してのメモには、本来、美辞麗句が入りこみようがないものと思う。即物的な言葉でことたりた。そのようにすることで、多少なりとも、あいまいさからのがれられたといえるかもしれない。
 できるかぎり音楽を構成する音に即して、きいて印象をしるそうとしたがゆえの、ひとつの方法だった。むろん充分にその目的を達しえているなどとは思わないが、多少なりとも、あいまいさから遠ざかることができたかもしれない。

レコードA
「カラヤン/ヴェルディ、序曲・前奏曲集」

カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー
(グラモフォン MG8213-4 録音=1975年9月22日〜30日、10月21日、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)より、オペラ「仮面舞踏会」前奏曲 演奏時間=4分32秒。

 ヴェルディがその中期に完成したオペラ「仮面舞踏会」のための前奏曲は、オペラの内容を実にたくみに暗示したすぐれたものだ。ヴァイオリンのピッチカートで開始され、それにフルートとオーボエがピアニッシモでこたえる。そして次第に音の厚みをましていってクライマックスに達するが、そうした推移のうちに、中期のヴェルディならではの、手のこんだ、しかも有効な楽器のあつかい方が示される。その微妙な響きの色調の変化をどこまでききとりうるかが、ひとつのポイントになるだろう。

0’→
❶=ヴァイオリンによるピッチカートが左から鮮明にききとれるか。それにこたえるフルートのとオーボエのピアニッシモによるフレーズの音色が充分にわかるか。

0’53″→
❷=チェロとコントラバスによるpppのスタッカートが、あいまいにならず、いくぶん奥の方にひろがっているか、ここで響きがぼけると、スタッカートである意味が薄れる。

1’35″→
❸=主旋律を奏するフルート、オーボエ、クラリネットに、第1ヴァイオリンがフラジオレットでからむ。その独特な音色が充分にききとれるかどうか。

2’05″→
❹=第1ヴァイオリン以外の弦楽器はピッチカートを奏している。主旋律はエスプレッシーヴォと指示された第1ヴァイオリンで、ピッチカートがふくれず、ゆたかに響くか。

3’35″→
❺=ホルン4本、トロンボーン3本、それにオフィクレイド等も加わっての、フォルティッシモの総奏が、音がわれたりにごったりせずに、ききとれるか。

レコードB
モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番変ホ長調

アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)、ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団
(フィリップス X7700 録音=1975年12月18日〜20日、ロンドン、ウェンブリー)より、第3楽章の冒頭1分20秒。

 ここでつかったのは、K482のコンチェルトの、第3楽章の冒頭である。この第3楽章は、アレグロで、ロンド形式によっている。ピアノと弦楽器で、ロンド主題が示されて、曲は開始されるわけだが、ここでまずきくべきは、「室内管弦楽団」の響きの軽やかさと、フルート、クラリネット、ファゴット等の木管楽器の響きの色調だろう。ブレンデルによってひかれたピアノの音には、独特のまろやかさがあるが、それがオーケストラの響きといかにとけあっているかも、むろんポイントのひとつになる。

0’→
❶=弦楽器群にかこまれて、8分の6拍子の軽やかなメロディを奏しはじめるピアノの音像が大きくなりすぎることなく、中央にくっきり定位することが望ましい。

0’26″→
❷=2ほんのファゴット+2ほんのホルンによる和音と、それにつづく2本のクラリネット+2本のホルンによる和音の、音色的な対比が充分についているかどうか。

0’43″→
❸=オーケストラのフォルテによる総奏が、「室内管弦楽団」によるものならではの軽やかさをあきらかにできているかどうか、それがこの部分のポイントになる。

1’→
❹=そよ風を思わせる、第1ヴァイオリンの、8分音符+8分音符による単純なフレーズが、これみよがしにならず、しかもすっきりと、左からきこえるかどうか。

1’05″→
❺=ソロをとるファゴット、ついでフルートの音色が、ここでみさだめられる。それらの楽器がことさらはりだすことなく、しかし鮮明にきこえることが望ましい。

レコードC
ヨハン・シュトラウス:オペレッタ「こうもり」全曲

ヘルマン・プライ(バリトン)、ユリア・ヴァラディ(ソプラノ)、ルチア・ポップ(ソプラノ)他 カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団
(グラモフォン MG8200-1 録音=1975年10月〜1976年3月 ミュンヘン、ヘルクレスザール)より、第2面の冒頭2分20秒。

 第2面の冒頭とは、ロザリンデ、アイゼンシュタイン、アデーレによる三重唱(第4曲)に先だつセリフの部分から、三重唱の途中までということだが、セリフで語られるドイツ語は、声のひびき方をきくのに絶好だ。そして三重唱に入っての、声とオーケストラのバランスも、スピーカーによって、きこえ方がちがった。オーケストラの中のソロをとる楽器の音色についても充分に注意をはらう必要がある。

0’02″→
❶=ロザリンデに呼ばれて、やってくるアデーレの言葉 “Ja, gnadge Frau?” が、少し離れたところから近づいて来るよう
にききとれるか。

0’22″→
❷=アイゼンシュタインが、言葉にならない言葉を口にしつつ、足音とともに登場する。その接近感があきらかにならないと、この場の雰囲気はあきらかにならない。

1’→
❸=ロザリンデがうたいはじめた時、オーケストラでまず耳につくは、分散和音を奏するクラリネットだ。そのクラリネットの音がまろやかに響くかどうか。

1’52″→
❹=ここでロザリンデは、”Aus Jammer werd’ ichg’wiβihn schwarz und bitter trinken.Ach!” とうたって、声をはるが、その時、はった声が硬くなっていないか。

2’15″→
❺=ロザリンデ、アデーレ、アイゼンシュタインの3人がうたいだしたところで、音楽は4分の2拍子になるが、そこでタンブリンがきこるかどうか。

レコードD
「キングズ・シンガーズ/珠玉のマドリガル集」

キングズ・シンガーズ
(ビクター VIC2045 録音=1974年、ロンドン)より、今や五月の季節(トマス・モーリー)。演奏時間=1分48秒。

 キングズ・シンガーズは、カウンターテナー2人、テナー1人、バリトン2人、バス1人といった6人構成のグループだが、トマス・モーリーの「今や五月の季節」をうたうキングズ・シンガーズは、左から右へ、カウンターテナー、テナー、バリトン、バスの巡でならんでいる。その、いわゆる定位が、ちゃんとききとれるのかどうかは、このレコードの場合、最大のポイントになる。それからむろん、うたわれている言葉がどれだけはっきり示されるのかも、問題になる。多少残響が多めのこのレコードの特徴がネガティヴに働くこともあるからだ。

0’→
❶=左端のカウンターテナーから右端のバスまでの定位がきちんとききとれかどうか、それをまず、ここでききとる。

0’09″→
❷=これまでにうたった部分を、今度は、声量をおとしてくりかえす。声量をおとしたことで、言葉が不明瞭になっていないか。

0’30″→
❸=第2節は、”The spring, clad all in gladness” とうたいだされるが、残響のために、言葉の細部がききとれないということはないか。

1’03″→
❹=第2節をしめくくる、ソット・ヴォーチェでの「ファラララ……」で、各声部のからみあいが明確にききとれるか。

1’45″→
❺=最後の「ラー」が、残響をともなって、のびているか。うたい終ってポツンとされてしまっては困る。

レコードE
浪漫(ロマン)

タンジェリン・ドリーム
(コロムビア YX7141VR 録音1976年8月、ベルリン、オーディオスタジオ)より、「ロマン」の冒頭2分30秒。

 タンジェリン・ドリームは、クリス・フランケ、エドガール・フローゼ、ペーター・バウマンといった3人の音楽家によって構成されている。彼らは、それぞれ、いわゆるマルチ・プレーヤーで、だからここでもさまざまな楽器を演奏して、まことにアーティフィシャルなサウンドをうみだしている。そういうサウンドの特徴が十全に感じとれることが望ましい。たとえばムーグ・シンセサイザーによる浮遊感のある響きの再現のされ方によって、ふたつのスピーカーの間の空間が、広くもなればせまくもなる。むろんその空間が広ければ広いだけ、タンジェリン・ドリームの音楽がききとりやすくなる。

0’→
❶=ピンという高い音とポンという低い音が、音色的にそして音場的に充分にコントラストがついて、示されているか。ここで提示されるリズムは、ここでの基本的リズムだ。

0’11″→
❷=後方から、シンセサイザーによるものと思える響きが、シンプルなメロディを奏してしのびこむ。それが次第に、それとわからぬように、クレッシェンドしていく。

0’25″→
❸=ヒュ、ヒュという音が、とびかう。その音が充分に浮遊感をもつことなく、しめってひびくと、ここで提示される空間は、せまくるしくなる。

0’55″→
❹=ピヨ、ピヨと書くより他に手がないひびきが、ひろがる。このひびきと、後方のシンプルなメロディーとが、前後の隔たりを示すことがのぞましい。

1’45″→
❺=オルガン的なひびきが、ひっそりとしのびこんできて、大きくふくれあがるが、そのピークで音がひずんだりしないか。またそのふくれ方が自然かどうか。

レコードF
アフター・ザ・レイン

テリエ・リビダル(エレクトリック・ギター、アクースティック・ギター、ストリング・アンサンブル、ピアノ、エレクトリック・ピアノ、ソプラノ・サクソフォン、フルート、チューブラ・ベルス、ベルス)
(ECM PAP9055 録音=1976年8月、オスロ、タレント・スタジオ)より、「アフター・ザ・レイン」の冒頭1分45秒。

 テリエ・リビダルは、ノルウェー出身のギタリストだが、ここでは、さまざまな楽器をひとりで演奏し、それ多重録音して、作品を完成している。しかし、ここできけるサウンドの特徴は、ひとことでいえば、透明感ということになるだろう。透明な響きの中に切りこんでくるエレクトリック・ギターのソリッドな響きがあり、その対比が充分に示されなければならない。

0’→
❶=後方での、ほんのかすかな、しかしひろがりを充分に暗示する響きが、透明感をもって示されるかどうか、それがここでのポイントになる。

0’07″→
❷=エレクトリック・ギターによる音が、中央からきこえてくる。この音は、音楽の進展にともない、次第に前にせりだしてくるが、それが感じとれるかどうか。

1’06″→
❸=タムタムとおぼしき音がきこえる。この音は人工的なひびきの中で、奇妙な実在感を示すが、それがあいまいにならずに、ききとれるかどうか。

1’21″→
❹=ベルス、つまり鈴が、そのきらびやかな音で、アクセントをつける。これは、音色的にまるでちがうが、先のタムタムと同じような効果をあげる。

1’25″→
❺=他のひびきの中に埋めこまれた鈴の音がきこえる。これは、きわめてかすかにひびくものだが、スピーカーによって、きこえたり、きこえなかったりする。

レコードG
ホテル・カリフォルニア

イーグルス
(ワーナー・パイオニア P
10221Y 録音=1976値本3月〜10月、マイアミ、クリテリア・スタジオ、ロス・アンジェルス、レコード・プラント)より、「ホテル・カリフォルニア」の冒頭2分。

 イーグルスの、レコードできける音は、重低音を切りおとした独特のものだ。そのために、ベース・ドラムなどにしても、決して重くはひびかない。そういう特徴のあるサウンドが、あいまいになっては、やはり困る。そして、ここでとりあげた2分の、前半の50秒は、インストルメンタルのみによっているが、その後、ヴォーカルが参加するが、そこで肝腎なのは、うたっている言葉が、どれだけ鮮明にききとれるかだ。なぜなら、「ホテル・カリフォルニア」はまぎれもない歌なのだから。

0’→
❶=左から12弦ギターが奏しはじめるが、この12弦ギターのハイ・コードが、少し固めに示されないと、イーグルスのサウンドが充分にたのしめないだろう。

0’25″→
❷=ツィン・ギターによって、サウンドに厚みをもたせているが、その効果がききとれるかどうか。イーグルスの音楽的工夫を実感できるかどうかが問題だ。

0’37″→
❸=ハットシンバルの音が、乾いてきこえてほしい。ギターによるひびきの中から、すっきりとハットシンバルの音がぬけでてきた時に、さわやかさが感じられる。

0’51″→
❹=ドラムスが乾いた音でつっこんでくる。重くひきずった音ではない。ドン・ヘンリーのヴォーカルがそれにつづく。声もまた、乾いた声だ。

1’44″→
❺=バック・コーラスが加わる。その効果がどれだけ示されるか。”Such a lovely place, such a lovely face” とうたう際の、言葉のたち方も問題になる。

レコードH
ダブル・ベース

ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ(ベース)
(スティーブル・チェイス RJ7134 録音=1976年2月15日、16日)より、「イエスタディズ」(ジェローム・カーン)の冒頭1分30秒。

 ここでは、ニールス・ペデルセンとサム・ジョーンズというふたりのベーシストが、演奏している。ペデルセンが右、そしてサム・ジョーンズが左に、定位している。ペデルセンによってひかれたベースの音は輝きにみちているが、サム・ジョーンズのものはしぶい色調をおびている。定位の点で、あるいは音像的に、さらには音色面、音量的に、両者の対比が示されなければならない。スピーカーによっては、サム・ジョーンズによるものが、音色的な性格が関係してのことか、音像的に小さく感じられるものもなくはなかったが、それでは困る。

0’→
❶=右からきこえるペデルセンによるベースの音が、充分に力強く、スケール感ゆたかにひびくかどうか。ダブルベースならではの迫力が示されなくてはいかんともしがたい。

0’08″→
❷=指を弦の上を走らせている音がきこえる。これはかなりオンで録音したことをものがたると同時に、録音のなまなましさをあきらかにしている。

0’25″→
❸=弦をはじいた後に、音が尾をひいて消えていく。その消え方がききとれるのか、それともプツンときれてしまうのか、そのちがいは、決して小さくない。

0’53″→
❹=力強い、しかしこまかい音の動きが、あいまいにならず示されているか。スピーカーが音に対してシャープに反応しないと、音の動きがわからなくなる。

1’02″→
❺=ここからサム・ジョーンズが参加する。両者の音色的、音像的、音量的対比が正しく示されなければなるまい。さもないとドゥエットの意味がなくなってしまう。

レコードI
タワーリング・トッカータ

ラロ・シフリン(キーボード)、エリック・ゲイル(ギター)、ジョー・ファレル(フルート)、ジェレミー・スタイグ(フルート)、スティーヴ・ガット(ドラムス)他
(キング GP3110 録音=1976年10月、12月、ヴァン・ゲルダースタジオ)より、「燃えよキング・コング」の冒頭1分

 すべての音が積極的に前に出てくることを特徴としている。ラロ・シフリンによる手のこんだスコアは、よく考えられたもので、なかなか効果的だ。ただ、さまざまな音が積極的に前にでてくることによって、見通しがわるくなっては、ラロ・シフリンがねらった効果は、半減してしまう。おしだしてくる音を通して、耳の視線がどこまでとどくか、それがこのレコードできいた場合の、ひとつのポイントになるだろう。

0’→
❶=左手からつっこんでくるドラムスのひびきで開始される。これがシャープに切りこんでこないと、この音楽のアタックの強さがあいまいになる。

0’09″→
❷=ブラスが中央を切りひらいてきこえてくる。この音に、ブラスならではの輝きや力が感じとれるかどうか。さもないと音色対比が不充分になる。

0’17″→
❸=フルートの力にみちた吹奏が、前の方にはりだすかどうか。この極端なクローズ・アップがこ音楽の性格を明確にするのに有効な働きをしている。

0’29″→
❹=トランペットが後方、幾分へだたったところからきこえてくる。しかし、くっきりとききとれねばならない。それがしかも、次第に近づいてくるのが、わからなければならない。

0’52″→
❺=左できざまれるリズムが、ふやけることなく、提示できているかどうか。それがあいまいになると、この音楽のめりはりがつきにくくなる。

レコードJ
座鬼太鼓座(ZAONDEKOZA)

(ビクター SF10068 録音データ不詳)より、「大太鼓」の冒頭1分。

 鬼太鼓座(おんでこざ)による大太鼓の演奏がおさめられている。その大太鼓の音は、エネルギーにみちたものだが、そのエネルギーの大きさは、多少離れたところからきこえる尺八の音と対比されてきわだつ。尺八の音がフルートの音のようにきこえては困るし、大太鼓の音にそれなりのエネルギーがなくては困る。ここで問題になるのは、音の消え方だろう。大太鼓がうちならされて音が生じ、それが次第に消えていく。その消え方が明らかにならないと、大太鼓の大きさが示されにくいということがあるようだ。サウンド的に決して複雑とはいいがたいこのレコードの音のポイントはその辺にあるといえよう。

0’→
❶=尺八が左奥からきこえる。これがあまりに奥でも困る。あまりにはりだしても困る。程よく距離感が示されていなければなるまい。

0’→
❷=同時に、尺八の音色が、西洋楽器の笛、たとえばフルートのそれのように脂っぽくてはいけないだろう。尺八独自の音色が十全にききとれるかどうか。

0’25″→
❸=一種のゴーストと思える、かすかな音で、大太鼓の音がきこえる。その音がきこえるスピーカーと、きこえないスピーカーとがある。

0’30″→
❹=大太鼓のスケールゆたかなひびきがききとれるかどうか。それと、大太鼓の音の消え方が伝わるかどうかも、この場合には、肝腎である。

0’40″→
❺=ふちをたたいていると思える音が、かすかに入っている。その音がきこえるのときこえないのとでは、雰囲気的にすくなからずちがってくる。

JR JR149

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきはあかるい。音色の対比は充分についている。
❷力強さに不足するところがあるが、ひびきのくまどりはたしかだ。
❸それぞれの特徴的な音色をすっきりと提示する。
❹低音弦のピッチカートが幾分ふやけがちなのがおしい。
❺迫力の点でもう一歩だが、鮮明なよさがある。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が大きくならないが、ひびきのゆたかさに欠ける。
❷音色的対比は充分についていて、鮮明だ。
❸ひびきがふやけないので、「室内オーケストラ」の感じをよく示す。
❹これみよがしにならず、しかもすっきりと示されていて好ましい。
❺鮮明であり、さわやかで、よく対応できている。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶余分な音がまといつかず、すっきりときこえるよさがある。
❷さわやかに提示されて、声のなまなましさを感じさせる。
❸声と各楽器の音色的なバランスは、このましい。艶に不足するが。
❹声が幾分細くきこえて、はった声はかんだかく感じられる。
❺オーケストラのひびきの細部をさわやかに示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶すっきりしているが、ひびきが乾きすぎていないのがいい。
❷声量をおとした感じが、くっきりと示される。
❸残響をほどよくたち切って、言葉をたたせている。
❹個々のパートの音のからみをかなり鮮明に示す。
❺自然なのびやかさがあり、しかもしなやかだ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比は充分についている。音場的にもまあまあだ。
❷クレッシェンドも自然で、きれいにまとまる。
❸すっきりとしていて、しかも乾きすぎていないのがいい。
❹前後のへだたりが充分にとれているのでひろびろと感じられる。
❺しのびこみ方はひっそりとしていて美しい。ピークも一応こなす。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶にごり、しめりけのないひびきが、後方で、心地よくひろがる。
❷❶の音との対比が充分についていて、せりだし方は実に効果的だ。
❸音の輪郭がはっきりしているので、流れの上でのアクセントたりうる。
❹このひびきの特徴である輝きがきれいに示される。
❺すっきりきこえる。わざとらしくならないのがいい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースとのバランスがいい。12弦ギターの特徴をよく示す。
❷ここで求められている効果をつつがなく示す。
❸すっきり、ぬめりのないひびきで、示されている。
❹ひびきに力があり、言葉のたち方にも問題がない。
❺バック・コーラスの効果もよくいかされている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶迫力は誇示しないが、一応の力は伝える。
❷過度にならないよさというべきか。ほどほどのなまなましさだ。
❸消える音の尻尾の提示は充分とはいえない。
❹シャープに反応して、充分な効果をあげている。
❺対比は、実に自然で、無理がなく、好ましい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶鋭さは特徴的だ。もう少し力強くてもいいが。
❷輝きは申し分ないが、力の提示はもう一歩だ。
❸いくぶんつつましげではあるが、一応有効だ。
❹後方へのひきがとれていて、見通しはいい。
❺あいまいになることなく、めりはりをつける。

座鬼太鼓座
❶自然な距離感を示し、したがってひろがりも感じられる。
❷尺八の音色的特徴をさわやかなひびきで示す。
❸きこえるものの、ことさら誇張はしない。
❹スケールゆたかなひびきとはいいがたい。
❺かすかであり、しかも自然で、アクセントたりえている。

ヤマハ NS-10M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 白いコーンのウーファーの良さは、すでにNS451でも実証されているが(本誌37号参照)、今回の新製品も、帯域内でのバランスが周到にコントロールされてよくできたスピーカーだ。全域に亘って質の高い、そしてどちらかといえば耳当りの柔らかい音で鳴るので、いつまでも聴いていて疲れない。パワーにはかなり強く、メーターを見ていると瞬間的には指定以上の100Wをしばしば振り切れるほどの鳴らし方もしてみたが、腰くだけにならずに、ハイパワーにも耐えて音がよく伸びる。アンプやカートリッジの組合せを変えてみると、それぞれの音色の特徴に鋭敏に反応して鳴らし分けることから、基本的な素性の良さもうかがわれる。要するにこの小型スピーカーの見かけや価格から想像するよりもはるかに良い音がしてびっくりするわけだが、かといって、やはり大きさ相応に低音がそんなに低い方まで伸びているわけでなく、おそらくそれとバランスをとる意味か、高域端もあまり伸びきったという感じではない。国産にしては中高域のやかましさをよく抑えながら、中域の密度も適当だが、音量を上げたとき、オーケストラでは弦の音など僅かだが硬さが残る。置き方は、耳の位置よりやや低く、左右にひろげ気味にセットするとよい。部屋の特性に応じて背面と壁との距離を調節して、低音のバランスを慎重にコントロールしたい。

JBL 4343

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 いまや日本でも最も注目されているスピーカーのひとつになって、おそらくマニアを自称されるほどの愛好家のほとんどの方は一度は耳にしておられるはずなので、音質をこまかく言うよりもそれ以外で気づいた点を書く。まず第一に、いまでもこの♯4343が、ポピュラー系には良いがクラシックの弦やヴォーカルには音が硬いと言われる人が少なくないのに驚いている。もしほんとうにそういう音で聴いたとすれば、それは、置き方の調整、アンプやカートリッジや、プレーヤーシステムや、プログラムソースの選定、そして音を出すまでの数多くの細かな調整の、いずれかの不備によって正しく鳴っていないのだ。ただ、輸送の際の不手際か、トゥイーターの特性が狂っているのではないかと思えるものを聴いたこともある。また、店頭やショールームでというよりもこれはいくつかの試聴室での体験だが、もしも4343をこんなひどい音で鳴らして、これが本当に4343の音だと信じているのだとしたら、そういう試聴条件で自社のスピーカー開発し仕上げをしてゆくそのこと自体に問題があるのではないか、と感じたことも二度や三度ではなかった。それは4343が唯一最上のスピーカーなどという意味ではない。弱点や欠点はいくつもある。けれど、それならこれを除いてもっといい製品がが、現実にどれほどあるのか……。

スペンドール SA-1

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきはあるかいが、薄く、細すぎるということもできるだろう。
❷くまどりはついているが、やはりもう少し力がほしい。
❸特徴的なひびきの対応のしかたにはかなり敏感なところがある。
❹第1ヴァイオリンのフレーズにたっぷりしたところが不足している。
❺本来の迫力を示しえず、クライマックスでヒステリックになる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像がふくらまないのはいいが、ひびきがやせている。
❷音色的な対比を、薄味なひびきだが、充分に示す。
❸細やかなあじわいはあるものの、しなやかさが不足している。
❹すっきりさわやかで、大変に好ましい。
❺さらにしなやかなところがあればいいのだが。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶余分なひびきがついていないなまなましさがある。
❷接近感をくっきり示すこのましさがある。定位はきわめていい。
❸クラリネットのひびきはもう少しまろやかでたっぷりしていてもいい。
❹はった声が硬くならないのは大変にいい。ただ、細めだ。
❺バランスがいいので、ききやすい。鮮明なよさもある。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶並び方に凹凸がなく、すっきりしていて、定位に問題はない。
❷声量を落としたのがわざとらしくならずに、その効果がいきている。
❸言葉のたち方は十全で、あいまいさはない。
❹各パートのからみを、すっきりと、あいまいにならずに示す。
❺自然なのびがある。無理のないところがいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音場的にも充分にコントラストがついている。
❷クレッシェンドにとってつけたような不自然さのないのがいい。
❸ひびきの浮遊感は充分だ。せまくるしくなっていない。
❹前へのせりだしはいくぶん不足するが、奥へのひきは充分だ。
❺ピークになると、とたんにひびきがとげとげしくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶白っぽいひびきでの後方でのしろがりは美しい。
❷もう少しくっきりひびいてもいいだろう。音に力がほしい。
❸ききとれるが、低い方のひびき方に空虚さがある。
❹輝きという点で、いくぶんものたりないところがある。
❺きこえなくはないが、うめこまれがちである。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶音にもうひとつ力がないので、軽くなりすぎている。
❷ここで求められている効果が充分に発揮されていない。
❸ひびきがいかにも薄く、力不足なのがおしい。
❹ベース・ドラムの音が乾きすぎていて、パサパサしている。
❺言葉のたち方は一応だが、楽器とのバランスがよくない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶あたかも何かの入れものの中でひびいているようだ。
❷一応示しはするものの、本来のなまなましさはない。
❸消える音の尻尾は、ほとんどききとれないといってもいいほどだ。
❹ひびきそのものに力がないためだろう、あいまいになりがちだ。
❺音像対比の点で、少なからず問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さの提示が充分でないために、めりはりがつきにくい。
❷ブラスのきこえ方が、ヒステリックになっている。
❸一応前の方にはりだすことははりだすが、空騒ぎめく。
❹へだたりはとれているものの、トランペットのひびきはかん高い。
❺あいまいではないが、反応は甘くて、しまらない。

座鬼太鼓座
❶一応の距離感は示せて、ひろがりは感じられる。
❷脂っぽさはないが、尺八らしさが充分とはいえない。
❸きこえることはきこえるものの、何の音かさだかでない。
❹さらにスケールゆたかにひびいてほしい。
❺いくぶんここで音は、くすんできこえる。

アコースティックリサーチ AR-17

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶自然にひびくピッチカート。強調感のないのがいい。
❷あいまいにならず、力を感じさせる低音弦のひびきがきける。
❸フラジオレットの音色はきわだたず、ひかめにしかきこえない。
❹たっぷりしたひびきの第1ヴァイオリン。ピッチカートはふくらむ。
❺クライマックスにいたるクレッシェンドは自然で、無理がない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音のまろやかさが、特徴的であり好ましい。
❷音色対比がきわめて自然で、しかも鮮明である。
❸響きのとけあいが、よく示されて、ききやすい。
❹響きに自然なのびやかさがあり、好ましい。
❺木管楽器のしなやかな響きをよく示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のまろやかさを、誇張感なく自然に示す。
❷強調感なく、しかも広がりが感じられる。
❸各楽器の響きのとけあい方がいい。声とのバランスもこのましい。
❹はった声が硬くならず、はなはだききやすい。
❺バランスが自然で、無理なく、さまざまな響きがとけあう。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶凹凸の感じられないのはいいが、響きは重い。
❷言葉はあいまいにならないものの、全体に重い。
❸残響の誇張はなく、声のまろやかさをよく示す。
❹鮮明さということで、ものたりないところがある。
❺のびやかで、しなやかで自然なのびを示す。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比をくっきり示すが、音場的にはせまくるしい。
❷音のしびこみは、きわめてしなやかでいい。
❸浮遊感があり、スタティックにならないよさがある。
❹もう少しへだたりが示されてもいいだろう。
❺ピークは、力をもって、おしだしてくる音によっている。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶響きに軽みがたりない。広がりの点でももう一歩だ。
❷もともとの音像は大きめだが、せりだしてきかたはない。
❸響きが自然なふくらみを示し、効果的である。
❹すっきりときわだってきこえて、成果をあげる。
❺これみよがしにではないが、きこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶響きがまろやかではあるが、ここで特徴的な音色を示す。
❷腰のすわった音で、響きの厚みと、力とを明らかにする。
❸響きは決して湿っていない。効果的である。
❹力のある音がいい。言葉もたって、ききやすい。
❺声と他の楽器のバランスが自然でこのましい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶筋肉質の音で、力感ゆたかに示される。
❷部分拡大になりすぎていないところがいい。
❸響きの消え方は、充分とはいえず、ものたりない。
❹細かい音の動きには充分に対応できている。
❺音色的対比は充分だが、音像対比の点でものたりない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さは示すが、響きは重い。
❷力感のあるブラスで、かなりの効果をあげる。
❸きわだたせるものの、刺激的にはならない。
❹響きのめがつみすぎているために、はれやかさが不足する。
❺ぼてついてはいないが、さらにシャープでもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶一応の距離感はとれて、広がりが感じられる。
❷響きがキメ細かく、しかも尺八らしさを示して好ましい。
❸特にきわだってはいないが、一応ききとれる。
❹このスケールゆたかな響きには、対応しきれていない。
❺充分にきこえる。しかもエフェクティブである。

KEF Model 105

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 一年以上まえから試作品を耳にしてきたが、さすがに長い時間をかけて練り上げられた製品だけのことはある。どんなプログラムソースに対しても、実に破綻のない、ほとんど完璧といいたいみごとなバランスを保っていて、全音域に亘って出しゃばったり引っこんだりというような気になる部分はほとんど皆無といっていい。いわゆるリニアフェイズ型なので、設置および聴取位置についてはかなり慎重に調整する必要がある。まずできるかぎり左右に大きくひろげる方がいい。少なくとも3メートル以上。スピーカーエンクロージュアは正面を向けたままでも、中音と高音のユニットをリスナーの耳の方に向けることができるユニークな作り方だが、やはりウーファーごとリスナーの方に向ける方がいいと思う。中〜高域ユニットの垂直方向の角度も慎重に調整したい。調整がうまくゆけば、本当のリスニングポジションはは、ピンポイントの一点に決まる。するとたとえば、バルバラのレコードで、バルバラがまさにスピーカーの中央に、そこに手を伸ばせば触れることができるのではないかと錯覚させるほど確かに定位する。かなり真面目な作り方なので、組合せの方で例えばEMTとかマークレビンソン等のように艶や味つけをしてやらないと、おもしろみに欠ける傾向がある。ラフな使い方では真価の聴きとりにくいスピーカーだ。

サンスイ SP-L150

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶しめったピッチカート。もう少しくっきりひびいてもいい。
❷ひびきがふくらみぎみなので、くっきりしない。
❸音色的な対比がもうひとつすっきり示されるべきだろう。
❹第1ヴァイオリンのひびきがかさかさしがちだ。
❺ひびきに一応の力はあるが、高い音が刺激的になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、いくぶん大きめである。
❷音色的な対比を示すものの、もう少しキメ細やかでもいいだろう。
❸響きが重くなっていないところはいいが、多少硬めだ。
❹もう少ししなやかさがあるとさらに効果的だろう。
❺鮮明ではあるが、柔らかさが望まれる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声にもう少しまろやかさがあるといいのだが。
❷接近感を強調ぎみに示す。表情はかなりオーバーだ。
❸クラリネットの音色がロザリンデの声におさえぎみである。
❹はった声は、かたくなり、金属的になる傾向がある。
❺もう少しさまざまな響きのとけあい方がしめされるといい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の声がいくぶん強調気味になる。
❷声量をおとしたところから、言葉が鮮明さを欠くようになる。
❸残響をひきずっていないところは好ましいのだが……。
❹各パートの織りなす綾がもうひとつすっきりしない。
❺一応ののびは示されるものの、しなやかさがほしい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的対比が充分について、かなり効果的である。
❷くまどりがいくぶんきつすぎるための不都合がなくもない。
❸響きは浮遊するものの、キメがいくぶん粗い。
❹もう少し前後のへだたりがくっきり示されるといいのだが。
❺音のしのびこみは自然だが、ピークはきつい音になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶もう少し響きに透明感がほしい。広がりもいま一歩だ。
❷中央からきこえるが、音像ははじめからひろがりぎみだ。
❸広がりがたりないので、効果ということで、ものたりない。
❹響きの輝きをよく示し、全体の流れの中でのアクセントたりえている。
❺うめこまれずに、くっきりと示されている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの響きの特徴をよく示していて効果的だ。
❷ここで求められている効果は充分に示す。
❸響きが乾いているので、さわやかな印象を与える。
❹ドラムスの切れの鋭さはなかなかいい。言葉のたち方もいい。
❺言葉すっきりとたって、あいまいさがない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶一応の力感は示すものの、スケールの豊かさがほしい。
❷なまなましくはあるが、部分拡大的になっている。
❸音が消える時の尻尾がもし少しはっきり示されてもいいだろう。
❹シャープに反応して、一応の効果はあげる。
❺音色的には充分だが、音像的には多少問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶はなやかな響きをきかせはするが、力感はもうひとつだ。
❷つっこみは鋭い。ただいくぶん硬質にすぎる。
❸響きの極端なクローズ・アップを明確に示す。
❹後へのひきがさらに鮮明なら、よりはえただろう。
❺めりはりはくっきりつけま。さらにシャープでもいい。

座鬼太鼓座
❶かなり前にはりだしている。ひきがたりない。
❷脂っぽさがないのはいいが、響きのキメが粗い。
❸ききとれる。しかし不必要に誇張はしていない。
❹消え方が充分に伝わっているとはいえない。
❺きわめて効果的にくっきりとききとれる。

ダイヤトーン DS-30B

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきに力がなく、かさかさした感じになる。
❷低音弦のひびきの特徴が充分に示されているとはいいがたい。
❸フラジオレットのひびきが、薄く、うきあがって感じられる。
❹ピッチカートはふくらみぎみで、第1ヴァイオリンのフレーズに艶がない。
❺高い方の音が刺激的になり、大オーケストラ本来の力強さに欠ける。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、いくぶん大きくなりがちだ。
❷音色対比充分。さわやかな音色がいい。
❸響きに軽やかさと透明感があって、さわやかだ。
❹第1ヴァイオリンの響きのすっきりと示されるところがいい。
❺鮮明であり、誇張感がなく、自然なしなやかさがある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声はいくぶん残響がついて、従って音像はふくらみがちだ。
❷アイゼンシュタインは、くっきり中央から接近する。
❸クラリネットの音色は少しかさかさするが、すっきりしたよさはある。
❹はった声は幾分硬めだが、ききにくいというほどではない。
❺きわだって鮮明にきこえる。バランスがいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の声がふくらんで前にせりだしがちだ。
❷言葉の角がまるくなって、いくぶんあいまいだ。
❸残響が強調気味なために、響きの鮮度がよくない。
❹もう少しすっきりと響きが切れるといいだろう。
❺のびてはいるものの、多少不自然なところがある。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比は充分だ。もう少し広がりが感じられるとなおいい。
❷すっきりと、きわだって、効果的にきこえる。
❸軽さをもって個々の響きは、とびかう。
❹せまくるしさを感じさせないのが好ましい。
❺ピークでは、やはり多少響きがとげとげしくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶響きに透明感のあるのがいい。広がりも感じられる。
❷音色的な対比を充分につけて、せりだすが、せりだし方は自然だ。
❸くっきりときわだってきこえ、響きの特徴を充分に示す。
❹響きのきらびやかさが過不足なく示されている。
❺うめこまれることなく、好ましく示されている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶すっきりした12弦ギターのひびきが充分に効果的だ。
❷ひびきそのものは軽いが、効果をそこねていない。
❸重くなったり、湿ったりしていないのが好ましい。
❹ドラムスのひびきの意味をあきらかにしているが、ひきずらない。
❺言葉のたち方はかなりシャープでこのましい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶一応の力を示し、スケール感もある程度感じられる。
❷ことさらなまなましいとはいえないが、鮮明である。
❸必要最小限の消える時の響きを明らかにする。
❹くっきりと、あいまいにらならずに、対応できている。
❺コントラストは、不自然になっていない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶もうひとつ響きに切れの鋭さがほしい。
❷力不足というべきか、響きがとげとげしくなっている。
❸一応の効果はあげるものの、有効とはいえない。
❹後へのひきは感じられるものの、効果的とはいえない。
❺ふやけてはいないが、めりはりのつけ方が不充分だ。

座鬼太鼓座
❶広がりは感じられるが、少し前にですぎている。
❷尺八らしさを感じさせる響きをきくことができる。
❸ごくかすかにきこえるにとどまり、きわだたない。
❹消え方は、一応示されるものの、薄味だ。
❺きわだってくっきりきこえて、効果的である。

パイオニア Exclusive Model 2301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 同じエクスクルーシヴのシリーズだが、構造もホーンロードで全く違うにしても、3301とは全く対照的といえるほど正反対の音に作られている。3301がどちらかといえば中〜高域にバランスの重心を置いた、少し乱暴に分類すればハイあがりの傾向の音であるのに対して、2301は中〜低域に重点を持たせてハイをやわらかく作った、今日的にみれば決してレインジの広くないスピーカーだ。フロアータイプの作り方だが、ブロック一段を寝かせた上に乗せて、ほとんど部屋のコーナー近くにセッティングしたが、なかなか緻密で腰のしっかりした音を鳴らす。フロントロードホーンという構造のせいか、ローエンドの量感は少々不足するので、150Hzターンオーバーのトーンコントロールで補整を試みたが、ホーンの中〜低域のエネルギーが相当に大きいらしく、ブーストがあまり効果的に利かない。同様に8kHzターンオーバーでハイエンドを補整してみてもあまり利き目がないところから、ユニット自体が本質的にナロウレインジでまとめられていることがわかるが、中域の密度の高い、そしておそらくは木製ホーンの良さでもある金属的な弱点のない声の暖かな表現はなかなかのものだ。能率がおそろしく高いのでハイパワーのアンプは不必要だが、音量を上げてもL200Bのようにスカッとのびてまではくれなかった。

ダイヤトーン DS-90C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 ものすごく大きい、という感じのする大型フロアータイプだ。ただし音質は大型だからというこけおどし的なところがなく、正攻法で作られたまさにダイヤトーンの音だ。とはいうものの、DS30Bのところでも書いたように、今回のダイヤトーンに関して言うかぎり、従来のいわゆるダイヤトーンの音がずいぶん傾向を変えた、という印象だ。もちろん、音色そのものが変わったのではない。全音域に手抜きのない、密度をたっぷり持たせた音はまさにダイヤトーンなのだが、同時に従来の製品が持っていた中域のよく張った、ときとして張りすぎた感じの作り方がぐっと抑えられた。それと共に、あるいはそのために聴感上のバランスがそう感じさせるのかもしれないが、トゥイーターのハイエンドも従前の製品よりはレンジをひろげてあるように聴きとれる。相当のハイパワーにもびくともしない耐入力を持っているようだが、それでいて小音量に絞っても全体のバランスや質感があまり変らない点は立派だ。大型ウーファーの弱点になりがちな音の重さもないが、ローエンドの伸びはもう少し欲しい。このクラスになるとCA2000のクラスではもはや少々役不足という感じで、セパレートのハイパワーアンプが欲しくなる。台は不要。左右にかなりひらく方が爽やかさが出る。部屋はデッドぎみに調整する方がよかった。

ビクター SX-11

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの音にかすみがかかっている。音色対比はついている。
❷あいまいにらなず、奥の方にひけてもいるが、鮮明さははもう一歩だ。
❸フラジオレットの効果は、他のひびきにうめこまれて、はっきりしない。
❹ピッチカートのひびきが過度にふくらみすぎている。
❺たっぷりと腰のすわったひびきだが、もう少し鮮明でもいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はかなり大きい。表情を強調しがちだ。
❷ファゴットの響きがあいまいになる傾向がある。
❸総体的に響きが重くなりすぎて、「室内オーケストラ」らしさが不足だ。
❹表情がどうしてもわざとらしくなってしまう。
❺くっきり示しはするが、とってつけたようなところがある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶響きは風呂場の中でのようにきこえる。
❷接近感をいくぶん誇張気味に示す。わざとらしい。
❸声が前にたって、オーケストラの響きがひっこみすぎる。
❹はった声が、どうしてもメタリックなものとなる。
❺きこえはするものの、音色的に多少異質だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶右からの響きがふくらみ、左がひっこむ。
❷声量の差がもう少しはっきり示されてもいいだろう。
❸残響をひきずりすぎるためか、言葉がたちにくい。
❹響きそのものに、もう少し軽みがほしい。
❺のびることはのびるが、とってつけたようなところがある。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は、かなりくっきり、わかりやすくつく。
❷後方からくるが、響きは重く、しめりがちである。
❸響きは、浮遊せずに、しめりがちである。
❹音色的に、いくぶんかげりがちで、はれやかさが不足している。
❺力づくで前にでてくる。ピークは刺激的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶広々とした気配が不足している。透明感もたりない。
❷くまどりがきつすぎないか。せりだし方は積極的だが。
❸響きがまとまりすぎていて、広がりがたりない。
❹きこえるが、誇張感がないとはいいがたい。
❺他の響きの中にうめこまれがちで、効果が示されにくい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの響きが強調されすぎているというべきだろう。
❷響きの厚みは示されるものの、イーグルスのサウンドとしては異色だ。
❸響きは、乾ききらず、重く、力をもっている。
❹ひきずりがちだ。シャープな反応がほしい。
❺言葉がたちにくい。いくぶんごりおし気味になる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力はあるものの、迫力を誇張気味である。
❷この部分の響きの特徴は、必ずしもきわだたせない。
❸響きの骨だけを示しているとでもいうべきか。
❹一応の動きは示すものの、反応はシャープとはいえない。
❺音像的に差がありすぎて、多少不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶重く、切れが鈍いところがあり、はえない。
❷力は十全に示すものの、音の見通しがつきにくい。
❸はなはだ積極的にはりだすものの、効果的とはいえない。
❹へだたりがもう少し感じられればいいのだろうか。
❺リズムが重く、印象として鈍いものとなる。

座鬼太鼓座
❶かなり前の方にでてきて、距離感がほとんどない。
❷尺八らしい響きの特徴がでにくい。
❸ごくかすかにしかきこえず、ものたりない。
❹力はあるものの、響きに広がりが不足している。
❺ききとれるが、対比感は稀薄というべきだろう。

JBL 4343

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきにあかるさがあり、鮮明で、あいまいさがない。
❷奥の方で力をもって、輪郭たしかに提示される。
❸個々のひびきへの対応のしかたがしなやかで、無理がない。
❹たっぷり、余裕をもったひびきで、細部の鮮明さはとびぬけている。
❺ひびきに余裕があり、クライマックスへのもっていき方はすばらしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はくっきりしていてい、しかもピアノのまろやかなひびきをよく示す。
❷木管のひびきのキメ細かさをあますところなく示す。
❸ひびきはさわやかにひろがるが、柄が大きくなりすぎることはない。
❹しなやかで、さわやかで、実にすっきりしている。
❺ひびきの特徴を誇張しない。鮮明である。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶アデーレとロザリンデの位置関係から、ひろがりが感じられる。
❷声のなまなましさは他にあまり例がないほどだ。
❸声のつややかさが絶妙なバランスでオーケストラのひびきと対比される。
❹はった声もしなやかにのびていく。こまかいニュアンスをよく伝える。
❺オーケストラの個々のひびきを鮮明に提示する。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに妙な癖がないので、すっきりと鮮明だ。
❷声量差をデリケートに示し、言葉はあくまでも鮮明だ。
❸残響をすべてそぎおとしているわけではないが、言葉の細部は明瞭だ。
❹ソット・ヴォーチェによる軽やかさを十全に示す。
❺声のまろやかさとしなやかさ、それにここでの軽やかさを明らかにする。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の音色的特徴を誇張するようなことは、まったくない。
❷シンセサイザーのひびきのひそやかなしのびこみはすばらしい。
❸ひびきはこのましく浮びあがり、飛びかう。
❹前後のへだたりが充分にとれ、ひろがりが感じられる。
❺もりあがり方に不自然さはまったくなく、ピークは力にみちてみごとだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひそやかな音のしのびこみ方が絶妙だ。透明なひびきのよさがきわだつ。
❷ギターの進入と前進、途中での音色のきりかえが鮮明。
❸このひびき特徴をあますところなく伝える。
❹わざとらしさがない。ひびきはきらりと光る。
❺ギターとのコントラストの点でも充分だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶反応の鋭さによってさわやかなサウンドがもたらされる。
❷充分なひびきの厚みが示され、効果的だ。
❸ハットシンバルが金属でできていることをひびきの上で明快に示す。
❹ドラムスによるアタックは鋭く、声との対比もいい。
❺言葉のたち方は自然で、楽器によるひびきとのコントラストも充分だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はふくれすぎず、くっきりしている。
❷不自然な拡大・誇張はないが、充分になまなましい。
❸消え方をすっきりと示す。しかしこれみよがしにはならない。
❹反応は、シャープであり、しかも力強い。
❺音像的な対比にはいささかの無理もない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さを示し、しかもひろがりも感じさせる。
❷ブラスは、輝きと力のある音で示され、中央をきりひらいていくる。
❸横に拡散しすぎることはないが、力のあるひびきでききてをおそう。
❹後へのへだたりはすばらしい。見通しも抜群だ。
❺リズムの提示は、力感にみちていて、このましい。

座鬼太鼓座
❶ほどよい位置から、しかし鮮明にきこえてくる。
❷尺八の特徴的な音色をよく示し、独特のなまなましさを感じさせる。
❸きこえて、輪郭もあるが、これみよがしではない。
❹充分にスケールゆたかだ。この大太鼓のただならぬ大きさを感じさせる。
❺充分に効果的にきこえて、雰囲気ゆたかなものとしている。

インフィニティ Quantum 4

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 非常に独特の軽やかでキメのこまかくよくひろがる音がする。音像が空間によく浮かび、奥行きも十分に感じられる。イギリス製のスピーカーにはよくこういう傾向の音が聴かれるが、イギリス系のそれが概して誇張のない自然な音に支えられて、スピーカーの向う側に、いささかミニチュアライズされた、しかしいかにもほんものの原音場が展開したかのような錯覚を感じさせるのにくらべると、インフィニティの展開する音場は、それよりもスケールが大きいかわりにどこか人工的な匂いがあって、しかしこの人工的なひろがり感はこれなりに楽しませる。トゥイーターの特殊な構造のせいか、コンデンサー・ヘッドフォンで聴くような一種キメの細かい音がするが、反面、トゥイーターがつねにピチピチという感じのノイズを空間にちりばめているうよで、たとえばルボックスのあのひっそり、かつしっとりした感じが得にくい。中域あたりの力がもう少し欲しく思われて連続可変型ののレベルコントロール(ノーマルの指定がない)を調整してみたが、いろいろなレコードの平均をとると、結局中点あたりに落ちつく。台に乗せずにインシュレーターを介して床に直接置き、背面を適度にあけると、音のひろがりと奥行きがよく出て、リズムが軽く浮き上る。組合せは4000DIIIやCA2000の傾向が、やはりこのスピーカーをよく生かす。